『ドリトル先生と学園の動物達』
第五幕 恐ろしい甘さのお菓子
日笠さんがお菓子を持って来てくれました、そのお菓子達はといいます。
「ケーキにエクレアに」
「はい、クッキーです」
その三種類でした。
「先生のお話を聞きまして」
「それで三段のティーセットに合わせてですか」
「一種類ではなくそれでいこうと思いました」
にこりと笑ってです、日笠さんは先生に言うのでした。
「これで如何でしょうか」
「いいですね、それでは」
「今からティータイムも兼ねてですね」
「どの様なお菓子か確かめましょう」
「実は私は試食はしていないのですが」
日笠さんが作ったそうですがそれは日笠さんご本人はしていないとのことです。
「試食してくれた人のお話では」
「何と仰っていたのでしょうか」
「驚くべき甘さだと」
それこそ、というのです。
「驚く位に」
「そこまで甘いのですか」
「こうしたものを食べていると」
日笠さんは先生達が用意してくれていた三段ティーセットの中にそのお菓子達を入れながらお話するのでした。
「歯を磨かないと」
「虫歯になるというのですね」
「はい、そこまでです」
甘いというのです。
「そして糖尿病でも」
「そこまで甘いのですか」
「はい、言われました」
そうだったというのです、試食してくれた人のお話ですと。
「実際に」
「左様ですか」
「ですからそのことを頭に入れて」
「今からですね」
「召し上がりましょう」
「それでは」
こうして先生達は日笠さんと一緒にでした、ティータイムを兼ねてそのうえでお菓子を食べることにしました。
そしてです、一口食べてです。
すぐにでした、トミーが驚いたお顔で言いました。
「あの、美味しいですけれど」
「そうだね」
王子もびっくりしているお顔でです。
「これはね」
「甘いなんてものじゃなくて」
「お口の中がそれこそ一瞬で」
「甘さに包まれて」
それで、というのです。
「もうどうしようもなくなるよ」
「何、この甘さ」
「信じられないよ」
そこまでの甘さだというのです。
「これはね」
「そうだね」
「あの、本当に」
「これは」
到底、というのです。
「甘過ぎて」
「僕には辛いよ」
「美味しいから食べられるけれど」
「ここにある以上はね」
「無理だよ」
到底というのです、とにかくです。
先生も日笠さんもです、びっくりして言うのでした。
「この甘さは」
「作った私が言うのも何ですが」
「ちょっと以上に」
「凄過ぎます」
「これだけの甘さは」
それこそ、と言う先生でした。
「イギリスにもないです」
「そうですか」
「あの、糖分がですか」
「これだけでした」
調査の結果わかったことだというのです、そしてそれを再現してみたのが日笠さんが作ったこのお菓子達だったのです。
それでなのでした、作った日笠さんも言うのです。
「本当にこうしたものを食べていますと」
「虫歯になりますね」
「糖分が多過ぎます」
それこそ桁外れにです。
「動物達が虫歯になるのも当然です」
「こうしたものを食べて歯を磨かないと」
「とてもです」
「そうですね、しかし」
「しかしとは」
「これだけ甘いお菓子はやはり市販にはないですね」
スーパーやお菓子屋さんにあるレベルではないというのです。
「イギリスのケーキ屋さんでもこれだけ甘いケーキはないです」
「日本にもです」
「むしろ日本のケーキは甘さが穏やかですね」
「そうですね、その日本のケーキと比べますと」
それこそ、と言う日笠さんでした。
「信じられない位です」
「実際にお砂糖等は」
「私これまでケーキはかなり作ってきました」
「それでもですか」
「はい、他のお菓子もですが」
それでもだおtいうのです。
「いつもの十倍はお砂糖を使っていました」
「十倍ですか」
「こんなに使っていいのかという位に」
そこまで使っていたというのです。
「使ってです」
「そうして作ったのですか」
「蜂蜜やシロップもかなり使いました」
「それでこの甘さなのですね」
「そうです、これは恐ろしいものになるとさえ」
その甘さがです。
「そう思って作りましたが」
「実際にこの甘さになったのですね」
「恐ろしいまでに」
「左様ですか、これは」
本当にとです、先生も食べながら言います。
「甘過ぎますか」
「ここまで甘いお菓子を作られる人はいないです」
こうまで言う日笠さんでした。
「とても」
「そうですね、イギリスにも」
そしてついこう言った先生でした。
「ふと思い出したのですが」
「何をでしょうか」
「僕は世界中を巡ってきましたが」
月にも行ったことがあります、先生はそれこそ世界中を旅しています。それで世界中のお料理も食べてきています。
その先生がです、思い出したことはといいますと。
「ここまで甘いのは一つだけです」
「一つだkですか」
「インドですね」
この国の名前を出すのでした。
「インドのお菓子が」
「ここまでの甘さなのですか」
「そのことを思い出した」
「それじゃあね」
動物の皆もそのお菓子を食べています、そしてあまりもの甘さにかなり困っています。その中でジップが言ってきました。
「インド人が作ってるのかな、このお菓子」
「それでこんなに甘いっていうんだね」
「だってこんなお菓子他はだよね」
「うん、ないよ」
インドにしかない甘さだというのです。
「僕の知る限りはね」
「確かにね」
ガブガブもここで言います、食いしん坊のガブガブですらこのお菓子達の甘さには困り果てて苦労しつつ食べています。
「この甘さはね」
「インドのものだっていうんだね」
「食べてみてそしてね」
先生を見上げながらです、ガブガブは先生に答えます。
「先生のお話を聞くとね」
「そう思ったんだね」
「これはインドのお菓子だよ」
そのレベルの甘さだというのです。
「それだよ」
「全くだよ、これはね」
「これだけ甘いとね」
オシツオサレツもあまりもの甘さに苦労しつつ食べて言うのでした。
「インドのお菓子だよ」
「他にはないよ」
「アフリカにもなかったよ、この甘さは」
「オセアニアにもね」
チーチーとポリネシアも言います。
「どうしたらこんなに甘くなるのかっていう位に」
「甘いにも程があるよ」
「ちょっとね」
「これはね」
「ううん、僕はね」
「私もこれはないわ」
トートーとダブダブも食べていますがお茶を飲みつつ何とかという感じです。
「オーストリアのザッハトルテもかなりの甘さだったけれど」
「スペインのお菓子もね」
「けれどこれはね」
「そんなレベルじゃないわ」
「これは後でね」
「歯を磨かないとのう」
ホワイティと老馬はこのことを気にしています。
「虫歯になるよ」
「絶対にな」
「僕達は歯がないからね」
「そのことは安心していいけれど」
チープサイドの夫婦も辟易する甘さです。
「これはね」
「お茶が一杯必要よ」
「これ本当に甘過ぎるよ」
「無茶苦茶だよ」
チープサイドの子供達も言うことでした。
「僕達あまり食べられないよ」
「甘いものは好きだけれど」
「それでもね、これはね」
「甘過ぎて、あまりにも」
「お茶があってやっとだよ」
「信じられない位甘いよ」
「全くだね、僕にしても」
また言う先生でした。
「苦戦しているよ」
「あの、実際に味わってみて思ったのですが」
日笠さんも同じお顔です、あまりもの甘さの前に。
「これはかなり限られた人が作ったもので」
「手作りのお菓子ですね」
「そう思います、私も」
市販ではないことは明らかでした。
「一体誰か、ですね」
「そのことが問題ですね」
「そう思います、そうなりますと」
ここでなのでした、日笠さんが言うには。
「この動物園、水族館や植物館もですが」
「そうした施設はですね」
「八条学園の全ての施設には防犯カメラが設置されています」
「学園の中でもですね」
「何処でも悪いことは起きるものですから」
それこそ学園の中でもです、よくないことが起こってしまうのもまた世の中なのです。勿論八条学園もです。
「ですから」
「そういうことですね」
「はい、それでその防犯カメラで」
「誰がお菓子を投げているのかをですね」
「調べましょう」
こう先生に言うのでした。
「虫歯の原因は間違いないので」
「お菓子ですね」
「しかもこの甘さは」
「日本にはないものですね」
「とてもありません」
日笠さんは首を横に振ってさえいます。
「そしてそれはですね」
「イギリスでもです」
先生のお国でもなのでした。
「ありません、ただ」
「例外はありますね」
「極端な甘党の人もいるでしょう」
「どの国にも」
「そしてお菓子を作る人も」
極端な甘党のうえに、です。
「そうした人もおられるでしょうから」
「一概にどの国の人とは言えませんね」
「はい、ですが」
「防犯カメラで、ですね」
「どの人がお菓子を投げ込んでいるか」
「そのことを調べて」
「はい、そして」
そのうえでだというのです。
「調べてみましょう」
「誰がこの様なお菓子を動物達に与えているのかを」
「そうしましょう」
「それでは」
「しかし、本当に甘過ぎますから」
トミーはケーキを口を何とか保っているという様子でフォークを使って食べながらです、先生と日笠さんに言うのでした。
「これは」
「作る人もですね」
「限られます、それに」
「それに?」
「かなりの動物達が虫歯になってます」
このことも言うのでした。
「それを考えますと」
「かなりの種類の動物達のコーナーにですね」
「犯人、そう言っていいかはわかりませんが」
この前置きをしてさらにお話するトミーでした。
「その人はお菓子をあげて回っていますね」
「そうですね、それでは」
日笠さんはトミーのお話を聞いて言いました。
「園内の全ての防犯カメラをチェックして」
「そのうえで」
「はい、全体をチェックしまして」
そして、というのです。
「どの人がお菓子をあげているのかを確かめましょう」
「鰐やアナグマ、シロクマ、ゴリラのコーナーも」
「肉食動物にもお菓子をあげていますので」
彼等のコーナーにも行っているというのです。
「そのことも考えて」
「そうしてですね」
「全ての防犯カメラをチェックします」
「そこでお菓子をあげている人が」
「いる筈です、しかも同一人物が」
複数のコーナーにというのです。
「通っていてお菓子をあげています」
「そうなればかなり限られますね」
「そうです、そうすればわかります」
「では」
「今度は防犯カメラです」
園内のそれを全てチェックして、というのです。
「そうすればいいですね、では園長先生にもお話します」
「園長先生にもお話はいっていますか」
「はい、園内の動物の健康のことですから」
それ故にとです、日笠さんは先生にお話します。
「ご存知です」
「そうなのですか、では」
「先生も園長先生にお会いになられますか?」
ここで日笠さんは先生に尋ねました。
「その様に」
「そうですね、この件の解決の為には」
その為にはと言う先生でした。
「お会いしたいと思います」
「それでは」
「とにかくです」
「動物達ですね」
「彼等を何とかしないと」
彼等の虫歯、それをというのです。
「いけませんので」
「では」
「今日は検診を続けて」
「明日ですね」
「明日お会いしましょう」
その園長先生にというのです。
「そうしましょう」
「わかりました、それでは」
「その様に」
このことも決まりました、先生が動物園の園長先生とお会いすることもです。そして日笠さんは先生にこうも言うのでした。
「それとですが」
「はい、それで」
「水族館でもです」
「動物達が虫歯にですか」
「なっているのです」
彼等もというのです。
「歯のある動物達が」
「海豚達がですか」
「いえ、海豚達は水槽の中にいますので」
それで、というのです。
「餌の類も投げ込めないので」
「被害はないですか」
「彼等は大丈夫です」
「ではアシカやアザラシがですね」
「そうです、水のコーナーにいるのですが」
「そこはものが投げ込めるからですね」
「ですから」
それで、というのです。
「虫歯になっている子も多いです」
「左様ですか、水族館のお話も出ていましたが」
「ですから水族館にもです」
「はい、先日のお話通りですね」
「来て頂いて」
そのうえで、とです。日笠さんは先生にお話します。
「とはいっても私は水族館は管轄外ですが」
「動物園の獣医さんだからですね」
「あちらはあちらで獣医がいます」
水族館担当の獣医さんがというのです。
「私が連絡をさせて頂きますので」
「だから僕が水族館に行ってもですね」
「はい、大丈夫です」
こう先生にお話するのです。
「そちらへの連絡も」
「では僕が行かせてもらえば」
「すぐに診察にかかれますので」
「そうですか、それでは」
「そちらもお願いします」
「はい、しかし先生は」
ここで日笠さんは先生にこうも言うのでした。
「よく動かれますね」
「診察と治療にですか」
「いきなりの申し出だったのですが」
「いえいえ、動物の皆の為ならです」
温厚な笑顔で、です。先生は日笠さんに答えるのでした。
「何も問題はありません」
「そうなのですか」
「では日笠さんは動物が急病になったらどうしますか?」
「その時はですか」
「はい、どうされますか」
「決まっています、例えどんな状況でもです」
日笠さんは先生にはっきりとした声で答えました。
「行ってそうして」
「診察してですね」
「助けられる命は助けます」
そうするというのです。
「絶対に」
「そうですね、ですから」
「先生もですか」
「はい、そうします」
こう先生に答えました、澱みのない声で。
「それが獣医の務めですから」
「僕もですよ」
先生は日笠さんにこうも言いました。
「そのことは」
「だからですか」
「僕も医者の端くれです」
それ故にというのです。
「その時は同じです」
「そうですか、先生も」
「はい、ですから今回も」
「こうしてですね」
「協力させてもらっています」
日笠さんにこうもお話するのでした。
「では水族館にも行かせてもらいますので」
「そちらもお願いします」
こうしてでした、先生は水族館にも行くことになりました。ですが水族館の動物達のことについてトミーがお家で先生に言いました。
「水族館はものが投げ込めない場所が多いので」
「うん、だからね」
先生もトミーの言いたいことがわかっていて応えます。
「虫歯になっている動物は限られるよ」
「そうですよね」
「しかもお水の中に入るから」
「お口も洗われて」
「水族館の動物で虫歯になっている子は少ないよ」
「ですね、鮫とかにしましても」
トミーは海にいる皆が知っているお魚の名前も出しました。
「お菓子を食べることがないですから」
「うん、彼等が虫歯になっていることはね」
「ないですね」
「そうみたいだよ、聞いた話では」
「そうですか、そういえば」
「そういえば?」
「鮫は虫歯になっても大丈夫ですね」
ここでこうも言ったトミーでした。
「歯が何度でも生え替わりますから」
「うん、彼等はね」
実際にそうだと答えた先生でした。
「それが彼等の特徴だから」
「歯が生え替わることって便利ですね」
「実際にそうだと思うよ、ただ」
「ただ?」
「人間がそうなるとね」
鮫みたいに歯が幾らでも生え替わると、というのです。
「ちょっと怖いかな」
「確かに。言われてみますと」
「そうだよね、便利でもね」
それでもだというのです。
「怖いものがあるよね」
「あれは本当に鮫だけですね」
「そう、人間や他の生き物にはないよ」
あくまで鮫だけの特徴だというのです。
「あれはね」
「そうですね、それと」
「それと?」
「一つ思うことは」
それはといいますと、鮫の歯について。
「あの歯はもうナイフみたいで」
「鋭いね」
「確かにあの歯で噛まれたら大変ですね」
「顎の力も強いしね、鮫は」
「映画みたいなことが実際にありますね」
「鮫に襲われた話は実際にあるよ」
先生もこのことをお話します、二人で晩御飯の後でちゃぶ台を囲んでお茶を飲みながらです、こうしたお話をするのでした。勿論動物の皆も一緒で老馬とオシツオサレツはお庭にいてそこから先生とトミーを見ています。
「けれどそれはね」
「それは?」
「鮫が襲うのは死体や弱っている人が多いんだ」
「映画みたいなことはですね」
「滅多にないよ」
実際はそうだというのです。
「危険なのは事実だけれどね」
「ああして元気な人を襲うことはですか」
「あまりないよ、ましてやね」
「ましてや?」
「ボートの上に乗っている人を襲う様なことはね」
そうしたことはといいますと。
「鮫はしないよ」
「映画ではありましたけれどね」
「映画は映画だよ」
現実ではないというのです。
「そこは注意してね」
「ですね、映画は面白いですが」
「現実とは違う場合が多いよ」
「鮫のことにしても」
「そう、他の生きものにしても同じだよ」
先生はトミーに温和な笑顔でお話するのでした。
「人間だって聞いた話と実際は違うね」
「そうですね、僕もそうしたことがありました」
「聞いた話と実際に会って感じたことが」
「違ったっていうことが」
「あったね」
「そうでした、だから鮫も」
「うん、映画の鮫はあくまで現実の鮫とは違うんだ」
ああした人をボートの上にいても襲う様なことはというのです。
「現実の鮫には現実の鮫への注意が必要だよ」
「注意の仕方は色々ありますね」
「そう、そのことがわかっていればね」
「鮫にも安心出来ますね」
「知ることだよ、その生きもののことを」
鮫に限らずというのです。
「そうすれば怖くないから」
「人もそれは同じですね」
「そうだよ、ただ僕はヤクザ屋さんはね」
そうした人達はといいますと。
「苦手だけれどね」
「それは僕もですよ」
トミーもだとです、笑って先生に答えるのでした。
「ヤクザ屋さんは苦手ですよ」
「普通にそうだね」
「だって怖いですから」
これまでお話していることとは別の怖さです、この場合の怖さとは。
「ああいう人達は」
「そうだね、普通の人達じゃないからね」
「ヤクザ屋さんはまた別ですね」
「うん、悪い人達だからね」
「近寄らない方がいいですね」
「そう、近寄るだけでね」
まさにそれだけでなのです。
「言い掛かりをつけられたりするから」
「ああいう人達は何処にでもいますね」
トミーはこのことについては残念なお顔で言うのでした。
「日本にも」
「イギリスにもいてね」
「他の国にも」
「人間の社会にはどうしてもね」
「ああした人達もいるんですね」
「どうしてもね。それにね」
「それに?」
トミーは先生の言葉にまた尋ねました。
「それにといいますと」
「ああした人達がいない社会はね」
そうした社会でないというのです。
「かえってよくなかったりするんだ」
「そういえば」
先生の今の言葉を聞いてでした、トミーも言いました。
「ナチスとかソ連はそうでしたね」
「ああした社会にはヤクザ屋さんはいなかったね」
「はい、確かに」
「独裁者は表も裏も自分のものにしたいんだ」
独裁者は全てを自分のものにして動かしたいのです、それは表についても裏についても同じことなのです。
それで、です。ヤクザ屋さんもなのです。
「だからヤクザ屋さんをいなくしていくんだ」
「悪いお仕事をなくしていって」
「そうしてね」
まさにというのです。
「いなくなってしていったけれど」
「イタリアのマフィアなんかそうでしたね」
「ムッソリーニの頃のイタリアもね」
「それでナチス=ドイツやソ連も」
「そうした人達はいなかったよ」
少なくともかなり減っていました。
「けれどそれ以上にね」
「まずいことになってますよね」
「独裁者はヤクザ屋さんより危険だよ」
先生はトミーにはっきりと言いました。
「ヤクザ屋さんは確かに問題があるけれど」
「それ以上にまずい人もですね」
「いるからね」
「ううん、世の中って難しいですね」
「そうだよ、悪い人達がいないに越したことはないけれど」
それでもです、悪い人達がいない世界もまたどうかといいますと。
「そうしたことが出来る社会は独裁者のいる世界で」
「ヤクザ屋さんがいるよりもっとまずい世界ですね」
「そういうものなんだ」
こうトミーにお話するのでした、そしてでした。
先生はです、皆にこうしたことを言いました。
「僕は独裁者かな」
「先生が独裁者?」
「そうかって?」
「うん、どうかな」
こう尋ねたのでした、皆に。
「僕は皆にそうしているのかな」
「まさか」
「そうだよね」
皆は先生の言葉を聞いてそれぞれ言うのでした。
「僕達の言葉はいつも聞いてね」
「忠告は聞くし」
「自分で全て決めないし」
「というかいつもね」
「何かする時はね」
「絶対に僕達の話を聞いてね」
家族会議をしてなのです、先生は。
「それからだからね」
「何をするのか決めるから」
「先生は独裁者じゃないよ」
「先生は先生だよ」
「独裁とは無縁だよ」
「むしろ、ね」
先生は独裁者どころではなく、というのです。
「ヒトラーやスターリンとは正反対の人だから」
「全然違うよね」
「自分で何でもしようって人じゃなくて」
「皆でしていく人だね」
それが先生なのです、独裁者とは正反対です。
それでダブダブは先生にです、こうしたことも言いました。
「というか独裁者って何でも出来ないと駄目だよね」
「そうだよ、少なくとも能力がないとね」
「務まらないわよね」
「そうじゃないと出来るものじゃないよ」
「じゃあ先生絶対に独裁者になれないよ」
ダブダブは先生に対して断言しました。
「間違ってもね」
「間違ってもなんだ」
「だって先生私達がいないとね」
「何も出来ないから」
ポリネシアも言うのでした。
「家事もお金の勘定もね」
「全然駄目じゃない」
「確かに凄くいい人でお医者さんだけれど」
「世の中のことはね」
つまり世事は、なのです。先生は。
「何も出来ないから」
「独裁者になることはね」
「無理よ」
「出来ることじゃないわね」
「僕もそう思うよ」
他ならぬ先生自身もでした、独裁者になれると思っているかどうかといいますと実は違っていたりします。
「少なくともヒトラーやスターリンは凄い能力があってね」
「それこそ何でもよね」
「した人よね」
「僕とは正反対だよ」
笑っての言葉でした、それも明るく。
「演説とかもしないといけないし、書類仕事もね」
「先生論文は書けるけれどね」
「けれど書類仕事もね」
「お役所にも疎いし」
「演説なんてね」
それこそ、というのです。
「とてもだよね」
「無理だよね」
「出来るものじゃなくてっていうか」
「縁がないわ」
「しかも独裁者なんてあれだよ」
チーチーが言うことはといいますと。
「自分が何でもするんだよね」
「その国のね」
「凄い権力を持っているだけあって」
「権力があるとね」
「その分のことをしないと」
それこそ、というのです。
「自分が失脚してしまうからね」
「だからお仕事もかなりだよね」
「独裁者は働き者でないと出来ないよ」
これもとてもなのです。
「僕は寝ないで働くとかね」
「出来ないよね、先生は」
ジップも言ってきました。
「程よく食べてね」
「うん、程よく寝ないとね」
「先生は動けないよね」
「快食快眠は健康の第一歩だよ」
「それを忘れたらね」
「うん、駄目だからね」
それでだというのです。
「独裁者みたいに寝ずにお仕事ばかりとか」
「先生はしないね」
「そうはしないよ」
また言うのでした。
「ちゃんと休む時は休むよ」
「特にお茶の時はね」
「お茶は絶対に飲まないと」
三時のこれは先生にとっては絶対です、三度の御飯とこれは何があろうとも欠かさないのが先生です。だからなのです。
「僕は何も出来ないよ」
「独裁者になったら」
「忙しいからね」
先生はトートーにも言います。
「一日四時間しか寝られないとかね」
「それじゃあもうお茶も」
「忙しくて飲めないだろうね」
「三段のティーセットもだね」
「僕にとっては毎日ないと駄目だけれど」
それもだというのです。
「忙しいと楽しめないだろうね」
「先生ってね」
「ティーセットも絶対に必要だからね」
チープサイドの夫婦も言うのでした。
「それも三段のね」
「そうだよ、お茶と三段のティーセットがないと」
それこそ、なのです。先生は本当に。
「駄目だよ」
「つまり今みたいにだよね」
「そう、気楽にのどかにね」
暮らしていきたい、それが先生のささやかな願いです。
「ティータイムも楽しんで」
「そうそう、だからね」
「先生は独裁者になれないね」
「あらゆる意味でね」
「向いていないどころじゃなくて」
チープサイドの子供達もその通りだと両親の言葉に頷いています、そうしたことをお話してなのでした。
ガブガブはホワイティにです、こう尋ねたのでした。
「独裁者って軍服着るよね」
「ああした服をね」
ホワイティもガブガブに答えます。
「ヒトラーもスターリンも着てたね」
「ムッソリーニもだったね」
「そうだよ、独裁者は軍服を着ることが多いよ」
全部の独裁者がそうではないですがそれでもです。
「けれど先生はね」
「先生が軍服ねえ」
ガブガブは首を傾げさせました。
「何かイメージ出来ないね」
「全くね」
「先生がヤクザ屋さんになることも考えられないけれど」
さっき先生が言ったそのこともなのです。
「軍服もね」
「想像出来ないね」
「全然ね」
「本当に先生は生成だよ」
それに尽きました、老馬も先生に言います。
「先生、今日は何か深いお話になったね」
「そうなるかな」
「ヤクザ屋さんのこととか独裁者のこととかね」
「別に深い話をするつもりはなかったけれどね」
それでもだと言う先生でした。
「そうなったかな」
「そう思うよ、わしは」
「少なくとも僕は独裁者でもヤクザ屋さんでもないから」
「先生にはどっちもね」
「無縁だね」
オシツオサレツも二つの頭で先生にお話します。
「先生は先生」
「それ以外の誰でもないよ」
「穏やかで温厚なね」
「僕達の先生だよ」
「うん、これからもそうありたいね」
まさにと言う先生でした。
「僕にしても」
「うん、独裁者になんかならないで」
「ずっと先生でいてね」
「そうじゃないと何か違うから」
「そういえばですけれど」
ここでトミーが思い出したことはといいますと。
「ヒトラーって最後の最後に結婚しましたよね」
「エバ=ブラウンとね」
先生はトミーのその言葉に答えました。
「自決するその直前にね」
「それまではずっと独身でしたね」
「それどころかエバ=ブラウンのことも殆どの人が知らなかったよ」
ナチスの高官達でも殆どの人が知らなかったのです、ヒトラーにエバ=ブラウンという人がいたということを。
「自伝で結婚の話を聞いて驚いていた将軍もいたよ」
「将軍ですらですか」
「うん、知らなかったんだ」
「そこまで秘密だったんですね」
「そう、そして死ぬ直前まで」
自殺したそのまさに直前までだったのです。
「ヒトラーは一人だったから」
「ヒトラーは独身、つまり実質的にですね」
「彼は生涯独身と言ってもよかったよ」
「随分孤独な人だったんですね」
「独裁者は孤独なものだけれどね」
「何か寂しいですね」
「幾ら権力を持っていてもね」
先生はそのお顔を遠いものにさせてお話するのでした。
「寂しいと悲しいね」
「全くですね」
「幸せは人それぞれだよ」
こうしたことも言う先生でした。
「ヒトラーは孤独でしかも物凄く禁欲的だったらしいね」
「菜食主義者でお酒も煙草もしなくて」
「勿論ギャンブルもしなくて女の人ともね」
遊ぶことはなかったのです、そうした遊びも。
「凄く真面目な生活だったんだ」
「趣味は読書とかだったんですか」
「後は音楽鑑賞、歌劇も好きだったよ」
「イメージと違うね」
「全然ね」
ジップとチーチーも言います。
「てっきり拷問とか好きかと思ってたけれど」
「食べるものもお肉ばかりとかね」
「権力を使ってやりたい放題とか」
「そういうことしてそうだったのに」
「ヒトラーはそうした人だったんだよ」
先生は動物の皆にも彼についてお話するのでした。
「確かにヤクザ屋さんより厄介な人だったけれどね」
「ヤクザ屋さんはギャンブルの元締めですからね」
このこともまたどの国でも同じです、皆がこの前までいたイギリスでもです。それでトミーも言うのでした。
「日本でも」
「賭場があってね」
「ヤクザ屋さんが仕切っていたんですね」
「そうしていたからね」
それで、というのです。
「ヤクザ屋さんはそちらだよ」
「悪いことをすることがまさにお仕事ですね」
「そしてそのヤクザ屋さんよりもですね」
「真面目なヒトラーは厄介なんだよ」
「それも世の中の厄介さですね」
「そのうちの一つだね」
先生はトミーに述べました。
「こうしたことも」
「全くですね」
「このことはね」
「ううん、ヒトラーがヤクザ屋さんより酷い悪人かといいますと」
「また違うんだ」
「人種的偏見があっても」
ヒトラーはそちらはかなり強かったです、言うまでもなく。
「物凄い真面目な生活だったんですね」
「僕なんかより遥かにね」
先生はお酒は好きです、煙草は吸いませんが。
「まあ独身なのは同じかな」
「だからね」
「早く結婚しないと」
「そこはヒトラーと一緒だとよくないから」
「ちゃんと相手を見付けるの」
またこのことについてです、動物達は一斉に言うのでした。
「別に菜食主義者になれとは言わないし」
「煙草を吸っても構わないけれど」
「ギャンブルも程々だったらね」
「別にいいけれど」
ちなみに先生はギャンブルもしません。
「それでもだよ」
「結婚はしないと」
「是非ね」
「意地でもよ」
「またその話になるね、どうしたものかな」
一人だけのどかに笑って言う先生でした。
「本当に」
「どうしたものかじゃなくて」
「もっとね」
「頑張ってくれないと」
「困るんだけれど」
「ううん、それはね」
先生は実際に困った顔で言います。
「僕も考えてはいるよ」
「いや、考えていてもね」
「それが強くないと」
「そして実行に移して」
「実らさせないと」
「皆このことについては厳しいね」
先生から見ればそうです、それもとても。
「もっと穏やかにいきたいけれど」
「マイペースで?」
「そうしていきたいの?」
「うん、駄目かな」
「そう言ってずっとだからね」
「先生このことに関してはね」
それこそ先生が若い時からです。
「だから僕達もなんだよ」
「結構必死に言ってるの」
「そういうことだから頼むよ」
「そっちも努力してよ」
「ううん、わかってはいるんだけれどね」
最後はお茶を濁す先生でした、しかし。
先生は根っからのマイペース人間です、それで今もこう言うのでした。
「じゃあ飲もうか」
「お酒を?」
「それを今から」
「うん、ウイスキーにしようか」
こう言うのでした、今夜飲むお酒はというのです。
「今日飲むお酒は」
「ウイスキーもいいですけれど」
それでもというトミーでした。
「今日はブランデーはどうですか?」
「ブランデーなんだ」
「いいブランデーを貰いまして、王子から」
「ああ、王子から」
「はい、どうですか?」
「そうだね、ブランデーもいいね」
先生はトミーの言葉に頷きました、そうして言うのでした。
「じゃあアイスクリームを出して」
「はい、皆で」
「食べましょう」
こうお話してでした、そのうえで。
やっぱりマイペースで楽しむ先生でした、結婚のことも考えてはいるのですがそれでも先生のペースのうえでのことです。
原因は甘すぎるお菓子か。
美姫 「とりあえず、原因が分かって次は誰があげたのかね」
そちらは防犯カメラから探す事になるみたいだな。
美姫 「先生の方は水族館の方へお手伝いに行くって所かしら」
だな。動物たちはやっぱり先生の結婚について色々と言っているけれど。
美姫 「当の本人はいつも通りって感じよね」
こちらはどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。