『ドリトル先生と森の狼達』
第二幕 奈良に着いて
先生とトミーはまずは何処に泊まるかについて考えるのでした、そのことについて考えていた日笠さんからお話を受けた次の日にです。
その日笠さんが研究室に来てでした、こう先生に言ってくれました。
「昨日の件ですが」
「奈良の生態系の調査ですね」
「お宿でしたらいい場所がありますよ」
「あっ、見付けてくれたんですか」
「はい、調べましたら今は空室が一杯あります」
「そうですか」
「はい、後は予約を取るだけです」
もうそれだけだというのです。
「そのホテルに」
「ホテルですか」
「十津川の方のホテルです」
「民宿かと思ったのですが」
「八条グループの保養関係の一つで」
「あるのですか」
「そこにどうでしょうか」
「お願いします、実は何処に泊まろうか迷っていました」
そうだったこともです、先生はお話しました。
「実際のところ」
「それでは先生にとっても」
「渡りに舟です」
日本の諺を出しての返事でした。
「有り難いことです」
「では予約を入れておきますね」
「皆も一緒なので」
「動物の皆さんですね」
「はい、彼等もです」
先生にとってかけがえのない家族である彼等もというのです。
「一緒です」
「そうですね、それと」
「王子とトミーも」
先生にとって掛け替えのない友人である二人もなのでした。
「一緒にと」
「わかりました、いいお部屋もありますので」
「そうですか」
「温泉もあります」
「あっ、温泉もですか」
「十津川村は温泉もありまして」
それでというのです。
「そちらのホテルでもです」
「温泉があるのですか」
「はい、そうです」
日笠さんは先生ににこりと笑ってお話するのでした。
「それもあります」
「それはいいですね、実は僕は」
「温泉お好きですよね」
「日本に来てから大好きになりました」
先生が日本で知った楽しみの一つです。
「そちらも」
「ではそちらも」
「はい、楽しませてもらいます」
是非にとです、先生は日笠さんに答えました。
「そのホテルで」
「それでは」
「いや、いいですね」
先生は日笠さんとのお話が一段落したところで、でした。そのお顔をにこにことさせてそのうえでこうも言いました。
「森で動物を調べられてしかも温泉も楽しめる」
「最高だというのですね」
「これ以上いいことはありません」
「他にもいいことがありますよ」
日笠さんはその先生にさらにお話しました。
「そのホテルはお料理も美味しいのです」
「そうなのですか」
「山の幸に海の幸も揃っていまして」
「ああ、海は」
山は十津川だからわかります、ですが山の中なので普通は海の幸と言われてもいぶかしむところでした。
ですが先生はです、山に囲まれている十津川でも海の幸が食べられる理由についてすぐにわかって言ったのでした。
「和歌山からですね」
「あちらから取り寄せたものです」
「それがありますね」
「はい、ですから」
それでというのです。
「あります」
「そうですよね」
「和歌山から新鮮な海の幸を取り寄せいます、それに」
「それに、ですか」
「お酒もあります」
こちらも楽しめるというのです。
「地元のお酒が」
「そのお酒をですね」
「楽しめますので」
「まさかそこまで楽しめるとは」
「素晴らしいと」
「僕は本当に幸せです」
こうまで言うのでした。
「期待させてもらいます」
「何か先生は本当に」
ここでまた言う日笠さんでした、ここで言うことはといいますと。
「無欲なのですね」
「そう言われますか」
「はい、動物を調べられて温泉に入ることが出来て」
「食べることと飲むことが出来ればというのですね」
「それで最高に幸せとは」
「実際にそうではないでしょうか」
ここまで揃っていればというのです。
「これ以上望むものはありません」
「それ以上はですか」
「はい、満足です」
本当に何もかもがというのです。
「最高の旅になると思います」
「私もご一緒出来れば」
日笠さんはしみじみとして述べました。
「よかったのですが」
「日笠さんもですか」
「そう思っていたのですが残念です」
こう言ったのでした、本当に残念そうに。
「また機会があれば」
「ご一緒にですね」
「昨日のお寿司はとても美味しかったですし」
このお寿司のこともお話するのでした。
「またご一緒に」
「美味しいものを食べましょう」
「はい、それでは」
「そうしましょう」
こう言って先生にまた、とお願いするのでした。
そうしたことをお話してでした、先生は泊まる先の予約を取ってもらいました。それが終わってからでした。
トミーと王子を研究室に読んでお話しました、そのお話を聞いて王子は唸る様にしてそのうえで言いました。
「日笠さんいい人過ぎるね」
「うん、ホテルまで手配してくれてね」
「あんないい人そうそういないね」
こう先生に言うのでした。
「そう思うよ」
「王子の言う通りだね」
「うん、ただ」
「ただ?」
「いや、日笠さんなら」
王子は今度は先生をまじまじと見て言うのでした。
「先生をもっと幸せにしてくれるね」
「いいお友達だと思ってるよ」
「ああ、そういう意味じゃないよ」
王子は今度はやれやれとなりました。
「もっと違うから」
「違うってどういう意味かな」
「わからないならいいよ、ただね」
「ただ?」
「日笠さんのことは大事にしてね」
王子はここでも気付くことのない先生にこう忠告しました。
「絶対に」
「うん、そうさせてもらうよ」
「先生はそうしたことは忘れない人だけれど」
王子は先生の鈍さにどうしても歯がゆさを覚えていますがそこはあえて言わないでオブラートに包んで述べるのでした。
「日笠さんは特にね」
「いや、友達は贔屓したら駄目だから」
「友達というよりか」
「?日笠さんは僕の友達だよ」
「そういうのじゃなくて」
「ううん、先生はどうも」
トミーも気付かない先生に困ったお顔です。
そしてその困ったお顔で、でした。王子に言いました。
「春はまだまだ先ですね」
「今の季節が春じゃないのかな」
「違います、春は春でも」
その春はといいますと。
「先生の春です」
「だから僕は春を楽しんでるよ」
「そう仰るならいいですけれど」
「二人共何を言ってるのかわからないけれど」
先生の周りの動物の皆も王子とトミーが言っていることがわかるのでやれやれですが先生だけは気付かないまま応えます。
「とにかく泊まる先は決まったよ」
「十津川村のホテルだね」
「八条グループの保養施設の」
「そこに予約を取ってもらったから」
他ならぬ日笠さんにです。
「行こうね、その日になったら」
「そうだね、ただね」
ここでまた王子が先生に言いました。
「ここから奈良は距離があるし」
「南部になるとだね」
「相当にあるから」
だからだというのです。
「早いうちに出ようね、朝の」
「それがいいね」
「電車で行くのかな」
王子は先生に交通手段も尋ねました。
「やっぱり」
「いや、吉野までは電車があるけれど」
「そこから先はなんだ」
「八条鉄道でもね」
「そんなに凄い場所なんだね」
「奈良県南部はね」
まさにそうだというのです。
「何度も言うけれどね」
「日本で電車が通っていない場所って」
「凄いですよ」
王子もトミーも驚いています、そのことに。
「日本は世界屈指の鉄道大国なのに」
「その日本で電車が通っていないんですか」
「それはまたね」
「あらためて凄い場所だってわかりました」
「それが十津川村だよ、そしてね」
「奈良県と和歌山県の境」
「そうなんですね」
二人もそのことを再び認識してしみじみとなって言いました。
「僕達はそこに行くんだね」
「そうするんですね」
「そうだよ、吉野までは電車で行って」
先生はその行く予定をここでお話しました。
「そこからはバスだけれど、それはね」
「皆がいますから」
「うん、老馬とオシツオサレツがね」
先生は彼等を見ました、今も研究室の中にいる。
「彼等のことがあるね」
「僕達を連れて行ってくれることは有り難いけれど」
「バスにはね」
「僕達は乗れないよ」
「そう、だからね」
バスはとです、先生はあらためて言いました。
「バスは止めておこう」
「そうしましょう、じゃあ何を使って行きますか?」
「ううん、どうしたものかな」
トミーの問いにもです、困った顔で応える先生でした。
「今回は」
「何ならキャンピングカーを出すけれど」
ここで王子が知恵を出しました。
「ここから十津川までね」
「かなり長いけれど」
「大丈夫、運転手がいて執事も運転出来るし」
そのキャンピングカーをというのです。
「それにね」
「それに?」
「僕も運転出来るよ」
「王子もなんだ」
「実は免許を持ってるんだ、車のね」
「あっ、そうなんだ」
「日本でも運転出来るよ」
それが出来るというのです。
「しっかりとね」
「それは有り難いね」
「だからね、キャンピングカーなら馬とオシツオサレツも乗れるから」
それだけ大きなキャンピングカーなのです、王子が持っているそれは。
「それに乗って行こう」
「じゃあね」
「ただ。やっぱり山道だよね」
「うん、そうだよ」
「運転は気をつけるよ」
王子はこのことはくれぐれもと言うのでした。
「本当にね」
「安全運転が第一だよ」
先生も言います。
「僕は車の運転は出来ないけれどね」
「うん、それは絶対に守るよ」
「そうしてくれたら何よりだよ」
「じゃあ行こうね」
キャンピングカーで、とです。先生は言ってでした。
そしてなのでした、先生達は交通手段まで決めてそうして十津川に向かうのでした。その十津川にまでです。
出発してです、本当に長い時間をかけてでした。
皆は着きました、ですが。
王子はやれやれといったお顔で、です。車から出て言うのでした。
「いや、奈良県に入ってね」
「あと少しだって思ったんだね」
「うん、けれどそれがね」
「むしろ奈良県に入った方がだったね」
「長かったよ」
口調もやれやれといったものでした、今の王子は。
「全く以てね」
「そうだね、僕もそう思ったよ」
「というか同じ県だよね」
王子は先生にです、十津川に着いたところであらためて尋ねました。
「ここって」
「そうだよ」
「それでこうなんだ」
「奈良県の南はね。僕もはじめて来たけれど」
「奈良県とは思えないよ」
到底とも言う王子でした。
「これはね」
「そうだね、しかしね」
「着いたことは着いたね」
「うん、そうだよね」
「だからまずはホテルに入ろう」
先生はこうです、王子だけでなく皆に言いました。
「そうしよう」
「そうだね、殆ど真夜中に出て出発してね」
今ままで運転してきたからです、特に山道を長くそうしてきたので。
「運転手も執事も疲れてるし」
「王子もだね」
「僕はまだましだよ、考えてみるとね」
「運転した距離は一番長かったと思うけれど」
トミーが王子にお話しました。
「それでもなんだ」
「僕は何時でも元気だからね、けれどね」
それでもというのでした。
「二人はそうじゃないから、休んでもらおう」
「そう言う王子も他の皆もね」
あらためて言った先生でした、そして。
そうしてでした、皆はホテルに入ってです。お部屋に荷物を置いてから皆でお風呂に入りました、そのお風呂は見事な露天風呂でした。
その露天風呂に入ってです、王子は生き返ったお顔になってでした。
そのうえで運転手と執事、一緒に入っている二人に尋ねました。
「気分はどうだい?」
「はい、とてもです」
「気持ちいいです」
二人も生き返っているお顔で言うのでした。
「いや、ここの温泉は」
「とてもいいものですね」
「身体の疲れが取れます」
「幸せな気持ちです」
「そうだね、二人は僕達の調査の間は休んでいていいから」
その間ずっと、というのです。
「このお宿でゆっくりしていってね」
「いや、それは」
「幾ら何でも」
二人は王子に申し訳ないというお顔で返しました。
「我々も仕事を」
「何かあれば」
「ううん、そう言うんだ」
「はい、だからこそ王子にお仕えしています」
「ですから」
「そう言うのならね」
それならとです、王子も二人の言葉を受けてでした。
頷いてからです、こう言いました。
「ホテルに残って僕達の世話をしてくれるかな」
「わかりました、では」
「その様に」
「うん、外に調査に出る時は先生達と一緒だから」
それでというのです。
「君達は休んでいてね」
「王子が外に出られている間は」
「その様に」
「お酒を飲んでもいいしお風呂にも入ってもいいし」
「その辺りはですね」
「自由にしていいのですね」
「楽しんでよ」
とても気さくに笑ってです、王子は運転手の人と執事の人にお話しました。
「二人共ここまで僕達をしっかりと送ってくれたしね」
「有り難いお言葉、それでは」
「そうさせて頂きます」
二人は王子に笑顔で応えました、そしてでした。
今は皆で露天風呂を楽しむのでした、トミーはお風呂の外に見える何処までも続く緑の山々を見てです。
先生とトミーにです、こう言いました。
「日本が山が多いのはわかっていましたけれど」
「うん、ここはね」
「特に凄いよね」
「まさに見渡す限りの山で」
もう本当にそうです、山が視界の果てまで連なっています。
「凄いですね」
「ここまで山が多い国はあまりないよ」
先生はこうトミーに答えました。
「しかも木の多いね」
「そういえばどの山も」
「木が多いね」
「木で一杯ですね」
「日本の国土の七割が山でね」
「その山のどれもがですか」
「殆どの山は木に覆われているよ」
皆が今見ている山々の様にというのです。
「こうしてね」
「六甲よりも凄いですね」
「木の多さは六甲以上かもね」
「道理で空気が奇麗だよ」
王子はその空気のよさについて言いました。
「これだけ木が多いから」
「そうだね、空気が凄く奇麗だね」
「こんなに空気が奇麗な場所も多いんだ」
「美味しいね、空気が」
「本当にね」
王子はしみじみとしてです、その空気の美味しさを堪能しました。
そしてです、先生に言うのでした。
「あの山の中に入って」
「そうだよ、調査をするんだよ」
「動物達を」
「そうするんだ、ただね」
「ただ?」
「日本の山は木々の下も草が多くて足場も悪いから」
先生は王子、そしてトミーにこのことを言いました。
「気をつけてね」
「足場がだね」
「悪いんですね、ここも」
「そう、まあ僕はそれでも服はね」
先生のその服装はといいますと。
「いつも通りだけれど」
「スーツに皮靴」
「それなんですね」
「それが僕だからね」
先生はどんな旅行の時もフィールドワークの時もスーツと皮靴、それにネクタイです。そして帽子も忘れていません。
「こうした服装で出ないと何か駄目なんだ」
「それは昔からだよね」
王子は先生との長いお付き合いを思い出して答えました。
「先生は」
「王子と最初にアフリカに行った時もね」
「うん、先生スーツだったね」
「イギリスではね、その辺り厳しくて」
「それで日本に来てもだよね」
「このことはどうしてもね」
日本に来て結構経った今でもというのです。
「外せないんだ」
「服装のことはね」
「家にいる時は違うけれど」
「うん、甚平さん着たりしてね」
「浴衣とかもね」
お家とかの中ではラフにもなっているのです。
「そうなっているけれど」
「それでも外ではね」
「スーツだよ」
このことは絶対なのです。
「それは外せないね」
「どうしてもだよね」
「僕はね」
「それで服も靴も汚れないんだよね」
例えです、先生がどれだけ運動神経が鈍くてどん臭い人でもです。先生のスーツや皮靴それに帽子はなのです。
「いつも」
「有り難いことにね」
「それは先生にとって幸せなことだね」
「僕もそう思うよ」
「ただ、最近先生のスーツも」
トミーが言うことはといいますと。
「結構クリーニングに出していますから」
「持っている数も増えたしね」
「はい、清潔になっていますよ」
以前よりもというのです。
「そうなっていますよ」
「ううん、日本に来てからだね」
「そうです、やっぱり教授になって収入も増えましたし」
「服の方もよくなってきたね」
「衣食住全てがですね」
日本に来てからの先生はというのです。
「イギリスにいた時とは全く違いますよ」
「何か僕も変わったね」
「はい、ただ先生そうしたことは」
「あまりね」
先生ご自身はというのです。
「意識していないね」
「そうですよね」
「どうも僕は世の中のことは」
疎いとです、自分でも言うのでした。
「まだまだだね」
「その辺りは僕達とトミーでね」
「何でもやってるうからね」
「イギリスにいた時と同じで」
「そこはね」
「どうしてもだよね」
一緒にお風呂に入っている動物の皆も先生に周りから言います。
「疎いよね」
「それでも世間知らず過ぎるところあるけれど」
「けれど僕達がいつもいるから」
「世の中のことはね」
「あまり知らないよね」
「そうだね、経済とかも専門じゃないし」
先生はこちらの経済については疎いみたいです。
「世の中のことは」
「クリーニングとかについても」
「あまりなのよね」
「知識がなくて」
「全部私達がやっていて」
「先生は、だから」
「これじゃあ駄目かな」
先生は自分を振り返ってこうも言いました。
「やっぱり」
「いや、いい人がいればね」
「いいよ」
「先生がどれだけ家事が駄目で世の中のことに疎くても」
「それでもね」
「いい人がいればね」
「うん、僕にはトミーがいて皆がいて」
こうした人達が先生が思う『いい人』です。
「本当に幸せだよ」
「ああ、だから違うんだよ」
「僕達確かに先生の家族だけれど」
「けれどね」
「この場合のいい人っていうのは」
「また違うから」
「他のことを言ったんだけれど」
皆はお風呂の中でも呆れました、空気がとても奇麗で外に何処までも連なる山々が見えているその露天風呂の中で。
「やっぱり先生はね」
「こうしたことは疎いね」
「どうしてもね」
「難しいね」
「先生は源氏の君にはなれないね」
王子もお風呂の中で笑って言いました。
「やっぱり」
「源氏物語だね」
「うん、先生は違うね」
「源氏物語は素晴らしいね」
先生は文学についてはです、すぐにこう言えました。
「あの雅な王朝文学もまた日本の素晴らしさの一つだよ」
「読んだことはあるんだ」
「原文でも現代語訳でもね」
そのどちらでもというのです。
「読んだよ、現代語の方は谷崎潤一郎をね」
「凄いね、あれを日本人でない人が読むなんて」
「そうなのかな」
「うん、あの本はそうは読めないよ」
それが源氏物語だというのです。
「長いし登場人物も多くて」
「あと文章も独特だね」
「それは現代語の方?」
「いや、谷崎潤一郎の文章は読みやすいよ」
「じゃあ原文の方だね」
「紫式部の文章は独特なんだ」
古典の文章の中でもというのです。
「あの人の文章は難しいんだ」
「へえ、そうなんだ」
「だから難しかったけれど」
読んでいくことがというのです。
「面白い作品だったよ」
「全部読んだんだね」
「宇治十帖もね」
こちらまでというのです。
「読んだよ」
「流石先生だね、けれどね」
「僕は源氏の君にはなれないっていうんだね」
「どうしてもね」
「あの人は凄い人だよ」
先生は源氏の君を少し実在の人の様にお話しました。
「ただお顔がいいだけでなくてね」
「女の人にもてて」
「いや、人格も教養も見事な人で。雅がわかっている人だよ」
「女の人とは?」
「愛し愛され。素晴らしいね」
先生が見るにはそうなのです。
「とても素晴らしい人だね」
「ああした人になりたいとか思うことは」
「僕は誰かになりたいとは思わないから」
このことも先生の特徴です、そのお考えの。
「だからね」
「それでなんだ」
「源氏の君は素晴らしい人だと思うだけだよ」
「ああした恋愛をしたいとかは」
「別にね」
やっぱりです、思わないというのです。
「素晴らしい恋愛だけれどね」
「そう思うだけなんだね」
「駄目かな」
「いや、先生らしいね」
王子は今はこう言うだけでした。
「ただ、やっぱり先生は源氏の君じゃないね」
「何か引っ掛かる様な言い方だけれど」
「気にしないで、とにかくこのお話はこれまでにして」
そしてというのでした。
「お風呂から上がったらね」
「うん、お料理だね」
「お酒も出るよね」
「この十津川の地酒がね」
出るというのです。
「注文してあるよ」
「ここのお酒も美味しいのかな」
「それは飲んでからだね、あとここのお料理も出るよ」
「十津川のだね」
「そちらも楽しもうね」
先生はにこにことしてお話しました、そしてでした。
お風呂を楽しんだ後でお部屋でそのご馳走を食べるのでした、執事さんと運転手さん、動物の皆も一緒です。
浴衣に着替えた先生達の前に出されたそのご馳走はといいますと。
「蒟蒻、ですね」
「そうだね」
先生はお刺身を見ながらトミーに答えました。
「これは」
「蒟蒻のお刺身ですか」
「日本人はお魚をお刺身にしてね」
「お肉もお刺身にすれば」
「蒟蒻もするとは聞いていたけれど」
「はい、僕もスーパーで見てはいます」
お刺身用の蒟蒻をというのです。
「ですがこうしてホテルのお料理で見ることは」
「はじめてだね」
「不思議な感じがします」
とてもというのです。
「これは」
「そうだね、けれどね」
「美味しそうですね」
トミーは目を輝かせてです、先生に答えました。
「これは」
「うん、それにね」
「他のお料理も」
「あまごのお造りだね」
王子は他のお刺身も見ました。
「それとお豆腐、湯葉もあるね」
「こちらも美味しそうだね」
「茸や山菜の天麩羅に」
「いたどりを煮たもの」
「あと茶碗蒸し、それと地元の野菜のお料理に」
それにでした。
「サイコロステーキ、生麸のお吸いものだね」
「御飯もあって」
「どれも美味しそうだね」
「はい、本当に」
「山のものがメインだけれど」
この辺りはやっぱり十津川です、ですが。
先生は卓の真ん中の大きなお魚の塩焼きを見てです、トミーにとても嬉しそうに言いました。
「ホテルの人がお話してくれた通り」
「海のお魚もですね」
「あるね」
「これは鯛ですね」
「和歌山のものだね」
「それをお料理してくれたものですか」
「そうだね、間違いなく」
「この鯛も食べて」
「最後はね」
先生が次に見たものはといいますと。
「和菓子だね」
「羊羹ですね」
「これも楽しもうね」
「はい、それでお酒も」
皆の前にはおちょこもあります、そこにはもう澄んだとてもいい香りのお酒があります。
「楽しもうね」
「これがここのお酒だね」
「うん、十津川のね」
王子はまたトミーに答えました。
「そうだよ」
「じゃあ今から食べようか」
「皆でね」
こうお話してでした、実際に皆で。
ご馳走を食べはじめました、トミーはまずは蒟蒻のお刺身を食べましたがそのお刺身を一切れ食べてから言いました。
「これは」
「美味しいのかな」
「はい、とても」
驚いたお顔での返事でした、先生への。
「美味しいです」
「そんなにいいんだね」
「つるって入ってきて食感がぐにゃりとしていて歯応えがあって」
「それでなんだね」
「風味も素敵です」
それが蒟蒻のお刺身だというのです。
「お醤油と山山葵にも合います」
「そこまで美味しいのならね」
「先生もどうぞ」
「うん、食べさせてもらうよ」
実際にこう答えてです、先生も。
その蒟蒻のお刺身を食べてでした、笑顔になってコメントしました。
「うん、確かにね」
「美味しいですよね」
「蒟蒻のお刺身がこんなに美味しいなんてね」
「新しい発見ですよね」
「そうだね、いやこれはいいよ」
「山菜の天麩羅もいいよ」
王子はこちらを食べています。
「お酒にもよく合うよ」
「そちらもだね」
「いいね、これだと」
王子はお酒も飲みました、そして。
満足したお顔でまた天麩羅を食べて言うのでした。
「お酒も幾らでも飲めるよ」
「王子、ですが」
「お酒はです」
執事の人と運転手の人が王子を諌める様に言ってきました。
「程々に」
「あまり多くは飲まれないで下さい」
「飲み過ぎると毒です」
「ですから」
「ううん、二人共厳しいね」
王子は二人の言葉に苦笑いで返しました。
「お酒のことについては」
「はい、国王陛下からも言われています」
「王妃様からもです」
「くれぐれも王子を頼むと」
「ですから」
お酒は、というのです。
「程々に」
「あまり飲まれぬ様」
「そうだね、確かにお酒はね」
王子もその辺りはわかっていてです、二人に頷いて答えます。
「あまり飲まないでね」
「嗜まれる位で」
「溺れない様に」
「そうするよ」
こう答えてでした、実際にです。
王子はお酒は程々にしました、食べる量は多くてもです。
そちらはあまり飲みません、その王子を見てです。
先生はです、少し気になったお顔で言いました。
「そういえば僕もね」
「そう、先生もね」
「気をつけてね」
ダブダブとポリネシアが最初にです、先生に言いました。
「お酒の飲み過ぎには」
「くれぐれも」
「そう、お酒は百薬の長っていうけれど」
「薬も飲み過ぎたら怖いよね」
トートーとガブガブも先生に言います。
「だからね」
「先生も気をつけてね」
「そういえば先生は結構ね」
「お酒飲む人だね」
ジップとホワイティは先生のそうしたことにもお話しました。
「お家でもウイスキーとかよく飲んでいて」
「最近は日本酒も焼酎も楽しんでるし」
「お酒はいいけれど」
「やっぱり滅茶苦茶に飲むものじゃないね」
今度はチーチーと老馬が言いました、老馬とオシツオサレツはお部屋の外にいますが開かれた窓からお顔を出しています。
「程々に」
「それ位で済ませるべきだね」
「まあ先生はお医者さんだし」
「わかっていると思うけれどね」
チープサイドの家族が言うことはといいますと。チープサイドの家族は卓の上にいてポリネシアとトートーは先生の傍で卓の上にいます。他の皆は卓を前にしてです。そのうえでそれぞれ先生に言っています。
「お薬は程々」
「お酒はお薬にしても」
「あまり飲み過ぎないで」
「滅茶苦茶には飲まないことよね」
「先生、気をつけてね」
「そのことはね」
オシツオサレツも先生に言うのでした。
「さもないとね」
「僕達も心配になるから」
「わかっているよ、僕は酔いはしてもね」
それでもとです、先生も皆に答えます。
「溺れはしないよ」
「そこまではだね」
「飲まないんだね」
「自分の適量をわかって」
「そのうえで飲んでいるんだね」
「お酒も」
「そうだよ」
先生は笑顔で答えました。
「自分でもそのつもりだよ」
「そういえば先生は泥酔までは」
トミーも言います。
「飲まれないですね」
「注意しているからね」
「だからですね」
「泥酔はよくないよ」
飲むにしてもというのです。
「絶対にね」
「健康の為にも」
「それは今もだよ」
「明日からフィールドワークですし」
「そのこともあるしね」
だから余計にとです、先生は答えました。
「今日も程々にだよ」
「程々に飲まれて」
「またお風呂に入ってね」
「そうしてゆっくりとですね」
「寝て朝早くに行こう」
その調査にというのです。
「早朝に活動する動物も多いからね」
「森林地帯の場合は特にそうですね」
「夜行性の動物も多いけれど」
「その動物の調査はまた別の日ですね」
「うん、その時にするよ」
こうトミーに答えるのでした。
「ムササビ君達はね」
「ムササビ、ですね」
「あとモモンガもね」
「そうですか、そういえばムササビとモモンガは違いますね」
「また別の動物だよ」
先生はトミーにはっきりと答えました。
「それぞれね」
「そうですよね、実は」
「うん、間違えやすいけれどね」
「同じリス科ではあるんですよね」
「そうだよ、けれど違う種類なんだ」
同じリス科の動物で空を滑るとはいってもです。
「またね」
「どう違うんですか?実は僕その違いがわからなくて」
「モモンガは前足と両足の間にだけ膜があるけれどね」
「ムササビは違うんですね」
「ムササビは他の場所にもあるし身体の細かい部分もね」
ムササビとモモンガではというのです。
「また違うんだ」
「そうなんですか」
「そう、似ている様でね」
「別の生きものなんですね」
「こうしたことはよくあるけれどね、あと大事なことは」
先生はこのことは真面目に言いました。
「熊や蝮は刺激しないこと」
「そのことはね」
「注意しないとね」
「熊は怖いし蝮は毒があるし」
「だからだよね」
動物の皆もこう答えます、先生のそのお言葉に。
「確かに日本には怖い生きものは少ないし」
「その怖さも大したことないけれどね」
「それでも危険なことは危険だし」
「注意しないとね」
「そうしていこう、皆調査の時は離れないでいつも一緒にいよう」
先生は皆に言いました、こうして夜のご馳走も楽しんで、でした。そのうえで皆でゆっくりと休んで明日に備えるのでした。
奈良へと到着した一行。
美姫 「とりあえず、移動だけでも大変だったみたいね」
だな。その疲れを温泉と食事で癒して。
美姫 「いよいよ明日からは調査ね」
一体、何があるのか楽しみだな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。