『ドリトル先生の名監督』




                 第七幕  練習試合

 先生は動物の皆と一緒に相撲部の人達の稽古を見て必要とあれば相談を受けて顧問として活動していました。
 それで、です。研究室でもお相撲の本を読むことも多くなりました。
 研究室のテーブルの上のお相撲の本を見てです、学生の人達は先生に目を瞬かせて尋ねました。
「あれっ、先生がお相撲ですか」
「お相撲に興味が出来たんですか」
「じゃあお相撲されるんですか?」
「先生が」
「いや、僕はしないよ」 
 このことは断る先生でした。
「そうしたことはしないよ」
「そうですよね、先生はスポーツはされないですからね」
「特に何も」
「スポーツは苦手だっていつも仰ってますし」
「だからですよね」
「しないけれどね」 
 それでもというのです。
「観ることはあるし今は顧問だからね」
「顧問、ですか」
「お相撲の」
「そう、この大学の相撲部のね」
 まさにというのです。
「臨時だけれど顧問をしているから」
「だからですか」
「お相撲の本を読まれてですか」
「勉強されてるんですね」
「そうなんですね」
「うん、そうしてるんだ」
 だからお相撲の本を読んでいるというのです。
「最近ね」
「じゃあ学者として、医師としてですか」
「お相撲を勉強されて」
「それであちらにもアドバイスとかされてるんですか」
「そうされてますか」
「僕は実際にはお相撲はしたことがないよ」
 それこそ一度もです。
「スポーツは苦手だけれど特に格闘技の系列は駄目だからね」
「先生の性格だとそうですね」
「人を殴ったり蹴ったりとか絶対に無理ですよね」
「そうしたことは」
「もう絶対に」
「格闘技は暴力じゃないけれどね」
 それでもというのです。
「そうしたことは絶対に出来ないよ」
「ボクシングや柔道も」
「それにレスリングも」
「当然暴力はね」
 もう先生にとってはです。
「絶対に出来ないよ」
「それはいいことですね」
「暴力は相手を傷付けるだけですからね」
「そんなの振るっても何にもなりませんよね」
「暴力を振るう人は弱い人だよ」
 このことも先生の中にある確かな考えです。
「何も生み出さないし本当に他の人を傷付けるだけの」
「そうしたものでしかないですね」
「例え力が強くても振るってはいけない」
「それが暴力ですね」
「そうだよ、それで解決するものはないよ」
 先生は確信しています、暴力はそうしたものだと。
「鞭は必要ないよ」
「だから暴力は否定されてますね」
「そうなんですね」
「自分を守る力は必要だけれど」
 それでもなのです。
「暴力は駄目だよ」
「そして格闘技はですね」
「暴力じゃないですね」
「スポーツですね」
「うん、けれどスポーツの中でもね」 
 どうしてもというのです。
「僕はそちらが特に駄目なんだ」
「だから出来ないんですね」
「それでも観ることは出来る」
「だからですね」
「顧問をされてるんですね」
「そうなんですね」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「だからなんだ」
「お相撲の本を読まれて勉強されてる」
「そうですか」
「うん、こうして学んでみるとね」 
 これがというのです。
「奥が深い武道だね」
「そうですね、歴史も長いですし」
「日本の国技ですしね」
「技も多くて」
「習わしとかも何かとあって」
「うん、学べな学ぶ程ね」
 それこそというのです。
「知ることがあるね、例えば」
「例えば?」
「例えばっていいますと」
「うん、織田信長さんも好きだったね」
 戦国大名だった人です、戦国の世を終わらせる天下人にさえなっています。
「あの人もね」
「何か相当お好きだったみたいですね」
「よく観戦もされて」
「力士の人に褒美を与えたとか」
「そんな話もありますね」
「うん、武士の鍛錬にも使われていたしね」
 お相撲はです。
「励むものだったし神事でもある」
「そうそう、お相撲って神事でもあるんですよね」
「力士さんと神主さんって近いんですよね」
「そうしたこともですね」
「学んでいくとわかりますよね」
「うん、そうしたことも勉強して」
 そうしてというのです。
「色々わかってきたよ」
「お相撲のことがですね」
「そうなんですね」
「何かと」
「そうなんですね」
「うん、お相撲は面白いね」
 実に、という口調で言いました。
「学んでいて思ったよ」
「お相撲は出来なくても学ぶことは出来る」
「そうなんですね」
「それでお相撲の本も読まれて」
「相撲部でもお話されてますか」
「そうなんだ、ただ僕は褌はね」
 ここで苦笑いになった先生でした。
「あれは着けないね」
「お相撲をされないからですね」
「だからですね」
「うん、それにね」 
 さらにというのです。
「力士さんの褌もそうだけれど普通の褌もね」
「無理ですか」
「穿かれないですか」
「トランクスだね」
 先生の下着はというのです。
「そちらだからね、僕は」
「ボクサーパンツでもないですか」
「最近流行りですけれど」
「どうもそうしたお洒落な下着はね」
 先生にとってはというのです。
「僕は無理だね、褌もお洒落だけれど」
「褌ってお洒落ですか?」
「そうですか?」
「別にそうは思わないですけれど」
「褌がお洒落とは」
「特に」
「いやいや、日本の昔の下着としてね」
 つまり日本の服としてというのです。
「お洒落だと思うよ」
「イギリスの方から見てですか」
「そうなんですか」
「そう、あれはお洒落だよ」
 褌はというのです。
「どうも僕はお洒落には縁がないからね」
「いつもスーツですけれど」
「それも清潔でしっかりとした」
「それでもですか」
「お洒落にはですか」
「意識したことはないよ」
 スーツと帽子のいつもの服、お家の中のどてらや作務衣の時もというのです。
「ちゃんとした身なりは意識してるけれどね」
「礼儀正しくですね」
「そうしたお考えから」
「うん、だからスーツだけれど」
 いつもそうした服である理由はというのです。
「けれどお洒落はね」
「縁がない」
「そういうことですか」
「そうだよ、僕はね」
 どうにもというのです。
「お洒落には縁がないよ」
「正装とお洒落は別」
「そういうことですね」
「そう思ってるよ、どうもお洒落は柄じゃないから」
 だからとです、またお話する先生でした。
「褌もなんだ」
「褌もお洒落と思われてるから」
「それは穿かれないですか」
「そうなんですね」
「日本の服はとてもお洒落だね」
 またこう言った先生でした。
「着物も履きものもね」
「どれもですか」
「お洒落ですか」
「時代劇なんか観たらうっとりするよ」
 あまりにもお洒落だからというのです。
「歌舞伎もね」
「歌舞伎の服もですか」
「そちらもお洒落ですか」
「日本の着物は」
「江戸歌舞伎の助六になると」
 この人はといいますと。
「あんな格好いい人はいないね」
「ええと、あの黒の着流しで」
「紫の鉢巻に蛇の目傘に高下駄に赤褌」
「あの格好がですか」
「あれは最高だよ、あんなお洒落な人はそうそういないよ」
 先生は学生さん達に笑顔でお話します。
「あの助六の褌を見てるとね」
「その赤い褌ですか」
「それがあまりにもお洒落で」
「だからですか」
「先生はそう思われてるんですね」
「僕には褌自体が無理だよ」 
 それこそというのです。
「もうね」
「僕達も穿いてないですけれど」
「今は大抵トランクスかボクサーで」
「ブリーフも殆どないですね」
「どちらかですね」
 トランクスかボクサーパンツかというのです。
「ですが褌はお洒落」
「他の国の人から見ればですか」
「そうでもあるんですね」
「そうだったんですね」
「僕は作務衣もお洒落だと思うよ」 
 お家の中で着ているそれもというのです。
「あれもね」
「作務衣もですか」
「あれも」
「うん、いい作業服だね」
 そのデザインもというのだ。
「あれはね」
「いいデザインの作業服ですか」
「作務衣も」
「そうなるんですね」
「日本の格好いいデザインの作業服」
「そうなるんですか」
「僕はそう思うよ」
 微笑んでです、先生は学生さん達にお話しました。イギリス人として。
「作務衣も他の日本の服もお洒落だよ」
「それで褌もですか」
「お洒落な下着ですか、先生にとっては」
「そうなりますか」
「うん、着けるのも難しそうだけれど」
 それと共にというのです。
「僕にはお洒落過ぎるね」
「そこであえてお洒落に向かったらどうですか?」
 お洒落に及び腰の先生にです、学生さん達のうちの一人が言いました。
「ここは」
「お洒落に凝ってはというんだね」
「はい、そうされては」
「どうだろうね」
「そもそもスーツもです」
 先生がいつも、そして今も着ている正装はというのです。先生はいつもしっかりとネクタイを締めて帽子も革靴も身に着けています。
「お洒落ですよ」
「いつもきちんとした身なりをしないとね」
「イギリスではですか」
「うん、学者として相応しくないって言われてるからね」 
 今もというのです。
「こうした身なりをしてるけれど」
「お洒落じゃなくて」
「エチケットかな」
 イギリスのそれだというのです。
「僕の身なりはね」
「お洒落じゃなくてですか」
「僕はそう考えてるよ」
「スーツの上を脱がないことも」
 つまり上がシャツだけにならないこともです。
「エチケットですか」
「イギリスではホワイトカラーはね」
「ブレザーも脱がないんですね」
「そうなんだ」
「そうですか、日本とは違いますね」
「そうだね、イギリスがそこは厳しくてね」
 それでというのです。
「僕もそれに倣ってるんだ」
「そうですか」
「だからお洒落じゃないよ」 
 先生のいつものスーツはです。
「別にね」
「じゃあお洒落もですか」
「先生には縁がない」
「そうなんですね」
「ご自身が言われるには」
「そうだよ、僕にはお洒落は縁がないから」
 それでとです、また言った先生でした。
「着物も遠慮しているんだ」
「ううん、確かに着物って動きにくいですし」
「褌も着ける人滅多にいなくなりましたけれどね」
「けれどお洒落ですか」
「褌もまたそうなんですね」
「あのお洒落さはね」
 まさにと言う先生でした。
「日本文化の粋だよ」
「粋ですか」
「そこまでのものですか」
「昔はどの国でも下着は大体ああだったと思いますけれど」
「日本の褌は、ですか」
「うん、あれは僕には無理だよ」
 本当にお洒落だからというのです。
「遠慮しておくよ」
「ですか、けれど先生お洒落はされないっていいますけれど」
「いつもスーツですし」
「エチケットとのことですけれど」
「身なりはきちんとしてますね」
 学生さん達は今度はこのことを言いました。
「紳士ですよね」
「その服装は」
「やっぱり学者だしね」
 そしてお医者さんだからです。
「こうした身なりなんだ」
「いつもスーツで」
「そうされてるんですね」
「そうなんだ、夏でもね」
 ブレザーは脱がないのです。
「そうしてるんだ」
「夏は暑くてもですか」
「大丈夫ですか」
「僕はそんなに汗をかかないからね」
 そうした体質ではないというのです。
「暑がりでもないから」
「夏にブレザーでも平気ですか」
「そうなんですね」
「特にですね」
「そうしなくてもいいんですね」
「そうなんだ、だから夏でもブレザーだよ」
 そして冬にはコートを着ます。
「そうしているんだ」
「ですか、それで相撲部の方はですか」
「顧問としてですね」
「ちゃんとですね」
「部活に出ておられるんですね」
「そうしてるよ、今日も行くよ」
 部活にとです、先生は微笑んで答えました。
「皆の頑張りを観にね」
「じゃあ部活では竹刀を持って」
「それで監督ですね」
「竹刀?持ったことはないよ」
 それこそ一度もとです、先生は学生さん達にすぐに答えました。とんでもないといったお顔にもなっています。
「ましてやそれで叩いたことはね」
「ないんですか」
「相撲部屋では常ですけれど」
「竹刀で叩いて指導するって」
「そうはされないんですね」
「体罰は駄目だよ」
 先生はここでご自身の持論を出しました。
「暴力は何も生み出さないよ」
「先生暴力お嫌いですしね」
「もうこれ以上はないまでに」
「だから相撲部の部活の時もですか」
「竹刀を持たずにですか」
「体罰、暴力も」
「絶対にしないよ」
 それこそというのです。
「何があってもね」
「そこにおられても」
「指導はされてもですね」
「暴力は振るわれない」
「いつも通りですか」
「皆暴力を振るわれたくないよね」
 先生は学生さん達に確認しました、動物の皆も一緒ですが皆は今は研究室でそれぞれ寝たりくつろいでいたりしています。
「そうだね」
「はい、やっぱり」
「殴られたりしたら痛いですし」
「罵られることも嫌です」
「そうしたことは」
「そうだね、自分がされて嫌ならね」
 先生はまた皆に言いました。
「もうね」
「それならですね」
「絶対に自分もしない」
「そうしないといけないですね」
「そうだよ、それに暴力はね」
 それこそはというのです。
「人をそれで従わせたり八つ当たりの為に行うね」
「大抵の人がそうですよね」
「暴力を振るう人はですね」
「いつもそうしますね」
「殴ったり蹴ったりして」
「そして罵って」
「それは弱い人のすることだから」
 先生はこうも考えているからです、そしてというのです。
「僕は暴力は絶対に振るわないよ」
「自分が弱い人って自分で言ってる様なものでもあるから」
「だからですか」
「暴力は振るわない」
「そうした意味もありますか」
「体育会系にはよくあるけれど」 
 日本のです。
「それはよくないよ」
「桑田さんも言ってますしね」
「暴力は何もならないって」
「卑怯だって言ってますね」
「反撃出来ない相手だからするって」
「桑田さんは僕も名前や発言を知ってるよ」
 元野球選手でピッチャーでした、この人は理知的で冷静なことで知られています。先生も学者として注目しているのです。
「いいことを言ってるね」
「科学的な考えする人ですからね」
「高校時代からスポーツに真面目で」
「苦労もされてますし」
「いいことを考えてますよね」
「桑田さんの言う通りだよ」
 まさにとです、また言った先生でした。
「暴力は卑怯でもあるよ」
「抵抗出来ない相手だから殴る」
「立場や力が上であることをいいことにしてですか」
「親方や先生や先輩がそうする」
「だからですね」
「そうした人こそ自分より強い相手には低姿勢だからね」
 立場や力がです。
「そして逆らわないね」
「ですね、先輩とかには」
「そうした人には絶対服従ですね」
「そして後輩や生徒に暴力を振るいますね」
「うん、顧問の先生の体罰、暴力の話も多いけれど」
 日本にはとです、先生はこのことには心から残念そうなお顔で言います。そのことを知っているからこそです。
「立場や力が上だからするからね」
「腕力や罵りで従えさせる」
「恐怖で、ですね」
「それって全体主義国家と同じですね」
「変わらないですね」
「そうだよ、一緒だよ」 
 そうした国と、というのです。
「それこそね」
「だから余計にですね」
「したら駄目ですね、暴力は」
「誰に対しても」
「自分より立場や力が弱い人にそうしたら」
「絶対にね、僕はこのことをいつも心に留める様にしているんだ」 
 それこそというのです。
「絶対にしたらいけないことだと思っているからね」
「それで竹刀も持たれないで」
「見ているだけですか」
「そうされてるんですね」
「そうだよ、そんなことはしないよ」
 また心から言った先生でした。
「何処でもね」
「その先生のよさがですね」
「きっと誰からも好かれる理由の一つですね」
「公平ですし温厚で」
「しかも穏やかですから」
「これなら絶対にいい人来てくれますよ」
 学生さん達からこうした言葉も出ました。
「結婚相手に」
「そうそう、先生ならな」
「絶対にそうした人出て来るよな」
「もういるかもな」
「とっくに」
 こう学生さん達の間で言いますが先生はこの話題についてはもう答えが決まっています、それで笑って言うのでした。
「ははは、僕にはそれはないよ」
「またそう言われますけれど」
「先生は絶対にいい人と結婚出来ます」
「このことは間違いないです」
「もう近くにそうした人おられるかも知れませんよ」
「とてもいい人が」
「皆そう言うけれどね」
 それでもというのです。
「僕には一番縁がない話だからね」
「そうしたお話は」
「今もそう言われますけれど」
「それでもですよ」
「先生にはいい人が来てくれますから」
「やがては結婚されて」
「幸せな生活を営んで下さいね」
 今以上にというのです、こうしたお話をしてでした。
 先生に結婚のお話を勧めますが結局先生はその話題は笑ってないよと言うだけでした。ですが相撲部の土俵に向かう時にです。
 先生にです、今度は動物の皆が言いました。
「先生、本当にね」
「お洒落のことはいいとして」
「結婚のことはだよ」
「絶対に大丈夫だから」
「いい人傍にいるからね」
「皆もそう言うけれど僕に結婚はね」
 先生はこのことは変わりません、お考えが。
「一番縁がないからね」
「恋愛自体がだね」
「本当に縁がないっていうだね」
「他の何よりも」
「そうだっていうんだね」
「そうだよ、そんなことはないから」
 やっぱりこう言う先生でした。
「結婚はね」
「やれやれ、これはね」
「先生が気付いたらすぐだけれど」
「その気付くまでもね」
「大変だね」
「お見合いをしろってことかな」
 全く以て的外れなことも言った先生でした。
「つまりは」
「全然違うわよ」
 ガブガブも言います。
「先生、それは勘違いもいいところよ」
「本当に恋愛はね」
「先生駄目よね」
 チープサイドの家族も呆れる始末でした。
「恋愛小説は読んで論文書いても」
「先生自身の恋愛は駄目ね」
「誰が見ても駄目過ぎるよ」
 ジップもお手あげな感じです。
「気付かないにも程があるよ」
「僕でもわかるのに」
 こうしたお話では動物の皆の中でも一番縁がなさそうなダブダブも言います。
「先生のこのことはね」
「そう、誰でもわかることよ」
 ポリネシアも言うのでした。
「それこそ」
「それで気付かないとはね」
 ホワイティも困っています。
「やれやれだよね」
「青い鳥かな」
 トートーはこの童話を思い出しました。
「幸せはすぐ傍にある」
「というかそのままじゃない?」
「先生の場合もね」
 オシツオサレツも青い鳥と聞いて二つの頭で頷きました。
「幸せは傍にある」
「そのことに気付かないってことだね」
「先生は無欲ですぐに満足する人だけれど」
 老馬は先生のその資質はよしとしましたが。
「かえってそれが気付かなくさせてるんだよね」
「困ったことだよ」
 最後に言ったのはチーチーでした。
「今以上に幸せになろうとも思わないしね」
「今の僕は最高に幸せだよ」
 実際にそう思って疑わない先生です。
「お家も仕事もあって何よりも皆が一緒にいてくれてるんだ、それならね」
「もう青い鳥が一緒にいる」
「そうだっていうんだね」
「もう既に」
「だから最高に幸せなんだね」
「これ以上の幸せはないよ」 
 本当にこう言う先生でした。
「これで結婚はね」
「もうなんだ」
「望まないんだ」
「そうなんだね」
「これ以上の幸せはないから」
「そう言うんだね」
「うん、まあ結婚はしなくても」
 無欲のまま言う先生でした。
「僕は今で最高に幸せだよ」
「だから今以上に幸せにはなろうとしない」
「そうなんだね」
「これ以上はないから」
「思わないんだね」
「最高以上のものはないよ」
 全く以てというのです、そしてでした。
 先生はあらためてです、皆に言いました。
「もう僕は望むものはないよ」
「自分で最高と思ってもまだ上がある」
「世の中って上にも下にも際限がないでしょ」
「そうじゃないの?」
「先生自分は最高の幸せ者っていうけれど」
「幸せにも際限がない」
「そうじゃないの?」
 皆は言いますが先生は笑ってまた自分は最高に幸せだよと言うのでした、よくも悪くも無欲な先生なのです。
 そして皆と一緒にです、先生は土俵に来ました。皆もう柔軟体操はしっかりと終わってです。先生が来ると挨拶をしました。
 先生が挨拶を返すとです、部員の皆はこんなことを言ってきました。
「実は練習試合を申し込まれまして」
「大阪の方の大学から」
「あっ、そうなんだ」
 先生は部員の人達のお話に目を瞬かせました。
「練習試合のなんだ」
「はい、前から交流のある大学でして」
「そちらからまたしようってお話がきまして」
「先生の判断を伺いたいんですが」
「どうしましょうか」
「いいんじゃないかな」
 先生は皆にすぐに答えました。
「練習試合をしても」
「いいんですね」
「それじゃあ試合しますか」
「そうしますか」
「うん、そうしよう」
 あっさりと答えた先生でした。
「これも部活のうちだしね」
「そうですね、じゃあ向こうには連絡しておきますね」
「是非お願いしますって」
「その様に」
「それでね、ただ練習試合の時は」 
 先生は皆にあらためて言うのでした。
「僕も顧問として一緒だけれど」
「それでもですか」
「いつも通りですね」
「御覧になられてるだけで」
「指導はですね」
「試合の戦術とかはね」
 相手への戦い方等はです。
「言えないからね」
「あくまで、ですね」
「そうしたことはですね」
「出来ないからですね」
「そこは僕達でってことですね」
「そうしたことは任せてくれますか」
「うん、君達で考えてくれるかな」
 練習試合のない様はというのです。
「悪いけれど」
「いやいや、悪くないですよ」
「それならそうしたことはです」
「こちらでやらせてもらいますね」
「それお願いするね」
「はい、ただ」
 ここで部員さん達はこうも言うのでした。
「先生が練習試合いいって言ってくれるとは」
「どうかなって思ってましたけれど」
「いいって言ってくれましたね」
「よかったです」
「断る理由はないんじゃないかな」 
 先生は嬉しそうな皆にこう返しました。
「さっきも言ったけれど練習試合も部活でね」
「いい活動になる」
「だからですね」
「いいんですね」
「そう言ってくれるんですね」
「うん、問題なのは怪我をしなくて」
 そしてと言う先生でした。
「スポーツマンシップを守って楽しむことだから」
「だからですか」
「練習試合をしてもいい」
「そうなんですね」
「うん、スポーツは苦手な僕だけれど」
 だからそうした部活をしたことはなくてもです。
「こうしたことはいいと思うから」
「だからですね」
「認めてくれて」
「是非にって言ってくれたんですね」
「許してくれたんですか」
「そうだよ、後ね」 
 ここで、です。先生は皆にまた言いました。
「スポーツマンシップは守ってね」
「それだけは、ですね」
「怪我をしないようにして」
「スポーツマンシップは絶対に守る」
「そして楽しくですね」
「スポーツマンシップを守らないスポーツはね」 
 それこそというのです。
「もう何でもないと思うからね」
「相撲なら暴力になりますね」
「ただ単なる」
「そんなものでしかないですね」
「それこそ」
「そう、だからね」
 それ故にというのです。
「そこは守ってね」
「そうですね、武道ですからねお相撲も」
「だからそうしたことは守って」
「武道家らしくする」
「そのことは絶対ですね」
「そうしていってね、やっぱり武道もスポーツもね」 
 そうしたものはというのです。
「しっかりと守るべきところは守ってね」
「スポーツマンシップですね」
「僕はスポーツはしないけれど」 
 それでもと言う先生でした。
「子供の頃からスポーツマンシップについては物凄く教えてもらってたよ」
「イギリスだからですか」
「イギリス人だからですね」
「そのことは厳しかったんですね」
「教育で」
「日本もスポーツマンシップについてはよく教えているけれど」
 先生は部員の人達にお話します。
「イギリスもね」
「スポーツマンシップ発祥のお国ですしね」
「騎士道精神もありますし」
「だから余計に厳しいんですね」
「紳士はスポーツを嗜む人が多いけれどね」 
 先生も紳士と言われる程の人ですがスポーツは物凄く不得意なのでしないです、この辺りは人それぞれです。
「それでもね」
「まずは、ですね」
「スポーツマンシップを守る」
「それからなんですね」
「若しそうじゃないと」
 スポーツマンシップを守らないのなら。
「もうスポーツをする資格はないってね」
「スポーツをするならですね」
「それを守るべき」
「何があってもですね」
「さもないと格闘技なんてね」 
 ボクシングやそうしたものはというのです。
「あとラグビーもだね」
「ああ、ラグビーは特にですよね」
「あれはもう格闘技ですからね」
「そう言っていいものですから」
「だから余計にですね」
「そう、スポーツマンシップを守らないと」
 ラグビーの様な激しいスポーツで立派な体格をしている人はというのです。
「暴力になるからね」
「スポーツと暴力は違う」
「そういうことですね」
「要するにね、皆このことも大事にしてね」 
 こう言うのでした、そしてです。
 先生は相撲部の皆に念を押しました、そのうえで部室を後にそのうえで研究室に戻ってずっと一緒にいる動物の皆に言います。
「お相撲もルールを守らないとね」
「うん、ただの暴力になるからね」
「そこはちゃんとしないとね」
「投げたり張り合ったりするから」
「決まりは守らないとね」
「そうだよ、スポーツと暴力は違うからね」
 くれぐれもと言った先生でした、動物の皆にも。
「皆にも言ったんだ、後は皆のモラルだね」
「スポーツマンシップを守る」
「お相撲でもだね」
「それをしてくれるかどうか」
「それ次第ね」
「そう、それじゃあね」
 ここまでお話してでした、そのうえで。
 皆にです、こうも言いました。
「さて、それじゃあね」
「それじゃあ?」
「それじゃあっていうと?」
「いや、三時だから」
 それでというのです。
「ティータイムだよ」
「ああ、お相撲の話をしてたから忘れたよ」
「そういえばもう三時だね」
「それじゃあお茶だね」
「ティーセットも出そうね」
「お茶を忘れたらいけないよ」
 先生の場合は特にそうなのです。
「何といってもね」
「そこはね」
「先生は忘れないよね」
「十一時と三時はお茶」
「特に三時はだね」
「そう、三時のお茶はね」
 それこそというのです。
「ティーセットと一緒じゃないと」
「それも決まりだね」
「三時のお茶もね」
「ルールがあるからそれを守って」
「しっかりと飲むんだね」
「そう、楽しもうね」
 こうお話してです、そしてでした。
 先生はこの日もティーセットを楽しみました、ティータイムのルールをしっかりと守って。



本を読んだりして、先生も頑張っているな。
美姫 「みたいね」
特に問題もないみたいだし。
美姫 「相撲部の方は練習試合を申し込まれたみたいね」
だな。先生も頑張って指導しないとな。
美姫 「でも、三時にはやっぱりティータイムなのね」
らしいけれどな。
美姫 「確かにね」
次回はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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