『ドリトル先生と春の花達』




           第十二幕  お花見

 お花見に行く朝です、トミーは先生に言いました。
「明日羊肉のステーキにしますね」
「そうしてくれるんだね」
「はい」
 先生に笑顔で言いました。
「マトンでもいいですよね」
「いいよ」
 これが先生の返事でした、先生はもういつものスーツ姿で帽子までその手に持っています。
「ラムでもね」
「どちらでもですね」
「そう、いいよ」
 どちらのお肉でもというのです。
「僕はね」
「日本じゃマトンは匂いが」
 それがというのです。
「気にされるんですよね」
「そうなんだよね」
「あの匂いがいいと思うんですが」
「食欲をそそってね」
「けれどですね」
「そう、その匂いがね」
「日本には抵抗がある人が多いんですね」
「そうなんだよ」
 その通りだというのです。
「そこはね」
「そうなんだね」
「そう、そしてね」
 それでというのです。
「ラムが好まれるけれど」
「あまり食べない中で」
「僕はどちらでもいいよ」
「マトンでもですね」
「むしろその匂いもね」
「いいですね」
「そう、そしてね」
 そのうえでというのです。
「明日は楽しもうね」
「ステーキを」
「主食は御飯かな」
「そのつもりです」
「そちらもいいね、パンもいいけれど」
 それでもです、最近の先生は。
「最近本当にね」
「御飯よく召し上がられていますね」
「病みつきになったよ」
「日本に来てから」
「もう毎日食べてるね」
 今の先生はそうなっています。
「パンを食べる時もいいけれど」
「どっちがいいですか?パンと」
「どうこう言えないかな、それにね」
「それに?」
「日本のパンは美味しいね」
 こうも言ったのでした。
「そちらもね」
「そうですね、実はです」
「実は?」
「今日のお弁当お握りを作ったんですが」
 それでもというのです。
「サンドイッチも考えました」
「そうだったんだ」
「はい、実は」
 そうだったというのです。
「日本のパンは美味しいので」
「中に入れるものまでね」
「だから考えました」
「正直イギリスのサンドイッチより美味しいかな」
「そうだと思います」
 トミーも否定しませんでした。
「とにかくイギリスのお料理は」
「何もかもがね」
「味は、ですから」
「僕も日本に入ってね」
「よく認識されましたね」
「紅茶からして違うし」
 先生が一番大事にしているこれもです。
「そしてね」
「パンも他のものも」
「全然違うからね」
「同じ食材で同じものを作っても」
「違うんだよね」
「そのこともありまして」
「サンドイッチをだね」
「そう考えていましたけれど」
 それをというのです。
「やっぱりお握りにしました」
「日本のお花見だからだね」
「何と言いましても」
「やっぱりそうなるよね」
「はい、ただおかずはです」
 そちらはといいますと。
「野菜のお浸しや卵焼きもありますが」
「海老フライ、唐揚げ、ハンバーグとか」
「そうしたオードブル系はです」
「他の国のお料理だね」
「そうしました、お花見でよく食べるので」
 だからというのです。
「そうしました」
「成程ね」
「じゃあ今から」
「うん、行こうね」
「王子は学校の正門で待っているそうです」
「僕にも連絡してくれたよ」
 携帯でそうしたのです。
「そして日笠さんもね」
「連絡入れてくれたんですね」
「今から迎えに来てくれるってね」
「それは何よりですね」
 トミーは先生の言葉に笑顔で応えました。
「じゃあもうすぐですか」
「そうだと思うよ、もう出発の準備は出来たし」
「日笠さんをお待ちしましょう」
「そうしようね、ただトミーの今の喋り方だと」
 先生はあることに気付きました、その気付いたことはといいますと。
「トミーは日笠さんから連絡受けてないんだね」
「ないですよ」
 にこりと笑って返したトミーでした。
「先生にだけですよ」
「あれっ、そうなんだ」
「よかったですね」
「よかったのかな」
「はい、よかったですね」 
 トミーの笑顔はにこりとしたままでした。
「本当に」
「そうなのかな」
「はいはい、もうすぐだよ」
「日笠さん来られるよ」
「先生待っていようね」
「そうしようね」
 動物の皆はここで先生に言いました、それまでは先生の周りでじtgとしているだけでしたけれど。
「もう日笠さんならすぐだから」
「時間は守る人だし」
「先生のことなら特にね」
「そうしてくれる人だし」
「待っていようね」
「出る準備を整えて」
「それじゃあね、しかし何か皆も」
 また言った先生でした。
「妙に言うね」
「そりゃ言うよ」
「先生のことなんだから」
「僕達もね」
「是非そうするよ」
「全く先生ときたら」
「そこでそうした反応だから駄目なのよ」 
 こう言います、ですが。
 先生は気付かないままでこう言うのでした。
「桜の前後はよくこう言われない?僕は」
「春だからね」
「何とやらの季節だから」
「一年中言ってるけれど」
「確かにこの季節よく言ってるよ、僕達」
「日笠さんのことをね」
「そうだね、何でかわからないけれど」
 それでもというのです。
「まあとにかくね」
「うん、お花見行こうね」
「お酒も用意してるし」
「それじゃあだね」
「楽しく飲もうね」
「そうしようね」
「うん、お酒は日本酒だね」
 このお酒だというのです。
「やっぱり」
「一升瓶用意してますんで」
 王子が答えました。
「あと日笠さんも飲まれるんで」
「車はだね」
「何か日笠さんのお兄さんが送迎してくれるそうです」
「悪いね、何か」
「妹思いのお兄さんでしかも休日だとのことで」
「お兄さんはお花見には」
「参加されないとのことです」 
 日笠さんのお兄さんはというのです。
「お家でゆっくりゲームだとか」
「そうなんだね」
「はい、ですから送り迎えをです」
「してくれるんだね」
「飲まれずに」
「いいお兄さんだね」
「妹思いの人らしくて」
 だからだというのです、トミーは言葉の中にかないrのものを含めて先生に対して言うのでした。
「だからです」
「嬉しいね」
「そうですね、嬉しいですね」
「うん、とてもね」
「本当に妹思いの人で」
「いや、本当にね」
「やれやれですね」
 どうしてもわからない先生に困った笑顔になる先生でした、そしてです。 
 先生達はチャイムが鳴ったこの時にです、皆でお家を出ました。そうして日笠さんのお兄さんが運転してくれている車で、です。
 皆で一緒に八条学園の正門に来ました、するとそこには王子がお付きの人達と一緒にいてでした。
 お互いに挨拶をしました、王子は日笠さんのお兄さんが送ってくれたその車を見て動物の皆に言いました。
「応援してくれてるんだね」
「うん、妹さんをね」
 チーチーが最初に王子に応えました。
「そうしてくれているんだ」
「先生とのことをね」
 ガブガブも言います、先生に聞こえない様に小声で。
「いい人だってわかってくれて」
「何でもサラリーマンらしいけれど」
 ホワイティは御兄さんのそのお仕事のお話をします。
「先生のことは知ってるみたいでね」
「それで先生ならって言ってくれて」
「妹さんを応援してくれてるの」
 チープサイドの家族もお話します。
「それで送ってくれたし」
「終わったら妹さんの連絡受けて迎えに来てくれるそうだよ」
「いや、いい人はいい人がわかるんだね」
 ここでこう言ったのは老馬でした。
「日笠さんのお兄さんも」
「先生ならって思ってたけれど」
「お兄さんにもなんだね」
 オシツオサレツも上機嫌で王子にお話します。
「好かれてね」
「認めてもらってるね」
「これは確実にハッピーエンドよ」
 ダブダブは太鼓判を押しました。
「先生も」
「後は先生が気付くだけ」
 ポリネシアはこの条件を出しました。
「このことが一番大変にしても」
「僕達いつもかなりはっきり言ってるけれど」 
 ジップは少し苦笑いです。
「先生気付かないんだよね」
「全く、先生の鈍さは」
 最後にトートーが言いました。
「困るよ」
「全くだね、まあお兄さんも応援してくれるのなら」
 王子は考える顔でお話しました。
「かなりいいね」
「日笠さん頑張れだよ」
「ここはね」
「そして先生に気付いてもらおう」
「好条件は揃ってるしね」
 皆で言います、そしてでした。
 気付くことのない先生と一緒にでした、学園の中で一番桜が奇麗だと言われている大学の中庭に入ってでした。
 そこに敷きものを敷いてそしてです。
 お弁当も出して皆で食べます、先生はお酒を飲みながら言いました。
「いや、桜がね」
「奇麗でね」
「見ていて飽きないね」
「お弁当も美味しいよ」
「桜を観ていると余計に」
 動物の皆も一緒に食べながら言います。
「桜が余計になんだよね」
「美味しさを引き出してくれてる?」
「そうだよね」
「お花見のお弁当って最高」
「何よりも」
「しかもね」 
 先生はまた言ったのでした。
「お酒の中にね」
「あっ、花びらだね」
「桜の花びらが入って」
「それでだね」
「余計にいいんだね」
「そうなんだ」 
 見れば本当に先生のコップの中には桜の花びらが入っています。お酒のその上に浮かんでいます。
「美味しいよ」
「桜の味がして」
「心でそれを感じて」
「香りもだね」
「だからだね」
「そうなんだ、これはね」
 本当にというのです。
「最高の味だよ」
「いや、僕もね」
 王子もその桜酒を飲んでいます、そのうえでのお言葉です。
「いい感じだよ」
「美味しいね」
「うん、最高の味だよ」 
 本当にというのです。
「日本酒の中でも」
「大吟醸です」 
 執事さんが王子に隣から言います。
「そちらをお出ししています」
「だから余計にだね」
「美味しいのかと」 
 こう王子にお話します。
「このお酒は」
「そうなんだね、いや今日はね」
「どんどん飲めると」
「そうなりそうだよ」
 満面の笑顔で言う王子でした。
「本当にね」
「それは何よりですが」
「飲み過ぎてだね」
「はい、それにはご注意下さい」
 くれぐれもというのです。
「お酒は薬にもなりますが」
「毒にもだね」
「なりますので」
 だからだというのです。
「いざという時はお止めします」
「止められない様にするよ」
 笑ってです、王子は執事さんに返しました。
「僕もね」
「最初からですね」
「そのつもりだよ」
「よいお心掛けです、では」
「そうしてね」
「お飲み下さい」
 お酒をというのです、そしてです。
 王子も日本酒を楽しみます、それはトミーもです。
 トミーは日本酒を飲みながらです、先生に言いました。
「こうしたお花見の時はやっぱり」
「日本酒だよね」
「桜には」
「うん、このお酒が一番合うよ」
「不思議な位合いますね」
「日本のお花だからね」
 桜はというのです。
「何といっても」
「だからですね、ただ」
「ただ?」
「原産地は違いますよね」 
 トミーは桜のそのことについてもお話しました。
「そうですよね」
「うん、原産地はヒマラヤだよ」
「やっぱりそうですね」
「そう、ただね」
「ただ?」
「日本に入ってね」
 それでというのです。
「日本のお花になったんだよ」
「そうですよね」
「こうしたことはよくあるね」
「そうですね、どの国も」
「日本はそうしたことが多いけれどね」
 他のお国以上にです。
「どうにも」
「それはお国柄でしょうか」
「何でも受け入れてね」
「日本のものにアレンジしてですね」
「完全に日本のものにしていくんだ」
「イギリスのものもそうですし」
「そうなんだよね、紅茶も」
 先生が毎日飲んでいるこのお茶もというのです。
「すっかり日本のものになっているね」
「アレンジされていなくても」
「そうなったね、しかも」
「日本の紅茶の方が美味しいですね」
「びっくりしたよ、最初飲んだ時はね」
 先生は微笑んで王子にお話しました。
「こんなに美味しいのかって」
「本格的で」
「お水もよくてね」
「お水はどうしようもないですからね」
「その場のお水があってね」
 そしてというのです。
「変えられないから」
「葉以上に」
「その葉もね」
 紅茶の葉もというのです。
「日本の紅茶はいいんだよ」
「だからですね」
「イギリスの紅茶を越えたよ」
「特に葉がよくて」
「そう、完全に日本のものにしたよ」
 その通りだというのです。
「紅茶にしてもね」
「イギリスの他のことも」
「そして桜もなんだよ」
 このお花もというのです。
「日本のものになったんだよ」
「そういうことですね」
「そもそもお米もね」
 日本酒の原料であるこのお酒もというのです。
「最初は日本になかったしね」
「弥生時代に入ったんですね」
「そして日本のものになったんだ」
「日本酒もですね」
「そうだよ、お米のない日本は考えられないけれど」
 それでもというのです。
「元は日本になかったんだよ」
「そして日本に入って」
「こうして日本酒にもなったんだ」
「桜も然りで」
「そうだよ、いやこうしてね」
 お酒をどんどん飲みつつお話する先生でえした。
「日本を楽しめるのは素敵だよ」
「その通りですね、いや日本に来て」
「そしてこうして楽しめるのは」
「奇遇で」
「嬉しい奇遇だね」
「全くです」
「じゃあその奇遇を神に感謝しようね」
 ここでも神のことを思う先生でした。
「是非ね」
「そうしましょう」
 二人も飲んでいきます、それは日笠さんも同じで。
 日本酒を飲みつつ先生にご自身が作ったお弁当を出してそのうえでこう先生に言いました。
「ゆで卵お好きですか?」
「はい」
 穏やかな笑顔で答えた先生でした。
「大好きです」
「そうですか、では」
「はい、頂きますね」
「どうぞ、塩鮭もですよね」
「そちらもです」 
 お好きだというのです。
「お弁当には最適ですね」
「はい、朝御飯にも食べますね」
「あの時もいいですよね」
「私もよく食べまして」
「今もですね」
「お弁当に入れました」
 そうしているというのです。
「先生もと思いまして」
「有り難うございます、では」
「頂いて下さい」
「それでは」
 先生は塩鮭も食べます、日笠さんは一口食べた先生にすかさずといった勢いで尋ねました。
「如何でしょうか」
「美味しいです」 
 先生はにこりとして答えました。
「いい塩加減と焼き加減ですね」
「そうですか」
 先生のそのお言葉を聞いてです、日笠さんはにこりとそれも安心した様な笑顔になって言いました。
「それは何よりです」
「はい、本当に美味しくて」
 それでと言う先生でした。
「お握りも美味しいです」
「そのお握りですが」
 日笠さんは先生にお弁当のお握りも出しました。
「実は十六穀も入れまして」
「麦等もですね」
「それ好きなので」
 だからというのです。
「作ってみましたが」
「そうですか」
「はい、宜しければ」
 こう言いつつ先生に勧めるのでした。
「こちらも」
「それでは」 
 先生はそちらにもお箸をやって食べてみました、そのうえで日笠さんににころと笑って言いました。
「はい、こちらもです」
「美味しいですか」
「とても」
 お握りもというのです。
「美味しいです、しかもです」
「はい、十六穀だからですね」
「栄養もありますね」 
 こちらの面でもいいというのです。
「麦や稗で」
「そうも思いまして」
「作られてるんですね」
「はい、ですが」
「ですが?」
「実は今回実験もしてみました」 
 日笠さんは先生に真面目なお顔で言いました。
「一度自分でお握りを作って」
「そしてですか」
「時間を置いて食べてみました」
「そうされたんですか」
「麦も入っていますが」
 十六穀の中にです。
「麦飯は冷えると美味しくないと聞いていましたので」
「あっ、そうですね」
 先生もそのお話に応えます。
「冷えると水気が多くなって」
「それはその通りなのでしょうか」
「昔のお話ですね」
 麦飯が冷えると美味しくいないということはです。
「今ではそうでもないです」
「そうですか」
「時折麦飯のお握りも売っていますね」
「そうですね、食べたことはないですが」
「僕は時々勝って食べていますが」 
 その麦飯のお握りをというのです。
「美味しいです」
「そうなのですか」
「はい、ですから」
 それでというのです。
「ご安心下さい、それで実験ですが」
「はい、時間を置いて食べてみましたが」
「美味しかったですね」
「ですから今日のお弁当でも作って食べてみましたが」
 それがというのです。
「美味しかったので」
「今日もですね」
「作ってみましたが先生のお口にも合って」 
 先生はにこにことしたそれでいて安心した笑顔のまま言いました。
「よかったです」
「それは何よりです」
「ではどんどん召し上がって下さい」
「宜しいですか?」
「是非」
「先生、頂きなよ」
 動物の皆がここで先生に囁きました。
「遠慮なくね」
「こうした時は遠慮は無用だよ」
「どんどん食べてね」
「日笠さんにはトミーのお弁当を食べてもらって」
「そうしてね」
「是非ね、あとね」
 皆は先生にさらに言いました。
「日笠さんとはいつも以上にお話してね」
「そうしなよ」
「是非」
「ここは」
「わかったよ、ただね」
 ここでまた言った先生でした。
「皆今日は特に言うね」
「言わないとね」
「先生んこうしたことについては」
「さもないとね」
「動く人じゃないから」
 だからだというのです。
「言うんだよ」
「本当にね」
「このことは何とかしないと」
「難しいから」
「私達にしても」
「そうだよ、何とかね」
 皆は口々に言って先生を日笠さんのところにやりました、そうしてからあらためてなのでした。
 皆でお弁当を楽しんでいるとそこで、でした。
 王子が来てです、こう彼等に言いました。
「上手く進めたね」
「日笠さんもわかりやすいから」
「そうしてくるって思ってたんだ」
「先生のこともね」
「ああいう人だから」
「僕達も背中を押したんだよ」
 先生のそこをというのです、見れば先生は日笠さんと二人でお弁当を食べながら笑顔でお話しています。
 そのお二人を見つつです、皆は王子にお話します。
「いや、本当にね」
「まだまだ先は長いけれど」
「それでも今日は上手くいったわ」
「よかったよかった」
「何よりよ」
「これも桜のお陰かな」
 ジップはその先生達を見つつ言いました。
「桜の神様がこうした場所を用意してくれたせいで」
「そうかもね」
 トートーはジップのその言葉に頷きました。
「若しお花見じゃなかったら」
「日笠さんもお弁当作ってないわ」
 ダブダブははっきりと否定しました。
「絶対に」
「しかし先に試しに作ってまでして」
 ポリネシアは日笠さん曰く実験について思うのでした。
「日笠さんも真剣よね」
「その真剣な気持ち適うべきだよ」
 ホワイティは動物の皆の気持ちを代弁しました。
「本当にね」
「全くだね」
「だから僕達も先生の背中押したし」
 オシツオサレツは自分達の動きをお話しました。
「日笠さんを見てね」
「そうしないといけないって思ってね」
「こうした時先生ってお酒とお弁当と桜ばかりなんだよね」 
 チーチーは腕を組んで述べました。
「お喋りも楽しむけれど」
「お花見の楽しみ方だけれど」
「それがメインだとね」
 チープサイドの家族も困るのです。
「日笠さんが気の毒だから」
「あんなに頑張ってるのに」
「先生って鈍いし自分はもてないって信じ込んでいて」
 老馬は先生の問題点を指摘します。
「だから駄目なんだよね」
「先生はね」
 王子も困った笑顔で言うのでした、皆にご自身のシェフが作ってくれたお弁当を出しながらです。
「昔からだよね」
「全くだよね」
「こうしたことには鈍くて」
「気付かなくて」
「どうにもならないから」
「先生みたいないい人はいないよ」
 紳士で人格者で。王子もいつもお世話になっています。
「そんな人だから」
「見る人は見てね」
「好きになるよね」
「というかしっかりした人は気付くから」
「先生は素晴らしい人だって」
「それでね」
「そうした人は先生が好きになるけれど」
 また言う王子でした。
「それでもね」
「自分で思い込んでるから」
「もてないってね」
「それじゃあどうしようもないよ」
「自分でそう思ってるなら」
「そこが問題なんだよ」
 本当にというのです。
「あの人はね、ただね」
「うん、日笠さんならね」
「何時かって思えるわ」
「今度こそは」
「そう思えるよ」
「僕もだよ」
 本当にと言う王子でした。
「日笠さんならだよ」
「その通りだね」
「まあ王子はその心配はなさそうだね」
「もうお相手いるとか?」
「そうじゃないの?」
「まあその話はね」
 王子も否定せずに答えます。
「決まってるしね」
「その辺り次の王様だからね」
「しっかりと決まるよね」
「そうなるよね」
「そうだよ、それで奥さんともね」
 こうも言う王子でした、ここで桜のお花を見ます。四方が満開の多くの桜達に囲まれています。
 その桜達を見てです、王子は皆に言うのでした。
「このお花を見たいね」
「桜をだね」
「是非だね」
「見たいんだね」
「一緒に」
「そう思うよ、僕の国はね」
 王子のお国はといいますと。
「桜は咲かないから」
「じゃあ日本にいる時だけだね」
「こうして観られるのは」
「そうなんだね」
「イギリスとかでも観られるけれど」
 それでもというのです。
「どうしてもね」
「王子のお国ではだね」
「どうしてもなんだね」
「暑いせいで」
「どうしても」
「そうだよ、ないんだ」
 桜はというのです。
「本当にね」
「じゃあ結婚しても来日して?」
「それで桜を観るの」
「奥さんと一緒に」
「そのつもりだよ」
 まさにという返事でした。
「絶対にね」
「僕達は多分ずっといるけれどね」
「日本に住むわ」
「先生もお仕事こっちだし」
「完全に根付いた感じだし」
「だからね」
「私達は春は絶対に桜を観られるけれど」
 それでもというのです。
「王子はね」
「今は留学してるけれど」
「何時かはお国に帰って」
「それで、よね」
「そう、結婚するだけじゃなくてね」 
 そのことに加えてというのです。
「王様にならないといけないから」
「お国に戻って」
「それでよね」
「そうしないといけないから」
「だから」
「日本を去ることになるよ」
 まさにというのです、王子はお酒が入ったコップを手にしてそのうえで少し寂しいお顔で言うのでした。
「何時かはね」
「桜ともね」
「その時が来たら」
「お別れね」
「そして僕達とも」
「先生ともだけれど」
 日本に住んでいる先生とも、です。
「桜ともね」
「そこが寂しいんだね」
「どうしても」
「そうなるんだね」
「絶対にね、何かね」 
 少し寂しいお顔のまま言う先生でした。
「桜の散る時を思い出したよ」
「帰る時を思うと」
「どうしても」
「そう思ったんだね」
「何かね、けれどね」
 こうも言った王子でした。
「桜が散る時はもの悲しいけれど」
「それでもだね」
「そのお別れの時は」
「王子は」
「うん、笑顔でね」
 ここで実際に笑顔になった王子でした。
「お別れしたいよ、それにね」
「それに?」
「それにっていうと」
「永遠のお別れじゃないね」
 お別れであってもというのです。
「そうだね」
「あっ、確かにね」
「お別れであってもね」
「永遠じゃないね」
「それはその通りね」
「また会えるよ」
 このことは確かだというのです。
「だからね」
「笑顔でお別れして」
「そしてだね」
「別れて」
「そうして」
「そう、またね」
 お別れをしてもというのです。
「会おうね」
「そうしようね」
「日本で」
「そしてその時はね」
「また桜を観よう」
「一緒に」
「是非ね、その時は先生も」
 今も日笠さんとお話をしている先生を見ます、先生はお友達とお話をしている感じですが日笠さんは違います。
「今よりもさらに幸せになってるかな」
「そこは僕達も頑張るから」
「トミーもいるしね」
「だから絶対にね」
「何とかなるわ」
「というかね」
 王子が言うことはといいますと。
「頑張ってもらわないと」
「そうだよね」
「日笠さんにはもっと」
「そして先生にもね」
「気付いてもらわないと」
「そうそう、多分最後はね」
 王子の予想ではです。
「ハッピーエンドになると思うけれど」
「それでもだよね」
「先生のあの鈍さだとね」
「どうしてもね」
「心配になるよね」
「そうそう、そこなんだよね」
 どうしてもという王子でした。
「気付いて欲しいよね」
「どうにもね」
「先生にもね」
「ほんのちょっとでもね」
「気付いて欲しいね」
「そうだよね」
「全くだよ、まあその話は一時中断して」
 そしてというのです。
「桜を見ようね」
「そうしようね」
「そうしたお話は置いておいて」
「僕達もね」
「そうしようね」
「是非ね、あとひょっとしたら」
 こうも考えた王子でした。
「桜も品種改良したら」
「そうしたら?」
「どうかなるの?」
「僕の国でも育って咲くかな」
 こう考えるのでした。
「そうなるかな」
「ああ、そのことね」
「暑い王子の国でも桜が咲くか」
「そのことも考えたんだ」
「ちょっと先生とお話してみようかな」
 植物学にも暗しい先生にというのです。
「そうしてみようかな」
「いいんじゃない?」
「そういうことなら先生だしね」
「是非聞いてね」
「そこから考えてみればいいよ」
「桜を見らえるのは日本だけじゃなくて」
 そしてというのです。
「我が国でもってなったらね」
「春は毎年観られてね」
「楽しめるからね」
「じゃあ是非ね」
「先生とお話してみよう」
「そうしてみるよ」
 こうお話して実際にでした。
 日笠さんが少し席を立った時にです、王子は先生のところに来てそのうえで実際に先生に尋ねました。
「あの、僕に国に桜植えられるかな」
「それで咲くかどうかだね」
「うん、どうかな」
「咲くよ」
 笑顔で、です。先生は王子に答えました。
「王子の国の気温と環境は台湾に似てるね」
「ああ、あそこに」
「そう、あそこに似てるからね」
 だからだというのです。
「充分咲くよ」
「そういえば台湾でも桜咲くよね」
「日本の統治時代に入ったんだ」
 日本人が植えたのです。
「それからだけれど」
「台湾で咲くのなら」
「王子の国は土壌も台湾に似てるし降水量もね」
「そこも台湾に似てるんだ」
「かなり似てるよ」
 そうだというのです。
「その台湾でも桜が咲くから」
「僕の国でも桜を植えられて」
「咲くよ」
 充分にというのです。
「だから安心してね」
「うん、じゃあ父上と母上にもお話して」
「そしてだね」
「桜を植えてみるよ」
「そうしたらいいよ」
「日本でしか楽しめないと思っていたら」
 それがとも言う王子でした。
「そうでもないね」
「そうだよ、だからね」
「是非だね」
「楽しむといいよ」
 王子のお国でもというのです。
「是非ね」
「そうさせてもらうね、あと台湾もね」 
「一度だね」
「行ってみたいね」
「あそこは面白い生態系と文化だしね」
 先生は海老フライを食べつつ王子に応えました。
「また行きたいね」
「食べものも美味しいらしいね」
「そちらも楽しみだよ、あそこも学問の宝庫だから」 
 それだけにというのです。
「また行きたいんだよ」
「桜もあるし」
「そうそう、ただ咲くのは日本本土より早いから」
 台湾の桜はです。
「そこは覚えておいてね」
「わかったよ、じゃあ僕の国で咲いても」
「本土より早いことはね」
「覚えておこうね」
「そうだね」
 こうしたこともお話しました、そうして王子は日笠さんが戻るとまた動物の皆やトミーのところに戻りました。
 そうして夕方までたっぷりと楽しんで、でした。後片付けをして帰る時に先生は満開の桜達を見て言いました。
「あと少ししたら散るけれど」
「それでもだよね」
「また来年だね」
「そう、来年の春にね」
 この季節になればというのです。
「咲くからね」
「その時にね」
「また楽しもうね」
「そうしよう、じゃあ今は帰ろうね」 
 先生は皆に笑顔で応えました、そしてです。
 今年の桜を楽しむことを終えました、寒かった春ですが無事にいつも通り咲いてくれて楽しめたことに満足しつつです、先生達は桜達の前を後にしてそうして今はそれぞれのお家に帰りました。


ドリトル先生と春の花達   完


                 2017.5.11



皆でお花見。
美姫 「日笠さんも頑張って」
先生は相変わらずだがな。
美姫 「本当にね。日笠さん、本当に頑張って欲しいわね」
だな。今回も楽しませてもらいました。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る