『ドリトル先生と学園の動物達』
第十一幕 ジャイフルさんの善意
先生と日笠さんは八条神社に来ました、この神社は中にお寺があって多くの社があるとても大きな神社です。山一つが神社と言っていい位です。
その神社の中に入ってです、王子は社達と木々を見回しながら先生に言いました。
「神聖な雰囲気があって」
「そうだね、自然のね」
「何か特別な場所に来たみたいだよ」
「神々がいる場所だね」
「この神社にも神様がいるんだよね」
「うん、そして祀られているんだよ」
先生も周りを見回しつつ王子に答えます。
「日本の神々がね」
「そうだよね、ここに」
「ここの神様はどの神様だったかな」
「何柱かの神様が祀られています」
日笠さんが先生にお話してくれました。
「古事記や日本書紀に出て来る神様も」
「祀られているのですか」
「はい、そしてご利益も多くて」
「どういったご利益が」
「学業成就、商売繁盛、恋愛成就に安産です」
「そういったものがですか」
「この神社のご利益です」
このことっもです、日笠さんは先生にお話しました。
「神様が多いので」
「交通安全はありますか?」
トミーはこのご利益があるかどうかとです、日笠さんに尋ねました。
「そちらのご利益は」
「確かあったと思いますよ」
「それはいいですね、日本はイギリス以上に車が多いので」
「交通安全が気になりますか」
「はい、中には乱暴な運転の車もありますし」
それで余計にというのです。
「そちらをお願い出来たら」
「あれっ、トミーもクリスチャンだよね」
王子が日笠さんとお話したトミーに言ってきました。
「それでもいいの?」
「別の宗教でもお願いはしていいんじゃ」
「いいんだ」
「うん、そうじゃないかな」
「日本人は普通にそうしてるね」
先生も言ってきました。
「お寺に参って神社に参って」
「あっ、そういえばそうかな」
「お正月は神道だけれどお祝いしてね」
「クリスマスはキリスト教だけれどね」
「そしてお盆は仏教だけれどね」
そちらもだというのです。
「色々お祝いしているからね」
「だからいいんだ」
「他の宗教に顔を出して怒る神様じゃないよ」
「キリスト教の神様は」
「そう、だからね」
先生は神社の中でも穏やかな笑顔で王子にお話するのでした。
「安心してね」
「そうしてなんだ」
「お願いしてもいいんだよ」
「そう、それじゃあね」
「うん、僕もお願いするし」
先生がこう言うとです、動物達が早速先生に言ってきました。
「じゃあ先生いいね」
「お願いすることはわかってるわよね」
「先生の場合それは一つしかないよ」
「そのお願いをするのよ」
「わかってるよ、そのことはね」
先生は日笠さんを目でちらりと見てから皆に答えました。
「もうね」
「うん、じゃあね」
「いいよね」
「それじゃあお願いはね」
「そのことをね」
「するよ、ただその前に」
先生は神社の中を見回しながらこうも言うのでした。
「お守りや破魔矢、それと絵馬を買ってお賽銭もして」
「色々して」
「そうしてだね」
「あと。出店があるね」
境内の中に一つありました、そこで売っているものは。
「たい焼きだね」
「あそこのたい焼き美味しいんですよ」
日笠さんが先生に笑顔でお話してくれました。
「神社に来る人はよく食べます」
「そうですか、それでは」
「お菓子ですから殺生にもなりませんし」
たい焼きでもです、形はお魚ですが。
「たい焼きとは違いますので」
「気兼ねなく食べられますね」
「はい、ですから」
「あそこでたい焼きを買って」
「召し上がりましょう」
こうお話してでした、そのうえで。
先生達はたい焼きのお店に行きました、そしてです。
皆でたい焼きを買いました、その時に。
お店のおじさんがです、先生達にこんなことを言いました。
「さっき面白い人が来たよ」
「面白い人とは」
「うん、最近時々来る人だけれど」
「どんな人ですか?」
先生は買ったたい焼きを早速食べながらおじさんに尋ねました。
「一体」
「インド人だね、あの服と顔立ちは」
おじさんは皆にたい焼きを渡しながらお話していきます。
「若い奇麗な人だね」
「その人がですか」
「うん、ここでたい焼きを買ったんだけれど」
その人が、というのです。
「物凄いね」
「物凄い、ですか」
「黒蜜をかけて食べていたね」
「たい焼きの上に黒蜜をですね」
「ここまで甘くして食べるってね」
「そうですか、相当な甘党の方ですね」
先生はおじさんとお話しながら察しました、その人こそとです。
けれどおじさんにそのことは言わずにです、普通に接して言うのでした。
「それはまた」
「うん、うちのたい焼きはそんなに甘くないかな」
「いえ、普通に甘く美味しいですよ」
先生は実際に食べながらおじさんに答えました。
「これは」
「私もそう思います」
日笠さんも美味しそうに食べています。
「前からこのたい焼きを食べていますが」
「ああ、お嬢ちゃん子供の頃からうちに来てるしね」
「もうお嬢ちゃんという年齢ではないですよ」
少し恥ずかしそうに笑って返す日笠さんでした。
「そろそろ結婚しないといけない年齢ですし」
「じゃあお姉さんかな」
「もうお姉さんという年齢でも」
「違うのかい?」
「そうです、お母さんになりたいですね」
先生を無意識のうちにちらりと見てから言った言葉です。
「私も」
「そっちも頑張りなよ、けれどだね」
「はい、このお店のたい焼きは美味しいです」
「昔からだね」
「適度な甘さ、それに生地もよくて」
「餡子も生地もたい焼きの命だからね」
「そうですよね」
日笠さんもそのたい焼きを食べながら頷きます。
「それに最近は」
「カスタードや白餡子のも焼いてるよ」
「そうですね」
「そのインド人の娘さんそういったたい焼きにもなんだよ」
「黒蜜をかけられてですか」
「それもたっぷりとね」
かけてというのです。
「食うんだよ、いや本当に凄い甘党だよ」
「それでその方は今どちらに」
「ああ、さっきもそうして食ってね」
そしてというのです。
「山の上の方に登っていったよ」
「この山のですか」
「山の頂上にも社があるんだけれどな」
「そこに登られてですか」
「お参りしに行ったよ」
「わかりました」
日笠さんはそのことを聞いておじさんに再び頷きました。
「そちらに行かれましたか」
「この神社に来たらいつもそうしてるんだよ」
山の頂上の社まで行ってお参りしているというのです。
「結構高い山だけれどね」
「そうですね、私も登ったことがありますが」
「高い山だよね」
「頂上まで登るとなると一苦労です」
「それをいつもしているんだよ、その人は」
この神社に来た時はというのです。
「甘いもの食べている分は動いてるね」
「黒蜜をかけたたい焼きの分だけは」
「そうしているよ」
皆にこうお話したおじさんでした、そのおじさんのお話を聞いてです。
王子は先生達にです、たい焼きを食べ終えてから言いました。
「じゃあ僕達もね」
「山の頂上まで登ってだね」
「その人に会いに行こう」
こう提案するのでした。
「今からね」
「そうだね、それじゃあ」
「とりあえず先生は山は」
「登れるよ」
それは大丈夫だというのです。
「苦にはならないよ」
「先生はそちらは大丈夫だね」
「僕は基本乗馬か歩きだからね」
車を運転出来ないから当然のことです、自転車も乗れないこともないですが先生は自転車も殆ど使いません。
「だからね」
「足腰はしっかりしているね」
「少なくともこの山を登れるだけはね」
「じゃあいいね、行こう」
唯一の心配である先生が大丈夫ならと安心してでした、王子は皆にも言いました。そうして皆で山の頂上に向かうのでした。
山は結構険しかったです、ですが。
その山を登る中で、です。ジップは普通に登っている先生を見て言いました。
「足腰は変わらないね」
「うん、普段から歩いているからね」
「だからだね」
「これ位の山だとね」
「大丈夫なんだね」
「まだ平気だよ」
そうだというのです。
「山登りもしてきたからね」
「山登りはスポーツじゃないの?」
ガブガブがふとこのことについて気付きました。
「それは」
「スポーツとしての登山も確かにあるよ」
「けれど先生のはなんだ」
「そこまでいかないからね」
だからだというのです。
「違うんだよ」
「そうなんだ」
「うん、僕の場合はね」
「じゃあ先生の登山はね」
トートーが言うことはといいますと。
「普通に山を歩いているんだね」
「それだけだよ」
「そういえば道のない山は進まないしね」
「僕のはあくまで散歩だよ」
それに過ぎないというのです。
「重装備で決死の登山とかはね」
「たしかにしないね」
「うん、だから違うんだよ」
そうだというのです。
「僕の登山はね」
「やっぱり先生ってスポーツと縁ないね」
チーチーは素早く歩きながらしみじみとして言うのでした。
「そうしたこととは」
「子供の頃からね」
「だから山を登ることも」
「散歩だよ」
それに過ぎないというのです、そして。
そうしたことをお話しながら山を登っていてです、ポリネシアは一緒にいるホワイティに尋ねたのでした。
「辛くない?」
「うん、僕はね」
特にというのです。
「大変じゃないよ」
「だといいけれど」
「歩く距離は幾らでもね」
それこそというのです。
「平気だよ」
「ホワイティは体力あるのね」
「むしろじっとしている方が苦手だね」
ホワイティにとってはです。
「そのことはね」
「だといいわ」
「私もね」
ダブダブが言うことはといいますと。
「平気よ」
「ダブダブは辛そうだけれど」
「いえいえ、歩くことには慣れているから」
こうポリネシアに答えます。
「平気よ」
「何か皆歩くことに慣れてるね」
「そうよね」
チープサイドの夫婦も言います。
「色々先生と歩き回っていて」
「歩き慣れてるしね」
「僕達は飛んでるけれど」
「それはそれでね」
「というか先生と一緒にいると」
「歩いてばかりだから」
オシツオサレツも言います。
「ホワイティにしてもダブダブにしても」
「歩き慣れてるんだね」
「それもかなりの距離を」
「そういうことになるね」
「わしもな」
老馬もでした。
「歩き回っているからな」
「そのせいか老馬さんもね」
ジップがその老馬に応えます。
「ずっと元気だよね」
「歩くことが適度な運動になってな」
「そういうことだね」
「うん、だからな」
それでというのです、老馬も。
「いいのじゃ」
「そういうことだね」
「そういえば先生って日本に来てから以前よりさらに歩いてますから」
トミーがまた言います。
「健康にもなられていますね」
「イギリスにいた時の倍以上かな」
その歩く量はという先生でした。
「実際にね」
「それはいいことですね、体重も脂肪率も減って」
「体型は変わっていないけれどね」
「お腹はへっこんでいないね」
「先生のお腹は引っ込むものじゃないのかな」
王子がこんなことを言いました。
「それは」
「下腹部の脂肪は取れにくいそうだからね」
「だから先生のお腹もね」
「引っ込まないのかな」
「体重と脂肪率が減ってもね、それにね」
「それに?」
「スマートになった先生はね」
若しそうなったらとです、笑ってお話した先生でした。
「何か先生じゃないみたいだね」
「そうなるかな」
「うん、先生はその体型だからね」
「僕だっていうんだね」
「そうも思うよ、まあ歩いて足腰が強くなるとそれに越したことはないね」
それはというのです。
「本当にね」
「だといいね、じゃあそろそろ」
「頂上だね」
「そうだね、頂上がね」
それがというのです。
「見えてきたよ」
「あれっ、案外早かったね」
トミーは頂上のその社、森の中のそれを見て言いました。
「もっと距離があると思ったけれど」
「それは気分の問題だね」
「それはですか」
「うん、皆で楽しくお喋りしながらここまで来たからだよ」
先生はそのトミーにお話します。
「一人で黙々と行くよりはね」
「皆で、ですね」
「楽しく進むとね」
それで、というのです。
「気分的にすぐにね」
「着けるんですね」
「そういうことなんだよ」
「気分は大事ですけれど」
「山登りについてもね」
そうだというのです。
「そういうことなんだよ」
「よく言われることですけれど」
「実際にもそうだね」
「そうですね」
実経験としてわかったトミーでした。
「じゃあこれからも」
「出来ることならだね」
「山登りは皆でします」
一人でするよりはというのです。
「そうしてみます」
「いいことだね、それは」
「はい、じゃあ」
「ただね」
「ただ?」
「一つ気をつけることがあるからね」
先生はこのことを言うことも忘れませんでした。
「お喋りもいいけれど」
「不注意にはですね」
「そのことにも気をつけないとね」
「そうですよね」
「そういえば先生怪我しないね」
王子も言ってきました。
「いつも」
「うん、気をつけているんだ」
「先生は慎重だからね」
先生の一面です、のんびりしていますが慎重な人なのです。
「だからだね」
「慎重なのかな、僕は」
「そうだよ、とてもね」
「だといいけれどね」
「少なくとも怪我をしないからね」
注意して周りを見ているからです。
「いいんだよね」
「そうなるかな」
「僕はそう思うよ、それじゃあね」
「頂上に行って」
「そのインドの人に会おう」
そして動物の皆にお菓子をあげるのを止めてもらおうというのです、そうしたお話をしながら遂になのでした。
先生達は山の頂上に着きました、そこにはわりかし小さな社がありました。そしてその前にです。
インドの服を着た若い女の人がいました、女の人は先生達を見て言いました。
「参拝の方ですか」
「その目的もありますが」
それでもとです、先生が応えました。
「実は貴女にお話がありまして」
「私にですか」
「ジャイフルさんですね」
「はい」
女の人は先生がお名前を呼んだそのことに応えました。
「そうです」
「そうですね、貴女はインドから来られましたね」
「そうです」
その通りとです、ジャイフルさんも答えます。
「この国で仏教、ヒンズー教の一つを学ぶ為に来ました」
「仏教がヒンズー教の一部?」
そう聞いてです、首を傾げさせた日笠さんでした。
「といいますと」
「そのお話は後にした方がいいよ」
すぐにです、王子がその日笠さんに言いました。
「またね」
「まずはですね」
「うん、ジャイフルさんにね」
この人にというのです。
「お話してね」
「そうしてですね」
「そう、本題を済ませよう」
「それじゃあ」
こうお話してでした、そのうえで。
日笠さんがです、ジャイフルさんに言いました。
「少し座りませんか」
「長いお話ですか」
「そうなると思います」
「それでは」
「ここに休む場所はない様ですから」
先生は山の頂上、社の周りを見回しました。社はありますが皆が座ってお話出来る様な場所はありませんでした。
それで、です。先生はこう言うのでした。
「ですから麓に戻りますか」
「神社の下の方にですね」
「うん、たい焼き屋さんとかがあるね」
そこにというのです。
「戻ってね」
「そうしてですね」
「お話をしよう」
「それじゃあ」
こうお話してでした、そのうえで。
皆でなのでした、麓まで戻ってです。
座る場所を探してでした、それから皆でお話しました。その中でなのでした。
日笠さんがです、ジャイフルさんに言いました。
「八条学園の動物園や水族館に出入りされていますね」
「はい、よく」
「そしてお菓子をあげていますね」
「自分で作ったものを」
そうしているというのです。
「ちゃんと」
「そうですね、ですが」
「ですが?」
「そのせいで動物達が虫歯になっていまして」
「そうだったのですか」
「はい、ですから」
それで、というのです。
「動物の皆にお菓子をあげることはですね」
「止めて、ですね」
「そうしてくれますか?」
こう言うのでした。
「皆困っていますので」
「それは気付きませんでした」
ジャイフルさんは申し訳ないお顔で日笠さんに答えました。
「動物達もお菓子を食べると思っていましたので」
「えっ、そうだったのですか」
「違うのですか?」
「はい、お菓子はです」
それはというのです。
「ガネーシャ神の好物でもありますし」
「ああ、ガネーシャ神といいますと」
先生が応えました、その神様の名前を聞いて。
「ヒンズー教の商業、学問の神様の」
「象の頭を持った神様です」
「そういえばガネーシャ神の像はお菓子を持っていますね」
「それでと思っていました」
「動物もまたお菓子を食べると」
「そう思っていました」
それで、というのです。
「それであげていたのですが」
「皆にですね」
「違ったのですね」
「確かにガネーシャ神はお菓子が大好物です」
このことは先生も知っていてジャイフルさんに応えます。
「しかしです」
「それでもですか」
「はい、動物達もお菓子をあげたら食べますが」
「皆美味しそうに食べていまして」
ジャイフルさんは先生にさらにお話します。
「それでいいと思っていたのですが」
「確かに動物の皆もお菓子をあげれば食べます」
先生もこのことは否定しません。
「確かに美味しいと感じるでしょう」
「ですからいいと思っていました」
「しかしです」
「それでもなのですか」
「はい、私達人間は歯を磨くことが出来ますね」
先生は穏やかな顔のままジャイフルさんにお話していきます。
「食べた後で」
「しかしなのですか」
「動物の皆は出来ません」
歯を磨くことがというのです。
「ですから甘いものを食べますと」
「虫歯になるのですね」
「そうなってしまいます、それに」
「それにとは」
「ジャイフルさんの作られたお菓子ですが」
そのお菓子のお話もするのでした。
「おそらくですが」
「それでもですね」
「はい、甘いですね」
「実は私は甘党でして」
それで、というのです。
「インドのお菓子の甘さをです」
「再現されたのですか」
「はい、それがなのですね」
「よくなかったのです」
そうだったというのです。
「動物の皆にお菓子をあげること自体が」
「そうでしたか」
「ですから」
「これからはですね」
「皆を虫歯にしたくありませんね」
「私も虫歯になったことがあります」
このことからです、ジャイフルさんは答えました。
「痛くて仕方ありませんでした」
「ですからそのことをお考えになって」
「皆にお菓子をあげることをですね」
「はい、止めて下さい」
先生はこうジャイフルさんにお願しました。
「そうして下さい」
「わかりました、私も皆を困らせることは本意でありません」
ジャイフルさんもすぐに先生に答えました。
「ですから」
「それでお願いします」
「わかりました」
ジャイフルさんは皆にお菓子をあげることを止めることを約束しました、こうして今回の騒動はまずは終わることとなりました、ですが。
日笠さんはです、ジャイフルさんに尋ねることがありました。騒動が終わったうえで尋ねることはといいますと。
「あの、日本語は」
「祖国で学んでいました」
「だからお上手なのですね」
「留学するつもりでしたので」
「事前にですか」
「学んでいました」
そうだったというのです。
「書くことも出来ます」
「それは素晴らしいですね、それでなのですが」
「何でしょうか」
「先程仏教がヒンズー教の一つと仰いましたが」
「そのことですか」
「それはどういうことでしょうか」
「インドでは仏教はヒンズー教の一派と考えています」
ジャイフルさんは至って落ち着いた表情で日笠さんに答えました。
「仏陀はヴィシュヌ神の転生した姿の一つなので」
「だからですか」
「はい、ヴィシュヌ神はヒンズー教の神様ですね」
「三大神の一柱ですね」
「ですから」
それでというのです。
「仏教はヒンズー教の一派となります」
「そうした解釈なのですね」
「このことはご存知なかったのですか」
「全く」
日笠さんははじめて知ったというお顔のままでした。
「そうだったのですね」
「そうです、しかし」
「しかしなのですか」
「インド独特の考えですね」
「我が国だけなのですか、この解釈は」
「はじめて聞きました」
日笠さんの表情は変わっていません、今も。
「ですが覚えさせて頂きます」
「それでは」
「はい、それでは」
「それで日本で、ですね」
「学ばせて頂いています」
ヒンズー教の一派である仏教をというのです。
「そうさせて頂きます」
「それでは」
「そして他の宗教も学んでいますが」
ジャイフルさんはさらに言うのでした。
「ですからここにも」
「神社にもですね」
「お参りしています」
今度は先生にもお話します。
「そして観て回っています」
「フィールドワークもされているのですね」
「お寺もです」
「仏教の方も」
「そうですか、それでどう思われますか」
「不思議ですね」
ジャイフルさんの素直な感想です、仏教のお寺を観たうえでの。
「日本独特のものがあります」
「僕もそう思います」
「先生もですね」
「あっ、僕のことはご存知なのですか」
「ドリトル先生ですね、貴方のことは有名ですよ」
それも非常にというのです。
「学園の中でも」
「僕は有名人なのですか」
「多くの博士号を持たれている素晴らしい方として」
「あっ、いい意味でなのですね」
「悪い噂はありませんよ」
「だといいのですが」
「先生に悪い噂はないですよ」
トミーも先生に言うのでした。
「学識だけでなくそのお人柄も」
「太っていて動きが鈍くてもなんだ」
「そんなことマイナス要因にならないですよ」
「だといいけれどね」
「先生は素晴らしい方ですよ」
笑顔でお話するトミーでした。
「公平ですし」
「差別もしないっていうんだね」
「先生は差別はお嫌いですね」
「除け者にされたり嫌がらせをされて楽しい人はいないよ」
トミーにです、先生はまずはこう返しました。
「自分がやられて嫌だとね」
「他の人にはしないことですね」
「それにどんな人も動物もね」
誰もがというのです。
「違いはないから」
「そうです、先生はどんな人にも動物にも公平に接しますから」
「そのこともなんだ」
「評判がいいんですよ」
「贔屓も差別もしないから」
「そうしたことをする人は好かれないです」
絶対に、と言うトミーでした。
「先生はそうしたことからも好かれていますよ」
「僕は人気者なのかな」
「はい、人気がありますよ」
ジャイフルさんも微笑んで先生に答えます。
「宗教学部でも。神学の論文も書かれていますね」
「うん、何度かね」
「その論文も評価が高いですし」
このこともあって、というのです。
「先生は宗教学部でも人気がありますよ」
「そうだったんだ」
「ですからご安心して下さい」
こう先生にお話するのでした。
「その様に」
「それじゃあね」
「さて、それでなのですが」
お話が一段落したところで、です。日笠さんが言ってきました。
「お話も終わりましたし」
「はい、そうですね」
「もう後はですね」
「ここにいてもですね」
先生がその日笠さんに応えます。
「用件がないと」
「解散としませんか」
日笠さんは皆に提案しました。
「そうしますか」
「そうだね、じゃあ僕は家に帰って」
まず王子が応えました。
「くつろぐよ」
「ジャイフルさんは動物園と水族館の方に後で謝罪して頂くことになりますが」
日笠さんはこのこともお話しました。
「法的には犯罪にはなりませんしご本人も反省されていますし」
「だからですね」
「はい、それで終わりになると思います」
ジャイフルさんの謝罪で、というのです。
「無事に」
「もうしませんので」
「はい、ですから」
もう、というのです。
「終わりということで」
「それでなのですね」
先生も日笠さんに応えます。
「今日はこれで解散ということで」
「どうでしょうか」
「そうですね、もうお話も終わりましたし」
先生もこう言うのでした。
「でしたら」
「はい、解散ということで」
「わかりました、それでは」
日笠さんも応えてでした、そのうえで。
皆は解散となりました、王子もジャイフルさんもお別れしてです。トミーも先生に穏やかに笑って言いました。
「じゃあ僕も」
「あれっ、帰るんだ」
「そうさせてもらいます」
先生への返事です。
「晩御飯の用意をさせてもらいます」
「ああ、それでだね」
「今日は何がいいですか?」
「ロールキャベツかな」
先生はふとこのメニューを思い浮かべて答えました。
「お味噌汁とあとお野菜もあればいいね」
「じゃあお味噌汁を作って。それに」
「お野菜もだね」
「ゴーヤで何か作りますね」
「ああ、ゴーヤでだね」
「先生最近ゴーヤもお気に入りですね」
それでというのです。
「作らせて頂きます」
「それじゃあね」
「行って来ますね」
「それじゃあ僕達も」
動物の皆もでした、ここで。
先生にです、待ってましたと言わんばかりに言ってきました。
「トミーと一緒に帰るから」
「後は先生だけでね」
「好きにしてね」
「何処にでも行ってね」
「あっ、そうするんだ」
先生も皆に応えます。
「君達も帰るんだ」
「お家でくつろいでいるよ」
「暫くの間ね」
「だから先生だけでね」
「楽しくしてね」
「そうだね、丁渡神社に来たし」
それで、と言う先生でした。動物の皆の言葉を受けて。
「ここを観て勉強しようかな」
「日本の神社のことをですね」
「はい、そうしようと考えています」
先生は日笠さんにも答えました。
「いい機会ですので」
「ではご案内させて頂いて宜しいでしょうか」
すぐにでした、日笠さんは先生にこうも言いました。
「私が」
「そういえば神社のことにお詳しいのでしたね」
「この神社については」
八条神社のことについて、というのです。
「何度もお参りしていますし」
「だからですね」
「ですから宜しければ」
「わかりました、それでは」
先生は日笠さんの提案に応えてです、そしてなのでした。
あらためてです、日笠さんに言いました。
「案内をお願いします」
「それでは」
「じゃあ先生宜しくね」
「神社回ってね」
「日笠さんと一緒にね」
「そうさせてもらうよ」
先生は動物の皆の明るい言葉に笑顔で応えました、そしてなのでした。
皆がそれぞれ帰るのと見届けてからです、日笠さんと二人で神社の中を観て回りました。そしてその後で。
お家に帰りました、しかしなのでした。
動物の皆は先生が帰って来てです、少しびっくりして言いました。
「あれっ、ちょっと早いね」
「もう少し時間がかかると思っていたのに」
「もう帰ってきたんだ」
「少し早くない?」
「ううん、そうかな」
先生は迎えてくれた皆に首を傾げさせつつ応えました。
「早いかな」
「ひょっとして神社回っただけ?」
「それだけ?」
「そうだけれど」
まさにそうだと答える先生でした。
「それがよくなかったのかな」
「だからね」
「そこでなんだよ」
「神社を一緒に巡るだけじゃなくて」
「もっとなんだよ」
「プラスアルファがないと」
駄目だというのです。
「喫茶店にも行くとか」
「商店街も回るとか」
「それか大学に戻ってお話するとか」
「そうしたことがないとね」
「駄目だったんだよ」
「ううん、そうだったんだね」
言われてやっと気付く先生でした。
「じゃあ今回は」
「かろうじて、かな」
「デートはしたし」
「まあ合格?」
「不合格に近いけれど」
「それでもね」
皆辛口に言います。
「そこまでしただけでも」
「まだいいかな」
「先生にしては上出来だよ」
「女の人と付き合ったことがない人にしてはね」
「それでここまで出来たっていうのは」
「いいことよ」
「合格は合格よ」
「曲がりなりにもね」
「何か色々言われるね」
先生は皆に苦笑いで返しました。
「僕は」
「だってねえ、言われる様なことだから」
「こうしたことは特にね」
「先生はこれまでこうした話とは縁がなかったし」
「それだけにね」
「余計によ」
「そういうことなんだね、まあとにかくね」
先生はここでまた言いました。
「日笠さんとは一緒に神社を見て回ったよ」
「他にもね」
「他にも色々と回るんだよ」
「色々な場所をね」
「そうしてね」
「機会を見てだね」
先生は皆に穏やかな笑顔のままで応えました。
「そうだね」
「そう、焦らなくていいから」
「とはいっても先生は焦る人じゃないけれどね」
先生は決して焦ることはありません、どんなことでも。それが先生の特徴の一つであり長所の一つでもあります。
動物の皆もそのことがわかっています、それで言うのです。
「まあそれでもね」
「そのことは気を付けてね」
「絶対に焦らない」
「落ち着いていこうね」
「日笠さんのことも」
「しかし。結婚とはね」
それはとも言う先生でした。
「僕にとってはね」
「だからもう先生もいい歳だよ」
「立派な中年じゃない」
「油断していたら婚期逃すよ」
「待ったなしなのよ」
「そう言うけれどね」
どうもという感じでまた言う先生でした。
「想像出来ないな、僕は」
「じゃあ先生は今の状況を想像出来ました?」
ここでトミーがです、先生に笑ってこう言ってきました。
「今日本におられる状況を」
「イギリスにいた時にだね」
「はい、そうしたことは」
「いや、王子とすき焼きを食べながら話すまでね」
それまではすき焼きとも縁がありませんでした、今では先生の好物の一つともなっているお料理ですが。
「全くだったよ」
「そうですね、ですから」
「結婚もなんだね」
「想像出来なくて当然ですよ」
「その時にならないとなんだ」
「人間は未来はわからないです」
それこそ誰にもです。
「ですから」
「想像出来なくてもいいんだね」
「僕はそう思いますよ」
これがトミーの先生への今の言葉でした。
「なるようになりますよ」
「結婚も」
「これこそですよ」
「一番なるようになるんですね」
「努力次第で」
トミーはこの要素を言うことも忘れませんでした。
「なっていきますよ」
「じゃあ僕のペースでやっていけばいいかな」
「それはよくないよ」
「先生のペースだとね」
このことは動物達がしっかりと言うのでした。
「恋愛のことについてはね」
「先生の恋愛の疎さは凄いから」
「だからね、もっとね」
「そこは必死にやってね」
先生のペースではなく、というのです。
「そうしてなる様になってね」
「そこは頼むよ」
「そういうことだね、じゃあ努力していくよ」
必死に、と言う先生でした。その先生にです。
トミーがです、このことも言いました。
「そうそう、今度の土曜日ですけれど」
「土曜日に?」
「サラさんが来られますよ」
「ああ、また日本に来るんだ」
「ご主人のお仕事の付き添いで」
それで、というのです。
「来られますので」
「ここにも来るんだ」
「絶対に来るって仰ってます」
そのサラがというのです、先生の妹さんのこの人はよくイギリスから日本に来て先生にあれこれと言うのです。
「ですから土曜日は」
「またサラとだね」
「お話することになります」
「サラ元気かな」
先生はサラが来ると聞いてのどかな調子で言うのでした。
「先月も来たけれど」
「携帯のお声聞くとお元気ですよ」
そうだとです、トミーは先生に答えました。
「いつも通り」
「だといいけれどね」
「ティーセット用意していますので」
「紅茶にだね」
「これもいつもの三段で」
イギリス風の三段ティーセットです。
「それでいいですね」
「最高だね、それじゃあね」
「はい、サラさんをお迎えしましょう」
こうお話してでした、そのうえで。
騒動を収めた先生はサラともお話するのでした、一つのお話が終わったところでまた別のお話となるのでした。
ようやく犯人が判明したな。
美姫 「そうね。でも悪気があった訳じゃなかったみたいね」
良かれと思ってたみたいだしな。
美姫 「反省もしているし、大事にならずに済んで良かったわね」
だな。これで虫歯騒動もようやく一段落だな。
美姫 「先生も少しだけれど日笠さんに対して頑張ったしね」
で、どうやら妹さんが来るみたいだが。
美姫 「どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」