『ドリトル先生北海道に行く』




                 第十一幕  羆の冬眠

 まだ夏です、ですが。
 先生は熊の冬眠についてです、動物の皆にお話しました。
「これは本当に大事なことなんだ」
「熊さんにとってはだよね」
「とてもだよね」
「そう、どうして冬眠をするか」
 それこそがというのです。
「熊が生きるうえで最も大事なことの一つなんだ」
「子供を産んで育てることとだね」
「同じ位だよね」
「熊さん達にとって冬眠はね」
「本当に大事だよね」
「そうだよ、だから冬眠出来なかったね」
 それこそというのです。
「最悪の状況なんだよ」
「だからだね」
「先生も今回本当に心配しているんだね」
「それこそ」
「そうだよ、その冬眠しそこなった羆がね」
 まさにというのです。
「さっき話した大事件を起こしたから」
「八人も死んだっていう」
「その事件だね」
「この北海道で起こった」
「そうした事件のことがあるから」
「今はそうした粗末な開拓村もないし」
 それにと言う先生でした。
「銃もあるしね、日本は銃規制は厳しいけれど」
「猟師さんもだね」
「しっかりいるね」
「猟師さんは後継者と今の人達の数の少なさに悩んでいるそうだけれど」
 それでもというのです。
「いるからね」
「昔よりはだね」
「まだすぐに羆に対応出来る」
「そうなんだね」
「うん、その分だけましだけれど」
 それでもというのです。
「羆自身も可哀想だし」
「冬眠出来ないと」
「それだけで」
「リスやヤマネ、蝙蝠もね」
 こうした生きもの達もというのです。
「冬眠するけれど」
「そうした生きものはね」
「普通にだよね」
「冬眠出来る穴があるから」
「大丈夫だね」
「そうなんだ、まだね」
 先生は今も山の中を見回しています、そのうえでの言葉です。
「それ位の穴は結構あるね」
「問題は羆さんね」
 ガブガブが言いました。
「羆さん達が冬眠出来るだけの穴ね」
「確かにそこまで大きな穴はないね」
 トートーも先生と同じく山の中を見回しています。
「ツキノワグマさんなら何とかなりそうでも」
「羆になると」
「ちょっとね」
 チープサイドの家族もです、山の中を見回しています。
「ないね」
「そこまで大きな穴は」
「というか穴熊さんいないの?」
 ホワイティはオシツオサレツの背中から先生に尋ねました。
「北海道には」
「あっ、そういえばいないね」
 ジップはホワイティの言葉でそのことに気付きました。
「北海道には」
「日本にもいるけれど、穴熊さん」 
 ダブダブも言います。
「北海道ではいないのかな」
「うん、どうもね」
 チーチーは首を傾げさせています、かなり人間的な仕草です。
「いないみたいね」
「狐、熊、栗鼠、狸、鹿はいても」
 老馬もこう言います。
「穴熊はいないのかな」
「北海道にもいるってね」
「自然に思ってたふしがあったかな」
 オシツオサレツも二つの頭で言います。
「けれど穴熊さん達はね」
「いないのかな」
「うん、北海道には穴熊や猪はいないよ」
 実際にと答えた先生でした。
「実際にね」
「あっ、そうなんだ」
「穴熊さんや猪さんはいないの」
「北海道には」
「そうなんだ、北海道には猪を見たという人もいるけれど」
 それでもというのです。
「多分飼っていたイノブタが逃げたして野生化したものだろうね」
「北海道には穴熊さにゃ猪さんはいないんだね」
「穴を掘る様な生きものは」
「そうなんだね」
「うん、狼もいたんだけれどね」
 先生はこの生きもののことにも言及しました。
「それがね」
「ニホンオオカミさんと同じで」
「絶滅したんだね」
「北海道の狼さん達も」
「ニホンオオカミはいたけれどね」
 他ならぬ先生が発見しました。
「けれどね」
「北海道にはなんだ」
「もう狼さん達がいないんだ」
「そうなんだね」
「うん、エゾオオカミは絶滅したよ」
 残念なお顔でお話する先生でした。
「このことは本州や四国と一緒だよ」
「別に一緒でなくてもいいのに」
「そうしたことは」
「僕もそう思うよ」
 本当に残念なお顔で言う先生でした、そして。
 その中で、です。先生はです。
 その穴がないことについてです、こうも言ったのでした。
「穴熊君が掘る穴も大事なんだよ」
「だよね、それがひいてはだね」
「羆さんの穴にもなるから」
「だからだね」
「穴熊君が住まなくなった穴もね」
 そうした穴もというのです。
「熊君達は入るから」
「だからいいんだね」
「穴熊さん達がいることも」
「そうなんだ、いないとね」
 本当にと言う先生でした。
「こうしたことも起こったりするんだ」
「中々難しいよね」
「羆さんは身体が大きいのに」
「そんなのだとね」
「この辺りが難しいんだよ」
 自然はというのです。
「とはいっても羆が入られない位の穴はね」
「滅多にないんだね」
「実際のところは」
「そうなんだよ、だからああした事件もね」
 さっきから先生が念頭に置いていて今もお話しているその事件のことです。
「滅多に起こらないんだよ」
「それだけの穴はあるから」
「大抵の山に」
「そしてどの穴にも入られない位の大きさの羆もだね」
「いないんだね」
「あの事件は本当に滅多に起こらない」
 それこそというのです。
「そうした事件だったんだ」
「けれどその滅多に起きない事件をだね」
「起きない様にする」
「その為にもだね」
「今はだね」
「そう、今回のことは何とかしないとね」
 是非にと言った先生でした。
「いけないからね」
「よし、それじゃあね」
「僕達もだよね」
「シホレさんに強力して」
「穴を見つけようね」
「何とかして」
「見付けられないなら」
 その可能性についても言った先生でした。
「その時はどうするかもね」
「考えてだね」
「そのうえでだね」
「うん、考えはあるよ」
 先生の頭の中にはというのです。
「どうしてもないとね」
「じゃあその時はだね」
「僕達もだね」
「力を使う」
「そうするんだね」
「うん、そうしよう」
 是非にと言った先生でした、そうしたお話もしながらです。
 山の中に進んでいくとです、遂にでした。
 先生達はシホレさんにとても大きな、それこそ立ち上がれば下手な木位の高さがあってとても逞しい身体の羆さんの前に来ました。その羆さんを見てです。
 先生もです、思わず驚いて言いました。
「これは確かにね」
「うん、そうだよね」
「大きいですね」
 王子とトミーも言います。
「この大きさはね」
「見たことがないです」
「ホッキョクグマ位かな」
「それ位ありますね」
「ホッキョクグマでもね」
 熊の中でも一番大きな種類の白い熊でもというのです。
「ここまで大きいのは滅多にないよ」
「それこそだよね」
「滅多にですよね」
「これだけ大きいとなると」
「あの熊でも」
「確かにね」
 その真っ黒な毛に覆われた身体も見ています。
「ここまで大きいと大変だね」
「はい、ただ食べるものは木の実等だけで」
 シホレさんはその羆の横に来て先生達にお話しました。
「菜食主義といいますか」
「肉は食べないのですか」
「鮭や鱒も食べません」
「そうしたものは口に合わなくて」
 羆の方も言ってきました。
「食べないんだ」
「そうなんだね」
「名乗り遅れたけれどウルだよ」 
 ここで名乗ったのでした。
「この山に住んでいるんだ」
「うん、名前は聞いていたよ」
「シホレさんからだね」
「そうだよ」
 先生はにこりと笑ってウルに答えました。
「君が冬眠出来る穴がなくなって困っているとね」
「それで来てくれたんだ」
「シホレさんにお願いされてね」
「実際に今から悩んでいるんだ」
 ウルはそのお顔を困ったものにさせて先生に言いました。
「冬のことが心配でね」
「そうだよね」
「若し冬眠出来なかったら」
 その時のことを今から心配で仕方がないウルでした。
「どうしようかな」
「そのことをどうにかする為に来たんだ」
「皆はだね」
「そうだよ」
「ううんと、皆のお名前は」
「僕かい?ドリトルというんだ」
「ドリトルというと」
 そのお名前を聞いてでした、すぐにです。
 ウルは目を瞬かせてです、先生に尋ねました。
「あの有名な」
「僕のことを知ってるのかな」
「動物皆の友達だってね」
「僕は北海道でも有名なんだ」
「そうだよ、それこそね」 
 まさにというのです。
「先生は北海道でも皆が知ってるよ」
「そうだったんだ」
「神戸での噂がね」
 先生についてのそれがというのです。
「この北海道にも伝わっていてね」
「それでなんだね」
「僕もこの山の皆もね」
「僕のことを知っている」
「そうなんだよ」
 まさにというのです。
「その先生にお会い出来るなんてね」
 このことも喜んでいるウルでした。
「棒は幸せだよ」
「じゃあ僕達のこともかな」
「知ってるのかな」
「やっぱり」
「そうなのかな」
「大体わかるよ、そちらの人間の人達は王子とトミーさんだよね」
 ウルは実際に王子とトミーも見て言いました。
「そうだよね」
「うん、そうだよ」
「宜しくね」
「皆が来てくれたのなら」
 ウルはもうすっかり安心しきったお顔になって言いました。
「もう安心だね」
「あら、そうなの」
「うん、この人達はね」
 ウルはシホレさんにも言いました。
「もう僕達動物にとっては天の恵みだから」
「そうした人達だったの」
「そうだよ、ドリトル先生こそはね」
 先生のお話もするのでした。
「僕達にとっては神様みたいな人なんだ」
「そこまでの方だったなんて」
「いや、シホレさんもよくね」 
 それこそというのです。
「先生を連れて来てくれたね」
「たまたまお会いしたけれど」
「その出会いこそがね」
 まさにというのです。
「神様の恵みだったんだよ」
「そうだったのね」
「これはね」
 本当にとも言ったウルでした。
「僕を神様が助けてくれたんだね」
「アイヌの神様達が」
「絶対にそうだよ」
「あれっ、先生はね」
「キリスト教徒だけれど」
 動物の皆はふとこのことを思い出しました。
「宗教違うんじゃ」
「キリスト教だから神様はね」
「ヤハウェの神様で」
「国教会だしね」
「絶対にアイヌの神様じゃないよね」
「そうしたことは日本では殆ど気にしなくていいんだよ」
 先生はいぶかしんだ動物の皆に微笑んで言いました。
「日本ではどんな宗教でも同じだからね」
「だから神仏って言うんだね」
「神様も仏様も同じ」
「そしてキリスト教の神様もなんだ」
「一緒なんだね」
「どちらも」
「そうなんだよ」 
 こう言ったのでした。
「だから日本ではキリスト教の宗派も大した問題じゃないんだ」
「カトリックとプロテスタントも」
「そういえば先生が国教会っていってもね」
「学園の皆も何とも思わないし」
「宗教のことで言われたことないね」
「先生最近神社にもお寺にも行くし」
「天理教の教会にもね」 
 本当にそうした場所にも喜んで行く様になった先生です。
「そういえば仏教も宗派色々あって」
「その宗派同士で戦争したとかないし」
「本当に平和だよね」
「これといってね」
「だからアイヌの神様でもなんだ」
「いいんだね」
「何か問題あるのかしら」
 そのアイヌの人のシホレさんもこんなことを言います。
「アイヌの神様で」
「いや、そう言われると」
「特にね」
「ないよね」
「それは」
「そうよね、それなら」
 あらためて言ったシホレさんでした。
「アイヌの神様に感謝して」
「これからのことをお話しようね」
 ウルも言います、そしてです。
 先生もです、宗教のお話はこれで止めてです。あらためて言うのでした。
「穴はなかったね」
「僕が冬眠出来る様な穴は」
「残念だけれどね」
「そうなんだね」
「けれどね」
 それでもと言う先生でした。
「ここで諦めることもないよ」
「そうだよね」
「絶対に解決出来るよ」
 そうした問題だというのです。
「だから安心してね」
「うん、先生が言うことならね」
 それならとです、ウルも既に大船に乗った気持ちでいます。
「僕は安心しているよ」
「僕を信じてくれているんだ」
「先生は絶対に嘘を言わない人って聞いてるよ」
 実際にというのです。
「そしてその通りだよね」
「そうだといいけれどね」
「嘘を言う人はわかるんだ」
 ウルにもというのです。
「どうしても目や仕草に出るから」
「だからなんだ」
「先生の目や仕草を見ていると」 
 それこそというのです。
「そうした人じゃないよ」
「それじゃあ」
「うん、先生ならね」 
 本当にというのです。
「絶対に何とかしてくれるよ」
「そう信じてくれるのなら」
 先生もウルの信頼に応えて言いました。
「是非共ね」
「洞穴を見付けてくれるんだ」
「そうさせてもらうよ」
「お願いするよ、本当に」
 切実な声で応えたウルでした。
「僕も冬眠出来ないと辛いからね」
「そうだね、君にしてもね」
「冬は寝るものだよ」
 熊としての言葉です。
「それもたっぷりとね」
「熊は冬眠しないとね」
「どうしようもないから」 
 だからというのです。
「今から冬のことが心配で仕方なかったんだ」
「冬のことがだよね」
「そうなんだ」 
 それこそというのです。
「もうどうしたものかってね」
「若し冬眠出来ないと」 
 その最悪の事態のことをです、先生はあえて言いました。
「その時はね」
「うん、寝られなくて」
「冬は山に食べものもないから」
「飢え死にするか疲れきって倒れるか」
「無理に食べものを探してね」
「人のいるところに出てね」
 そしてというのです。
「人の食べるものを漁るしかないよ」
「そうなるね」
「けれど僕お肉やお魚は食べられないし」
 ウルは先生に困ったお顔でお話しました、
「それに人のいる場所まで出たら」
「絶対に駄目だから」
 すぐにシホレさんが忠告しました。
「それは」
「そうだよね」
「若し人里に出たら」
「撃たれるよね」
「私や先生以外の人に近付いたらよ」
「僕達熊はそれだけでだね」
「警戒されて撃たれるから」
 だからというのです。
「そうしたことをしたら駄目よ」
「そうだよね」
「特にウルは物凄く大きいから」
 その身体の大きさもあるというのです。
「凶暴って思われるのよ」
「身体が大きいだけでだね」
「そう、だからね」
「人には近寄らないことだね」
「この山の縄張りにいるのが一番いいの」
「僕にとっても」
「この中でね」
 そうだというのです。
「だから気をつけてね」
「それじゃあ」
「冬眠の為の穴は何とかするから」
 先生がまた言ってきました。
「安心してね」
「それじゃあお願いするよ」
「是非共ね」
「うん、じゃあ今からね」
 早速という先生でした。
「動かせてもらうよ」
「お願いするよ、僕も一緒に探していいかな」
「君もだね」
「誰かに任せて自分は何もしないっていうのはね」 
 ましてや自分のことで、です。
「よくないからね」
「だからだね」
「一緒にね」
 それこそと言うのでした、そしてです。
 先生達は早速山の中を見て回ることにしました、その中で。
 皆は一緒に歩いているウルを見てです、こう言いました。
「しかし本当にね」
「ウルさんって大きいよね」
「そうだよね」
「熊さんは確かに大きいけれど」
「ウルさんはね」
「特に大きいよね」
「ウルでいいよ」
 ウルは皆に気さくに返しました。
「呼び方はね」
「うん、じゃあウルって呼ぶね」
「そうさせてもらうね」
「宜しくね」
 こうお話してでした、すぐにです。
 ウルと皆は打ち解けました、山の中を和気藹々とした感じで歩いていきます。
 その中の中を見てです、王子はこのことに気付きました。
「確かに山菜や木の実が多いね」
「そうだよね」
「これだけ一杯あったら」
「うん、僕もね」
 ウルは王子にもにこにことして応えました。
「食べることに困らないんだ」
「そうだよね」
「さっきも言ったけれど僕お肉やお魚は食べられないんだ」
「菜食主義かな」
「人間で言ったらそうなるね」
 実際にというのです。
「僕はね」
「確か熊は雑食だよね」
「けれど熊によってね」
 そこはというのです。
「食べものの好き嫌いがあってね」
「君はなんだね」
「そうなんだ、お肉やお魚は食べられないんだ」
「どうしてもだね」
「そうなんだよね、ただね」
「うん、君が菜食主義でもね」
 ここで先生もウルに言いました。シホレさんはそのウルの横にいて彼を気遣う様にしてみんなと一緒に歩いています。
「そのことを皆は知らないから」
「人に近寄ったら駄目なんだね」
「君が人を襲うと思うからね」
「そうシホレさんにも言われてるよ」
 シホレさんを見ての言葉です。
「僕が人を襲うって思われてるからって」
「そう、ましてやこの北海道は」
 シホレさんは心から心配するお顔でウルに言います。
「あのお話があるから」
「羆嵐だね」
「そのことがあるから」
「僕みたいな大きな熊は特に」
「怖がられるのよ」
「そして撃たれるんだね」
「猟師が来てね」
 野生の生きものにとっては一番怖い人達がです。
「そうなるわよ」
「そうだよね、じゃあね」
「わかるわね」
「うん、よくね」 
 ウルも怯えるお顔でシホレさんに答えました。
「そのことはわかるよ」
「それならよ」
「人にはだね」
「近寄らないことよ」
「僕何もしないのにね」
「人はそうは思わないの」
 ウルがどう考えていてもというのです。
「ウルのことを怖い熊だって思うのよ」
「身体が大きいだけでなんだね」
「そうよ、それだけで力が強いっていうことだから」
「実際に力はあるよね」 
 トミーはウルにそのことを聞きました。
「ウルは」
「うん、確かにね」
「そうだよね」
「木とかちょっと力を入れて押したらね」 
 それだけでというのです。
「倒れるから」
「相当に太くて大きい木でもだね」
「そうなるしね」
「立派な体格だしね」
 ただ身体が大きいだけでなくというのです。
「余計にだよ」
「僕は力が強いんだね」
「そのこともあってだよ」
「僕は警戒されるんだね」
「人にはね」
「熊はそうしたことは大変だね」
 トミーの言葉を聞いてでした、ウルは項垂れて悲しいお顔になりました。
「そんなつもりなくても怖がられるのね」
「人にはどうしても先入観があるからね」
 ここでこう言ったのは老馬でした。
「僕も馬だからどうこうって言われることあるよ」
「僕だと食いしん坊だよ」
 ダブダブも言います。
「確かにそうだけれどね」
「僕はチーズとかお豆が好きでね}
 ホワイティはそう見られているというのです。
「実際にそうだとしてもね」
「僕達もその生きものはどうかって考えてるからね」
 トートーは自分達のこともお話に入れます。
「先入観は誰にもあるね」
「熊さんはどうか、人はどうか」
 チーチーはウルだけでなく先生達も他の皆も見ています。
「そうした先入観は否定出来ないね」
「その生きものなら泳ぎ上手とか」
 ガブガブの家鴨としての言葉です。
「あるわね」
「何が好きな食べものとかどんな性格とか」 
 ジップも言います。
「その生きものでどうかってあるね」
「うん、僕達雀もね」
「そうした目で見られてるわね」 
 チープサイドの家族は今は先生達の上を飛んでいます。
「どうしてもね」
「それぞれの生きもので」
「だからウルもなのね」
 ポリネシアはウルを見ています。
「そう見られるのね」
「確かにね」
「僕達も最初怖いって思ったよ」
 オシツオサレツは前を進みつつも前後の頭で言葉を出しています。
「大きいからね、ウルは」
「それに羆だから」
「先入観は本当に誰でもあるよ」
 先生も言います。
「勿論僕にもね」
「先生にも先入観あるの?」
「そうかしら」
「先生は顔とか外見で判断しない人じゃない」
「性格を見る人なのに」
「そんなのあるの?」
「本当に」
「あるよ」
 先生は皆にはっきりと答えました。
「そのことを意識しているよ」
「そうかな」
「先生にそんなのあるかしら」
「僕達が見たところね」
「そんなのとは無縁の感じだけれど」
「その人が何処の人だからどうとかその生きものはどうかとか」
 先生は皆に答えて言いました。
「僕にもあるんだ」
「先生にもあるなんてね」
「信じられないけれど」
「そうなんだね」
「先生自身が言うには」
「この先入観が偏見にもなるから」
 それでとも言う先生でした。
「気をつけないとね」
「偏見強い人いるよね」
「中には偏見の塊みたいな人も」
「そうした人や生きものになるとね」
「やっぱり駄目だよね」
「うん、なったらね」 
 それこそというのです。
「よくないからね」
「いつも意識してるんだ」
「自分に先入観があることが」
「それで注意してるんだね」
「そうしているよ、けれど本当に難しいね」
 その先入観なくして相手を見ることはというのです。
「そのことがね」
「僕が怖く思われる理由は」
 ウルはその自分自身が抱かれる先入観のことを言いました。
「この大きさのせいだけれどね」
「とにかく大きいからね」
「僕達もこんな大きな熊さん見たのはじめてだから」
「凄い大きさだよ」
「大きいことはいいけれど」
 ウル自身も気に入っていることです、人も生きものも大きいことそれ自体がいいことと思ったりするからです。
「そう思われることはね」
「嫌だよね」
「やっぱりね」
「そうした風に思われると」
「ウルにしても」
「うん、怖がられるよりもね」
 そう思われるよりもというのです。
「好かれる方がずっといいよ」
「そう思うことがね」
 まさにと言ったシホレさんでした。
「ウルのいいところよ」
「そうなんだね」
「他の人や生きものに怖がられてそれでいいっていうのはね」
「間違ってるんだね」
「それはヤクザ屋さんよ」
 そうした人や生きものになるというのです。
「ならず者って言ってもいいわ」
「困った人や生きものだよね」
「そうよ、山にも時々いるわね」
「行いの悪いね」 
 山の生きものにもそうした者がいるというのです。
「いるね」
「そうした風にはなりたくないでしょ」
「絶対に嫌だよ」
 ウルはシホレさんに強い声で答えました。
「僕ヤクザじゃないから」
「そう、それならいいわ」
「いるからね、本当に」
 先生も残念なお顔で言いました。
「世の中には」
「先生もそうした人を知っているんだね」
「イギリスにもいたし」
 先生はウルにご自身が生まれ育っていた国のことからお話しました。
「日本でもだよ」
「そうなんだね」
「ヤクザ屋さんには実際にそうした人は多いし」
 人に怖がられてそれで喜んでいる様な人がです。
「学校の先生にもいるよ」
「先生みたいな人にも?」
「うん、自分より年下で力もなくて立場も弱い相手に暴力を振るってそれでね」
 怖がられてというのです。
「悦に入っている人がね」
「そんな人いるんだ」
「いるんだ、日本には」
「自分より力とかが弱い相手にそんなことをして」
 ウルは先生のお話を聞いて顔を曇らせて言いました。
「怖がられて喜んでるとか」
「間違ってるね」
「本当にヤクザ屋さんだよ」
 ウルもこう言いました。
「最低だよ」
「そうした人が学校の先生だったりするんだ」
「酷いことだね」
「日本の困ったことだよ」
 先生は残念なお顔で言いました。
「日本では学校の先生が悪いことをしても公にはなりにくいからね」
「これ本当だからね」
 王子も眉を曇らせて先生に応えました。
「僕もそのことを見聞きして驚いたよ」
「普通に生徒を殴ったり蹴ったりする先生がいるね」
「何度もね、それに罵って」
「一般社会なら絶対に許されないことがね」
「先生がやったら許されるんだね」
「そうなることが多いんだ」
「だから日本の先生は質が悪い人が多いんだね」
 そうしたヤクザ屋さんと全く変わらない人がです。
「何度聞いて考えても酷いことだよ」
「日本では一番注意しないといけない職業の人は。これは僕の先入観になってしまっているけれど」
 このことを自覚しながら言う先生でした。
「学校の先生なんだ」
「ヤクザ屋さん以上にだね」
「ヤクザ屋さんはそうした人達だから最初から警戒されるよ」
 これもまた先入観ではありますが。
「けれど学校の先生は違うね」
「聖職者とか先生様とか言う人まだいるね」
「全然違うよ」
 先生は王子が今出した言葉をすぐに否定しました。
「聖職者でも様でもないよ」
「どっちでもだね」
「普通の職業と変わらないんだ」
「そうだよね」
「職業に貴賎はないんだ」
 このことも言った先生でした。
「それでどうしてね」
「学校の先生が偉いのか」
「そんなことは絶対にないんだ」
「そしてだね」
「そう、先生こそがね」
 それこそというのです。
「一番注意しないといけないんだ」
「先入観でもだね」
「どうした人なのかをね」
「とんでもない人が本当に多いから」
「日本ではね」
「日本の学校の先生は」
 トミーも言います。
「本当に不祥事が多いですからね」
「他の職業の人に比べてもね」
「異常な位に」
「やっぱり悪いことをしても公になりにくいからですね」
「チェックも効きにくいしね」
「チェックが効かないで生徒にあれこれ言える」
「学校の先生には権力があるよ」
 紛れもなく、というのです。
「そして権力がチェックされにくいとね」
「おかしくなりますね」
「だから学校の先生はおかしな人が多いんだ」
「仕組み的にそうした人が出来てですね」
「残ってしまうんだ」
「そういうことですね」
「そう、だからね」 
 それでとです、先生はトミーにお話していきます。
「学校の先生の世界も公平に見てやっていかないと」
「チェック出来る様にして」
「さもないとあのままだよ」
「おかしな人が残ってですね」
「生徒が困り続けるんだ」
「教えることが凄く下手なままでそこから努力しようとしない先生もいますね」
「お給料さえ貰えればいいって思っていてね」
 本当にこうした先生がいるのも日本です。
「そうした先生も生徒には迷惑だよ」
「そうですよね」
「ううん、若し僕が人間だったら」
 ウルは先生達の日本の学校の先生についてのお話を聞いてしみじみと思いました。それも心からです。
「そうした学校の先生に困っていたね」
「運がいいとそうした先生に会わないで済むけれどね」
「会ったらだね」
「大変だよ」
 そうなるというのです。
「そうした場合の難を避けることを考えないといけないからね」
「自分の身を守るのは自分なんだ」
「そうした場合はね」
「逃げることも大事かな」
「暴力を受けていいことはないからね」
「そうなんだね」
「残念だけれど」
 先生は本当に残念そうに言いました。
「日本に来てこのこと残念に思ったよ」
「そうだよね、先生も」
「こんないい国なのに」
 それでもというのです。
「そうした困った部分もあるんだって思うとね」
「結局あれだよね」
「どんな場所にも困った部分ってあるよね」
「どんな人も生きものもそうだしね」
「完璧なものってね」
 それこそというのでした、皆も。
「なくて」
「欠点がない場所はない」
「人や生きものは」
「そうなんだね」
「うん、そういうことだね」
 このことは日本もというのです。
「結局は」
「僕達もそうだし」
「誰もがそう」
「何処もそうで」
「世の中に完璧なものは」
「ないってことだね」
「そうなるね」
 先生と皆はこうしたお話をしていました、そうしながらも山の中を見て回っていました。ですがそれでもでした。
 穴は見つかりません、ウルが入れそうな穴は。それででした。
 動物の皆はです、先生に尋ねました。
「ちょっとね」
「ないみたいだね」
「ウルが入られる位の穴はね」
「どうもね」
「そうみたいだね」
 先生も言いました。
「どうやらね」
「どうしたものかしら」
「ウルが冬眠出来る位の穴がないから」
「それじゃあね」
「どうしたものかしら」
「そうだね」
 先生は歩きながら腕を組んで言いました。
「ここはね」
「ここは?」
「ここはっていうと?」
「まだもうちょっと探そう」
 先生はまずは続けようと言いました。
「今はね」
「まだなんだ」
「探すんだ」
「あるかも知れないから」
 ウルが冬眠出来る位大きな穴がです。
「まだね」
「それじゃあね」
「まだ探そう」
「そして何とか見付けましょう」
「これからね」
 こうしてです、皆はです。先生のお言葉に頷いてです。
 さらに探し続けました、ですが。
 どうにもでした、そうした大きな穴がなくてです。皆いよいよ困ったお顔になって先生に言いました。
「もうね」
「日も暮れかけてるし」
「一旦ね」
「今日は」
「そうだね、明日もここにいるし」
 それならと言った先生でした。
「今日はホテルに帰ろう」
「そうしようね」
「ウルには悪いけれど」
「今日はね」
「うん、いいよ」
 ウルは先生に穏やかな声で応えました。
「明日にはだよね」
「約束するよ」
 こう返した先生でした。
「絶対に答えを出すよ」
「先生は約束を破る人じゃないよ」
「そのことは僕達が保障するから」
 動物の皆もウルに言います。
「もう絶対にだから」
「約束は守るからね」
「例え相手が誰でも」
「約束したことならね」
 絶対にというのです。
「だから安心してね」
「寝床のことはどうにかなるよ」
「明日にね」
「それで冬眠出来る様になるから」
「そうだね、楽しみにしているよ」
 確かな声で頷いたウルでした。
「その時のことをね」
「そういうことでね」
「じゃあ今日はお別れだね」
「そしてまた明日ね」
「会おうね」
「では私も」 
 シホレさんも言うのでした。
「家に帰って亭主と二人で」
「休まれますね」
「はい、もう家は二人だけですけれど」
 それでもというのです。
「のどかで楽しく過ごしていますよ」
「それは何よりですね」
「一軒家で二人で」
「過ごしておられますか」
「そうなんですよ、今日は亭主の好きなカレーですよ」
「カレーですか」
「はい、お昼に作ったんですよ」
 こう先生にお話するのでした。
「実は私もカレー好きで作るのも得意で」
「アイヌの人も今はですね」
「そうしたものも食べてますよ」
「アイヌ料理以外のものもですね」
「普通に作って」
 そしてというのです。
「普通に食べてます」
「そうなのですね」
「私達も変わりまして」
「大和の人達と一緒にですね」
「暮らして同じものを食べています、そして服も」
「アットゥシだけでなく」
「洋服も着てますし」
 それにというのです。
「和服も持っています」
「着物もですか」
「娘が好きで買ったんです」
「そうですか、娘さんがですか」
「そうなんです」
「何かそうしたお話を聞きますと」
「不思議ですか」
「民族の垣根がなくなってきているといいますか」
 先生は今は学者として言いました、お顔もそうした感じになっています。
「そう思いました」
「同じ人間ですから」
「だからですか」
「それも普通だと思いますが」
「言われてみればそうですね」
「確かに民族は違っていても同じ場所に住んでいてお付き合いもありますし」
「ご近所のですね」
 お話は随分と世間のものにもなっていました。
「そちらもですね」
「ありますから」
「それが今のアイヌ民族ですね」
「少なくとも私達はそうです」
「そういうことですね」
「差別はあってもそうしたものもあります」
 悪いこともあればいいこともというのです。
「そのこよがおわかりになられれば嬉しいです」
「わかりました、では」
「はい、今日はお別れをして」
「明日ですね」
「じゃあウル、明日ね」
 シホレさんもウルに優しい声で言いました。
「絶対にだよ」
「冬眠出来る寝床をだね」
「用意するからね」
「期待してるよ、僕も」
「それじゃあ今日はだね」
「僕も寝るよ」
「そうしてね」
 そうしたお話をしてでした、そのうえで。
 先生達はウルと別れてでした、そうして。
 シホレさんに案内されて山を下りました、湖まで戻ったところでシホレさんは先生達にあらためて言いました。
「今日はお疲れ様でした」
「いえ、そちらこそ」
「今日は見付かりませんでしたが」
「明日ですね」
「はい、明日こそは」
「お任せ下さい」
 先生はシホレさんにも約束しました。
「必ず何とかします」
「それではですね」
「彼のことが安心して下さい」
「わかりました、あの子がこの冬も無事に冬眠出来れば」
「それで、ですね」
「私も安心出来ます」
「彼のことをそれだけ気にかけておられるのですね」 
 先生はシホレさんにそのことも尋ねました。
「シホレさんは」
「はい、あの子が一人立ちした時に山で会いまして」
「その時からですか」
「友達同士でして」
「それで、ですね」
「心配しています」
「ではシホレさんのお友達である彼の為に」 
 是非にと言う先生でした。
「明日必ずです」
「お願いします」
「それでは僕はホテルに向かいます」
「そして明日ですね」
「またお会いしましょう」
 笑顔でお話してでした、そしてでした。
 先生達は今はシホレさんともお別れしてでした。ホテルでゆっくりと休息に入りました。



熊と出会っても先生がいれば大丈夫だな。
美姫 「確かにね。今回は熊のお願いね」
冬眠できる穴を探す事になったな。
美姫 「今日一日では見つけられなかったけれどね」
また明日も探すみたいだし、頑張って欲しいな。
美姫 「そうね。次回も待っています」
待っています。



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