『ドリトル先生と二本尻尾の猫』




                 第六幕  幼馴染みの子

 先生はお静さんとお話してからです、その次の日にです。
 動物の皆にです、大学でのお仕事が終わってから言いました。
「じゃあこれからね」
「うん、今度はね」
「お嬢さんを好きな人のところにだね」
「行ってそうして」
「どんな人か見るんだね」
「そう、お互いを知ってね」
 そうしてこそというのです。
「何かが出来るからね」
「娘さんだけじゃ不十分」
「相手の人も知ってから」
「そしてどうすべきか考えて」
「そしてだね」
 そうしてなのでした。
「具体的にどうするか考える」
「そういうことだね」
「知ってそして」
「そのうえで動くんだね」
「うん、まずは知らないと」
 慎重な先生らしいお返事でした。
「何も出来ないからね」
「そういうことだから」
「今日はその幼馴染みの人のところまで行こう」
「そうしてね」
「よく見ようね、その人を」
「具体的にどんな人かね」
 皆も応えてでした、そのうえで。
 先生と皆は大学の研究室を後にしてその人のところに向かいます、そこは皆が住んでいる八条町の中にありました。
 八条町を進む中で、です。ジップが先生に言いました。
「これから行く場所は」
「そう、普通のね」
「住宅街だよね」
「その子の住所はお静さんに教えてもらったね」
 昨日そうしてもらったのです、阪神タイガースのお話の後で。
「そこに今から行って」
「その人を見るんだね」
「うん、まずはお家に行って」
「それからもなんだ」
「そう、まだ行くよ」
 その人のお家からさらにというのです。
「お家の後はね」
「何処に行くのかな」
 チーチーも先生に尋ねます。
「その後は」
「うん、学校だよ」
「その彼が通っている学校だね」
「そうだよ、そこに行くよ」
「あの二人は八条学園の子じゃないんだね」
 ガブガブはこのことを言いました。
「先生が通っているあの学校じゃ」
「うん、また違う学校だよ」
「この町の学校かな」
「いや、隣町だよ」
 そこの学校だというのです。
「二人共そこに通ってるんだ」
「そうなんだ」
「そこは公立でね」
 八条学園は私立です、八条グループが経営している学園なので当然ながらこの扱いとなるのです。
「二人共そこの学生さんなんだ」
「ふうん、それでその高校にもなんだ」
「行くよ」
 彼のそのお家に行った後にというのです。
「そうするよ」
「そこで彼を見るんだね」
「うん、どんな子かね」
「悪い子じゃないといいね」
 また言うチーチーでした。
「そうした子だったらね」
「あの娘が困るからね」
「そうだよね、恋愛ってね」
「一緒になって終わりじゃないよ」
「そこからもだよね」
「そう、僕にはそうした経験はないけれど」
 女性に縁がないというか奥手な先生です、それでご存知の筈もありません。
「世間だとね」
「交際してからが問題だっていうんだね」
「よく見聞きしているから」 
 そうした事態になってしまうことをです。
「だからね」
「それでなんだね」
「うん、お互いにいい人じゃないと」
「お互いが不幸になるから」
「ちゃんと確かめないとね」
 その上で橋渡し役をするというのです。
 そうしたお話をしながら彼のお家に向かうとです、住宅地の中に。
 洋風の少し洒落た感じのお家がありました、白い壁に黒い屋根です。そのお家の前に来て、なのでした。
 すぐにです、ポリネシアが先生に言いました。
「じゃあ今からね」
「僕達が見て来るね」
 トートーも言ってでした、そして。
 ホワイティもです、先生に言いました。
「僕は今回はね」
「お家の中にだね」
「うん、入り込んでね」
 鼠のその小さい身体を利用してです。
「お家の中を見て来るよ」
「それでどんな家庭環境かを」
「見て来るよ」
 実際にお家の中に入ってというのです。
「こうしたことはあまりよくないかも知れないけれど」
「プライバシーの侵害になるからね」
「うん、だから最低限のことしか見ないよ」
 ホワイティもそのことはわかっています。
「そうするから」
「わかったよ、それじゃあね」
「うん、言って来るよ」
 こうしてホワイティも動くのでした、それに。
 ポリネシアとトートーだけでなくです、チープサイドの家族も先生に言うのでした。
「じゃあ僕達も」
「行って来るわね」
「窓のところからね」
「お家を見て」
「お庭もそうしてね」
「彼のことを調べるよ」
「そうして来るね」
 こう家族皆で先生に言うのでした、そしてです。
 ポリネシア達と一緒に飛んで窓のところからお家を見ます、そしてホワイティはお家の中に潜入してでした。
 彼等もお家を見ます、そしてジップとガブガブはです。
 そのお鼻をくんくんとさせます、そうしてです。
 匂いからお家を調べてです、先生に言いました。
「匂いからはね」
「別に何も感じないよ」
「悪いものはね」
「何もないみたいだよ」
「麻薬とかそういうものはだね」
 先生はこれを気にしたのです。
「最近日本でも結構広まってるみたいだけれどね」
「物騒だね、麻薬なんて」
「あんなもの楽しむなんて」
 ジップとガブガブは先生のお言葉にこう返しました。
「ちょっとね」
「ああしたものを楽しむなんてね」
「何が楽しいのか」
「死ぬよ、あんなもの身体に使ったら」
 それこそというのです。
「危ないなんてものじゃないのに」
「どうして使うのか」
「それがわからないよ」
「全くだよ」
「僕も同感だよ、麻薬はやったらいけないよ」
 先生は悲しそうなお顔で述べました。
「ああしたものはね」
「そうだね、そうしたものの匂いはしないから」
「清潔な感じの匂いがするよ」
「かといってもそれ程徹底的にしてなくて」
「普通に清潔だよ」
 神経質な感じはないというのです。
「特にね」
「だから安心してね」
「匂いは悪くないよ」
「おかしいものはないから」
「そうなんだね」
「まあとにかくよ」
 ダブダブが言うことはといいますと。彼女とオシツオサレツは先生の傍に控えていて老馬が先生を乗せてです。チーチーはさっとお庭に潜入してそこを調べています。
「今のところはね」
「おかしなことはね」
「ないみたいね」
「そうみたいだね、そのお家を見るとね」
「お部屋もね」
「その人がかなりわかるんだよ」
 全てではないにしろです。
「まあ僕は違うけれど」
「先生はまた日常生活が駄目過ぎるわ」
 ダブダブの今の言葉はかなり厳しいものでした。
「全く、世事に疎過ぎて」
「うっ、ここでそう言うんだ」
「言うわよ、もっとしっかりしないと」
 お母さん、いえサラの様に言うのでした。
「駄目よ」
「もっとだね」
「そう、まあ今はいいから」
 ここで結局こう言うダブダブでした、先生のことを思っていて厳しいことを言うこともありますが情は深いのです。
「とりあえずはね」
「彼のことをだね」
「このままお家を調べて」
「そうしてだね」
「ええ、次はよね」
「学校だよ」
 そこに行こうとです、またお話するのでした。
「その流れでいくからね」
「わかったわ、そういうことね」
 ダブダブは先生のお言葉に頷いてでした、そのうえで今は先生のお傍に控えています。そして暫くしてです。
 鳥達とチーチーが戻って来てです、ホワイティもそうしてきて。
 そのうえで、です。こう先生に言うのでした。
「奇麗よ」
「彼の場所っぽいお部屋もね」
「程よく清潔で」
「しかも趣味もよくて」
「おかしなものもなくて」
「いいお家だったわよ」
「そうなんだね」
 先生も皆のお話を聞いて頷きます。
「彼のお部屋も」
「うん、悪いものはなかったし」
「結構整ってたよ」
「随分真面目に勉強してるみたいだし」
「いい感じだったよ」
「勉強ね」
 ここでそのことに思う先生でした。
「学業はいいのかな」
「どうなのかな、そこは」
「そこはちょっとこれからだね」
「調べてからよね」
「そのことも」
「そうだね、まあとりあえずはね」
 先生はお家のことが終わったのでこう言うのでした。
「今度はね」
「学校だね」
「学校に行ってね」
「そこを見てもだね」
「彼を調べる」
「そうするんだね」
「うん、そうしよう」
 こう言うのでした、しかしここで。
 オシツオサレツがです、先生に二つのお口で言いました。
「ちょっといいかな」
「一つ気になったことがあるけれど」
「何かな」
「うん、彼のお顔ね」
「先生知ってるの?」
「あっ、言われてみれば」
 先生もオシツオサレツに言われてはっとなりました。
「そのことはね」
「そうだよね、知らないよね」
「僕達もだしね」
「その子のお顔は知らないよ」
「外見のことはね」
「あの娘の外見は見たけれど」
「彼のことはね」
 そちらはなのでした。
「知らないからね」
「学校に行ってもだよ」
「ちょっと仕方ないんじゃないかな」
「今はね」
 オシツオサレツがこう言ったところで、でした。その先生のところにです。
 お静さんが猫の姿で出て来てです、こう言いました。猫又とはいっても後ろ足で立っていて人間の姿の時と同じく服を着ています。
「あら、予想通りね」
「あっ、若しかして」
「ええ、気配を感じたから。ここに」
 まずはこのことからだったというのです。
「それで相手の人のことを調べてるって思ったけれど」
「その通りだけれど」
「それでもよね」
「うん、彼のことをね」
 それは、だったのです。
「外見のことも知らなかったから」
「そうよね、私も言い忘れていたわ」
「どんな子なのかな」
「はい、これ」
 お静さんは猫の姿のまま懐からあるものを出してきました、それは。
 写真でした、クラスの集合写真の様であの娘も写っています、そして。
 最後列の右から二番目の眼鏡をかけて髪を短くしている背の高い子を指差してです、先生に対して言いました。
「この子がよ」
「その彼だね」
「そう、このお家にいるね」
「その想われ人だね」
「この写真あげるから」
 お静さんは先生にこうも言いました。
「じっくり見てね」
「わかったよ、それじゃあね」
「実際にその目で見てね」
 お静さんは猫のお顔でにこりと笑って言うのでした。
「それで確かめてね」
「そうしてくるね」
「じゃあね、私はお店に戻るから」
「今回また急に出て来たね」
 老馬がお静さんに言います。
「瞬間移動とか出来るの?」
「いえ、猫の道を使って来たのよ。お店からね」
「猫の道って屋根とか壁の上とか」
「そう、そうした場所を通ってね」
「そこは猫ならではだね」
 先生も感心して頷いています。
「僕にはとても無理だよ」
「ちょっと。先生はね」
 お静さんは先生のスタイルを見てくすりと笑って返しました。
「無理よね」
「うん、運動神経悪いからね」
「それに身体も大きいしね」
 先生の大柄さも指摘するのでした。
「だからね」
「君達みたいには動けないね」
「ええ、それに先生はね」
「まだあるのかな」
「忍者でもないし」
 このこともです、お静さんはお話するのでした。
「そこはね」
「忍者はね」
「実はまだ日本にいるのよ」
「八条学園に忍術研究会があったね」
 そういえばとです、先生も思い出しました。
「中等部や高等部に」
「忍者ってあれだよね」
 チーチーは忍者と聞いてです、こんなことを言いました。
「神出鬼没でまさに超人みたいに強くて」
「あっ、それは違うよ」
 先生はチーチーにすぐにこう返しました。
「別に忍者は神出鬼没でも強くもないよ」
「あれっ、そうなの?」
「それは日本の忍者のアニメや漫画のことであってね」
「実際は違うんだ」
「うん、術にしてもね」
 こちらもだというのです。
「水蜘蛛の術とかムササビの術はないんだよ」
「道具もあるのに?」
 チーチーは水蜘蛛の術のあの足に履くものやムササビの術で手足に付ける大きな布のことを先生に尋ねました。
「実際はないんだ」
「うん、あの水蜘蛛は浮かばないよ」
「そうなんだ」
「しかもムササビだってね」
 あの布もというのです。
「空気圧が凄くて」
「かえってなんだ」
「そう、パラシュートみたいにはね」
「いかないんだね」
「そうなんだよ」
「そうなんだ」
「あれはあくまで架空だよ」
 そうしたものだというのです。
「忍者は水の上を歩いたり空を飛んだりはね」
「しなかったんだね」
「というか出来なかったね」
「それじゃあ泳いでいたのかな」
「そうだよ、お水の中を行く時はね」
「隠れたりすることも」
「隠れることは得意だったけれど」
 それでもというのです。
「木の葉隠れとかはね」
「しなかったんだね」
「うん、山の木の葉の中に身を潜めたりはしていたけれど」
「お水の中に隠れたりとか」
「水遁の術とかは実際にしていたけれど」
 それでもだというのです。
「そんなに派手じゃないし手裏剣にしても」
 忍者といえばまさにこれという武器もです。
「言うならばナイフみたいなもので」
「強くなかったんだ」
「そうだよ、意外と重かったしね」
「蝦蟇に変身したりとかも」
「それは妖術だから」
 忍術ではなく、というのです。
「忍者は隠れて逃げ去る、戦う存在じゃなかったんだよ」
「じゃあスパイだったんだね」
「ジェームス=ボンドというよりは実際のね」
 あの人の様な超人的な存在でもなかったというのです。
「アシェンデンかな」
「地味だったんだ」
「そうだったんだよ」
「ううん、何かイメージが違うな」
「まあ。忍者は確かにロマンがあるね」
 先生もこのことは認めます、忍者にあるものについては。
「あの姿といい武器といい」
「闇に生きるとか」
「そうだね、けれど実際は戦士じゃなくてね」
「スパイなんだね」
「そのことは覚えておいてくれるかな」
「うん、わかったよ」
「そう、忍者もね」
 その忍者の話にです、お静さんも入って来ました。
「私達みたいに動けるけれど」
「それでもなんだね」
「先生は無理ね」
 屋根や壁の上を走ることはです。
「絶対にね」
「走ることさえ苦手だよ」
 先生はお静さんに笑って返しました。
「それでどうしてね」
「私達みたいに動けるか」
「それは無理だよ」
 こう言うのでした。
「とてもね」
「そうよね、やっぱり」
「うん、それでだけれど」
「それで?」
「これから彼の学校に行くから」
「学校の場所は知ってるわよね」
「うん、地図があるよ」
 先生はその地図を出してお静さんに応えました。
「ここにね」
「じゃあお任せするわね」
 お静さんは先生だけでなく動物の皆も見て言いました。
「あの子のことも」
「うん、じゃあね」
「任せてね」
 動物の皆も笑顔で応えます。
「先生方向音痴だけれどね」
「僕達がいるからね」
「大丈夫だよ」
「そこまで行くことが出来るよ」
 こうお話するのでした、そして。
 お静さんは先生にです、あらためて言いました。
「じゃあ私はね」
「今はだね」
「ええ、お店に戻らせてもらうわ」
 こう先生に言うのでした。
「それでお店の番するから」
「それじゃあね」
「いや、私これでもお店の看板猫なのよ」
「人気があるんだね」
「お客さんからね。ただね」
 ここで、です。こんなことも言うお静さんでした。
「悪ガキは嫌いよ」
「ああ、子供は猫にちょっかいかけるからね」
「そう、昔からそうした悪ガキがいるけれど」
「それでもだね」
「そんな悪ガキはちょっと力を使ってね」
 そうしてというのです。
「懲らしめてるのよ」
「やり過ぎていないよね」
「ちょっとこかしたり犬や猫のうんこをお饅頭と言って食べさせてやるだけよ」
 そうしたことをしているだけだけだというのです。
「それ位よ」
「いや、うんこはね」
「駄目かしら」
「やり過ぎだよ」
「相当な悪ガキにしかしてないわよ」
「相当な?」
「そう、とんでもない悪戯をするね」
 そうしたことをする様なというのです。
「悪ガキにしかしてないわよ」
「そうなんだ」
「世の中悪い奴がいるから」
 それで、とも言うのでした。
「そんな奴にはそこまでしないとね」
「あえてそうしているんだね」
「そうよ、猫を虐待する奴は許さないから」
 猫としての言葉でした。
「そうしたこともするのよ」
「そうそう、いるんだよね」
 ここでジップも言うのでした。
「動物をいじめる奴」
「そうでしょ、たまにいるでしょ」
「それがね」
 どうしてもというのです。
「嫌なことにね」
「その連中がね」
 どうしてもというのです。
「私は許せないのよ」
「そうした奴に対しては」
「もっと徹底的にやるから」
「世の中先生みたいな人だけじゃないんだよね」
 ホワイティも溜息と一緒に言うのでした。
「変な人もいるから」
「そうそう」
 ジップはホワイティのその言葉にうんうんと頷いて返します。
「だからね」
「そうした変な人はね」
「何とかしないとね」
「ああした人は病気なんだよ」
 トートーはこう言いました。
「動物、同じ人間に対してもね」
「いじめをする人は」
「そうした人はだよね」
「心の病気なんだよ」
 トートーはそうした人達をこう言い切りました。
「だから怖いんだよ、余計に」
「病気は身体だけのことじゃない」
「心にもあるんだね」
「それでおかしなことをする」
「そういうことなんだね」
「そうなんだよね」
 先生も難しそうでしかも残念そうに言うのでした。
「心が病気の人はどうしてもいるんだよ」
「心の病気が進むとあれよ」
 ポリネシアが言うことはといいますと。
「もう怪物になるから」
「そう、人間や動物はどうしてそうなるのか」
 先生もポリネシアに応えて言うのでした。
「それは心からなんだ」
「心がどうかよね」
「そうだよ、心が人間、動物ならね」
「私達みたいになるのね」
「けれど心の病が進んで」
 そうしてとです、先生は眉を曇らせて皆にお話しました。
「それが酷くなると」
「怪物になるんだね」
「人を化物と言う人が実は心がね」
「病気が酷くて」
「その人達の言う化物になっている」
「そうしたことはあるわね」
「そうだよ、世の中にはそうした人もいるよ」
 先生は心で皆を見ます、だからこその言葉です。
「僕も昔はそうだったかな」
「昔の先生が怪物!?まさか」
「そんな筈ないわよ」
「先生はいつも先生だったよ」
「僕達ずっと先生と一緒だからわかるよ」
「別にね」
「おかしな人じゃないから」
 むしろそうした人とは正反対だというのです。
「だからね」
「そんなことないから」
「別に気にしなくても」
「そうしたことは考えなくても」
 別にというのです。
「いいんじゃない?」
「そうそう、誰にだって公平で優しいし」
「どんな人でも動物でもね」
「お仕事や肌や目の色にこだわらないじゃない」
「哺乳類でも鳥類でも爬虫類でも両生類でもね」
「いや、昔の僕は王子を何処かで下に見ていたかも知れないね」
 あの王子をというのです。
「そんな気もするんだ」
「そうかしら」
「王子にもずっと公平じゃない」
「お友達としてお付き合いしていて」
「だから王子もよ」
 そのご本人もというのです。
「普通に接していてね」
「先生に親しくしてくれてるんじゃない」
「日本の学生さん達だって同じでしょ」
「他の国からの人達にしても」
「それだったらいいけれどね」
 先生が昔からそうした人ならというのです。
「僕にしても」
「まあ王子は何処かイギリス文化に憧れていたかな」
「そうそう、昔の王子はね」
「今は日本文化にかなり影響受けてて」
「茶道もはじめてるっていうし」
 動物達から見る王子は結構影響を受けやすい人なのです、それで今いる国の文化に親しむ傾向があるのです。
「先生はその王子にイギリスのことを懇切丁寧に教えてあげてたじゃない」
「それもお友達として」
「上から目線じゃなくてね」
「同じ目線だったじゃない」
「だといいけれどね」
 先生はそれならと返すのでした。
「そうした僕だったら」
「というかね、先生ってね」
「そうしたこと特に気にするよね」
「自分が差別をしていないか、いじめたりしていないか」
「そうしたことを」
「自分がされたら嫌だし」
 それにというのです。
「そうしたことをすることは神の教えにも反しているよ」
「人は神様の前に平等で」
「そして汝の隣人を愛せよだね」
「僕は皆にもだよ」 
 先生のお心は人間だけに留まらないのです。
「そう考えているよ」
「公平にだね」
「あらゆる動物にも」
「そしてだね」
「皆で仲良くだね」
「うん、そう考えてるから」
 それでというのです。
「そんなことはしないよ」
「差別とかいじめは」
「そうしたことはしない」
「そういうことだよね」
「先生のお考えは」
「だから気をつけているんだ」
 また言う先生でした。
「そうしたことをしない様にね」
「余計に気をつけているんだ」
「自分自身が嫌っていることを自分自身がしない様に」
「そういうことなんだね」
「自分で自分をなんだ」
「そうだよ、自分がしたくないことは意識してね」
 そうしてというのでした。
「気をつけているんだ」
「そこは先生のいいところね」
 お静さんも先生のお話を聞いてうんうんと頷きつつ述べました。
「そうしたことがわからない人も多いからね」
「そうみたいだね」
「自分がされて嫌なことは絶対に他の人にはしない」
「絶対にね」
「そうしないとね」
 それこそというのです。
「嫌な人になるから」
「自分から進んでそうなりたい人なら別だけれど」
「まあ普通はね」
「人は他の人に好かれたいものだから」
「その方がずっと気持ちがいいからね」
 人から好きになってもらえることは本当に幸せなことです、それは先生にしてもお静さんにしても他の皆にしても同じです。
「そういうことはしないことだよ」
「その通りよ、私も他の皆に好かれたいわ」
「お静さんもだね」
「そうよ、もっとも今はね」 
「お嬢さんの為にだね」
「進んで一肌も二肌も脱ぐわ」
 意気込みを見せてのお言葉でした。
「だって大好きなお嬢さんの為だから」
「好かれたいとかじゃないね」
「好きだからよ」
 同じ好きでもです、少し意味が違うのです。
「そうするのよ」
「そういうことだね」
「そうよ、それじゃあ」
 また言うお静さんでした、ここで言うこととは。
「学校までの道、気をつけてね」
「車とかにだね」
「日本の道は案外危ないから」
「うん、車の数が多いしね」
「いつも私言ってるの」
 八条町の猫達にというのです。
「くれぐれも車には気をつけろってね」
「絶対にだね」
「そう、車は天敵よ」
 猫にとって、です。
「轢かれたら大変だから」
「そうだよね、猫にとって車はね」
「犬にとっての車よりもね」
 それこそというのです。
「大変な相手よ」
「だからだね」
「いつも言ってるの、皆にね」
 車に気をつけろ、ということをというのです。
「車にはって」
「注意しろだね」
「そう、出来れば車道よりも」
「屋根の上や壁の上だね」
「烏もいるけれどね」
 こちらも猫の天敵なのです、猫も大変です。
「それでもよ」
「車よりはだね」
「まだ安全だから」
 それで、なのです。
「いつも言ってるの」
「車よりはましかな」
「私だと撃退出来るけれど」
 猫又であるお静さんならです、何しろ妖力まであるのです、それで何も出来ない筈がありません。例え天敵相手でも。
「他の子達はね」
「烏は空から来るからね」
「しかも案外大きいでしょ」
「あれでね」
「しかも爪と嘴がね」
 その二つがあるからこそなのです、烏は。
「怖いから」
「うん、人間もね」
 烏に襲われるとです。
「大変だからね」
「それでも車よりましだから」
「車道を歩くよりは」
「そう、屋根とか壁のね」
 そうした場所の上をというのです。
「そこにいろって言ってるのよ」
「そうなのね」
「そう、それでね」
「気をつけてるの」
 そして他の猫にも言っているのです。
「さもないと大変なことになるから」
「お静さんも大変だね」
 こう言って来たのは老馬でした。
「町の猫皆のことも気にかけないといけないから」
「それが頭領の務めよ」
「当然のことなんだ」
「猫又にもなればね」
 猫達を守ることもというのです。
「だからね」
「それでいいんだね」
「そう、皆とお嬢さんはね」
 その娘もというのです。
「私が守るわ」
「そこでお嬢さんって言うのがね」
「私らしい?」
「うん、そう思ったよ」
「当たり前よ、私はお嬢さんとずっと一緒だから」
 一緒にいるからだというのです。
「お守りするのは当然よ」
「それに好きだからだね」
「大好きよ」
 にこりとして確かな言葉で言い切りました。
「人間では一番ね」
「本当に好きなんだ」
「そうよ、だからお守りしてるの」
「今回のことも」
「それこそ一肌も二肌もだから」
「お守りしてだね」
「その恋を適えてもらうわ」
 こう言ってでした、そのうえで。
 お静さんは猫の動きで傍の壁の上にひらりと乗ってです、そこから屋根の上までさっと上ってそうしてでした。
 先生達にです、こう言いました。
「じゃあまたね」
「うん、またね」
「お会いしましょう」
「そうしようね」
「じゃあ学校に行って」
 そうしてもとも言うお静さんでした。
「あの子見てね」
「そうさせてもらうよ」
「私が見た限りだとね」
「いい子なんだね」
「そのことは保障するわ」
 こう確かに言うのでした。
「けれどそれでもよね」
「うん、この目で見たいから」
 どういう子かということをです。
「行って来るよ」
「そういうことでね」 
 こうお話してでした、お静さんはお店に戻りました。、そして先生はあらためて動物の皆に対して言うのでした。
「行こうか」
「先生、地図見せて」
 老馬が先生に言って来ました。
「僕も覚えておくから」
「僕が迷わない様に」
「うん、若しもに備えてね」
 こうした時はあまり頼りにならない先生のフォローの為になのです。
「見させて」
「わかったよ、じゃあね」
 こうして老馬も地図を見てなのでした、先生にあらためて言いました。
「覚えたよ」
「しっかりとだね」
「うん、けれどね」
「けれど?」
「先生って地理にも詳しいのに」 
 こちらにも造詣のあるのが先生です。
「それでも街とか歩くには」
「何か道に迷いやすいね」
「どうしてそうなのかな」
「方向音痴もね」
「先生の持って生まれたものなんだね」
「何か僕は本当にね」
 自分で言うのでした。
「世事のことは駄目だね」
「家事は全くだしね」
 ダブダブも言って来ます。
「お料理もお裁縫もお洗濯もお掃除も駄目で」
「食器を洗ってもね」
 それもなのです。
「何かね」
「そう、すぐお皿落として割るし」
「何かそうしたことは特に」
「苦手だから」
「そうなんだよね」
 こう自分でも言うのでした。
「どうにもね」
「それで地図もなのね」
「頭には入ってもね」
「街を歩くと」
「何か迷うんだよね」
 そうなってしまうのです。
「どうしてもね」
「だからどうしてもね」
「先生には僕達がいないとね」
 ジップとガブガブも言ってきます。
「先生って本当に世事に疎くて」
「どうしても困るから」
「だからね僕達がいつも一緒にいないと」
「本当にどうなるかわからないから」
「トミーや王子がいてくれても」
「トミー達だけじゃ大変だから」
 もっと言うとサラも今は結婚して家庭を持っています、それでとにかく世の中のことには疎くて家事は全く駄目な先生ならです。
 それで、です。オシツオサレツも言うのでした。
「だから先生、いつも一緒だよ」
「何かあったらフォローするからね」
「任せてね、僕達の出来る範囲で」
「助けさせてもらうから」
「ではでは」
「今から行こう、先生」
 ポリネシアとトートーのお言葉です。
「学校ね」
「その子をこの目で見る為に」
「すぐ近くだよね」
「ここから近いよね」
 チーチーとホワイティは距離について尋ねました。ホワイティはチーチーのその頭の上にちょこんと座っています。
「このお家から」
「そうだよね」
「うん、そうだよ」
 先生は二匹にすぐに答えました。
「歩いて行けるよ」
「だから今からだね」
「行けるのね」
 チープサイドの家族もここでお話に入ります。
「それじゃあね」
「今からね」
「一緒に行こう」
「私達皆で」
 先生と皆は一緒に今度は学校に向かいました、そうして皆で彼を観に行くのでした。



とりあえずは彼の周辺を動物たちが探ったみたいだな。
美姫 「探るといっても匂いとかだけれどね」
だな。まあ、今の所は問題ないみたいだし。
美姫 「いよいよ肝心の本人を観に行くのね」
まあ、途中で外見を知らないという問題もあったけれど。
美姫 「そこはお静が気付いて問題もなくなったわね」
ようやく噂の彼が出てくるのか。
美姫 「一体、どんな青年なのかしら」
次回も待っています。



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