『ドリトル先生と悩める画家』
第九幕 雪の神戸
朝起きて窓の外を見てです、動物の皆は口々に言いました。
「うわ、積もってるよ」
「十センチは積もってるね」
「しかもまだ降ってるし」
「これは大雪だね」
「かなりのものだよ」
「うん、そうだね」
先生も起きて窓の外を見て言いました。
「これは凄い雪だね」
「本当にね」
「かなりのものだよ」
「いや、昨日の五時半位から降ってね」
「今も降ってるから」
「これだけ積もったんだね」
「かなりだね」
皆雪を見て言います、そしてトミーもです。
その雪を見てです、こう言いました。
「今日も学校ありますから」
「うん、休校になるかも知れないけれどね」
「行く用意はしましょう」
「大雪警報でも出ないとね」
それこそと言う先生でした。
「休校にはならないよ」
「そうですよね」
「だから行く用意はするよ」
「僕もそうします」
学生さんであるトミーもでした。
「そうさせてもらいます」
「是非ね。しかし僕達は徒歩だからまだいいけれど」
「電車や車で来る人は」
「大丈夫かな」
このことを思うのでした。
「来られない人も多いだろうね」
「そうでしょうね」
「まだ降ってるしね」
「しかもぼた雪が沢山」
「これはもっと積もるよ」
先生は言いました。
「今は六時でね」
「八時にお家を出るにしても」
「その二時間の間にね」
「さらに積もりますね」
「だから休校になることも」
「普通にありそうですね」
「休校になったら」
その場合についてです、先生は言いました。
「学校に行けないからね」
「だからですね」
「うん、僕もね」
「お家でゆっくりとされますか」
「そうするよ」
こうトミーに言うのでした。
「その場合はね」
「じゃあ今から御飯ですが」
「昨日のカレーの残りですね」
「はい、そう思って御飯を多く炊いておきました」
昨日のうちにとです、トミーは先生に微笑んで答えました。
「ですから」
「今朝もだね」
「カレーを食べましょう」
「それはいいね」
「じゃあ朝からあったまって」
動物の皆もここで言いました。
「それで登校しようね」
「休校になったらそれはそれ」
「ゆっくり休もうね」
「そうしようね」
皆もこう言ってでした、トミーがカレーを温めてそれから熱々の御飯にかけてです。先生達に出しました。先生達はそのカレーを食べながらテレビで天気を確認しますと。
「ううん、やっぱりね」
「神戸は大雪みたいだね」
「大阪の方もね」
「関西全域がそうだね」
「うん、けれどね」
先生もテレビを観ています、そのうえで言うのでした。
「警報は出ていないし電車も動いているから」
「学校はあるね」
「そちらはね」
「じゃあ僕達も行こうね」
「大学の方に」
「そうしよう。ただ講義があって電車も動いているけれど」
それでもというのでした。
「この天気だとね」
「そうだね、来る人は少ないだろうね」
「学生さん達はね」
「車は動きにくいのは間違いないし」
「これじゃあね」
「そのことは仕方がないね」
先生も言います。
「そのことを頭に入れて」
「そうしてね」
「学校に行こう」
「雪の中をね」
「皆雨具を着けて行こう」
先生は皆にこうも言いました。
「雨が降っている時と一緒でね」
「そうだね、雪が降ってるから」
「濡れたらいけないからね」
「そして研究室に入ったらね」
「足を拭きましょう」
「そうして研究室に入ろうね」
こう皆でお話しました、カレーを食べて暖まってから。そしてでした。
皆で一緒にでした、学校に行こうとすると王子から電話がかかってきました。王子は先生にこう言ってきました。
「大きなワゴン車出してね」
「それでなんだ」
「うん、登校するけれど」
「ひょっとしてワゴン車は」
「そうだよ、先生達を乗せる為にね」
最初からこう考えてというのです。
「出したんだ」
「そうだったんだね」
「動物の皆を乗せないといけないから」
「だからなんだね」
「老馬やオシツオサレツも乗れるよ」
大きな彼等もというのです。
「タイヤにはチェーンを巻いたし」
「本当に用意がいいね」
「今からそっちに行くから」
「大学までだね」
「一緒に行こうね」
「悪いね、何か」
「悪くないよ、先生達と僕の仲じゃない」
お友達同士だからというのです。
「これ位はね」
「そう言ってくれるんだ」
「そうだよ、じゃあね」
「一緒にだね」
「登校しようね」
こうしてでした、先生達は王子にワゴン車で大学まで一緒に行くことになりました。そして王子の乗ったワゴン車が実際に先生のお家の前に来てです。
先生達は車に乗って登校しました、そのうえで。
学校に行って研究室に入りましたが。皆そのうえで言うのでした。
「やっぱり人少ないね」
「いつもの半分以下?」
「職員さんも少ないし」
「学生さん達は特にね」
「来られない人も多いってことだね」
先生はこう皆に答えました、暖房を入れて急激にあったまっていく研究室の中で。
「これだけの雪だから」
「それは仕方ないってことだね」
「これだけの雪だから」
オシツオサレツも言います。
「人が来られないのもね」
「止むを得ないってことだね」
「予想されていたことにしても」
老馬は窓の外でまだ降っている雪達を見て言いました。
「寂しいことだね」
「人がいない学校ってね」
チーチーが言うことはといいますと。
「こんな寂しい場所はないね」
「いつも人がいる場所だから」
ポリネシアも言います。
「そこに人がいないと違和感あるわね」
「こんな寂しい場所はないわよ」
ガブガブの言葉にも普段の彼女にはない寂しさを悲しむものがあります。
「学生さん達がお休みになる夏や冬もそうだけれどね」
「まして今は普通に講義がある期間なのに」
ジップは時期のことを述べました。
「これで人がいないとね」
「本当に寂しいね」
「全く以てね」
チープサイドの家族もこう言うのでした。
「講義があっても」
「学生さん少ないだろうね」
「けれどそれでも来たから」
老馬が真剣なお顔で述べました。
「講義は頑張ろうね」
「論文も書いて」
ホワイティはこちらのお話をしました。
「学問を頑張ろうね」
「お腹が空いたら何か食べて」
食いしん坊のダブダブはこのことを忘れていません。
「そこからもあったまろうね」
「お部屋はこうして暖かいけれど」
最後にトートーが言いました。
「油断しないでいこうね」
「うん、今日も講義はあるから」
実際にとです、先生も答えました。
「出てね」
「そうしてね」
「しっかりと学生さん達に教えて」
「論文も書いて」
「学問を楽しもうね」
「そうしようね。しかし大変な雪だけれど」
それでもとです、先生は窓の外で今も降り続ける雪を見て思うのでした。
「奇麗だね」
「一面銀世界になって」
「つららも連なっていてね」
「確かに奇麗だね」
「風情があるわ」
「日本の冬の中でもね」
とりわけというのです。
「雪は奇麗だよ」
「余計に寒くなって動きにくくなるけれど」
「それでもだよね」
「やっぱり奇麗だね」
「そうだね」
「うん、観ていてね」
そうしていてとです、先生はしみじみとした口調で言うのでした。
「そう思うよ」
「奇麗なことは奇麗ね」
「絵になってるわ」
「観ていて飽きない」
「そんなものね」
動物の皆もこう言います。
「それじゃあね」
「この雪景色は楽しむことね」
「今から」
「そうしましょう」
「それはいいことだよ。あとお家に帰ったら」
先生はその時のこともお話しました。
「この雪を見ながら飲もうかな」
「あっ、雪見酒だね」
「そちらも楽しむんだ」
「そのつもりなんだね」
「日本人は昔からそうしたことも楽しんでいたんだ」
先生はこのことはにこにことしてお話しました。
「雪景色を楽しんで和歌を詠んだり肴に飲んだりしてて」
「風流だね、それって」
「雅っていっていいね」
「四季の全てを楽しむ日本人らしいね」
「そうだよね」
「僕もそう思うよ。だからね」
その日本にいるからというのです。
「今は雪景色を観て楽しんで」
「帰ったらだね」
「その景色にお酒も楽しむ」
「お家でも観て」
「そうするんだね」
「そうしよう。丁度日本酒もあるし」
日本の楽しみを満喫するのならこちらのお酒だというのです。
「肴はお漬けものか梅干しにして」
「いいね、それじゃあ」
「そうしたものも食べながらね」
「お酒を飲むんだね」
「お家では」
「そうするつもりだよ。お酒はね」
本当にというのでした。
「今から楽しみだよ」
「先生もすっかり日本に馴染んだね」
「雪見酒を楽しみにするなんて」
「四季の全てを楽しむ」
「そうした人になったね」
「こんなに四季の全てを楽しむ文化は」
それこそというのです。
「そうそうないんじゃないかな」
「四季自体がある国も限られてるしね」
「それじゃあね」
「日本みたいに楽しめる国も少ない」
「そうでもあるんだね」
「春夏秋冬とね」
先生はこの四季の名前もそれぞれ挙げました。
「あってそのそれぞれに豊かな自然があって」
「その自然を楽しむ」
「それが日本なんだね」
「日本人の楽しみの一つ」
「先生も同じく楽しんでいるんだね」
「そうなるね。いや日本酒はね」
お酒についてもお話するのでした。
「日本の季節によく合ってるよ」
「そうなんだね」
「日本の四季には日本酒」
「このお酒が合うんだね」
「何といっても」
「そうだよ。じゃあね」
それならというのです。
「まずは学問を楽しもう」
「講義もして」
「そうしてね」
こうお話してでした、先生は大雪の為あまり人のいない大学で講義もして学問にも励みました。そうしてでした。
お昼の食堂にいてもです、やはり人が少なくて言うのでした。
「本当にいつもの半分以下だね」
「人はね」
「もっと少ないかも」
「とにかく人が少なくて」
「静かだね」
「関西は何処でも賑やかだけれど」
この賑やかさも先生の好きなものです。
「流石にここまで少ないとね」
「静かだね」
「どうしても」
「寂しいものがあるね」
「どうしても」
「そうだね」
先生は秋刀魚を食べつつ皆に答えました、御飯とキャベツの千切りとスライスされたトマトにお味噌汁という組み合わせです。
「今はね」
「本当にそうだね」
「寒いしね」
「食堂も閑散だし」
「どうにもね」
「こうしたものだとわかっていても」
それでもというのです。
「寂しいものがあるね」
「そうだね、まあそのことは仕方ないとして」
「そのうえでだね」
「御飯を食べて」
「そうしてあったまろうね」
「うん、三時にはお茶を飲んで」
先生は大雪の時もティータイムは忘れません。
「お菓子も食べよう」
「そうそう、それは忘れないよね」
「先生は」
「何があっても」
「どんな時も」
「うん、お茶を飲まないとね」
そしてティーセットも楽しまないと、というのです。
「僕は駄目だからね」
「三時と十時にはね」
「十時のティーセットは一口ずつでね」
「ちょっと小腹足しで」
「そして三時はおやつ」
「そんな感じだよね」
「僕のおやつはそれだよ」
先生にとっておやつイコールティーセットなのです。そしてその三時のティーセットがなくてはどうしてもなのです。
「ないとどうにもならないね」
「気分的にね」
「その時間はお茶を飲まないとね」
「そしてティーセットも食べる」
「それも三段の」
「さもないと動けなくなるかもね」
実は欠かしたことがないので実際にどうなるかはわからなかったりします。
「紅茶もセットもないと」
「その中でもお茶ね」
「最近はミルクティー以外も飲んでるからどのお茶もいいにしても」
「先生はお茶ね」
「お茶がないと駄目ね」
「うん、本当にお茶がないと」
それこそというのです。
「朝もお昼も夜もはじまらないからね」
「十時、三時でなくても」
「それでもね」
「お茶は飲んでるわね」
「しっかりと」
「そう、だから今もね」
実際にというのでした。
「飲もうね」
「よし、それじゃあね」
「しっかりと飲もうね」
「そして楽しくね」
「やっていこうね」
こうしたことをお話してでした、そのうえで。
先生は雪景色を観て今はお茶を飲んででした。それから。
お昼の後で研究室に戻る時にまた太田さんと会いました、この時の太田さんは何をしていたのかといいますと。
「あれっ、雪の中歩いてるよ」
「傘をさしてね」
「何か今にも雪合戦しそうな」
「えらくうきうきしてる?」
「そんな感じだね」
「あっ、先生」
太田さんも先生達に気付いて声をかけてきました。
「お昼は」
「今食べてきたよ」
笑顔で、です。先生は太田さんに答えました。
「それで君の方は」
「はい、僕も食べました」
太田さんもというのです。
「それで今は雪を見てです」
「インスピレーションを感じ取ってだね」
「スランプを脱出しようと」
「そうしてるんだね」
「はい」
まさにというのです。
「ここからも何か得られるかもと思いまして」
「相変わらず頑張ってるね」
「とにかく何から得られるかわからないですから」
スランプを脱出するきっかけはです。
「雪からもと思いまして」
「雪は冬を彩る自然の中でも一番印象的なものの一つだからね」
「そう、ですから」
だからというのです、太田さんにしても。
「こうして観ています」
「そうなんだね」
「昔から絵にもよく描かれてますよね」
「そう、絵だけじゃなくて色々な芸術にね」
「ですから」
「それがいいね。ただね」
ここでこうも言った先生でした。
「寒さには気をつけてね」
「風邪をひくからですね」
「そうだよ、とにかく今日は寒いからね」
だからというのです。
「そこは気をつけてね」
「はい、そうします」
「それじゃあね」
「確かに今日は凄い寒さですね」
「今年一番の寒波らしいね」
「みたいですね、天気予報だと」
「まだ降ってるしね」
相変わらず大きな雪が沢山降っています、そしてさらに積もっていっています。
「電車も何時どうなるか」
「とりあえず今は動いてますけれど」
「動けなくなるかも知れないね」
「その心配はありますね」
「君講義は」
「はい、今日は午前中で終わりです」
「じゃあ午後は」
先生は太田さんにさらに尋ねました。
「大学にいなくてもいいね」
「そうなるね。部活も今日はないですし」
「ないんだ」
「さっき連絡がきて人が少ないので」
雪で登校している人が少なくて、です。
「休部って部長さんから言われました」
「それじゃあ」
「早いうちに帰った方がいいですか」
「君電車で通ってるんだよね」
「前にお話した通り」
「だったらね」
それならというのでした。
「早いうちに帰った方がいいよ」
「それじゃあもう帰ります」
「そうした方がいいよ」
「さもないと帰られなくなりかねないですから」
「その方が賢明だよ」
「この雪だとそうですね」
「それじゃあね」
先生はまた太田さんにお話しました。
「僕も今日は早いうちに帰るよ」
「先生もですね」
「だからインスピレーションを得ることも大事だけれど」
「お家に帰ることもね」
「大事だからね。早いうちにね」
「帰ります」
太田さんはすぐに答えでした、そのうえで。
先生にまたと挨拶をしてでした、そしてその足で八条駅まで向かいました。その太田さんを見送ってです。
先生は動物の皆と一緒に研究室に戻りました。一時から講義をして三時にティーセットを楽しみましたが。
もう講義はないのでお茶を飲んでティーセットも楽しんでからすぐにでした。
動物の皆とお家に帰りました、医学部の他の人に今日はもう帰りますとお話をして了承を得てからです。
幸い今日は大雪ですからねとその人も言ってくれてです、先生はお家に帰ることも認めてもらいました。
そうしてお家に帰るとでした、暖房の効いたお部屋の中でコタツに入りつつ窓の外の雪とその景色を見ながら。
おちょこの中にお酒を入れて飲んでいきます、先生は熱燗を飲んで梅干等を飲みながら一緒にいる動物の皆に言いました。
「この楽しみもいいね」
「うん、冬だね」
「日本の冬の楽しみ方だね」
「暖かいお部屋の中で熱いお酒を飲んで」
「それで雪景色を観る」
「コタツにも入ってるし」
「これも風流なのかしら」
動物も皆も先生と一緒に窓の外の銀世界を見つつ言います。
「お外は寒いけれどね」
「お部屋は暖かいし」
「お酒とお漬物は美味しい」
「最高の楽しみかしら」
「実際に楽しいよ」
先生のお顔はほんのり赤くなっています、見ればどてらも着ています。
「こうしているとね」
「日本の楽しみの一つを満喫して」
「それでにこにこしてるじゃない」
「日本に馴染んで」
「もう心から日本に親しんでいるわね」
「そうなったね。とにかくこうした楽しみはね」
どてらを着てこたつに入って日本酒を飲みながら雪景色を楽しむことはです。
「日本以外にはないよ」
「イギリスにもないしね」
「イギリスにはコタツも日本酒もないから」
「雪景色も少し違うし」
「そこはまた違う楽しみ方になるわね」
「畳もないからね」
先生は畳も観て言うのでした。
「これもね」
「そうそう、畳がないんだよね」
「畳も日本独自のもので」
「他の国にないから」
「他の国の建物にはね」
だからそれこそ特別に日本の建物を建てるかお部屋を造るかしかありません、畳を取り入れるのならです。
「こうした楽しみを味わえるのはね」
「基本日本にいてこそ」
「そういうものなのよね」
「これが」
「そうだよ、そしてその日本にいるからこそ」
先生はお酒を少しずつ飲みながらまた言いました。
「こうした楽しみも満喫出来るんだ」
「何かお酒どんどん飲んでいってるわね」
「そんなに美味しいんだね」
「今日のお酒は」
「うん、美味しいよ」
実際にというのです。
「どんどん飲めるよ」
「けれど晩御飯もあるから」
ガブガブはまるでお母さんみたいに先生に言いました。
「程々にね」
「何か一升瓶全部開けそうだけれど」
ダブダブは先生の飲んでいる勢いを見ています、トミーが温めた熱燗を飲んでいっています。
「せめて一升だけで終わってね」
「一升も相当だよ」
老馬から見てもです。
「それだけ飲むと」
「先生ってお酒飲む量多いけれど」
「それでも晩御飯のこともあるわ」
チープサイドの家族も先生に注意します。
「だからね」
「せめて一升ね、私達から見ても」
「そういえば梅干とかお漬けものはあまり食べてないわね」
ポリネシアは先生の食べている量を見ました。
「飲む方メインね」
「普段は飲んで食べてだけれど」
チーチーは先生の飲み方を知っています、先生はどちらかというとバランスよく食べて飲んで楽しむタイプなのです。
「今日は飲むのがメインだね」
「そうした気分なの?」
ホワイティは先生に間近からお顔を上げて尋ねました。
「今は」
「まあそんな時もあるかな」
「先生もね」
オソツオサレツは二つの頭で考えました。
「普段とは違って」
「そんな時もあるかな」
「それか景色が肴になってるのかな」
トートーはこう考えました。
「やっぱり」
「そんなことも言ってたね」
ジップは先生が午前中にお話していたことを思い出しました、そのうえで言うのでした。
「そういえば」
「うん、確かに肴はね」
先生は梅干を食べましたがそれは一粒でおちょこのお酒をどんどん飲んでいきます。
「今は雪景色になってるね」
「そうだよね」
「今の先生はね」
「そんな感じだよね」
「飲むのメインになってるよね」
「そうだね、景色もいいし」
それにというのです。
「お酒がかなり美味しくて」
「それでだね」
「どんどん飲めるんだね」
「今はそうなんだね」
「雪景色が肴になって」
「実際にそうなんだ、じゃあ一升飲んで」
そしてと言う先生でした。
「今日はこれで止めるよ」
「そうされた方がいいですね」
お代わりの熱燗を持ってきたトミーも言います。
「今日は」
「そうだよね」
「一升といっても相当な量ですよ」
「ボトル二本分以上あるからね」
「ですから」
「僕はお酒には強い方だけれど」
少なくともこのことは他の日本の人達に比べてかなり強いです。
「一升空けると」
「やっぱり相当ですよ」
「そうだよね」
「それに先生のお酒の量は」
「いつも日本酒だと一升だね」
「そうだね、ワインだと二本か三本で」
「ですからそれ位にされた方がいいです」
今日のお酒を飲む量はというのです。
「晩御飯もありますし」
「そうだね、そちらも食べないといけないね」
「今日の晩御飯もあったかいものにします」
「あっ、何かな」
「菜っ葉を揚げと煮て焼き鳥です」
「焼き鳥だね」
「ですがもうお酒は」
焼き鳥はお酒と合います、ですがそれでもというのです。
「今日はこれ位で」
「一升でだね」
「止めてです」
「夜は普通にだね」
「召し上がられて下さいね」
「じゃあそうさせてもらうね」
「はい、それでお酒がある程度抜けたら」
トミーは晩御飯の間のこともお話しました。
「お風呂入りますよね」
「そちらもね」
「そちらも楽しんで下さい」
「そうさせてもらうね」
先生は今も熱燗を飲んでいます、そうしつつです。
また景色を見てです、また言いました。
「こうして景色を見るといいね」
「それはその通りですね」
「トミーは今日は飲まないのかい?」
「お料理もしてますから」
だからだというのです。
「熱燗も温めて」
「それじゃあ夜に」
「焼酎を頂きます」
日本酒でなく、というのです。
「そうさせてもらいます」
「焼酎だね」
「この前酒屋さんで買いまして」
「ああ、お静さんの」
「はい、あのお店で買いました」
「お静さんも今日は飲むかな」
先生はここでお静さんのことも思うのでした。
「そうなのかな」
「いえ、お店の時間ですから」
「店番してるかな」
「そうだと思います、ですが」
「お店の後でだね」
「飲むかコタツだと思います」
「そういえば歌であるよ」
先生は飲みつつ日本のある歌を思い出しました、その歌はといいますと。
「猫はコタツで丸くなる」
「犬は喜びですね」
トミーはジップを見て応えました、今のジップは先生の傍で尻尾をぱたぱたと振りながら雪景色を見ています。
「日本のあの歌ですね」
「そう、あの歌みたいにね」
まさにというのです。
「コタツで丸くなってるのかな」
「そうかも知れないですね」
「いや、猫は暖かい場所が好きで」
「欧州じゃ暖炉の傍に集まりますけれど」
「日本ではコタツなんだね」
「そうですね」
「それもまた風情があるね」
先生はお静さんが猫又の姿に戻ってコタツの傍で気持ち良さそうに丸くなって寝ている姿を想像して言いました。
「日本独特の」
「それは確かですね」
「コタツはいいね」
「足を暖めてくれて風情もあって」
「こんないいものもないね」
「冬には」
「まさに魔性のものだよ」
こうまで言う先生でした。
「知ったら離れられない」
「外に出られない」
「そうしたものでもあるよ」
このことは少し苦笑いで言う先生でした。
「本当にね」
「それは事実だね」
「コタツって怖いよ」
「離れられないから」
「もうね」
「一旦入ったら」
「そう、そんなものだからね」
実際にと言った先生でした、皆に対しても。
「怖いよ、コタツは」
「実際に今先生も出られてないしね」
「僕達も離れられないし」
「そのことからも思うけれど」
「コタツは魔力があるね」
「人を離さないものが」
「日本人はとんでもないものを作ったよ」
先生はこうまで言いました。
「冬のコタツはもうね」
「入ると離れられない」
「確かにとんでもないね」
「僕達も参るよ」
「こんな怖いものはないね」
「冬には最高だけれど最も怖い」
「それがコタツだよ」
皆コタツから離れずに言います、いつも先生と一緒にいますが今はコタツからも離れられないでいるのです。
それで皆こう言うのでした。
「何とか離れないといけなくても」
「辛いね」
「今回は離れられるかな」
「どうにかして」
「晩御飯まではいいよ」
トミーは動物の皆に笑顔でお話しました。
「それまでは」
「あっ、ここにいていいんだ」
「コタツの中に」
「そうしていいんだ」
「晩御飯までは」
「うん、そうしてね」
今も笑顔で言うトミーでした。
「皆先生と一緒にいてね」
「じゃあ僕もね」
「はい、先生もです」
「晩御飯まではここにいるよ」
「そうして飲まれるんですね」
「飲んでからもね」
一升空けてもというのです。
「そうしているよ」
「そうですか」
「ただ。かなり飲んだから」
それでというのです。
「おトイレが近いだろうね」
「熱燗でもですね」
「お酒を飲むとそうなるからね」
「どうしてもですね」
「その時はね」
「絶対に行かれて下さい」
おトイレはとです、トミーも答えます。
「是非」
「そうさせてもらうね」
「足元大丈夫ですよね」
「言葉の調子は普通だね」
「至って」
「じゃあ大丈夫だよ」
歩く方もというのです。
「安心してね」
「それじゃあ」
「いや、雪景色もいいけれど」
先生はまた窓の外の雪、まだ降り続いているそれを見てこうも言ったのでした。
「梅干もいいね」
「さっきから一粒召し上がられてからですね」
「飲んでるね」
「そうしてますね」
「梅干が合うんだよ」
日本酒にというのです。
「これが随分とね」
「そういえばおつまみでもありますね」
「あっさりしていて美味しいよ」
「そうなんですね」
「戦国大名の上杉謙信がこうして飲んでいたらしいよ」
「梅干を食べながらですか」
「あの人は随分とお酒が好きでね」
それでというのです。
「そうして飲んでいたらしいよ」
「そうだったんですね」
「今でも新潟では英雄だよ」
「あちらの人でしたね、そういえば」
「そう、あそこは昔は越後といったんだ」
新潟の昔の地名のお話もします。
「そこから戦いに勝って勝って勝ち続けた」
「とにかく戦争に強かったんですか」
「軍神と言われるまでにね」
「そうした人だったんですか」
「とにかく強くてそれでいて清廉潔白でね」
上杉謙信の人柄についてのお話にもなりました。
「正義感が凄く強くてそれでいて寛容でね」
「いい人だったんですね」
「だから今でもその人柄も言われているんだ」
戦での強さだけでなく、というのです。
「そちらもね」
「そうした人ですか」
「それでその謙信さんがね」
「梅干を肴に飲まれていた」
「そうだったんだ」
「そして先生も今はですね」
「梅干と一緒に飲んでいるんだ」
他のお漬けものもありますが一番口にしているのは梅干です。
「こうしてね」
「じゃあ謙信さんみたいに強くなりますか?」
「いやいや、僕は戦わないよ」
先生はトミーの冗談に笑って返しました。
「軍人さんの怪我や病気は診察、治療させてもらってもね」
「銃は持たれないですか」
「戦争は好きじゃないして」
「沢山の人が傷付くからですね」
「しなくてはいけない時もあるのはわかっているつもりにしても」
「どうしようもない時以外はですね」
「しないに限るよ」
戦争というものはというのです。
「僕はそうした考えだよ」
「そうですよね、先生は」
「本当にないに限るよ」
戦争というものはというのです。
「何につけてもね」
「好戦的なのはよくないですね」
「それが僕の考えだよ」
戦争に対する、です。
「謙信さんは正義を信じて戦っていたけれどね」
「それでいて寛容な人だったんですか」
「無闇な血を好まないね」
「正義を信じるからこそ残酷な人もいましたが」
「敵に対しては」
「それが出来た人だから」
謙信さんはというのです。
「凄いね」
「そうした人は本当に立派ですね」
「己の責務を常に頭に置いて毅然として戦っていたんだ」
「残酷なこともしないで」
「そして戦えば必ず勝つ人だったんだよ」
「そう聞くと格好いいですね」
「そうだね、だから新潟では今も英雄なんだ」
あの県のというのです。
「甲斐、今の山梨の武田信玄さんとも激しく戦ったよ」
「信玄さんは僕も聞いています」
「あの人も格好いいね」
「山梨から来た友達が熱心に話していました」
「地元の英雄だからだね」
「戦に強くて政治も立派で家臣達をよくまとめていた」
そのお友達は信玄さんをこう言っていたというのです。
「凄い人だったって」
「山梨では今も英雄で」
「もう熱く語っていました」
「日本はそうした英雄が多いみたいだね」
「それぞれの場所のですね」
「うん、兵庫にもいるしね」
「戦国大名がですか」
「ここは黒田官兵衛さんがいたね」
先生はこの人の名前を出しました。
「領地は九州の方に移ったけれど」
「ええと、豊臣秀吉さんの軍師だった」
「そう、あの人は播磨今の兵庫県の出身だからね」
「この兵庫の英雄ですか」
「そうなるよ、あと江戸時代だと赤穂だね」
「赤穂浪士ですね」
赤穂と聞いてです、トミーもすぐにわかりました。
「あの人達ですね」
「英雄、ヒーローかな」
「忠義のですね」
「そのヒーローになるかな」
先生は英雄とヒーローを分けて言いました、この時は。
「あの人達は」
「そうなりますか」
「どちらかというとね」
「四十七士はヒーローですか」
「僕はそう思うよ」
「英雄とヒーローの違いって何?」
「何かな」
動物の皆はそこに考えを及ばせました。
「一体」
「日本語と英語の違い?」
「それだけじゃないの?」
「そうなんじゃ」
「いやいや、ヒーローは勧善懲悪というかそうした感じでね」
先生は動物の皆にお話しました。
「英雄は将軍とか政治家とか」
「そういうので業績を残した人なんだ」
「そうした人が英雄なんだね」
「それで悪い奴をやっつけたのがヒーロー」
「そう言うんだ」
「そうだよ、まあ赤穂浪士が討った吉良さんは本当はいい人だったらしいけれどね」
先生はこのことも学問から知っています、今では下手な日本人よりも日本の歴史に詳しい位だから凄いです。
「それでもあの人達はそちらになるから」
「自分達のお殿様の仇を取った」
「そうした人達だからだね」
「ヒーローになる」
「そちらなんだ」
「そう思ったよ、まあとにかくね」
あらためて言った先生でした。
「梅干と日本酒の組み合わせもいいね」
「それで一升飲まれて」
「後は晩御飯までゆっくりとしているよ」
またトミーに答えました。
「今は論文も予定通り進んでいるしね」
「だからですね」
「うん、ゆっくりとしているよ」
お酒を飲んだ後もというのです。
「そうするよ」
「雪見酒の後は」
「雪見だよ」
それになるというのです。
「普通のね」
「そう言うと風流ですね」
「ううん、僕も風流を楽しんでるのかな」
「そうだと思いますよ」
「だとすればいいね、イギリス人でもね」
生まれたお国は違えど、です。
「風流を楽しめるのはいいね」
「日本におられるからこそ」
「こうしてね」
「先生は四季はいつもそうされていますね」
「そうだね、お花も景色も楽しんで」
「食べることも飲むことも」
「そうしているからだね」
こう言うのでした、先生も。
「僕も風流だね」
「その中におられますよ」
「それは何よりだよ。歌や絵とは縁がないけれど」
先生はそちらとは縁がないです、芸術を学びはしますが実際にすることはしないのです。
「風流に親しんでいくよ」
「そうされますね」
「これからもね」
「そうですか、ではお酒の後も」
「これからl暗くなるけれど」
夜が近付いています、日本の冬は夜がすぐに来ます。
「それでもね。お部屋の灯りから雪を観て」
「ライトアップですね」
「そうして楽しんでいくよ」
「それじゃあ」
「晩御飯まで雪見だよ」
動物の皆と一緒にです、そうしてでした。
先生は実際にお酒の後も雪見を楽しむのでした。先生もすっかり日本の風流に馴染んでいます。風流の中に生きるまでに。
どうやら雪みたいだな。
美姫 「寒そうね」
だな。でも、だからこそ炬燵や熱燗が。
美姫 「先生も楽しそうだしね」
のんびりした感じだな。
美姫 「太田さんの方も雪で刺激を受けたみたいだしね」
これでスランプから抜けれると良いけれどな。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。