『ドリトル先生の水族館』
第二幕 八条水族館
先生は皆と一緒に充実した日々を過ごしていました、その中でこの日も研究室で論文を書いていました。
その先生のところにです、今日は王子が来て先生に行っていました。
「ここの水族館にはまってるんだ」
「最近の王子はだね」
「うん、色々な生きものがいて楽しいよ」
「この学園の水族館はそうだよね」
「動物園や植物園もそうだけれどね」
「水族館もだね」
「だからね」
それで、というのです。
「幾ら見ても飽きないよ」
「そうなのね」
「そう、それでね」
だからというのです。
「最近時間があれば通ってるけれど」
「それでどんな生きものを観てるのかな」
「色々と。その中でもアシカとかマナティーとかね」
「哺乳類をだね」
「それと深海の生きものもなんだ」
そちらもというのです。
「見ているよ」
「深海の生きもの達も面白いね」
「うん、それでね」
「それで?」
「その中で特にグソクムシがいいね」
この生きものがというのです。
「ダイオウグソクムシね」
「あの生きものって確か」
「うん、食べなくてもだよね」
「生きていられるんだよね」
「それも何年もね」
動物達もこのことを知っていてお話しました。
「それってないよね」
「うん、ちょっとね」
「何年も食べないとか」
「私達なんて一食抜いたら駄目なのに」
「それが何年もとか」
「どんな身体なのかな」
「凄いよね」
その何年も食べないで生きていることについてです、皆信じられないというのです。
「そんなこと出来るのかな」
「本当に食べていなかったのかな」
「そんなこと有り得るのかな」
「本当に」
「僕もそのことが不思議なんだ」
その通りだとです、王子も言います。
「僕だって一食抜いたら大変だよ」
「商事はしっかりと食べないと駄目だよ」
ここでこう言った先生でした。
「身体にもよくないよ」
「そうだよね、だから僕朝昼晩いつも食べているんだ」
「それこそだね」
「食欲がなくてね」
王子はあまりそうしたことがないですがたまにそうした時もあります。ですがそうした時はどうなるかといいいますと。
「皆に無理に少しでも食べさせられる時はあるけれど」
「それでもだね」
「一食でも抜かないよ」
「そうだね」
「それがね」
「グソクムシはだね」
「何年もだから」
本当に、という口調での言葉でした。
「信じられないよ」
「僕もね」
先生も首を傾げさせつつ言うのでした。
「あの生きものについてはね」
「不思議に思ってるんだね」
「そうなんだ、有り得ないからね」
何年も食べずにいることはというのです。
「何ヶ月はあるよ」
「確かドクトカゲはだったね」
「うん、彼等は何ヶ月かは大丈夫だよ」
「それも凄いけれどね」
「動かないでエネルギーを維持してね」
そして生きているというのです。
「ドクトカゲ君達はそうしているけれど」
「それが何年もとなると」
「どうしてなのかね」
首を傾げさせたままです、先生は言いました。
「不思議で仕方ないよ」
「そうだよね」
「あの生きものも八条水族館にいるからね」
「それで何年も食べていないんだよね」
「鳥羽水族館にいた子と同じで」
「世の中本当にね」
それこそとです、王子は言いました。
「不思議なことが多いよ」
「生きもののこともね」
「まだ深海のことはよくわかっていないんだ」
「深海の生きもののことも」
「そうだよ。不思議な生きものが多くて」
先生は王子にもこのことをお話します。
「その中にいるのがね」
「グソクムシもだね」
「変わった形のお魚も多いしね」
「その中で生態がわかっていないお魚もいて」
「何か色々凄いお魚がいるよね」
「日本ではアンコウも有名だけれど」
そのアンコウはといいますと。
「あのお魚も深海魚だけれどね」
「ああ、アンコウも」
「けれどアンコウは深海魚の中ではまだ浅い方にいるんだ」
そこにというのです。
「それで生態もよくわかっているから」
「深海魚の中では」
「不思議なのはもっと深い場所だよ」
「グソクムシにしてもだね」
「お魚だけじゃないんだよ」
深海の中での不思議な生きものはというのです。
「そのグソクムシもね、そして蟹とかも」
「あれだよね、独特の場所で」
「うん、光は届かなくて水圧も凄くて」
「食べるものもだね」
「普通の海とは違うよ」
そこもというのです。
「深海はね」
「そうした場所だから変わった生きものが多いんだね」
「そうなんだよ、特殊な場所だから」
「不思議な生きものが多くて」
「まだ発見されていない生きものも多いんだ」
「先生深海に行ったことはないよね」
ここで王子は先生にこのことを尋ねました。
「海には数えきれない位言ってるけれど」
「それでも深海まではね」
「そうだよね」
「行ってみたいけれど」
それでもというのです。
「行ったことはないんだよ」
「八条学園は深海の研究もしているけれどね」
「参加させてもらいたいね」
ここは是非にというのでした、先生にしても。
「そうさせてくれるのならね」
「お願いしてみたら?理事長さんに」
「そうは言っても忙しいからね」
「先生も今や教授さんだしね」
「うん、それでね」
「やること多いからね、大学教授になると」
「書く論文も多いしね」
先生は少し苦笑いになって王子にこのことも言いました。
「だからね」
「そうだよね。何かと」
「出生もあって」
「深海まではだね」
「行けないんだよね」
そうした時間がないというのです。
「それに場所が場所でね」
「いつも行ける場所じゃないからね」
「簡単にはね」
「行けないよね」
「あそこはね」
そうした場所だというのです。
「そうした場所だよ」
「深海を行くことは難しいからね」
「機会があれば」
その時にとです、先生は本当に行きたいという気持ちを見せています。
「是非ね」
「その機会が来ることを神様にお願いする?」
「そうしようかな、こうしたことはね」
そうした機会が来ることはというのです。
「神様の思し召しだからね」
「うん、教会に行こうかな」
「先生教会に行ってる?」
「毎週日曜じゃないけれど時間があったら行ってるよ」
そうしているというのです。
「神様は忘れていないよ」
「信仰はだね」
「有り難いことにこの町にはイギリス国教会の教会もあるからね」
「そういえば国教会はプロテスタントだったね」
王子は国教会と聞いてこのことを思い出しました。
「そうだったね」
「うん、カトリックも入ってるけれどね」
「そうだよね、けれど日本だと」
「プロテスタントには色々な宗派があるけれどね」
「全部一つにしてるよね」
「日本人はキリスト教を大きく三つに分けているね」
その三つはといいますと。
「カトリック、正教、そしてね」
「プロテスタントだね」
「そのプロテスタントは一つだよ」
「それでまとめているよね」
「ルター派もカルヴァン派も国教会もね」
「全部一つだね」
「だから分け隔てはしないけれど」
プロテスタントの宗派の違いで、です。日本ではそもそも宗教による分け隔ては殆どありません。キリスト教以外でも。
「それでもね」
「国教会の教会がだね」
「ないんだ」
そうだというのです。
「中々ね」
「そもそも日本人って教会は全部一緒って思ってない?」
「カトリックでもプロテスタントでも」
「正教は少し違うって思ってるけれどね」
「それは仏教でも神道でもなんだ」
「一つの宗教でね」
「宗派の違いはあっても」
「全く大したことじゃないって思ってるところがあるね」
仏教でもというのです、勿論j神道も。
「密教と禅宗、そして浄土真宗、日蓮宗でそれぞれ全く違うけれど」
「日本人では同じ仏教だね」
「そうだよ」
その通りだというのです。
「それで一括りにしているんだ」
「それでキリスト教も」
「教会ですって言われたらカトリックの教会とかね」
「普通にあるよね」
「いや、その時は困ったよ」
先生は実際にそう案内してもらった時のことをです、王子に苦笑いでお話しました。
「神父さんも国教会だって僕が言ってもそうですかで終わったから」
「神父さんも?」
「そうだよ、日本人のね」
「イギリスじゃかなり大きなことなのに」
「日本では全く大した違いじゃないから」
「国教会探すのも苦労したんだね」
「うん、けれどこの町にはあるから」
八条町にはというのです。
「助かるよ」
「その国教会にカトリックの信者さん来たりする?」
「普通にね。神父さんや仏教のお坊さん、神道の神主さんも来て仲良く飲んでたりするよ」
「イギリス結構以上に揉めたけれどね」
「宗教のことでね」
「それでも日本じゃそうなんだね」
「至って平和だよ」
宗教の垣根を越えて、というのです。
「国教会の牧師さんも仲良くしてるし」
「神父さんやお坊さん達も」
「あとね天理教の教会長さんもね」
「国教会の教会に来てるんだ」
「それで仲良く飲んだりしてるよ」
「仲いいんだ」
「日本酒やビール飲んでるよ」
そうしているというのです、国教会の人も。
「枝豆とか食べてるし」
「イギリス国教会なんだよね」
「そうだよ」
「あまりそんな感じしないけれど」
「日本だとそうなるんだ」
「凄い国だね、つくづく」
日本のことをあらためて知った王子でした、そうしたお話もしてです。
先生は王子が研究室を後にしてからも論文を書いたり資料を読んで学問を楽しんでいました、そして時間があると見てです。
動物の皆にです、こう提案しました。
「最近水族館のお話が結構出てるからね」
「だからだね」
「これからだね」
「水族館に行くんだね」
「そうするんだね」
「うん、そうしたらどうかな」
こう皆にお話するのでした。
「それで」
「うん、じゃあね」
「これから水族館に行ってね」
「水族館の生きものを見て」
「楽しもうね」
動物の皆も乗りました、そしてです。
先生は皆と一緒に水族館に行きました、そしてです。
水族館の中のアマゾンのコーナーに入るとです、ジップが言いました。
「やっぱり大きいね」
「そうだね、何度見てもね」
チーチーもジップの言葉に頷きます。
「このお魚は大きいよ」
「四メートル位あるね」
「そうだよね」
「ガーやアロワナも大きいわね」
「うん、鯰もね」
ダブダブとガブガブもお話します、巨大な水槽の中にいるアマゾンのお魚達を見ながら。
「海にいるお魚と変わらない位に」
「大きいよね」
「アマゾンは別格よね」
「他の場所とは違うね」
「他の生きものもね」
「一杯いてよね」
トートーとポリネシアもお話します。
「何もかもが凄くて」
「川の中もこうでね」
「森の中でもそうで」
「他の場所とは違うんだよね」
「本当にこんな川に入ったら」
ホワイティが言うことはといいますと。
「僕なんか一呑みだよ」
「僕でもだよ」
老馬も言います。
「ピラニア相手だとあっという間だよ」
「食べられるんだね」
「そうなるよ」
「そのピラニアはね」
「あそこにいるよ」
オシツオサレツはピラニアの水槽を見ています、巨大な水槽の近くにある。
「大人しく泳いでるけれど」
「とても怖いんだよね」
「どんな生きものでもあっというあいだに骨になる」
「そうしたお魚なんだよね」
「うん、けれどね」
先生が皆にピラニアについてお話しました。
「彼等も普段は大人しいからね」
「お腹が一杯だとだよね」
「ピラニアも大人しいんだね」
「別に襲ったりしない」
「そうなんだね」
「それと血の臭いに敏感でね」
川の中に血が流れているとそれでわかるというのです。
「寄って来るから」
「じゃあ水族館の中にいる分には」
「大人しいし安心していいのね」
「別に怖くない」
「そうなんだね」
「そうだよ」
まさにその通りだというのです。
「だから安心していいよ」
「そうなんだ」
「それじゃあね」
「こうして見ている分には」
「安心していいわね」
「そうなんだね」
「水槽から出て来ることはないから」
絶対にというのです、このことは。
「安心していいよ」
「確かにね」
「お魚は水槽から出ることはないから」
「別にね」
「怖くないね」
「考えてみれば」
「お魚は限られた種類以外はお水から出ないよ」
例えどれだけ怖いお魚でもです、ピラニアでも。
「だから余計に安心していいよ、じゃあね」
「アマゾンのお魚達も見ていって」
「それで他のお魚達もだね」
「見て回って」
「それでね」
「楽しもうね」
「他のコーナーにもね」
行こうとお話してです、そしてです。
皆で楽しく一緒に水族館の様々なコーナーを見て回りました。その中にです。
深海魚のコーナーもありますた、入口に細長い形のかなり大きな、頭から数本の奇麗なリボンが出ているお魚の剥製がありました。
その剥製を見てです、先生は皆にお話しました。
「このお魚がだよ」
「リュウグウノツカイだよね」
「先生が前に言ってた」
「そのお魚だよね」
「そうだよ」
その通りというのです。
「このお魚がね」
「ううん、何ていうか」
「凄い大きさだね」
「形もね」
「タチウオに似てるけれど」
それでもというのです。
「このお魚はね」
「また違うね」
「タチウオに似ていても」
「何かね」
「別のお魚だね」
「そう、タチウオとは違う種類なんだよ」
このリュウグウノツカイはというのです。
「泳ぎ方も違っていてね」
「あれっ、違うって」
「どうして泳ぐの、このお魚」
「リュウグウノツカイって」
「どんな泳ぎ方するの?」
「身体を縦にして斜めに傾けて泳ぐんだよ」
そうして泳ぐというのです。
「タツノオトシゴみたいにね」
「お顔を前にしてじゃなくて」
「身体を縦にしてなんだ」
「何かね」
「不思議な泳ぎ方だよね」
「こんなに大きいのに」
「そうだよね、僕もこの姿を見てね」
先生が皆にお話することはといいますと。
「絶対にお顔を前にして泳ぐと思っていたよ」
「この形見てるとね」
「普通はそうだよね」
「それで身体を横にうねらせてね」
「そうして泳ぐと思うよね」
「それが違うんだ」
このお魚はというのです、リュウグウノツカイは。
「縦にするんだよ」
「そうして泳いだら遅いんじゃ」
「ただ泳ぎ方が変わってるだけじゃなくて」
「天敵に狙われない?」
「鮫とかに」
「深海だからそうした鮫もいないよ、鯱も来ないしね」
海の生きものの殆どの天敵であるこの生きものもというのです。
「たまにマッコウクジラが来る位だけれど」
「そうした天敵になりそうなのもいないし」
「そうした泳ぎ方していても」
「別に襲われたりしないんだ」
「そうなんだ」
「だからいいんだ」
「そうだよ、けれどその泳ぎ方も何とかわかった位で」
先生は剥製を見つつお話していきます。
「生態はまだまだわかっていないんだ」
「そういえば剥製はあるけれど」
「生きたままではいないよね、この水族館にも」
「そうそう、ここにもね」
「いないよね」
「深海から出て来るのは稀でね」
先生は皆にこの理由もお話します。
「飼育してみてもすぐに死んでしまうんだ」
「飼育するのも難しいんだ」
「すぐに死んでしまうんだ」
「だから余計にわかっていないんだ」
「このお魚のことも」
「そうなんだ、本当に稀なお魚でね」
その生態が、です。
「わかっていないことが多いんだ」
「もっとよくわかればいいね」
「お顔見たら随分グロテスクで」
「怖い感じだけれど」
「果たしてどんな暮らしをしているのか」
「確かになって欲しいね」
「そうだよね」
「僕も調べられたらね」
先生もかなり残念そうに言うのでした。
「いいんだけれどね」
「そうもいかないんだね」
「残念なことに」
「それは」
「うん、世の中わかりやすいこととわかりにくいことがあって」
それで、というのです。
「リュウグウノツカイのことはね」
「わかりにくいんだね」
「そっちになるんだね」
「どうしても」
「そうだよ、そっちになっているんだよ」
残念そうにお話する先生でした。
「深海にいることもあってね」
「深海に自由に行けたら」
「もっとよくわかるのにね」
「残念だけれどそうもいかない」
「そういうことなんだ」
「うん、人間は空は行ける様になったけれど」
飛行機や気球を使ってです。
「そして宇宙にも行ける様になったけれどね」
「深海はなんだ」
「まだ自由には行けないんだね」
「お空みたいに」
「そうだよ、深海奥深くに行くことはね」
それこそとお話する先生でした。
「お空に行くよりも難しいんだ」
「どっちも同じじゃなくて」
「お空の方が簡単なんだね」
「飛ぶ方が」
「そうかも知れないね」
実際にと答えた先生でした。
「人間にとっては」
「海の深くは」
「案外行きにくいんだね」
「お空に上がるよりも」
「宇宙に行くよりも」
「そういえば僕達も」
「そうよね」
ここで動物の皆もあることに気付きました、その気付いたことはといいますと。
「月に行ったよね」
「お空どころかね」
「そういうことなんだ」
「月には行けても」
「海の奥深くになると」
「そうもいかないのね」
「技術的な問題でね。あと地球の奥深くにもね」
その場所にもと言う先生でした。
「人はまだ行っていないよ」
「じゃあ地球の奥深くも」
「実はまだよくわかっていない」
「そういなのね」
「そうだよ、科学的にはわかっているけれどね」
それでもというのです。
「その目ではね」
「よく、はなんだね」
「わかっていない」
「そちらも」
「人が知っていること、わかっていることは僅かだよ」
先生がいつも言っていることです。
「大海の中の小匙一杯でしかないんだよ」
「ううん、色々知っている様で」
「そうではないのね」
「ほんの些細な程度」
「それ位しか」
「知らないよ」
先生は皆に確かな声で言いました。
「そうしたものなんだよ」
「何でも知っている気にはならない」
「そうして学んでいく」
「それが大事なんだよね」
「人間には」
「そう思うよ、僕は」
確かな声ですが温厚な笑顔です、先生のいつもの。
「そのことを踏まえてね」
「学んでいく」
「そのことが大事だね」
「そう思うよ」
こうしたことを皆とお話するのでした、先生は決して天狗にならないところもまたいいところです。ただどうにも鈍感なのですが。
その鈍感な先生のところにです、日笠さんが来ました。先生は日笠さんに席を用意してからお茶を出して尋ねました。
「今日はどういったご用件で」
「はい、水族館からお願いがありまして」
「おや、水族館ですか」
水族館と聞いてはっと気付いた様に応えた先生でした。
「丁度ここ数日水族館のお話をしていまして」
「八条水族館のですね」
「そうです、そこのお話をです」
「されていたのですか」
「そうしたら丁度です」
「私が来たと」
「そうなんです」
このことを笑顔でお話するのでした。
「奇遇ですね」
「噂をすればですね」
「日本の諺ですね」
「そうです」
日笠さんも日笠さんで応えます。
「面白い諺ですね」
「日本の諺も面白いですね」
「どの国にもそれぞれあって」
「それを学ぶことも面白いですね」
「そうですね」
諺のお話でリラックスして、でした。
そこで日笠さんはあらためてでした、先生に言いました。
「実は我が水族館のダイオウグソクムシですが」
「食べないのですね」
「はい、もう四年もです」
それだけというのです。
「それで心配になってきまして」
「僕に食べさせて欲しいと」
「誰が御飯をあげてもです」
「食べてくれないのですね」
「他にも先生にお願いしたいことがありまして」
水族館のことで、です。
「それでなのです」
「他にもです」
「そのことはおいおいお話させてもらいます」
「そうですか」
「そうです、まず第一はです」
「ダイオウグソクムシですね」
「鳥羽水族館のグソクムシもそうでしたが」
こちらのダイオウグソクムシはあまりにも有名でした、何年も食べていなくて。しかしそれはこちらの水族館のことだけではなかったのです。
「我が水族館もでして」
「わかりました」
先生は微笑んで先生に答えました。
「僕で宜しければ」
「引き受けて下さいますか」
「実は前々から深海の生きものにも興味がありまして」
「それで、ですか」
「お話したいと思っていました」
「それで、ですね」
「渡りに舟です」
先生はこの諺を言いました。
「日本の諺ですね」
「そうですね、そちらも」
「その諺の通りです」
「ではやらせてもらいます」
「それでは」
こうしたことをお話してでした、先生は快諾して水族館のダイオウグソクムシに食べさせることにしました。そのお話を聞いてです。
トミーと王子は先生のお家の中でくつろぎながら先生に尋ねました。三人と動物の皆でちゃぶ台を囲んで。
「あの生きものですね」
「僕も見ていたけれど」
「何年も食べなくて」
「それで死んでも飢え死にしないんだよね」
「凄く不思議な生態ですよね」
「どういった身体の構造してるのかな」
「それがまだよくわかっていないんだ」
先生はお茶を飲みつつ二人に答えました。
「これがね」
「他の深海の生きものと同じで」
「そうなんだね」
「詳しいことはわかっていなくて」
「まだまだ謎が多いんだ」
「鳥羽水族館はね」
それこそとというのです。
「凄い生きものがいたよ」
「それで八条水族館も」
「そのダイオウグソクムシがいて」
「やっぱり何年も食べていない」
「そのダイオウグソクムシに食べてもらうんだね」
「そうなんだ、本当にどういうことなのか」
首を傾げさせての言葉です。
「僕も不思議だったんだ、リュウグウノツカイ程じゃないけれど」
「あのお魚の話してたけど」
「剥製見ながらね」
ここで皆も言います。
「あんな謎の多い生きものもいてね」
「そのダイオウグソクムシもね」
「訳がわからないね」
「そうだよね」
「だからどうして何年も食べなくて平気なのか」
「身体の仕組みがわからないよ」
「確かあれだよね」
ここで王子が言うことはといいますと。
「鳥羽水族館のグソクムシは御飯をあげても足蹴にして無視したんだよね」
「そうなんだ」
「その行為自体は許せないけれど」
食べものを粗末にする行為だからです、王子もこのことは批判します。
ですがそのこと以上になのです、やっぱり。
「それはもう食べなくて平気ってことだよね」
「だからその時も食べなくてね」
「それからもだね」
「ずっと食べないまま死んだんだ」
「それが凄いよね」
食べるものを出されても食べなかったことがです。
「本当に」
「それはうちの水族館でも同じだよ」
「八条水族館でも」
「そうだよ、足蹴にはしなかったけれどね」
「御飯を出されても食べなかったんだ」
「今もね」
「別に我慢もしてないと思いますけれど」
今度はトミーが言いました。
「何か意地めいたものすら感じますね」
「しかもそこまで食べなくてもね」
先生がここで言うことはといいますと。
「五十センチ位あるんだ」
「大きさが」
「うん、それだけ食べなくてもね」
「そこまで大きいんですね、それも」
「不思議だよね」
「食べないと」
それこそと言うトミーでした。
「栄養が補給されないですから」
「そう、そのことからもね」
「不思議なんですね」
「そもそも深海の生きものには大型のものも多いんだ」
先生は皆にこのこともお話しました。
「不思議なことにね」
「深海って水圧凄いですよね」
「しかも食べるものもね」
「色々な生きものがいても」
「あまりない筈なんだよ」
個体数が少ないというのです、生きもののそれぞれの。
「けれどグソクムシは五十センチあって」
「そういえばリュウグウノツカイもね」
「何メートルもあるよね」
「一番大きいので十一メートルあったとか」
「そんなことが書かれていたね」
動物の皆も気付きました、このことに。
「あんなに大きいからにはね」
「食べるものを食べないとね」
「身体が大きくならないけれど」
「食べるものあるの?深海に」
「そんなに」
「そこが謎なんだ、ダイオウイカもそうだし」
この烏賊のこともです、先生は言及しました。
「あとミツクリザメとかラブカもね」
「深海の鮫でしたよね」
「どちらも」
「そうだよ、ミツクリザメで五メートルあるんだ」
こおうお話するのでした。
「あまり食べるものがない筈なのにね」
「五メートルっていいますと」
「そこまで大きいと」
トミーと王子がミツクリザメのその大きさを聞いて気付いたことがありました、この気付いたことはといいますち。
「アオザメとかイタチザメとか」
「そうした鮫だよね」
どちらもとても怖い人喰い鮫です、海で泳いだりする時は注意しないといけません。
「ヨシキリザメやシュモクザメより大きいよね」
「どっちの鮫も人喰い鮫だけれどね」
「それだけ大きいと」
「鮫の中でも大きな種類だよ」
「その通りだよ、鮫の種類も多いけれどね」
先生は鮫のことにも詳しくてお話します。
「ミツクリザメは大きくてね」
「深海にいても」
「そこまで大きいんですね」
「そのことも謎だよ、あとミツクリザメは他にも面白いことがあってね」
先生のそのお話が続きます。
「実は古代、恐竜が生きていた頃からの生きものなんだ」
「あっ、鮫って古かったですね」
「生きものの種類として」
「それもかなり」
「本当に恐竜の頃からいましたね」
「そうなんだ、だからね」
それでというのです。
「ミツクリザメはそのことからも面白い鮫なんだ」
「ううん、恐竜の頃からですか」
「地球にいる鮫なんだね」
「その歴史の長い鮫達の中でも」
「そうなんだね」
「この鮫についても知られていることが少ないけれどね」
他の深海の生きもの達と同じ様にです。
「そうした鮫なんだ」
「というか深海に大きな生きものが多いって」
「そのことも謎で」
「謎ばかりだよね、深海って」
「そうだよね」
皆このことで首を傾げさせます、そのうえで。
そこでなのでした、先生も言いました。
「本当に一回深海に行ってみたいね」
「潜水艦に乗って」
「そうしてよね」
「実際にそこに行って」
「どんな場所か観て」
「そしてその生きもの達も観たい」
「そういうことだよね」
皆も先生がどうしたいかを察して言います。
「やっぱり観てみないとね」
「学問は観てみるもの」
「その場所に入ってそれを観る」
「そうでないと駄目だよね」
「フィールドワークをしないとね」
先生は学問で絶対に行わくてはならないものの一つもお話に出しました。こうしたことをわかっているのも先生ならではです。
「駄目だからね」
「先生自身そのことも忘れないし」
「いつもフィールドワークしてるしね」
「だから深海もだね」
「行ってみたいんだね」
「うん、世界中を冒険出来て」
これまでの先生の冒険はどれも面白いものでした、そしてその冒険達からも先生は多くのことを学んだのです。
「月にも行けた、それならね」
「深海にもだよね」
「行きたい」
「それが先生の願いね」
「そうだよ、こう言うと欲張りかな」
先生は少し苦笑いになってこうも言いました。
「深海にも行きたいっていうのは」
「いや、それはね」
「欲張りじゃないよ」
「先生らしいっていうか」
「学者として当然だよ」
「学びたい場所に行くことは」
「そう言ってくれると嬉しいよ、じゃあ機会があれば」
その時はというのです。
「深海にも行って来るよ」
「その時を楽しみにしていようね」
「是非ね」
「そしてその時が来れば」
「行こうね」
「そうするよ、けれど深海に行く潜水艇もね」
深海に行くにはこれに乗って行かないといけません、海の奥深くまで潜ってそのうえでその場所を調べるのです。
「まだまだ改良が必要なんだよね」
「もっと深く潜れる様になって」
「広い場所を観られる様にだね」
「うん、そうなったらいいけれど」
けれど、というのです。
「まだまだだよ」
「潜水艇の改良も」
「まだまだ必要なんだね」
「それでいいとはならないからね」
「潜水艇にしても」
「他のものごとも」
「うん、少しずつでもよくしていきたいね」
こう言うのでした、そして。
トミーは居間のお部屋の壁を見てです、皆に言いました。
「じゃあそろそろ御飯にしようかな」
「ええ、作りはじめましょう」
「これからね」
ダブダブとチーチーがトミーのその言葉に応えました。
「今日は焼きそばよ」
「それとお味噌汁だよ」
「どっちもお野菜もたっぷりと入れるわよ」
「焼きそばにはソーセージを入れるから」
豚肉ではなく、というのです。
「皆たっぷりと食べてね」
「楽しく食べようね」
「焼きそばだね、いいね」
焼きそばと聞いてです、先生は目を細めさせました。
「塩もソースもね」
「先生どっちも好きよね」
「焼きそばならね」
「うん、それでどっちの焼きそばかな」
「おソースよ」
ダブダブは先生の質問に答えました。
「そちらの焼きそばよ」
「うん、あのおソースの使い方がね」
「先生のお気に入りよね」
「確かに塩焼きそばもいいけれど」
それでもというのです。
「おソースのものもいいからね」
「だからよね」
「食べるよ」
こう笑顔で応えてでした、先生は今晩の夕食も楽しむのでした。先生にとって焼きそばもまた楽しいもだからこそ。
今度の依頼は水族館。
美姫 「先生も言っていたように、正に渡りに船ね」
だな。丁度、話していたしな。
美姫 「お願いは一つじゃないみたいだけれど」
他には何があるのか。
美姫 「次回も待ってますね」
待っています。