『ドリトル先生と春の花達』




           第四幕  日笠さんの決心

 先生は研究室で動物の皆にこんなことを言われました。
「今日は暖かいね」
「やっと春らしくなってきたよね」
「これまで寒かったけれどね」
「急に温かくなってきたよね」
「そうだね」
 先生は皆に笑顔で応えました。
「そうなってきたね」
「そうだよね、やっとだよ」
「今年は日本の春にしては寒かったけれど」
「それがやっとだよ」
「暖かくなってきたよ」
「春になってきたよ」
 このことを実感していました、そして先生も数学の論文を書きながらそのうえで皆に応えました。
「簿記もそう思うよ」
「先生もだよね」
「やっと春になってきたって思うよね」
「実際にそうなんだね」
「うん、あまりにも寒くて」
 春、三月にしてはというのです。
「困っていたよ」
「けれどそれがだね」
「やっと暖かくなってきたから」
「先生も嬉しいんだね」
「この暖かさが」
「うん、この暖かさだと」
 先生は論文をかきながらにこにとしています、そのうえでの言葉です。
「桜もね」
「例年通り咲くから」
「順調にね」
「そうなるしら」
「そうかもね、桜を見て」
 そうしてというのです。
「お酒を飲んだり和歌も詠む」
「風流だね」
「それがね」
「全くだよ、日本の風流を楽しもう」
 是非にというのです、そう言っていましたが。
 先生はここで、です。皆にこんなことも言われました。
「先生かなり桜が好きになったけれど」
「そこも日本的だけれど」
「何ていうのかな」
「日本人みたいな考えでね」
「行動もそうなってきているね」
「幾ら先生に合っているにしてもね」
「何かね」  
 先生が言うにはです。
「頭の中で考える言葉はね」
「考える言葉?」
「それって何?」
「だから思考に使う言葉だよ」
 それだというのです。
「誰でも考えるね」
「うん、僕達にしてもね」
「いつも考えてるしね」
「寝る時やぼーーーってしてる時以外はね」
「色々考えるよね」
「何かと」
「その時に使う言葉?」
「それのこと?」
「そう、考える言葉はね」
 まさにそれはというのです。
「それぞれの言語を使うね」
「ああ、英語とかだね」
「そうした言葉だね」
「そうだよ、言語はね」 
 まさにそれはというのです。
「喋る、書く以外にも考えることにも使うね」
「うん、確かに」
「言われてみれば」
「そうだよね」
「私達にしても」
「僕はイギリスで生まれ育ってきたから英語を使っていたんだ」
 思考にあたってというのです。
「けれどそれがね」
「それが?」
「それがっていうと」
「日本語になってきたよ」
 頭の中での思考のそれがというのです。
「そうなってきたよ」
「ああ、そうなんだね」
「思考に使う言葉も変わってきたんだね」
「英語から日本語になってきた」
「そうなったんだ」
「それが本当にね」 
 とてもというのです。
「変わってきたよ」
「思考に使う言葉が日本語になってきた」
「そうなってきたんだ」
「そこまで日本に馴染んできたんだ」
「そうなんだね」
「日本にずっといてね」 
 それでというのです。
「そうなってきたよ」
「日本人は日本語を思考に使うね」
「それじゃあだね」
「先生はそこも日本的になってきたんだ」
「そこまでなんだね」
「そうだね、英語も普通に使えるよ」
 先生ご自身の思考にです。
「けれどね」
「それでもなんだ」
「先生はなんだね」
「今は日本語がメインになってきたんだ」
「思考までも」
 皆も言いました、そうしてです。その皆も気付きました。
「ああ、僕達もね」
「そういえばだね」
 最初にオシツオサレツが二つの頭で言いました。
「日本語で考えてるね」
「最近そうだね」
「これまで動物のそれぞれの言葉に英語を使っていたわ」
 ポリネシアは自分達の頭の中を振り返って述べました・
「けれど今はそれぞれの言葉と日本語ね」
「今も日本語で考えているよ」
 老馬は今現在の状況に気付きました。
「そうなっているよ」
「あっ、確かに」
「今も」 
 チープサイドの家族も気付きました。
「日本語だわ」
「日本語で考えてるね」
「ううん、もうね」
 トートーも自分達のことを振り返って言います。
「僕達も先生みたいになってきたね」
「日本語で考えてるね」
 ジップの口調はしみじみとしたものでした。
「普通にね」
「そうそう、もう普通にね」
 チーチーもでした。
「日本語で考えてるね」
「自然とそうなってるね」
 ホワイティもそれは同じでした。
「日本語で考えてるよ」
「うん、英語で考えていたのに」
 ガブガブは自分の言葉だけでなく、と思うのでした。
「日本語で閑雅てるね、今の僕達って」
「普通にね」
 今度はダブダブが言いました。
「自然となっているわね」
「つまり僕達も日本に馴染んでいてね」
 先生が言いました。
「その中で暮らしていけているんだ」
「日本人になっていってるとか」
「そんな感じかしら」
「そうだろうね、精神的なレベルでね」
 まさにそのレベルでというのです。
「なっていってるね、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「いや、まさかね」
 ここでこうも言った先生でした。
「ここまで日本に馴染むなんてね」
「ずっとイギリスにいたのに」
「日本に来てからね」
「まさかそうなるなんて」
「不思議って言えば不思議?」
「そうかしら」
「うん、日本に来た時は」
 本当にその時はでした、先生も。
「飛行機も怖かったしね」
「あっ、そういえばそうだったわ」
「先生飛行機嫌いで」
「船で来日したし」
「それからも暫くは」
「うん、飛行機での移動はね」 
 そちらはだったのです。
「あまりね」
「どうにもだよね」
「好きじゃなくて」
「というか苦手で」
「船や電車での移動ばかりで」
「ずっとね」
「そのことも変わって日本のことにもね」
 しみじみと思う先生でした。
「馴染んで思考までね」
「日本語でする様になって」
「そこまでなっていったのね」
「そうなのね、先生は」
「本当に」
「うん、僕はね」
 さらに言う先生でした。
「今は英語で論文を書いているけれど」
「考えているのは日本語?」
「そうなってるの?」
「もう完全に」
「そうなんだ」
 実際にというのです。
「そうなっているよ」
「そこまでなんだね」
「先生の大きな変化だね」
「思考に使う言葉まで変わるなんて」
「そのことまで」
「そう、思考に使う言語が違うとね」
 そうなると、というのです。
「同じ人が同じことを考えても違う結論になったりするよ」
「あれっ、同じ人が同じことを考えても?」
「結論が違ったりするの?」
「それでもなの」
「同じ人が同じことを考えても」
「思考に使う言葉が違うと」
「違う結論になっているするんだ」
「そうなんだ」
 実際にtおいうのです。
「これがね」
「ううん、それは凄いね」
「それが変わるなんて」
「何ていうか」
「凄いね」
「だから今はね」
 それはというのです。
「日本語で使う結論に至るね」
「英語で考える場合と違って」
「そうなってるの」
「その論文についても?」
「そうだよ、この論文もね」
 今英語で書いている数学のそれもというのです。
「また違った結論になるかもね」
「数学についてもなんだ」
「先生が日本語で考えているから」
「英語で考える場合と違ってくる」
「そうなるんだ」
「うん、果たしてその結論がどうなるか」
 日本語で考えつつ英語で書いて言う先生でした。
「楽しみだよ」
「何か聞いていて面白いよ」
「僕達にしてもね」
「じゃあその論文の結論楽しみにしておくね」
「どうなるのか」
「そうしてね、さて論文も書いて」
 そちらも楽しんでと言う先生でした。
「そしてね」
「うん、そうしてだよね」
「和歌のことも考えよう」
「桜の前でやるし」
「是非ね」
「そちらのことも」
「英語で和歌を考えると」
 先生はふと思いました。
「果たしてどうなるのかな」
「あっ、それも楽しみだね」
「どうなるのか」
 皆はそのことも楽しみに思うのでした、そしてです。
 先生はお昼に食堂に入るとです、不意にです。先生の前に来た日笠さんに言われました。
「あの」
「あっ、暫く振りですね」
「そうですね」
 実はこの日先生にお話したいことがあってここに来たのですがそのことは隠して言う日笠さんです。
「今日はたまたまです」
「こちらに来られたんですね」
「それはその」 
 嘘を言えない日笠さんは返事に困ります、ですが。
 先生にです、周りの皆が言いました。
「折角だから一緒に御飯食べましょう」
「ここでお会いしたのも縁よ」
「縁は大事にしないとね」
「だからね」
「そうだね」
 先生は気付かないまま皆に応えました、そのうえで日笠さんに言いました。
「宜しければご一緒に」
「今からですね」
「はい、お食事をしませんか?」
「是非」
 日笠さんはお顔を明るくさせて先生に答えました。
「お願いします」
「はい、それでは」
 こうしてです、先生は日笠さんと一緒にお食事を摂ることになりました。先生の今日のお食事は天丼に木の葉うどんです、勿論どちらも大盛りです。そして日笠さんはお好み焼き定食です。
 そのお好み焼き定食を食べつつです、日笠さんは先生に言いました。
「先生は今度の和歌会に参加されますよね」
「はい、そうです」
 その通りとです、先生は日笠さんににこりとして答えました。
「そうさせて頂きます」
「そうですね、実はです」
「実は?」
「私も参加させて頂く予定でしたが」
「予定でした、とは」
「実は急に論文を書くことになりまして」
 そちらのお仕事が入ったというのです。
「それで忙しいのですが」
「それでは」
「和歌会の参加が微妙になっていました」
「なっていました」
「ですが先生の参加は決まっていますね」
「もう絶対にです」 
 それはというのです。
「決まっています」
「そうですか、では」
 先生のお言葉を聞いてです、日笠さんは確かな顔で言いました。
「私も論文を書き上げて」
「そうしてですか」
「参加します」
 こう言うのでした。
「元々参加の予定でしたし」
「そうされますか」
「先生が参加されるなら」
 それならというのです。
「是非」
「それでは」
「それで、ですが」
 日笠さんは先生にさらに言いました。
「先生は和歌は」
「はじめてです」
「そうですね」
「はい、それが何か」
「インスピレーション等は」
 詩に必要なそれはというのです。
「どうして得られているでしょうか」
「それですか」
「はい、どうされていますか」
「それでしたら」
 先生は日笠さんの言葉にこう答えました。
「お花も見て」
「学園の中の」
「そうしています」
「そうですか」
「季節を謡いますよね」
「はい、和歌は」
「ですから」
 それでというのです。
「よくです」
「お花をですか」
「観ています」
「今の季節ですと」 
 春ならとです、日笠さんも応えます。
「菊や梅、桃ですね」
「あと蒲公英もですね」
「そうですね、蒲公英は和歌ではあまり謡われていませんが」
「梅や桃は多いですね」
「そうしたお花もですね」
「観ています」
 実際にというのです。
「そうしています」
「そうですか、では」
「では?」
「桜はこれからですし」
 和歌会の主役となるそのお花はというのです。
「では他のものも」
「お花以外の」
「そうした場所もどうでしょうか」
「行ってですね」
「はい、和歌会の前に」
「そうしてインスピレーションを得る」
「そうされてはどうでしょうか」
 こう先生に言うのでした。
「ここは」
「そうですね」
 少し考えてです、先生は日笠さんに答えました。
「いいですね」
「はい、では」
 先生の返事を聞いてさらに言った日笠さんでした。
「須磨はどうでしょうか」
「須磨といいますと」
「はい、源氏物語の舞台の」
「その一つでしたね」
「あちらはどうでしょうか」
 こう先生に言うのでした。
「須磨の海に行って」
「いいですね」
 先生は日笠さんの提案に笑顔で応えました。
「須磨の海も」
「そうですね」
「春の海ですね」
「そうです、海といえば夏ですね」
「そのイメージが強いですね」
「現代は、ですが」
「かつてはですね」
「ですが和歌の世界ではそうでもなくて」 
 日笠さんは先生にさらにお話していきました。
「それぞれの季節の海を謡っていまして」
「それで、ですか」
「はい、春の海もです」
「謡っていますか」
「その景色の美しさを」
「そうですね、日本の春の海はです」
 よく見る神戸のそれから言う先生でした。
「観ていてです」
「奇麗ですね」
「はい、そう思います」
 実際にというのです。
「僕も」
「そうですね、では」
「あちらにですね」
「行きましょう、それで日は」
 日笠さんは先生にさらに言いました。
「日曜はどうでしょうか」
「今度の日曜ですか」
「はい、この日はどうでしょうか」
「わかりました、その日は僕もオフですし」
「それでは」
「参りましょう、教会には朝早くに礼拝をしに行きます」
 それは忘れない先生でした。
「日曜ですから」
「あっ、クリスチャンなので」
「この学園の教会に参ります」
 国教会のそちらにというのです。
「それで、です」
「それからお家に戻って」
「そのうえで、ですね」
「須磨の海に」
「そうされますか、ではです」
 日笠さんは思い切って切り出しました。
「先生のお家まで車で迎えに行きますので」
「日笠さんがですか」
「はい、キャンピングカーをレンタルして」
 動物の皆も見て言います、皆は日笠さんのその視線に気付かないふりをしています。ここはあえて。
「そうしてです」
「お迎えにですか」
「上がりますので」
「いえいえ、それはです」
「それいは?」
「女性の方にそうして頂くことはです」
 それはというのです。
「よくありませんので」
「だからですか」
「はい」
 それでというのです。
「僕の方からお迎えに上がります」
「いえ、それは」
「僕は車の運転は出来ませんが」
 それでもとです、先生はさらに言いました。
「友人の王子がキャンピングカーを持っています」
「アフリカからの留学生の」
「はい、あの王子がです」
「では王子にもお声をかけて」
「同居人のトミーにも声をかけて」
 先生の平等主義がよくも悪くも出ました。
「そして皆で行きましょう」
「皆で、ですか」
「はい」
 そうだというのです。
「そうしましょう」
「そうですか」
「駄目でしょうか」
「いえ、先生が言われるのなら」
 日笠さんも強く言えませんでした。
「それでは」
「はい、では」
「そうしましょう」
 内心がっかりして応えた日笠さんでした。
「それでお時間は」
「何時にしましょうか」
「朝の海はとても奇麗なので」
 内心のがっかりを隠しつつ言う日笠さんでした。
「ですから」
「それで、ですね」
「朝の早いうちに」
「ではです」
「それではですか」
「八時半までに王子やトミーと一緒にです」
 皆と一緒にというのです。
「教会への礼拝を終えて」
「そしてですか」
「八時半にです」
 まさにその時間にというのです。
「お迎えに参ります」
「私のお家までですか」
「今は社宅にお住まいですね」
「はい、八条学園の職員用の」
 そこにと答えた日笠さんでした。
「学園の傍の団地にいます」
「ではそちらにです」
「迎えに来てくれますか」
「はい」
 笑顔で答えた先生でした。
「そうさせて頂きます」
「それでは」
「はい、それでなのですが」
 さらにお話する先生でした。
「須磨は近いので三十分位で着けますね」
「では九時には」
「須磨の海に着いて」
 そしてというのです。
「観られますね」
「そうですね」
「はい、それでは」
「八時半に待ち合わせをして」
「そして行きましょう」
「わかりました」
 日笠さんはがっかりした気持ちを抑えて頷きました、そしてです。
 お二人でのお食事を終えて今は別れました、ですが。
 研究室に戻ってです、動物の皆は先生に呆れた声で言いました。
「そこで何でもああ言うかな」
「僕達もう少しで留守番するって言ってたのに」
「先生が迎えに行くとかね」
「自分で言う?」
「それはないよ」
「不合格だよ、先生」
「あれっ、不合格って?」
 そう言われてきょとんとなる先生でした。
「どうしてかな」
「やっぱりわかってないし」
「全く、これだから先生は」
「あんなの誰だってわかるよ」
「僕達だってわかるし」
「トミーも王子ももうわかってるのに」
「それでも肝心の先生がこうだと」
「困るな」
「本当にね」
 呆れて言う皆でした。
「やれやれだよ」
「これじゃあ幸せは何時になるか」
「先生の幸せが実るのは」
「果たして何時になるのかしら」
「あれっ、僕は充分過ぎる位幸せだよ」
 先生は皆に言われてまたこう言いました。
「これ以上はないまでにね」
「いや、だからね」
「そうじゃなくて」
「もっと幸せになれるから」
「充分とかじゃなくてね」
「ううん、もう充分だけれど」
 またこう言う先生でした。
「僕はね」
「いやいや、先生そこでなのよ」
 ダブダブが言うには。
「誰にも迷惑かけないのならいいのよ」
「そうよ、先生」
 ポリネシアが続きました。
「もっと幸せになったらいいのよ」
「ここはああすべきじゃなかったよ」
 トートーはこう言いました。
「やっぱりね」
「そうそう、下の下以下っていうか」
「絶対に駄目なやり取りだったわ」
 チープサイドの家族も先生を咎めます。
「日笠さんが迎えに来てくれるなら」
「それに乗ったらよかったのに」
「本当にその時僕達はね」
 ガブガブも気付いているので言います。
「留守番を申し出ていたよ」
「それで先生と日笠さんでね」
 お二人でとです、チーチーも呆れて言うのでした。
「海に行ったらよかったのに」
「泳ぐとかじゃなくてね」 
 ジップも日本の春の海のことはわかっています。
「二人一緒に観ればいいんだよ」
「そこからはじまるのに」
 ホワイティも呆れ顔です。
「全く先生ときたら」
「須磨は源氏物語の舞台だから」
 老馬はこのことを言いました。
「源氏の君みたいに出来たら」
「源氏の君の十分の一でもね」
「上手でいられたら」
 最後にオシツオサレツが言います。
「いいのにね」
「それがね」
「皆何を言ってるかわからないけれど」 
 それでもと言う先生でした。
「やっぱりレディーファーストだよ」
「レディーファースト?」
「だから迎えに行くっていうの?」
「そうするの?」
「そうしていくの?」
「今回もまた」
「それでああ言ったの」
「そうだよ、女性に手間をかけさせることはよくないよ」
 先生は紳士なのでこう考えています、このこと自体は非常に素晴らしい美徳ではありますが。
「それに公平にだよ」
「だから王子にもトミーにもなんだ」
「お声かけるの」
「そうするの」
「そうだよ、誘わないこともよくないよ」
 今度は平等主義も出す先生でした。
「皆も自分だけ誘われないとか嫌だよね」
「それはそうだけれど」
「それでも先生のその言葉はね」
「どうかって思うよ」
「いや、本当にね」
「今回については」
「もっと気付いてくれないと」
 それこそといういのです。
「何もかも動かないから
「実際に動いてないじゃない」
「一歩としてね」
「本当に動いていないよ」
「動く?和歌のことなら」
 そちらはと言う先生でした。
「ちゃんと動いているじゃない」
「いや、違うよ」
「だから歌のことじゃないの」
「歌じゃなくてね」
「もっと他のことなのに」
「須磨でわからない?」
「いや、須磨だからね」
 須磨からはこう考えている先生でした。
「和歌だよね」
「源氏物語の場面の一つだから?」
「それで和歌に縁があるっていうの?」
「和歌のことで行くし」
「だからだっていうの」
「違うの?」
 先生は呆れて言う皆に突っ込み返しました。
「それとは」
「そこがわからないとね」
「全く駄目よ」
「須磨っていえば源氏物語ってのはわかってるのに」
「何でそこからわからないの?」
「だから何かな、まあとにかくね」 
 先生はこれまでお茶を飲んでいましたがお茶を飲み終えて皆にこうも言いました。
「日曜の八時半に日笠さんを迎えに行って今はね」
「うん、論文だね」
「数学の論文書くのね」
「そうするのね」
「そうするよ」
 これからというのです。
「そうするよ」
「そうだよね」
「先生論文も書いてるしね」
「今は数学の論文書いてるしね」
「それを書くんだね」
「これからね。やっぱりね」
 また言った先生でした。
「これはしないとね」
「論文は書いたら書き終える」
「書き終えないと論文じゃない」
「学説にもならないのよね」
「うん、そうだよ」 
 だからだというのです。
「これから書いてね」
「完成させるんだね」
「その論文もね」
「そうするのね」
「そうするよ、僕はいつも論文を書いているけれど」
 様々な学問をしているからです、先生が書いている論文の数は非常に多いものになっているのです。
「もう一週間に一つはかな」
「論文書いてるの?」
「色々な学問のそれを」
「そうなっているんだ、今は」
「そうかもね、一週間に一つとか」
 そのペースはといいますと。
「多分相当速いよ」
「論文書かない先生もいるしね」
「学者さんのお仕事では物凄く大事なのに」
「そうした人もいるのに」
「先生は違うわね」
「うん、とにかく書いているよ」
 様々な学問のそれをというのです。
「常にね、しかもこのことはね」
「来日してからだね」
「それまで書く機会なんて滅多になかったから」
「論文を書くこと自体が」
「もう本当に」
「イギリスにいた時は」
 その時のことを思い出しますと。
「本当にね」
「論文書く機会もなくて」
「病院なんて患者さん来なくて」
「サーカスや郵便局はやったけれど」
「アフリカや月に行ってね」
「けれど学者さんとしては」
「何もしていないも一緒だったわ」
「それが全く変わったよ」
 来日して本当にというのです。
「こうして様々なジャンルの論文を書いているからね」
「それもいつもね」
「書いて書いてね」
「次から次に」
「そう思うと本当に変わったね」
「先生も」
「そうなったよ、それでじゃあ」
 あらためて言った先生でした。
「今からね」
「書くんだね、論文」
「数学のそれを」
「それで書き終わったらだね」
「また次を書くんだね」
「そうするけれど」
 それでもというのです。
「まずはこの論文だよ」
「ううん、学問についてはね」
「先生に言うことはないよ」
「というかこと学問については」
「先生以上の人はそうそういないんじゃ」
「いやいや、僕はただ好きでしているだけで」
 学問をという先生でした。
「別に何でもないよ」
「天才とかじゃなくて」
「ごく普通っていうんだ」
「凡人だっていうんだね」
「先生は」
「そう、僕はただ好きでしているだけで」
 学問、それをというのです。
「特にね」
「別になんだね」
「天才でも何でもない」
「先生はそうなんだね」
「普通の人だっていうんだ」
「僕は本当にね」
 それこそというのです。
「特に才能がなくて」
「好きなことをしているだけ」
「それで学問が好きだからだね」
「本を読んで論文を書いている」
「そうなのね」
「そうだよ、僕はね」
 それこそとです、また言った先生でした。
「ただそれだけだから」
「ううん、そうなんだ」
「というか好きでやって凝ってるとね」
「それだけでいいんじゃない?」
「お医者さんとしても今はお仕事があるし」
「大学の教授だしね」
「うん、しかも論文お認めてもらって」
 そうしてというのです。
「評価もしてもらっているし」
「じゃあ余計にいいね」
「そうだよね」
「先生の好きなことが認めれるなら」
「それだけでね」
「そのことも凄く幸せだから」
 だからだというのです。
「満足もしてるしね」
「だからそれ以上は求めない」
「そう言うんだ」
「無欲だっていうのね」
「つまりは」
「そうだよ、こんな幸せはことはないよ」
 心から言う先生でした。
「だからおうね」
「これ以上はなんだ」
「もう求めないんだ」
「そうなんだね」
「うん、皆が何言ってるかはわからないけれど」
 日笠さんのことについてはです、本当に先生は何一つとして気付いてはいません。皆にとって残念なことに。
「日曜は予定が出来たね」
「うん、それはね」
「その通りよ」
「日曜は海よ」
「朝からね」
「そうだね、あとね」
 ここでこうも言った先生でした。
「一つ気になることは」
「気になること?」
「っていうと?」
「うん、学校の小鳥達だけれど」
 そこに住む彼等がというのです。
「春になったのにね」
「それでもっていうんだ」
「春になったのに」
「それでもって」
「うん、天気もよくなって暖かくもなるのにね」
 それでもというのです。
「今一つ浮かない感じかな」
「あれっ、そう?」
「僕達は別にそう思わないけれど」
「そんな感じなの」
「そうなの?」
「うん、何かね」
 先生が思うところというのです。
「そんな感じがするよ」
「そうなの」
「僕達は特に思わないけれど」
「今一つ浮かない?」
「そんな感じなの」
「僕の気のせいかな」
 そこが気になるというのです。
「そうも思ったんだ」
「ううん、じゃあ聞いてみる?」
「小鳥さん達に直接」
「そうしてみる?」
「そうだね、今日はこれから論文を書いて」
 そしてというのです。
「五時半位にお家に帰るから」
「もうその頃には小鳥さん達寝てるし」
「だからだね」
「お話するのは明日だね」
「その時になるわね」
「うん、だから明日聞いてみるよ」
 こう言うのでした、そしてです。
 先生は論文を書いてそのうえでお家に帰りました、そうしてトミーに晩御飯の後で学校でのことをお話しますと。
 トミーは先生にです、微妙なお顔で言いました。
「海のことを決めたのはいいですが」
「それでもかな」
「はい、ちょっとです」
 どうにもと言うのでした。
「頷けないですね」
「皆と一緒のことを言うね」
 その皆を見つつ先生も応えます。
「それは」
「先生でしたら」
 そのお人柄ならというのでえす。
「絶対にもっと幸せになれますよ」
「いや、だからね」
「欲はですか」
「出すものじゃないからね」
 持ち前の無欲さを出して言うのでした。
「だからね」
「無欲はいいことですが」
「それでもだね」
「はい、それも過ぎますと」
 どうにもというのです。
「よくないですよ」
「そう言うんだね」
「そしてもう少しです」
 トミーは先生にさらに言いました。
「よく御覧になられれば、自信を持って」
「よく?それに自信?」
「はい、そうです」
 先生にこうアドバイスするのでした。
「もっと」
「ううん、そうなのかな」
「是非です」
「よくわからないけれどね」
「ですから申し上げたままです」 
 トミーは皆より強く言いました。
「このことは」
「よく観るんだね」
「自信を持って」
「そうすればいいんだ」
「そうすればもっと幸せになりますから」
「もっとね」
「はい、絶対に」
 あくまでという口調でした。
「お願いしますね、僕も」
「けれど幸せっていうのはね」
「多く求めるものじゃない」
「そう思うからね」
 だからだというのです。
「僕は」
「悪いことをしていないとどんどん幸せになっていいですよ」
「そうかな」
「はい、ですから」
 こう日笠さんのことを言うのでした、トミーも日笠さんのお気持ちには気付いていて言うのですが先生だけは気付いていません。



もう先生は仕方ないというか。
美姫 「こればっかりはね」
何度も思うけれどな。
美姫 「勿体ないわね」
本当に。日笠さん、良い人なのに。
美姫 「まあ、これまた先生らしいわね」
だな。さて、今回はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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