『ドリトル先生北海道に行く』




                 第二幕  貨物列車での旅

 先生達はいよいよ出発となりました、それで旅支度を整えてです。
 お家はです、ちゃんとお掃除をして戸締りもしてから出ました。そのお家にです。 
 先生は手を振ってです、こう言いました。
「では暫くね」
「このお家とはね」
「さよならだね」
「私達が旅行に行っている間はね」
「離れ離れね」
「旅行に行くことは楽しいけれど」
 それでもというのです。
「お家と別れることは寂しいね」
「けれどそのこともね」
「旅行だよね」
「そう、だから笑顔でね」
 お別れは寂しくてもと言う先生でした。
「行こうね」
「よし、それじゃあ」
「今からね」
「まずは八条駅に行って」
「電車に乗るんだね」
「そうだよ、貨物列車に乗るんだ」
 乗る列車はそれだというのです。
「皆でね」
「あれっ、じゃあ先生とトミーも?」
「貨物列車に乗るの?」
「僕達と一緒に」
「同じ貨物列車に」
「そうだよ、同じ便というだけでなくてね」
 こう皆に言うのでした。
「僕とトミーもなんだ」
「同じ車両に乗るんだ」
「僕達と一緒に」
「そうするんだね」
「だって一緒に旅行に行くんだよ」 
 だからこそというのです。
「それで同じ車両に乗らないとね」
「駄目だっていうんだ」
「そうしないと」
「同じ車両にいないと」
「じゃあ聞くけれどね」
 それこそというのです。
「僕は皆と別々の車両やお部屋にいたことはあるかな」
「あっ、ないね」
「そうしたことはね」
「一度もないよ」
「それこそね」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「一緒の車両なんだ」
「そこに乗って行くんだ」
「北海道まで」
「そうするんだ」
「そうするよ、是非ね」
 こう言ってでした、普通にでした。
 先生達は八条駅の貨物列車の動物を運搬する為の車両に乗り込みました、ここで車掌さんに言われました。
「いいんですね」
「はい、この車両で」
 是非にと返す先生でした。
「北海道まで行かせてもらいます」
「左様ですか」
「ですから安心して下さい」
「北海道まではすぐですね」
「新幹線程ではないですが」
 その速さはというのです。
「速いですよ」
「そしてそれでいてですね」
「はい、鉄道の旅も楽しめます」
 そこは実際にというのです。
「北海道までの」
「そうですね、では」
「乗られますか」
「そうします」
 是非にと言うのでした。
「皆と一緒に」
「それでは」
 こうして言ってでした、皆で。 
 その動物用の車両に乗り込みました。そして電車が八条駅から出てです。
 動物の皆は先生にです、こう聞きました。その車両の中で。
「居心地が悪くない?」
「ここ人間用の車両じゃないよ」
「椅子も持ち込んだものだし」
「寝るにしても横になるだけで」
「鉄はむき出しだし」
「いい場所じゃないよ」
「いいんだ」
 別にと言う先生でした、にこりと笑って。
「だって皆と一緒だからね」
「それでそう言うんだ」
「先生はそれで満足なんだね」
「僕達と一緒なら」
「それだけで」
「どんな贅沢な場所にいても」
 それこそ宮殿の様に快適な車両でもです。
「皆と一緒じゃないとね」
「それでなんだ」
「今回の旅行でも」
「僕達と一緒」
「それで行くんだね」
「帰りもだよ」
 帰りの列車でもというのです。
「勿論ホテルもね」
「ああ、ホテルもなんだ」
「僕達は何時でも一緒」
「北海道でもだね」
「これまで通り」
「そうだよ、それに僕は豪華な客室とかね」
 それこそとです、笑って言う先生でした。
「柄じゃないし」
「それよりもなんだ」
「むしろ僕達と一緒の方がなんだ」
「嬉しい」
「そう言ってくれるんだ」
「そうだよ」
 まさにその通りだというのです。
「だから一緒にいようね」
「今もだね」
「ここで」
「お茶もあるし」
 セットの用意もしています。
「だから何の問題もないよ」
「おトイレはどうします?」
 トミーが先生に尋ねます。
「それはやっぱり」
「うん、別の車両に行けるから」
 車両の扉、別の車両につながっているそれを見てです。先生はトミーに温和な笑顔でこうお話したのでした。
「問題ないよ」
「僕達はそうして」
「皆にもおトイレを用意しているから」
 荷物は車両の端にまとめて置いています。
「だからね」
「その心配はいりませんね」
「では窓からね」 
 車両のです。
「景色を見て楽しもうね」
「はい、そちらも」
「それこそがだよ」
 車窓からの景色を見ることがこそというのです。
「鉄道の旅の楽しみだから」
「日本でも同じですね」
「そうだよ」 
 その通りというのです。
「だから楽しもう」
「北海道までの景色を」
「皆でね」
「是非ね」
「じゃあ先生」
 お話が一段落したところでトミーが言ってきました。
「この中でもお茶をですね」
「うん、飲みたいけれど」
「用意してあります、ただ」
「ただ?」
「この貨物列車の中は冷房は聞いていますが夏ですから」
「だからだね」
「先生は正装ですし」
 先生は夏でもスーツです、例え如何なる時でもお家にいる時以外はスーツでいてネクタイもちゃんと締めているのです。
「暑いでしょうし」
「ううん、生地は薄いけれどね」
「ですがそのことを考えまして」
 そしてというのです。
「今回はアイスティーにしました」
「あの日本で売っている」
「はい、ペットボトルのです」
 まさにそれだというのです。
「あのミルクティーを持ってきました」
「あのミルクティーも美味しいね」
 そう聞いてです、先生はにこりとして応えました。
「甘くてね」
「先生あの紅茶もお好きですね」
「ミルクティー以外もね」
 その他のお茶もと答えた先生でした。
「好きだよ」
「よく飲んでおられますし」
「だからね」 
 それでというのです。
「トミーがそのお茶を用意してくれるのならね」
「飲まれますね」
「そうさせてもらうよ」 
 こう笑顔で答えるのでした。
「是非ね」
「お菓子もありますので」
「そのセットを楽しめるね」
「この中でも。それに」
 トミーはさらに言います。
「お食事はです」
「皆の分はどうなっているのかな」
「車掌さんが用意してくれています」
 そちらもというのです。
「皆の分もちゃんと」
「そうなんだね」
「勿論僕達の分もです」
 先生とトミーの食べるものもというのです。
「あります」
「僕達は何を食べるのかな」
「駅弁です」
 トミーは先生ににこりとしてお話しました。
「それがあります」
「駅弁、それはいいね」
 駅弁と聞いてです、先生はにこりとして笑いました。
「日本のお弁当はとても美味しいけれど」
「はい、駅弁もですね」
「実は僕駅弁も好きになっていてね」
 日本に来た時からです、先生はすっかり日本の食文化に魅せられていますが駅弁もまた大好きになっているのです。
「だから駅弁を食べられるなら」
「楽しみですね」
「うん、この旅は今からね」 
 この鉄道の旅もというのです。
「楽しいものになるね」
「そうなりそうですね」
「じゃあいつも通りね」
「はい、紅茶にですね」
「駅弁も食べて勿論景色も楽しんで」
 そしてというのです。
「まずは函館まで行こう」
「それでは」
「そして函館に着いたら」
「今度は函館の美味しいものを食べられるね」
「北海道の入口でも」
「心おきなくね」
「そうなるよ」
 その通りとです、先生も笑顔で答えます。
「鉄道での旅を楽しみながら函館のことを楽しみにしていよう」
「じゃあまずはお茶ね」
 ガブガブが左の羽根を挙げて言ってきました。
「お茶の時間になったら」
「そしてお昼も食べて」
 トートーが続きます。
「景色を楽しみながら」
「神戸からはるばる函館までだね」
 ホワイティも楽しそうです。
「行くんだ」
「皆ここにいるし」
 チーチーは貨物列車の中を見回しつつ言います。
「何の心配もないね」
「先生がいてくれたら」
 ダブダブは先生を見ています。
「それだけで僕達は文句がないけれどね」
「そうだね、先生がいてくれたらね」
 ジップも言うのでした。
「もう何の心配もないよ」
「先生はいつも僕達に知恵を出してくれるから」
「そして暖かく守ってくれるから」
 チープサイドの夫婦が先生はどうして皆に愛されて信頼されているのかをお話しましあt。
「傍にいてくれたらね」
「最高に有り難いのよ」
「その先生と一緒にいられるなら」
 ポリネシアが言うことはといいますと。
「私達は何処でも最高の場所にいることになるわ」
「その通りだよ」
「先生、じゃあ今回の旅でもね」
 オシツオサレツは今も二つの頭で言います。
「いつも一緒にいて」
「そして楽しもうね」
「僕達は先生から離れないから」
 老馬はこのことを約束しました。
「何かあったら任せてね」
「うん、僕に出来ることなら」
 先生もみんなに微笑んで答えます。
「やらせてもらうよ」
「うん、それじゃあね」
「楽しく食べて景色を見て」
「そして函館まで行こう」
「この列車でね」
「そうしようね、けれどここにね」
 ふとです、先生はこうも言いました。
「王子がいないことはね」
「そのことは仕方ないです」
 トミーが少し残念そうに言った先生に答えました。
「王子も里帰りしないといけないです」
「お国にね」
「それに王子も日本のあちこちに行って」
「旅行もしてだね」
「それで日本のことを学んでいますし」
 そうした理由があってというのです。
「今回の旅に来られないことも」
「あるんだね」
「そうです」
「そうだね、いつも王子がいるとはね」
「限らないです」
 そうしたものだというのです。
「今回の旅は僕達で楽しみましょう」
「それじゃあね」
「はい、王子にはお土産を買ってあげましょう」
「北海道のお土産というと」
 そこで先生が思うことはといいますと。
「アイヌの人達の服かな」
「北海道にいる人達ですね」
「昔からね、実は日本は多民族国家でね」
 先生のお国であるイギリスと同じくです、イギリスはイングランド人の他にスコットランド人、アイルランド人、ウェールズ人がいます。
「アイヌの人達もいるんだ」
「先生はその人達の服をですか」
「王子へのお土産に買って行くよ」
 そうするというのです。
「ここはね」
「そうするんですね」
「王子にはね」
 こう言うのでした、そして。
 先生達はお茶に駅弁、それぞれのお食事を楽しみながら車窓から景色を見ました。貨物車両ですがそれでもです。
 車窓の面積は大きくてそこから景色が見えます、神戸を発ってです。
 大阪から京都、滋賀から岐阜に入り名古屋に向かいます。時間は朝から昼、夕方そして夜になっていきます。
 列車は思ったより早くてです、夕方にはもうかなり進んでいました。先生は皆に微笑んでこう言いました。
「この貨物列車は新幹線程速くはないけれどね」
「それでもだよね」
「かなり速いよね」
「何かこの速さだとね」
「函館まですぐだね」
「うん、すぐだよ」
 実際にそうだというのでした。
「函館までね」
「何か日本の列車って速いね」
「そうだよね」
「もう風みたいだよ」
「新幹線はその中でも特にだけれど」
「この貨物列車もそうで」
「全体的に速いね」
 動物の皆も言います。
「これなら本当にね」
「すぐに函館だね」
「じゃあもうね」
「景色を楽しんでいる間に」
「着くよ」
 その函館にというのです。
「明日の朝にはね」
「一日位?」
「それ位?」
「正確には一日かからないね」
 二十四時間もというのです。
「明日の朝早く、日の出位だからね」
「函館に着くのは」
「それ位なんだ」
「だからね」
 時間を正確に考えると、というのです。
「一日かっていうとね」
「厳密に言うとだね」
「そうでもない」
「そうなんだ」
「明日の朝早くに函館に着いたら」
 トミーも言います。
「まずはホテルに入ってですね」
「うん、そうしてね」
「函館での観光ですね」
「まずは五稜郭に行こう」
 先生はトミーに行く場所のリクエストを出しました。
「あそこにね」
「五稜郭ですか」
「そう、戊辰戦争の頃のものでね」
「確かお城ですよね」
「そうだよ、幕府軍が最後に立て篭ったお城なんだ」
 先生はトミーに五稜郭のことをお話しました。
「日本には珍しい近代式建築様式のね」
「欧州によくある」
「そう、砲撃戦を想定したね」
「それがあるんですね」
「僕は歴史学も学んでいるからね」
 その中に日本の歴史もあるのです。
「それで興味があってね」
「まずは五稜郭ですね」
「そこに行きたいんだ」
「わかりました」
 トミーは先生のお願いに笑顔で応えました。
「じゃあまずはです」
「行っていいんだね」
「先生だけじゃないですよ」
 トミーは笑顔のまま言うのでした。
「勿論僕達もです」
「一緒に来てくれるんだね」
「さっき言ったじゃない」
「そうそう」
 動物の皆も言います。
「僕達は何時でも一緒」
「例え火の中水の中」
「離れることはないから」
「何処でもね」
 だからというのです。
「だからだよ」
「僕達も一緒だよ」
「勿論五稜郭以外の場所もね」
「一緒に行こうね」
「そうだね、僕達は何時でも一緒だね」
 笑顔で言う先生でした。だからね」
「それで、だね」
「それじゃあ」
「函館に着いたら」
「まずはホテルに入って荷物を置いて」
「それからだね」
「五稜郭だね」
「五稜郭に行った後は海の幸だね」
 先生は食べるものも忘れていません。
「さて、何を食べようかな」
「函館は凄いですよ」
 トミーは函館の食べものについてもお話しました。
「烏賊に鮭、ホッケに雲丹に」
「色々あるんだね」
「シシャモもありますし」
「何か凄いね」
「海鮮丼なんか凄いですよ」
「どんな感じかな」
「鮭のお肉にイクラ、雲丹です」
 この組み合わせだというのです。
「しかも塩辛もついて」
「ううん、聞いているだけでね」
「美味しそうですね」
「日本の海の幸は最高だけれど」
 その中でも特にというのです。
「函館は別格みたいだね」
「明石や築地も素晴らしいですが」
「函館もね」
「日本屈指、いや最高の漁港かも知れないです」
「何かね」
 本当にお話を聞いていてです、先生は。
 期待しているお顔になっています、そのうえでの言葉でした。
「早く函館に行きたいね」
「そうですね、ただ先生も」
「うん、日本に来てね」
「すっかりですね」
「食べたいものがね」
 本当にというのでした。
「多くなったよ」
「そこ本当に変わったよね」
「先生はね」
 動物の皆も言います。
「すっかり食べることが好きになって」
「色々なものを食べる様になったね」
「イギリスにいた時はそうじゃなかったのに」
「日本に来てから」
「僕もそう思うよ」
 先生自身も言うのでした。
「日本に来てから何かと変わったよ」
「いつも飲むティーセットもね」
「イギリスにいた時はイギリスのものだけだったのに」
「それが今はね」
「本当に変わったね」
「そうなんだよね」
 それこそというのでした。
「和風のティーセットも楽しむ様になったし」
「アメリカ風とか中華風も」
「ロシア風もね」
「コーヒーはないけれど」
「そこも変わったね」
「そうだね、食べるもののレパートリーが増えたよ」 
 日本に来てからです。
「自分でも驚く位にね」
「そうそう、それにね」
「今回だって食べることを楽しみにしてるし」
「イギリスにいた時と違って」
「もうそこが大きく変わってるわ」
「ううん、まさかね」
 それこそというのです。
「僕もここまで変わると思ってなかったよ」
「何かそこまで変わると」
「それこそだね」
「自分でも驚くよね」
「別人だって」
「そう思うよ、そしてね」
 また言った先生でした。
「僕もその変化を好きだよ」
「先生自身も」
「そうして食べることが大好きになったことも」
「そのこともだね」
「そうなんだ、とにかくね」
 また言った先生でした。
「函館に行くのも楽しみだよ」
「ううん、果たしてね」
「何を食べるのか」
「そのことも楽しみにして」
「鉄道の旅も楽しもうね」
「是非ね、いやしかしね」
 先生は駅弁を食べています、その駅弁はです。横浜の焼売弁当です。そのお弁当を食べつつ言うのでした。
「このお弁当も美味しいね」
「ああ、そのお弁当も」
「横浜のだね」
「焼売弁当」
「そうなのね」
「これもね」 
 それこそというのです。
「美味しいね、しかもね」
「まだあるしね、お弁当」
「それもたっぷりとね」
「トミーも随分と買い込んだんだね」
「先生がお好きだと思いまして」
 それでと答えるトミーでした。
「用意しました」
「そうなんだね」
「先生は沢山食べられますし」
「だからだね」
「はい、ただ本当に太り過ぎにはです」
 トミーはこのことも言うのでした。
「注意して下さいね」
「ここでもそう言うんだね」
「ですからそれ以上肥満されたら」
 くれぐれもという口調です。
「健康に問題がありますから」
「太り過ぎでだね」
「まあ確かに先生はです」
 こうも言うのでした。
「日本に来られてから痩せました」
「体重が減ってね」
「脂肪率も減りました」
「血も奇麗になったしね」
「はい、ずっと」
 イギリスにいた時よりもというのです。
「凄く健康になっています」
「そうだよね」
「はい、ですが」
「用心に越したことはないんだね」
「そうです」
 その通りというのです。
「だから気をつけて下さい」
「それでだね」
「そういうことです」
「ううん、じゃあ海の幸も」
「海の幸は大丈夫です、羊とかも」
「そちらもだね」
 北海道はジンギスカン鍋も名物です、そしてジンギスカン鍋といえば羊のお肉を焼いて食べるものなのです。
「大丈夫だね」
「羊のお肉はカロリーが低くて」
「身体の脂肪を燃やしてくれるしね」
「そちらはいいんです」
「じゃあ甘いものかな」
「出来るだけ十時と三時のティータイムの時に食べましょう」
 その時にというのです。
「そうしましょう」
「そうすればいいんだね」
「先生はティータイムは欠かせないですね」
「それだけはね」
「ではその時に甘いものを食べて」
「北海道のスイーツをだね」
「そうしてです」
 そのうえでというのです。
「その間の、特に夜の間食はです」
「避けて」
「そうして気をつけていきましょう」
「そうだね、ただ僕は晩御飯の後は食べないし」
 それにと言うのでした。
「それにね」
「間食もですね」
「十時と三時のティータイムは楽しむけれど」
「それ以外はですね」
「しないからね」 
 だからというのです。
「そう言われるとね」
「しないですね」
「じゃあ問題ないかな」
「言われてみればそうですね、まあ先生は運動されないですから」
 スポーツは苦手です、それもかなり。
「そのことも頭に入れて」
「僕のするスポーツっていえば」
 それこそです。
「馬に乗ったりお散歩位だからね」
「その乗馬もですよね」
「うん、乗るだけだよ」
 まさにそれだけです。
「老馬だから大丈夫なんだ」
「他の馬には乗れないですよね」
「乗るだけだからね」
 本当にそうなのです。
「いけるんだ」
「そうですよね」
「他の馬だと」
 それこそです。
「駄目だよ」
「うん、先生はね」
「老馬さんは乗れるけれど」
「それでもね」
「他のお馬さんはとても乗れないね」
「その老馬さんに乗ってもね」
「駆けることは出来なくて」
「ただ乗るだけだから」
 動物の皆も指摘します。
「乗馬はスポーツだけれど」
「その乗馬もね」
「ただそれだけだから」
「先生とスポーツは」
「もう縁がないね」
「完全にね」
「そうなんだよ、僕はとかくスポーツはね」
 とにかくなのです。
「大の苦手なんだ」
「そうだよね」
「だから乗馬にしてもね」
「老馬さんじゃないと駄目で」
「しかも駆け足も出来ない」
「そうなんだよね、先生は」
「それにね」
 さらに言う先生でした。
「僕はしっかりとした鞍と鐙がないととてもね」
「僕に乗れないね」
 老馬自身も言います。
「そうだよね」
「第一に手綱もないと」
 これも必要です。
「とてもだよ」
「というかそれ全部絶対にあるよ」
 チーチーが指摘しました。
「乗馬だとね」
「いや、そうとは限らないよ」
 先生はチーチーの指摘に微笑んで答えました。
「鞍も手綱もなくて馬に乗る人もいるんだ、世界にはね」
「ああ、モンゴルの人とかね」
 トートーは先生のお話からすぐに気付きました。
「あそこの人達はそれでも乗れるね」
「かなり特別だけれどね」
 そのモンゴルの人達はというのです。
「何しろ歩くより先に馬に乗るっていう人達だから」
「そんな人はかなり特殊にしても」
 ジップも驚きを隠せません。
「そうした人達もいるんだね」
「そうだよ、僕にも信じられないけれどね」
「というか鐙がなくて馬に飛び乗るって」
 このことを言ったのはガブガブでした。
「凄いわよ」
「それに乗ってからも安定がないよね」
 ホワイティも言います。
「鐙がないとそれだけで乗馬って難しいよ」
「そう、それに鞍がなくて手綱もなくてね」
 そうしたものが全部なくてもというのだ。
「それで乗る人もいるからね」
「しかもそこから手で弓矢とかも使うから」
 ポリネシアはそのモンゴルの人達のことをお話します。
「どれだけ凄いのかしら」
「そんなの曲芸だよ」
 ダブダブはこう言い切りました。
「それだけでも」
「というかだよ」
「そうした環境にいる人達でないと」
 チープサイドの家族はこう言うのでした。
「出来ないことで」
「本当に特殊だよ」
「うん、僕もそう思うよ」
「チープサイドのご家族の言う通りだよ」
 オシツオサレツも言います。
「そんなこと出来たら」
「何もないお馬さんに乗って行き来出来るとかね」
「そう、僕にもだよ」
 またお話してくれた先生でした。
「そんなことしろって言われたらね」
「出来ないよね」
「絶対に」
「どう考えても」
「僕の運動神経だととても」
 さらに言うのでした。
「想像すら出来ないよ」
「老馬さんに乗るのがやっと」
「しかも駆けることも出来ない」
「そんな状況だとね」
「とてもだよね」
「そうですよね、モンゴルの人達は」
 トミーも言います。
「本当に特殊ですね」
「あの人達は遊牧民だね」
「はい」
「それでそれこそ歩く前からね」
「馬に乗る様な人達だからですね」
「そうしたことが出来るんだ」
「裸の馬に乗ってそのまま駆けることも」
 トミーはここでこうも言いました。
「鐙も鞍も手綱もなくても」
「馬の背中にそのまま乗ってね」 
 そしてというのです。
「鐙がなくても脚で馬の身体を挟んで安定を保ってね」
「手綱がなくてもですね」
「首に手をつけてね」
「それは凄いことですね」
「それだけ馬に慣れているってことだね」
「自分の身体みたいに動かせるから」
 それでというのです。
「出来るんだ」
「それでは」
 ここでこうも言ったトミーでした。
「駆け足をさせて風が来ても」
「それを身体を屈めたりしてね」
「避けるんですね」
「馬上で踏ん張ったりしてね」
 脚で馬の身体を掴んで、です。
「そうするんだ」
「そこまで出来るとなると」
 トミーはわかったことがありました、そのことはといいますと。
「相当身体が強いですね」
「筋肉があって体力もあってね」
「しかも運動神経も必要ですね」
「そうだね」
「そんな人達だからこそ」
 トミーはここで歴史のことを言いました。
「モンゴル帝国を築けたんですね」
「モンゴル帝国は強かったね」
「まさに無敵でしたね」
 戦えば必ず勝つ、しかもその動きはいつも馬に乗っている為恐ろしいまでに速かったのです。モンゴル帝国には誰も勝てませんでした。
「鬼の様に強くて」
「そう、その強さはね」
「馬を自由自在に操って」
「それが出来る身体があったからなんだ」
「そういうことですね」
「うん、僕なんか」
 それこそと言うのでした。
「モンゴルではとても暮らしていけないね」
「特にモンゴル帝国の時はですね」
「匈奴とかの時は本当に鞍や鐙がなかったんだよ」
「それでもですね」
「スキタイ人もそうだったけれどね」 
 かつてギリシアの北にいた遊牧民の人達です。
「彼等も馬に乗っていてもね」
「鞍や鐙がなかったんですね」
「そうだったんだよ」
「それでも乗れたのは」
「そうした環境で暮らしていたからだよ」
「先生は今のイギリスに長い間おられて」
 そしてというのです。
「日本に住んでおられて」
「そうした環境ではね」
「暮しておられないからですね」
「出来ないよ」
 そうした乗馬はというのです。
「とてもね」
「というかね」
「先生がそんな乗馬するとかね」
「とても考えられないわよ」
「スポーツをする先生自体がね」
「想像すら出来ないわ」
 とてもと言うのでした、そして。
 そうしたお話をしているうちに外は夜になりました、窓の外には夜景が見えたりお星様やお月様が見えたり。
 そしてです、山や海も見えますが。
「暗いとね」
「山は海の景色は見られないね」
「それが残念だね」
「夜の闇の中に隠れて」
「うん、そのことはね」
 先生もそのことについて答えます。
「仕方ないよ」
「そうだよね」
「じゃあもう遅いし」
「車の灯りは点いているけれど」
「それを消して」
「もう十時だしね」
 先生は皆に答えました。
「寝ようか」
「うん、明日は早いし」
「早く寝て早く起きて」
「そしてだね」
「函館だね」
「朝起きたら」
 まさにその時はというのです。
「僕達は函館だよ」
「日の出と共にだね」
「函館駅に着いていて」
「それでだね」
「函館観光のはじまりだね」
「明日から忙しいよ」
 旅行で、というのです。まさに。
「何かと」
「観光に行って食べて」
「そして飲んで」
「何かと忙しくなるね」
「確かにね」
「そうだよ、だから今日は早く寝よう」
 十時にというのです。
「ぐっすりとね」
「よし、じゃあ」
 動物の皆も先生に応えてでした、そうして。
 灯りを消して皆で寝ました、貨物列車は夜もごとごとと先に進んでいきます。そして本州と北海道の間の海の下にあるトンネルを潜って。
 皆が朝起きるとです、外は白くなっていて。
 そしてです、駅に着いていました。
 その駅を見てです、動物の皆は言いました。
「僕達着いたんだね」
「そうだね、函館駅だよね」
「先生の言う通り朝起きたらね」
「着いていたね」
「北海道に」
「うん、間違いないよ」
 先生は窓のところにお顔を近寄せて駅の中を見回してから言いました。見れば函館駅とはっきり書かれています。
「ここは函館だよ」
「そう、北海道だね」
「遂に来たんだね」
「じゃあまずは駅を出て」
「ホテルに向かおう」
「地図は僕が持っていますから」
 トミーは実際にもう地図を出しています。
「駅の中の地図も」
「ああ、この駅は大きいみたいだね」
「はい、何しろ北海道の入口ですから」
 それ故にというのです。
「かなり大きな駅です」
「それでだね」
「地図は用意しておきました」
「じゃあ皆」
 先生はトミーの言葉を受けて動物の皆にあらためて言いました。
「トミーの誘導に従ってね」
「はぐれないでね」
「そうしてだね」
「皆で函館駅を出て」
「ホテルに入るんだね」
「そこに荷物を置いてね」
 そしてというのです。
「そこからだよ」
「函館観光」
「それに食べ歩きだね」
「うん、ただね」
 ここでこうも言った先生でした。
「列車から出たらまずはね」
「まずは?」
「まずはっていうと?」
「いや、朝起きたらまずは」
 それはといいますと。
「御飯を食べよう」
「あっ、そうだね」
「朝御飯を食べないとね、まずは」
「何につけてもね」
「食べないとね」
「全てはこれからだね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「まずは御飯を食べよう」
「よし、それじゃあね」
「まずは御飯を食べましょう」
「列車から出たら」
「近くにあるベンチのところでね」
「そうしようね」
「朝御飯でしたら」
 ここでトミーが皆に言います。
「お弁当がまだありますから」
「あっ、もうなんだ」
「はい、ありますので」
 それでというのです。
「それを食べましょう」
「よし、それじゃあね」
 先生もトミーの言葉に微笑んで応えます、そしてでした。
 皆で列車から出てです、そのうえで。
 駅弁やそれぞれの御飯を食べました、そして朝御飯を食べてです。
 先生は落ち着いたお顔で皆にこう言いました。
「これでね」
「朝御飯を食べたから」
「だからだね」
「駅から出てホテルに入って」
「荷物を置こうね」
 朝御飯を食べて一日のはじまりのエネルギーを補給して味も楽しんででした、皆で函館の街に出ました。夏でも涼しいその街に。



先生一行、北海道へ。
美姫 「貨物列車に乗ってのんびりとね」
まあ、寝ているうちに到着って感じだけれどな。
美姫 「函館に着いた先生たちは、どう過ごすのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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