『ドリトル先生と森の狼達』
第四幕 密猟はなかったけれど
先生はこの日は起きてです、朝御飯を食べて森の中に泊まる為に携帯食やテント、寝袋の用意を整えてからでした。
村の人達にです、森の中での密猟のことを尋ねたり調べたりしましたが。
村のお爺さんのお一人がです、仰天して言いました。
「いや、そんな話があったらね」
「大変なことになりますか」
「確かに鹿は間引きしたよ」
このことは確かにあったというのです。
「猟師の人が森に入ってね」
「そのことはあったんですね」
「そう、けれどね」
それでもだというのです。
「密猟とかとんでもないよ」
「そこまでは、ですか」
「いつも動物愛護団体や環境保護団体がいるし」
「日本でも多いですよね」
「そう、中には物凄く厳しい団体やタチの悪い団体もいてね」
「悪質な、ですか」
「ほら、どんな人でも団体でもいい人、団体とそうでない場合があるじゃないか」
お爺さんは先生にこうしたことも言いました。
「そうだね」
「はい、そのことは確かに」
「団体も中にはおかしな人が集まっていてね」
そうした団体があって、というのです。
「何かっていうと言い掛かりめいたことを言ってきたりしるんだよ」
「いますね、密猟したと疑われる状況になれば」
「すぐに絡んでくるんだよ、まして鹿の話は全国に知られているんだ」
「だから余計にですね」
「変な団体も一杯注目しているから」
「余計に気を使ってですか」
「そう、鹿の数を減らしたんだよ」
そうしたというのです。
「あとね」
「あと、とは」
「猟師もねえ」
お爺さんは苦いお顔でこうも言いました。
「最近少ないんだよ」
「日本は銃の規制が厳しいですからね」
「そうだよ、それに猟師も皆歳を取って」
「若い人もならなくて」
「若い人で銃持ったことのある人なんか殆どいないだろ」
日本では、です。
「そこから猟師になる人なんて」
「若い人ではですか」
「いないよ、皆都会に行くし」
色々な理由がです、猟師さん自体にもあるとです。お爺さんはとても難しくて寂しさも含めたお顔で先生にお話するのでした。
「この十津川も若い人がいなくて、というかね」
「と、いうかといいますと」
「奈良県の南自体がそうなんだよ」
「過疎ですか」
「それが酷くてね、何十年も前から」
「だから猟師さんもですか」
「この村にもう何人いるか」
腕を組んでとても難しいお顔になって言うのでした。
「他の場所からわざわざ来てもらった程だよ」
「そこまでしないと駄目だったんですか」
「そうだよ、田畑を守るだけで精一杯だよ」
「それがこの村の状況ですか」
「今いる村の猟師出来る人だとね」
その人達の数ではというのです。
「それで手が一杯で」
「そして、ですか」
「そう、山の奥にまでだね」
「行くことは」
「あそこまではわし等行っても」
それでもというのです。
「行かないね、あの辺りは入ったらいけない場所もあったりするからね
「霊山ですか」
「霊山っていうか山の神様とか化けものとかね」
「そうした存在が出るという場所がですか」
「ここと和歌山の境にはあったりするんだよ」
「それは興味深いですね」
先生は民俗学者でもあります、日本に来てからこちらの学問も学んでいてかなりの存在になっています。それでなのです。
先生はお爺さんにです、あらためて尋ねました。
「この辺りにはそうした存在のお話も多いのですか」
「あるよ、一本だたらっていう化けものが出るとか」
「一本だたら。足が一本で山にいる妖怪ですね」
「ああ、先生知ってるのかい」
「調べたことがあります」
「へえ、外人さんなのに詳しいね」
「そちらの方にも興味がありまして」
先生はお爺さんに微笑んで答えました。
「それで」
「成程ね、とにかくね」
「一本だたらが出たりするんですか」
「そうだよ、ただ普段は昔偉いお坊さんに封じ込められて出て来ないんだよ」
「けれど、ですね」
「確か十二月二十日だったな、旧暦だったか知らないが」
その日だけはというのです。
「封印が弱くなって出て来るから」
「その日はその山に入らないんですね」
「そうさ、誰も入らないんだよ」
「そうしたお話があるのですね」
「先生もその日はその山に絶対に入ったら駄目だよ」
「それは何処ですか?」
「伯母ヶ峰山だよ、あと和歌山の果無山脈か」
お爺さんはその一本だたらが出るという場所について先生にお話しました。
「そうした奈良と和歌山の境にな」
「そうしたお話もあるんですか」
「あと、どっかの山か知らないけれど山の神様がいるってい場所があってな」
このことはです、お爺さんも知らないみたいです。ですがそれでも先生にかなり剣呑なお顔になってお話しました。
「鳥居か何かがあってそこから先に入ったらな」
「山の神様に襲われますか」
「らしいんだよ、何でも顔が人で身体が獣で赤子みたいな声で鳴くらしいんだよ」
「何か中国の人を襲って食べる妖怪みたいですね」
先生はその姿と鳴き声のお話を聞いてふと思いました。
「それですと」
「あれっ、中国の人食う化けものはそうなのかい」
「はい、それであちらでは山の中で赤子の声を聞いたら逃げろというとか」
「まあ普通山の中に赤ちゃんなんていないからね」
「そう言うそうです」
「そうなんだな、まあとにかくな」
お爺さんは先生にあらためてお話しました。
「ここと和歌山の境にはそんな話がある山もあるんだよ」
「だから奥には迂闊にはですか」
「わし等も入らないんだよ」
そうだというのです。
「他にも何がいるかわからないからな」
「猟師の人も」
「滅多に入らないよ」
「ではやはり密猟は」
「ないよ」
絶対にというのです。
「そんなことは」
「そうなのですね」
「密猟なんて絶対にない」
お爺さんは右手を横に振って確かなお顔で先生に断言しました。
「この村ではな」
「そうですか、わかりました」
「まあそんな話があったら」
「それならですか」
「それは嘘だよ」
そうに違いないとまでです、お爺さんは言い切りました。
「それこそ」
「そうですか、わかりました」
「ああ、まあ森の奥に入るのなら注意するんだよ」
奈良県と和歌山県の境まで、です。
「そうした話もあるし熊もいたりよくわかっていない場所も多いから」
「わかりました、では用心して」
「行きなされ」
お爺さんは最後は先生の背中を言葉で押してくれました、先生達は他にも聞いたり調べたりしてからでした。
皆で森の奥の方までの調査に出発しました、そして山の中を進みながらです。
王子がです、こう先生に言いました。皆リュックを背負っていて老馬とオシツオサレツの背中にはとりわけ多くの荷物があります。
「先生、皆から聞いたけれど」
「うん、密猟はね」
「なかったよ」
こう先生にお話するのでした。
「僕が聞いた限りだとね」
「僕が調べた限りでもね」
先生も王子に答えました。
「なかったよ」
「そうだよね」
「僕が調べた限りでもです」
トミーも先生にお話します。
「なかったです」
「そんなことはね」
「はい、全く」
それこそというのです。
「なかったです」
「僕達もね」
「村中調べたけれど」
「そんな話はね」
「影もなかったよ」
「全くね」
動物の皆も先生に言います。
「それぞれの得意なことで調べて」
「見たり聞いたり嗅いだりしたけれど」
「なかったよ、そんなお話は」
「影も形もね」
「そうだね、じゃあ密猟はないね」
先生はこのことがはっきりして笑顔で言いました。
「よかったよ」
「そのこと自体はね」
「よかったですね」
「うん、ただね」
先生はこうも言いました。
「村の人達も森の奥まではあまり行っていないみたいだね」
「奈良県と和歌山県の境までは」
「そうみたいだね、どうやら」
こう言うのでした。
「あそこまでは」
「けれど鹿さん達のお話では」
「そうだね、あの辺りの鹿君達もね」
「減っていますよね」
「熊君達かな」
先生は首を傾げさせつつ述べました。
「彼等がいてね」
「そうでしょうか」
「あと蝮に噛まれる」
先生はこのケースについてもお話しました。
「そちらかな」
「その可能性もありますか」
「怪我をしたりね、けれどね」
それでもとです、また言った先生でした。
「自然環境を破壊するまでの数になると」
「そうそう怪我とかでは」
「減らないね。流行病の話もないし」
鹿達のそれもというのです。
「そうなるとね」
「何らかの別のことがあって」
「鹿君達は減ったけれど」
「人でも獣でも病気でもない」
「自然環境が急に変わったっていうこともね」
これもなのでした。
「ないから。じゃあ何かな」
「わからなくなってきましたね」
「ちょっとね、何かな」
先生は首を傾げさせつつ言うのでした。
「調べてみようかな」
「そのことも」
「うん、それと村のお爺さんから聞いたことだけれど」
先生はふとです、皆にこのことをお話しました。
「入ったらいけない山もあるから」
「あっ、何かね」
「村の人がお話していましたね」
王子とトミーも先生に応えました、そのお話について。
「十二月二十日に入ったらいけない山もあって」
「山の神様もいて」
「それで、ですね」
「そうした山には注意しろって」
「そう、そうした山にも注意しよう」
「何か日本ってそうしたお話があちこちにあるんだよね」
「そうなんだよね」
オシツオサレツがここでぼやく様にして言いました。
「山にいる妖怪とか神様とか」
「それこそ何処にも」
「ああ、そういえば広島の」
「比婆山だったかな」
ホワイティとガブガブはこちらのことをお話しました。
「ヒバゴンとかいう」
「そうしたのもいたり」
「北海道じゃコロボックル?」
「小人の話があったり」
ダブダブとトートーは先生が前お話したことを思い出しました。
「沖縄とかにも」
「そんなお話があったね」
「大きな蛇がいるとか」
「日本には大蛇はいない筈でも」
ジップとポリネシアも先生が前にお話してくれたことをお話します。
「四国の方のね」
「剣山だった?」
「神戸にもあるよね」
「そうそう、六甲の牛女」
チープサイドの家族は皆が今いる場所のことに言及します。
「昔人の家から逃げてきた」
「それでずっと六甲にいるとか」
「本当かどうかわからないけれど」
「あるよね、そんなお話も」
「イギリスも妖精が多いけれど」
「日本もなんだよね」
チーチーと老馬も自分達でお話します。
「あちこちにそうしたお話があって」
「凄いんだよね」
「うん、それだけに研究のしがいがあるよ」
先生は動物の皆に学者として答えました。
「日本の山についてもね」
「ヒバゴンって本当にいるのかな」
王子は広島のこの謎の存在についてです、先生に尋ねました。
「ヒマラヤの雪男みたいだけれど」
「ううん、そうした大型の類人猿はね」
「いてもだよね」
「実際不思議じゃないんだ」
「雪男についても」
「アメリカもビッグフットとか。カフカスにもいるっていうけれど」
先生はそうした大型の類人猿の存在を否定しませんでした。
「別にね、ただね」
「ただ、ですか」
「僕はまだ比婆山に行ったことがないけれど」
それでもというのです、今度はトミーに。
「あの山だけにいるのは不自然かな」
「山脈になるとですね」
「いてもおかしくないけれど、まあ日本には狒々っていう妖怪もいるんだよね」
「動物のヒヒじゃないですね」
トミーは先生にこのことを確認しました。
「日本にはいませんから、ヒヒは」
「そうなんだ、そちらのヒヒじゃなくてね」
「妖怪の狒々ですか」
「その妖怪がいるから」
だからだというのです。
「若しかしたらね」
「その狒々がですか」
「それなのかもね」
「その狒々が大きな猿の妖怪ですか」
「そうなんだ、その正体は何かな」
ここで先生は考えるのでした。
「一体」
「突然変異的に大きな猿とか」
「その可能性はあるね」
「じゃあヒバゴンとかも」
「ひょっとしたらそうかもね」
「突然大きくなったニホンザルですか」
「その可能性があるね」
先生は狒々とヒバゴンの関係についてこう考察するのでした、そして王子はふと森の中を見回しつつ先生に尋ねました。
「あの、ここに狒々はいるかな」
「その話があるかも知れないね」
「じゃあ狒々が、かな」
「森の奥にいてだね」
「鹿を捕まえて食べているとか」
「その可能性もあるかな、けれど」
「可能性としては低いよね」
「人より大きなニホンザルは突然変異にしても」
「滅多にいないよね」
「そう、そうそうね」
まさにとです、先生も王子に答えます。
「いないから」
「じゃあ何で森の奥の鹿まで減っているのか」
「そこを調べよう」
是非にというのです。
「そうしようね」
「そうだね、それも生態系の調査だから」
「是非共ね」
「じゃあこれからどんどんだね」
「行こう」
その森の奥にというのです。
「これからね」
「そこに泊まりがけで」
「そうして行って」
「そのうえでしっくりと調べるんだね」
「森の奥を」
「ホテルにいたままじゃわからないことも多いよ」
先生はこうも言うのでした。
「そこに足を踏み入れないとね」
「そうしないとね」
「あえてその場所にだね」
「入らないとわからない」
「奥の奥まで」
「フィールドワークは学問の基本だし」
それにというのです。
「生物や植物を調べる為にはね」
「野宿もだよね」
「絶対に必要だね」
「これまでもそうしてきたし」
「これからも」
「そうだよ、まあ僕達はこれまでね」
先生はこれまでの皆との様々な冒険のこともお話に出しました、アフリカに行ったり大航海に出たり。他にもキャラバンに出たこともあります。
「外で寝起きしたこともあるし」
「うん、慣れてるよ」
「最近なかったけれどね」
「これまで通りにね」
「やっていこうね」
「むしろね」
今回はというのです。
「テントと寝袋があってしっかりと携帯食もある」
「そうだよね、この森で何が食べらるかわかっているし」
「そうしたこともね」
「そうしたことも充実してるし」
「知識もあるから」
「これまでの冒険よりもずっと危険は少ないよ」
先生達にとってはというのです。
「油断は出来ないけれどね」
「そうだね、じゃあいざね」
「これからどんどん奥に入ろう」
「そして調べましょう」
「この森をもっともっと」
動物の皆も先生と一緒に勇むのでした、そうしてです。
先生達は森の奥、これまでよりもさらに奥に入ってなのでした。
そのうえで、です。中を調べていきますが。
先生は今度は狸とお話をしました、狸が言うにはです。
「この辺りも最近は過ごしやすいよ」
「食べものも豊富でだね」
「うん、動物も多過ぎないしね」
「植物もだね」
「奇麗だよ」
「鹿君達が食べ過ぎたりしていないね」
「そうしたことないよ」
このことは大丈夫だというのです。
「よくなったよ、前と比べて」
「そうなんだね、あと村の人達はどうかな」
「ああ、麓の」
「そこの人達はここまで来るかな」
「滅多に来ないよ」
狸は先生の前で四本の足で立ちながら丁寧に答えます。時々その大きな尻尾が左右に動いたりしています。
「人間自体がね」
「山に住んでいる人は」
「山に?」
「この辺りに住んでいる人はいるかな」
「ああ、何かいたらしいね」
狸は先生の今の質問にはです、こう答えました。
「昔ね」
「昔なんだね」
「僕が生まれるずっと前にね」
それこそというのです。
「この辺りに人が住んでいたらしいね」
「その人達はまだいるから」
「僕は見たことがないよ」
これが狸の返事でした。
「そうした人達はね」
「そうなんだね」
「ええと、その人達って何かな」
「村に住んでいる人ではないよ」
「世を捨てた人?それとも山賊?」
「世を捨てた人もね。ここまではね」
もう結構奥まで入っています、そこまではというのです。
「入ることもないよ」
「そうなんだね」
「ましてやね」
さらにというのです。
「山賊はね」
「もういない?」
「もう日本にはいないね」
流石にというのです。
「そうした人達はね」
「そうなんだね、流石に」
「僕が気にしているのは山窩という人でね」
「山窩?」
「昔から山に住んでいる人達だよ」
「ふうん、そんな人もいるんだ」
狸は先生のお話を聞いてもこう言うばかりでした。
「僕はじめて知ったよ」
「ああ、君の言葉を聞いてわかったよ」
先生も確かにです。
「少なくともこの辺りに山窩の人はいないね」
「まあここは結構深い場所だからね」
狸は森の中を見回しました。
「人が入るにしてもね」
「無理があるね」
「普通の人はね」
それこそというのです、狸も。
「まあ先生のことは聞いているけれどね」
「それでもだね」
「うん、人はあまり来ないから」
このことは事実だというのです。
「そんな人はいないよ、ただ山犬さん達はいるね」
「山犬?」
「うん、ここからもっと奥にいったところにね」
狸は森のさらに奥の方を振り向いてです、先生にお話しました。
「いるよ、山犬がね」
「ああ、山犬がいたね」
言われてです、先生も気付きました。
「ここにも」
「いるよ、僕も下手したら襲われたりするから」
狸にとって犬は天敵の一つです、実は最初ジップを見て警戒しましたが先生に大丈夫だと言われているのです。
「気をつけてるんだ」
「山犬君達にだね」
「うん、縄張りに入ろうとしたらついてくるしね」
「ああ、犬の習性でね」
「そうしてきたりもするね」
「そうなんだね」
「うん、だから縄張りにも気をつけているんだ」
その山犬のというのです。
「ここからもっともっと先に行った先にいるけれどね」
「そうなんだね」
「あとこの辺り熊さんもいるよ」
「ああ、じゃあその熊君にもね」
「お話を聞いたらいいよ」
その熊からもというのです。
「山犬さん達についてはね」
「それじゃあね」
「うん、行くよ」
こうお話してでした、先生はもっともっと先に行くことにしました。狸とそうしたお話をしてそうしてさらになのでした。
狸と分かれて森のさらに奥に入ります、そして三時になりますと。
ここでティータイムになりました、それでお茶を飲む先生に老馬は笑顔で言いました。
「やっぱり先生はね」
「うん、十時と三時にはね」
「お茶だよね」
「ティーセットもね」
勿論三段のそれも健在です。
「ないとね」
「落ち着かないんだよね」
「他のものはなくても」
「ティータイムのティーセットはね」
「外せないよ」
それこそというのです。
「これだけはね」
「そうだね、じゃあね」
「皆もね」
先生は一人だけ楽しむことは絶対にしません、それで皆にも言うのです。
「楽しんでね」
「うん、じゃあね」
ジップが尻尾を振って応えます。
「これから食べよう」
「そして飲もうね」
ホワイティも楽しみにしています。
「紅茶を」
「やっぱりミルクティーよね」
ダブダブは先生が飲む紅茶について言います。
「飲むお茶は」
「最近日本のお茶も飲むけれど」
チーチーはこのことを指摘しました。
「紅茶はそれだよね、先生は」
「レモンティーは飲まないね」
ガブガブは先生がこちらのお茶を飲んだことは殆ど見たことがありません。
「お付き合いで飲んでいてもね」
「そうだね、それで三段セット」
トートーは今出されているそのセットを見て目を細めさせています。
「これも絶対だよね」
「先生の三時はこうでないとね」
ポリネシアのお声もにこにことした感じです。
「ティータイムでないと」
「うん、一緒にいる方もね」
「不安になるわ」
「先生の三時はティータイム」
「三段ティーセットもある」
「それよね」
ポリネシアに続いてチープサイドの家族も言います、そして最後にオシツオサレツもこうしたことをお話しました。
「例え外でもお茶は忘れない」
「その余裕が大事だよね」
「テントで休む日でも」
「お茶とティーセットを楽しむね」
「僕はあくせくすることは無理なんだ」
生来のおっとりさんです、先生は焦るということは苦手です。それでこの時も動物の皆に対してこう答えたのです。
「それでね」
「この森の中でも」
「こうして食べて」
「そしてね」
「楽しむんだね」
「そうするよ」
こう言ってでした、先生は実際にカップの中の紅茶を飲みました。
そして、です。ティーセットも食べます。今回のそれはといいますと。
「スコーンとクッキー、それとビスケットだね」
「保存系です」
トミーが答えました。
「これから暫くは」
「そうだね、野宿が多くなるからね」
「はい、ですから」
それでとです、トミーは先生にお話するのでした。
「飽きないですよね」
「うん、大丈夫だよ」
先生はトミーに微笑んで答えました。
「クッキーもスコーンも大好きだからね」
「ビスケットもですよね」
「あるもので大丈夫だよ」
「それは何よりです」
「味も楽しませてもらうよ」
「どれも何種類ずつか用意していますから」
「そのこともだね」
「安心して下さい」
先生も他の皆も飽きない様にです、トミーも気を使っています。この辺りのこともしっかりとしている人なのです。
そして、です。さらに。
王子がです、先生に言いました。
「あと何かあったら」
「うん、携帯がだね」
「あるからね」
王子はこう言って携帯電話を出しました、スマートフォンもです。
「それもね」
「そう、あるよ」
そうだというのです。
「だからね」
「何かあったその時は」
「そう、連絡がつくからね」
「いや、携帯は便利だね」
「先生も持ってるじゃない」
「持ってるよ」
その通りだとです、先生はにこりと笑ってです。
スーツの胸ポケットから携帯を出しました、その携帯の色は先生の古い十九世紀のイギリスそのままのスーツを思わせるデザインのそれにあったものでした。
「この通りね」
「そうだね、じゃあね」
「何かあればね」
「うん、SOS送ればいいよ」
「文明の利器だね」
「文明は正しく上手に使うとね」
「沢山の人を救えるよ」
先生はにこりと笑ってこうも言いました。
「非常に素晴らしい力なんだよ」
「そうだよね」
「そう、だからね」
「それでだよね」
「何かあったら」
まさにその時はというのです。
「救援をお願いしようね」
「その時は」
「そうしよう」
こうお話してでした、そのうえで。
先生はあらためて紅茶を飲んで楽しみました、先生の三時は森の中でも同じです。
そしてその後でまた先に進むのですが先生は皆にこう言うことを忘れていませんでした。その言うことはといいますと。
「森の中だから夜はね」
「はい、あまり進まずに」
「休むんだね」
「そうしよう」
トミーと王子にも答えます。
「ここはね」
「日本の森もですね」
「夜は危ないからね」
「だからあまり進まないで」
「休まないとね」
「それで朝早く起きてね」
そして朝早く食べてです。
「先に進もうね」
「そうしましょう、やっぱり森の中だと」
「夜は危ないからね」
「このことは何処でもですよね」
「森の中なら」
「うん、だからね」
それで、とです。また言う先生でした。
「日が落ちたらテントを設けようね」
「わかりました、それで晩御飯を食べてゆっくりとね」
「休もうね」
「ただ夜はね」
この時のことも考えている先生でした、休むにしましても。
「夜行性の動物のお話も聞きたいね」
「それも生態系を調べることだよね」
トートーがここで先生に言ってきました。
「やっぱり」
「そう、だからね」
「夜の生きものとも会いたいんだね」
「具体的にはモモンガ君やムササビ君のね」
「あの子達と会って」
「話をしたいね」
是非にというのです。
「彼等は日本の森の欠かせない住人だからね」
「あとニホンザルにはまだ会っていないね」
チーチーはここで自分のお友達を思い出しました。
「そういえば」
「うん、そうだね」
「そろそろ会えるかな」
「会えたらいいね」
先生も願っていることです、この森の猿達に会うことに。
「是非」
「そうだよね」
「ううんと、猿君達なら」
ジップがお鼻をくんくんとさせました、ここで。
「匂いが少し先にするよ」
「あっ、そうなんだね」
「うん、ここから進んだらね」
「方角はどっちかな」
「こっちだよ」
方位磁石を出した先生にです、ジップは南南西n方を指し示して言いました。
「こっちに行けばね」
「猿君達がいるんだね」
「そうだよ、行くよね」
「うん、行こう」
先生もこのことはもう決めていました、そしてでした。
先生は実際にその方角に向かいました、すると実際にでした。
ニホンザルの群れが木の上に一杯いました、チープサイドの家族はその猿達を観つつ彼等に尋ねました。
「ねえ、ちょっといい?」
「聞きたいことがあるけれど」
「少しいいかな」
「お話をして」
「あれっ、ここまで雀君達が来るってことは」
猿のうちの一匹がこのことから言うのでした、木の上で遊んでいましたがその動きを止めてからそうしたのです。
「君達は」
「そう、ドリトル先生とね」
「一緒にここまで来たの」
「先生がこの辺りの動物のことを調べていて」
「それでなの」
「うん、お話は僕達も聞いてるよ」
猿達もというのです。
「そういえばね」
「そう、あの人がよ」
ポリネシアも猿のところに飛んできてです、猿にお話します。その下から穏やかなお顔で見上げている先生にお顔を向けて。
「ドリトル先生よ」
「そうだね、聞いた通りの外見だね」
その猿も納得して頷きます。
「目と髪の色も。それに大柄でずんぐりとしていて」
「ずんぐりは余計よ」
「あはは、これは失礼」
「けれどあの人がね」
「うん、先生だよね」
「ええ、そうよ」
ポリネシアもその通りだと答えます。
「お話した通りね」
「そうだよね、じゃあこれから先生と」
「お話してくれるかしら」
「うん、わかったよ」
にこりと笑ってです、お猿さんは答えてでした。
全部のお猿さん達が先生のところに来てです、こう言いました。
「やあ先生、はじめまして」
「僕達にお話がしたいことがあるって?」
「それって何?」
「何かな」
「うわ、やっぱり素早いね」
ホワイティはそのすぐに降りてきたお猿さん達を見て少し驚いて言いました。
「チーチーと同じだけね」
「それはね、お猿さんだからね」
「当然だよ」
オシツオサレツがホワイティに言いました。
「そのことはね」
「すばしっこいのがお猿さんだから」
「そうだね、そのことはね」
ホワイティも頷いてです、納得した動作を見せました。
そしてです、老馬は先生に言うのでした。
「じゃあ今からね」
「うん、お猿さんの皆ともね」
「お話しようね」
「それじゃあね」
先生も応えてでした、そうしてでした。
先生からです、お猿さん達に尋ねました。
「君達の最近の生活はどうかな」
「ううん、この季節は柿がないから」
「そのことが残念だね」
「秋が待ち遠しいよ」
「やっぱり僕達は柿が大好きだからね」
「一番ね」
まずは柿がないことをです、嘆くのでした。
「それがないのがね」
「少し残念だけれど」
「他の食べものは一杯あるし」
「だからね」
「困ってないよ」
「今はね」
そうだというのです。
「お水も奇麗で」
「そっちもいいよね」
「一時森も荒れてたけれど」
「奇麗な状況だから」
「そうなんだね。まあ柿はね」
柿のことがです、先生もこう言うのでした。
「秋じゃないからね」
「うん、仕方ないね」
「わかってるよ、そのことは」
「それでもあえてね」
「言ったんだ」
そうだというのです。
「だから別にね」
「気にしないでね」
「そういうものだと思って」
「僕達の戯言めいたことということで」
「わかっているよ、とにかく君達もだね」
先生はお猿さん達にも穏やかにお話しました。
「困っていないんだね」
「特にね」
「いつも遊んで食べて暮らしてるよ」
「この森の中でね」
「とても楽しくね」
「それは何よりだよ、お猿さん達も平和みたいだね」
「いやいや、山犬かなあれは」
ここで若いお猿が言いました。
「怖いのがいるから」
「あれ犬かな」
「違うんじゃない?」
「犬じゃない?」
「うん、何かね」
「違う気もするんだ」
こう先生にもお話するのでした。
「何処かね」
「不思議とね」
「犬なんだけれど」
「犬じゃない?」
「そんな筈ないのに」
「犬じゃなかったら何だってことだけれど」
「ううん、おかしなことだね」
そのお話は先生から聞いても確かにおかしなお話です、それで先生も首を傾げさせてこうしたことを言ったのです。
「それは」
「そうだよね」
「まあ最近山犬も減ったけれどね」
「それはいいことだよ」
先生は山犬が減ったことはよしとしました。
「それには理由があるからね」
「ああ、山犬はあれですよね」
ここでトミーはどうして先生が山犬が減ったことはいいことと言ったのか理解しました。そうして先生に答えました。
「山に捨てられた犬が野生化したものなので」
「そうした犬が減っていることはね」
「いいことですよね」
「うん、どんな動物でも飼っているのならね」
先生はこのことは厳しく言うのでした。
「捨てたりしたらいけないよ」
「それは人間として当然のことですね」
「最後まで愛情を持って一緒に暮らす」
「そうしないと駄目ですよね」
「うん、誰だって捨てられたりしたら嫌だよ」
先生は本当に何時になく厳しい口調です。
「そうした思いやりを忘れない」
「人として絶対のことですね」
「全く以てね、けれどね」
「そうした人が日本で少なくなってきている」
「このことはいいことだよ」
先生はこう言うのでした。
「本当にね」
「そうですね、山犬が減っていることは」
「うん、それでも気になることはね」
「山犬じゃないかも知れない」
「僕達の気のせいかも知れないよ」
お猿さんのうちの一匹が言いました。
「そのことはね」
「ううん、犬じゃないとすると」
「狼だったりしてね」
王子が笑って冗談めいた口調で言いました。
「ひょっとして」
「いや、ニホンオオカミは」
「絶滅しているから」
「いないよ」
こう言うのでした。
「多分山犬だよ」
「うん、多分ね」
「僕達もそうだと思うよ」
「ただそんな気がするだけで」
「山犬だよ」
「やっぱりね」
お猿さん達もこう言うのでした、自分達の気のせいだとです。
そうしたお話をです、お猿さんとしてでした。
先生は森のさらに奥に向かいました、そして夜になって休むのでした。
色々と話を聞いて周ったみたいだな。
美姫 「みたいね。でも、これといった原因はやっぱり分からないわね」
だな。原因とは別に色々と言い伝えなんかも出てきたけれどな。
美姫 「猿たちとも話をしたりしたけれど、まだ分からないわね」
とりあえず、今日は森で寝るみたいだし。
美姫 「何かが起こるのかしら」
さて、どうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね〜」
待っています。