『ドリトル先生と森の狼達』
第六幕 驚くべき再会
ティータイムの時になるとです、先生は。
何処でも必ずお茶を飲む様にしています、それでです。
この時も紅茶を楽しみます、粉末のミルクを入れたミルクティーを飲みつつです、トミーに対して笑顔で言うのでした。
「お水がいいね」
「はい、この辺りは確かに山ですが」
「お水は豊富だね」
「すぐに見つかりますからね」
そのお水がというのです。
「川が多くて」
「小川がね」
「だからですね」
トミーはこのことから言うのでした。
「ここは生きものが一杯いるんですよ」
「お水がないと誰も生きていけないからね」
「それに植物も育ちませんし」
「ここまで豊かな草木があるにはね」
「相当なお水が必要ですね」
「そうだよ、それにここは雨も多いんだ」
川が多いだけではなく、というのです。
「だから川がなくてもね」
「地面を掘ってビニールを敷けば」
「そのビニールに湿気がついてね」
「それが垂れたお水を集めればいいですね」
「それでお水を確保出来るよ」
「成程、いいやり方ですね」
「うん、ただね」
お水を集めてもです、先生がここでこのこともお話しました。
「お水は絶対に一旦沸騰させて時には濾過して」
「消毒したりしてですね」
「飲まないとね」
このことを言うのでした。
「駄目だよ」
「そうですね、飲む前に」
「そうしたこともしないとね」
とてもというのです。
「危ないよ」
「生水は危険だからね」
王子もミルクティーを飲みつつ応えます、今も先生達は三段のティーセットを囲んでいてそこにはビスケットやクッキー、それにスコーンがあります。
「そうして飲まないとね」
「紅茶だから丁渡いいね」
「生水は絶対に飲まない」
「特に自然の中ではね」
先生は皆にこのことを言うのでした。
「くれぐれも気をつけてね」
「ううん、だから僕達にもなんだ」
「生水は飲むなって言うんだ」
「それでいつも沸騰させた後のお水を確保していて」
「固形燃料とかまで持っているんだね」
「そうだよ、そして固形燃料を使っても」
その後のこともお話する先生でした。
「後でしっかりとね」
「消すこともだよね」
「先生忘れないよね」
「消し忘れから山火事にならない様に」
「そのことも忘れないよね」
「そうしないとね」
とてもというのです。
「自然のこともしっかりと考えないと」
「自分の身体だけじゃなくて」
「自然のこともね」
「考える、それがね」
「調査だよね」
「そうだよ。ただそこの生態系を調べるだけじゃないんだ」
先生はクッキーを一切れ手に取ってです。
それを囓ってからです、皆にお話しました。
「自分の身体のこと、それ以上にね」
「自然のことも考える」
「調べるその場所のことも」
「火事にならない様に」
「しっかりとだね」
「調べる場所を荒らしたら本末転倒だからね」
それ故にというのです。
「しっかりとね」
「そこまでわかっていてなんだ」
「調査をしないと駄目なんだね」
「中にはマナーの悪い学者さんがいてね」
「荒らしたりするけれど」
「特に酷いのがマスコミの人かな」
老馬が言いました。
「どうもね」
「あの人達学者じゃないよ」
こう言ったのはガブガブです。
「だからマナーが「悪いのかな」
「学者じゃなくてもマナーはしっかりとしないと」
ポリネシアは注意する様に述べました。
「駄目だけれど」
「何で日本のマスコミの人ってマナー悪い人多いのかな」
ホワイティは首を傾げさせてこのことを不思議に思いました。
「どうしてかな」
「色々悪い話多いよね、日本のマスコミって」
ジップも先生達から聞いていてこのことを知っています。
「本当に」
「有り得ない位にだね」
トートーも今は厳しく言います。
「あらゆる種類のとんでもない話が多いね」
「日本は素晴らしい国だけれど」
「マスコミだけは」
チープサイドの夫婦が嫌そうにお話します、その周りでは子供達がうんうんと納得している様に頷いています。
「酷いね」
「酷いにも程があるね」
「だからこうした場所でもね」
「荒らすんだね」
オシツオサレツも二つの頭で言います。
「自然でも街でも」
「行く先々で」
「あの、どう見ても」
「日本のマスコミはあんまりですよ」
王子とトミーも先生にお話します、日本のマスコミについて。
「特に東京に本社がある全国区のテレビ局や新聞社になると」
「平気で嘘を放送したり記事にしますよね」
「あんなことしていいの?」
「マスコミが嘘吐いたら駄目ですよね」
「どうもね、日本のマスコミはね」
先生も首を傾げさせつつ皆にお話します。
「権力を持っていてね」
「権力を持っていてなんだ」
「それでなんだ」
「それも日本で一番強い権力を持っていたから」
マスコミこそがというのです。
「だからね」
「やりたい放題になっていて」
「それでなんですか」
「あそこまで酷くなったんだ」
「マナーが悪くて平気で嘘を言う様になったんですね」
「強い権力を持っていて誰もチェックしないのならね」
先生は微妙なお顔で言うのでした。
「誰でも酷くなるよ」
「日本のマスコミみたいに」
「そうなるんですね」
「僕も最初は知らなかったよ」
日本に来るまではです、先生も。
「そして来日して暫くはね」
「日本のマスコミのことを知らなかった」
「そうだったんですね、先生も」
「何かね、テレビを観ていておかしいと思いはじめたんだ」
先生が最初に気付いたのはテレビからでした。
「妙に観ている人に印象操作をしている感じがして」
「そうだね、イギリスのテレビと比べるとね」
王子がここでイギリスのことから言いました。
「夜のニュース番組とかね」
「偏っていてね」
「確かに印象操作の感じするよね」
「ああいうのを観て」
それで、というのです。
「気付いて。大学であらゆる新聞を比較して読むとね」
「わかったんだ」
「日本のマスコミは信用出来ないし酷い人が多いよ」
「そうなんだね」
「日本で一番、それも特筆すべき酷い世界だね」
「マスコミの世界は」
「僕はそう思うよ」
先生は残念そうに言いました、ただそれはお顔に出ている分だけで本当に心から残念に思っていることなのです。
「いいもの、素晴らしいものがとても多い国だけれどね」
「全てがいいことはない」
「どんな国でもですね」
「それで日本の酷いところは」
「マスコミなんですね」
「そうだね、学校の先生や学者も酷い人が多いけれど」
そうした人達と同じく、というのです。
「マスコミは酷いね」
「そうしたマスコミの人がここに入ったら」
「荒らすよね」
「ゴミとか置いたままにして」
「そうして」
「そうするだろうね、あとマナーの悪い登山家の人もいて」
登山家といってもそれぞれだからです。
「そうした人はね」
「やっぱりなんだ」
「荒らすんだ」
「ゴミを置いていったりして」
「そうしたことをして」
「僕達はそうした人になったらいけないからね」
先生は強く言いました。
「ゴミもしっかりとね」
「持って帰るべきものは持って帰って」
「そうでないものはその場で焼いて灰の上にしっかりと水をかける」
そうして完全に火の気を消すというのです。
「そのうえでね」
「しっかり調査を行う」
「そうあるべきだね」
「その通りだよ、じゃあこのお茶を飲んだら」
「またね」
「先に行こうね」
こうしてです、先生達はお茶を楽しみながらも戒めにすべきことはしっかりとお話をして心得るのでした。
そしてお茶を飲んだ後でまた先に進みますが。
先を行く先生にです、少し離れた地面のところから声がかかりました。
「先生、宜しいかしら」
「その声は」
「こっちよ」
声の方を見るとです、そこにはです。
菱模様の蛇がいました、頭の形は三角系です。先生はその模様と頭の形、それに大きさから言いました。
「蝮さんだね」
「そうよ、蝮のおかどよ」
蝮さんは自分から名乗りました。
「ついでに言うと今はお腹一杯だから」
「僕を襲わないんだね」
「僕も」
「私もなのね」
「僕達も」
「別に襲ったりしないんだね」
「特に」
ホワイティとチープサイドの家族が蝮さんを見つつ言いました、蝮さんの言葉を聞いて。
「だといいけれど」
「襲って来ないのなら」
「お腹一杯で」
「それならね」
「蛇さんでもね」
「別にね」
「そう、私も嘘は絶対に言わないから」
蝮さんはその細長い舌を出して誓って言いました。
「安心して」
「よし、君を信じさせてもらうよ」
先生もこのことを約束します、そして。
ジップとガブガブ、それにトートーに言うのでした。
「君達もね」
「うん、蝮さんを襲わない」
「絶対にだね」
「この場は」
「そのことを守ってね」
「頼むわよ、これでも私達蛇は天敵が多いのよ」
このこともです、蝮さんは言うのでした。それも困った様なお顔になって。
「犬さんもそうだけれど」
「猪や猛禽類もだね」
「豚は猪から生まれてるからね」
その豚のガブガブの言葉です。
「実際に僕達必要なら蛇もね」
「だから私猪怖いのよ」
その兄弟分の豚もとです、蝮さんはガブガブにも言います。
「狐、狸、穴熊も怖くて」
「僕達は特にだね」
梟のトートーの言葉です。
「ミミズクさん達も」
「見たらすぐに隠れるわ」
その姿をというのです。
「私が一番怖いものよ」
「じゃあ私もかしら」
ポリネシアは自覚していない感じです。
「オウムだけれど」
「襲ってきそうだから怖いわ」
蝮さんはポリネシアにも言います。
「実際にね」
「やっぱりそうなのね」
「そういえば僕達犬も食べることあるからね、蛇を」
犬のジップも言いました。
「狐君や狸君と同じで」
「親戚だからね、犬さんと狐、狸は」
「だから怖いんだね」
「あとそっちのでっかい方々」
老馬とオシツオサレツも見ての言葉です。
「踏まないでね」
「ああ、僕達も」
「そうした意味で」
「天敵なんだ」
「食べることはしないけれどね」
蝮さん達をというのです。
「踏まれたらね」
「そうだね、蝮さんだとね」
「もうそれでね」
「蹄で」
「そうよ、それで終わりだから」
だからこそというのです。
「気をつけてね」
「大丈夫なのは僕だけなんだね」
チーチーがしみじみとして述べました。
「蛇さん達に何もないのは」
「いや、お猿さんも怖いわよ」
蝮さんはチーチーにも言うのでした。
「だって頭いいから襲ってきてね」
「食べるかもっていうんだね」
「そうしてこない?」
「そうなるかな」
「そう、私達は天敵が多いし危険も多いの」
蝮さんは蛇の実情をお話するのでした。
「だからいつも気をつけてるの、それと毒も」
蝮さんの特徴とも言えるそれもというのです。
「滅多に使わないから」
「そう、君達が噛むことはね」
「追い詰められた時だけよ、獲物を捕まえる時とかね」
先生にお話するのでした。
「いざって時だけよ」
「そうだね」
「だって毒は身体の中で作るのよ」
蛇の毒、それはというのです。
「噛んで牙から毒を入れるけれど」
「その毒は蛇の身体の中のタンパク質だからね」
「そんな無制限に出るものじゃないの」
「無駄使いは出来ないね」
「何時でも襲ったりしないから」
例え相手が誰でもというのです。
「お腹一杯だったり追い詰められていないと大丈夫よ」
「それが蛇なんだね」
王子はしみじみとして呟きました。
「僕は先生にそのことを教えてもらうまで誰彼なく襲い掛かって来るって思っていたよ」
「それは偏見よ」
「そうなんだよね」
「そのことはわかっていてね」
くれぐれもという蝮さんの口調でした。
「私達の毒はそうしたものよ」
「うん、僕はもうわかっているから」
「僕もだよ」
トミーも言います。
「しっかりとね」
「だから安心してね」
「それは何よりね、じゃあ安心してお話出来るわね」
「それでだけれど」
先生が蝮さんにあらためて尋ねました。
「君の最近は」
「この辺りの蝮全体でいいかしら」
「うん、どうなのかな」
「食べるものがあって皆天敵はいても」
「それでもだね
「そう、普通にね」
それこそというのです。
「数もそれなりにいて普通に暮らしてるよ」
「それは何よりだね」
「そうでしょ」
「幸せっていえば幸せよ」
「そうみたいだね」
「まあこの辺り一番怖い熊さんが近くにいるけれど」
蝮さんは自分から言いました。
「それに変わった山犬さんもすぐね」
「この辺りにいるんだ」
「あれっ、先生何か」
蝮さんは先生のその目の色が変わったこと気付きました、それこそです。
一瞬で目の色が変わったのです、輝きがこれ以上に増して。それで蝮もその目を見てそのうえで言ったのです。
「さらに機嫌がよくなったわね」
「若しかすると知れないからね」
「若しかするとなの」
「そう、よくなったから」
だからだというのです。
「楽しみなんだ」
「それじゃあその山犬さん達のところに」
「行くよ」
「是非になのね」
「そう、行くよ」
こう言ったのです、先生は。
「これからね」
「そうするのね」
「うん、ただ蝮さんはその山犬さん達を見て思ったことは」
「私が?」
「あったかな」
「そうね、妙にね」
蝮さんは先生に答えて言いました。
「動きが速くて身体つきもね」
「身体つきもだね」
「普通の山犬さんとは違っていたわね」
「よし、確実だよ」
「確実って?」
「これで殆どね」
こうも言う先生でした。
「確かになったよ」
「確かって」
「何が?」
「何が確かなの?」
「さっきから先生妙に含んだ感じだけれど」
「うきうきとして」
「どうしたの?」
動物の皆はまたここでいぶかしむのでした。
「一体」
「今も確かになったって言うし」
「どうかしたの?」
「再会のこと?」
「そうだよ、さっきの話で確かになったんだ」
先生はいぶかしむ動物の皆に笑顔でお話するのでした。
「だから行こう」
「その山犬さんのところにだね」
「今から行くんだね」
「そうするんだ」
「これから」
「うん、そうしよう」
「じゃあね、先生」
蝮さんも先生に言ってきました。
「またね」
「うん、またね」
「それにしても先生が噂通りの人でよかったわ」
「噂通りって?」
「私が蝮といっても別に怯えないからね」
「毒があるからっていっても」
「よく怖がられるのよ」
蝮さんはこのことは残念そうに言いました。
「毒があるから噛んでこないかって」
「自分からは獲物を捕まえる時か追い詰められた時以外にはね」
「噛まないって知ってるのね」
「うん、蛇の習性もね」
それもというのです。
「僕は知ってるからね」
「蝮のこともね」
「うん、そうだよ」
「だからよかったのよ」
「蝮さん達のことも知っているから」
「理解してくれている人については嬉しく思うものよ」
それこそというのです。
「誰でもね」
「僕がそうした人っていう噂があるんだ」
「聞いていたわ、そしてその聞いていた通りだったから」
「よかったんだね」
「ええ、お話も出来てよかったわ」
蝮さんはにこにことしてです、お口から出した舌を動かして言うのでした。舌がちろちろと動いてそれ自体も生きものみたいです。
「またお会いしたいわ、本当に」
「ではまた機会があればね」
「お会いしましょう」
こうしたことをお話してでした、蝮さんは先生達の前からそのお身体を這わせて去りました。そしてでした。
先生はいよいよ、というお顔で皆に言いました。
「じゃあね」
「これからだね」
「その山犬さんのところに行くんだね」
「そうするんだね」
「そう、行こう」
先生は意気揚々としてです、皆をその山犬さん達のところに誘います。その中で。
王子は森の中を見回してです、先生に言いました。
「もうここまで来るとね」
「森もだね」
「人が入っている気配がしないね」
「そうなってきたね、確かに」
「本当にこうした場所だと」
王子はしみじみとした口調で言うのでした。
「妖怪がいてもね」
「不思議じゃないっていうんだね」
「村の人がそうしたことをお話してたけれど」
「そうしたお話は無視したらいけないよ」
先生は王子に確かな顔で答えました。
「日本でもどの国でもね」
「その場所に伝わるお話を」
「迷信もあるけれど」
「実際に行ってはいけない場所もあって」
「そうした場所に入るとよくないんだ」
「あの一本だたらのお話ですか」
トミーも言うのでした。
「山の神様とか」
「そうだよ、今は十二月二十日じゃないけれど」
「その山にはですね」
「入ったら駄目だよ」
先生は民俗学の見地からも言いました。
「さもないと大変なことになるよ」
「その一本だたらに襲われて」
「血を吸われるんですね」
「そうなるからね」
だからだというのです。
「絶対にね」
「その場所に昔からいる人のことを無闇に否定しないで」
「しっかりと聞いてですね」
「その言うことに従う」
「そうしないとよくないんですね」
「そう、これもまた学問なんだよ」
その場所に昔からいる人のお話をちゃんと聞いてです、そのことを無闇に否定せずに検証して考えることもというのです。
「西洋の科学文明を出して否定したりはね」
「キリスト教も」
「宗教も出して」
「否定すると何にもならないよ」
これもまたです、先生が否定することです。
「例えキリスト教を深く信仰していても」
「それ以外のことは否定しない」
「それが先生の学問のあり方ですね」
「僕は神学も学んでいるけれど」
こちらもです、先生は有名なのです。優れた論文も沢山書いています。
「神学以外のものを否定するのも神学じゃないんだ」
「むしろ他の学問も学んで」
「そのうえで神学を高めていく」
「それがだね」
「本当の神学なんですね」
「僕はそう考えているよ、だからね」
そのこともあってというのです。
「村の人達のお話することもね」
「否定せずに」
「しっかりと学ばれるんですね」
「そしてその日にその山に入らなかったり」
「そうしたことも守られるんですね」
「確かに言い伝えの中にはおかしなものもあるよ」
先生もそうした迷信の存在を否定しません。
「欧州にも多かったね、双子を忌み嫌ったりとかオッドアイを嫌ったり」
「ああ、左右の目の色が違う」
「そうした人だよね」
「いるよね、たまに」
「そうした人が」
動物の皆もオッドアイと聞いて言います。
「日本ではいないけれどね」
「日本人の目は大抵鳶色だから」
「白人の人だとね」
「たまにいるよね」
「そうした人は昔訳もなく忌み嫌われていたし。ハンセン病の人やペストに対する偏見もあった」
そうしたものが迷信だというのです。
「そうしたものがあったのは事実だよ」
「紛れもなく、だね」
「迷信があることも」
「言い伝えの中には」
「そうしたものもあるんだね」
「そう、日本でもあったしね」
ここで先生が言う日本の迷信の一つはといいますと。
「鳥は食べてもドリは食べるなって言われていたしね」
「ドリ?」
「ドリって何?」
「鳥はわかるけれど」
「ドリは?」
「何かしら」
「ドリというのは内蔵のことなんだ」
それのことだとです、先生はいぶかしむ皆に答えました。
「昔日本ではそう言って鳥の内蔵を食べなかったんだ」
「あっ、そうなんだ」
「日本では昔鳥の内蔵は食べなかったんだ」
「今はお店で普通に売ってるけれど」
「昔はそうだったんだ」
「意外ね」
「確かに内蔵は傷みやすくてすぐに食べないとよくないけれど」
それでもというのです。
「毒があると言って食べなかったけれどこのことはね」
「迷信だったんだ」
「そうだったのね」
「そうだよ、まあ内蔵は傷みやすいから避けたかも知れないけれど」
それでもというのです。
「これは迷信って言っていいと思うよ」
「これは迷信なんだね」
「日本で鳥の内蔵を食べなかったことは」
「それはなんだ」
「迷信なんだ」
「そう思うよ、迷信もあるけれど無闇に否定してはいけない」
また言う先生でした。
「そのことはしっかりと頭に入れておかないとね」
「確かに」
「先生の言う通りね」
「科学的じゃない、キリスト教的zyないって否定していたら」
「何もならないね」
「全くね」
「そうよね」
動物の皆も頷きました、まさにその通りとです。そうお話しつつです。
先生はその森の奥にさらに入ったのでした、皆と一緒に。
そしてでした、遂に。
オシツオサレツが後ろの頭で見て気付きました。
「先生、若しかして」
「後ろに」
前の頭も言ってきました。
「来たよ」
「その山犬さんが」
「僕達の後ろをね」
「ついてきているよ」
「遂にだね」
先生はにこりと笑いました、オシツオサレツのその言葉を聞いて。
「会えるんだね」
「?そういえば」
ジップもお鼻をくんくんとさせて言いました、その山犬の匂いを嗅いで。
「普通の山犬さんと匂いが違うね」
「そうだね、何かね」
ガブガブもジップと同じくお鼻をくんくんとさせて言います。
「匂いが違うね」
「そうだよね」
「別の種類みたいに」
「そういえば」
トートーは王子の左肩にいましたがそこからです。
顔を梟の特技を生かして百八十度くるりと回してその後ろの方を見て山犬さんをチェックしてそれから言いました。
「何か違うね」
「普通の山犬さんと」
「何か違うよ」
トートーはポリネシア、トミーの右肩にいる彼女にも答えました。
「何かがね」
「そういえば」
ポリネシアもここで振り向いてチェックしましたが。彼女から見てもです。
「違うわね」
「先生、後ろから来てるのなら」
ダブダブが先生に言いました。
「ここはね」
「立ち止まってだね」
「お話しましょう」
「いや、これも確かめるうちなんだ」
先生は皆に答えました。
「こうして後ろからついてくるのを確かめることを」
「それもなんだ」
今度はホワイティが尋ねました。
「その山犬さんを確かめることなんだ」
「そうなんだ」
「何か訳がわからなくなってきたけれど」
首を傾げさせるホワイティでした、それはチーチーもです。
後ろにいるその山犬の方を振り返って確かめてから先生に尋ねました。
「どうも普通の山犬じゃないけれどね」
「何かね。妙にね」
「後ろからついて来るのが長いみたいな」
「普通の犬や山犬よりも」
「そうよね」
「これだけついてくる犬さんって」
「いないけれど」
チープサイドの家族も先生の肩や帽子を被った頭の上から後ろの方を振り返りつつそして言うのでした。
「あの山犬さんって」
「不思議ね」
「別に襲い掛かって来る訳じゃなく」
「ただついてきてる?」
「そうした感じね」
「後ろから」
「ううん、気になるね」
老馬も言うのでした。
「あの山犬君は」
「あんな山犬はね」
「僕もはじめて見たよ」
王子とトミーも後ろの方をいぶかしんで言うのでした。
「変わった山犬だね」
「縄張りからもう出てるんじゃないかな」
「それなのにね」
「まだ後ろから狂って」
「これはね」
ここで老馬が出した言葉はといいますと。
「送り狼みたいだね」
「ははは、そう言うんだね」
先生は老馬の今の言葉に笑って応えました。
「成程ね」
「成程っていうと」
「まあもうすぐお茶の時間だから」
それでというのです。
「休もうか」
「あっ、もうなんだ」
「お茶の時間なんだ」
「早いね、もうなんだ」
「お茶の時間なんだ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
それでと言ってです、そのうえで。
皆にお茶の用意を勧めました、実際に先生達はです。
皆で休むに適した場所を見付けてでした、それからです。
皆でティータイムに入りました、そこでカップの中の紅茶を飲みつつです。先生はようやく後ろから来ているその山犬の方を見まして。
そのうえで、こうその山犬さんに言いました。
「ようこそ、狼君」
「えっ、狼!?」
「狼って!?」
皆は先生の今のお言葉に仰天しました、王子とトミーは手に持っていたカップを思わず落としそうになった位です。紅茶も危うく溢れるところでした。
「そんな、狼って」
「いる筈ないじゃない」
「先生、それはちょっと」
「嘘よね」
「冗談なんじゃ」
「いや、冗談じゃないよ」
先生はいつもの穏やかな笑顔でその驚いている皆に答えました。
「僕が今言っていることはね」
「あの、けれど」
「日本にもう狼はいないんじゃ」
「百年以上前に絶滅して」
「それでもう日本にはいない」
「そうなんじゃないの?」
皆で先生に言いますが。
けれどです、先生だけは落ち着いた顔のまま言うのでした。
「そう言われていてもね」
「実際はなんだ」
「違うんだ」
「そうしたこともあるんだ」
「絶滅したと思ったらまだいるってことも」
「そうしたことも」
「そう、だからね」
やっぱり落ち着いたまま言う先生でした。
「これまでずっと確かめていたんだ」
「そうだったんだ」
「あの山犬さんが本当にニホンオオカミかどうか」
「ずっと確かめていたんだ」
「これまで」
「そうだよ、彼はニホンオオカミだよ」
先生のお顔はその山犬さんに向けたままです、ずっと後ろからついてきたその山犬さんを。
「間違いないよ」
「ああ、わかっていたんだね」
ここで山犬さんも言ってきました。
「流石はドリトル先生だね」
「僕のことも知っているんだね」
「そうだよ」
その山犬さん、狼さんからも答えが来ました。
「僕はニホンオオカミだよ」
「うわ、本当に狼だったなんて」
「ニホンオオカミだったんだ」
「まだいたんだ、日本に」
「絶滅したと思ったいたら」
「そうだよ、この辺りにはね」
狼さんは皆のところに来ました、ティータイムでお茶を飲みながらティーセットを囲んでいるその皆のところにです。
「僕達がまだいるんだよ」
「いや、驚いたよ」
トミーも驚愕の顔のままです、そのうえで狼さんに言うのです。
「いなくなったって思ったら」
「ははは、そうだろうね」
「そうだろうって」
「もう数も少ないからね」
「それでもいるんだよね」
「そう、この辺りにはね」
奈良県の奥にというのです。
「僕達がまだいるんだ」
「何て言ったらいいか」
トミーは言葉を失う感じにもなりました、驚きのあまり。
「確かにこれは世紀の大発見だね」
「全くだね」
トミーも驚きのお顔のままトミーの言葉に頷きます。
「このことはね」
「本当にそうだよ」
「けれどずっといるってことは」
「僕以外にもね」
その狼さんの言葉です。
「いるよ」
「少し見せてもらっていいかな」
ただ一人落ち着いている先生が狼さんに尋ねました。
「君達の暮らしとかを」
「うん、いいよ」
狼さんはにこりとしてです、先生のお願いに応えました。
「それじゃあね」
「今からね」
「僕の巣に来てくれるかな」
「その前に君もどうかな」
先生はカップの一つに紅茶を入れてでした、そのうえで。
狼さんの前にそっと置いてです、こう言いました。
「一杯ね」
「飲んでいいのかな」
「うん、いいよ」
微笑んで狼さんに言うのでした。
「遠慮なくね」
「有り難う、じゃあね」
「お砂糖とかは入っていないから」
「虫歯になるからだね」
「うん、皆のお茶にも入っていないよ」
お砂糖はというのです。
「勿論僕のもにもね」
「こうした時は歯を磨かないですから」
トミーがお茶にお砂糖を入れない理由をお話します。
「ですから」
「ガムを噛むけれどね」
「はい、ガムがです」
「歯の汚れを取るね」
「ガムも使えますね」
トミーはここでしみじみとして言いました。
「こうした場合に」
「そうなんだ、だから軍隊の携帯食にも入っているよ」
「歯の汚れを取る為にも」
「お口の中は奇麗にしないとね」
しかも奇麗にというのです。
「だからガムもね」
「噛むべきですね」
「そうだよ」
まさにというのです。
「だからね」
「先生はこうした時ガムを持って来られるんですね」
「皆の分もね」
歯のあるジップやチーチー達の分もです。
「用意しているんだ」
「僕達の歯のことまで考えてくれているのがね」
「嬉しいね」
その歯のある皆が先生に嬉しそうに言うのでした。
「お口の中も奇麗に」
「そこまでちゃんと考えてくれているのって嬉しいよ」
「確かに歯は大事だから」
「奇麗にしないとね」
「そうだよ、歯は奇麗にしないと」
ひいてはお口の中をです、先生は言いました。
「駄目だからね」
「だからなんだ」
「ちゃんと奇麗にして」
「そしてなんだ」
「健康に暮らさない駄目なんだね」
ジップやチーチーだけでなく他の皆も言うのでした、歯のある皆が。
そして狼さんもです、先生のところに来てその紅茶を舌でぴちぴちと舐める様にして飲みつつこう言うのでした。
「美味しいよ」
「そう言ってくれるんだね」
「うん、これが人間の飲みものなんだ」
「紅茶というものだよ」
「そうなんだね」
「それで君達はどれ位いるのかな」
「ううん、百はいるよ」
少し考えてからです、狼さんは先生に答えました。
「それ位はね」
「そうなんだ」
「そう、確かにかなり減ったけれど」
それでもというのです。
「いるよ」
「それが本当にね」
「信じられないけれど」
王子とトミーはまだ唖然となっています。
「ニホンオオカミね」
「絶滅していなかったんだ」
「こうしたことが本当にあって」
「僕達がその姿を見るなんて」
「夢みたいだよ」
「想像もしてなかったよ」
「そうだね、僕も最初はまさかと思ったけれど」
とはいってもです、先生は穏やかな笑顔です。
その笑顔で、です。皆にお話するのでした。
「世紀の再会だね」
「何か僕に会えたことが嬉しいみたいだね」
「うん、凄くね」
とてもとです、先生は狼君にも答えました。
「とてもね、けれどお話を聞きたいね」
「是非共だね」
「うん、そうしたいよ」
こう狼君に言うのでした。
「いいかな」
「いいよ、いや先生はね」
「僕は?」
「何か思ったよりもね」
「っていうと」
「太ってるね」
先生の体型のことを言うのでした。
「太り過ぎはよくないから」
「うん、よく太ってるとは言われるよ」
「気をつけてね、そのことは」
「どうも日本に来てからね」
その時からとです、先生は言うのでした。
「食べるものが美味しくて」
「食べ過ぎているんだ」
「余計に太ったかも知れないですね」
「いえ、先生はむしろ」
ここでトミーが先生に言いました。
「日本に来られてから体重も脂肪率も減っていますよ」
「そうなのかな」
「摂取するカロリーは減っていてしかも栄養バランスがいいですから」
「日本のお料理は」
「はい、ですから」
それでというのです。
「先生イギリスにおられる時よりも健康的ですよ」
「そういえば色々身体にいいもの食べてるね」
「それにイギリスにおられた頃はずっと病院におられて時々冒険に行かれる以外は」
「あまりお家から出ていなかったね」
その病院からです。
「診察に来る人もいなくて」
「けれど今は」
今現在の日本での先生はといいますと。
「お家から大学まで毎日通っておられますし」
「大学の中でもっていうんだね」
「歩かれることが多いですね」
「講堂とかまでね」
「運動量も増えていますし」
「それでなんだ」
「イギリスにおられる時より痩せられましたよ」
そして脂肪率も減ったというのです。
「かなり」
「そうなんだ、自分でも自覚していなかったよ」
「もう太ってはいましても」
それでもというのです。
「肥満ってまではいかなくて」
「普通に太っている位だね」
「健康に問題が出る位じゃないです」
それが今の先生だというのです。
「安心して下さい」
「だといいけれどね」
「僕もそう思うよ、肥満には気をつけてね」
狼君も先生に言うのでした。
「さもないと皆が心配するし」
「僕自身にとってもだね」
「そう、身体が悪くなっていいことはないよ」
「困るのは僕だね」
「だから本当に気をつけてね」
「そうした方がいいね」
「そこは私達が注意してるのよ」
お家の中の家政婦さんダブダブの言葉です。
「そしてトミーもね」
「それはいいことだね、どうも先生は噂だと」
狼君が今度言う噂はといいますと。
「世の中のことには凄い疎いらしいから」
「そうなんだよね、先生って」
王子は狼君の言葉にくすりと笑って応えます。
「学問は何でも出来るけれど世の中のことにはね」
「疎いんだね」
「もう全然駄目なんだ」
それこそというのです。
「そうしたことは」
「やっぱりそうなんだね」
「だから皆が一緒にいるんだ」
「目を放しておけない」
「それでだよ、そして先生と一緒にいると凄く楽しくて落ち着けるから」
「余計にいいんだね」
「そうなんだ」
こうお話するのでした。
「皆先生が大好きなんだよ」
「確かに。僕も初対面だけれど」
狼君も言いました。
「先生好きだよ」
「僕を好きになってくれて嬉しいよ」
「じゃあその先生にね」
「これからだね」
「お話させてもらうね」
こうしてでした、狼君は先生にそうしたことをどんどんお話するのでした。これがまさに世紀の出会いでした。
続く森の調査。
美姫 「そして、遂に話に出てきていた山犬と出会ったわね」
だな。しかも、その正体は山犬ではなく狼という。
美姫 「本当に世紀の出会いね」
だな。狼にも気に入られたみたいだし。
美姫 「今度は狼お話ね」
だな。一体、何をお話するのか。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。