『ドリトル先生と沖縄の蛇達』
第十幕 奄美大島で
次の日先生達は久米島に来ました、この日もヨットで本島から朝早くに出発してです。
そして島に着いてそこの森に入ってでした、今度はこの島にいるハイ達とお話をしました。
「そういうことでね」
「うん、じゃあね」
「私達が移住するわ」
二十匹のつがいのハイ達が先生に応えました。
「その動物園って場所に」
「それでこれからはそこで暮らすわ」
「先生から聞くといい場所だし」
「是非ね」
「この森は離れるけれど」
「それでも」
こう先生に言ってでした、この島の動物園に行くと決めたハイ達も水槽の中に入りました。そしてそのうえで、です。
皆でヨットに戻りますがその帰り道で動物の皆が言いました。
「何かね」
「普通によね」
「進展がいいけれど」
「早々と進んでるわね」
「テンポよく」
「うん、渡嘉敷島と久米島は近いしね」
昨日行った島とです。
「それに僕が生きもの達とお話が出来てね」
「ハイさん達のいる場所もすぐにわかるから」
「だからだね」
「すぐに会えて話が出来て」
「それで早く進むんだね」
「若し僕が動物とお話が出来なかったら」
その場合はといいますと。
「とてもね」
「こんなに早くにはだよね」
「進んでないよね」
「ハイさん達と会うこと自体がとても難しいし」
「二十匹以上も一度に来てもらうとかも」
「しかも同意のうえで」
「全部出来ていなかったよ」
とてもというのです。
「どれだけの時間がかかっていたか」
「わからない」
「それ位なんだ」
「生きものの言葉がわかるかどうか」
「このことで全く違うんだね」
「僕が皆の考えがよくわかることも」
このことについてもというのです。
「言葉がわかるからだからね」
「このことが大きいんだね」
「何といっても」
「まずこのことがあって」
「それで進められるんだね」
「そうだよ」
まさにその通りというのです、先生は帰り道に皆にお話をします。この日のお昼はもう食べています、この島のハイ達に会う直前に。
「まさにね」
「言葉って大事だね」
「それぞれの言葉が理解出来るかどうか」
「このことが大きいね」
「それだけで」
「そうだよ、若し言葉が一つなら」
あらゆる人種、民族も生きものもです。
「世の中は凄く楽だったかもね」
「誰もが言葉が通じるなら」
「それなら」
「物凄く便利で」
「楽だったわね、確かに」
「そうも思うよ」
先生の今の言葉はしみじみとしたものでした。
「けれどそうはなっていないからね」
「ああ、聖書にもあるわね」
「バベルの塔だね」
「あの時から言葉は別々になった」
「そうあるわね」
「あれは言い伝えで実際に検証してみると違うけれどね」
あらゆる人間、生きものの言葉が別々になった理由はです。
「それぞれの文化のせいだけれどね」
「バベルの塔じゃなくて」
「そちらのせいなんだ」
「言葉が違うのは」
「それぞれの人種、民族や生きもので違うのは」
「生きものだと身体の構造も関係があるよ」
それぞれの種類のです。
「そうしたことだからね」
「聖書とはだね」
「また違うんだね」
「あれはあくまで聖書のことで」
「物語なんだ」
「むしろあのお話はね」
聖書のそれはといいますと。
「人は傲慢になってはいけないということだよ」
「思い上がりは、だね」
ダブダブが応えました、先生の今の言葉に。
「よくないってことだね」
「確かに偉そうになると」
ホワイティも言います。
「周りから身て嫌だし」
「結構偉そうな人とか生きものとかいるわね」
ポリネシアもこうした相手は好きではないです。
「何様なのかしらっていう人」
「そうそう、いるね」
「結構あちこちに」
チープサイドの家族もお話をします。
「天狗っていうね」
「日本だと」
「ピノキオさんみたいにね」
ガブガブはこの童話のお話を出しました。
「鼻が伸びてふんぞり返った感じで」
「そうなってはいけない」
ジップのお鼻は高くありません、決して。
「そういう戒めだね」
「聖書は馬鹿に出来ないね」
「言葉はともかく傲慢はよくない」
オシツオサレツも言います、二つの頭で。
「神に迫ろうとする」
「人間のその傲慢を戒めるお話だね」
「神様と人間は違う」
トートーはキリスト教の考えを述べました。
「人としての立場を理解して生きなさいってことかな」
「神様、絶対の存在になろうとしてはいけない」
しみじみとして言ったのはチーチーでした。
「人は」
「だからあの塔は破壊されて」
最期に老馬がしみじみとして述べました。
「傲慢は破壊されたんだね」
「そうしたお話だよ、まあ神様と人間の関係は宗教によって違うけれど」
キリスト教にはキリスト教の考え、他の宗教には他の宗教の考えがあるというのです。先生はこのことも踏まえてお話をします。
「傲慢になるとね」
「若しそうなれば」
「悪いことだね」
「このことは確かね」
「そうだよ、ふんぞり返っていたら周りも見えないし」
それにというのです。
「何よりも人に悪い印象を与えて気分を悪くさせてしまうから」
「絶対によくないんだね」
「人は謙虚であるべきだね」
「だから悪いことだね」
「傲慢は」
「七つの大罪に入っているね」
この傲慢はです、他の大罪は憤怒、嫉妬、怠惰、好色、大食、強欲です。この七つが絶対によくない罪とされています。
「それだけ悪いことだから」
「戒めないといけない」
「そういうことだね」
「そうだよ、僕もね」
先生はといいますと。
「気をつけないとね」
「まあ先生はね」
「傲慢とは正反対だね」
「怒ることもないし」
「憤怒とも無縁だね」
こちらの罪ともです。
「嫉妬もね」
「全然嫉妬しないしね」
「強欲でもいし」
「こっちも正反対だね」
本当に無欲な人です。
「怠惰でもないね」
「いつも学問に励んでるし」
「先生が言うには楽しんでるだけだけれど」
「怠けることもしていないよ」
「まあ大食はね」
「食べる量は多いけれど」
「残さないし」
「貪らないね」
あくまで必要なだけ食べています、それに美味しいものは大好きでも決してご馳走や贅沢を求めることもしません。
「こちらもね」
「別にいいね」
「沢山食べるけれど」
「それでもね」
「そうだね、そしてね」
さらにでした。
「一番縁がないことは」
「好色だね」
「先生ってね」
「本当にそっちは全然だね」
「傲慢、憤怒、嫉妬、強欲と並んで」
「先生とは縁がないね」
「昔から女の人にはもてないし」
自己認識の欠如はここでも出てはいます。
「元々女の子に興味があっても」
「好色かっていうと」
「全然違うね」
「自分で声をかけることもしないし」
「そうした本とかビデオも持ってないね」
「これも学生時代から?」
「学生時代僕の学校は厳しかったよ」
寄宿舎の伝統が残っていました、イギリスの学校は寄宿舎ですととても厳しいものであるのであるのです。
「そのこともあってね」
「女の子のスカートの中とか」
「胸とかお尻とか脚とか」
「そういうことにもだね」
「強く興味はないんだね」
「あまりね」
どうしてもというのです。
「ないね」
「ああ、やっぱり」
「そうなんだね」
「じゃあ先生はね」
「特にだね」
「好色とは無縁だね」
「無縁過ぎる位だね」
実は先生の場合こう言っていい位です、とにかく先生は女の人については奥手というレベルでは済まない位です。
「神様の教えには正しいけれどね」
「七つの大罪とは無縁だから」
「このことはいいことだね」
「何といっても」
動物の皆も先生が好色とは最も無縁であることには少し残念に思っていてもです、このことは今は深く言いませんでした。
そしてヨットに乗って本島に帰ってです。動物園の人達にハイ達が入っている水槽を手渡したのでした。それから。
先生にです、安座間さんと真喜志さんが言いました。
「今晩ですが」
「どうされますか?」
こう先生に尋ねてきました。
「若し予定がないのなら」
「紹介させて頂きたいお店があるのですが」
「どういったお店ですか?」
先生はお二人にすぐに尋ねました。
「それで」
「カレー屋さんです」
安座間さんが先生ににこりと笑ってお話しました。
「そちらになります」
「カレー屋さんですか」
「沖縄の」
「そういえばです」
先制も言われて気付きました。
「これまで沖縄では」
「カレーは、ですね」
「食べていません」
このことに気付いたのです。
「では」
「はい、予定は」
「ありませんし」
こちらもです。
「では」
「はい、それでは」
「これからですね」
「カレーを食べに行きましょう」
「それでは」
こうしたことをお話してでした、そのうえで。
先生達は沖縄のカレー屋さんに入りました、そのカレー屋さんは本土にあるお店と外観も内装も変わりませんでした。
ですがカレーは。
「あれっ、これは」
「如何ですか?」
「スパイシーですね」
先生はカウンターでカレーを食べて一緒にカウンターにいる安座間さんと真喜志さんに対して答えました。
「香辛料の辛さですね」
「一気にきますね」
「はい、そしてです」
「一気に去る」
「そんな感じですね、しかも」
さらにお話する先生でした。
「お野菜がまた」
「独特ですね」
「ゴーヤが入っていますね」
野菜カレーを見ればです。
「ピーマンや人参、玉葱に」
「ジャガイモと」
「それとですね」
「こうしたカレーです」
ゴーヤも入っているというのです。
「いいですね」
「はい、確かに」
「このカレーはまた」
ゴーヤが入っているカレーはというのです。
「いいですね」
「美味しいですよね」
「これはまた」
「では」
「はい、この野菜カレーに」
それにでした。
「カツカレーも」
「実はこのお店はです」
真喜志さんはカツカレーもと言った先生に笑顔でお話しました。
「カツカレーがいいんです」
「あっ、そうですか」
「絶品です」
こう言っていい位に美味しいというのです。
「最高ですよ」
「それでは」
「はい、是非」
「カツカレーもですね」
「召し上がって下さい」
先生に笑顔で言います、動物の皆も先生と一緒にカレーを食べています。先生のすぐ後ろのテーブルに集まったうえで。
その皆もです、笑顔でお話をしています。
「美味しいね」
「うん、このお店のカレーね」
「ぴりっとして辛くて」
「それが一瞬で消えてね」
「食欲をそそるね」
「いいカレーよ」
こうお話しながら食べています。
そしてです、先生に言うのでした。
「美味しいよ」
「何か幾らでも食べられる感じ」
「沖縄のカレーもね」
「いいわね」
「美味しいわね」
とてもというのです。
「じゃあ先生おかわりしてね」
「カツカレーの方も」
「僕達もそうするし」
「それぞれのカレー楽しむから」
「そうしようね、皆で」
先生も皆に笑顔で応えます。
「今晩はカレーだよ」
「そうだね」
「沖縄でもカレーが食べられるんだね」
「いやあ、やっぱり日本だね」
「カレーが食べられるなんてね」
「カレーはイギリスにもあるけれど」
それでもと言う先生でした。
「日本のカレーは独特なんだよね」
「どんどん食べて下さいね」
「カツカレーの方も」
「今日はカレーを楽しみましょう」
「皆で」
安座間さんと真喜志さんも笑顔で言ってでした、そうして。
先生はこの夜はカレーをお腹一杯食べました、ただカレーとお酒は合わないのでそちらは飲みませんでした。そして。
次の日も朝早くにでした、先生達は本島を後にしました。今日行く場所は。
「奄美大島ですね」
「はい、そちらです」
「今から向かいます」
先生に安座間さんと真喜志さんがお話します、もう飛行機の中に動物の皆と一緒に乗り込んでいてお空を飛んでいます。
「もう飛行機ですとすぐです」
「一瞬ですから」
「飛行機で島まで行って」
「すぐに」
「森に入ってですね」
先生も応えます。
「それで、ですね」
「そうです、ヒヤンです」
「今日はヒヤンです」
「あの蛇に会いに行きます」
「保護をする為に」
「そうですね、一昨日と昨日はハイに会って」
そしてでした。
「今日はですね」
「ヒヤンです」
「もう一方の蛇です」
「幻の蛇にです」
「今日も会えます」
「楽しみです」
子供の様に目をキラキラとさせてです、先生は言いました。
「今日も」
「そうですね、ただ」
「普通にやりますと見付けることすらです」
「本当に難しいです」
「そうした蛇です」
ヒヤンもまた、というのです。
「ですから」
「先生には今日もです」
「生きものと話してもらいます」
「そうしてもらいますので」
「お願いします」
「はい」
先生は安座間さんと真喜志さんに笑顔で応えました。
「それでは」
「宜しくお願いしますね」
「今日も」
「及ばずながら」
そうさせてもらうとです、先生は飛行機の中で笑顔で応えました。そのうえでその奄美大島に向かうのでした。
飛行機ですから島まですぐでした、沖縄本島と奄美大島は渡嘉敷島や久米島よりもずっと離れていますが。
先生は空港に着いてです、青空を見つつ言いました。
「いや、本島にですね」
「すぐですね」
「すぐに着きましたね」
「はい」
飛行機が苦手ということは隠してお二人に答えます。
「やはり便利ですね」
「ですから飛行機が普及してです」
「沖縄の行き来は楽になりました」
「それぞれの島のそれが」
「かなり」
「そうですね、ヘリコプターもありますし」
こちらの空を飛ぶ乗りものもです。
「あって何よりです」
「特にヘリコプターですね」
先生はこちらについてさらに言います。
「こちらが」
「はい、海難事故もありますが」
「そうした時にも」
「ヘリコプターがありますと」
真喜志さんは先生にはっきりと答えます。
「飛行機以上に楽にです」
「捜索や救助も出来ますね」
「ホバリングしたり」
空中で停まった状態で飛ぶことです。
「真横や真上に真下、後ろにも飛べます」
「ハチドリみたいに」
「はい、ですから」
「救助もですね」
「容易ですし」
海で困っている人達を探すこともです。
「本当にです」
「ヘリコプターは役に立ちますね」
「時と場合によりますが飛行機よりもです」
むしろというのです。
「役に立ちます」
「そうですね」
「我が国は飛行艇もありますが」
「海上自衛隊の」
「そうです、あれも役に立ちます」
機体の底が特別製で海の上にも降りることが出来るのです、そうして海の上で遭難している人達を救出したりするのです。
「とても」
「そうですね」
「ですから」
それでというのです。
「飛行艇があることも」
「いいことですね」
「そうです、そして何といっても」
「ヘリコプターですね」
「まさに沖縄の為にあるものです」
こうまで言うのでした。
「有り難いものです」
「まことにそうですね」
先制も笑顔で応えます。
「まさに文明の利器です」
「ヘリコプターもまた」
「先生はヘリコプターもお好きなのですね」
「はい、素晴らしいものだと思います」
実は乗ることは苦手ということは隠してのお返事です。
「沖縄にとっては特に」
「本当に飛行機よりも」
「そうですね」
「自衛隊でも民間でもよく使っていますね」
「便利なので」
とかくです。
「自衛隊のヘリコプターも沖縄をよく飛んでいますよ」
「海難事故の時は」
「すぐに来てくれます」
「有り難いことですね」
「僕もそう思います、では」
「これからですね」
「森に行きましょう」
「ヒヤン達のいる」
その生息場所である森に向かいました、その森に入るとです。先生はふとでした。
森の中に一匹の小さな黒い兎を見て笑顔になりました。
「僕は本当に運がいいね」
「あの兎ってまさか」
「あの噂の」
「アマミノクロウサギ?」
「あの兎が」
「物凄く珍しいっていう」
「その兎?」
「そうだよ、あの兎はね」
森の木々の中を歩いているのが見えます、先生はその兎を見ながらそのうえで動物の皆にお話をします。
「あの噂のね」
「天然記念物っていう」
「あの兎なんだね」
「そうだよ、ヒヤンだけでなくね」
先生は感動すらしています。
「あのウサギまで見られるなんて」
「凄いね」
「確かにね」
「僕達も運がいいね」
「ここで見られるなんてね」
「本当に運がいいよ」
またこう言った先生でした。
「僕達はね」
「ううん、神様の配慮かな」
「神様が僕達に見せてくれたのかな」
「そうかな」
「やっぱりね」
「そう思うよ、あのウサギもね」
アマミノクロウサギもというのです。
「大事にしないといけないと」
「何か沖縄って」
ガブガブは先生の今の言葉を聞いて言いました。
「そうした動物多いわね」
「そういえばそうだね」
トートーはガブガブのその言葉に頷きました。
「ハイにしろヒヤンにしても」
「イリオモテヤマネコっていうヤマネコも」
ポリネシアはこの生きものの名前も出しました。
「いるし」
「何かとね」
「多いわね」
チープサイドの家族が言う生きものは。
「鳥も蛇も哺乳類も」
「何かと」
「考えてみるとハブもだし」
ホワイティは沖縄というと本当によく出て来る蛇のことを思い出しました。
「沖縄独特の蛇だし」
「ヤンバルクイナもだったね」
ジップはこの鳥について言及しました。
「沖縄だけにしかいないね」
「そうした生きものが多い場所ってことだけれど」
チーチーも考えるお顔になっています。
「本当に一杯いるね」
「蛇も鳥も兎も山猫も」
ダブダブは全部一括りにして言いました。
「沖縄は他の場所にいない生きものが多いね」
「そう考えると凄い場所だね」
老馬もアマミノクロウサギを見ています、今丁度森の茂みの中に消えようとしています。
「沖縄は」
「珍しい生きものも一杯いる」
「そうした場所でもあるんだね」
オシツオサレツは今も二つの頭でお話をします。
「文化も独特で」
「生きものも」
「そこも沖縄の魅力だよ」
先生はにこにことして皆に答えました。
「本当にね」
「これから会うヒヤンもそうだし」
「日本本土とはまた違う生態系だね」
「そうした場所だから」
「本当にいいのね」
「そうだよ、じゃあね」
それならばと言う先生でした。
「これからね」
「うん、ヒヤンだね」
「ヒヤンと会おうね」
「これから」
「そうしようね」
「それでヒヤンはね」
先生はヒヤン自身についてのお話もしました。
「紅色と黒の縞模様なんだ」
「へえ、そうなんだ」
「そうした模様なんだ」
「紅色ってことは赤いんだね」
「そうした蛇なんだね」
「そうだよ、何処かサンゴヘビに似ているかな」
アマゾンにいる物凄く強い毒を持っている蛇です、アマゾンにはこうした生きものもいるので迂闊には入られないのです。
「模様は」
「毒もあるし」
「このことも似てるね」
「奇麗だけれど毒がある」
「ヒヤンも」
「そうだよ、ハブよりずっと強い毒を持っているんだ」
ヒヤンはというのです。
「大人しいから殆ど噛まれないけれど」
「それでも毒蛇だし」
「注意は必要だね」
「大人しくても」
「それでも」
「そうだよ、このことにも気をつけながら」
そのうえでというのです。
「ヒヤンに会おうね」
「それでこの森のヒヤンさん達は何処にいるのか」
「一体ね」
「この森にいることは確かにしても」
「うん、少しね」
先生は森の中、自分達の周りを見回しつつ皆に答えました。
「誰かに聞こうか」
「森の皆に」
「誰か」
「そうしようかな」
先生がこう考えているとです、すぐ左の木の枝のところから声がしてきました。その声は誰のものかといいますと。
「私達に何か用?」
「用というと」
「ええ、どうかしたの?」
見れば先生が言った通りの紅と黒の縞模様の蛇がいました、大きさは大体ハブやマムシと同じ位です。
「私達に」
「あっ、これは」
「まさに」
真喜志さんと安座間さんもその蛇を見て少し驚きの声をあげました。
「ヒヤン」
「こんなにすぐに会えるなんて」
「はい、ヒヤンですね」
先生も二人にお話します。
「間違いなく」
「いや、すぐに会えましたね」
「思った以上に」
「そうそう出会える蛇じゃないのに」
「先生と一緒にいたら」
「いや、運がいいですね」
先生の言葉はこの時も同じでした。
「すぐに出会えるなんて」
「何か先生と一緒にいますと」
「先程のアマミノクロウサギもですが」
「珍しい生きものと会えますね」
「何かと」
「流石といいますか」
「あらゆる動物のお友達と言われるだけはありますね」
先生に賞賛の言葉すら贈ります、そして。
その紅色の蛇、ヒヤンは先生に尋ねてきました。
「私達に用があるのよね、先生は」
「僕のことも知ってるんだね」
「先生が私達のことを知らなくても」
それでもというのです。
「私達は皆先生のことを知ってるわ」
「そうなんだね」
「そうよ、動物の間じゃ有名人だから」
この奄美大島でもというのです。
「私達でも知っているわよ」
「ヒヤン君達の間でもだね」
「そうよ、それで用があるのかしら」
「うん、それはね」
先生はヒヤンにその用をお話しました、するとヒヤンはお話を聞き終えてからそのうえで先生に対して言いました。
「わかったわ、じゃあね」
「それならだね」
「ええ、すぐに皆を集めてね」
そしてというのです。
「相談するから」
「来てくれる子達をだね」
「そうしたお話をするから」
「それじゃあだね」
「今すぐに皆を呼ぶわ」
言った通りにです、ヒヤンはです。
一旦地面まで降りてそこから鎌首をもたげさせたうえで舌をちろちろと出しました、蛇の赤くて細長い先が二つに分かれた舌をです。
するとです、沢山のヒヤン達が四方八方からぞろぞろと出て来てでした、顔を寄せ合ってお話をしだしました。
そのヒヤン達を見てです、安座間さんと真喜志さんはまた先生に言いました。
「ハイ達の時もそうですが」
「今回のヒヤン達もです」
「こうして沢山見ることは」
「とてもです」
「ないです」
「一匹を見ることすら稀ですから」
そうした蛇だというのです。
「いや、夢みたいな光景です」
「携帯で写真も撮っていますが」
「ハイ達の時もそうしていましたが」
「いや、何かと」
「凄い光景ですね」
「嘘みたいな」
「僕もそう思います、一度にこうして大勢のヒヤン達がいる場面は」
それこそとです、先生も二人にお話します。ヒヤン達がお互いに彼等の言葉でお話をしているのを聞きながら。
「奇跡の様な」
「はい、全くです」
「そうした場面です」
「本当に」
「凄い場面です」
「こうした場面も見られるなんて」
またこう言った先生でした。
「僕達は幸せですね」
「運がいい」
「そう言われますか」
「本当にそう思います、神様に感謝します」
微笑んで言った先生でした。
「このことについてもまた」
「そして、ですね」
「彼等にもですね」
「動物園に来てもらいますね」
「是非」
「そうなれば有り難いです」
笑顔で言った先生でした、そしてです。
先生達はヒヤン達のお話が終わるのを待ちました、お話は暫くして終わってでした、何とヒヤン達はです。
雄と雌、つがいで何と三十匹も動物園に移住すると言ってくれました。先生はこのことには驚いて言いました。
「いや、多いね」
「多いかな」
「そうかしら」
「この森に残る方が多いよね」
「ずっと」
「いや、僕達からすればね」
それこそというのです。
「本当に多いよ」
「そうなの」
「先生達からしてみれば」
「多いんだ」
「これだけ移住すると」
「そうだよ、じゃあ今からね」
水槽に入ってもらってと言う先生でした。
「行こうね、動物園まで」
「それじゃあ」
「今からね」
動物園に行くヒヤン達も応えました、そして。
動物園に残るヒヤン達とお別れをして水槽に入りました、そのうえで先生達は水槽に入ったヒヤン達を連れて空港に戻りますが。
この時にです、動物の皆は言いました。
「何かね」
「先生と一緒にいたら普通の光景も」
「実は普通じゃない」
「そうしたことって多いみたいだね」
「僕達はあまり自覚していないけれど」
「そうみたいね」
「いや、全部ね」
先生が言うには。
「神様のお陰だよ」
「神様が会わせてくれる」
「そうしたものだね」
「奇跡で」
「今回のことも」
「そう、アマミノクロウサギを見られて」
そしてというのです。
「ヒヤン君達にもすぐに会えてね」
「そしてだね」
「大勢のヒヤンさん達が集まるのも見られて」
「動物園にも案内出来た」
「凄いことだね」
「全くだよ、本当にね」
それこそというのです。
「神様のお陰だよ」
「全ては」
「そうなんだね」
「先生は神様のご加護を受けているんだね」
「だから奇跡にも会える」
「そういうことなんだ」
「そうだよ、僕はね」
それこそというのです。
「神様に感謝しないといけないよ」
「それも先生だよね」
「神様を素直に信じていてね」
「感謝出来る」
「そうしたところもね」
「神様はね」
その神様についてもお話する先生でした。
「いないと言う人もいるけれど」
「おられるね、神様は」
「間違いなく」
「そうだよね」
「そうだよ、神学を学んでいってもわかるし」
そうした人達はそもそも神学を学ぶことすらしません、最初から馬鹿にしているからそうしたこともしないのです。
「この世の奇跡はね」
「偶然じゃない」
「そうしたものだね」
「沢山の奇跡があるけれど」
「その多くはだね」
「神様のご加護だね」
「そうだよね」
「そうだよ、偶然じゃないんだ」
これが先生の神様への考えです。
「科学を出して否定する人もいるけれど」
「決してだね」
「否定出来るものじゃないね」
「科学で以ても」
「それでも」
「うん、そもそも科学は人が生み出したものだよ」
このことから科学についてお話をするのです。
「不完全な、そしてね」
「科学も進歩している途中だし」
「まだまだ未完成だよね」
「そうした学問だよね」
「学問は完成されることはないよ」
学問自体がというのです。
「あらゆる学問がね」
「だから科学もだね」
「完成されていないね」
「というか完成されることはない」
「そうしたものだね」
「そうだよ、人間は不完全だから」
このことが念頭にある先生です。
「その不完全な人間がね」
「学問を完成させようとしても」
「出来ないんだね」
「学問は完成することがない」
「最後まで至ることはないんだね」
「そうだよ、科学もしかりだよ」
完全なものでもないですし完成されているものでもないというのです。その科学で神様の存在を実証しようとしてもというのです。
「神様の存在は実証出来ないよ、けれどね」
「この世の奇跡だね」
「どんな学問でも実証出来ない」
「そうした奇跡をもたらすことはだね」
「神様だからこそ出来ること」
「そうしたものもまた世の中に多いから」
「神様はいるんだね」
動物達も言います。
「そういうことなんだね」
「つまりは」
「そう考えているよ、僕はね」
先生は温和なお顔のままお話します。
「まさにね」
「奇跡こそが」
「神様がもたらしてくれている」
「そういうものなんだね」
「そうだよ、本当にね」
実際にというのです。
「神様は奇跡、ご加護をもたらせてくれている」
「まさにそのことこそが」
「奇跡であって」
「神様がいることの証」
「そうなんだね」
「そう考えているよ、僕は」
先生のお言葉は続きます。
「だから今も神学をね」
「学んでいるね」
「そうしているんだね」
「先生は神学者でもあって」
「そちらの博士号も持っているけれど」
「うん、そうしているんだ」
神学をというのです。
「学んでいるよ」
「聖書も読んでるし」
「最近は仏教の勉強もしてるね」
「日本の神道とか」
「あと天理教も」
「他の宗教も学んで」
勿論偏見なしにです。
「そうしていくと面白いよ、僕はキリスト教徒でも」
「それでもだよね」
「他の宗教も認めていてね」
「学んでるね」
「しっかりと」
「そうしているよ、仏教も神道も素晴らしいね、神社やお寺に行くことも」
教会だけでなくです。
「そして天理教の教会もね」
「この前行ってたね」
「八条町の教会に」
「それで教会長さんともお話をしていたね」
「お話を聞いて」
「そうしていたね」
「そう、様々な宗教のお話を聞くことも」
このこともというのです。
「学問だからね」
「神学なんだね」
「もっと言えば宗教学?」
「そちらになるんだね」
「先生って神学でもあって宗教学者でもあるから」
「だから」
「そうだよ、宗教学者として」
本当にというのです。
「学ぶことだよ」
「そうだよね、先生らしいよ」
「それじゃあこれからもね」
「そちらの学問も頑張ってね」
「是非ね」
「そうさせてもらうね、それと」
ここでこんなこともお話をした先生でした。
「今度機会があればお寺にも行くけれど」
「お寺に?」
「仏教のお寺になの」
「行くんだ」
「そうするんだ」
「そう、そしてね」
そのうえでというのです。
「座禅を組ませてもらったりするよ」
「ああ、座禅ね」
「修行の一つだね」
「あれもするんだ」
「座禅も」
「そうだよ、お経は仏教を学ぶ時も読んでいるけれど」
詠みもしています、先生は最近では仏教も真剣に学んでいます。先生の学問は本当に広く深いものなのです。
「座禅はね」
「それはまだだから」
「それでなんだ」
「組ませてもらう」
「経験として」
「そうさせもらうんだ、座禅はね」
先生はその座禅についてさらにお話をします。
「痛いっていうけれどね」
「ああ、足が」
「かなり変わった座り方だよね」
「インドでああした座り方してる人いるけれど」
「どうもね」
「かなり変わった座り方だね」
「だから座れるかどうか問題だけれど」
それでもというのです。
「やらせてもらうよ」
「色々と気になるけれど」
「じゃあ座禅も組んでみてね」
「そうしてね」
「是非ね」
先生は奄美大島でこうしたお話もしました、そしてそのうえででした。ヒヤン達を本島にまで連れて行くのでした。
ヒヤンにすんなりと会えたな。
美姫 「みたいね。最初に声を掛けたら、まさかのヒヤンとはね」
運も良いな。
美姫 「そうよね。でも、これで無事に連れて行く蛇も決まったし」
先生たちは本島へと。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。