『ドリトル先生と二本尻尾の猫』




                 第十二幕  告白

 お二人はお静さんに囁かれながらテーマパークの中を巡っていってです、そして遂になのでした。
 夕方になりました、すっかり赤くなったテーマパークの中で。
 お二人はテーマパークの出入り口のところにあったお城の前に来ました、そこの場で。
 動きを止めました、そのお二人を見てです。
 先生にです、オシツオサレツが囁きました。
「いよいよだね」
「その時が来たよ」
「うん、そうだね」
 先生もオシツオサレツのその言葉に頷きます。
「告白の時だね」
「何か色々あったけれど」
「それがね」
「終わるね」
「ハッピーエンドで」
「告白してからは恋人同士の物語がはじまるけれど」
 先生はオシツオサレツのハッピーエンドという言葉にはこう返しました。
「けれどね」
「それでもだね」
「恋人でない関係の二人はね」
「これで終わりだね」
「告白で」
「うん、一つの物語は終わるよ」
 このことは間違いないというのです。
「そのことは安心していいよ」
「それじゃあだね」
「後は、だね」
「僕達はこの正念場を守る」
「それが大事だね」
「そうだよ、あの人達はいるから」
 そのガラの悪い人達も探してなのでした、そのうえで。
 トートーがです、先生に言いました。
「いたよ」
「あそこだね」
「そう、あそこにね」
 見ればです、お城から少し離れた場所にです。あの人達がいてでした。お二人に気付いた感じでした。それで、です。
 先生は心配したお顔になってこう言いました。
「ここはね」
「動くんだね」
「そうするんだね」
「人の恋路は邪魔させないよ」
 穏やかでしたが確かな口調での言葉でした。
「そして僕達もね」
「仕事を果たす」
「そうすることだね」
「任務は全うしないとね」
「何があろうとも」
「その通りだよ、だからね」
 それで、と言ってなのでした。それから。
 先生はそっとでした、そのガラの悪い人達のところに足を進めました。ですがここで先生は皆に言いました。
「暴力はね」
「そう、それはね」
「絶対に守らないとね」
「暴力は振るってはいけない」
「何があっても」
「僕は暴力は何があってもね」
 それこそです、先生は。
「振るったらいけないって思ってるから」
「先生らしいお考えだね」
「それだよね」
「やっぱりここはね」
「暴力を振るわずに」
「あの人達をお二人に近付けないんだね」
「さて、ここは」
 先生は少し考えました、そのうえで。
 オシツオサレツと老馬にです、こう言いました。
「君達にお願いがあるけれど」
「お願い?」
「お願いっていうと?」
「それは何かな」
「あの人達のところに行ってね」
 そのガラの悪い人達のです。
「それでお顔を舐めたりしてくれるから」
「あっ、そうしてだね」
「嫌がらせてだね」
「お二人の方からどける」
「そうするんだね」
うん、これなら暴力を振るっていないし」
 それで、というのです。
「いいよ」
「先生の智恵だね、いつもの」
 老馬は先生のアイディアを聞いて笑顔で応えました。
「いいアイディアだね」
「暴力を振るわなくてもね」
「頭を使えばだね」
「そう、厄介ごとを避けられるんだ」
 それが可能だというのです。
「だから今回もね」
「僕達が行って」
「頼むよ」
「うん、それじゃあね」
 老馬が頷いて、でした。老馬とオシツオサレツは二匹でガラの悪い人達のところに行ってでした。そのうえでなのでした。
 お顔を舐めました、すると。
 ガラの悪い人達は困ったお顔で、でした。こう言いました。
「うわ、何だこの馬」
「急に出て来たな」
「この動物園馬も放し飼いにしてるのか?」
「しかも何だこいつは」
 オシツオサレツの二つの頭にも舐められて言うのでした。
「頭が前後に二つあるぞ」
「山羊に似てるけれどな」
「山羊じゃないな」
「何だこいつ」
「一体何なんだ」
 どういやらオシツオサレツを知らないみたいです、それでこう言うのでした。
「変な動物だな」
「しかも舐めてくるしな」
「一体何だよ」
「本当に」
「だから舐めるなよ」
 二匹にお顔を舐められてまた言いました。
「俺達に何しろってんだよ」
「折角可愛い娘見たから声かけようと思っていたのにな」
 少し離れた場所にいるお静さんの飼い主である女の子を見ています、先生達の危惧は当たっていたみたいです。
「何だよ、一体」
「この連中は」
「急に出て来てな」
「何で舐めて来るんだよ」
 動きが止まっていました、そして。
 先生は今度はホワイティにです、こう言いました。
「それじゃあ次はね」
「僕だね」
「うん、ここはね」
「あの人達の足元を走り回って」
「攪乱してくれるかな」
「うん、そうしてくれるかな」
「わかったよ」
 ホワイティも先生の言葉に頷いてでした、それから。
 老馬とオシツオサレツに舐められて困っているガラの悪い人達の足元に言って走り回ります、すると。
 突然足元を走り回られてでした、それもよく見えない何かに。
 只でさえ老馬とオシツオサレツにお顔を舐められて困っていたところにそれが来てもっとでした、狼狽して。
 ガラの悪い人達は遂になのでした。
「おい、もう帰ろうと」
「何なんだよ、一体」
「まさか幽霊か?」
「ここは幽霊でも出るのかよ」
 こうしたことも言い出してなのでした。
 ガラの悪い人達は退散しました、それを見てです。
 先生は笑顔で皆にこう言いました。
「これでよしだね」
「慌てて帰っていくね」
「テーマパークから出て」
「そうしていくね」
「まあ幽霊って行ってたから」
 先生はその言葉についても言いました。
「ひょっとしたらここに幽霊が出るって噂が出るかも知れないね」
「まあ幽霊が出るとかね」
「日本でも普通にあるみたいだし」
「それじゃあね」
「別にいいよね」
「それ位なら」
「これが食中毒とかだったら駄目だよ」
 日本においては特にです。
「テーマパークが潰れるけれど」
「幽霊だとね」
「観たら面白いし」
「怖いもの見たさってあるし」
「だからね」
「別にね」
「困らないね」
 動物の皆は何処かイギリスのお考えで言うのでした。
「それじゃあね」
「今回はね」
「別にいいね」
「幽霊話はそれはそれで」
「うん、そしてよかったことは」
 先生がここで満足していることはといいますと。
「暴力にはならなかったからね」
「そう、それが何よりだね」
「ベストだったよ」
「先生本当に暴力嫌いだから」
「それにならなかったことはね」
「よかったね」
「僕は誰かを殴ったり出来ないよ」
 勿論罵ったりもです。
「どうしてもね」
「というか暴力振るう先生ってね」
「想像出来ないよ」
「先生は暴力を否定してるから」
「そうした人だから」
「子供の頃からね、暴力は駄目だよ」
 性格的に受け付けないのです、どうしても。
「人の心も身体も傷つける」
「そうしたことはね」
「絶対にしない」
「それが先生の信条だし」
「それが出来たから」
「何よりの結果だね」
「そうだよ、あの子達も守れたから」
 先生はここでお二人を見ます、もう見詰め合っています。そのお二人を見てでした。先生は皆にあらためて言いました。
「さて、じゃあ」
「あの子達がこれからどうなるか」
「いよいよ告白の時が来たけれど」
「一体ね」
「どうなるのか」
「楽しみね」
「あとはお静さんとあの子達のことだよ」
 お二人の、というのです。
「じゃあいいね」
「僕達は見守る」
「それだけだね」
「後はね」
「もっと離れた場所にいよう」
 先生は自分達が今いる場所がお二人とわりと近いことに気付きました、それでこう皆に対して言ったのです。
「そうしよう」
「そうだね、意識させるかも知れないし」
「人の目があるとね」
「告白とか難しいし」
「それじゃあね」
「ここはね」
「離れよう」
 皆も頷いてでした、そうしてです。
 先生達はそっとお二人から離れて物陰から見守ることにしました、見れば女の子の方からでした。
 男の子に言いました、かなり必死なお顔で。
 その言葉を聞いてです、遂に。
 男の子も頷きました、先生にはお二人の言葉は聞こえませんでした。ですがそれでも動物の皆が先生に言いました。
「うん、ちゃんとね」
「告白したよ」
「それでね」
「男の子も受けたよ」
「告白を受け入れたよ」
 動物の皆にははっきりと聞こえたのです。
「それじゃあ」
「よし、じゃあね」
「これからは」
「お二人は恋人同士」
「幼馴染からそうなったね」
「よかったよ」
 笑顔のまま言う先生でした、その先生にです。
 皆がです、こう言うのでした。
「じゃあ後はね」
「先生の番だよ」
「今晩だよね」
「日笠さんと」
「うん、お食事に行くよ」
 先生は皆に穏やかな笑顔で答えました。
「イタリア料理のレストランにね」
「じゃあね」
「頑張ってきてね」
「僕達は先にお家に帰るけれど」
「それでもね」
「しっかりしてね」
「しっかりって?」
 そう言われてもでした、先生はです。
 目を瞬かせてです、こう言うのでした。
「紳士としてあるまじき行いをするなってことかな」
「ああ、そうじゃないけれど」
「また違うんだけれど」
「ううん、先生にはね」
「あの子達以上にね」
「困ったことになってるね」
「どうしても」
 皆は全く気付いていない先生にやれやれといったお顔です、本当に仕方ないなとなっています。いつものことでありますが。
「まあね」
「それでもね」
「紳士的でないといけないことはね」
「その通りだよ」
「しっかりとね」
「そのことは」
 このことについてはこう言うのでした。
「紳士的にね」
「まあ先生は実際紳士だけれど」
「間違いはないけれど」
「そのことはね」
「ちゃんとね」
「無作法なことはしないよ」
 絶対にというのです、先生もまた。
「神様に誓ってね」
「神様に誓うのはいいけれど」
「気付いて欲しいな」
「先生もね」
「本当にそろそろだから」
 皆は自分達の願いも口にしました、ですがやっぱり先生は気付きません。それでテーマパークを出てそうしてです。
 先生は日笠さんと待ち合わせをしているその場所に向かいました、ですがここでなのでした。
 お静さんが来てです、こう言ってきました。今回も猫のお姿です。
「先生、有り難う」
「いやいや、僕達は見ていただけだよ」
「何言ってるのよ、色々調べてくれたじゃない」
「デートの前に」
「私と猫達の主観だけじゃね」
「判断出来なかったっていうんだね」
「先生が調べてくれてアイディアも出してくれたから」
 それで、というのです。
「上手くいけたのよ」
「だといいけれどね」
「しかもね」
「しかも?」
「そう、先生がね」
 さらに言うお静さんでした。
「あのガラの悪い人達退散させてくれて」
「あれも動物の皆がしてくれたから」
 先生でなく、というのです。
「僕じゃないからね」
「そこでそう言うのがね」
 お静さんは先生ににこりと笑ってお話するのでした。
「また先生らしいわ、謙虚ね」
「有り難う、そう言ってくれて」
「とにかく今回は先生のお陰よ」
 お静さんは先生の横を後ろ足で歩きながらお話します。
「ハッピーエンドになったわ」
「そしてハッピーエンドの後は」
「新たなストーリーのはじまりよ」
 お静さんはにこにことして言うのでした。
「これからも大変だけれど」
「それでもだね」
「お二人は幸せになるわ、いえしてみせるわ」
「お静さんがだね」
「絶対にね」
 こう言うのでした。
「これからも」
「頑張ってね」
「ええ、先生もね」
「僕も?」
「そう、頑張ってね」
 お静さんは先生のお顔を見上げてこうも言ったのです。
「先生も」
「学問も誰かの為に動くこともね」
「いやいや、どっちもじゃなくて」
「あれっ、違うのかな」
「ううん、そうじゃなくて」
 お静さんも動物の皆と同じお顔になってしまいました、そうして言うのでした。
「何ていうか」
「?どうしたのかな」
「先生本人の幸せは遠いわね、まだまだ」
「僕は幸せだよ」
 やっぱりわかっていない先生でした。
「皆がいてくれてお仕事もあってお家もあってね」
「ああ、そういう幸せじゃなくて」
「これで充分じゃないかな。美味しい食べものにも囲まれていて」
「確かに先生は幸せだけれど」
 それでもというのです。
「ちょっとね」
「そうなんだ」
「まあ遠くても」
「それでも?」
「何時かはね」
 お静さんは先生に温かい言葉をかけるのでした。
「先生もね」
「今よりもなのかな」
「今よりもだし」
 お静さんは先生にこうも言いました。
「今の幸せとはまた別の幸せよ」
「幸せにも色々あるけれど」
「その中の一つよ」
「僕が出会う幸せは」
「何時か出会う幸せはね」
「それは何かな」
「まあね、わかる時も来るわ」
 お静さんは明るいお顔です、そうしたお話をしてでした。
 先生にです、こう言ったのでした。
「じゃあ私はこれでね」
「お家に帰るんだね」
「ええ、お嬢様を密かにお祝いするわ」
「あの娘と一緒に?」
「一緒にじゃないわ、私だけでよ」 
 あくまでお静さん自身で、というのだ。
「そうするわ」
「そうするんだね」
「じゃあまたね」
 お静さんは先生ににこりと笑って告げました。
「何時でもうちに来てね」
「それでお酒をだね」
「サービスさせてもらうから」
 最後にこう言ってでした、お静さんはどろんと消えました、先生はそのお静さんに帽子を取って一礼しました。
 そのうえで日笠さんとの待ち合わせ場所に向かいました、すると。
 そこにはもう日笠さんがいました、見ればいつもよりも奇麗な整った服を着ていてお化粧も気合が入っている感じです。
 その日笠さんを見てです、先生は少し驚いてご本人に言いました。
「ええと、確か」
「はい、待ち合わせ時間はですね」
「五分前ですが」
「実は十分前に来てしまいまして」
「それはどうしてですか?」
「あっ、少し」
 日笠さんは先生のお言葉に戸惑いながら返しました。
「早く来てしまいまして」
「それで、ですか」
「そうです」
 こう返す日笠さんでした。
「失敗してしまいました」
「そうなのですか」
「はい、それで先生」
 日笠さんは先生に急ぐ様な口調で言いました。
「これからですが」
「はい、レストランにですね」
「行きましょう」
 是非にという感じでのお言葉でした。
「これから」
「それでは」
「あのお店はとにかく美味しいです」
「パスタやピザがですね」
「ワインもよくて」
 日笠さんはかなり必死な感じです。
「きっと満足して頂けます」
「そうですか、それは楽しみですね」
「ご期待下さい、では」
「はい、それでは」
 先生は日笠さんにも帽子を脱いで一礼してでした、そうして。
 お二人でレストランに向かいました、そのレストランで。
 先生はあるパスタを見て目を細くさせて言いました。
「この黒いパスタは」
「はい、イカ墨のスパゲティです」
 日笠さんは先生ににこりと笑って答えました、勿論日笠さんもそのイカ墨の黒いスパゲティを食べています。
「先生はもう」
「はい、食べていますが」
「美味しいですね」
「そうですね、烏賊を食べること自体も」
 先生のお国であるイギリスでは、というのです。
「ないので」
「イギリスではですね」
「そうです、ましてやイカ墨ともなると」
「食べないですね」
「ですが日本に来て食べてみて」
 それでイカ墨の味を知りましたがそれが、というのです。
「これは美味しいとです」
「おわかりになられたのですね」
「そうです、美味しいですね」
「少し見ただけではびっくりしますよね」
 日笠さんは先生ににこりと笑ってこうも言いました。
「何かと」
「イギリスではインクをかけているのかと言う人もいますよ」
「あっ、わかります」
「そうですよね、黒いですから」
「ですから墨なのです」
 まさに黒いからです。
「烏賊の」
「そうですよね、ただ」
「ただ、ですね」
「こんな美味しいものを知らなかったことは」
 先生はとても残念そうなお顔になって日笠さんに答えました。
「不幸でした」
「こんな美味しいものをこれまで食べなかったことが」
「残念でしたので」
「そうですね、実はそれは日本もです」
「イカ墨のスパゲティを、ですか」
「スパゲティは明治の頃に入ってきましたが」
 それでもというのです。
「長い間。イカ墨のスパゲティはありませんでしたし」
「それにですか」
「オリーブオイルもです」
 これもなかったというのです。
「このお店はオリーブオイルが抜群にいいのですが」
「そのオリーブオイルもですね」
「長い間日本にはなかったのです」
「何と、それは」
「残念なことですね」
「そう思います」
 先生はそのイカ墨のスパゲティを食べつつ少し驚いて応えます。
「やはり。パスタにはです」
「オリーブオイルですね」
「ガーリックもですね」
「若しかして」
「はい、パスタにガーリックを入れることもです」
 見ればお二人のスパゲティには大蒜も入っています、それがパスタの味をさらによくするのです。ですがその大蒜もというのです。
「長い間」
「ううむ、では日本のスパゲティは」
「長い間こうしたものではなかったのです」
「オリーブオイルもなくガーリックもなく」
「上にチーズをかけたりすることも唐辛子を利かせることも」
 そうしたこともというのです。
「なかったのです」
「そうだったのですね、では」
「洋食のスパゲティでした」
「イタリア料理ではなく」
「また別のものでした」
「そうなのですね、しかし」
「しかしですね」
「そちらのスパゲティも美味しそうですね」
 先生はそのオリーブオイルや大蒜を入れない洋食としてのスパゲティについてもこうしたことを言ったのでした。
「あのナポリタンやミートソースですね」
「そうです」
「僕はどれもオリーブオイル、そしてガーリックを使っていますが」
「イタリアの様にですね」
「そうです、しかしそちらもいいですね」
「では」
「一度食べてみます」
 先生は日笠さんにこう答えました、そしてイカ墨のスパゲティにです。
 フェットチーネやマカロニ、ラザニアも食べました。食べたものはパスタ類で飲むものはワインでした。そうしたものを楽しんでから。
 デザートになりました、そのデザートはというと。
「ジェラートですか」
「イタリア料理なので」
 それでと答える日笠さんでした。
「こちらで宜しいでしょうか」
「はい、実は日本のジェラートも気に入っていまして」
 それでとです、先生はデザートについても笑顔でした。
「有り難うございます」
「それでは」
「こちらも楽しませてもらいます」
「八条学園にはイタリアから来られた人も多いですが」
 先生や職員、そして生徒の人達にです。とにかくこの学園は世界中から人が集まって来る学園なのです。
「イタリアの人は最後はです」
「このジェラートですね」
「これを食べないと駄目とか」
「そう言う人が多いのですね」
「ですから」
 それで、というのです。
「是非共です」
「はい、召し上がらさせてもらいます」
 先生は日笠さんに答えてでした、それから。
 そのジャラートも食べて笑顔で言いました。
「このジャラートもいいですね」
「そうですよね」
「このお店はジェラートもいいのですね」
「デザートもです」
 パスタやピザだけでなく、というのです。
「いいのです」
「そうなのですね」
「ケーキもタルトも素晴らしいです」
「では今度行った時に」
「その時はですね」
「ケーキかタルトを」
 そのデザートにというのです。
「召し上がらさせてもらいます」
「では私も」 
 日笠さんはタイミングを入れてご自身をお話の中に入れました。
「ご一緒に」
「来て頂けますか」
「先生が宜しければ」
「ではその時は」
 ここで断らないのが先生です、それでなのでした。
 日笠さんのお願いに応えます、それだけで嬉しくなる日笠さんでした。
 そしてお食事の後でなのでした。
 日笠さんは先生にです、こうも言いました。
「あの、先生」
「何でしょうか」
「これからお時間はありますか?」
 こう尋ねたのでした。
「今夜は」
「特に何も予定はありませんが」
 先生は日笠さんに穏やかな声で答えました。
「論文を書く予定もありません」
「そうですか、それでは」
「それでは?」
「これからバーに行きませんか?」
 先生に必死の感じでの提案でした。
「如何でしょうか」
「いえ、それは」
「それは?」
「今夜は飲み過ぎてしまいました」
 見れば先生のお顔はかなり赤くなっています、お酒は強い先生ですがそれでもです。今夜はというのです。
「ついつい。ワインが美味しくて」
「二本開けておられましたね」
「それだけ飲めば。昨日も飲みましたし」
 だからだというのです。
「今日はもう飲みません」
「そう、ですか」
 そう言われてです、日笠さんは。
 残念そうなお顔になってそのうえで先生に言いました。
「では今日は」
「折角のお誘いですが」
「これで、ですね」
「あっ、お車は用意します」
 先生らしく紳士的な対応でした。
 先生は携帯を取り出してでした、ある場所に連絡しました。そのある場所にこう言ったのです。
「じゃあこちらまでお願いします」
「場所は何処ですか?」
「イタリア料理のレストランの」
 お店の名前を言ったのです。
「その前です」
「わかりました、では一台」
「お願いします」
「あの、何を」
「はい、タクシーに来てもらいました」 
 先生は日笠さんに微笑んで答えました。
「もうすぐ来てもらいますので」
「タクシーということは」
「夜の女性の一人歩きは危険です」
 その微笑みのままのお言葉です。
「タクシーでお帰り下さい」
「そう、ですか」
「では」
「はい、それでは」
 日笠さんは残念そうに笑うだけでした、そして。
 タクシーが来てです、先生がタクシー代を出そうとするのを止めてからです。先生に頭を下げてそうしてお家に帰りました。
 先生は歩いて帰りました、そしてその一部始終をトミーと動物の皆にお話しますと皆はやれやれとなりました。
 サラが来た時にもこのことをお話しました、するとサラはです。
 皆よりもずっと強く呆れたお顔になってです、こう先生に言いました。
「兄さん駄目過ぎるわよ」
「駄目過ぎるって?」
「何やってるのよ」
 目を顰めさせてです、ちゃぶ台で日本のお茶を飲みつつ言うのでした。
「本当に」
「何か駄目なところがあったかな」
「何もかもがよ」
 駄目だというのです。
「それ何よ」
「何って」
「何でそこでお誘い断ったの?」
「いや、飲み過ぎたからね」 
 先生はかえってです、サラの呆れた調子に戸惑っています。それできょとんとしながらサラにこう答えたのです。
「もうそれ以上はね」
「飲むと、っていうのね」
「身体に悪いって思って」
 だからだというのです。
「止めたんだよ」
「そうなのね」
「うん、その前の日はウイスキー一本開けてて」
「その日はワイン二本」
「結構飲んでるよね」
「まあそれはね」
「身体によくないから」
 飲み過ぎは、というのです。
「だから止めたんだよ」
「いや、だから」
「だから?」
「バーで一杯位ならいいじゃない」
 サラはかなり具体的にです、先生に言いました。
「それは普通だから」
「バーで飲む時は」
「そう、それが主題じゃないから」
「あれっ、バーはお酒を飲むところだよ」
 先生はサラの今の言葉にきょとんとして返しました。
「それで主題じゃないって」
「兄さん、その歳でもわからないのね」
 サラは先生にさらに呆れるのでした。
「全く、困ったことね」
「困ったことって」
「そうよ、それでタクシーを呼んでよね」
「帰ってもらったんだ」
「紳士ではあるわ」
 サラは腕を組んでまた言いました。
「それは」
「うん、いいことだね」
「それ自体はね」 
 サラの肯定は一定のものでした。
「その通りよ」
「やっぱり女性の夜の一人歩きはよくないわ」
「女性は大事にしないとね」
「僕もそう思ってね」
 タクシーを呼んだというのです。
「呼んだんだよ」
「それ自体はいいのよ」
「何か引っ掛かる言い方だね」
「そうした感じで言ってるのよ」
 実際にそうだと返すサラでした。
「私もね」
「おや、そうなんだ」
「それはどうしてか知りたい?」
「どうしてかな」
「呆れてるからよ」
 まさにそれが為にというのです。
「今回は心底」
「怒ってるのかな」
「怒ってるって言えば怒ってるわ」
 サラはそのお口をへの字にもさせてみせました。
「全く、兄さんはそうしたこととスポーツは昔からてんで駄目だから」
「何でそう言うのかな」
「言わずにいられないからよ」
「というかね、先生」
「サラさんの言う通りよ」
 ジップとポリネシアも先生に言ってきました、この場ではこれまで黙っていましたがお二人のやり取りにサラの側で参加したのです。
「そこでね」
「そうすることしか思いつかなかったの?」
「全く、これは」
「いつものことだけれど」
 ダブダブとガブガブも呆れ顔です。
「先生、私達から見てもね」
「アウトだよ、完全に」
「先生らしいけれど」
「そのらしさがね」 
 トートーとチーチーは一緒に先生に言いました。
「かえってね」
「今回の状況になってるんだよ」
「まあ日笠さんもね」
「わかってると思うけれど」
 ホワイティと老馬は日笠さんのことをお話します。
「またお声かけてくるよ」
「その時はね」
「頼むよ、先生」
「しっかりしてね」
 チープサイドの家族は嘴を尖らせて先生に注意します、もっとも嘴は最初から尖っていますが言葉にそれが出ています。
「次はね」
「ちゃんとするのよ」
「うん、しっかりとね」
「僕達がいなくても」
 オシツオサレツも二つのお口で先生に言いました。
「そっちの方も」
「気付いて欲しいよ」
「全く、本当に兄さんは」
 サラは頬杖をついてやれやれというお顔でまた言いました。
「だからずっと一人なのよ」
「いや、僕にはトミーも王子も動物の皆もいるよ」
「そういう一人じゃないの」
「あれっ、そうなんだ」
「まあその日笠さんって人とはね」
 こんなことも言うサラでした。
「一度お会いしたいわ」
「とてもいい人だよ」
「でしょうね、兄さんの内面をちゃんとわかってくれているから」
 このことからです、サラは日笠さんのことを察していました。
「とてもいい人ね」
「あんないい人いないよ」
「応援したいわ」
 サラはしみじみとしてです、腕を組んでこうも言ったのでした。
「その人を」
「一回会うといいよ」
「ええ、兄さんを宜しくってね」
「どうして僕をなのかな」
「そこがわからないのが兄さんの駄目なところなのよ」
 サラは今回本当に呆れています、それで。
 先生にです、そのへの字にさせたお口で言いました。
「一生一人でいたら駄目だからね」
「だから僕は一人じゃないよ」
「この言葉の意味がわからないこと自体が駄目なの」
「どうしてかな」
「どうしてもこうしてもじゃないわよ」
 また言う先生でした、そうしたことをお話してでした。 
 サラは表情を元に戻してです、一緒にいるトミーにこう問いました。
「ところでこのお茶だけれど」
「サラさんのご主人の会社のお茶ですね」
「そう、緑茶よ」
「日本のお茶ですね」
「美味しいでしょ」
「はい、とても」
 トミーもサラににこりと笑って答えました。
「お菓子にも合います」
「そうよね、あとね」
「あと?」
「このお菓子もいいわよね」
 見ればもみじの形をしています、そのお菓子はといいますと。
「ここに来るまでに広島に寄ったの」
「厳島にですか」
「そこで買ったのよ」
「もみじ饅頭ですね」
「いや、これは美味しいわ」
 サラは実際にそのもみじ饅頭を食べつつ言うのでした。
「全く、日本は何処にも美味しいものがあるわね」
「そうですね、確かに」
「お茶にも合うし」
「このお茶も美味しいですよ」
「主人がかなり力を入れて売ってるわ」
 サラはにこりと笑ってトミーに言いました。
「これはいけるって言って」
「イギリスで、ですか」
「売ってるの、実際に売れてるから」
「それはいいことですね」
「そう、あとイギリスに帰ったら」
 ここでサラはまた先生を見ました、そして。
 先生にです、呆れた感じではありますがそれで優しいお顔でこう言ったのでした。
「兄さんのことお祈りしておくわ」
「僕のことを?」
「幸せになれる様に、日笠さんのこともね」
「どうして日笠さんもなのかな」
「これは気付くことも願わないと駄目かしら」
「気付くって?」
「こっちの話よ」
 このことはもう言わない日笠さんでした、そして。
 サラはお茶を飲んでそうしてなのでした、もみじ饅頭を食べてです。
 先生にももみじ饅頭を勧めます、そうして先生のことを思うのでした。


ドリトル先生と二本尻尾の猫   完


                          2015・1・13



無事に娘さんは告白して上手くいったな。
美姫 「良かったわね」
ああ。途中で邪魔が入りそうになったけれどな。
美姫 「そこは動物たちのお蔭で無事に済んだわね」
だな。平和的な解決だったし、本当に良かった、良かった。
美姫 「で、先生の番になった訳だけれど」
あー、こっちの方は予想通りというか。
美姫 「日笠さんが少し可哀想ね」
周りが懸命になっているんだけれど、肝心の先生が無自覚と言う。
美姫 「こっちは時間が掛かりそうね」
本当に。
美姫 「今回のシリーズも楽しませてもらいました」
本当にありがとうございます。



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