『ドリトル先生の水族館』




                 第八幕  川のお魚も

 先生は動物の皆を連れて大学の講義の時間がない時は水族館でそこにいる生きもの達の診察を続けていました。 
 その先生の研究室にです、日笠さんが来て言ってきました。
「今回もすいません」
「いえいえ、これもお仕事で。それに」
「それに、ですか」
「楽しんでいます」
 その診察をというのです。
「皆とお話をすることもまた」
「そうですか、どの生きものもですね」
「健康です」
 至って、というのです。
「どの子もストレスがなくて。年齢のこともありますが」
「重い病気はですね」
「ありません」
 それも全く、というのです。
「深刻なものは」
「それは何よりですね」
「はい、ただお話を聞いた」
「ダイオウグソクムシはですね」
「僕が診察を続けている間も」
 まだ先生はグソクムシさんのところには行っていませんがそれでもお話を聞いています。そのお話によるとです。
「食べていないとか」
「はい、その記録を更新しています」
「本当に不思議ですね」
「とにかく食べません」
 日笠さんも言います、先生が出してくれた紅茶とティーセットを楽しみながら。今日のティーセットは上はお抹茶のクッキー、真ん中は杏のケーキ、下段はチョコレートアイスとなっていてお二人の周りでは動物の皆がくつろいでいます。
「何も」
「凄いですね」
「とにかくです」
「何も口にしないんですね」
「食べものを置いても一瞥もしません」
 見ることすらしないというのです。
「それこそれです」
「不思議で仕方ないですね」
「先生から見てもですね」
「まことに」
 本当に、とです。先生も答えるしかありません。
「僕も深海生物について調べていますが」
「それでもですね」
「何年も食べないとはです」
「有り得ませんね」
「深海はまだまだ謎があります」
 深海生物もまた然りです。
「そしてその謎の中にです」
「ダイオウグソクムシも入っていますね」
「そうです」
 まさにというのです。
「不思議で仕方なりません」
「生物学的に食べないということは有り得ませんね」
「エネルギー摂取は必要です」
 先生は日笠さんにはっきりと答えました。
「それこそ」
「そうですね」
「はい、しかし」
「あの生きものは」
「何年も食べていないというのですから」
 それで、というのです。
「僕も不思議に思っています」
「鳥羽水族館のダイオウグソクムシはです」
 日笠さんはあえて他の水族館の事例を出しました。
「何年も食べないまま死にましたが」
「餓死ではなかったのですね」
「違いました」
「それも凄いですね」
「一体どうして生きていたのか」
「謎ですね」
「私は深海については専門外です」
 日笠さんも動物園勤務で学芸員の資格を持っています。そうした意味で学問と関わりのある人ですが深海についてはそうなのです。
「ですから多くは言えませんが」
「それでもですね」
「そんなことは有り得ないですが」
「モグラはです」
 先生はケーキを食べながらこの生きものの事例をお話に出しました。
「一日に体重の半分を食べないといけません」
「はい、八条動物園でも飼育していますが」
「餌はいつもですね」
「沢山あげています」
 その体重の半分をあげているのです。
「そして気をつけています」
「モグラはそうですね」
「変温動物はどうして多く食べます」
「哺乳類や鳥類は」
「体温のコントロールにエネルギーが必要なので」
 それで沢山食べないといけないのです、勿論人間も哺乳類です。
「ですから」
「そういうことですね」
「確かに恒温動物は哺乳類や鳥類より食べなくてもいいですが」
「はい、爬虫類も」
「恐竜もです」
 この巨大な生きもの達もとです、日笠さんはお抹茶のクッキーを食べつつそのうえで先生にお話しました。
「身体は大きく食べる量自体は大きかったですが」
「その身体の大きさと比較しますと」
「食べる量は少なかったです」
「哺乳類と比べて」
「そうでした、しかし」
「ダイオウグソクムシに関しては」
「何年も食べないのですから」
 食べる量が少ないどころでなく、です。
「そうなっていますから」
「不思議ですね」
「生物の神秘ですね」
「それになりますね」
「私もそう思います。世の中には不思議な生きものも多いですが」
「ダイオウグソクムシもそこに入りますね」
「全くです」
 こう先生にも答えたのでした。
「先生にはあの子も診てもらいたいので」
「はい、深海生物のコーナーには最後に行きますが」
「その時にですね」
「診させてもらいます」
 先生は確かな声で、です。日笠さんに答えました。
「是非」
「それでは」
「はい、その時に僕もです」
「ダイオウグソクムシを診て」
「その謎に近付きたいですね」
「生物の謎に」
「問題は言葉ですが」
 このことは先生は自分から言いました。
「まずはアンコウ君とお話をして」
「そこからですか」
「他の深海生物の言葉を教えてもらって」
「そしてですね」
「彼の言葉もです」
「知るのですね」
「そうしていこうと思っています」
 順序を進めてというのです。
「今は」
「そういえばダイオウグソクムシの棲息している海は」
「あっ、それですね」
 先生は日笠さんの言葉にはっとなって返しました。
「アンコウは種類によりますが大体五百メートルから千メートルまでで」
「グソクムシもですね」
「深くて千メートルまでです」
「深いことは深いですが」
「はい、同じ位の深さで」
「深海としてはですね」
「まだ浅い方です」
 深海の中ではというのです。
「まだ」
「そうでしたね」
「千メートルから下になりますと」
「それこそですね」
「また独特の世界になります」
「その形もですね」
「はい、徐々にフクロウナギ等変わっているとされる形の生物が出て来て」
 深海独特のです。
「かなりのものになっていきます」
「それでグソクムシやアンコウは、ですね」
「比較的です」
 深海の中でもというのです。
「まだ浅い場所にいます」
「深いところになれば」
「より変わった形の生物がいます」
「そのフクロウナギにしてもそうですし」
「あのお魚のことはご存知ですね」
「一度見たら忘れられないと思います」
 日笠さんは真面目なお顔で先生に答えました。
「あの様な形の生きものは」
「その通りですね」
「子供の頃図鑑で観て驚きました」 
 そのフクロウナギの姿をというのです。
「他の深海生物もですが」
「中には自分よりも大きな生きものを食べて飲み込むお魚もいますし」
「あのお魚も凄いですね」
「深海は深海で一つの世界です」
 生物学的にというのです。
「独特の生物が多くいます」
「リュウグウノツカイもですね」
 日笠さんはこの不思議なお魚の名前も出しました。
「あのお魚も」
「はい、あのお魚にしてもです」
「かなり独特な形で」
「泳ぎ方もです」
 それもというのです。
「タツノオトシゴの様に縦に泳ぐのですから」
「普通は横に泳ぐのですが」
 身体をそうしてというのです。
「しかしです」
「あのお魚はです」
「身体を縦にして泳ぐ」
「そのことも独特です」
 生物学的にというのです、そしてです。
 日笠さんはあらためてです、こう先生に言いました。
「あのお魚を水族館で飼育出来れば」
「色々なことがわかりますね」
「はい、あのお魚はとかく謎です」
「全てが謎に包まれていますね」
「その生態の殆どが」
「ですから」
 それだけにというのです。
「あのお魚のことを調べる為にも」
「是非共ですね」
「水族館でも飼育出来ればいいのですが」
「僕もそう思います、ですが」
 ここで、でした。先生は日笠さんにお話しました。
「飼育に挑戦した水族館はありますが」
「確か一時間もしないうちに」
「僅か三十分程度で」
 それだけで、というのです。
「死んでしまいました」
「そうでしたね」
「剥製はこの水族館にあるのですが」
「それでもですね」
「生きたまま飼育することはまだ誰も成功していません」
 どの水族館でもというのです。
「世界で」
「それだけ難しいということですね」
「そうです、そもそも深海魚自体がその生態系が特殊なだけに飼育が難しいですが」
「リュウグウノツカイはですね」
「特に難しい様で」
 それで、というのです。
「まだ誰も成功していないのです」
「そうしたお魚ですね」
「僕も願っています」
 リュウグウノツカイの飼育の成功にです。
「そのことは」
「そうなのですね」
「はい、生物学の研究の意味でも」
 深海生物のそれをです。
「是非と思っています」
「そうですね、この世には不可能と思われていても」
「不可能なことは実は殆どありません」
「大事なのは努力ですね」
「努力をすればです」
 その努力がどれだけ凄いものか、的確なものかによってです。
「それは実ってです」
「不可能だと思われていたことがですね」
「可能になります」
「だからですね」
「リュウグウノツカイの飼育もです」
「必ずですね」
「成功する筈です」
 先生は日笠さんに確かな声で答えました。
「生きものの飼育もまた、です」
「不可能と思われていても」
「努力をしていけば」
「可能になりますね」
「必ず、人はそうして進歩してきました」
 それまで不可能だと思われてきたことを可能にしてきて、というのです。
「リュウグウノツカイにしまして」
「その謎は何時か解き明かされますね」
「そう思います、今は無理でもです」
「やがては」
「はい、必ずです」
 こう日笠さんにお話するのでした、そしてです。
 日笠さんは先生にです、こう尋ねました。
「先生は深海に行かれたいと思いますか?」
「はい」
 先生は微笑んで日笠さんに答えました。
「実は」
「そうですか」
「深海生物の研究もしていますので」
「研究にはフィールドワークが欠かせませんし」
「だからです」
 現地即ち深海に自分で行ってというのです。
「調べたいです」
「そうですね」
「何しろ他の場所にはいない生きものが沢山いまして」
「しかもまだ見付かっていない生きものも多い」
「ですから」
 それだけにというのです。
「是非です」
「ご自身で」
「行きたいと思っています」
「そうですか、では深海探査艇が出ましたら」
「八条グループが持っている」
「それに乗られたいですか」
「はい、出来れば」
 すぐにでした、先生は日笠さんに答えました。
「そうしたいです」
「そうですね、では」
「では?」
「理事長さんに希望を出されますか」
「調査への同行を」
「はい、そうされてはどうでしょうか」
 先生にです、日笠さんは提案しました。
「行かれたいのなら」
「そうですね、機会があれば行きたいですから」
「希望をですね」
「出したいです」
「出されればです」
 日笠さんは先生の希望を聞いてでした、笑顔になってです。
 そしてです、こう言いました。
「探査艇が出る時、その時に先生のお時間があれば」
「その時にですね」
「そうです、深海に行けます」
 そうなるというのです。
「ですから」
「では理事長さんに願書を出しておきます」
「それでは」
 こうしたこともお話したのでした、先生は深海調査のお願いも出すことにしました。ですがこのことはここで終わってでした。
 先生はこの日も水族館で診察をしました、今日は日本の淡水生物のコーナーに行って診察をしました。そこで、です。
 先生は鯉さん達を診察しました、鯉さん達への診察をしてです。
 そこで、です。先生は言うのでした。
「うん、皆健康で何よりだよ」
「そう、じゃあね」
「これからもここで楽しく暮らすわね」
「いや、この水槽は快適でね」
「食べものも美味しいし」
「幾らでも大きくなれるよ」
「そんな気がするわ」
 こう先生に言うのでした。
「好きなだけ泳げるし」
「幾らでも食べられるし」
「ストレスとかなくて」
「楽しいわよ」
「それはなによりだよ」
「そういえば」
 ここで、です。ホワイティが言いました。
「この鯉さん達普通の鯉さん達より大きくない?」
「うん、そうだね」
「言われてみればね」
 チープサイドの家族も頷きます。
「普通に見る鯉さん達よりも」
「大きいわ」
「錦鯉じゃないけれど」
「普通に大きいわね」
「うん、栄養がいいからね」
 先生がホワイティ達に答えました。
「この子達は大きいんだ」
「やっぱり栄養がいいとね」
「身体って大きくなるんだね」
 オシツオサレツは先生の説明に納得してです、前後の頭で同時に頷いてそのうえでうんうんと言うのでした。
「そこにストレスもないと」
「余計にだね」
「そうだよ、だからこの子達も大きくて」
 それでとです、またお話した先生でした。
「他の生きもの達もなんだ」
「この水族館の他の子達もだよ」
「うん、そういえばね」
 今度は老馬が言いました。
「この水族館、動物園も皆大きいね」
「食べるものがあるとね」
 ガブガブも言います。
「皆大きくなるんだね」
「そう言うガブガブはまた大きくなってない?」
 トートーは食いしん坊のガブガブを見つつ言いました。
「特にお腹のところが」
「そうかな」
「うん、大きくなることはいいことだけれど」
「太るのは駄目かな」
「あまりよくないっていつも話に出てるじゃない」
「そういえばそうかな」
「ガブガブは運動も必要よ」
 ダブダブの口調はお姉さんかお母さんみたいなものでした。
「もっとね」
「僕結構歩いてるよ」
「けれどそれよりもずっと寝てるでしょ」
 ダブダブはガブガブのお寝坊さんでお昼寝好きのことも言いました。その右の羽をぴんと上げたうえで。
「だからね」
「寝る時間をなんだ」
「もっと減らして」
「歩かないと駄目なんだ」
「さもないとお腹だけ大きくなるわよ」
「まあとにかく沢山食べるとね」
 ポリネシアはお話を戻してきました。
「大きくなるわね」
「うん、そうだね」
 チーチーはポリネシアのそのお話に頷きました。
「僕達もね」
「栄養は大事よ」
「僕もね、食べてね」 
 ジップも言います。
「大きくなったしね」
「そういうことね」
「うん、やっぱり食べないとね」
「大きくなれないわ」
「だからだよ」
 また言った先生でした。
「この子達は大きいんだ」
「普通の鯉さん達よりもね」
「皆一メートル位あるんだ」
「大きくて」
「身体つきもしっかりしてるのね」
「そうだよ、ただね」
 ここで、です。先生はです。 
 自分達のすぐ近くにいる中年のおじさんがです、鯉さん達を何か水族館の生きもの達を見るのとは違う目で見ていることに気付いて皆に言いました。
「あの人はね」
「何か違うよね」
「水族館っていうかレストラン?」
「料亭かしら」
「そうした場所にいるみたいな」
「そんなお顔よね」
「うん、日本人は鯉も食べるからね」
 だからというのです。
「あの人は多分鯉が好きだよ」
「食べものとしてなんだ」
「鯉が好きなんだ」
「だからああしてだね」
「物凄く美味しそうなものを見る目なんだ」
「その目で見てるのね」
「そうだろうね、それとね」
 ここでさらにお話した先生でした。
「日本では鯉君達は錦鯉っていってね」
「あの奇麗な鯉さん達ね」
「色々な模様がある」
「あの鯉さん達もだよね」
「人気あるのね」
「高いけれどね」
 それでもというのです。
「そういう鯉君達を飼うことが好きな人もいるんだ」
「ふうん、日本人の趣味って多彩だけれど」
「鯉を飼うことも趣味のうちなんだ」
「熱帯魚を飼うみたいに」
「鯉も飼うんだ」
「そうなんだ、熱帯魚を飼うことと確かにね」
 実際にとお話した先生でした。
「同じだね」
「お魚を飼うことだから」
「だからだね」
「そうだよ、それだけ鯉君達が日本で親しまれてるってことだよ」
「けれどね」
 その鯉さん達が言ってきました。
「大丈夫ってわかってても」
「それでもね」
「ああした美味しそうって見られるのは」
「ちょっとね」
「嫌よね」
「どうしても」
「うん、そうだよね」 
 先生も鯉さん達の言葉に頷きます。
「君達自身が一番思うことだね」
「そんなに美味しそう?僕達」
「鯉って」
「まあね、それはノーコメントってことでね」
 先生はそこは誤魔化しました。
「そういうことでね」
「うん、じゃあ」
「それでなんだ」
「そうしたことはよくあるから?」
「それで?」
「気にしないでね」
 例えです、美味しそうという目で見られてもというのです。
「襲われることはないからね」
「それじゃあね」
「これからは気にしないでいるわ」
「そうした目で見られても」
「別にね」
「そうしてくれるといいよ」
 鯉さん達にこう言ってでした、そのうえで。  
 先生は鯉さん達から離れました、そしてです。
 あらためてです、先生は皆にお話しました。
「実際僕も鯉を食べたことがあるけれど」
「美味しいよね」
「特に和食だと」
「お刺身に鯉こくに」
「揚げてもね」
「何をしても美味しいのよね」
「そう、美味しいんだよ」
 先生はまた言いました。
「だからね」
「さっきは言葉を濁したんだね」
「ノーコメントで通したのね」
「あえて答えなかった」
「そうしたのね」
「そうだよ、どうしてもね」
 食べたことがある手前、というのです。
「答えられないよ」
「先生色々食べてるからね」
「特に来日してからは」
「お魚はとりわけ」
「川にいるお魚もね」
「鯉も食べて」 
 そして、と言う先生でした。
「鮒も泥鰌も鯰もね」
「岩魚とかもね」
「一杯食べてるよね」
「うん、タキタロウはないけれどね」
 このお魚の名前を出すとです、皆は目を瞬かせて言いました。
「タキタロウっていうと」
「この水族館にも説明書いてたけれど」
「あれ本当にいるの?」
「東北の湖にいるのよね」
「いるって言われてるけれど」
「実際はどうなの?」
「いると言われてるけれどね」
 先生は腕を組んで考えるお顔になって答えました。
「まだわかっていないんだ」
「そうなんだね」
「いるかどうかはなの」
「はっきりしていない」
「そうなのね」
「そうなんだ、僕はそこにも行ってみたいと思ってるんだ」
 タキタロウがいるというその湖にというのです。
「いるかどうか調べる為に」
「タキタロウがいるか」
「実際にどうなのか」
「深海だけじゃなくてそこにも行って」
「それでその目で調べたいんだね」
「そう考えてるんだ」
 実際にというのです。
「何時かね」
「ううん、何か日本に来てから」
「先生の学問が凄くなってきてない?」
「あらゆることを調べたい」
「そうなってきてないかしら」
「そうかもね、僕も変わったよ」
 イギリスにいた時と、というのです。
「深海についてもそうで」
「タキタロウもだよね」
「実在するかどうか調べたい」
「実際にその目で」
「その場所まで行って」
「イギリスにいた時の僕は時々冒険に出ていたけれど」
 その頃の普段の先生はといいますと。
「誰も来ない病院でいただけだったね」
「それが今はね」
「色々なことを学んでいる学者さんだよね」
「そうだよね」
「今だとね」
「そうなったよ、日本に来て」
 そうなってからというのです。
「学問にさらに目覚めたよ」
「文学も歴史学もね」
「それと語学も」
「神学や哲学もだし」
「そして生物学もね」
「本当に色々とね」 
 それこそというのでした、先生も。66
「学ぶことが増えたよ」
「興味が一層湧いて」
「色々な場所にも自分から行ってみたいってね」
「思うようにもなったわね」
「確かに変わったよ」
 ご自身でまた言った先生でした。
「日本に来てね」
「そうよね、それじゃあ」
「東北にも行って」
「そしてタキタロウもね」
「実際にその目で見たい」
「そうなのね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「だから行きたいよ。ただタキタロウを食べるとなると」
「食べられるの?本当に」
「タキタロウって」
「先生さっき言ってたけれど」
「実際にはどうなの?」
「食べられるのかしら」
「どうかな」
 先生は首を傾げさせて応えました。
「実在が確かめられたら天然記念物になる可能性が高いからね」
「天然記念物になったら」
「もう食べられないから」
「それじゃあよね」
「食べられないね」
「そうなる可能性が高いからね」 
 だからというのです。
「タキタロウは食べられないかもね」
「実際にいるかどうか」
「そのことも問題だけれど」
「タキタロウがいるかどうか」
「そのこともだね」
「うん、まあとにかくタキタロウについては」
 ここで先生達はそのタキタロウについてお話しました。
「実際にその池で八十センチ位の魚が捕まってるからね、何度も」
「じゃあいるんだ、タキタロウ」
「間違いなく」
「そう、いる可能性は非常に高いんだ」
 実在は、というのです。
「どうやらね、ただ個体数は」
「少ないんだね」
「それもかなり」
「そうなんだ、だからこそ幻の魚と呼ばれているんだ」
 先生は皆にそのタキタロウについて書かれている壁の文章も見せつつお話しました。
「いることはいてもね」
「見つかることが少ないから」
「いることは間違いなくても」
「それでもなんだね」
「凄く少ないから」
「そうだよ、あとタキタロウがいる場所は正式にはお池だよ」
 湖というよりは、というのです。
「そこは大きなお魚がいられる場所でね」
「それでなんだ」
「タキタロウもいられるんだ」
「大きなお魚も」
「そうなんだね」
「それでなんだ。もっともタキタロウは個別の種類かというと」
 タキタロウという種類かといいますと。
「また違うみたいだね、今知られているお魚の大型の可能性が高いみたいだね」
「新種のお魚じゃなくて」
「ただ大きいだけなんだ」
「そのお池が大きくなるお魚がいられる場所で」
「それでなんだ」
「そうみたいだね、まあ詳しいことはまだよくわかっていないけれど」 
 先生はタキタロウについての説明を読みつつ皆にお話します。
「いることは間違いないよ」
「そうなんだね、けれど」
「確かなことがわかったら天然記念物になるかも知れない」
「天然記念物は迂闊に進められないから」
「だからなんだ」
「先生も食べられないかも知れない」
「タキタロウは」
 動物の皆もこの辺りの事情がわかりました。
「そういうことなんだね」
「タキタロウは食べられないかも知れない」
「例え食べたくても」
「食べてはいけないものは食べたらいけないよ」
 先生はこのこともです、皆に注意しました。
「法律は守らないとね」
「そう、ちゃんとルールは守らないと」
「マナーもね」
「さもないと皆が迷惑するし」
「紳士のすることじゃないよね」
「僕は紳士でありたいからね」
 いつもそう思っています、ですがここでご自身を紳士だとは決して言わないのは先生の謙虚さ故のことでしょう。
「だからね」
「そうしたことはね」
「先生絶対にしないよね」
「法律やルール、マナーに違反することはね」
「絶対にしないね」
「そうだよ、だから若しタキタロウが天然記念物になったら」
 そうなった時はというのです。
「法律で定められるだろうかな」
「そうしたことはしないで」
「ただ調査するだけだね」
「学者さんとして」
「そのつもりだよ、では次の診察に行こうね」
 こう皆に行ってでした、先生は今度はヤモリさんやイモリさんの診察をしてです。サンショウウオさんの診察もしましたが。
 オオサンショウウオさんのところに来るとです、チーチーが仰天して言いました。
「何、このサンショウウオさん」
「オオサンショウウオ君だよ」
 先生はそのびっくりしているチーチーに答えました。
「見てびっくりしたんだね」
「こんな大きなサンショウウオさんもいるんだ」
「そうだよ」
「あの、このサンショウウオさんは」
 ジップも驚いています、そのうえでオオサンショウウオさんの説明を見つつお話します。そうしてなのでした。
「日本にいるの」
「そうだよ」
 その通りとです、先生はジップにも答えました。
「驚いたかな」
「日本にこんな生きものがいるなんて」
「川にいるの?」  
 かなり真剣にです、ガブガブは先生に尋ねました。
「このサンショウウオさんは」
「そうだよ、奇麗な高い場所にある川とかにね」
「そうなんだ」
「日本の西の方に沢山いてね」
「この水族館でもいるんだね」
「本来は飼育が難しいけれど」
 オオサンショウウオさんもというのです。
「この水族館では長く飼育しているそうだよ」
「そうなのね、それにしてもね」
 トートーも目を丸くさせています、梟なので普段から丸い目なのですが今は普段以上にそうなっています。
「大きいし凄い姿だね」
「怪獣と思ったかい?」
「正直なところね」
 日本の特撮ものに出て来るみたいなです。
「それか妖怪か」
「実際に妖怪になっていることもあるよ」
「やっぱりね」
 ホワイティは先生のそのお話に頷きました、
「この大きさと姿だとね」
「怖いからだね」
「僕なんか一口だよ」
 その大きなお口で、というのです。
「それこそね」
「私もそうね」 
 ダブダブもこう言うのでした。
「これだけ大きいと」
「僕達もね」
「迂闊に近寄ったら」
 チープサイドの家族もその大きさと姿から怖がっている感じです。
「それこそ一口でね」
「ぺろりよ」
「ここまで大きなサンショウウオさんだと」
「そうなるわね」
「日本にも変わった生きものが多いわね」
 ポリネシアも驚いています。
「私達何度もこの水族館に来たけれど」
「僕と一緒にね」
「このサンショウウオさんを見たのははじめてよ」
「そうだね、君達は他の生きもののところには案内したけれど」
 先生もお話します。
「それでもね」
「このサンショウウオさんのところははじめてだから」
 老馬も言います。
「驚いたよ」
「僕も子供の頃図鑑で観てびっくりしたよ」
「あまりにも凄い姿だから」
「大きさもだよ、あまりにも凄いからね」
「あれっ、何かね」
「ここは他にもオオサンショウウオさんがいるよ」
 見ればです、それぞれの水槽に同じ様にオオサンショウウオさんがいました。オシツオサレツはそのことにも言いました。
「アメリカオオサンショウウオにチュウゴクオオサンショウウオ」
「日本だけじゃないんだね」
「アメリカや中国にもいるんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、この種類のサンショウウオ君は日本にいるだけじゃないんだ」
 先生はオシツオサレツにも答えました。
「他の国にもいるんだ」
「アメリカや中国にも」
「そうなんだね」
「そういえば」
 ここで、でした。先生はふと気付いたお顔になって言いました。
「アルプスの方にタッツェブルムがいるけれど」
「あの未確認動物?」
「いるっていうけれど」
「目撃した人がいるのよね」
「けれど正体は不明」
「謎の生きものはね」
「そうだよ、タッツェブルムは爬虫類という説があるけれど」
 それでもというのです。
「両生類って噂もあるから」
「じゃあタッツェブルムも?」
「オオサンショウウオさん?」
「そうなの?」
「ひょっとして」
「そうかも知れないね」
 実際にです、先生は皆にお話しました。
「あの生きものも」
「実際にいるのかって話もあるけれど」
「昔から見たお話があるけれど」
「それでもね」
「若しかしてなんだ」
「タッツェブルムも両生類で」
「オオサンショウウオさんかも知れないんだ」
 皆も言うのでした。
「ひょっとして」
「そうなんだ」
「その可能性はあるよ、とにかく今からこの子達の診察もするよ」
「うん、待ってたよ」
「先生やっと来てくれたね」
 それぞれの水槽、岩場と奇麗なお水のレイアウトの独特のコーナーの中からです、サンショウウオさん達が先生に言ってきました。
「じゃあ僕達もね」
「診察してね」
「悪い場所がないかとうか」
「診てね」
「そうさせてもらうよ、ではね」
 こうしてです、先生はサンショウウオさん達の診察もしました。そしてその後で、でした。先生はサンショウウオさん達に言いました。
「皆も年齢の問題がある子はいても」
「大丈夫なんだね」
「僕達も健康なんだね」
「充分に」
「うん、普段から係員の人達が気をつけてくれているから」
 だからだというのです。
「皆健康だよ」
「それは何よりだよ」
「いや、それじゃあね」
「僕達楽しく過ごさせてもらうよ」
「これからもね」
「是非そうして欲しいよ、僕もね」
 先生は微笑んで、です。サンショウウオさん達に答えました。
「君達に楽しく過ごしてもらいたいよ」
「明るく楽しく」
「生きているならね」
「そうしないとね」
「そうだよ、是非そうしてね」
 先生はにこやかに笑ってサンショウウオさんに言ってでした、そのコーナーも後にしました。そうして他の生きものの診察もしてでした。
 この日もお家に帰りました、そしてです。
 晩御飯を食べましたがこの日は王子もお邪魔していました。それで晩御飯を一緒に食べているのですが。
 王子は先生にです、このお魚のことを尋ねました。
「肺魚は診察したの?」
「うん、もうね」
 先生は王子にすぐに答えました。
「彼等の診察は終わらせたよ」
「そうなんだね」
「肺魚は王子の国にもいるね」
「いるよ、けれどね」
 ここで王子はお顔を顰めさせました、そのうえでおかずの鮭のお刺身をお箸に取ってわさび醤油に漬けました。
「人気はね」
「あまりないんだね」
「お魚の中でもね」
 そうだというのです。
「あのお魚はね」
「そうだね、あと食べないしね」
「食べて美味しくないって有名なんだ」
 王子のお国では、というのです。
「しかもそれで虫がいて」
「そのこともあってだね」
「皆食べないしね」
「何かややこしいお魚なんだね」
「肺魚さんってね」
「そうみたいだね」
 先生達が座っているちゃぶ台の周りで食べている動物の皆も言います、見れば老馬とオシツオサレツはお庭にいてそこから先生達を見ています。
「食べるにしては」
「あまりなんだ」
「そうだよ、というか水族館でも人気ある?」
「ないみたいだね」
 先生は王子にすぐに答えました、お味噌汁を飲みながら。
「実際のところ」
「そうだろうね」
「子供はラッコやスナメリ、アザラシとかシャチやイルカとか」
「そうした生きもののところに行くから」
「人気ないんだ」
 肺魚はというのです。
「どうしてもね」
「やっぱりね」
「あの水族館ではそこにいる生きもののぬいぐるみも売ってるけれど」
「肺魚はないね」
「鰻はあるんだけれどね」
「同じ細長いお魚でも」
「彼等はあるけれど」
 それでもというのです。
「肺魚君達のものはないよ」
「残念というかやっぱりだね」
「やっぱりなんだね」
「それは人気ないよ」 
 それが当然だとです、王子も言います。
「だって変な形で泥だらけで食べても美味しくない」
「揃ってるから」
「だからそれも当然だよ」
「何か王子も肺魚あまり好きじゃないんだね」
 トミーもここで気付きました。
「そうなんだね」
「嫌いかというとそうでもないけれど」
「けれどどうして先生に聞いたのかな」
 トミーは野菜の佃煮を食べながら王子に尋ねました。こちらもトミーが作ったお料理です。お醤油とみりんが効いています。
「肺魚のことを」
「ここの水族館の肺魚は僕の国から贈ったものなんだ」
「だからなんだ」
「大丈夫かどうか聞いたんだ」
「王子の国のお魚だからだね」
「他にも色々な生きもの贈ってるよ」
 王子はトミーにこうも言いました。
「水族館だけじゃなくて動物園にもね」
「そうだったんだね」
「それで肺魚もだけれど」
「皆健康だったよ」
「それは何よりだよ」
 笑顔で頷いた王子でした、肺魚さん達が健康だと聞いて。
 そして鮭のお刺身を食べつつです、こうも言いました。
「生で美味しいお魚を食べられるのはいいね」
「王子お刺身好きだね」
「お寿司も好きだよ」
 そちらもというのです。
「好きだよ」
「そうだよね、ただ新鮮で虫には気をつけて」
「そうして食べないとね」
「お刺身はね」 
 先生もそのお刺身を食べつつ言います。
「僕も大好きだよ」
「日本に来てからそうなったね」
「そうだよ、お刺身は本当に最高だよ」
 こう言いながら実際にお刺身で御飯を食べる先生でした、そのお顔はとてもにこにことしているものでした。



鯉やサンショウウオたちの診察。
美姫 「特に問題のある子はいなかったわね」
だな。ここの水族館はちゃんと飼育しているみたいだしな。
美姫 「良い事よね」
ああ。次はどんな生物が出てくるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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