『ドリトル先生と沖縄の蛇達』
第三幕 ウチナーの人
先生は朝御飯の後で学会に向かうことになりました、ホテルの沖縄料理の朝食を食べて言うことはといいますと。
「行って来るよ」
「先生頑張ってね」
まずはトートーが先生に応えました。メニューはジューシーという御飯にナーベラーのンブシー、中身汁、フーチャンプルー、海草のサラダ、サーターアンダギー、そしてゴーヤジュースです。
「今日も」
「沢山食べてね」
ガブガブは先生のお身体を気遣っています。
「健康的に」
「やっぱり朝は食べないとね」
「しっかりとね」
チープサイドの家族もお米を熱心に食べています。
「じっくり食べて寝る」
「健康はここからだからね」
「今日もよく寝たし」
ポリネシアは先生の快眠をよしとしています。
「後はよく食べる」
「身体にいいものをバランスよく食べる」
老馬の言うことは今は学問的です。
「それが一番だよね」
「それもたっぷりとね」
チーチーは老馬に応えます、皆先生の席で一緒に食べています。それぞれのお食事を。
「それが健康な身体を作るからね」
「沖縄料理って健康によさそうだし」
ホワイティはお豆を熱心にかじっています。
「朝からたっぷり食べようね」
「僕達も食べようね」
「学会には参加しないけれどね」
オシツオサレツは前後の頭で食べつつお話をしています。
「先生はお仕事もあるし」
「その後の観光もあるから」
「朝もしっかり食べて」
最後にジップが言いました。
「今日も頑張ろうね」
「是非ね、それとだけれど」
先生は食べながら皆にお話します。
「何でも学会で現地の若い学者さんと一緒になるんだ」
「一緒に?」
「その人と一緒にお仕事するの」
「そうなんだ」
「うん、それとね」
さらにお話する先生でした。
「その人と一緒に色々な場所も行くみたいだね」
「首里城とか?」
「あそこも?」
「あそこも行って」
そしてというのです。
「他の場所にも行きそうだよ」
「そうなんだ」
「首里城以外にもなんだ」
「行くことになるんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ。だからね」
それでというのです。
「その人のことも気になるね」
「男の人?女の人?」
「若い人っていうけれど」
「一体どんな人かしら」
「現地の人っていうから沖縄の人だけれど」
「どういった人かしら」
こうしたこともお話するのでした、そして。
先生は朝御飯を食べてでした、学会に行きました。動物の皆とは学会の会場である八条グループの研究センターの前で別れました。
そしてセンターの中に入るとです、よく日に焼けたお肌に黒のショートヘアの明るい顔立ちの女の人が迎えてくれました。目は大きく黒目がちでお鼻は程よい高さで赤い唇は小さいです。背は一六〇程で半袖シャツにズボンという格好です。
その人が先生の前で頭を下げて先生も応えるとです、笑顔で言ってきました。
「ドリトル先生ですね」
「はい」
帽子を取って一礼した先生は笑顔で応えました。
「そうです」
「はじめまして、安座間友美といいます」
「安座間さんですか」
「このセンターで勤務している研究員です」
「そうですか」
「生まれも育ちも沖縄です」
先生にこうも言うのでした。
「今回の学会では全体の事務を受け持つ一人ですが」
「僕の、ですか」
「アシスタントも担当しています」
「学者さん達のですね」
「そうです、先生もです」
こうお話するのでした。
「あと先生に案内させてもらう場所もあります」
「観光ではないですね」
「観光のお話は別の方です」
安座間さんではないというのです。
「そちらの方にお願いします」
「それじゃあ」
「観光も学問ですからね」
「はい、そうです」
その通りと答えた先生でした。
「遊びとはです」
「先生はお考えではないですね」
「楽しむものですが」
それでもというのです。
「それはです」
「遊びではないですね」
「そう考えています」
先生は安座間さんに答えました。
「僕は」
「そうですね、ではです」
「それならですね」
「今からですね」
「学会の場に行きましょう」
「センターのホールで、ですね」
センターの中は白い床と緑の壁で落ち着いて清潔な感じです、機能的でしかも中の案内もしっかりと書かれています。
「これから」
「はい、論文の発表等を行います」
「それでは」
「先生の論文は今日ではないですが」
今日の発表ではないというのです。
「宜しくお願いします」
「それでは」
「それとなのですが」
ここで安座間さんの表情が変わりました、真剣なものになり先生にお話しました。
「お願いすることがあります」
「僕にですか」
「学会の後でお時間がありますね」
「はい、沖縄に留まる予定です」
「実はこちらからお願いしまして」
「センターからですね」
「大学の方に」
八条大学にというのです、先生が勤務している。
「是非先生にとです」
「といいますと医学のことで」
「環境、生きもののことになりますね」
「そちらのことですか」
「はい」
まさにというのです。
「それでお願いしたいのです」
「そうですか」
「先生ならと思いまして」
「と、いいますと」
「学会が終わった時にお話したいです」
「わかりました」
先生は安座間さんのその言葉に頷きました。
「それではその時に」
「お願いします」
こうしたお話をしてです、先生は学会が開かれるホールに案内してもらいました。そしてそのうえで、です。
他の人の論文の発表等を聞いてです、そうして。
学会の後で動物の皆と合流してお昼御飯を食べてでした、首里城に行きました。
ガイドさんは真面目な三十代の男の人でした、お名前を真喜志さんといいますが真喜志さんは先生に笑って挨拶をしました。
「今回は宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ」
先生も笑顔で応えます。
「宜しくお願いします」
「それでは」
挨拶をしてから首里城に入りましたが。
そのお城の中に入ってです、動物の皆はそれぞれこう言いました。
「何かね」
「日本の他のお城と違うね」
「そうだよね、日本の雰囲気といえばそうだけれど」
「天守閣がなくて」
「大きな瓦の門もあるけれど」
「色彩が違ってね」
「沖縄独特だね」
こうそれぞれ言うのでした、そのうえで先生に尋ねます。
「先生、ここ違うよね」
「日本の他のお城とね」
「何か微妙にね」
「違うよね」
「それにね」
しかもというのです。
「普通のお城より大きくない?」
「どんどん登っていく場所で」
「石造りの階段も独特で」
「そこも気になったけれど」
「うん、ここは実際日本の他のお城と違うよ」
先生は真喜志さんに案内してもらいつつ皆にお話しました。
「普通の日本のお城はお殿様が住むね」
「江戸城は将軍様でね」
「街自体がお城じゃなくてね」
「言うなら大きな砦だよね」
「日本のお城はそうだよね」
「そうしたお城であることは同じだよ」
日本の他のお城と、というのです。
「日本のお城は砦だよ」
「欧州や中国で言うとね」
「アメリカや中近東でもそうだったね」
「街自体がお城だったけれど」
そうした地域ではです。
「日本ではお城と街は別でね」
「お城の外に街があるよね」
「城下町っていって」
「沖縄、この首里城もそれは同じだけれど」
それでもというのです。
「ここには王様が住んでいたんだ」
「王様?」
「王様が住んでいたんだ」
「そうだったんだ」
「お殿様じゃなくて」
「沖縄は元々は国だったんだ」
先生は皆に沖縄の歴史からお話しました。
「琉球王国といってね、日本とは同じか非常に近い民族だったけれど」
「国としては別だったんだ」
「そうだったんだね」
「それで元は違う国だったんだ」
「その琉球王国だったんだ」
「その琉球王の宮殿だったんだ」
この首里城はというのです、先生は汗を拭きつつお城の階段を登っていっています。真喜志さん動物の皆と一緒に。
「ここはね」
「そうだったんだ」
「王様の宮殿だったんだ」
「そうしたお城だったんだ」
「そうだよ、だからまた違うんだ」
日本のお城とはです。
「そして天守閣もないね」
「そうそう、それが一番大きいよ」
「日本のお城には大抵あるよね」
「ないお城も確かにあるけれど」
「今残っているお城には大抵あるよね」
「大阪城とか姫路城とか」
「凄い天守閣あるからね」
こうしたお城達にはというのです。
「大阪城の天守閣って立派だよ」
「あれで三代目っていうけれど」
「何度登ってもいいね」
「勿論姫路城も奇麗で」
「本当に白鷺みたいで」
「熊本城もいいね」
皆日本の天守閣のお話もしますが首里城にはありません、先生は皆にどうしてこのお城に天守閣がないのかもお話しました。
「沖縄は台風が多いね」
「あっ、そういえば」
「何かあるとすぐに来るよね」
「この季節なんか特にそうで」
「日本では台風はまずここに来るよね」
「この沖縄にね」
「そう、だから高い建物はね」
そうした建物を建てるとです。
「台風の風で壊れるから」
「だからなんだ」
「高い建物は建てないんだ」
「天守閣もそうなんだね」
「あれは高いからね」
「そうだよ、あえて建てないんだ」
先生は皆にお顔を向けつつお話しました。
「ここではね」
「だから天守閣がないんだ」
「そういえば沖縄自体が高い建物全然ないね」
「どの建物も低いね」
「本州とか九州に比べたら」
「四国とも北海道とも」
「そういうことだよ」
先生は皆に穏やかな声でお話します。
「台風が多いからなんだ」
「成程ね」
「そうした事情でなんだね」
「このお城には天守閣がなくて」
「沖縄自体に高い建物がないんだ」
「今も少ないね」
高い建物はです。
「そうした場所なんだ」
「成程ね」
「そういうことなんだ」
「いや、いい勉強になったよ」
「やっぱり先生は色々知ってるね」
「お見事です」
これまでお話を聞いていた真喜志さんもにこりと笑って先生に言いました。
「よくご存知ですね」
「いえ、沖縄についてもです」
「学ばれたのですね」
「歴史学も研究していますので」
だからだというのです。
「ですから」
「沖縄の歴史もですね」
「学んでいます」
「何かです」
「何か?」
「私の仕事が楽になりそうですね」
ガイドさんとしてのそれがというのです。
「沖縄のことをご存知でしたら」
「ははは、そう言われますか」
「はい、それとですが」
「それと?」
「先生の今度のお仕事のパートナーの」
「安座間さんですね」
「彼女は私の親戚なんです」
このこともです、真喜志さんは先生にお話しました。
「妻の従妹でして」
「あっ、そうなのですか」
「はい、妻にとっても私にとっても妹みたいな娘です」
「それはまた」
「縁がありますよね」
「はい、そうですね」
「いい娘なので」
だからというのです。
「安心して下さい」
「そうですね、あの方はいい方ですね」
先生もそのことがわかっているので真喜志さんに笑顔で応えました。
「とても」
「そのことがおわかりですね」
「はい、僕も」
「それは何よりです、では」
「それではですね」
「知子ちゃん宜しくお願いしますね」
こう先生に言ってです、真喜志さんは冗談めかしてこうも言いました。
「実はあの娘独身で交際相手もいません」
「そうなのですか」
「いい娘ですが。ですから」
「そうですね、良縁を祈ります」
「あっ、はい」
先生の今のお言葉にはでした、真喜志さんは少し残念なお顔になりました。ですがそれは一瞬ですぐにこう言うのでした。
「わかりました」
「?何か」
「いえ」
寂しいお顔で応える真喜志さんでした。
「何もないです」
「そうですか」
「はい、ですが仕事の時は」
「安座間さんに助けてもらって」
「仕事も頑張る娘なので」
それでというのだ。
「宜しくお願いします」
「それでは」
「やれやれだね」
「全くだよ」
先生と真喜志さんの今のやり取りを聞いてです、動物の皆は沖縄の首里城においてもやれやれとなりました。
「先生はね」
「仕方ないね」
「またしてもだよ」
「日笠さんと同じでね」
「どうしたものやら」
「困ったことよ」
「何が困ったのかな」
先生だけ気付かずにこう言います。
「一体」
「まあわかってないから」
「それも何もね」
「じゃあいいよ」
「それでね」
「何がいいのかな」
本当にわかっていない先生です、お言葉にもそれが出ています。
「それは」
「何でもないから」
「気にしないでね」
「まあ先生もね」
「神様に護られてるから」
皆はこうも言うのでした。
「大丈夫だよ」
「何時かきっとね」
「安座間さんもだけれど」
「その前に日笠さんかな」
「?日笠さんは神戸だよ」
全くわかっていないままの先生でした。
「今は沖縄にはいないよ」
「まあそれはね」
「その通りだけれどね」
「先生ときたら」
「こうしたことは全然だから」
「そういえば先生は」
真喜志さんは先生と動物の皆のやり取りを聞いて言いました。
「動物と喋ることが出来るんですよね」
「はい、それぞれの言語を学びましたので」
「だからですね」
「彼等ともお話が出来てです」
その皆を指し示して真喜志さんにお話します。
「その他の色々な動物ともです」
「お話が出来ますか」
「はい、そうです」
「では蛇とも」
「お話が出来ます」
この生きものともというのです。
「マムシやハブとも」
「ハブともですか」
「はい、出来ます」
「それは凄いですね」
「実は蛇の言葉も法則がありまして」
そしてというのです。
「日本の蛇の言葉は種族が違っていてもです」
「大体同じですか」
「方言はありますね」
蛇にもというのです。
「沖縄には沖縄の蛇の」
「ではハブもエラブウミヘビもですか」
「言葉は大体同じです」
「種類の関係じゃないんですね」
「そうなんです」
「それは面白いですね」
真喜志さんは先生のお話を聞いて大いに頷きました。
「蛇の種類は違っても話す言葉は同じですか」
「マムシもアオダイショウもヤマカガシもです」
「ではシマヘビも」
「同じです」
そうした日本の色々な蛇達もというのです。
「犬も猫もそうでして」
「種類が違っていてもですか」
「住んでいる国で言葉が決まります」
「そうなんですね」
「ですからハブもなんです」
「沖縄の方言を使ってますか」
「はい」
その通りとです、また答えた先生でした。
「そうです」
「わかりました、じゃあハブともお話して下さい」
「そうさせてもらいますね」
「彼等は沖縄の象徴の一つになってますけれどね」
真喜志さんはハブについて少し苦笑いになってこうも言いました。
「強い毒がある蛇として」
「有名ですからね」
「今も噛まれる人がいます」
「それで困ってもいますね」
「人家の近くにいたりもするので」
そうした蛇だからというのです。
「厄介でもあります」
「やはりそうですか」
「マングースを入れましたが」
ハブ退治にです。
「ハブを襲いませんし」
「しかも勝手に増えてですね」
「沖縄の生態系を壊して大変です」
「ハブを退治するどころか」
「そうします」
「コブラを倒す様にはいかないですね」
「そうでした」
このことも苦笑いでお話する真喜志さんでした。
「困ったことです」
「本当にそうですね」
「全くです、それと」
「それと?」
「いよいよですよ」
ここで上の方を見上げた真喜志さんでした、階段の上を。
「お城の一番上に着きます」
「そうですか、いよいよですか」
「はい、そうです」
「ここまで長かったね」
「全くだよ」
動物の皆もここで言います。
「階段ばかりでね」
「ここは日本のお城の多くと一緒かな」
「岐阜城とかね」
「そうしたお城と同じだよね」
「一番上まで登るのがここまで大変だと」
「攻めにくいだろうね」
「そこも考えられているよ」
まさにと答えた先生でした。
「このお城はね」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
「いざという時に備えて」
「それでなんだ」
「こんなに登るのに大変なんだ」
「王宮は守ることも大事だからね」
それ故にというのです。
「このお城はこうした造りなんだよ」
「敵が攻めてきても疲れる様に」
「そして守りやすい様に」
「こうした場所に建ててなんだ」
「こんな造りなんだ」
「そうだよ、そして遂にね」
登ってきただけにというのです。
「上に着くからね」
「そして王宮をだね」
「観るんだね」
「そうするんだね」
「その通りだよ、では行こうね」
こうしたことをお話してでした、皆は首里城の王宮に着きました。動物の皆は一緒に王宮の前に来てその周りを見回してです。
そのうえで、です。先生に言うのでした。
「いや、天守閣はなくてもね」
「ここも凄くいい場所だね」
「立派な建物があって」
「流石に王様がいた場所だね」
「そうだね、この建物は」
先生も王宮のその立派な建物を観て言います。
「王様がいただけのことはある場所だね」
「ここに琉球王がいたんだね」
「沖縄の王様が」
「そうなんだね」
「それでだけれど」
ふとです、ホワイティが言いました。
「沖縄の王様はどうなったのかな」
「もう沖縄は日本だしね」
トートーも言います。
「王家はないからね」
「若しまだ王様がいたら」
ダブダブが言うにはです。
「沖縄は国だよね」
「日本に入ったからもう王様はいないね」
「そうよね」
チープサイドの家族もお話します。
「国じゃなくて県だから」
「そうなったのね」
「どうなったのかな、沖縄の王様」
老馬もこのことを考えます。
「一体」
「まだお家が残ってるのかしら」
ガブガブも考えて言います。
「沖縄にいるのかしら」
「もうなくなってるのかしら」
ポリネシアはまさかと考えました。
「そうなのかしら」
「もうここに王様がいないことは間違いないね」
ジップはこのことは確信しています。
「そうだね」
「じゃあ今は何処にいるのかな」
チーチーもそこが気になっています。
「まだお家が残っているのかな」
「どうだろうね」
「相当昔のお話らしいし」
最後にオシツオサレツが二つの頭でお話します。
「まだおられるかな」
「どうかな」
「琉球王家は沖縄が日本に入ってから日本に迎えられたんだ」
先生は皆に琉球王家のことをお話しました。
「それから後に侯爵に列せされたんだ」
「へえ、侯爵なんだ」
「それは凄いね」
「爵位として高いよね」
「立派な貴族だね」
「そう、華族として宮内省で働いていたりしたんだ」
琉球王家の人達はというのです。
「そして今は東京の方におられるそうだよ」
「へえ、まだ琉球王家の人達残ってるんだ」
「それは凄いね」
「貴族、華族にもなって」
「それで今も残ってるんだね」
「そうなんだね」
「そうだよ、あと日本は韓国も併合していたけれど」
先生はこちらのお国のお話もします。
「あの国の皇室は日本の皇室に迎えられているんだ」
「あっ、そちらは皇室なんだ」
「侯爵じゃなくて」
「皇族だったんだ」
「宮家だったんだ」
皇室の中のというのです。
「あのお家はね」
「そうだったんだ」
「何か凄い立場だね」
「皇室に入っていたって」
「別格だね」
「そうだね、かなり凄い待遇だね」
先生もこう言います。
「僕も調べていて驚いたよ」
「日本の沖縄の王様への待遇に」
「韓国の皇室への待遇に」
「本当にね、こんな高待遇はね」
それこそというのです。
「他の国の王家にした国はそうはないだろうね」
「本当によくご存知ですね」
動物の皆に琉球王家のことをお話した先生のお話をここまで聞いてです、真喜志さんも驚きを隠せないお顔です。
「琉球王家のことまで」
「はい、これも学問なので」
「学ばれてですか」
「知っていまして」
それでというのです。
「皆にも話しました」
「そうですか」
「彼等の共通の言葉で」
先生が連れている動物の皆全員が知っている言葉でというのです。
「そうしました」
「そうですか」
「そして旧王家の方々のお墓は」
「こちらにあります」
沖縄にというのです。
「王墓がありまして」
「そうですね」
「ですが旧王家の方は東京在住ですから」
「東京でお産まれになって」
「そこが寂しいですね」
実際に寂しいお顔になって言う真喜志さんでした。
「どうにも」
「そうですか」
「沖縄県民としては」
「県民ですか」
「はい、県民です」
こう答えた真喜志さんでした。
「僕達は」
「そうですか、県民ですか」
「本土、ヤマトンチューの人達にはどんどん来てもらって」
沖縄にというのです。
「楽しんで欲しいですね」
「観光を、ですね」
「是非」
こう言うのでした。
「先生も観光を楽しまれていますし」
「はい、観光もです」
「学問だからですね」
「楽しんでです」
そのうえで、というのです。
「学ばせてもらっています」
「つまりフィールイドワークですね」
「そうですね、僕にとってはです」
観光、旅行そのものがです。
「フィールドワークです」
「そうなりますか」
「ですから」
「楽しまれますか」
「そうしていかせてもらいます」
是非にという返事でした。
「王宮の中にも入って」
「それではそちらにもどうぞ」
「はい、それでは」
先生は真喜志さんに頷いてでした、そのうえで動物の皆と一緒に王宮の中にも入ってそのうえで観て回るのでした。
それが終わって長い長い階段を降りてお城から出て真喜志さんと別れてです、動物の皆は先生に言いました。
「いい場所だったね」
「広くてね」
「しかも建物は奇麗で大きくて」
「よかったね」
「周りも大きいお家が多いしね」
「うん、いいお城だね」
先生も皆に笑顔で応えます。
「何度観てもいい場所だよ」
「ここで住みたいとか?」
「先生思った?」
「そんなことも?」
「いや、住むとなったら」
そう考えると、でした。先生は。
「僕とトミー、皆が住むにはね」
「広過ぎるかな」
「ちょっとね」
「だからいいんだね」
「住むことは」
「それはいいよ」
別にというのでした。
「適度な広さのお家でいいよ」
「じゃあ神戸のあのお家だね」
「先生が一番いいお家は」
「そうなのね」
「そうなるね、イギリスにいた時はあのお家で」
そしてというのです。
「今はね」
「あのお家だね」
「あのお家がいいんだね」
「そう言うんだね」
「そうだよ」
まさにというのです。
「お家は狭過ぎても広過ぎてもよくないから」
「適度な広さ」
「それがいいんだね」
「それが一番快適」
「そう言うんだね」
「そうだよ」
まさにその通りというのです。
「僕としてはね」
「お屋敷に住みたいとは思わないのね」
「貴族の豪邸とか」
「立派なお庭のある」
「あと御殿とか」
「そういうのには興味がないんだね」
「僕と皆、それにトミーだけだよ」
家族はこれだけだからというのです。
「お金があってもね」
「それでもなんだ」
「お金があってもなんだ」
「別にいいんだ」
「そうなんだ」
「そうだよ、そもそもお金もね」
こちらについても答えた先生でした。
「特に沢山いらないし」
「必要なだけだね」
「あればいいんだね」
「じゃあ今の大学教授のお給料で充分」
「そうなんだね」
「そうだよ」
まさにというのです。
「僕は今で充分満足しているよ」
「お家もお金も」
「今で充分で」
「立派な場所にもなんだ」
「今以上の場所には興味がないんだ」
「別にね」
また言った先生でした。
「首里城でも他のお城でもね」
「住むつもりはないんだ」
「そうなんだ」
「このままでいいんだ」
「別に」
「そうだよ、これだけ広いと」
首里城位大きいと、というのです。
「お家の中の行き来だけで大変だからね」
「言われてみればそうかも」
「これだけ広いとね」
「特に階段の行き来がね」
「もう大変だろうね」
「先生の言う通り」
「そう思うからね、今のままでいいよ」
またこう言った先生でした。
「じゃあまた食べに行こうか」
「あの」
先生がこうお話しているとです、その先生にです。
日本の着物に似ていますが袖口がとても広く色合いも黄色や赤で花模様も南国のもので頭には長いかんざしがあり花で飾られた帽子を被っています。
その服を着た女の子達が声をかけてです、記念撮影やお土産をどうかと言ってきました。
「写真どうですか?」
「ちんすこうありますよ」
「サトウキビ美味しいですよ」
「あっ、サトウキビあるんだね」
先生はサトウキビに反応しました。
「じゃあそれを頂こうかな」
「そのまま採ったお砂糖です」
サトウキビからというのです。
「これをどうぞ」
「それじゃあね」
「ああ、お砂糖ね」
「サトウキビから採れたね」
「だからなんだ」
「それも売ってるんだ」
動物の皆もお話を聞いて頷きます、
「沖縄名物だし」
「それで売ってるんだ」
「じゃあ今からね」
「先生買う?」
「そうだね、トミーのお土産にね」
先生は皆に微笑んで答えました。
「買って行こう、サラにもね」
「それと日笠さんにもね」
「忘れないでね」
「ここ重要だよ」
「忘れたら駄目だよ」
「ああ、そうそうそうだね」
言われて気付いた先生かといいますと。
「友達のことを一人でも忘れたら駄目だね」
「はい、不合格」
「また落第したよ先生」
「全く、体育とどっちが苦手か」
「わからないわね」
「僕は体育だけはね」
体育と聞いてこう言った先生でした。
「駄目でいつも学年最下位だったね」
「だからそれも違うから」
「先生もう一つの教科も絶対にアウトよ」
「落第よ落第」
「テストは零点で」
「いやいや、零点は取ったことがないから」
学生時代のお話を完全に認識違いをしている先生です。
「こう言ったら何だけれどテストはいつも点がよかったから」
「学校の勉強はね」
「大抵の学問はそうだよね」
「けれどね」
「体育と」
「それのことは」
「何かよくわからないけれど」
本当にわかっていないのが先生です。
「皆呆れてる?」
「うん、呆れてるよ」
「見ての通りね」
「もうそれこそ」
「お手上げって感じで」
本当にやれやれといった感じの皆です、ですが先生は全く気付かないままなので仕方なくにでした。日笠さんの分までのお土産を買ってもらいました。
お土産はすぐに神戸とイギリスまで送られることになりました、そしてです。92
それが終わってからです、動物の皆はホテルまでの帰り道、夕刻の沖縄の街の中で先生にあの娘さん達について尋ねました。
「随分変わった服だったね」
「日本の着物?」
「ちょっと違うわね」
「着物にしては」
「派手だし袖も広くて」
「細かい部分も違って」
「帽子もね」
そうしたところが違うというのです。
「何かな、あの服」
「沖縄の服なのはわかるけれど」
「あの服一体何?」
「何て服なの?」
「あれは琉装だよ」
先生は皆に答えました。
「沖縄の昔の服だよ」
「つまり沖縄の着物ね」
「そうなんだね」
「うん、そうだよ」
まさにと答えた先生でした。
「言うならね」
「お花の柄が違うね」
「こっちのお花なんだね」
「南国のお花だから」
「そうなんだね」
「そうだよ」
まさにと答えた先生でした。
「お花もそれぞれの地域で違うね」
「気候とか地理の関係でね」
「どうしてもそうなってるね」
「だからなんだ」
「沖縄には沖縄のお花があって」
「琉装のお花はなんだ」
「沖縄のお花なんだ」
動物の皆も言うのでした。
「そうしたことだね」
「じゃあね」
「皆でその琉装も楽しむ」
「そうすればいいんだね」
「そうだよ、そういえば」
ここで先生はあることを思いついたのでした。
「サラの娘、姪にもね」
「お土産としてなんだ」
「買ってあげるんだ」
「そうするんだ」
「そうしようかな」
こう言うのでした。
「これは」
「うん、いいことだよ」
「じゃあ是非そうしてね」
「あの娘も喜ぶよ」
「サラさんにも買ってあげたら?」
「日笠さんにもね」
「そうだね、お金に余裕があれば」
そうならとです、動物の皆に応える先生でした。
「サラにも日笠さんにも買おうか」
「それがいいよ」
「特に日笠さんには忘れない」
「いいね」
「お金に余裕があったらだけれど」
「むしろ姪御さんよりもだよ」
「何か皆日笠さん好きだね」
先生はこう思うだけでした。
「いい人だからだね」
「いい人はいい人だけれど」
「それでもね」
「先生もね」
「もっと気付いてね」
「何かと」
「そうですね、僕もです」
真喜志さんも言うのでした。
「動物の言葉はわかりませんが」
「それでもですか」
「わかりました」
そうだというのです。
「動物の皆が先生に何をお話しているのか」
「そうですか」
「先生は良縁に恵まれているみたいですね」
「良縁に?」
「はい、その良縁に従って下さいね」
「何かわからないですが」
「今はわかっておられなくても」
それでもと言うのでした。
「お気付きになられれば」
「その時はですか」
「きっと先生に最高の幸せが訪れますよ」
「そうなんですか」
「そう思います、ではお土産も買いましたし」
それにと言うのでした。
「明日以降国際通りや琉球村も行きましょう」
「それでは」
先生は日笠さんのことには沖縄でも気付かないままです、ですがそれでもです。学会に観光にとこちらもで学問に励むのでした。
先生がいつものように鈍いな。
美姫 「まあ、こればっかりは仕方ないわね」
だな。動物の皆は気付いているのに。
美姫 「おまけに先生にもそれとなく言ってるのにね」
ともあれ、今回は沖縄での学会と観光。
美姫 「楽しんでいるようね」
何よりだ。次回もまた観光かな。
美姫 「どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」