『ドリトル先生と学園の動物達』
第十二幕 騒動が終わって
先生達がジャイフルさんに動物園や水族館の動物達にお菓子をあげることを止めてもらうことで虫歯の騒動を収めたすぐ後にでした、先生の妹さんのサラがです。
また来日してきてです、先生のお家に来て言いました。
「兄さんも元気そうね」
「見ての通りだよ」
先生は微笑んで妹さんに答えました。
「僕は元気だよ」
「病気とかしていないわよね」
「うん、胃腸も元気で血圧も普通でね」
「糖尿病とかにもなっていないのね」
「成人病とも無縁だよ」
至って健康的な生活をしてりうというのです。
「痩せたけれどね」
「そういえば少し痩せたわね」
サラもお兄さんのこのことに気付きました。
「太っていることは変わりないけれど」
「うん、歩く量も増えたしね」
「和食メインになったからなのね」
「そのこともあってね」
「和食はカロリーが少なくてビタミンや繊維質も多いから」
それで、というのです。サラも和食のことは知っています。
「ヘルシーだからね」
「そのせいでね」
「兄さん痩せたのね」
「体重や脂肪率が減ったよ」
「いいことよ、ただ和食は塩分が多いから」
このことはというのです。
「そこは気をつけてね」
「血圧にはだね」
「そう、そのことはね」
「そういえばお醤油をよく使うから」
「そこは気をつけてね、とはいってもトミーだと大丈夫ね」
「はい、塩分のことも気をつけています」
そうだとです、同席しているトミーがサラに答えました。丁渡ここで紅茶を持ってきたところです。それにティーセットもです。
持って来てです、そのうえでサラに答えたのです。
「ちゃんと」
「頼むわよ、兄さんそうしたことは本当に疎いから」
「だからですね」
「トミーが一緒にいてくれて助かるわ」
「ははは、僕は家事もお料理も出来ないからね」
「間違ってもインスタントだけの食事とかしないでね」
サラは先生に釘も刺しました。
「そんな生活したら許さないから」
「やれやれ、サラは厳しいね」
「厳しいんじゃなくて当然よ」
紅茶にミルクをたっぷりと入れながらです、サラは言うのでした。
「兄さんときたら本当に世間知らずなんだから」
「学問のこと以外はっていうんだね」
「そう、のんびりし過ぎてるから」
「よくそう言われるよ」
「だから、食生活はね」
「トミー頼みっていうんだね」
「そうなるわ、トミーがいなかったら日本にいても」
それこそというのです。
「どうなるかわかったものではなかったわ」
「外でばかり食べてもだね」
「あまりよくないから」
それで、というのです。
「本当にね」
「何かとね、それでだけれど」
「それで?」
「話は聞いたわ、こっちの動物園や水族館の動物の虫歯を治してたのね」
「うん、その話は終わったよ」
「それは何よりね、それとさらに言うけれど」
ここで、です、これまで少し尖った感じだったお顔をにこりとさせてです、サラは先生にこうしたことを尋ねました。
「よかったじゃない、兄さん」
「ひょっとして」
「日笠さんよね」
もう名前を言うのでした。
「そうよね」
「聞いてるんだ」
「ええ、兄さんもやっとなのね」
今度はしみじみとした調子でした。
「やっとそうした人と巡り会えたのね」
「何か凄い言い方だね」
「そうも思うわよ、妹の私が結婚してもね」
それでもというのです。
「兄さんは相変わらずで」
「一人だったからっていうんだね」
「アフリカ行ったりキャラバンだのサーカスだの。月にも行ったし」
「ははは、色々あったね」
「色々じゃないわよ、何時身を固めるのかって思ってたわよ」
サラから見ても心配だったのです」
「学生時代からそうした話がなかったし」
「付き合うとかそうとかね」
「誰かに告白されたりとかは」
「なかったよ」
「そうだったわね」
「僕から告白したこともね」
「それはないって思っていたわ」
最初からというのです。
「兄さんの場合は」
「信頼してくれていたのかな」
「わかっていたのよ」
そちらだというのです。
「兄さんにそうしたことは縁がないって」
「僕に自分からっていうのは」
「全然ね、一時期女の人に興味がないのかとも思ったわ」
「確かにあまりね」
興味はなかったとです、先生も自分で言います。
「なかったね」
「かといって同性愛でもないわね」
「そちらもね」
「興味ないわね」
「女の子以上にね」
つまり全くというのです。
「そうしたことはね」
「そうよね、そのことも安心していたけれど」
先生が同性愛者でないこともです。
「イギリスは最近そうした趣味の人も多いけれど」
「僕は同性愛は否定しないけれどね」
そうしたことをいちいち否定して批判する先生ではありません、同性愛はキリスト教では快く思われていないにしても。
「ましてやここは日本だからね」
「日本って同性愛に寛容だったわね」
「そうだよ、長い間至って普通だったよ」
「そのことは驚くことだけれど」
それでもと言うサラでした。
「とにかくね」
「僕の結婚のことはだね」
「同性愛でもないってわかっていたけれど」
それでもというのです。
「何時になるかって思っていたわ」
「ひょっとしてないかもとか?」
「真剣に思っていたわ」
実際にというのです。
「兄さんだから」
「それでなんだね」
「日笠さんって人が兄さんをまんざらと思わないのなら」
「それならだね」
「ええ、絶対によ」
強い声で言うサラでした、三段のティーセットを挟んでちゃぶ台に向かい合って座っている先生に対してです。
「結婚するのよ」
「そうしないと駄目なんだね」
「絶対に駄目よ、けれどね」
「今度は何かな」
「その人凄いわね」
その日笠さんがというのです。
「絶対に兄さんの人柄を見て好きになったのね」
「僕の性格をなんだ」
「だって。兄さんの外見だとね」
太っているうえに野暮ったいお顔です、そうした外見を見ているとというのです。
「女の人に絶対にもてないから」
「だから日笠さんは凄いんだ」
「人は外見じゃないっていうけれど」
それでもなのです、実際には。
「それをちゃんと見極められる人はね」
「少ないね」
「物凄くね」
ただ少ないどころではないというのです。
「滅多にいないわよ、外見でなく内面だけで人をちゃんと判断出来る人は」
「先生みたいないい人いないけれどね」
「滅多にね」
「優しくて公平で穏やかでね」
「本当に素晴らしい人だけれどね」
動物の皆も言います、この時も先生の傍にいますので。
「それでもね」
「外見はね」
「野暮ったいからね、先生って」
「ぼうってした感じだし」
「だからね」
「外見だけ見る人にはもてないんだよね」
「皆の言う通りなんだよね」
トミーも言います。
「結局のところはね」
「そうそう、外見でしか判断しない人ってね」
「やっぱりいるんだよね」
「それで先生もね」
「女の人に縁がなかったんだよ」
「世の中見る目がない人が多いっていうか」
「困ったことだよね」
動物達はトミーともお話しました、そしてサラもです。
にこりとしてです、先生にさらに言うのでした。
「兄さん日本に来てよかったわね」
「こうしたこともだね」
「きっとこれは神様の思し召しよ」
「日本に来てそのうえで」
「そう、確かな収入のあるお仕事だけでなくね」
さらにというのです。
「生涯の伴侶も用意してくれたのよ」
「僕は神様に幸せを頂いてるんだね」
「どうも日本には国教会の教会がないけれど」
サラにとっても残念なことです、このことは。
「何かカトリックとプロテスタントが混ざってるし」
「同じキリスト教としてね」
「それでもよ、神様に感謝してね」
「それでだね」
「このお礼はね」
「うん、お家にちゃんと十字架があるから」
その十字架にというのです。
「ちゃんとね」
「お礼は言っているのね」
「そうよ、だから安心しておいてね」
「だといいけれどね」
「そのことは忘れていないから」
神様への感謝はです、幸せをくれたことに対する。
「僕もね」
「ならいいわ、じゃあ日笠さんと」
「これからもだね」
「仲を進めていくのよ」
「それをだね」
「そうしていってね、それでだけれど」
日笠さんのことからお話を変えてでした、そしてです。
サラはミルクティーを飲みうつつです、神妙なお顔になってそのうえで先生達にこうしたことを言いました。
「いつも思うけれど物凄く美味しいわね」
「日本の紅茶はだね」
「それはですね」
「これ市販のものよね」
普通に売られている紅茶かと尋ねるのでした。
「そうよね」
「はい、そうです」
トミーがサラの質問に答えます。
「ティーパックの」
「それでこの味なのね」
「イギリスの紅茶でもですね」
「ここまで美味しいものは」
とてもというのです、サラは。
「イギリスにも滅多にないわ」
「ティーセットもですね」
「ええ、チーズケーキもエクレアもね」
今のティーセットにあるものです。
「それと苺もオレンジも」
「そちらもですね」
「普通にイギリスのもの以上よ」
「どれも普通にスーパーで売っているものです」
「ここまでのものが普通に食べられるなんてね」
それこそとです、サラは感嘆の言葉で述べました。
「日本人は何と幸せなのかしら」
「ティーセットはイギリスものだけれど」
先生も言います。
「日本のものの方が美味しいね」
「お茶やお菓子だけでなくてね」
「お水が違うね」
「それが一番大きいわね」
そのお茶を飲みながらの言葉です。
「日本のお水はいいわ」
「特にこの神戸はね」
「六甲ね」
「知ってるんだ」
「何度も日本に来ているからね」
六甲のお水のことも聞いているというのです。
「聞いてるしね」
「飲んでもみたのかな、実際に」
「美味しいわね」
これがサラの返答でした。
「確かに」
「うん、それに日本だと硬水もね」
こちらのお水もです、イギリスのお水はこちらです。
「味が違うね」
「日本のお水は違うわ」
「質がね」
「お茶も結局はお水なのよ」
それ次第というのです。
「味がね」
「それで日本のお茶はだね」
「イギリスのものよりも美味しいのよ」
「そういうことになるね」
「だから私いつも楽しみにしてるのよ」
「日本に来た時は?」
「ええ、日本のお茶を飲むことをね」
まさにです、このことをというのです。
「楽しみにしてるのよ」
「ティーセットもだしね」
「主人の会社日本茶も扱ってるでしょ」
「最近そっちも売れているんだね」
「ええ、ただイギリスのお水に合わせてね」
その日本茶をというのです。
「ちゃんと変えているわ」
「さもないと売れないんだね」
「イギリスのお水にはそれに合うお茶があるのよ」
日本茶でもというのです。
「だからそのことを考えてね」
「そうしてなんだ」
「ちゃんと売ってるのよ」
「それで売れてるんだね」
「そうなのよ、ビジネスはそこまで考えないとね」
「そういえば日本の製品が売れるのは」
「そこよ」
まさにそこにあるというのです、サラはお兄さんにはっきりと言いました。
「日本人はものを売る先のこともちゃんと調べてね」
「そのうえでものを売ってるからだね」
「ここまでになったのよ」
「今じゃイギリス以上の豊かさだね」
「多分最盛期の我が国以上じゃないかしら」
日本の豊かさはというのです。
「今の日本のそれはね」
「そうなったのもだね」
「売り先のことを調べてね」
「それからそこに合うものを売ってきたからだね」
「それでものが売れてね」
そうしてというのです。
「ここまでになったのよ」
「頭がいいね、日本人は」
「ちょっと発想が違うわね」
「ただいいものを売るだけじゃないんだね
「そのことを学んだのよ、私達も」
サラもご主人もというのです。
「日本人のビジネスの仕方をね」
「現地調査かな」
「それって学者さんの言い方ね」
「うん、やっぱり僕は学者なんだね」
「ええ、ビジネスの世界ではまた違う言い方だから」
「マーケット調査かな」
「そうなるわね」
実際にというのです。
「私達の場合は」
「どういった商品が売れるか」
「それを事前に調べてね」
「売れるものを売れるんだね」
「そうしてるの、宣伝の仕方もね」
それもというのです。
「八条グループの人と色々お話しているわ」
「それで業績もあがったんだね」
「会社も大きくなってきているわよ」
「いいこと尽くめだね」
「いやいや、業績が上がってね」
それで、というのです。
「人手が足りなくなって」
「人を雇わないといけないんだね」
「それで今悩んでいるのよ」
業績が上がって会社が大きくなればそれはそれで、というのです。
「会社のことでね」
「いい結果になるといいね」
「僕もそう願うよ」
「子供のこともあるし」
「子供ね」
「そう、子供達の教育でも」
このこともなのでした、サラは悩んでいるのです。
「上の子も下の子も成績はいいけれどスポーツは」
「スポーツはなんだ」
「今一つな感じだから」
「スポーツも頑張って欲しいんだ」
「そうなの、けれど考えてみれば」
腕を組んで言うサラでした、実際に悩んでいるお顔で。
「私もスポーツは得意じゃなかったし」
「僕もね」
「だから子供達の運動神経が今一つなのも」
それもというのです。
「仕方ないわね」
「うちの家系は学問の家系だからね」
「兄さんは特によね」
「そうだね、運動は全然駄目で」
「昔からお勉強は得意でね」
「サラも成績は悪くなかったね」
「自分でもそう思うわ」
サラにしてもです、学生時代は成績はいい方でした。大学も出ています。
「それなりにね」
「けれど運動は」
「そういえば上の子、男の子だけれど」
その子のこともお話しました。
「兄さんに似てきた気がするわ」
「遺伝かな」
「そうかもね」
「だとしたら困るわ」
「困るって?」
「兄さんみたいに運動神経が鈍くてしかも太ったら」
そうなったらというのです。
「結婚出来なくなるわ」
「結婚に運動神経は関係ないよ」
「太って野暮ったい感じになったらどうなのよ」
先生を見ながら言うのでした。
「今はやっとその日笠さんって人が出て来てくれたけれど」
「それでもなんだ」
「兄さんみたいになったら」
「僕に似てたら駄目なんだ」
「だから行き遅れるから」
サラが心配しているのはこのことです。
「そうなったら可哀想よ」
「じゃあ僕は可哀想なのかな」
「兄さんは別にそうじゃないわ」
「あれっ、それはどうしてかな」
「兄さんには動物の皆もいればトミー君も王子様もね」
皆いるからというのです。
「それで可哀想じゃないわよ」
「一人じゃないから」
「そう、兄さんは可哀想じゃないわ」
「確かにね、僕は幸せだよ」
先生も実際に感じていることです。
「いつもその中にいるよ」
「兄さんは神様に愛されているのよ」
「愛されているからなんだ」
「そう、幸せなのよ」
「じゃああの子も」
「兄さんみたいに幸せになれるとは限らないでしょ」
サラはこのことはクールに言うのでした。
「だから心配なのよ」
「僕みたいに学者になれば幸せになれるよ」
「内面を見てくれる人にも会えるかしら」
「そうなるよ、きっと」
「そうだといいけれどね」
サラはしみじみとした口調で述べました。
「本当にね」
「それで下の子はどうなのかな」
「あの娘は私似なのよ」
サラにというのです。
「髪の毛の色も目の色も。顔立ちもね」
「母娘だけにそっくりなんだ」
「そうなの、あの娘は私に似てるからね」
それでとです、サラはにこにことしてこう言いました。
「きっといい結婚が出来るわ」
「僕は出来なくてサラは出来るんだ」
「だから兄さん今の独身じゃない」
「ははは、確かにね」
「全く、けれどこの機会はまさに千載一遇だから」
日笠さんが出て来てくれたことはというのです。
「絶対に手に入れるのよ」
「チャンスは逃すなだね」
「その通りよ、いいわね」
「それじゃあね」
先生はサラのその言葉に応えてでした、お茶を飲んでから言いました。
「そちらも頑張るよ」
「そういうことでお願いね」
サラも先生に言うのでした、そうしたお話をしてお茶を飲んで、です。
サラは先生のお家を後にしてイギリスに戻りました、本当に頑張るのよと先生にハッパをかけたうえで、でした。
サラが来た土曜日と次の日曜日が終わってでした、月曜になって。
学校に来た先生にです、日笠さんが先生の研究室まで来て言って来ました。
「あの、ジャイフルさんのことは終わりましたが」
「それでもですね」
「問題は動物達にものをあげることでして」
「そのこと自体をですね」
「解決しようということになりました」
動物園と水族館でそう決まったというのです。
「これからは」
「そうですね、それを厳しくしないと」
「同じことの繰り返しです」
「ではどうするかですね」
「これまでも禁止はされていました」
動物達も食べものを与えることはです。
「ですが係員の人が見て注意することはなく」
「見たら注意してもですね」
「それでも私達が園内、館内を見回ることもありませんでした」
「しかしこれからはですね」
「見回りもして、手が空いている人で」
そしてというのです。
「看板をあちこちに立てようと思っています」
「注意書きのですか」
「はい、動物達に食べものを与えないで下さいと」
「そういえばこれまで入口には注意書きが書いていましたが」
「中にはなかったですね」
「それをです、動物達のコーナーごとにです」
看板として、というのです。
「書いて立てておこうと」
「そうお考えですか」
「如何でしょうか」
日笠さんはここまでお話して先生にあらためて尋ねました。
「これで」
「いいですね、ただ」
「ここで問題となることはですね」
「ジャイフルさんはインド人でしたし」
「この学園は世界中から人が来ているから」
「日本語だけでなく」
日本にありますがそれでもというのです。
「英語や中国語、ヒンズー語にスペイン語と」
「世界の主な言語で書いておくのですね」
「そうするべきだと思います」
先生は日笠さんに穏やかなお顔で提案するのでした。
「それでどうでしょうか」
「そうですね、それはいいですね」
日笠さんは微笑んで先生の提案に賛成の意を示しました。
「日本語だけでないのなら」
「それなら余計に効果があると思います」
「それではその様に」
「はい、これでこうした騒動の再発が」
「起こる可能性がかなり減りますね」
「そうですね」
「こうした対策が必要なのですね」
ただ入口に注意書きを書くだけでなく、というのです。
「中にも」
「一回見ただけでは見ていなかったり忘れていたりします」
先生は人間のこのこともでした、日笠さんにお話しました。
「ですから」
「看板としてあちこちに立てて」
「見てもらいまして」
「そして見回りも出せば」
「かなり違います」
これまでとは、というのです。
そして、でした。ここまでお話してでした。
日笠さんは先生にです、こうしたことも言いました。
「私も園内、館内を見回りますが」
「職員さんだからですね」
「はい、先生は動物園にも水族館にもよく来られますので」
それで、というのです
「お会いした時はお願いします」
「はい、僕も時間があれば」
「その時はですね」
「一緒に見回りをさせてもらいます」
その時はというのです。
「そういうことでお願いします」
「それでは」
このことを約束したのでした、そして。
そのお話をしてでした、先生はです。
日笠さんにです、笑顔でこうしたことを言いました。
「それでなのですが」
「はい、何か」
「実は土曜日に妹が来まして」
「妹さんがおられたのですか」
「そうです、イギリスにいるのですがご主人のお仕事の都合でよく来日してきまして」
それで、というのです。
「妹の会社のお茶を貰いましたので」
「そのお茶をですね」
「これからどうでしょうか」
日笠さんにお茶を誘うのでした。
「二人で」
「ご一緒させて頂いて宜しいのですね」
「はい」
笑顔での返事でした。
「お願いします」
「それでは」
こうして日笠さんと先生は研究室の中でサラがくれた紅茶を楽しむのでした、そこにはちゃんとティーセットもあります。
そのティーセットを見てです、日笠さんは先生に言うのでした。
「先生はいつもティーセットを欠かしませんね」
「はい、メニューは変わりますが」
「毎日召し上がられていますね」
「一日一回は口にしないと」
どうしてもというのです。
「落ち着きません」
「先生にとっては絶対のものなのですね」
そのティーセットがというのです。
「そうなのですね」
「そうですね、実際に」
先生もそうだとです、日笠さんに答えました。
「僕にとっては紅茶とティーセットは毎日のものです」
「それで今もなのですね」
「こうして楽しんでいます」
「そして紅茶はですね」
「ミルクティーです」
飲む紅茶はこれです。
「これが一番です」
「イギリス人だからでしょうか」
「イギリス人は皆ですしね」
「レモンティーは飲まれないのですね」
「アメリカに行った時は飲むこともありますが」
それでもというのです。
「あの国でもミルクティーがあれば」
「ミルクティーですか」
「それを飲みます」
あくまでそちらを、というのです。
「紅茶は、ただ日本に来てからは」
「あっ、日本のお茶も楽しまれていますね」
「はい、お抹茶や麦茶も」
「そしてティーセットも」
「日本のものをです」
それを楽しんでいるというのです。
「お饅頭や羊羹を」
「和風ティーセットですか」
「これが存外美味しくて」
「面白いですね、日本とイギリスのお茶文化の融合ですか」
「日本ではこうしたことが多いと聞いていますが」
他の国の文化を取り入れて日本のものにアレンジすることがです。
「ですから僕もです」
「和風ティーセットもですか」
「楽しんでいます」
「成程、お饅頭や羊羹のティーセットですか」
「後はお餅、お煎餅もです」
そうしたものもというのです。
「その中に入ります」
「面白いですね、では私も」
日笠さんは興味を持ったお顔で先生に応えました。
「一度してみます」
「是非そうされて下さい、これがまた」
「美味しいのですね」
「はい、とても」
実際にそうだというのです。
「そしてフルーツは蜜柑や柿です」
「オレンジやアップルではなく」
「はい、日本のものです」
「それもいいですね」
「日本のお茶はイギリスの紅茶に全く劣っていません」
それこそ何一つとして、というのです。
「お茶菓子も」
「ケーキやスコーンにですね」
「全く劣っていません、特に最近外郎を気に入っています」
「名古屋のですね」
「あれはとても素晴らしいお菓子ですね」
外郎についてです、先生は目を輝かせてそのうえで日笠さんにお話します。
「これ以上はないまでに」
「外郎は確かに」
日笠さんも言います。
「美味しいですね」
「それで最近よく食べています」
和風ティータイムの時はというのです。
「あちらも」
「羊羹に似ていますが」
「また違いますね」
「それがまたいいのですね」
「白に黒、抹茶小豆コーヒー柚子に桜と」
先生は楽しそうに外郎の種類を挙げていきます。
「どれも美味しいですね、三色団子にも似た味で」
「団子もお好きですね」
「あちらも病みつきになりそうです」
「先生は本当に日本に馴染まれていますね」
「どんどんそうなっていますね」
先生もそのことを自覚しています、それで言うのです。
「僕は」
「やはりそうですか」
「まさかこんなに日本に馴染むとはです」
「思っておられませんでしたか」
「はい、とても」
そうだったというのです。
「この国に来るまでは」
「日本の食文化にですか」
「他の文化についてもです」
「日本文化自体にですね」
「和歌ですが」
先生は和歌についてもお話するのでした。
「あの短いその中に感性を込めた詩は」
「如何でしょうか」
「日本独特の美を感じます」
まさにそれをというのです。
「百人一首も古今和歌集も詠みましたが」
「何と、古今集もですか」
「新古今集もです」
こちらも読んだというのです。
「あちらも素晴らしいですね」
「日本の文化、そして文学も」
そのどれもというのです。
「素晴らしいです、温泉も好きになりましたし」
「イギリスでは温泉はあまり、でしたね」
「そうです、入浴文化自体がです」
あまりないというのです、イギリスでは。
「シャワーが主です、あとお風呂場も」
「バスルームもですね」
「日本とイギリスでは違いますね」
「あちらではお風呂とおトイレが一緒の場所にありますね」
「日本では違いますね」
「はい、お風呂は湯舟でじっくりと浸かることが」
シャワーで終わらずにです。
「日本のお風呂です」
「そちらも気に入っていて。愛媛では温泉も楽しみました」
「坊ちゃんですね」
「あの作品を強く意識しました」
実際に、というのです。
「明治の頃の日本文化もまた」
「お好きですか」
「素晴らしいです、そして今も」
「今もですか」
「ロックですが」
先生はこの音楽にも言及しました。
「ロックは元々イギリスのものですが」
「そのロックがですか」
「日本では独特の発展をして」
そして、というのです。
「日本のロックになっていますね」
「その日本のロックも素晴らしいと」
「僕は思います、とはいっても僕は演奏はしないです」
実は先生はイギリス民謡等穏やかな曲が趣味です、ロック等賑やかな感じの音楽はあまり得意ではないのです。
「そこは違いますが」
「日本のロックはですか」
「素晴らしいです、アイドルに至っては」
先生もテレビを観ます、それでアイドルについてもよく知っているのでお話出来るのです。
「日本は最早世界一では」
「日本のアイドルは世界一ですか」
「女の子だけでなく男の子の方も」
そのどちらもというのです。
「世界一かと」
「そこまで凄くなっていますか」
「特にグループが」
「AKBですね」
「やはり僕はアイドルの曲は歌いませんが」
そうしたこともしません、どうしても先生はそうした賑やかなことを自分ですることはありません。穏やかな人なので。
「日本のアイドル文化は世界一です」
「アイドルもそちらからでは」
「我が国やアメリカからだというのです」
「そう思っていましたが」
「それがです、日本に入りまして」
「日本のアイドル文化は世界一になったのですか」
「僕はそう思います、あとお笑いもです」
先生の学問の対象はこちらにも向けられています。
「落語、漫才にと」
「吉本ですね」
「そうですね、大阪の吉本興業のお笑いも」
それもまた、というのです。
「見事です」
「先生はアイドルやお笑いもお好きですか」
「はい、大好きです」
「何か思ったよりも」
「思ったよりもといいますと」
「多趣味なのですね」
「いえいえ、趣味ではなくです」
そうしたものではないとです、先生は日笠さんに笑ってお話しました。
「好きなので」
「学ぶものとしてですか」
「そうです、観ています」
「楽しむ学問ですね」
「学問は楽しむものです」
この持論も日笠さんに言います。
「苦労もしますが」
「楽しむ為の苦労ですね」
「そうです、あとスポーツもしませんが」
こちらのお話もします。
「野球も観ます」
「イギリスでは野球は確か」
「最近入ってきました」
「あまり盛んではないのでしたね」
「そうです、ですが日本のチームの」
先生はこれまで以上ににこにことして日笠さんに言うのでした。
「阪神タイガースですが」
「阪神お好きなのですか」
「あのチームは非常に面白いですね」
「華がありますね」
「不思議です、勝っても負けても絵になります」
阪神は、というのです。
「見事です」
「そうです、実は私は阪神ファンなのですが」
「阪神のそうしたところがですか」
「好きです、世界で二番目に好きです」
こうまで言うのでした。
「食べることと同じだけ」
「ですか、阪神がお好きですか」
「とても」
本当に好きな人の返事でした。
「阪神タイガースは私の生きがいの一つです」
「では甲子園球場も」
「よく行きます」
「そうですか、よくですか」
「若しよかったら」
日笠さんからでした、先生にお声をかけました。
「ご一緒に」
「今度ですね」
「試合を韓に行きませんか?」
「そうですね、僕も最近野球に興味を持ってきていまして」
「阪神にもですね」
「興味を持っています」
「あのユニフォームがまたいいですね」
日笠さんは身を乗り出さんにして先生に言ってきます、どうも阪神タイガースのことになると普段よりもテンションが高いです。
「本当に」
「はい、勝っても負けても華があるチームは」
「イギリスにもないですか」
「他のチームでもないです」
「サッカーやラグビーでも」
「ありません、個人ではそうした選手もいますが」
それでもというのです。
「チームとしては」
「そうですか、阪神だけですか」
「まさに阪神はです」
「華のあるチームなのですね」
「あの華は何処にもないものです」
先生も熱い口調で言うのでした。
「阪神の華は」
「では」
「はい、是非韓に行きましょう」
このことも約束しました、そしてです。
何よりもでした、動物園と水族館のことを決めてです。先生はこの日は学校でのお仕事を終えてお家に意気揚々と帰りました。そのうえで。
いつもんのちゃぶ台のある居間で皆にこの日のことをお話しました、すると動物達は先生に対してうんうんと頷きながら言うのでした。
まずトートーがです、先生に言いました。
「合格だよ」
「今日のことはだね」
「うん、一緒に野球を観に行くことを決めたことはね」
まさにというのです。
「合格だよ」
「今回は完璧だよ」
ガブガブが次に来ました。
「甲子園でデートだね」
「というかあれね」
ダブダブが言う対象はといいますと。
「日笠さんも頑張ったね」
「うん、先生相手に本当にね」
チーチーもしみじみとして言います。
「見事に押したよ」
「そしてその押しを成功させたんだね」
ホワイティも日笠さん寄りです、決して先生の敵ではないにしても。
「これは素晴らしいことだよ」
「全くだよ、日笠さんに拍手したいよ」
ジップが言うことはといいますと。
「僕達の殆どがそれは出来ないけれどね」
「うむ、蹄ではのう」
老馬もジップに合わせてジョークを述べます。
「無理じゃな」
「しかし日笠さんはやってくれた」
「頑張ったね、あの人」
オシツオサレツが最後にその二つの頭で言ってきました。
「じゃあ二人で甲子園に行ってね」
「仲を深めていってね」
「先生もね」
「しっかりとね」
「うん、日笠さんと二人で韓戦してくるよ」
先生はお庭にいるオシツオサレツに応えました。
「阪神の試合をね」
「虎の試合をだね」
「野球をね」
「日本人はサッカーも好きだけれど」
「野球も好きだね」
「そちらもね」
「どっちがより好きかな」
サッカーと野球のどちらがというのです。
「一体」
「それはわからないですね」
トミーも言ってきます、晩御飯の準備をしながら。
「どっちもって言うべきかも知れないですけれど」
「どっちもだね」
「サッカーも野球も」
「どれか一つじゃないね」
「それが日本人ですね」
「別に階級もないから」
先生はイギリス社会のことも述べました。
「どんなスポーツをしてもいいしね」
「イギリスとは違いますからね」
「うん、貴族はラグビーとかね」
そして平民の人はサッカーです。イギリスではそうしたことも決まっているところがあるのです。
「バーも一階と二階で入る人の階級が違うとか」
「ありませんね」
「誰でもバーの何処でもパブでも入れるし」
「だからスポーツもですね」
「誰でも何でも出来るんだね」
「そういうことだからですね」
「日本人はどっちも好きってことなのかな」
サッカーも野球もです。
「そうしたところも日本だね」
「ではその野球を」
「韓てくるよ」
阪神のその試合をというのです。
「二人でね」
「じゃあそちらも頑張って下さいね」
「さて、阪神は勝ってくれるかな」
先生は考えているお顔で述べました。
「その時は」
「ううん、そこでそう言ったのはね」
「不合格だよ、先生」
動物の皆は先生の今の言葉には少し苦笑いになって返しました。
「そこで試合のことが念頭にあるのはね」
「よくないよ」
「折角のデートなんだから」
「そこでそう思って言うのはね」
「あれっ、駄目かな」
先生はわかっていないお顔で返しました。
「野球を韓に行くのに」
「これは時間がかかるかな」
「それも結構以上に」
「まあ気長に進めていけばいいか」
「一歩ずつでもね」
やれやれという感じで言う皆でした、動物園と水族館の騒動は終わり対策も立てられることになりましたがこちらはまだまだこれからでした。
第十二幕 完
ドリトル先生と学園の動物達 完
2014・9・12
妹さんが来日したな。
美姫 「そして、恒例とばかりに兄へと」
まあ、今回も兄の体を思っての事だしな。
美姫 「そうね。それに今回は良い報告を聞いていたお蔭で」
だな。流石の先生も動物たちに加えて妹にまで念押しをされたからか。
美姫 「まさか、自分から日笠さんを誘うとはね」
驚きの進歩だな。
美姫 「この二人がどうなるのか、気になる所ではあるけれど」
とりあえず、今回はこれでお終いみたいだな。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ありがとうございます。