『ドリトル先生と二本尻尾の猫』
第十一幕 告白
先生達はお二人を見ながらスナックコーナーに入りました、そのメニューを観てです。
そのうえで、です。先生は目を瞬かせてこう言いました。
「オムライスがあるんだ」
「あれっ、オムライスに何か?」
「何かあるの、先生」
「いや、これは面白いね」
先生は皆に唸って言うのでした。
「凄くね」
「それはどうしてなの?」
「何で面白いの?」
「それも凄く」
「それはどうして?」
「うん、オムライスはね」
このお料理のことをです、先生は皆にお話しました。
「日本独自の洋食の一つだからね」
「確かあれだよね」
トートーが言って来ました。
「オレンジライスをオムレツの生地で囲んだ」
「うん、そうだよ」
「そうしたお料理よね」
「オレンジライスもオムレツも確かに他の国にもあるよ」
「特にオムレツはね」
「うん、メジャーなお料理だよ」
それこそフランスに行けばです、朝にはとてもよく食べるものです。これはイギリスでも同じことであります。
「オレンジライス、チキンライスにしても」
「御飯のお料理としてはね」
「結構ね」
「うん、あるよね」
「けれどだよね」
「その二つを合わせたお料理となると」
それは、なのでした。
「ないね」
「日本独自だね」
「そう、それがあるのなら」
是非にと言う先生でした。
「食べないとね」
「じゃあそれ注文するんだ」
「オムライスを」
皆は先生に応えました。
「そうなんだね」
「そうするんだね」
「うん、それとね」
「それと?」
「後はね」
さらに言う先生でした、メニューを見つつ。
「焼きそばかな」
「あっ、それもあるんだ」
「焼きそばも」
「うん、オムライスと焼きそばにしようかな」
「じゃあ僕達もだね」
「その二つだね」
「皆で食べよう」
先生は屋外のスナックコーナー、様々なお店が並んでいるその前の席の一つで言うのでした。
「この二つをね」
「よし、それじゃあね」
「その二つを食べて」
「お腹を満足させて」
「あの子達も見ながら」
お二人はコーナーの席の一つにいます、そこででした。
楽しく、とはいってもかなりぎこちないお喋りをしつつ食べています。見れば二人共カレーライスを食べています。
そのお二人を見つつです、ジップが先生に言いました。
「あの子達も楽しんでるね」
「そうだね」
「それによく見れば」
こうも言うジップでした。
「お静さんもね」
「あっ、今はね」
見ればお静さんも今はお姿を出しています。とはいってもお二人のすぐ傍の席で女の子の姿になってカレーライスを食べています。
「人間の姿だね」
「普段の変化とは違う姿だけれどね」
「ちゃんと食べてるね」
「やっぱり猫又も食べないと」
例え長い間生きていて妖力を備えていてもです。
「食べないとね」
「駄目だからだね」
「お静さんも食べてるんだね」
「そうだね、だから僕達もね」
先生はあらためて言いました。
「食べようか」
「オムライスと焼きそばを」
「その二つをね」
こうお話して注文するのでした、ですが。
先生達はお二人とお静さんが食べているそのカレーライスをよく見ていませんでした、それで注文してからです。
その巨大なお皿の上のオムライスと焼きそばを見て、です。先生も動物の皆も目を丸くさせてこう言うのでした。
「いや、これはね」
「そうだね」
「ちょっとね」
「想像してなかったわ」
「いや、ここまでボリュームがあるなんて」
「予想外よ」
「本当にね」
先生達も動物の皆も言うのでした。
「この二つ食べたら」
「それこそ」
「お腹一杯」
「お腹一杯どころか」
「果たして食べきれるか」
「それが問題よね」
「出されたものは全部食べる」
ここでこう言った先生でした。
「それがね」
「日本だよね」
「日本の礼儀だよね」
「じゃあこのオムライスと焼きそばも」
「気合を入れて」
「うん、食べよう」
残さずにと言う先生でした。
「絶対にね」
「よし、じゃあ食べよう」
「このオムライスと焼きそばをね」
「お皿の上を奇麗にして」
「食べきろう」
動物の皆も応えてでした、そのうえで。
先生は皆と一緒に食べるのでした、そのボリュームたっぷりのオムライスと焼きそばはです。食べてみますと。
「いや、これは」
「うん、味はね」
「かなりいいね」
「美味しいよ、どっちも」
「絶妙の味加減」
「そうだよね」
先生も皆も食べてみて言うのでした。
「いや、これだけのボリュームがあっても」
「これならね」
「食べきられそうだね」
「食べやすい味だし」
「いけるかも」
「よし、美味しいし」
それならと言ってでした、先生は。
オムライスと焼きそばを食べていってでした、あっという間に半分以上お腹の中に入れてそれからさらにでした。
残りも食べました、そしてこう言いました。
「いや、満足」
「うん、満足だよね」
「食べきったね、何とか」
「凄い量だったけれど」
「それでもね」
「全部食べたね」
「満腹になったよ」
こうも言う先生でした。
「お陰でね」
「そうだね、ただね」
ふとです、ホワイティが言うことはといいますと。
「炭水化物と炭水化物だよね」
「そうだね」
先生もテーブルの上のホワイティに応えます。
「御飯とおそばだからね」
「この組み合わせ多くない?日本って」
「いや、それはね」
「それは?」
「関西が中心なんだ」
その炭水化物と炭水化物の組み合わせは、というのです。
「それはね」
「あっ、そうなんだ」
「ほら、僕はよく学校の食堂でお好み焼き定食やうどんと丼という組み合わせを楽しんでるね」
「結構ね」
「あれも関西なんだ」
「そういえば先生うどんを御飯のおかずにするよね」
ガブガブが先生にそのことも言いました。
「そうだよね」
「うん、けれどね」
「それは関西なんだ」
「関東ではそうしないんだ」
「うどんとかを御飯のおかずにすることは」
「ないんだ」
「じゃあラーメンで炒飯を食べることは?」
「どうなの?」
オシツオサレツが先生に尋ねました。
「そうしたことは」
「ないの?」
「関東じゃないの?」
「うどん定食とかも」
「うん、少なくともありきたりじゃないよ」
そうした食べ方ではないというのです。
「別にね」
「ううん、そうなんだ」
「そうした食べ方ないんだ」
「関東の方じゃ」
「それでもなんだ」
「うん、同じ日本でもね」
それでもというのです。
「関東と関西じゃね」
「食べ方が違う」
「そうなんだね」
「この食べ方にしても」
「あまりないんだね」
「そうだよ、僕はこの食べ方に慣れているけれどね」
何しろその関西にいるのです、慣れていない筈がありません。
「同じ日本でも地域によって食べ方が違うんだ」
「面白いね、そのことも」
「同じ日本でもそうなんて」
「関西には関西の食べ方がある」
「そうだよ、まあ美味しければいいんじゃないから」
先生はにこりとしてこうも言いました。
「焼きそばもオムライスも美味しかったし」
「それじゃあいいか」
「炭水化物と炭水化物でも」
「美味しかったし」
「しかもお腹一杯になったし」
「それなら」
いいとお話してでした、そのうえで。
先生はお二人とお静さんを見ました、見れば。
お静さんはもう食べ終わっていて食べ終わったものをコーナーの返却口に送って食後のコーヒーを注文してそれを小粋なポーズで飲んでいます。
ですがお二人はです、まだでした。
カレーを食べています、そして。
そのお二人を見てです、チープサイドの家族が言いました。
「どうも僕達はね」
「早く食べ過ぎたかな」
「あまりにも美味しかったから」
「そうかな」
「いや、あの子達は食べるよりもね」
それよりもと言う先生でした。
「お喋りに集中してるから」
「だからなんだ」
「食べるのが遅いんだ」
「それでなんだ」
「まだ食べてるんだ」
「そうみたいだね、あと」
ここで先生はこうも言うのでした。
「あの子達ははじめてのデートだから」
「だからお喋りにも慣れてない?」
「見ればかなりぎこちないね」
「必死に話題を出してお互い合わせて」
「それでね」
「必死にお話して」
「もうお互い慣れていなくてしかも緊張してて」
それで、というのです。
「大変なね」
「そんな調子だね」
「食べてはいるけれど」
「お喋りに苦労してて」
「大変ね」
「それでなんだ」
「うん、あれじゃあね」
それだけお喋りに苦労していてはというのです。
「食べるのも遅いよ」
「それなりに食べてるけれど」
「それでもね」
「まだ結構残ってるから」
「じゃああと少しは」
「ゆっくりしていようか」
こうお話してでした、先生と皆はです。
お二人が食べ終わるのを待ちました。二人も暫くしてからカレーライスを食べ終わってそうしてなのでした。
スナックコーナーを後にします、その次に向かったのは。
観覧車でした、そこに向かう時にです。
先生の右肩にとまっているポリネシアが右手を見てです、先生に囁きました。
「またいたわ」
「あの人達が」
「ええ、あそこ見て」
先生にその右手を見る様に言いました、そして。
先生も応えて見るとです、そこにでした。
あのガラの悪い人達がいました、ベンチに座ってそれで行儀の悪い仕草で煙草を吸ったり缶ジュースを飲んだりしています、その人達を見てです。
先生はです、こう言いました。
「やっぱりね」
「あの人達はね」
「いい人達じゃないね」
「悪い人達ね」
「所謂愚連隊というか」
「チンピラ?」
「そんなところだね」
先生は困ったお顔でポリネシアに答えます。
「そうした風にしか見えないよ」
「そうよね」
「あの子達にはまだ気付いていないみたいだけれど」
「若し気付いて悪いことをしようと思ったら」
「その時は止めよう」
絶対にというのです。
「そうしよう」
「うん、それじゃあね」
「あの人達も見ていよう」
先生はこの時もこう言うのでした。
「あの子達の為にもね」
「そうね」
「あとお静さんだけれど」
今度は足元からガブガブが言って来ました。
「今はもう、なのかな」
「うん、お姿を消してね」
スナックコーナーでお腹を満足させたうえで、です。
「それでね」
「お二人の傍にいてなのね」
「囁いているよ」
これまで通りというのです。
「そうしてるよ」
「そうなんだね」
「そう、だからね」
「心配しないで」
「お静さんのことはね」
この人の場合はというのです。
「そうしていけばいいから」
「それじゃあ」
「さて、あの子達は今度は観覧車に行くけれど?」
「乗る?」
チーチーが先生に尋ねました。
「観覧車に」
「ううん、乗ると何かタイミングが崩れるから」
それで、とです。先生はチーチーのその問いに答えました。
「あまりね」
「よくないから」
「今回も待とう」
そうしようというのです。
「ジェットコースターの時みたいにね」
「うん、それじゃあね」
「今はね」
「待ってね」
「そしてだね」
「お二人を見守る」
「そうするんだね」
「そうしよう、それに」
ここで、なのでした。先生は。
周りを見回しました、それでこう言うのでした。
「あの人達はいないね」
「うん、そうだね」
「あのガラの悪い人達はね」
「とりあえずはね」
「見当たらないね」
「幸い」
「それならいいよ」
このことだけで、というのです。
「それならね」
「うん、このままだね」
「僕達はだね」
「お二人を待って」
「そのうえで」
「ここにいよう」
この場所にというのです。
「そうしよう」
「さて、じゃあ」
「また何処かに隠れて」
「ゆっくりしようね」
皆でこうお話してでした、この時も見守るのでした。そしてお二人が観覧車から降りてそれからなのでした。
先生達は皆と一緒にお二人の後をついていきました、お二人が次に向かった場所はメリーゴーランドでしたが。
老馬がくすりと笑ってです、先生に言いました。
「ここもだよね」
「うん、君がいるからね」
それで、と答える先生でした。見れば先生も少し苦笑いです。
「だからね」
「それでだよね」
「うん、だからね」
それで、というのです。
「ここはね」
「今回もだね」
「乗らないでいよう」
こう言う先生でした。
「僕達はね」
「何かね」
「テーマパークに来たけれど」
「先生自体はあまり楽しんでない?」
「乗ったり入ったりして」
「そうしては」
皆はここでこんなことを言いました。
「テーマパークの中にいても」
「遊んではいないわね」
「ミラーハウスには入ったけれど」
「それでも」
「まあ見守る役目だから」
だからだとです、先生は皆に答えました。
「だからそれはね」
「仕方ない?」
「そうなのかな」
「うん、まあ元々こうしたことを積極的に楽しむ方かというと」
先生の性格からしますと。
「僕はそうじゃないしね」
「うん、一人でこうした場所行くってあまりないしね」
「そうした人もいると思うけれど」
「先生は確かにね」
「そうした人じゃないね」
「こうした遊びはあまりしないね」
本を読んだりすることはしてもです。
「子供の頃から」
「先生がお外に出る時ってフィールドワークとかね」
「そうした時ばかりだしね」
「学問の時、何かを頼まれた時はお外に出るけれど」
「今だってそうだし」
「けれどね」
普段は、なのです。
「お外に出ないからね」
「本を読んだり研究したりして」
「だからね」
「テーマパークに来たけれど」
「それでもね」
「あまり積極的にはだね」
「遊ばないのね」
皆もこう言うのでした。
「先生らしいっていえばらしいけれど」
「こうした遊びはしないんだ」
「昔からレジャーとかは」
「あまりなんだ」
「うん、研究の為にやってみることはするけれど」
それでもだというのです。
「確かにあまりしないね」
「そうだよね」
「遊ぶことはしても」
「こうした場所では遊ばないし」
「スポーツはもっとね」
先生にとって特に縁のないものです、先生がするスポーツは散歩か老馬に乗るか本当にそれ位しかありません。
「しないね」
「ましてや女の子と一緒にこうしたところに来るとか」
「本当に縁がないから」
「何ていうかね」
「先生とテーマパーク」
「ちょっと以上にね」
「縁がなくて」
本当に先生にとって縁のないものです、昔サーカスを立ち上げてそれで色々したことがありますがご自身で遊ぶことはしていません。
「それでなんだ」
「今もこうして」
「遊ぶことはなんだ」
「しなくてもいいのね」
「雰囲気は楽しんでるよ」
テーマパークの中のそれ自体はというのです。
「それで満足しているよ」
「それならそれでいい?」
「雰囲気を楽しんでるのなら」
「遊ばなくても」
「それでも」
「うん、さてあの子達はね」
ここでなのでした、先生はです。
お二人が観覧車に乗ってそうしてお空高くまで上っていくのを見ながらです。穏やかな笑顔出こんなことを言いました。
「ああした場所に二人きりだと」
「うん、ムードもあるし」
「さらにい感じになれそうね」
「それにね」
「お静さんもいるから」
「ここはお静さんの腕の見せどころかな」
先生は皆に応えてこうも言いました。
「囁いてね」
「もっとムードをよくして」
「それでよね」
「告白までつなげる」
「まさにそうした場所だね」
「そうだね。ここはお静さんにとってはチャンスだよ」
「その通りよ」
ここで、なのでした。そのお静さんがです。猫の姿で先生達のところにどろんと出て来て言ってきました。
「ここぞとばかりにお二人の距離を近付けようとね」
「囁いてだね」
「誘導してるわよ」
本当にそうしているというのです。
「まさにここがチャンスよ」
「そうなんだね」
「あとお化け屋敷にも行くし他にもね」
「二人きにりなれる場所にだね」
「リードしていくわ、何しろここはね」
このテーマパークはというのです。
「私の昔からの遊び場の一つだから」
「あっ、そうなんだ」
「そうなの、時々来て遊んでるの」
「人間になって?」
「ええ、猫の姿でうろうろすることもあるわ」
そうして雰囲気を楽しむこともあるというのです。
「だからね」
「ここのことはよく知ってるんだね」
「ガイド本書ける位よ」
お静さんは笑ってこうも言いました。
「そこまで知ってるわ」
「じゃああの子達も」
「お嬢様も彼もたどたどしくてぎこちなくて」
お静さんはこのことは残念でした、ですが。
それでもです、こうも言ったのでした。
「けれど純情なのがまたいいのよ。その純情さをね」
「上手くリードして」
「そう、それでね」
「やっていってるんだね」
「この観覧車は確かにチャンスよ」
「あの子達の距離を縮める」
「そう、最高の場面の一つよ」
まさにというのです、お静さんのお言葉にも力が入っています。
「だからどんどん囁いてるわ」
「じゃあここから」
「あと間にも色々入れてね」
「お化け屋敷にも行くんだね」
「そうしてね」
まさにというのです。
「雰囲気を最高までよくして」
「告白だね」
「後はね」
「後は?」
「お嬢様からいけそうね」
お静さんの目がきらりと光りました、後ろ足で立ったうえで前足を人間みたいに組みながらそのうえでの言葉です。
「告白ね」
「女の子の方からね」
「うん、いけそうよ」
こう先生に言うのでした。
「このままね」
「じゃあ頑張ってね」
「ええ、今から観覧車に戻るから」
お二人がいるその中にというのです。
「またね」
「うん、じゃあね」
先生が微笑んでお静さんに言うとです、お静さんはどろんと消えてその観覧車の中に戻りました。そしてなのでした。
観覧車は回っていきます、先生はその観覧車を見上げつつそしてでした。
周りも見回ってです、皆に言うのでした。
「うん、今もね」
「そうだね、ガラの悪い人達もね」
「いないし」
「トラブルの種もなさそうだし」
「いいね」
「そうだね、じゃあ」
「とりあえずは安心してね」
それでいいと言うのでした、動物達も。
そうしたことをお話してでした、皆は周りへの警戒も怠らないのでした。
とりあえず観覧車の時も大丈夫でした、そして。
その後も色々回ってです、それから。
お化け屋敷にも行きました、そのお化け屋敷は病院を模したものです。先生はそのお化け屋敷の入口にいるお二人を離れた場所から見ながら皆に尋ねました。
「僕達も入る?」
「ううん、どうかな」
「それはね」
「あまりね」
「僕達はね」
「入りたくない?」
「ちょっとね」
皆はあまり乗り気でない感じです。
「別にいいんじゃない?」
「凄く怖い雰囲気するし」
「中から悲鳴がかなりするよ」
皆の耳は人間のものよりずっといいので聞こえるのです。
「だからね」
「あまりにも怖そうだから」
「入らない方がいいかも」
「私達は」
「ううん、けれどね」
けれどなのでした、ここで。
先生は皆にです、こう言いました。
「お化け屋敷といえば妖怪が出て来る場所だね」
「ええ、それはね」
「日本でもそうよね」
「ここはね」
「そうした場所ね」
「もう妖怪はね」
それこそ、というのです。
「そうした分野に入る人とは。僕達は何度も会ってきてるね」
「まあそれはね」
「お静さんもそうだし」
「狐さんや狸さんもね」
「何度も会って来たし」
「お付き合いもしてるし」
「そう言われるとね」
それこそ、というのです。
「お化け屋敷にいるのは本物じゃないから」
「本物の妖怪さん達とも会ってきてるし」
「だったらね」
「それこそね」
「あまりね」
「意識することはない?」
「怖いって思うことも」
皆もこう考えました、そして。
ここでなのでした、あらためて言うのでした。
「特にね」
「あまり意識することはない?」
「怖いとかは」
「本物も怖くないし」
「別にね」
「こうした場所でも」
「別に」
先生のお話を聞いて考えを変えてでした、そのうえで。
皆で、でした。先生にこう答えました。
「じゃあね」
「僕達も入る?」
「それでね」
「お化け屋敷の中のあの人とね」
「一緒の場所に入って」
「そうして見守ろうか」
「そうすべきかしらね」
「そうした方がいいとも思うしね」
先生はまた皆に微笑んで言いました。
「じゃあね」
「うん、今から」
「お化け屋敷の中に入ろう」
これが皆の先生への返事でした、そうして。
皆でなのでした、そのお化け屋敷の中に入りました。お化け屋敷の中も病院でした。その中から次から次にです。
ゾンビみたいな患者さんや看護師さん、お医者さん達が出て来てでした、先生達に向かって来ます。中はとても暗くて深夜の病院そのままで。
悲鳴や何かを砕く様な音が始終聞こえてきます、ですが。
皆はその中にいてです、普通に言うのでした。
「まあこれ位だとね」
「普通?」
「普通に怖いけれど」
「私達にとってはね」
「驚く位じゃない」
「そうかな」
「そうだね、僕もね」
先生もお化け屋敷の中を進みながら言うのでした。
「まだこれ位だとね」
「驚かないよね」
「普通だね」
「まだね」
「平気だよね」
「イギリスは本物が出るところがね」
それこそなのです、イギリスは。
「あるからね」
「そうそう、ホテルなり何なりね」
「古城とかね」
「イギリスはそうした話が多いから」
「日本もそうみたいだけれど」
「イギリスはね」
「多分世界一そうした場所が多いから」
皆つい最近までイギリスにいたから知っています、イギリスは幽霊のお話が物凄く多い国なのです。それでなのです。
皆もです、この病院を模したスリル満点のお化け屋敷の中にいて言うのです。
「これ位だとね」
「別にね」
「悲鳴をあげるまではね」
「ないね」
「そこまでは」
「本物の幽霊はもっと凄いね」
先生も幽霊に出会ったことがあるみたいです、それで自分の目の前であえて怖い仕草をしているお化け屋敷の患者さんを見つつ言います。
「ロンドン塔でも出て来て」
「そうそう、あそこね」
「あそこの幽霊は色々な人がいてね」
「どんどん脅かしてくるから」
「あの迫力と比べたら」
「ここはね」
「まだ穏やかかな」
皆もリラックスして楽しんでいる感じです、ロンドン塔のことを思い出しながら。
「これ位だとね」
「イギリスだと逃げたくなる場所あるからね」
「あまりにも怖くて」
「それと比べたらね」
「まだまし?」
「ここも」
「いや、これは日本の怖さなのかな」
ここでこうも言った先生でした。
「若しかして」
「日本の?」
「日本の怖さなんだ」
「これがなんだ」
「そうなんだ」
「そうかもね。実は最近日本の怪奇小説も読んだけれど」
誰の作品かといいますと。
「夢野久作という人のね」
「その人の作品読んでもなんだ」
「怖くなかったんだ」
「漫画もね。何かイギリスの怖さと違うね」
「だからここもなんだ」
「このお化け屋敷もなんだ」
「そうかもね。怖いことは怖いけれど」
それでもというのです。
「もう逃げ出す位まではね」
「僕達にとってはなんだ」
「そこまではいかないんだ」
「他のお客さん達みたいには」
「なっていないんだね」
「そうかもね」
先生は考えるお顔になっています、そのお顔で皆と一緒に歩いてお化け屋敷の中を進んでいます、左右のお部屋を見ると血塗れの遺体の模型や不気味な手術の場面があります。
「ここもね」
「日本人が怖いと思う場所で」
「僕達はなんだ」
「また怖いと思うポイントが違っていて」
「それで怖いと思わない」
「そうなんだ」
「うん、あと最後はね」
先生は穏やかな顔でまた言いました。
「ホラー映画とかだと」
「そうそう、あと一歩でね」
「あと一歩でってところで死ぬんだよね」
「それがイギリス映画だよね」
「まずハッピーエンドはないね」
「終わったと思って終わってないとか」
「そういうのばかりだね」
それがイギリスのホラー映画だというのです。
「日本は何か視て?」
「視て怖い?」
「じわじわと来る感じで」
「徐々に迫ってきて」
「ちらちらと姿を出したり」
「そうしたことが多いかな」
「日本のホラーは」
皆も日本にいる間に観たそうした映画を思い出します。
「それがね」
「私達から見れば」
「怖くない?」
「日本の人達が驚く位は」
「そこまでは」
「どうにも」
「その国によって文化が違って」
先生は学者としての考えをここで発揮しました。
「怖いと思うポイントもね」
「国によって違う」
「そういうことなのかな」
「それじゃあここも」
「やっぱり」
「うん、僕達にとってはね」
イギリスで生まれて長い間その国にいた先生達にとってはです。
「極端に怖いかというと」
「そうでもない」
「特に、なのね」
「そういうものなんだ」
「僕達にとっては」
「そうみたいだね、けれどそのお陰で」
怖くてそこに神経が集中しないからというのです。
「あの子達のことはね」
「うん、何処にいるかね」
「どうしてるかわかりやすいね」
動物の皆はここで耳を澄ませました、そうしてお二人の声を確かめてです。先生に対してこう言ったのでした。
「男の子は我慢してるけれど」
「それでもね」
「女の子は凄いわ」
「物凄く怖がってて」
「もう泣きそう」
「男の子にしがみついていて」
「悲鳴ばかりあげてるわよ」
そうした状況だというのです。
「それで男の子がね」
「何とか守ってるよ」
「怖い気持ちを必死に我慢して」
「そうしてね」
「騎士だね」
その状況を聞いてです、先生は言いました。
「彼は騎士になっているんだね」
「そうみたいだよ」
「自分も怖いっていうのに」
「それでもね」
「必死に女の子を守って」
「それでね」
「守ってるよ」
動物の皆は声と音からその状況を認識しています、ジップはお鼻をくんくんとさせてそこからも言うのでした。
「うん、女の子は怖がってて男の子は我慢している」
「そうした匂いだね」
「身体から出ているよ」
犬だからこそわかることです、犬のお鼻はそこまで凄いのです。
「それで前に進んでいるよ」
「僕達の前で」
「うん、ただね」
「ただ?」
「二人共足は遅いよ」
そうだというのです。
「何かあまり進んでいないよ」
「怖くてだね」
「特に女の子の足が遅くて」
その状況もです、ジップは先生にお話しました。
「前に進んでいないよ」
「ううん、それじゃあね」
「僕達は普通に歩いているからね」
チーチーは自分達の歩く速さについてお話しました。
「だからだね」
「ここはね」
「歩く距離を遅くするんだね」
「そうしよう」
これが先生のこの場での考えでした。
「ゆっくりとね」
「うん、じゃあね」
「あえてね」
「ここはゆっくりと進んで」
「そうしてね」
「二人を追い抜かさない様にして」
「そうしていこう」
こうお話するのでした、そして。
そのうえでなのでした、先生達はです。
わざと歩く速さをゆっくりとさせました、そうしてお二人を追い抜かさない様にしました。そしてなのでした。
お化け屋敷の中はゆっくりと進んで、です。それから。
二人の後でなのでした、先生達は出ました。
それから周りを見回すとです、ここで。
あのガラの悪い人達を見ました、その人達を見てです。
ポリネシアがです、先生にそっと囁きました。
「気をつけましょうね」
「うん、あの子達に近付かない様に」
「そうしましょう」
「若し近付いたら」
その時はともです、先生は言いました。
「避ける様にね」
「私達でするのね」
「うん、そうしよう」
こうお話してでした、皆で。
お二人を見守りガラの悪い人達を警戒するのでした。そうしてでした。
それからも色々回ってです、三時になりますと。老馬が先生に言いました。
「先生、三時になったよ」
「あっ、そうなんだ」
「うん、三時になったからね」
それならというのです。
「お茶にしよう」
「そうだね、三時になったし」
「ここで飲む?」
「そうだね、あそこがいいね」
先生がこう言って目をやったのはベンチでした、今は誰も座っていません。
そこに座ってなのでした、そのうえで。
皆でティータイムを楽しむのでした、ですがその間も先生達はお二人を見ていました。見ればお二人もです。
三時になったせいか午前とは別のスナックコーナーに行ってなのでした、そこで軽いものを食べていました。
先生達はそのスナックコーナーのすぐ傍のベンチにいてそこから見守っているのです。そのうえでなのでした。
先生はです、こうも言いました。
「お茶は楽しむけれど」
「それでもだね」
「ここはね」
「少し急いでね」
「飲んで食べないと」
「うん、そうしないとね」
それこそというのです。
「見失うから」
「まあここにいる限りはわかるよ」
ジップがここでもお鼻をくんくんとさせました。
「僕の鼻が教えてくれるよ」
「勿論僕達もね」
「わかるからね」
「目や耳があるから」
「あの娘達がテーマパークにいるとね」
「よくわかるよ」
「そう、頼りにしてるからね」
ここでお静さんも出て来ました、猫の姿で。
「先生達がいてくれるから」
「安心しているんだ」
「ええ、それとだけれど」
お静さんはこうも言いました。
「お二人かなりいい雰囲気だから」
「告白出来るんだね」
「ええ、夕方になったらね」
その時にというのです。
「ここぞっていう場面でね」
「言えるのね」
「ええ、安心してね」
こう笑顔で言うのでした。
「本当にいよいよだから」
「何かあの子達自体は」
「スムーズにいっているわ」
「それは何よりだね」
「だから。あと一押しだから」
「僕達は周りを警戒しているからね」
先生も笑顔で言いました。
「ガラの悪い人達もいるけれど」
「ああ、何かいるわね」
お静さんも気付いているといったお顔です。
「その人達がお二人のところに来たら」
「まずいね」
「かなりね」
「だからね」
それで、とです。また言う先生でした。
「その人達のことは任せてね」
「お願いするわ、本当にいい状況だから」
「それじゃあね」
こうしたことをお話してでした、先生達はお静さんともお話しました、それから。
ティータイムも終えてそのうえで最後の大詰めに向かうのでした。
今の所は順調にデートをしているみたいだな。
美姫 「特に問題もないし、先生たちも後を付けるだけで良いしね」
まあ、ちらほらとあまり良くない人の姿を見かけるぐらいだな。
美姫 「このまま無事に告白までいけると良いわね」
さて、どうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。