『ドリトル先生の名監督』




                 第二幕  お野菜を食べて

 先生はこの日のお昼は八宝菜にもやしや人参が沢山入った中華風の野菜スープに御飯を食べていました。
 食堂で食べる先生にです、周りで一緒に食べている動物の皆が言います。
「先生お野菜もよく食べるよね」
「日本に来てからお野菜食べる量増えてるよ」
「果物にしてもね」
「ビタミンを沢山摂る様になってるね」
「うん、豆乳も飲んでるしね」
 この飲みもののこともです、先生は知ったのです。
「色々食べる様になって」
「だから健康になったね」
「食生活の面からも」
「食生活は大事だよ」
 実際にというのです。
「今は色々なものが食べられる様になったけれど」
「食生活はなんだね」
「その中で健康にいいものも食べる」
「そうしないといけないのね」
「お野菜も果物も食べて」
「豆乳も飲んで」
「そう、お肉やお魚も食べて」
 そちらも忘れない先生です。
「健康でないとね」
「身体にいいものをバランスよくだね」
「それも沢山食べる」
「そうしていくものだね」
「うん、食べ過ぎはよくないにしても」
 それでもというです。
「やっぱり健康の為にもね」
「お野菜と果物も沢山食べて」
「それで健康になる」
「そういうことだね」
「イギリスにいた時よりも気をつけてるね」
 健康的なお食事にです。
「僕はね」
「そうだよね、実際に」
「今もそうだしね」
「お野菜中心のメニューでね」
「楽しんでるよね」
「ティータイムの時も果物を食べることが多くなったね」
 その時もなのです。
「苺やオレンジをね」
「日本の苺って美味しくない?」
「うん、新鮮でね」
「しかも甘くて」
「大きさも手頃でね」
「日本の苺は何というかね」
 先生が言うにはです。
「生み出している人達の情熱の賜物でね」
「ああしてなんだね」
「とても美味しいんだね」
「大きさも手頃で」
「種類も多くて」
「そうだろうね、あと新鮮なのは」
 それはどうしてかといいますと。
「運んでくれる人達の賜物だね」
「その人達も働いてくれてるから」
「それも頑張って」
「僕達も新鮮な苺を食べられる」
「そういうことなのね」
「そうだよ、じゃあ今日のティータイムは」 
 先生は苺と聞いて思いつきました。
「苺を食べようか」
「他にも苺のお菓子を食べるとか」
「そうするのかな」
「そのつもりだよ、苺のケーキと苺のクレープ」
 やっぱり苺尽くしです。
「これと苺そのものでね」
「苺尽くしだね」
「それでいくんだね」
「そう、是非ね」
 こう笑顔で言う先生でした、御飯を八宝菜と野菜スープで楽しみながら。先生はこのお昼はお野菜を中心に食べてです。
 ティータイムは自分で言った通りに苺とそれのお菓子でした。それでミルクティーを飲んでです。その後で。
 牛乳も飲んでいるとです、ガブガブがこんなことを言いました。
「牛乳って凄く身体にいいんだよね」
「そうなのよね」
 ガブガブがダブダブに応えます。
「良質の蛋白質にカルシウム」
「それが豊富で」
「チーズとかもいいんだよね」
「そうなんだよね」
 ジップとホワイティもお話します。
「乳製品もね」
「バターやヨーグルトも」
「こうした乳製品も身体にいいから」
「食べるべきなのね」
 チーチーとポリネシアは先生が牛乳を飲んでいるのを見つつ自分達も飲んでいます。その美味しい牛乳を。
「僕達もそうしてるし」
「いいのね」
「身体にいい美味しいものを食べる」
「それが大事だってことだね」
「まさにね」
 オシツオサレツは二つの頭でトートーに応えます。
「健康の秘訣」
「長生き出来て丈夫な身体にもなる」
「それよね」
「長生きをするには」
「やっぱりね」
「食べることが大事ね」
 老馬とチープサイドの家族もお話します。
「そうしたものを食べないとね」
「長生きも健康もね」
「手に入らないわね」
「うん、牛乳もね」
 先生は牛乳を楽しみつつ動物の皆に応えます。
「身体にいいんだよね」
「先生牛乳そのまま飲んでなかった?」
「そうそう、農家にお邪魔した時にね」
「そうしたことしたよね」
「何度かね」
「うん、普通はあまりしたらよくないけれどね」
 先生もその時のことをお話します。
「あれが一番美味しいんだ」
「生の牛乳だね」
「採れたての」
「それが一番美味しいんだね」
「殺菌する前の」
「殺菌した方が衛生的にはいいけれど」
 それでもというのです。
「やっぱり牛乳はね」
「搾りたてだね」
「それが一番美味しいんだね」
「牛乳パックや瓶の牛乳よりも」
「そっちなのね」
「うん、ただお腹がそうした牛乳に慣れていないと」
 搾りたての殺菌していない牛乳にです。
「お腹を壊すよ」
「じゃあやっぱり殺菌は必要なんだ」
「その牛乳を飲んだ方がいいんだね」
「搾りたての牛乳よりも」
「一旦殺菌した方が」
「衛生的にはね、その方がいいし」
 先生はさらにお話します。
「それと高温殺菌で栄養が殺されるとかはね」
「実は違うの?」
「そうなの?」
「何か先生前に無農薬野菜やハウス栽培のお野菜の話もしてたけれど」
「それと一緒で」
「そう、確かに殺菌されてその分味が変わったりするけれど」
 それでもというのです。
「栄養が全然なくなるとかないから」
「何かそういうの主張してる漫画があるんだって?」
「日本に」
「何か自然食が駄目とか言ってばかりの」
「そうした漫画があるんだ」
「僕はあの漫画は否定しているよ」
 間違っているというのです。
「その主張の科学的根拠は間違ってるものばかりだから」
「そうだったんだ」
「そんな漫画だったんだ」
「間違った主張を垂れ流してる」
「そうした漫画だったんだね」
「その漫画は放射能被害のことも描いていたけれど」
 それでもというのです。
「鼻血出る位に放射能を浴びていたら大変だよ」
「死ぬ?」
「命の危険がある?」
「それこそ」
「そうなるのかしら」
「うん、すぐに病院に行かないと」
 それこそというのです。
「危ないよ」
「そうしたものなんだね」
「そういえばこの苺福島のものだね」
「福島の苺美味しいね」
「とてもね」
「勿論何も危険もないよ」
 その事故があった福島のものでもというのです、先生はその苺をとても美味しそうにぱくぱくと食べ続けています。
「僕は前から食べてるけれど」
「そうだね、何もね」
「僕達も食べてるけれどね」
「問題ないよね」
「そうだね」
「原発反対とかの主張は僕は何も言わないよ」
 先生はそうした政治的発言とはあまり縁がありません、政治学についての論文を書いたりもしますがあくまで公平です。
「ただ、それが言いたい為にね」
「そうした変なことを言うのはよくない」
「そういうことだね」
「先生が駄目と言ってるのは」
「うん、そして間違った知識を世に広めることは」
 先生は穏やかなお顔と声ですがしっかりと言います。
「やってはいけないことだよ」
「その漫画はそれをずっとしてきたんだね」
「もう何十年も」
「それって酷くない?」
「かなり悪いことだよ」
「その間違った知識を真に受けている人もいるから」
 それでというのです。
「その漫画の罪は重いよ」
「そうだよね、実際に」
「やってはいけないことをやってるよね」
「先生は絶対にそうしたことしないからね」
「間違った知識を世の中に広めることは」
「それは学者のすることでもないし」
 それにというのです。
「ものを書く、描く人のすることでもないよ」
「絶対にだね」
「そうしたことをしたら学者じゃないんだね」
「そしてものを書いたり描く人でもないんだね」
「そう、だから僕はあの漫画をもう読んでいないよ」
 一度読んでその瞬間に間違っていると確信してからです。
「間違っていることばかりだから」
「読んではいけない」
「そうなんだね」
「間違った本を読んではいけないんだね」
「その間違いを見破れる人でないと」
 それこそというのです。
「百害あって一利なしだよ」
「そういう本って何処にでもあるね」
「欧州でもあったしね」
「勿論イギリスでも」
「それで日本にもなんだね」
「あるのね」
「日本は特に漫画文化が発達していて」
 それでというのです。
「漫画の影響が大きいからね」
「インパクトがあるのよね」
「絵の方が文章よりもね」
「だから余計にね」
「印象に残って」
「頭に残るから」
「だから漫画で間違った知識を広めると」
 先生は紙パックの牛乳を冷蔵庫から出しました、そして。
 その牛乳を皆のお皿に入れて回ってです、そのうえで言うのでした。
「ヒットした作品だともうね」
「とんでもないことになるのね」
「その漫画みたいに」
「沢山の人が間違った知識を信じ込んで」
「そう、風評被害を日本全国に拡散している」
 まさにというのです。
「そうしたものだよ、まして日本はテレビの報道番組も酷いから」
 こちらも問題だというのです。
「間違った知識を広めている人が多い国だね」
「ううん、何かね」
「日本ってそうしたことする人多くない?」
「イギリスよりもね」
「そうした悪い人達が」
「他の国よりも」
 動物の皆も思うのでした。
「もの書いたりする人とかキャスターの人がそうだと」
「本当に騙される人多いよ」
「それで世の中大変なことになるんじゃ」
「騙された人が増えて」
「だから気をつけないといけないんだ」
 騙されない為にというのです。
「そのことはね」
「ううん、そこは困るね」
「日本ではね」
「そうしたことをする人が多いっていうのな」
「テレビとかね」
「テレビもね」
 それもと言う先生です。
「かなり気をつけないと」
「そういえば一方的な主張多くない?」
「日本のテレビって」
「特に報道番組ね」
「先生の言う通り」
「その漫画にも報道番組にも驚いたよ」
 また言った先生でした。
「これはおかしな宗教の宣伝なのかって」
「そこまで一方的で」
「おかしな主張ばかりなんだね」
「先生から見て」
「そうなんだね」
「うん、日本ではそのことに気をつけないと」
 先生は本気で心配して困っています。
「騙されて大変なことになるからね」
「先生にしてもなんだね」
「そうしたことは気をつけてるのね」
「ちゃんと」
「食べものについても」
「そう、そうした漫画や番組を見て知ったつもりになる」
 騙されたうえで、です。
「それが一番怖いことなんだ」
「そうしたことする人達って間違ってることわかってるのかな」
「そうよね、自分達で」
「間違ってたらすぐに訂正しないと」
「先生みたいに」
「どうかな、間違っていることをわかっていて」
 その上でと言う先生でした。
「やってる人も多いみたいだしね」
「つまり嘘吐き?」
「最初から騙すつもりでやってるの?」
「それって詐欺師なんじゃ」
「悪い人達よ」
「そうとしか思えない人もいるからね」
 ものを書く人、描く人やテレビに出ている人達の中にはです。何と嘘とわかっていて嘘を広めている人もいるというのです。
「余計に気をつけないと」
「詐欺師に騙されたらね」
「元も子もないからね」
「お金取られなくても」
「騙されて動かされたらね」
「詐欺行為はお金を取る場合だけじゃないんだ」
 よく巷にいる詐欺師です。
「騙して自分の思う様に人を動かそうというタイプもいるよ」
「おかしな宗教の人みたいに?」
「あと独裁者とか」
「そうした人達みたいになんだ」
「日本ではそうした詐欺師が多いんだ」
「みたいだね、若しその漫画に関わっている人達がそうなら」
 そうした悪質な詐欺師達ならというのです。
「とんでもない悪人だよ」
「全くだね」
「この福島の苺についてもそうしているのなら」
「物凄く悪い人達だよ」
「これ以上はないまでに」
 動物の皆も思うのでした、先生のお話を聞いて。そのうえで牛乳も楽しむのでした。
 そうしたお話をしてこの日も学問に励む先生でした、先生にとって学問はやっぱり最大の楽しみごとなのです。動物の皆と一緒にいるのと同じだけ。
 けれど次の日です、先生は休日でしたがお家に来た王子にこんなことを言われました。
「王子もなんだ」
「そう、今度の大阪場所をね」
 執事さんを横に座らせたうえで先生にお話します。
「観戦しに行くんだ」
「そうするんだね」
「実は日本の宮内庁の方からね」
「お誘いがあったんだね」
「大阪に皇室の内親王様が来られて」
「あっ、それでなんだ」
「一緒にどうかってね」
 観戦のお誘いが来たというのです。
「直接人が来てお話をしてきたんだ」
「凄いことだね」
「いや、日本の皇室からなんて」
 それこそというのです、王子も。
「夢みたいなことだよ」
「そうだね、日本の皇室の方と一緒の観戦なんて」
「凄いよ、とはいってもね」
 ここで王子は先生にこうもお話しました。
「僕これまでも何度かね」
「日本の皇室の方とだね」
「ご一緒させてもらったことがあるんだ」
「お誘いを受けてだね」
「来日して留学しているから」
 それでというのです。
「そうさせてもらってるんだ」
「王子は王国の太子だからね」
「昔から日本の皇室にはよくしてもらってるよ」
 勿論宮内庁にもです。
「凄くね、ただ」
「ただ日本の宮内庁はだね」
「あそこは厳しいね」
 こうしたこともです、王子は先生にお話します。
「あんな厳しいところないよ」
「それは僕もそう思うよ」
「イギリス人から見てもだね」
「うん、あんなに凄く厳しいところはないよ」
 先生から見てもです、本当に。
「ガードも固いしね」
「うちの王室とてもね」
「そちらの宮内省もだね」
「あんなに厳しくないし質素でもないから」
「日本の皇室は質素さでも有名だね」
「日本みたいな豊か国なのに」
 それでもというのです。
「あんなに質素なんてね」
「そのことも凄いね」
「質素過ぎて」
「王子は日本の皇室ではだね」
「いられないね」
 少し苦笑いになってです、王子は先生に言いました。
「とてもね」
「そこまで質素だね」
「僕にとってはね」
 それこそという言葉です。
「無理だよ」
「厳し過ぎて質素過ぎて」
「あそこまでしなくても」
「いいね」
「そう思うけれどね」
「あの皇室は違うんだ」
「そうした考えなんだね」
 王子は信じられないというお顔のままです、ぼやく様でしてそうしたお顔になっています。
「皇室たるものは」
「そう、教育は厳しくて」
「生活は質素なんだね」
「そうあるべきって考えなんだ」
「ううん、確かに王様だけが贅沢をしていたら」
 王子もこのことはわかっています。
「あまりね」
「よくないね」
「国民が困っている中でそんなことしてもね」
「童話の悪い王様みたいだね」
「全くだよ」
 それこそというのです、王子も。
「そんなことしたら」
「今でもそんなことをしている独裁者がいるね」
「あの人を見ていたらね」
「嫌な気持ちになるね」
「本当にそうだよ」
 王子も言うのでした。
「あんな人にはなりたくないよ」
「全くだよ」
「だからだね」
「やっぱり皇室や王室の方ともなると」
「贅沢に溺れたら駄目だね」
「そう、そしてその考えの中でも」
「日本の皇室は際立ってるんだね」
 その中でも一番厳しいとです、王子も頷きました。
「そういうことなんだね」
「うん、元々質素な家だったし」
「元々?」
「そう、長い歴史の中で苦しい時代もあったから」
「その中で質素になったんだ」
「そうなんだ」
「成程ね」
 王子もここまで聞いて納得しました。
「そこに君主としてこうあるべきっていう確かな考えもあって」
「厳しくて質素なんだ」
「他の君主の家と比べても」
「そうなんだよ、ただね」
「ただ?」
「日本ではこうした考えの人もいるんだ」
 この前置きからです、先生は王子にこのこともお話しました。
「日本の皇室は世襲で平等じゃないとかいう理由で反対するけれど」
「まあそうした考えもあるかな」
 王子はこう返しました。
「僕の国でもそうした人いるみたいだし」
「けれどさっき話したね」
「自分だけ贅沢している独裁者だね」
「代々世襲のね、共和国って言ってもね」
「その国はいいっていうんだ」
「そうした考えの人もいるんだ、日本には」
「それおかしくない?」
 ここまで聞いてです、王子は先生に首を傾げさせながら言葉を返しました。理屈がわからないといった表情にもなっています。
「君主制反対はまだいいとして」
「それでいてだね」
「何で世襲の独裁国家はいいの?」
「しかもその国は共産主義だよ」
「いや、共産主義なら」
 余計にというのです。
「余計にね」
「世襲はないね」
「少なくとも国家元首はね」
「おまけに自分だけ贅沢をしてね」
「国民の皆は餓えているんだ」
「しかも凄い独裁だよね、あそこは」
「もう人権も何もないよ」
 王子もこのことは知っています、その国がどういった国かということを。
「そんな国はよくてなんだね」
「独裁者とね」
「日本の皇室は駄目なんだ」
「おかしいと思うね、王子も」
「うん、どう考えてもね」
「日本にはそうしたおかしな人もいるんだね」
「他の国にはいないんじゃないかな」
 日本だけだというのです、ここまでおかしな人は。
「少なくとも僕は知らないよ」
「僕もはじめて聞いたよ」
「そうだろうね、けれどね」
「世の中そうした人もいるんだね」
「日本にはね」
「そのことがわかったよ、それでね」
 王子はあらためてです、先生にお話しました。
「そのお相撲だけれど」
「日本の皇室の方と一緒に観戦をする」
「力士の人達って身体柔らかいよね」
「あっ、そうなんだよね」
 先生もそのお話について王子に応えます。
「見たらね」
「股割りってあるじゃない」
「足を大きく開いて座って身体を前に倒すだね」
「あれをしてもお顔が床に着くから」
「身体の他の部分も柔らかくてね」
「力士の人って凄いね」
「身体が柔軟だよね」
 先生も言います。
「あの体格で」
「しかも太っている様に見えて」
「実は脂肪率は少ないんだよ」
 力士さん達のそれはです。
「脂肪は一枚の服みたいなものでね」
「その下は筋肉だね」
「そう、身体の殆どはね」
 まさにというのです。
「筋肉と骨なんだよ」
「そうなんだよね、実は」
「太っている様に見えて」
 実はなのです。
「そうじゃないんだよ」
「力士の人は」
「そうなんだ」
「よく太っている人を関取とか言うけれど」
「日本ではね」
「力士さん達は太っていないんだね」
「確かに体重はあるよ」
 それ自体は重いというのです。
「けれど僕とは違って」
「脂肪率は実はあまり高くない」
「そう、僕は筋肉はあまりないよ」
 ご自身のことは笑ってお話する先生でした。
「けれど脂肪率は結構あるから」
「太っているのは先生なんだ」
「そうなんだ」
「ううん、そうなんだね」
「そうだよ、僕は太っているんだ」
「けれど力士さん達は」
「太っていないんだ」
 実はというのです。
「体重はあっても脂肪が多いって意味で太っていないんだ」
「それだけ激しい稽古をしてるし」
「余計にね、あの筋肉で身体を守ってもいるんだ」
「ああ、筋肉が鎧なんだね」
「そうだよ、力士さんにとってはね」
 そうだというのです。
「そして骨も強いから」
「鍛えていて」
「激しくぶつかり合っても怪我はしないんだ」
 身体と身体がぶつかり合ってもです、力士さんがお互いの大きな身体で激しくぶつかり合ってもそれでもです。
「他の人と比べてね」
「そうなんだね」
「そう、けれどね」
「どうしたの、今度は」
「それでもうちの大学の相撲部は」
 その部活はというのです。
「最近怪我人が多いんだよね」
「あっ、そういえば」
 王子も先生の今のお話を聞いて言うのでした。
「何かね」
「王子も聞いていたね」
「うん、うちの大学の相撲部怪我人が多いね」
「そうだよね」
「どういう訳か」
「そのことがね」
 どうにもという口調でお話する先生でした。
「気になっているんだ」
「そうなんだね」
「力士の人は身体が柔らかいし」
「強い筋肉と骨を持ってるからね」
「しかも身体にいいものを沢山食べてるから」
 そうした条件が揃っているからです。
「あまり怪我をしない筈だけれど」
「そうなんだね」
「うん、身体が柔らかいと」
「その分関節の動きがよくて」
「筋肉もほぐれるから」
 だからというのです。
「怪我が少ないんだ」
「力士さんが柔軟体操をするのも」
「稽古前と後にだね」
「怪我をしない為になんだ」
 まさにというのです。
「普段からね、けれど」
「それでもなんだね」
「うちの大学の相撲部は最近怪我が多いね」
「どうしてかな」
「怪我はしないに越したことがないから」
 だからと言う先生でした。
「原因が知りたいね」
「相撲部の人に聞いてみる?」
「そうしようかな」 
 こうしたことをお話するのでした、王子と。そして。
 王子がお家を後にしてからです、王子と入れ替わりに今度は猫又が遊びに来ました。チーチーはその猫又に言いました。
「君身体柔らかいよね」
「あら、急にどうしたの?」
「さっき先生が王子とお相撲の話をしていてね」
 それでというのです。
「力士さんが身体が柔らかいって話をしてたから」
「僕達なんかよりもね」
「そうよね、ずっとね」
 チープサイドの家族もお話します。
「猫って身体柔らかいね」
「随分とね」
「首とか背中とか」
「足の関節もね」
「そういえばそうね」
 猫又は言われて気付いた感じになりました。
 そしてです、こう言うのでした。
「私達は身体柔らかいわね」
「僕も真後ろは見られるけれど」
 ジップが言うには。
「君達程柔軟じゃないよ」
「犬もそうよね」
「とてもね」
「首ならともかく」
 トートーは自分の首を動かしています。
「身体全体になると」
「猫が一番?」
「僕もそう思うよ」
「身体が柔らかいから怪我をしないし」
 今度は老馬が言います。
「素早いんだね」
「素早さには自信があるわよ」
「そうだよね」
「やっぱり身体は柔らかいに越したことはないのね」
 ガブガブはこの結論に至りました。
「怪我しないし動きも素早いし」
「まあそうね」
「そうよね」
「というか何でそんなに柔らかいの?」
 ダブダブは猫又に具体的に尋ねました。
「猫さん達は」
「元々?」
「それじゃあわからないよ」
「とにかくどの猫も身体が柔らかいわね」
 ポリネシアは猫又だけでなく猫全体のことをお話しました。
「本当に」
「子猫でもね」
「そうそう、びっくりする位ね」
「他の生きものが出来ない動きとかポーズとか出来て」
 ホワイティが言います。
「とにかく素早くて」
「褒めなくていいのよ」
「鼠の僕には有り難くないことだよ」
「というか生活自体がだよね」
「猫のね」
 オシツオサレツが言うには。
「柔軟体操みたいで」
「スポーツみたいなもので」
「余計に身体が柔らかくなる」
「そうなのかもね」
「ううん、人だと柔軟体操をするけれど」
 また言った猫又でした。
「猫は猫の動き自体が柔軟体操で運動なのかもね」
「元々身体が抜群に柔らかいしね」
 先生もここで猫又にお話します。
「そこでそうした動きや生活だから」
「余計になのね」
「猫は身体が柔らかくて素早いんだ」
「そうなるのね」
「怪我も少ないしね」
「いやいや、猫怪我するわよ」
 猫又は先生にこのことを言いました。
「油断してたら」
「それはそうだけれどね」
「擦り傷とか捻挫とか骨折とか」
「色々あるね」
「交通事故もあるし」
「車が一番怖いね」
「猫にとってはね、けれどね」
 ここでまた言った先生でした。
「一つ気になることがあるんだよ」
「気になること?」
「うん、実はうちの大学の相撲部の怪我人が最近多くてね」
 先生は猫又にもこのことをお話します、猫又は今は人間の姿をしていて和服の上に割烹着ですが仕草は何処か猫的です。
「気になっているんだ」
「ふうん、そうなの」
「結構ね」
「どうした怪我なの?」
 猫又は先生に具体的な怪我の内容を尋ねました。
「それで」
「いや、それがね」
「それが?」
「色々なんだ」
「擦り傷、打ち身、捻挫」
「骨折もあって」
「あら、色々なのね」
 猫又はここまで聞いて言うのでした。
「それはまた」
「一つじゃないんだ」
「ちょっとどうしたものかな」
「先生としては怪我人がいない方がいいわね」
「スポーツをしているのなら」
 先生はスポーツはしませんが観戦する立場として言うのでした。
「怪我がないに越したことはないから」
「だからなのね」
「うん、怪我が多いから」
「それを何とかしたい」
「そう思っているんだ」
「それならね」 
 猫又はここまで聞いて先生に言いました。
「先生ご自身がね」
「相撲部の人達に聞くべきだね」
「そう、直接ね」
「原因を聞く、だね」
「怪我のね」
「うん、僕はお医者さんだしね」
 ご自身のお仕事のことも思い出すのでした。
「それならね」
「そうよ、患者の病気や怪我の原因を聞くでしょ」
「これまで皆稽古中の怪我って言ってたけれど」
「その稽古、部活に原因があるでしょ」
「確かにそうだね」
「だったらよ」
 それこそというのです。
「そこから聞きましょう」
「それじゃあね」
「ええ、相撲部の人達にも聞いて」
 そしてというのです。
「問題を解決しましょう」
「それなら」
「そういうことでね」
「じゃあ今度相撲部の方に行ってみるのよ」
「そういうことでね、ただ」
「ただ?」
「本当に思うことは」
 猫又は腕を組んで首を傾げさせました、そして先生にこうも言ったのでした。
「力士さんは身を大事にしないといけないわ」
「それはどうしてかな」
「だってお相撲は神事でもあるのよ」
 猫又もこう言うのでした。
「だったらね」
「怪我はしないに越したことはない」
「神事で怪我をしたら」
「神様もいい気はしないね」
「そうよ」
 まさにというのです。
「それはね」
「その通りだね、確かに」
「この私、お静もお相撲は長い間見ているけれど」
 猫又は自分の名前も出しました、お静さんというそのお名前を。
「怪我をするのを見たら」
「お相撲で」
「そう、嫌な気持ちになるから」
 だからだというのです。
「ないに越したことはないわよ」
「それなら」
「そう、絶対にね」
 それこそというのです。
「怪我は根本からなくすべきよ」
「じゃあ」
「ええ、頼んだわよ」
「明日にでも行って来るね」
 その相撲部にとです、先生はお静さんに約束しました。
 ただここで、です。これまで黙っていたトミーがお静さんに尋ねました。
「ただね」
「ただ?」
「君猫又でね」
「この通りね」
 今は人の姿で二本の尻尾は出していませんが。
「長い間生きて妖力を備えた猫よ」
「つまり妖怪だよね」
「それがどうかしたの?」
「妖怪なのに神事の場所に行っていいんだ」
「ああ、そのことね」
「うん、神聖な場所でも」
「別にいいのよ」
 あっさりとです、お静さんはトミーに答えました。
「妖怪でもね」
「日本ではそうなんだ」
「神社にも妖怪いるしお寺にもね」
「いるのね」
「だからね」
 それでというのです。
「私がお相撲観ても何もないのよ」
「そうなんだ」
「悪い妖怪は追い払われるけれど」
「悪いことをしないとなんだ」
「そう、別にいいのよ」
 それこそというのです。
「神社にもお寺にも行ってもね」
「おおらかだね」
「おおらかなのが日本よ」
「宗教に関しては」
「そうそう、私お寺にお参りもするし」
「お相撲も見て」
「どっちもするから、そんなこと言ったら」
 お静さんはトミーにこんなことも言いました。
「鬼も河童もお相撲するわよ」
「そういえば日本にはそんなお話もあるね」
「童話とかであるし実際にね」
「鬼も河童もお相撲をするんだね」
 神事でもあるそれをです。
「そうなんだね」
「そうよ、河童さん達なんてね」
 それこそというのです。
「大好きで大好きで」
「そんなになんだね」
「暇があればする位よ」
「そこまで好きなんだね」
「妖怪でもね」
「成程ね」
「姫路城なんか」
 白鷺城とも言われることもあるこの奇麗なお寺のお話もします。
「天守閣にこの辺りの棟梁さんがおられるのよ」
「妖怪の?」
「そう、とても偉い姫様がね」
「おさかべ姫だね」
 先生が言ってきました。
「その妖怪は」
「流石先生、ご存知なのね」
「うん、泉鏡花の戯曲にもなってるね」
「そう、いつも奇麗な着物を着ておられて」
「天守閣の一番上の階にいるね」
「そうなの、私達兵庫の妖怪は年に一度姫路城の天守閣に集まるのよ」 
 お静さんは先生達にそうしたこともお話します。
「それで挨拶をして宴を開くのよ」
「そんなこともしてるんだね」
「というか姫路城に妖怪の棟梁さんがいたんだ」
「そのことははじめて知ったよ」
「本当にね」 
 動物の皆はそのお話を聞いて驚いています。
「神事にも出たり神社やお寺にもお参りして」
「しかも天守閣に住んでて」
「それでなんだね」
「お祝いとかもしてるんだね」
「それが日本の妖怪よ」 
 その他ならぬ妖怪としてのお言葉です。
「知っておいてね」
「わかったよ、そのことも」
「何か独特の世界だね」
「日本の妖怪の世界も」
「他にない世界だね」
 皆もこれまで妖怪さん達とはお付き合いがありますがあらためて知ったのです。
「妖精の世界とはまた違う」
「不思議な世界だよ」
「人間の世界と普通に一緒にあるし」
「こうして僕達ともお話をしてね」
「同じものを食べたりして」
「不思議だね」
「それが私達なのよ」
 妖怪だとです、お静さんも答えます。
「日本の妖怪なの」
「そうなんだね」
「妖精の世界とは少し違うね」
「イギリスの方のね」
「似ている部分も多いけれど」
「僕もそう思ってるよ」
 先生も言います。
「日本の妖怪の世界とイギリスの妖精の世界は似ている部分も多いけれど」
「違う部分も多いわね」
「そう思うよ」
 実際にというのです、お静さんにも。
「本当にね」
「そうなのね」
「猫又みたいな妖精もいるけれど」
「確かケット=シーよね」
「そうそう、長靴を履いた猫だよ」
 こうお静さんにお話するのでした。
「後ろ足で二本で歩くね」
「そのまま私達猫又ね」
「そうだね、けれど君達とはまた違うからね」
 そのケット=シーという妖精はというのです。
「似ている部分もあれば」
「違う部分もあるのね」
「君達妖怪の世界は独自の世界だよ」
「人間や生きものの世界と一緒にある」
「同じ様に暮らしているね」
「そうなのね」
「最近日本でも君達の存在に気付かない人も多いみたいだけれどね」
 先生はこのことは少し残念そうに言いました。
「どうやら」
「昔はもうちょっと多かったけれどね」
「君達の存在を否定する人もいてね」
「そうした人が増えてね」
 お静さんはこのことは苦い顔で言います。
「残念なことよ」
「ちゃんと傍にいるのよね」
「ちょっと落ち着いて見ればわかるのよ」
「君達がいるってことがだね」
「そうよ、わかるのよ」 
 妖怪は人間の傍にいて一緒に暮らして楽しく過ごしている、このことにというのです。お静さんもそこは言うのでした。
「ちょっとしたらね」
「そうだよね」
「先生は気付いてくれたわね」
「文献で君達のことはよく読むしね」
「否定しないのね」
「しないよ」
 絶対にという返事でした。
「学問は否定してはね」
「それでなのね」
「そう、否定したら」
 そうしたことをすればというのです。
「それで学問は止まるからね」
「それはしないのね」
「だから君達のこともね」
「最初から否定しなかったのね」
「そうだよ、狐君や狸君達のこともね」
 その彼等のこともというのです、京都や松山でお会いした。
「否定しないんだ」
「凄いことね」
「凄いかな」
「そうした何でも受け入れられる人なら」
 それこそと言うお静さんでした。
「絶対にいい人が来てくれるわね」
「いい人っていうと」
「決まってるじゃない、先生まだ独身だから」
 お静さんも言うのでした、このことを。
「奥さんに決まってるじゃない」
「ははは、お静さんもそう言うんだ」
「何ならいい人紹介するわよ、人でね」
 猫又ではなく、というのです。
「先生にね」
「それはいいよ、僕は女性には縁がないからね」
「私にはいい縁が見えるけれど」
「そうなのかな」
「そうよ、絶対にいい人とね」
「結婚出来るっていうんだね」
「先生みたいな人こそね」
 まさにとです、先生に言うお静さんでした。
「そうなるわ」
「だといいけれどね」
「何か先生は自分を過少評価してるわね」
 人間に化けている姿でお口をへの字にさせてです、こうも言ったお静さんでした。腕を組んで首も少し傾げさせて。
「絶対にいい人と出会えるわよ」
「だといいけれどね」
 笑って返した先生でした、ですが。
 先生は相変わらずでした、本当に気付かないことは気付かない先生です。
 ですがその先生にです、動物の皆はお静さんが帰った後も言うのでした。ただしそうしたお話は今はしないで。
 あらためてです、お相撲のことをお話するのでした。
「王子も好きだしお静さんも興味あるし」
「大学の相撲部の方もね」
「気になるよね」
「どうしても」
「うん、本当に聞きに行くよ」
 先生も皆に言葉を返します。
「怪我の原因がわからないとね」
「どうしようもないからね」
「だからだね」
「まずは相撲部の人達に直接聞く」
「そうするんだね」
「うん、そうするよ」
 こう皆に答えてでした、そのうえで。
 実際に相撲部の方に行くことにするのでした、これが先生のあらたな出来事との出会いになるとはこの時は夢にも思っていませんでした。



いつものように皆とお喋りしながら食事をしていたら。
美姫 「相撲部に行く事になったみたいね」
だな。これによって、何かが起こるみたいだけれど。
美姫 「一体、何がまっているのかしら」
次回が気になる所です。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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