『ドリトル先生と学園の動物達』




              第四幕  お菓子の謎

 ティータイムの時にです、動物園の屋外にあるテーブルに座ってお茶とティーセットを楽しむ先生にガブガブが呆れた顔で言うのでした。
「やれやれだよね」
「本当にね」
 ダブダブもガブガブに続いて言いました。
「先生はねえ」
「こうだと思ってたけれど」
「それでもね」
「あれはないだよね」
「本当にね」
 こう二匹で先生に言うのでした。
「何で世間話で終わるのかな」
「本当にわかってないわね」
「あそこで言わないと」
「だから相手の人がいないのよ」
「日笠さんだってまんざらでもない感じなのに」
「少なくとも嫌ってないわね」
 先生をというのです。
「このことは間違いないわね」
「そうだよね」
「日笠さんって悪い人じゃないわよ」
「むしろいい人だね」
「あの人ならと思うけれど」
「それでも」
 先生を見て言うのでした。
「先生ときたら」
「どうしたものかしら」
「一体何を言ってるのかな」
 先生は目を瞬かせながらガブガブとダブダブに問い返しました、お砂糖を入れて甘くなっているミルクティーを飲みながら。
「僕のことかな」
「そう、先生のことだよ」
「そして日笠さんのことよ」
「本当にわかってないんだね」
「呆れるわ」
「ううん、何が呆れるのかな」
 今度は首を傾げさせた先生でした。
「一体」
「じゃあ先生聞くわよ」
 今度はポリネシアが先生に言ってきました。
「先生今誰と一緒にお茶を飲んでるの?」
「誰とって?」
「そう、誰とよ」
 一緒に飲んでいるかというのです。
「飲んでるのよ」
「そんなこと決まってるじゃないか」
 先生はポリネシアににこりと笑って答えました。
「皆とだよ」
「私達とよね」
「そうだよ、この通りね」
「はい、それでもうアウトだから」
「全くだよ」
 チーチーも腕を組んで言うのでした。
「困ったことだよ」
「アウトって」
「アウトもアウトよ」
「そもそもお話の時だってね」
 ポリネシアとチーチーで先生に言っていきます。
「もっと突っ込めたのに」
「不覚出来る機会あったのに」
「それがあったのに」
「それがね」
 残念そうに言うのでした。
「これは大変よ」
「全く以てね」
「うん、僕もそう思うよ」
「僕もだよ」
 ジップとトートーも呆れ顔でした。
「あそこでもっとね」
「押すべきだったし」
「今だってわかってないし」
「どうしてこうなのかな、先生って」
「本当にね」
「僕達も気が気でないよ」
「ううん、やっぱりわからないね」
 本当にこうしたことには疎い先生なのでやっぱり首を傾げさせるのでした。先生は皆と一緒にティーセットも食べています。
 上には甘い苺のパイ、中にはキーウィやオレンジ、グレープといったフルーツ、そして下にはバウンドケーキがあります。
 その真ん中のキーウィを食べてです、先生は言うのでした。
「今皆が言ってることが」
「随分わかりやすく言ってるよね、僕達」
「そうだよ」
 ホワイティは老馬の頭の上から言って老婆も彼の言葉に頷いて答えます。
「本当にね」
「誰でもわかる位に」
「それもきつく言ってるよ」
「いつも以上に」
「きつく言っているのはわかるよ」
 先生もそのことはわかります。
「けれどね」
「それでもっていうんだ」
「わし等がどうして言っているのかは」
「そこまではなんだ」
「わからないんだ、先生」
「全く、どうなるやら」
「これは本当に覚悟しないといけないかもね」
 チープサイドの夫婦も困っています、彼等の周りにいる子供達も。
「家族のことは」
「そっちの幸せはね」
「先生にとっては」
「難しいかな」
 こう言うのでした、そしてです。
 オシツオサレツも二つの頭で、です。こう言ったのでした。
「そこでわからないのがね」
「先生らしいけれど」
「もっとね」
「そこでもっと前に出て来て」
「それでだよ」
「ゲットしないと」
「だから何で皆そう言うのかがわからないんだ」
 バウンドケーキも食べる先生でした、それでトミーと王子に顔を向けて二人に尋ねるのでした。
「何でだと思うかな、君達は」
「まあそれはですね」
「僕達も皆と同じ意見だと思うよ」
 二人もいささかバツの悪いお顔で応えるのでした。
「ですから先生は」
「そういうことも勉強してね」
「そうされるべきかと」
「本当にね」
「何が何かわからなくなってきたよ」
 先生はまたしても首を傾げるだけでした。
「どういうことか」
「じゃあはっきりと言うけれど」
 ガブガブがまた先生に言いました。
「今先生一人じゃない」
「皆と一緒だよ」
 先生は穏やかに笑ってガブガブに答えるのでした。
「いつも通りね」
「そのいつも通りが駄目なんだよ」
「そうなんだ」
「そう、まあそうしたことを言ってもね」 
 それでもとも言うガブガブでした。
「今は仕方ないかな」
「先生気付いてないからね」
 王子がガブガブに応えます。
「仕方ないよ」
「そうなるね」
「うん、もうね」
「じゃあ今はね」
「このままだね」
「お茶を飲もうか」
「いつもの顔触れでね」
 一向に気付かない先生を見てのお言葉です、そうしてそのお茶の後でなのでした。
 先生はまた診察をしました、これでこの日は終わりました。
 お家に帰って晩御飯を食べて縁側で皆と一緒に西瓜を食べながらです、浴衣姿の先生は満足しているお顔でこうしたことを言いました。
「最高だよ」
「西瓜はですね」
「うん、夏の夜にこうして西瓜を食べるのはね」
 半月型に切ったそれを両手に持って食べながらの言葉です。
「最高だね」
「そうですね、本当に」
 一緒に食べているトミーも答えます。
「日本の夏はこれですね」
「お素麺とね」
「ああ、それもですね」
「うん、それもいいよね」
「日本の夏には」
「何ていうかね」
 こうも言う先生でした。
「日本の夏は蒸し暑いだけに」
「西瓜やお素麺がですね」
「美味しいんだよ」
「それもよく冷えたものが」
 これが条件にしてもです。
「いいですね」
「そうだね、そして飲むものはね」
 コップの中の氷を入れた梅酒も手にします。
「これか麦茶だよ」
「それも日本ですね」
「そうだね、この日本の夏はね」
「他の何よりもですよね」
「掛け替えのないものだよ」
 そこまで素晴らしいものだというのです。
「日本にはこうした楽しみもあるんだね」
「イギリスではとても」
 トミーは西瓜を食べつつ言うのでした。
「こんな楽しみはないですね」
「うん、こうした夏もないしね」
「西瓜もですね」
「美味しく食べられないよ」
「日本の西瓜はまた異常に美味しいですよ」
「こうした時に食べるとね」
 日本の夏の夜に縁側で、です。
「梅酒とか麦茶もあって」
「氷も入れて」
「氷を入れて飲むこともね」
「イギリスではないですからね」
 あまりないのです、こうしたことも。
「紅茶だって冷やして」
「アイスティーにしてね」
「あれもないですけれど」
「しかし飲むとあれがね」
「絶品なんですよね」
「うん、実はあのアイスティーと一緒にね」
 勿論ミルクティーです、先生は紅茶といえばこれです。
「アイスクリームを食べることが」
「いいですよね」
「凄くね」
 そうだというのです。
「それはトミーもなんだね」
「日本ではじめて知った組み合わせですけれど」
「いい組み合わせだよね」
「はい」
 本当に、というトミーの返事でした。
「あれもいいですね」
「イギリスでもアイスはよく食べるけれど」
 それでもなのでした。
「こうした組み合わせもないし」
「そのアイス自体もですね」 
 トミーはアイスクリームそれそのものについても先生に言いました、縁側の二人の周りにはいつも通り動物達が集まっています。
「色々な種類があって」
「びっくりする位にね」
「あれもいいですよね」
「日本に来てそうしたことも知ったよ」
「アイスも色々ですね」
「抹茶アイスなんか凄いよ」
 そのアイス達の中でも特に、というのです。
「あんなのよく考えたよ」
「しかも凄く美味しいですね」
「ああしたことも嬉しいよ」
「本当にそうですね、それと」
 ここでトミーが言うことはといいますと。
「先生やっぱり今日も」
「今日も?」
「はい、寝る前にはですよね」
「うん、歯は磨くよ」
 このことは忘れないというのです。
「そうして寝るよ」
「それは忘れてはいけないですね」
「絶対にね」
 これが先生の返事でした。
「忘れたらね」
「虫歯や歯槽膿漏になって」
「よくないからね」
「寝ている間が一番危ないんですよね」
「そうだよ、だから寝る前には絶対に歯を磨いて」
 そして、と言う先生でした。
「朝御飯の後もね」
「歯を磨くんですね」
「流石に毎食後とはいかないけれど」
 先生でもです、そこまではです。
「けれどね」
「歯磨きは欠かしてはいけないですね」
「絶対にね、それで今思ったことだけれど」
「動物園の皆ですね」
「うん、本当に不思議な位虫歯が多くて」
 しかも、というのです。
「その虫歯が酷いね」
「本当にそうですね」
「全く以てだよ」
「お菓子が原因であることはわかりましたね」
「うん、かなり甘いね」
 先生もこうトミーに答えます。
「糖分が異常に多い」
「そのお菓子を皆が食べたから」
「あそこまでの虫歯になったんだけれど」
「皆驚く位甘いって言ってますよね」 
 そこで糖分の多さがわかったのです。
「そうですよね」
「うん、市販じゃないね」
「市販じゃないんですか」
「市販のお菓子は甘さに限りがあるからね」
「その限度を超えた甘さなんですね」
「今そのお菓子の食べカスを採取したから」
 動物達のお口の中からです。
「そうしてね」
「そのお菓子を調べるんですね」
「そうすればわかるよ」
「そのお菓子のことが」
「どういったものかね」
 こう王子にお話するのでした。
「そのこともね」
「それで誰が作ったかは」
「ううん、それはどうして調べるかだけれど」
 それはとです、ここで先生は西瓜を食べるのを止めてトミーに言いました。その言うことはどういったことかといいますと。
「やっぱり動物園で起こっていることだから」
「動物園に出入りしている人がですね」
「お菓子をあげていることは間違いないよ」
「問題はそれが誰かですね」
「そう、そのことだよ」
「市販のお菓子じゃないとなりますと」
「手作りだね」
 このこともわかることでした。
「そうなるけれど」
「異常に甘いんですよね」
「その甘さがどんなことかも知る必要があるかな」
 考えるお顔で話した先生でした。
「お菓子を作ってもらって」
「誰かにですか」
「そうしようかな」
「じゃあ僕が作りましょうか」
 トミーはここで自分から名乗り出ました。
「そのお菓子を」
「そうだね、そうしてくれるかな」
「はい、その食べカスを分析すれば」
「糖分を何をどれだけ入れているかわかるからね」
「それからですね」
「そう、そしてね」
 そうしてというのです。
「それを再現してみて」
「どれだけ甘いのかも確かめて」
「それも必要だよ」
「原因究明もですね」
「うん、作っている人が誰かも究明する必要があるけれど」
 それと一緒にというのです。
「やっていこう」
「わかりました、それじゃあ」
「そういうことでね、あとこの西瓜もだけれど」
 再び西瓜を食べつつお話した先生でした。
「日本の甘さは優しいね」
「何か気品がありますね」
「そう、和菓子にしてもね」
「甘いことは甘いですけれど」
 それでもというのです、トミーも。
「優しい甘さで」
「極端な甘さじゃないんですよね」
「だから余計に気になるんだよ」
 そこがというのです。
「日本で極端な甘さはね」
「ないからですね」
「どれだけ甘いお菓子でもね」
 それこそなのです。
「動物園の皆があそこまで酷い虫歯になる様なね」
「驚く位の甘さは」
「ないから」
 だからだというのです。
「僕はそのことから余計に不思議に思えるんだ」
「そうですか」
「思えば八条学園は世界中から人が集まって来るね」
「はい、それは」
「その中には甘いものは徹底的に甘くする食文化の国から来ている人がいるよ」
「アメリカとかですか?」
「いやいや、アメリカよりもね」
 まだ、というのです。
「甘いものは甘くする国があるから」
「そういえばスペインとかは」
「そう、アメリカより甘いよね」
「はい、もうかなり」
「ああした国からかな」
 来た人ではないかというのです。
「ひょっとして」
「そうでしょうか」
「その辺りも気になりますね」
「全くだね、まあ別に殺人事件とかテロじゃないけれど」
 虫歯のことです、そうした血生臭いことでないことは確かです。
「話が推理めいてもきたね」
「そうですね、妙に」
「こうしたこともあるんだね」
「ですね、何でもないお話でも」
「推理が入るね」
「それじゃあね」
 ここで言ったのはジップでした。
「先生は探偵でもあるんだね」
「僕が探偵なんだね」
「だって推理してるじゃない」
 それで、というのです。
「だったらね」
「僕も探偵になるんだ」
「そうそう、お医者さんでも探偵になったりするよ」
 ポリネシアも言うのでした。
「推理ものだと」
「ああ、いるね確かに」
「博士号を持ってる人もね」
 先生も博士号を持っています医学博士なのです。
「だからね」
「僕も探偵になれるんだ」
「何なら探偵業もはじめてみたら?」
 こうも言うポリネシアでした。
「ここは」
「そっちの仕事も」
「うん、どうかしら」
「それはね」
 特に、と返す先生でした。
「そう言われてもね」
「考えないの?」
「僕は探偵はね」
 そっちの分野についてはというのです。
「あまり興味というか」
「というか?」
「うん、、向いていないと思っているし」
 それにというのです。
「柄じゃないかな」
「そう思っているからなんだ」
「うん、そっちのことはしないよ」
 探偵の様なことはというのです。
「今もこれからもね」
「そうなんだ」
「そういう考えだよ」
 穏やかにこう言う先生でした。
「僕に推理はね」
「柄じゃないんだ」
「うん、格好よくとかはね」
 ホームズみたいにとです、笑ってポリネシアに言うのでした。
「そういうのは僕には無理だよ」
「あら、外見の問題じゃないわよ」
 ダブダブは左の翼を上げて先生に言います。
「それは」
「というと?」
「ブラウン神父なんか先生みたいな外見だけれど」
「名探偵だっていうんだね」
「ネロ=ウルフなんか全是動かないじゃない」
 ずっとお部屋の中でビールばかり飲んでいます、美食家で助手の人をとにかくこき使っている暴君でもあります。
「ドーバー警部はもっと酷いわよ」
「あの人全然鋭くないしね」
 トートーも言います。
「先生よりずっと太っていて性格も悪くて」
「しかも怠け者でね」
 先生は性格は悪くないですし怠け者でもありません、むしろその逆です。
「そういう人でも探偵なんだよ」
「それを考えたらね」
「先生だってね」
「探偵になれるよ」
「あはは、名探偵じゃなくて迷探偵になるよ」
 また笑って応える先生でした。
「僕だとね」
「ううん、本当に探偵の方はなんだ」
「先生興味がないんだ」
「あくまで先生でいいんだ」
「そっちなんだ」
「そうだよ、僕は今のままでいいよ」
 充分満足しているというのです。
「このままでね」
「やれやれ、先生は欲がないね」
「先生のままでいいっていうんだから」
「名探偵にもなる気がないって」
「本当に欲がないよ」
 動物達はこのことはこれで終わらせるのでした、日笠さんとのこととは違って。それでトミーもでした。
 先生にです、西瓜について言うのでした。
「先生、西瓜はまだまだありますから」
「うん、だからだね」
「どんどん召し上がって下さい」
 笑顔でこう言うのでした。
「それもよく冷えていますので」
「冷えた西瓜は本当に最高だね」
「先生どんどん日本に親しんでいっていますね」
「物凄くね、馴染むんだよ」
先生にとって、というのです。
「だから自然にね」
「親しんでいくんですね」
「そうなんだ、それにね」
「それに?」
「この西瓜もね」
 ひと切れ綺麗に食べてからの言葉です。
「かなり好きだよ」
「そうですか」
「だからね」
 それで、というのです。
「もう一切れね」
「わかりました」
「梅酒もいいし」
 それも、と言いながら飲むのでした。
「これも凄いいいお酒だよ」
「ただ美味しいだけではないですね」
「風流だよね」
「ですね、日本に合っています」
「日本はただ飲むだけじゃないんだよ」
「風流もですね」
「それも楽しむものなんだね」
 お酒を飲むにしても、というのです。
「それがわかってきたよ」
「イギリスではお庭を楽しみますけれど」
 確かにイギリスでも自然を楽しみます、しかしというのです。
「日本の楽しみ方はまた違いますね」
「イギリスはイギリスでいいけれどね」
 それと共にとです、先生はトミーにお話しました。
「日本の楽しみ方もね」
「いいですよね」
「この縁側で月を楽しみながらね」
「梅酒を飲むことも」
「そのこともですね」
 王子も先生ににこりとして応えます。
「氷も入れて」
「いいね、西瓜も食べて」
「夏の楽しみ方ですね」
「全くですね、じゃあ今夜は」
 どうしようかというのです。
「このまま」
「この西瓜と梅酒とお月様をね」
「皆で楽しもう」
 こうお話してでした、先生達はこの夜は日本の夏の楽しみ方を満喫するのでした。そしてその次の日です。
 先生はゴリラのコーナーに行きました、ゴリラ達の大きな身体を怖そうなお顔を見てもです。先生達は皆驚きません。
 それどころかです、先生はゴリラさん達ににこにことして言うのでした。
「これからだけれど」
「はい、僕達の歯をですよね」
「診察してくれるんですね」
「そうさせてもらうよ」
 是非にというのです。
「それでいいね」
「うん、お願いするよ」
「僕達も痛くて困ってたんだ」
「だからね」
「ここは頼むね」
「けれどね」
 ここで、です。ゴリラ達は先生達に言うのでした・
「先生も皆も僕を怖がらないね」
「それも全然」
「僕達よく怖がられるのに」
「そうならないんだ」
「君達のことは知っているつもりだよ」
 先生はそのゴリラ達に温厚な笑顔で言うのでした。
「君達がとても大人しいことはね」
「そうなんだよね」
 チーチーが先生の言葉に頷いて答えます。
「ゴリラさん達は凄く優しいんだよ」
「君達は暴力を振るわない」
 先生はこのことを知っているのです。
「例え襲い掛かって来る相手が来ても」
「胸を叩いて威嚇はするよ」
「けれどね」
「それでもね」
「誰かに襲い掛かったりするなんて」
「襲われてもね」
 ゴリラ達も言うのでした。
「僕達暴力は振るわないよ」
「とてもね」
「そうしたことはね」
「とてもね」
 出来ないというのです、ゴリラ達にしても。
「それに僕達お肉もお魚も食べないよ」
「虫もね」
「お野菜とか果物だけだよ」
「僕達が食べるものは」
「そうしたことがわかっているから」
 それでなのです。
「僕達は誰も君達を怖がらないよ」
「そうなんだね」
「有り難いね、そのことが」
「僕達本当によく怖いって言われるから」
「子供が怖がって」
「大人の人達だってね」
 ゴリラ達を観てなのです。
「怖がってね」
「僕達怖がられるものって諦めてるけれど」
「それでもなんだ」
「先生は」
「そうだよ、怖がったりしないよ」
 それはというのです。
「知っているからね」
「ゴリラって本当は物凄く優しくて大人しくてね」
 それで、とです。王子も言うのでした。
「頭もよくて森の賢者って言われてるんだよね」
「実際はそうなんだよね」
 その通りとです、先生は王子にも応えます。
「ゴリラは知っている人からはそう呼ばれているんだよ」
「凶暴じゃないんだよ、彼等は」
 王子もゴリラを見つつ先生に応えます。
「それがわかっていない人が多いことがね」
「残念だよね」
「映画とかでもね」 
 そうした媒体の影響が大きいのです。
「おかしなイメージが広まったね」
「それが定着したんだね」
「残念なことだよ」
 先生は実際に悲しい顔で言いました。
「ゴリラは本当は凄く優しいのに」
「何もしてこないのに」
「そのことが知られていないことがね」
「残念だよね」
「全くだよ、けれど僕達はわかっているから」
 そうしたことがというのです。
「君達を怖がることはないからね」
「それで、だね」
「これから僕達を診察してくれて」
「虫歯を治してくれるんだ」
「今から」
「そうさせてもらうよ」
 こう答えてです、実際になのでした。
 先生は皆のアシスタントも受けてゴリラ達の虫歯も診ました、見れば彼等も虫歯が多いです。それも酷いものが。
 抜かなくてはいけない歯は抜いてでした、そうして。
 ゴリラ達の食べカスをチェックするとでした、やっぱりでした。
「ううん、この子達もね」
「うん、そうだね」
「お菓子だね」
「お菓子の食べカスがあるね」
「今回もね」
 動物達も先生と一緒に食べカスをチェックして言うのでした。
「あの凄く甘いっていう」
「それがあるね」
「ケーキのスポンジだったりクッキーだったりするけど」
「クレープもあるわよ」
「修理は様々だけれど」
 それでもなのでした。
「お菓子があるね」
「ゴリラさん達の食べカスにも」
「他の皆と一緒で」
「あるね」
「そうだね、じゃあこの食べカスももっと細かく検証して」
 そして、というのです。
「具体的に調べよう」
「あの、先生」
 ここで日笠さんが先生達に言ってきました。
「実はその食べカスを調べていてです」
「そうしてですか」
「はい、その問題と思われるお菓子を調べたのですが」
「何かわかりました?」
「お菓子の糖分の状況がわかりました」
 それが、というのです。
「それで忠実にです」
「その糖分をですか」
「再現してみました」
 そうしたというのです。
「それを後で召し上がって頂けますか」
「再現といいますと」
「私が作りました」
 日笠さんがというのです。
「そうしましたので」
「そうですか、それじゃあ」
「はい、召し上がって頂けるでしょうか」
「わかりました、それでは」
 先生は日笠さんの言葉にいつもの優しい笑顔で答えました、そう優しい笑顔です。そうしてそのうえでなのでした。  
 そのお菓子をティータイムに頂くことにしました、ですが。
 ここで、です。日笠さんがご自身の次の持ち場に戻ったところでなのでした。動物達が先生に呆れた顔で言いました。
「はい、またアウト」
「完全にね」
「そこで何で日笠さん褒めないの?」
「またお茶に誘わなかったし」
「?そうだったんだ」
 どうにも要領を得ていない先生の返事でした。
「ここでなんだ」
「そうだよ、本当に」
「女の人のお料理は褒めるの」
「褒めないといけないんだよ」
「というかそこで褒めるのは基本だよ」
「そのことも知らないなんて」
 呆れ果てたお顔で言う動物達でした。
「それがねえ」
「先生出来ないんだね」
「まあ日笠さんの本音はわからないけれど」
「その心の中はね」
「僕達はわからないけれど」
「それでもね」
 先生の動きは、というのです。
「やれやれだよ」
「そこで何か言わないと」
「それもいいことをね」
「それを言わないのがだよ」
「先生駄目なんだよ」
「それがね」
「しかも誘わないし」
 お茶にもというのです。
「全く以てねえ」
「先生イタリア人になったらどうかな」
「あの人達みたいにね」
「女の子に積極的にね」
 是非にというのです。
「そこがねえ」
「先生出来ないんだ」
「やれやれだよ」
「全く」
「何で皆そう言うのかな」
 首を傾げさせるばかりの先生でした。
「お菓子の検証だよね」
「まあわからないのなら仕方ないよ」
 王子も困った笑顔で言うばかりです。
「先生はこうだってね」
「こうだって?」
「他に言葉はないから。とにかく今日のティータイムは日笠さんが甘さを再現してくれたそのお菓子がだね」
「うん、ティーセットに入るよ」
「具体的にはどんなお菓子かな」
「そこまではわからないけれど」
「洋菓子かな」
 王子はお菓子のジャンルについて言いました。
「それって」
「そうかな、やっぱり」
「だって和菓子だと極端に甘くはね」
「出来ないからね」
「洋菓子だと出来るからね」
 和菓子はどうしてもそれが出来ないというのです、甘いことは甘いのですが。
「それがね」
「だからだね」
「お茶は紅茶にした方がいいかな」
「そうだね、お抹茶じゃなくてね」
「そっちでね」
 飲むお茶の種類のこともお話するのでした。
「それじゃあそういうことでね」
「うん、それでね」
 こうお話してなのでした、そのうえで。 
 先生は診察を続けお昼を食べて午後の診察が一段落してからでした、そのうえで日笠さんからお菓子を頂きました。そこでなのでした。
 動物達がです、先生にここぞとばかりに言いました。
「ほら、今ね」
「今声をかけるんだよ」
「日笠さんも食べるっていうし」
「それじゃあね」
「いいよね」
「今からね」
 絶対に、という口調での言葉でした。
「日笠さんに声かけて」
「ご一緒にどうですかって」
「是非ね」
「ここでよ」
「声をかけるんだよ」
「そうすればいいんだね」
 先生は動物達の言葉に応えます、先生とこの子達のやり取りは先生とトミー、王子以外にはただ鳴いているだけにしか聞こえていません。言葉がわからないからです。
 ですが先生にはわかります、それで言うのでした。
「声をかければ」
「そう、いいね」
「一言でいいんだよ」
「それさえ言えば」
「今からね」
「それじゃあ」
 先生は皆に言われてからでした、そのうえで。
 日笠さんにお顔を戻してです、こう誘いをかけました。
「今からご一緒にどうですか?」
「お茶をですね」
「はい、お茶と一緒に楽しもうと思いまして」
 日笠さんが作って再現してくれたそのお菓子をというのです。
「ティータイムは皆で楽しむものなので」
「そうですか、お茶を」
「どうでしょうか」
「それでは」
 日笠さんもでした、先生のお誘いにです。
 笑顔で応えてなのでした、こう返しました。
「お願いします」
「はい、それでは」
「やれやれだね」
「やっとここまでこぎつけたよ」 
 動物達もほっとしています。
「本当に先生ときたら」
「こういうことは全然駄目だから」
「骨が折れるわ、私たちも」
「やれやれだよ」 
 全く以て、という口調で皆言うのでした。
「苦労するわ」
「本当にイタリア人ならね」
「こんな苦労しないのに」
「先生がイタリア人なら」
「そう思うことしきりだよ」
「イタリア人ねえ」 
 トミーも動物達の言葉を聞いて小さく何度か頷きつつ言います。
「確かに先生にあの人達みたいな積極さがあればね」
「今頃ね」
「そっちでも幸せになっていたわよ」
「それが先生ときたら」
「イギリス人の中でもね」
「特に奥手だから」
 それでなのでした。
「こんなに苦労して」
「大変よ」
「ここまで至るのだって一苦労」
「すぐにはいかないから」
「そうだね、けれどね」
 ここで、でした。トミーは動物の皆にこんなことを言いました。
「皆想像出来るかな」
「想像?」
「想像っていうと?」
「だから、女の人にどんどん声をかける先生だよ」 
 そのイタリアの人達みたいにです。
「そうした先生は想像出来るかな」
「ううん、そう言われると」
「ちょっとね」
「女の人に次々と声をかける先生って」
「あまりね」
「想像出来ないね」
 動物の皆にしてもそうでした、トミーに言われますと。
「そうした先生ってね」
「先生じゃないよ」
「先生はああだから先生なのよ」
「だからね」
「そうした人だから」
「そう、先生は先生だよ」
 今の先生だからこそというのです。
「確かに僕ももどかしく思うけれど」
「それでもなんだ」
「今の先生だから」
「やっぱりいいんじゃないかとも思うよ」
 トミーは先生の女性に関することについては彼にしてももどかしいと思うことは確かなのでこう言ったのです。
「僕はね」
「じゃあ先生は先生で」
「あのままでいいのかな」
「女の人に積極的でなくても」
「それでも」
「確かに積極的になってもらわないとね」
 結婚出来ません、確かに。
「それでもそうも思うよ」
「何か僕ってよく言われるね」
 先生も苦笑いで言います。
「本当に」
「まあそうですね」
 トミーは先生にもお話しました、丁渡お茶を飲む場所に行っている途中です。日笠さんはお菓子を取りに行っています。
「先生には言いやすいです」
「こうしたこともだね」
「そうなんですよ」
「昔からサラにはね」
「ずけずけと言いますからね、あの人」
「言われっぱなしだよ」
 それこそ子供の頃からです、先生は妹さんのサラには何かと言われっぱなしでした。しかもそれに加えてです。
「僕の方はね」
「言い返さないんですね」
「そうなんだ」
 先生はそうなのでした。
「どうにもね」
「先生喧嘩出来ないですからね」
「誰かに暴力を振るったことはないよ」
 このことも子供の頃からです。
「口喧嘩もね」
「されたことないですよね」
「そういうことはね」
 どうにもというのです。
「一番苦手なんだよね」
「暴力も」
「ああ、駄目駄目」
 両手を前にして横に振っての言葉でした。
「そんなことはとてもね」
「出来ないんですね」
「そんなこと出来る筈ないじゃない」
 暴力なぞ、というのです。
「考えるだけでも怖いよ」
「そうそう、僕達にもね」
「穏やかに叱ることはあってもね」
 動物達もこのことは言うのでした。
「先生暴力は絶対に振るわないから」
「言葉のそれもね」
「そうしたことは絶対に駄目だよ」
 暴力はとです、先生は強く言うのでした。
「あんなものは最低のものだよ」
「そのことは本当に同意です」
「僕もだよ」
 トミーも王子も先生のその言葉に頷きます。
「そんなことをしても」
「相手の心と身体が傷つくだけですね」
「その通りだよ、だから僕は何があってもね」
 それこそ、というのです。
「暴力は振るわないよ」
「それが子供の頃からの先生のお考えですね」
「絶対に変わることのない」
「そうだよ、それだけは絶対にしないから」
 それで喧嘩もというのです。
「まあサラには言われっぱなしだけれど」
「けれどそれでもですね」
「うん、言葉でもね」
 例え妹さん相手でもだというのです、そして言葉であっても。
「暴力は嫌いだからね」
「それが先生ですね」
「うん、暴力は嫌いだよ」
 それは絶対にというのです、そうしてです。
 先生達はお茶の用意をしながら日笠さん達を待つのでした、そしてその日笠さんがお菓子を持って来ました。



先生の鈍さにとうとう動物たちも匙を投げたか。
美姫 「とは言え、先生にその気がないのならどうしようもないしね」
まあな。でも、優しくて良い人だしきっと大丈夫だよ。
美姫 「って、見守る事になるのかと思ったけれど」
動物たちもめげずに先生の後押ししまくりだな。
美姫 「流石の先生もここまで言われたら、指示に従ったわね」
でも、意味は分かってないみたいだけれどな。
美姫 「本当に。一体どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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