『ドリトル先生の名監督』




                第十一幕  練習試合

 練習試合の日が来ました、あちらの学校からマイクロバスが来たのを見てです。先生は一緒に出迎えに来ている相撲部の皆に言いました。
「じゃあ今日はね」
「はい、怪我をしないでですね」
「楽しくする」
「スポーツマンシップも守って」
「そう、絶対にね」 
 それこそというのです。
「その三つを守って」
「練習試合をして」
「その後の合同稽古もですね」
「最後までする」
「そうするんですね」
「そうしようね」
 穏やかな顔のまま言う先生でした。
「今回も」
「これまでの稽古と同じくですね」
「その三つは守ってですね」
「最後までするんですね」
「うん、あと僕はこの練習試合が終わったら」
 先生は部活自体のこともお話します。
「顧問の先生が戻って来るから」
「あっ、そうですね」
「それならですね」
「先生は臨時でしたし」
「監督はですね」
「そう、退任となるね」 
 臨時としての顧問即ち監督のお仕事からです。
「そうなるね」
「寂しいですね、何か」
「先生が退任されると思うと」 
「親方が悪い訳じゃないですけれど」
「先生がいなくなるって思いますと」
「そう言ってくれると嬉しいよ」 
 先生は皆に笑顔で応えました。
「僕もね」
「では先生、挨拶をしてですね」
「それからですね」
「練習試合ですね」
「これから」
「そう、ただ僕はいつも言ってたけれど」
 こうも言った先生でした。
「勝敗については気にしないからね」
「そうしたことも大事ですけれど」
「もっと大事なことがあるからですね」
「先生がいつも仰っている三つ」
「その三つを守ることですね」
「そうだよ、その三つを守ることが大事で」
 それでというのです。
「勝敗はその後だよ」
「勝敗よりも大事なものがある」
「お相撲もですね」
「そう、武道もスポーツもね」
 そのどちらにしてもというのです。
「三つが大事でね」
「勝敗も確かに大事ですけれど」
「その三つの後ですね」
「わかりました、それじゃあ」
「僕達も守ります」
「そうして練習試合をしようね」
 笑顔で言った先生でした、そしてでした。
 まずはまわしを付けて柔軟体操をするのでした、その時に相手の顧問の先生とも挨拶を交えました。その時にです。 
 相手の相撲部の先生、恰幅のいい角刈りの親方と言われている人が先生にこうしたことを言ってきました。
「外国からの方ですね」
「はい、イギリスから来ました」
 先生もこう答えます。
「この大学の教授に声をかけて頂いて」
「それでなのですか」
「今はこちらにいます」 
「日本にですね」
「はい、ただ僕はお相撲はしないです」
 親方ににこりと笑ってお話します。
「スポーツ自体を」
「そうなのですか」
「監督ですが」
 それでもというのです。
「そうした指導はしないのです」
「ではどうしたことをされてますか?」
「医師なので」
「あっ、お医者さんですか」
「食事や稽古のことを医学の見地からです」
「指導されてるんですか」
「怪我がない様に。それに」
 親方にさらにお話します。部員の人達の準備体操を見つつ。
「楽しく出来てスポーツマンシップを守って」
「楽しくですか」
「はい、お相撲をするからにはです」 
 それならとです、先生は親方にお話していきます。
「やはり楽しくないといけないので」
「だからですか」
「そうしたことも指導と言えば偉そうですが」
「されてますか」
「そうしています」
「そしてスポーツマンシップも」
「それもです」
 そのこともとです、先生は親方にもお話するのでした。
「指導させてもらっています」
「成程、スポーツをするからには」
「それを守らないとです」
「いけないですか」
「そう思っていますので」
「勝敗は」
「その後です」
 澄んだ穏やかな微笑みでの返事でした。
「あくまで」
「勝敗は、ですか」
「その三つの後でと考えています」
「勝てばいいというお考えではないのですね」
「スポーツに勝敗は欠かせないですね」
 先生もわかっています、このことは。
 ですがそれと共にです、こうも考えているのです。
「しかし怪我をしては下手をすれば一生のことですし」
「楽しくしないと」
「そのスポーツをしたことにもなりません」
「そしてスポーツマンシップも」
「守らないとです」
「お相撲ではない」
「どのスポーツでもそれがないとです」
 それこそというのです。
「暴力でしかないので」
「その通りですね、では」
「僕は勝敗以上にです」
「その三つをですね」
「皆に教えてもらっていました」
「わかりました、では」
 親方はここまで聞いてです、先生の言葉に頷きました。
 そしてです、先生にこう言ったのでした。
「ではこれから」
「はい、お互いにですね」
「その三つを守ってやっていきましょう」
「最後まで、ですが」
 親方は先生を見てです、こうも言ったのでした。
「先生の様なことを言われた方ははじめてです」
「そうなのですか」
「はい、その三つが勝敗よりも大事という方は」
 本当にというのです。
「はじめてです」
「そうなのですか」
「よく勝て勝てと言う人はいます」
 お相撲でもというのです。
「ですがその三つを勝敗よりも大事という方はです」
「少ないのですね」
「本当に、実際のところは」
「理想論でしょうか」
「そうかも知れないですが正論ですね」 
 親方もこう言うのでした。
「やっぱりその三つがないとです」
「お相撲をしてもですね」
「何の意味もないですね」
「ましてや暴力はです」
 先生はこのことについては特に言うのでした。
「あってはなりません」
「絶対にですね」
「僕はそう考えています」
「昔から相撲部屋では指導としてです」
「よくですね」
「竹刀で殴る等の行き過ぎた指導がありまして」
 そうしたことがあったというのです。
「死んだ話もありました」
「その話は僕も聞いています」
「それが問題になっていまして」
「ではそちらでも」
「戒めていますが」
 親方は難しいお顔になっています、そうして先生にお話するのでした。
「しかし」
「それでもですか」
「そうしたお話がどうしてもありまして」
「角界でも、ですか」
「どうにかしなければというお話になっています」
「暴力は何も生み出さないですからね」
 先生はご自身お考えを言うのでした。
「本当に」
「全くですね」
「はい、暴力では何も解決しません」
 また言う先生でした。
「むしろ逆です」
「問題が起こるだけですね」
「そうです、ですから」
「先生もですね」
「僕は絶対にそれはしません」
「そうなのですか」
「殴られたら痛いですね」
 先生は強い声で言いました、このことは。
「それこそ」
「はい、本当に」
「自分が痛いならです」
 それならとです、先生はさらに言います。
「最初からするべきではないので」
「その通りですね」
「はい、しないです」
「先生の様な人が角界に多ければ」
 親方は遠いお顔になって先生に言いました。
「角界もよくなるでしょうね」
「いえ、僕はそんな」
「一人一人の力は小さくても」
 それでもというのです。
「多くの人が集まれば」
「そういうことですね」
「はい、ですから多ければ」
 本当に先生の様な人が多ければというのです。
「角界もよくなっています」
「より、ですか」
「はい」
 こうお話するのでした、そしてです。
 試合がはじまりました、それは結構以上にです。
 激しいものでした、その練習を見てでした。先生と一緒にいる動物の皆もかなり真面目に言います。まずはオシツオサレツが言います。
「激しいね」
「身体と身体のぶつかり合いだね」
 ここでも二つの頭で言います。
「これじゃあ怪我もね」
「気をつけないと」
「うん、稽古の時から思っていたけれど」
 ホワイティも言います。
「激しいね」
「ここまでぶつかると」
 トートーは心配そうに見ています。
「本当に怪我が起こりそうになるね」
「だから先生は柔軟体操とかを大事にって言ったんだね」 
 ダブダブも土俵の勝負を凝視しています。
「怪我をしない様にって」
「事前に身体をほぐして温めて」
 ジップも座って見ています、じっくりと。
「そうすればいきなりするよりずっといいからね」
「そこまで考えているから」
 ガブガブも見ています。
「部員さん達のことをね」
「先生は勝敗よりもね」
「部員の人達のことを考えているから」
 チープサイドの家族は先生も観ました。
「怪我をしない」
「そのことが念頭にあっての指導ね」
「こんな激しいぶつかりだと」
 チーチーもこうした考えでした。
「本当に怪我が多くなるよ」
「怪我をしない為には」
 ポリネシアが言うことはといいますと。
「事前のしっかりとした柔軟と食事もだね」
「そうしたこともしてから」
 最後に老馬が言いました。
「お相撲が出来るんだね」
「本当に怪我をしたら駄目だから」
 先生はその動物の皆にお話しました。
「だからね」
「それでだね」
「まずは柔軟をじっくりとしてもらったんだね」
「食事も変えて」
「怪我をしない様に」
「そうなんだ、どうやらね」
 また言った先生でした、勝負を見つつ。
「それがよかったみたいだね」
「怪我をしないね」
「それがいいね」
「それじゃあね」
「このまま最後までね」
「怪我をしない様に」
「うん、そうしていけばいいね」
 先生は最後の最後まで誰も怪我がない様にと思うのでした、ただ勝負自体には特に何も言わないのでした。
 部員の人達にはです、こう言うだけでした。
「試合の内容はね」
「どう勝負をするかはですね」
「そのことは」
「うん、君達に任せるって言ったしね」
 それでというのです。
「言わないよ」
「そうですか」
「じゃあこのままですね」
「試合自体は僕達が進めていく」
「自主的に」
「僕は監督だけれど」
 それでもというのです。
「お相撲自体はしたことがないからね」
「だからですね」
「お相撲自体はですね」
「僕達でしていく」
「そういうことですね」
「そう、だからね」
 穏やかな笑顔での言葉でした。
「そちらは頼むよ」
「わかりました」
「じゃあ僕達で進めていきます」
「そうしていきますね」
「そうしてね、試合の後は」 
 先生はそれからのことも言うのでした。
「大切なことはね」
「はい、最後の最後までですよね」
「練習がありますけれど」
 相手の部との合同のです。
「その時もですね」
「気は抜かないで」
「怪我にも気をつけて」
「スポーツマンシップも守る」
「そして楽しくね」 
 このことは先生が言いました。
「していってね」
「わかりました」
「じゃ最後の最後まで、です」
「本当にそうしていきます」
「その三つを守って」
「やっていきますね」
「そうしていってくれると嬉しいよ」
 先生もというのです、こうお話してでした。
 皆は真面目に勝負をしていきます、勝負はあちらの大学が勝利数で勝ちましたが先生はこう言ったのでした。
「いい勝負だったね」
「こっちが負けたけれど」
「それでもだね」
「先生としてはだね」
「よかったんだね」
「怪我がなくてね」
 それでというのです。
「しかも楽しくスポーツマンシップを守ってだったから」
「よかった」
「そうなんだね」
「しかも楽しく出来たから」
「よかったんだね」
「うん、いい試合だったよ」 
 動物の皆にも笑顔で言うのでした。
「とてもね」
「そこが先生のいいところだね」
「勝敗じゃなくて怪我とかスポーツマンシップを見ることがね」
「よく負けたとか動きが悪いって怒る先生がいるけれど」
「怒って殴ったり蹴ったりする人が」
「僕はそうした人になりたくないから」
 先生にとってはそうした人は最大の反面教師なのです、絶対にそうした人になってはいけないと強く思うだけの。
「だからね」
「いつもだね」
「気をつけてるんだね」
「そこは」
「そうだよ、そんなことでも他のことでも暴力は振るわない」
 先生のポリシーです。
「僕は強く思ってるからね」
「先生は本当の意味で紳士だね」
「人の痛みもわかってるから」
「勿論僕達動物の痛みもね」
「よくわかってるしね」
「人も動物も同じ命だから」
 先生の考えの一つです、この価値観も。
「だからね」
「絶対にだね」
「そこは守って」
「そして誰も殴ったり罵ったりしない」
「そうなんだね」
「自分がされて嫌なことはしないことだからね」
 こうも言うのでした、動物の皆にも。
「何といってもね」
「そこを守ること」
「自分が嫌なら人にもしない」
「暴力もね」
「そういうことよね」
「うん、やっぱりそうした人がいるけれど」
 意地悪で自分がやられて嫌なことを他の人にもする人はです。
「僕はそうしたことは絶対にすべきじゃないってね」
「それが紳士だよ」
「本当の意味のね」
「幾ら服を整えてマナーがよくても」
「心が悪いと」
 もうそれでというのです、動物の皆も。
「紳士じゃないよ」
「紳士はそうしたことを弁えてこそだよ」
「本当の意味で紳士だよ」
「そうなるよ」
「僕は紳士でありたいとは思っていても」
 先生が言うにはです。
「意地悪はしない様にしてるからね」
「というか意地悪な人ってね」
「暴力を振るう人も」
「それだけで付き合いたくないから」
「僕達にしてもね」
「先生にはそういうことがないからだよ」
「こうしてずっと一緒にいるんだよ」
 家族としってです。
「いつもね」
「いい人だから」
「それに放っておけないしね」
 先生のこうしたことについても言うのでした。
「先生ってね」
「生活力はないから」
「それに世間知らずだし」
「要領も悪いし」
「家事はさっぱりだからね」 
 学問については万能と言ってもいい人です、ですがそれでもなのです。先生はスポーツや家事についてはさっぱりなのです。
 それで、です。動物の皆もなのです。
「僕達がいないとね」
「どうなるかわからないから」
「サラさんも結婚しちゃったしね」
「僕達とトミー、王子がいないとね」
「有り難いことにね」
 先生が言うにはです。
「僕の周りにはいつも誰かがいてくれるんだよね」
「皆先生が好きだからだよ」
「それで放っておけないから」
「しかも謙虚だし、先生」
「図々しくもないから」
「図々しいのはね」
 先生にとってはです。
「僕もね」
「あまり、だね」
「好きじゃないんだね」
「そうしたことも」
「どうにも」
「図々しいとね」
 先生が思うにはです。
「あまりいい感じがしないから」
「そうだよね、そういうのもね」
「何この人って思うから」
「いきなり人の家に上がり込んできてお茶淹れろとか言われるとね」
「いい気がしないよ」
「そうした人を見ると」
 このこともどうしてもというのです。
「どうかなって思うから」
「先生は図々しくはしない」
「そうした態度は取らないんだね」
「謙虚でいるんだね」
「そうあるようにしてるんだ」
 実際にというのです、そしてです。
 先生は相撲部の皆の試合を観てです、微笑んで言いました。
「うん、いいね」
「いい感じだよね」
「皆怪我をしていないし」
「スポーツマンシップも守ってるしね」
「最高だよ」
 こうも言った先生でした。
「皆何も言うことはないよ」
「スポーツマンシップを守るだね」
「何といっても」
「それを守らないと駄目」
「どれだけ勝ってもだね」
「そうだよ、僕は勝敗はどうでもいいんだ」
 確かに大事でもです。
「最優先すべきは怪我をしない、楽しんで」
「スポーツマンシップを守る」
「そのことだね」
「そうだよ、皆スポーツマンシップを守ってくれて嬉しいよ」
 心から言う先生でした、そして。
 先生は最後の試合が終わってです、相撲部の皆に言いました。
「皆最高だったよ」
「試合は負け越しましたけれど」
「全体で見ますと」
「それでもですね」
「怪我はしなくてスポーツマンシップも守っていたから」
「よかったんですね」
「うん、よかったよ」
 何といってもというのです。
「僕は何も言うことはないよ」
「スポーツマンシップを守ること」
「スポーツをするなら絶対ですね」
「それを行ってですね」
「やるべきだから」
「よかったよ、本当に何も言うことはないよ」
 全く以てというのです、そして。
 先生は皆にです、こうも言ったのでした。
「じゃあ後の稽古もね」
「怪我をせずですね」
「楽しんでそして」
「そこでもスポーツマンシップを守ることですね」
「そうしてくれるね」
 笑顔での問いでした。
「最後の最後まで」
「はい、そうさせてもらいます」
「先生が僕達に教えてくれた通りにします」
「そうします」
「そうしてくれたらもう何もないよ」
 先生から言うことはです、こうしたことをお話してでした。
 相撲部の皆は稽古も楽しみました、スポーツマンシップも守って。先生はその皆が怪我もなく稽古をしていることにも満足しています。
 そしてです、稽古の後で柔軟体操もしてでした。
 相手チームの親方さんが先生にこう言ったのでした。
「先生、稽古の後はです」
「はい、お風呂ですね」
「力士はお風呂です」
 シャワーよりもというのです。
「そしてその後は」
「ちゃんこですか」
「皆で食べましょう」
 ちゃんこをというのです。
「食材はこちらも用意しています」
「そうなのですか」
「稽古の後はちゃんこです」
 何といってもというのです。
「お風呂とです」
「お風呂はうちの学園にいいお風呂があります」
「はい、八条学園はそちらの設備も整っていますね」
「ですから」
「そのお風呂に入って」
「ちゃんこですね」
「すぐに作りましょう、ちゃんこ鍋を」
 親方は先生に笑顔で言うのでした。
「一回生達に作らせます」
「いやいや、そうしたことはです」
 先生は親方にこう返しました。
「皆で作りましょう」
「四回生達も入れてですか」
「僕達もです」
 先生達もというのです。
「一緒に作りましょう」
「我々もですか」
「皆でやればすぐに出来ますし負担も小さいです」
「だからですか」
「それにお掃除も調理も皆でやる」
「それがいいとですね」
「僕は考えていますので」
 後輩の人が雑用を全部することは先生は反対です、そうしたことは先生はしないです。体育会系によくあることは。
「ですから」
「皆で、ですか」
「しませんか」
「それもイギリスのお考えですか」
「いえ、僕の考えです」
 先生の、というのです。
「むしろイギリスですと」
「貴族だからですか」
「使用人の人達が何でもすることが多いです」
 実はというのです。
「ですが僕はそうした考えではなく」
「皆でする」
「そう考えています」
「だからちゃんこ鍋もですね」
「皆で作りませんか、各自出来ることをして」
「わかりました」
 ここまで聞いてです、親方も頷きました。
 そしてでした、皆がお風呂に入ってからです。ちゃんこ鍋となりましたが。
 先生の提案通り皆で作ります、上級生の人も親方も入れて。
 先生も動いていまが食材や道具を出すだけです、しかも落としても割れない様なものばかりです。それは動物の皆が指定しています。
「先生はガラスコップとか持たないでね」
「落とすからね」
「だからそこは注意して」
「絶対にね」
「ううん、何かね」
 その先生は少し苦笑いで言います。
「僕ってこうしたこともね」
「だって先生だから」
「実際にもの落としたりするから」
「見ているこっちが心配になるから」
「どうしてもね」
 雑用についてもというのです。
「落としても大丈夫なものしか持って欲しくないよ」
「包丁も持たないでね」
「先生お料理も出来ないから」
「出来るだけのことをしてね」
「いい?先生はね」
 ガブガブが言うにはです。
「出来ることだけをしてくれたらいいの」
「そう、動くなとは言わないけれど」
 チーチーは少し厳しい口調でした。
「出来るだけのことをしてね」
「先生は鈍臭いからね」
「それもかなりね」
 チープサイドの家族が見てもです。
「すぐにもの落とすし」
「つまづいたりも多いから」
「それで身体も大きいから」
 ジップは先生の大柄な身体のことも言います。
「目立つしね」
「先生はお鍋とか持って来てくれるかな」
 トートーは先生に具体的にして欲しいことを言いました。
「落としても大丈夫なものをね」
「お豆腐とかお魚は持たないでね」
 ポリネシアもかなり具体的に言います。
「落としたら形が崩れたり汚れて食べられなくなるから」
「先生、僕と一緒にお鍋を運ぼう」
 ダブダブは先生にお誘いをかけました。
「そうしようね」
「僕も出来ることをして」
 ホワイティも言います。
「手伝ってるから」
「出来ることをする」
「自分のね」
 オシツオサレツはそのホワイティが自分の背中に運び込む小さな道具だけでなく大きな道具も背中に乗せてもらって運んでいます。
「先生がいつも言ってる通りね」
「そうしたらいいし」
「じゃあ先生、出来ることをして」
 最後に老婆が先生に声をかけます。
「用意をしていこうね」
「うん、じゃあね」
 先生頷いてでした、そうして。
 出来ることをしていきます、作業は皆でした結果です。
 すぐに出来ました、そのちゃんこ鍋はといいますと。
「まあ寄せ鍋です」
「ソーセージと鱈入れてます」
「水餃子も入れてますよ」
「葱と菊菜、ほうれん草に椎茸を入れてます」
「あとしめじも入れてます」
「だしは昆布と鰹節です」
「いいね、昆布はね」
 昆布だしと聞いてです、先生は笑顔で言いました。
「凄くいいだしが出るんだよね」
「先生和食にも造詣深いですね」
「そうしただしのことも詳しいですし」
「いいお料理食べてます?やっぱり」
「うん、食べものでも幸せだよ」
 先生は力士さん達に笑顔で答えました。
「いつもね」
「美味しいものを食べて」
「それでなんですね」
「昆布だしも食べていて」
「お好きなんですね」
「そうなんだ、じゃあ皆で食べようね」
「最後はです」
 親方も言ってきました。
「おうどんですよ」
「お鍋に入れて食べるんですね」
「はい、そうです」
 まさにそれをというのです。
「最後は」
「〆ですね」
「そうです、〆としてです」
「おうどんですか」
「冷凍うどんを用意しています」
「冷凍うどんもいいですね」
 そのおうどんについてです、先生は笑顔で応えました。
「美味しいですね」
「冷凍うどんご存知ですか」
「はい」
 その通りという返事でした。
「日本に来て知りましたが」
「お気に召されましたか」
「お湯の中ですぐにほどけてしかもコシが凄いですね」
「それが冷凍うどんのいいところです」
「ですから」
 それでというのです。
「僕も好きです」
「そうですか」
「大好物の一つです」
「それは何よりです、では」
「はい、最後はですね」
「冷凍うどんを出しますので」
 こう笑顔でお話をしてです、そしてでした。
 皆でちゃんこ鍋を楽しく食べました、勿論最後の冷凍うどんも楽しみました。そして後片付けも皆でしてそうしてです。
 お互いに礼をして別れました、その後で解散となりました。すると先生は満面の笑みで言いました。
「何も悪いことのない最高の一日だったね」
「後はそれぞれの場所で休憩」
「お家や寮で、ですね」
「うん、それまでが練習試合だからね」
 それでというのです。
「最後まで気を抜かないでね」
「では」 
 皆笑顔で先生に応えてそうしてそれぞれの帰る場所に戻りました、先生もお家に帰りました。お家に帰った時に連絡がありましたが。
「うん、誰もね」
「無事にだね」
「帰ったんだね」
「よかったよ」
 その報告を聞いて動物の言うのでした。
「最後の最後まで誰も怪我をしなくてね」
「そうだね、今日はいい一日だったね」
「怪我もなくてスポーツマンシップも守られて」
「ちゃんこ鍋も美味しかったしね」
「いい一日だったね」
「全くだよ、ただね」
 先生はここで皆にこのこともお話しました.。
「僕はもうね」
「ああ、監督はね」
「終わりだね」
「そうなるね」
「本来の人が退院するから」
 だからというのです。
「代理の僕はね」
「これでお役御免になって」
「監督も終わり」
「そうなるね」
「そうなるよ」
 実際にというのです。
「これでね」
「先生にとってははじめての監督だったけれど」
「スポーツチームのね」
「中々大変だったけれど」
「それも終わりだね」
「無事に終われてよかったけれど」
 それでもとも言うのでした。
「ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「寂しいね」
 監督のお仕事が終わってというのです。
「楽しかったけれど」
「その楽しかったことが終わるから」
「だから残念なんだね」
「そうなんだね」
「そうだよ」
 まさにという返事でした。
「終わると残念だね」
「最初はどうなるかわからなかったけれど」
「楽しかったね」
「その楽しい監督のお仕事が終わって」
「先生も寂しいんだね」
「そうだよ、緊張して気も使ったけれど」
 それでもというのです。
「終わるとなるとね」
「寂しくて」
「それでだね」
「先生今思うんだね」
「そうだよ、けれどまたこうした機会があったら」
 その時はというのです。
「やらせてもらおうかな」
「いいと思いますよ」
 晩御飯の用意をしているトミーが言ってきました。
「監督をやられても」
「そうなんだね」
「何でしたらリトルリーグの監督とか」
「野球だね」
「サッカーでも」
「スポーツチームのだね」
「子供達のチームですが」
 トミーは先生にそうしたチームを紹介するのでした。
「監督のお願いが来たら」
「引き受けたらいいっていうんだね」
「そう思いますがどうですか?」
「そうだね」
 腕を組んでです、先生はトミーに答えました。
「楽しかったし今寂しいって思うから」
「野球やサッカーのことはご存知なくても」
「したことないけれどね」
 とにかくスポーツをしたことはない先生です。
「それでもだね」
「はい、しましょう」
「その機会があれば」
「そうしましょう」
「野球の監督というと」
 先生はリトルリーグから考えるのでした。
「日本でよく話題になってるね」
「サッカーもそうですね」
「うん、何かとね」
「先生も野球チームの監督に」
「ユニフォームを着なくても」
「いいと思いますから」
「怪我をしない、楽しくやる」
 先生は自分の指導方針を言いました。
「そして何よりもね」
「スポーツマンシップを守るですね」
「僕はそれ位しか教えられないけれど」
「いえいえ、そうしたことこそですよ」
「教えるべきことだっていうんだね」
「子供達に」
 まさにというのです。
「ですから」
「それで、なんだね」
「先生は人を教えられる人ですよ」
 トミーは先生のこうしたこともよくわかっています、先生は実際に教え上手な人でもありますので。
「ですからいいと思います」
「じゃあまたこうしたお話が来たら」
「やってみて下さい」
「それじゃあね」
 先生はトミーの言葉に頷きました、そしてです。
 この日の晩御飯も食べました、今日はカレイの煮付けに若布と揚げのお味噌汁に野菜炒めです。そのメニューを見てです。
 先生は作ってくれたトミーに笑って言いました。
「カレイいいよね」
「はい、今日は安かったので」
「スーパーで安売りだったからだね」
「お野菜もです」
 野菜炒めのお野菜もというのです。
「それで買ってきてです」
「作ってくれたんだね」
「そうしました」
「いいよね、カレイって」
「美味しいですよね」
「うん、特に煮るかね」
 今みたいにです。
「唐揚げにしたらね」
「美味しいですよね、ですから」
「今日は煮たんだね」
「お醤油でそうしました」
「わかったよ、それじゃあね」
「はい、食べましょう」
「それじゃあね」
「あとデザートもあります」
 トミーは先生にさらに言いました。
「そちらも」
「そうなんだ」
「羊羹です」
「ああ、羊羹だね」
「羊羹お好きですよね」
「好きになったよ」
 このことも日本に来てからです。
「和菓子はどれもいいね」
「それで羊羹もですね」
「うん、好きだよ」
 実際にという返事です。
「それじゃあね」
「はい、最後は羊羹で」
「食べようね」
「羊羹もいい食べものですよね」
「美味しいお菓子だよ」
 先生は羊羹も好きになったからこうも言います、そしてその羊羹を食べることも楽しみにすることになりました。
 そしてです、こうしたことも言いました。
「あとね」
「あと?」
「お茶は何かな」
「緑茶です」
「そちらだね」
「お抹茶は目が冴えて寝られなくなりますから」
「だからだね」
 先生もそう聞いて納得しました。
「確かにお抹茶は目がかなり冴えるよね」
「コーヒーより効きますよね」
「カフェインの量が多いからね」
「だからですよね」
「そう考えるとね」
「緑茶の方がいいですよね」
「僕もそう思うよ」
 実際にとです、先生は答えました。
「それじゃあね」
「はい、デザートの時は」
「緑茶も楽しみにさせてもらうよ」
「それじゃあ」
 こうしたこともお話してでした、そして。
 先生は和風デザートも楽しみにするのでした、その美味しい晩御飯を食べながら。



遂に練習試合の日が来たか。
美姫 「結果は少し残念だったけれどね」
でも、相撲部の人たちも先生には感謝していたしな。
美姫 「そうよね。良かったと思うわよ」
これで先生の監督もお終いか。
美姫 「ちょっと残念だけれどね」
先生も楽しめたみたいだし。
美姫 「そうね。それは何よりよね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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