『ドリトル先生と悩める画家』
第四幕 研究室に来て
先生は論文をどんどん書いていきます、書くのは速いのか研究室に来た王子にこんなことを言いました。
「数日中にね」
「今書いている論文もだね」
「書き終わるよ」
脱稿するというのです。
「そうなるよ」
「速いね」
王子は研究室のテーブルの席に座っています、そこでいつも通り傍に立って控えている執事さんに淹れてもらった紅茶を飲んでいます。
「いつもながら」
「うん、書くとなるとね」
パソコンのキーボードにどんどん打ち込んでいっています。
「速いんだ、昔からね」
「慣れてるからかな」
「何しろ学生時代からね」
イギリスにいたその頃からです。
「文章を色々書いてきたからね」
「学問としてね」
「うん、だからね」
それでというのです。
「書くのは速いんだ」
「調べることもだね」
「読んだりすることもね」
学問の本や資料をです。
「実際に速いね」
「そうなんだね」
「やっぱり学生時代からそうしているとね」
「速いんだね」
「慣れているからかな、思えばね」
先生が思い出すことはです。
「医学も文学も法学も哲学もね」
「色々な学問でなんだね」
「博士号の論文も書いてね」
「そうした論文も速くなんだ」
「書いたよ」
「やっぱりそうなんだ」
「書くのはね」
本当にというのです。
「速いから一年の間に博士号の論文もね」
「どんどん書いたんだ」
「それで博士号を幾つも貰ったよ」
「それは凄いね、博士号なんてね」
それこそと言う王子でした。
「一つ貰うだけでも凄いのに」
「そう言われているね」
「それを幾つもだからね、先生は」
しかも文系理系問わずです、先生にとって学問は文系も理系も同じだけ重要です。どちらが偉いとは全く思っていません。
「凄いよ」
「そうかな」
「僕なんて論文一つ書くにもね」
それこそというのです。
「一苦労だから」
「あれっ、けれど王子は」
「うん、大学は一つ卒業しているよ」
「イギリスの大学をね」
「そこで論文を書いたじゃないか」
「だからその書くことがね」
王子にとってはというのです。
「一苦労なんだ」
「そうなんだね」
「うん、先生みたいに論文を量産出来るって」
それこそというのです。
「そうそうないから、ましてね」
「まして?」
「幾つもの学問の論文を書いてるよね」
「僕の興味がある学問は多いからね」
「そうしたこともね」
「ないんだね」
「普通はいないよ、博士号を幾つ持っているのか」
他の人が驚く位持っています。
「そんな人もそういないし、先生は学問の天才だね」
「天才かな、僕は」
「万能選手というか、これでね」
王子はこのことは苦笑いと一緒に言いました。
「恋愛について少しだけでも素養があれば」
「王子もそのお話するんだ」
「するよ、いい人がいるんじゃない?」
さりげなく日笠さんのお話もします。
「その人とね」
「結婚をっていうんだね」
「したら?先生ならいい家庭築けるよ」
「だから僕はお友達と家族には神様のご加護があってもね」
「恋愛にはだね」
「ないからね」
全くの無縁だというのです。
「だからね」
「結婚はっていうんだね」
「もてないからね、生まれてから」
「ふうん、気付いてないだけじゃないの?」
王子もわかっています、このことは。
「子供の頃から」
「いやいや、本当にそうだよ」
「実はいつも誰かに好かれていたとか」
「ないない、絶対にないよ」
心からです、先生はこう考えています。
「僕が女の子、女の人からもててるって」
「絶対に?」
「ないよ、昔からね」
「そうかな、まあ気付いたらね」
王子はまた日笠さんのことをさりげなく言いました。
「先生も動いてね」
「だからそんなことは絶対にないのに」
「あるかも知れないから」
こう言う王子でした、そんなお話をしてです。
先生は論文を書くのでした、それが一段落してでした。王子のところに来て先生も紅茶を飲むのですが。
その先生にです、動物の皆が言ってきました。
「ああ、今日もだね」
「ウィンナーティー飲むのね」
チープサイドの家族が最初に言いました。
「この前も飲んでたし」
「結構気に入ったみたいね」
「生クリームも紅茶も合うのね」
ガブガブも言います。
「その組み合わせも」
「考えてみれば生クリームもミルクだし」
トートーはこのことから考えました。
「ミルクティーになるね」
「そういえばそうね、ウィンナーティーもミルクティーね」
ポリネシアはトートーのその言葉に頷きました。
「そうなるわね」
「そう思うと先生が好きなのも当然かな」
老馬は先生がミルクティーが一番のお気に入りのお茶であることから言いました。
「ミルクティーになるのなら」
「そうだね、ミルクティーならね」
ジップも言います。
「先生が嫌いな筈がないよ」
「じゃあそのウィンナーティーを飲んで」
チーチーはその飲む先生を見ています。
「一服してだね」
「また論文を書く」
ホワイテイィはパソコンの画面の書きかけの論文を見ました。
「そうするんだね」
「何だかんだで先生も働いてるね」
ダブダブの口調はしみじみとしたものでした。
「講義に論文にってね」
「そうそう、日本に来てからね」
「先生何かと働く様になったね」
最後にオシツオサレツが二つの頭で言いました。
「大学の教授さんになって」
「そうなったね」
「うん、お給料もいいしね」
先生もそのウィンナーティーを飲みつつ言います。
「僕の生活はかなり変わったよ」
「何か僕が勧めてだったけれど」
王子は先生に日本に来てはと勧めたその時のことを思い出しました、王子が飲んでいるのはレモンティーです。
「先生にとってかなりよかったみたいだね」
「うん、何もかもがね」
「先生にとってだね」
「いいみたいだね」
実際にというのです。
「いや、本当に」
「それは何よりだね」
「学問を好きなだけ出来て美味しいものは一杯あって」
「日本にはね」
「本も沢山ある国だからね」
日本、この国はというのです。
「英訳の本も手に入るし」
「あれっ、そうなんだ」
「そうした本屋さんに行けばね」
ちゃんというのです。
「ネットでも買えるけれどね」
「そうした本屋さんに行けば」
「イギリスで英語以外の本を探すよりもね」
「楽になんだ」
「英語の本も手に入るよ」
「それは知らなかったよ」
王子もでした。
「それはね、けれどね」
「それならだね」
「僕もそうした本を読んでみようかな」
「そうしたらいいよ」
笑顔で答えた先生でした。
「英語の本にも素晴らしい本が多いからね」
「だからなんだよね」
「うん、読んでね」
そしてというのです。
「楽しめるよ」
「それじゃあね」
「そう、読んでね」
「僕も楽しむよ」
「英語でしかない本もあるからね」
「そうそう」
「日本語でいしかないものもあれば」
このことはそれぞれの言語で同じです。
「英語だけのものもあるんだよね」
「それぞれの言語を知ってるとね」
「楽しむが増えるよ」
「知っているだけだね」
「そういうことだからね」
「うん、じゃあ行ってみるよ」
そうした本屋さんにもとです、王子は言いました。
「是非ね」
「紹介しようか」
「そうしてくれる?」
「うん、関西だとね」
先生は実際にです、王子にそうした本がある本屋さんを紹介しました。そしてその紹介の後で王子はまた笑顔で言いました。
「よし、じゃあね」
「行くんだね」
「今度のお休みの時でもね」
「そうしてね」
「何か面白い本があれば」
英語のです。
「読むよ」
「それじゃあね」
「日本だとね」
あらためてです、王子は今自分達がいるお国のお話をしました。
「文学と漫画がね」
「その二つがなんだ」
「いいね、最近ライトノベルも読んでるんだ」
「ああ、ラノベだね」
「面白い作品が多いね」
「僕も読んでるよ」
先生はライトノベルについても笑顔で答えました。
「これはって思った作品はね」
「読んでるんだ」
「そうしているよ」
「漫画もだね」
「勿論だよ」
「そしてそうしたものもだね」
「学問だよ」
先生はこう考えているのです。
「ライトノベルも漫画もね」
「そうなんだね」
「そう、何か低く見る人もいるけれど」
「違うんだね」
「侮ることなかれだよ」
先生は格言めいた言葉も出しました。
「何事も」
「そういうことだね」
「そう、ライトノベルや漫画は素晴らしいよ」
「ネットでも最近多いよね」
「ネットのものも面白いよ」
その中にある多くの小説や漫画もというのです。
「そして学問なんだ」
「そうしたものも」
「何かテレビに出ている漫画家さんでスマホのゲームを馬鹿にしている人がいるけれど」
「そうした人はだね」
「間違っているよ、いいものはいいんだ」
はっきりと言った先生でした。
「ネットにあるものもね」
「というか日本のテレビってネットを嫌うね」
「それもかなりね」
「そうしたテレビで言ってる人ってどうかって人が多いけれど」
「そうした人はすぐにネットで批判されるから」
「だからテレビに出てる人はネットを嫌う人が多いんだ」
「中には書き込みを有料にしろとか言う人もいたよ」
自分が批判されるからでしょうか。
「僕はそれは間違ってると思うよ」
「誰もが自由に書き込めるのがいいからね」
「玉石混交でもね」
「それがいいんだよね」
「そこからいいものを見出す」
「そのことも大事だね」
「あらゆることでそうだけれど」
それと共にというのです。
「ネットでも然りだよ」
「そういうことだね」
「そうだよ」
先生は王子とそうしたお話をしていました、そして王子が研究室を後にしてご自身の講義を受けに行くとでした。王子と入れ替わりにです。
太田さんが来ました、太田さんは扉をノックしてから先生にどうぞという言葉を受けて先生に一礼して中に入りました。その太田さんにです。
先生は笑顔で、です。その太田さんに言ってきました。
「来てくれたんだね」
「はい、お邪魔しました」
「うん、それでここに来た理由は」
「絵のことです」
それでというのでした。
「それでお邪魔しました」
「そうだね、やっぱり。それじゃあね」
「それじゃあ?」
「まずは座って」
席にというのでした。
「立ったままでお話をするのもね」
「それもですか」
「君が疲れるし落ち着かないから」
太田さんがというのです。
「だからね」
「それで、ですか」
「まずは座って。お茶も飲んで」
「お茶もですか」
「何がいいかな、コーヒーもあるよ」
「コーヒーあるんですか」
「インスタントだけれどね」
こちらのコーヒーがあるというのです。
「それがね」
「それじゃあ」
「コーヒーだね、ミルクがいいかな。それとも生クリームかな」
「ウィンナーコーヒーですね」
「それも出せるけれど」
「実は僕ウィンナーコーヒーが好きで」
「あっ、そうだったんだ」
先生は太田さんの言葉に応えました。
「それじゃあね」
「ウィンナーコーヒーを淹れるよ」
「僕が淹れさせてもらいます」
「いやいや、皆が淹れてくれるから」
「皆?」
「彼等がね」
動物の皆を指し示して言うのでした。
「そうしてくれるよ」
「動物がですか」
「彼等がね」
「そういえば先生はいつもこの動物達と一緒ですね」
「家族だからね」
先生は太田さんににこりと笑って答えました。
「講義や手術の時以外はね」
「いつもですね」
「一緒だよ」
実際にとです。
「そしてその彼等がね」
「こうしてですね」
「お茶も淹れてくれるんだ」
「そうなんですね」
「だからね」
「今からですね」
「コーヒーを淹れてくれるから」
太田さんのそれもというのです。
「少し待っていてね」
「凄いですね」
「動物が淹れてくれることがだね」
「はい、信じられないです」
「コツがあるんだよ」
「動物がお茶を淹れる」
「それがあるんだ、だからね」
「今からですね」
「太田君は彼等が淹れたコーヒーを飲んでね」
「そうさせてもらいます」
太田さんも応えてでした、そしてです。
太田さんは実際にです、皆が淹れてくれたウィンナーコーヒーを飲みました。黒いコーヒーの上に生クリームをたっぷり淹れたそれを。
それを飲んでです、太田さんは笑顔で言いました。
「美味しいです」
「そうなんだね」
「はい、これを一杯飲みますと」
ウィンナーコーヒー、それをというのです。
「ぱっと目が覚めます」
「そうなるんだね」
「それで元気が出ます」
「コーヒーの中にはカフェインが入っているからね」
「そのせいで、ですね」
「目が覚めて元気が出るんだよ」
「覚醒作用だよ」
先生は紅茶を飲みつつ太田さんにお話しました。
「お茶もそうなんだよね」
「カフェインが入っているから」
「そう、僕もお茶を飲んでね」
「目を覚ましてるんですね」
「そうした意味でもよく飲んでるよ」
お茶をというのです。
「そうしているんだ」
「そうですか」
「味も好きだけれどね」
「そうした意味でも好きなんですね」
「そうだよ」
「僕もです、コーヒーを飲んで」
そしてというのでした。
「また描きます」
「絵をだね」
「そうします」
「今日もそうするんだね」
「はい、確かにスランプですが」
それでもと言う太田さんでした。
「僕は描きます」
「これまで通りだね」
「スランプだからこそですかね」
「描くんだね」
「そうした気持ちもあります」
「太田君は前向きだね」
先生は太田さんのその気質を知って言うのでした。
「その前向きさは素晴らしいよ」
「そうですか」
「うん、スランプだとね」
先生はよく言われることを思い出してこうも言いました。
「塞ぎ込んで何もしたくないっていう人もいるらしいから」
「はい、よくあるお話ですね」
「けれど君は違うんだね」
「確かに苦しいですし描きたくないって思ったりもします」
太田さんは自分の気持ちを正直にお話しました。
「ですが」
「それでもだね」
「はい、そうした時にこそです」
「描く様にだね」
「そうしています」
「その前向きさがね」
先生は太田さんにまた言いました。
「いいんだよ」
「そうですか」
「そう、それだけでもかなり違うよ」
本当にというのです。
「僕はそう思うよ」
「あがけるだけあがけ」
太田さんはこうも言いました。
「中学の時先生にそう言われました」
「スランプの時はだね」
「はい、美術部の先生に」
「それで描いてるんだね」
「そうしています」
「こうした時こそ」
「そうです、けれど」
太田さんはコーヒーカップを片手にしていますが今は飲んでいません、自分のことをお話することに集中していてです。
「これが中々」
「抜け出られないね」
「そうなんですよ」
「前にもスランプにかかったことは」
「あります」
「あるんだね」
「はい、そうでした」
このこともです、太田さんは先生にお話しました。
「高校二年の時に」
「今みたいにだね」
「思う様な絵が描けていない、描いても描いてもこうじゃない」
「そう思ったんだね」
「どうしても」
「高校二年の時はだね」
「そんな時期がありました」
「じゃあ聞くよ」
先生はここで太田さんに穏やかな声で尋ねました。
「その時はどうして抜け出たのかな」
「スランプからですね」
「うん、どうだったのかな」
「はい、何か」
「何か?」
「気付いたら抜け出ていました」
スランプからというのです。
「自分でも描いて描いてです」
「描いてだね」
「そうしているうちにです」
「抜け出ていたんだね」
「そうしていました」
「そうなんだね、だからだね」
「はい、今もです」
今のスランプの時もというのです。
「そうしています」
「描いて」
「そうしていっています」
「中学の時の先生の言葉を思い出してだね」
「描いていまして」
「それで抜け出たんだね」
「そうなりましたから」
また言う太田さんでした。
「今回もそうしていますけれど」
「抜け出られないんだね」
「前回以上に苦労しています」
高校二年のスランプの時以上にというのです。
「本当に」
「そうなんだね」
「苦しくて仕方ないです」
太田さんは今の偽らざる心境もお話しました。
「抜け出たいのに抜け出られない」
「それがだね」
「苦しいです」
「前は描いて抜け出た」
「それが出来ました、美術館にも通って」
「今回みたいにだね」
「美術の本も読んでです」
勉強もしてというのです。
「そうしています」
「本当に前向きだね」
「起きてから寝るまで」
まさにというのです。
「食事とお風呂、そしてトイレの時以外は」
「描いてだね」
「勉強してです」
そうしてとにかく絵に向かってというのです。
「やっていっています」
「動き続けるんだね」
「鮫みたいに」
いつも泳いでいるこの魚みたいにというのです。
「そうしているつもりです、鮫は寝ている時もですが」
「うん、鮫は泳ぎを止めないよ」
「そうですね、そこは違いますが」
それでもというのです。
「とにかく脇目も振らない感じで」
「絵に向かい合っているね」
「そうしています」
「わかったよ、ただ講義は」
「出ています」
大学生としてのそれは忘れていないというのです。
「やっぱり出ないといけないですから」
「そうだね」
「単位も取っています」
そちらも忘れていないというのです。
「高校時代もそうでした」
「授業にだね」
「出ていました」
「それは忘れていないんだね」
「それで休み時間はです」
高校の時のそれもというのです。
「忘れないで」
「出てだね」
「テストも受けていました」
「前のスランプの時期はどれ位だったのかな」
「ええと、二ヶ月か」
「それ位だったんだね」
「今も二ヶ月です」
スランプに入ってというのです。
「それ位です」
「二ヶ月だね」
「そうです」
「そのこともわかったよ、あとね」
「あと?」
「今は冬だけれど」
先生は季節のお話もしました。
「寒いね」
「前回のスランプの時期は」
「何時だったかな」
「前は梅雨でした」
「六月だね」
「五月から六月でした」
その時期だったというのです。
「雨が多かったのを覚えています」
「季節が関係しているのかな」
「季節ですか」
「人間はどうしても気温が気候が精神状況に影響するんだ」
お医者さんとして言う先生でした。
「だから曇ったりしていると」
「気も晴れないんですか」
「うん、だからね」
「僕のスランプも」
「梅雨と冬では気温は違う、けれどね」
先生はお医者さんとしてお話しました。
「空は曇っているね」
「どちらの季節も」
「日本ではね、それも関係しているかな」
「曇りですか」
「そうかもと思ったよ」
「それは」
太田さんは先生のそのお言葉に驚いていました。
「今まで」
「気付かなかったかな」
「はい、どうも」
「他にもあるかも知れないね」
「スランプの原因は」
「精神的なものにね」
影響するそれがというのです。
「そこも気になるね」
「原因は一つとはですか」
「限らないからね」
だからというのです。
「そこが人間精神の難しいところなんだ」
「そうなんですね」
「うん、どうなのかな」
先生は考えるお顔のまま太田さんに言いました。
「実際のところ」
「まだはっきりしないですか」
「そこはね、ただね」
「ただ?」
「日が当たる場所にいるとね」
そうすればとです、先生は太田さんにお話しました。
「それだけで全然違うからね」
「精神的にですか」
「鬱病の人も朝から太陽の光を当たるとね」
「全然違うんですね」
「そうなんだ」
「鬱病は治りにくいっていいますけれど」
「そうだよ、けれどね」
それがというのです。
「朝日を浴びるとね」
「それだけで、ですか」
「全然違うんだ」
「それじゃあ僕も」
「外で描いているのを見たけれど」
昨日のことです。
「それはいいことだね」
「塞ぎ込まないからですか」
「スランプでもね」
「そうだったんですね」
「うん、ただ本当に日の光はね」
それはとです、また言った先生でした。
「浴びるべきだよ」
「そういうことですね」
「見れば君はよく外で描いてるね」
「わかりますか?」
「日に焼けた顔をしているからね」
見れば決して青白くはありません、むしろ結構日に焼けた感じです。それはお肌も同じです。
「それは地の色じゃないね」
「元々は色白です」
「それだけ外で描いているということだね」
「風景画も描いてますから」
「だからだね」
「はい、こうしてです」
まさにというのです。
「日にも焼けています」
「それはいいことだよ」
「やっぱりそうですか」
「日に当たることはね」
「スランプを抜け出る為にはね」
「そのことも関係していたんですね」
「そうだよ、スランプと欝病は似ている場合もあるからね」
先生の考えるところではです。
「そうした時こそね」
「外に出る」
「あと描くこともね」
「いいんですか」
「それだけ身体を動かして頭も使って塞ぎ込むことがないからね」
だからというのです。
「描くことに神経が集中するね」
「はい、そうなります」
「それもいいんだ」
「僕みたいに描くことも」
「そうだったんだ」
「そうですか」
「いいことだよ、だから今回もね」
外に出たり描くことはというのです。
「いいよ」
「それじゃあ」
「ただ、休みたいとね」
「そう思ったらですか」
「休むこともいいよ」
そちらもというのです。
「疲れきって寝るまですることもいいけれど」
「休むこともですか」
「そうしたいならね」
「いいんだね」
「そうだよ、君が思う通りにね」
「成程、そうなんですね」
「縛られない、自由に思うことも」
そうしたこともというのです。
「いいんだ」
「描かないといけないということも」
「ないよ、安心してね」
「わかりました、そうします」
太田さんは先生に答えました。
「自由にしていきます」
「そうしないといけないとはね」
「思うことはですね」
「かえってよくないんだ」
「スランプの時は」
「好きだから描く」
「そう考えることですね」
先生にです、太田さんは応えました。
「じゃあ先生の言われる通り」
「そうしていってね」
「とりあえずは、あと」
「あと?」
「また何かあればお邪魔していいですね」
「うん、いいよ」
先生はここでも微笑んで答えました。
「何時でもね」
「それじゃあ」
「僕が研究室にいる時にね」
「お邪魔させてもらいます」
「そういうことでね」
「じゃあ講義がありますので」
「うん、今からだね」
「コーヒーご馳走様でした」
見れば何時の間にです、太田さんはウィンナーコーヒーを飲み終えました。そしてそのうえでなのでした。
先生に深々と頭を下げてから退室しました、先生は太田さんを研究室のドアのところまで見送りました。そのうえで席に戻りましたが。
その先生にです、動物の皆が尋ねました。
「先生、いいかな」
「何かな」
「頑張れとは言わなかったね」
最初にダブダブが尋ねました。
「そうだったね」
「そういえばそうね」
ポリネシアもそのことに気付きました。
「一度も」
「そうそう、励ましていたけれど」
ジップも言います。
「具体的な言葉は言わなかったね」
「日本語ならではの言い回しだったわね」
ガブガブはこう言いました。
「遠回しの」
「英語以上にそうだったね」
「ええ、そうね」
チープサイドの家族も言います。
「日本語を上手に使って」
「太田さんを上手に励ましたわね」
「先生の日本語も上手だったけれど」
トートーはもう日本語を日本人並に操っている先生のそのことに流石だと思いつつ述べるのでした。そのうえで。
「遠回しな励ましに徹してね」
「上手に太田さんの状況も聞いてたね」
チーチーはお医者さんとしての先生について言及しました。
「あれがよかったかもね」
「うん、それで太田さんもね」
ホワイティも言います。
「元気になって帰ったわね」
「まだ何かありそうだけれど」
老馬はこのことも感じていました。
「けれどね」
「かなり楽になったことはね」
「確かだね」
オシツオサレツも感じています、このことは。
「太田さんも」
「先生とお話が出来て」
「さっきも言ったけれどね」
あらためて言った先生でした、皆に。紅茶はさっきの紅茶は飲んで二杯目を飲んでいます。そのうえでのお話です。
「スランプと鬱病は似ている場合もあるんだ」
「ああ、さっき言ってたね」
「そういえばそうだったわね」
「だからなんだ」
「あの言い回しだったんだ」
「うん、頑張れともね」
この言葉もというのです。
「言わなかったんだ」
「あえて?」
「そうだったんだ」
「あえて言わずに」
「そうしていたの」
「日本語は実際にね」
先生は今は動物の皆とお話していますがこの国の言葉のお話もしました。
「婉曲な物言いが発達してるからね」
「こうした時はなんだ」
「便利なんだ」
「そうなんだね」
「あの時もそうしてお話していたんだ」
「鬱病の人には頑張れとは言ったらいけないからね」
このことも言ったのでした。
「言葉も選んでいたよ」
「日本語の言葉を」
「そうしてたんだ」
「お医者さんとしてお話していて」
「注意していたんだ」
「うん、太田君もね」
あの人のこともお話するのでした。
「かなり楽になったみたいだね、ただ」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「何かあったの?」
「それで」
「うん、まだスランプの原因がありそうだね」
このことも感じ取っているのでした。
「だから今回のスランプ脱出にはね」
「まだだね」
「まだ時間がかかりそうなんだね」
「これからも」
「そうなんだね」
「そうだと思うよ」
こうも言うのでした。
「だからね」
「まだなのね」
「太田さんのスランプについては」
「これからなんだね」
「まだまだ安心は出来ないんだ」
「そうだよ、ただかなり前向きだし」
スランプだからこそ描くというその行動を見ての言葉です。
「それに外にも出てるし汗もかいてるし日常生活も送ってるし」
「そんなに酷くない?」
「そうなんだ」
「美術館にも通ってるしね」
先生はこのことも指摘しました。
「勉強して自分からスランプを抜け出ようとしてるから」
「前向きだから」
「だからそこは安心出来るんだ」
「スランプでも」
「そう思うよ、欝みたいなスランプだとね」
どうしてもというのです。
「抜け出るのが難しいんだ」
「欝と同じで」
「それじゃあなんだ」
「抜け出るのが難しいんだね」
「その場合は」
「どうしてもね、けれど太田君は本当に前向きで活動的だから」
とにかくこのことがいいからというのです。
「欝みたいなスランプよりかなりいいよ」
「その場合より簡単に抜け出られる」
「そうなんだね」
「じゃあ先生もだね」
「手助けしやすいんだね」
「その分ね、多分だけれど」
これが先生の見立てです。
「いけると思うよ、特に天候が関係しているみたいだから」
「あっ、そんなことも話してたね」
「お天気のこともね」
「冬とか梅雨とかね」
「そんなことをお話していたわね」
「そう、イギリスでも日本でも冬は天気が悪いね」
そういう日が多いとです、先生は指摘しました。
「まあイギリスは普段からね」
「そうそう、雨が多くてね」
「霧も多いしね」
「ロンドンなんか特にね」
「霧が出たら凄いから」
「雨だけじゃなくて」
「霧のロンドンエアポートとかね」
先生は笑って言いました。
「もう凄いからね」
「手を伸ばして手首から先を見たら見えない」
「そんな感じだからね」
「あの霧は忘れられないわ」
「雨の多さも」
「それと比べたらね」
日本のお天気はというのです。
「かなりいいと」
「晴れが多いわね」
「まあ日本も雨が多いけれど」
「台風も来るしね」
「それがあるけれど」
「イギリスよりは雨の日が少ないね」
そうだというのです。
「このことも太田君にとっていいかな」
「そうかも知れないね」
「それじゃあね」
「そのお天気のことも考えて」
「そのうえでだね」
「太田さんのスランプ脱出を助けさせてもらうのね」
「そうさせてもらうよ、何か今回は」
ここで気付いた様な笑顔になって言う先生でした。
「お医者さんらしいかな」
「ああ、どうも最近先生お医者さんってことしてなかったからね」
「講義とか以外にはね」
「こうしたカウンセリングみたいなこともね」
「やってなかったね」
「だからそこも気になったよ」
こう動物の皆にお話するのでした。
「じゃあ今回はお医者さんとしてね」
「やっていくのね」
「何か動物学者とかそうしたことでやることが多かったけれど」
「それでもだね」
「今回はお医者さんね」
「その立場でやっていことになりそうだね」
笑顔でお話するのでした。
「では絶対にね」
「太田さんのスランプを抜け出る」
「その手助けをさせてもらうんだね」
「じゃあ及ばずながら私達も」
「お手伝いさせてもらうね」
「頼むね、今回も」
先生は皆の声も笑顔で受けました。
「大変だろうけれどね」
「それでもね」
「ちゃんとやっていきましょう」
「何があるかわからないけれど」
「最後の最後まで」
「そう、人は絶対に見捨てたり切り捨てない」
先生はご自身の信条の一つも言葉に出しました。
「それは人として間違ってるからね」
「それも先生のいいところだよ」
「そうしたことは絶対にしないから」
「人を見捨てることも切り捨てることもしない」
「そのこともね」
「そういうことは人として間違ってるからね」
だからというのです。
「しないからね」
「そんな先生だからね」
「皆が慕うんだよね」
「他の人にそんなことしないから」
「絶対にね」
「そうされたら嫌だよね」
見捨てられたり切り捨てられたらです。
「だからしないよ、裏切ることもね」
「そうした人だからね」
「だからこそ僕達も一緒にやっていってるからね」
「一緒に暮らしてるね」
「そうしてるんだよね」
皆は先生のそうしたところも慕っているのです、そうしたお話もしてでした。先生は皆と一緒に太田さんのスランプ脱出の手助けをしようというのでした。
太田さんが先生の下へ。
美姫 「助言は出来たけれど」
そう簡単にはいかないだろうな。
美姫 「先生はこれからどうするのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。