『ドリトル先生と伊予のカワウソ』




              第十一幕  海岸で

 朝起きてお風呂に入って御飯を食べて身支度を整えてからです、先生にジップがこんなことを言ってきました。
「先生、ちょっといいかな」
「何だい?」
「この松山って海に面しているよね」
「うん、そうだよ。だからお魚も美味しいんだよ」
「そうだよね、けれど僕達まだね」
 彼等は、というのです。
「海に出ていないね」
「そういえばそうだね」
「松山も海があるのなら」
 それならというのです。
「海岸に出たいね」
「ううん、ジップはそうそう思うんだね」
「うん、砂浜で遊ぶのは楽しいからね」
 だからだというのです。
「海岸があるのなら」
「そうそう、砂浜に出てね」
「遊びたいよね」
 ここでポリネシアとチーチーも言ってきました。
「ボールとかフリスビーでね」
「そうしたいね」
「そうだね、それじゃあね」
 そう聞いてでした、先生も動物達にこう言いました。
「時間がある時に砂浜に出てね」
「そうしてだね」
「遊ぶんだね」
「観光もいいけれどね」
 それでもというのです。
「合間に遊ぶこともしないとね」
「そうだね、それじゃあね」
「皆でね」
 先生は動物の皆の言葉を笑顔で受けました。そうしてでした。
 そのお話をしてからです、旅館を皆と一緒に後にしました。それからです。
 松山の駅前で加藤さんと合流しました、ですが。
 すぐにです、そこに長老さんが来ました。そうして皆に言いました。
「では午後に」
「はい、午後にですね」
「狸さん達のパーティーですね」
「楽しんで下され」
 こう先生達にお話するのでした。
「是非共」
「はい、それでは」
「今日は」
「そうさせて頂きます、その場所は」
 そこはというのでした。
「砂浜ですじゃ」
「砂浜ですか」
「はい、松山の海水浴場ですじゃ」
 そこでというのです。
「来て頂きます」
「あっ、丁渡いいね」
「そうだよね」
 動物達は長老さんのお話を聞いてお互いに言い合います。
「丁渡砂浜で遊びたいって思ってたし」
「都合がいいね」
「じゃあね」
「ついでにね」
「海水浴場ですか」
 今日の狸さん達のパーティーがそこで行われると聞いてです、それでなのでした。
 先生は首を傾げさせてです、こう長老さんにお話しました。
「あの、僕は」
「海水浴はですか」
「その趣味はなくて」
「左様ですか」
「水泳自体が」
 このスポーツもというのです。
「好きではなくて」
「あれっ、先生イギリス人ですから」
 加藤さんは先生のお話に目を瞬かせて先生に尋ねました。
「泳ぐことは」
「ロイヤル=ネービーですね」
「はい、ですから」
「いやいや、イギリス人でもです」
 その世界に冠たるロイヤル=ネービーを擁していた国の人でもだというのです。
「泳げない人はいます」
「そうなのですか」
「日本人でも誰もが空手や合気道はしませんね」
「誰もが、でjはないです」
「そうしたことと同じでして」
「イギリス人でもですね」
「誰もがラグビーやサッカーをする訳ではありませんし」
 そのことと同じだというのです。
「水泳もです」
「不得意な人もですか」
「はい、僕の様に」
 いるというのです。
「僕はスポーツ全体が苦手でして」
「それで水泳も」
「はい、ですから」
 それでだというのです。
「僕は泳げないのです」
「左様ですか」
「そうです、それに」
「それにですか」
「ロイヤル=ネービーの水兵は泳げない人も結構いたのですよ」
 先生は加藤さんにこのこともお話するのでした。
「実は」
「えっ、水兵さんがですか」
「はい、泳げない人が結構いました」
「そうだったのですか」
 加藤さんはこのことにもびっくりでした、目を白黒させています。
「そちらでは」
「そうです、昔のお話ですが」
「それでも水兵さんが泳げないとは」
「泳げたら船から泳いで逃げますよね」
「脱走ですか」
「そのことを危惧していてもいましたし」
 それで、だったというのです。
「泳げない水兵さんもです」
「水泳を教えなかったのですか」
「そのまま船で働かせていました」
「ううむ、凄いことですね」
「それに。日本ではないと思いますが」
 先生はこんなこともお話しました。
「かつてのロイヤル=ネービーは徴兵制ではなく」
「では傭兵ですか」
「いえ、強制徴募でした」
「強制徴募!?」
「そうです、日本ではない制度ですね」 
 先生は加藤さんにこのことも確認しました。
「これは」
「徴兵制ではないのですか」
 加藤さんが知っているのはこちらでした。
「若しくは武士の様な」
「代々軍人の家系はありましたが」
「水兵さんはですか」
「はい、港等で体格のいい人を見付けたら」
 そうした人を、というのです。
「泥酔させるなり殴って気絶させるなりしてです」
「無理矢理水兵にしていたのですか」
「そうです、本人の意思とは関係なく」
「また乱暴なやり方ですね」
「そうですね、今の視点からしますと」
「日本にはありませんね」
 到底とです、加藤さんはその強制徴募について信じられないといったお顔のままでこうも言ったのでした。
「そうした制度は」
「ですね、徴兵制でしたね」
「海軍は基本志願制でしたし」
 加藤さんはこのことからお話しました、一行は今はその砂浜の場所を確認しただけでした。長老さんは帰って先生達はシンポジウムの場所に歩いて向かっていてその途中にこうしたことをお話しているのです。
「それに徴兵制自体も」
「そちらもですか」
「実際は検査がかなり厳しくて」
 それでだったというのです。
「選抜徴兵制でした」
「戦前の日本ではですね」
「軍隊に入ることは容易ではなかったのです」
 戦前の徴兵制があった頃でもです。
「第二次世界大戦の頃は別としまして」
「徴兵検査は厳格だったのですね」
「四段階に分かれていまして、検査結果が」
「それで、ですね」
「一番上の合格であることが第一で」 
 そして、というのです。
「そこからさら検査され品行方正でないと」
「入隊出来なかったのですね」
「そうでした」
 それが戦前の日本の徴兵だったというのです。
「入隊出来た方が凄かったのです」
「そこまで厳しかったのですね」
「クラスの男の子で入隊出来るのは一人か二人か」
「それはまた少ないですね」
「そうでした、徴兵とはいっても」
 実際はそうだったというのです。
「難しかったのです」
「少数精鋭だったのですね」
「そうでした、皆兵ではなかったです」
「では強制徴募も」
「発想がなかったですね」
「領民を無理矢理兵隊にすることもですね」
「浪人を雇っていましたね、戦国時代のお話ですね」
 加藤さんはすぐに先生の今のお話の内容を理解しました。
「それは」
「はい、今のお話は」
「そうですね、あの頃でもです」
「領民を強制的に兵士にする等ということは」
「実際はなかったみたいですね、浪人を雇えばいいですし」
 加藤さんは歩きつつ腕を組んで述べました。
「足軽、兵士もです」
「その人達もですね」
「農家の次男、三男に来てもらっていました。しかも農閑期だけでした」
「そうだったのですか、穏やかだったのですね」
「戦争は武士がするものと考えられていましたので」
「成程」
「戦いが起こればその戦いを観戦することもよくあったそうです」
 加藤さんはこのこともお話しました。
「略奪とかそういったこともです」
「あまりなかったのですね」
「ですから観戦も出来ました」
「平和ですね、戦争とはいっても」
「そちらでは違いましたか」
「信じられない話です」
 イギリスから見ればというのです。
「いや、まことに」
「では略奪等も」
「酷かったです」
 イギリスだけのことではなくとお話する先生でした。
「三十年戦争は特に」
「ああ、あの」
「はい、ドイツ全土で欧州各国が争った」
「欧州最大の宗教戦争でしたね」
「同時に最悪の」
 そうした戦争だったとです、先生もお話するのでした。
「とんでもない戦争でした」
「相当荒れていたのですね」
「酷いものでした、観戦なぞとても」
「出来なかったですか」
「そんなことをすれば傭兵達に何をされるか」
「そうした状況でしたか」
 加藤さんも他の国の戦争のことはある程度は知っていました、ですがご自身の専門外なのであまり詳しくなかったのです。
 それで、です。こうも言うのでした。
「だから強制徴募といったものも」
「ありました、そして水兵は過酷でした」
「軍隊、そして船の中の生活だったからですね」
「泳げないですから船が沈みますと」
「その時はですね」
「死ぬしかありませんでした」
「それはとても嫌ですね」
 加藤さんにしてみてもです、そうしたことで死にたい筈がありません。
 それでなのです、こう言いました。
「日本に生まれてよかったです」
「今の日本にですね」
「はい」
 まさにというのです。
「そう思います」
「確かにそうですね」
「先生もそう思われますね」
「戦争は嫌いです」
 先生はこのことをはっきりと言い切りました。
「それもスポーツよりも遥かに」
「そうですか、やはり」
「争いは何も生み出さないと思っていますので」
「それで、ですね」
「はい、戦争は嫌いです」
 やはりこう言うのでした。
「好きになれる筈もないです」
「先生らしいですね、それでは」
「はい、それではですね」
「これからシンポジウムに出て」
 そして、でした。
「午後はですね」
「狸さん達のパーティーにですね」
「出ましょう」
 こうお話してでした、そのうえで。
 まずはシンポジウムに出席してでした、それから。
 午後にその砂浜に出ました、そこにはです。
 まだ海には誰もいません、いるのは先生達だけです。カワウソさん達はその誰もいない海、遠くに漁船や漁網ブイが見えるその青い海を見て言いました。
「まだ海水浴のシーズンじゃないからね」
「泳いでる人はいないね」
「静かだね、まだ」
「誰もいないから」
「けれどね」
 そのカワウソさん達に狸さん達が言います。
「ここで宴は開けるからね」
「今からパーティーするよ」
「それならいいよね」
「泳げなくても」
「そうだね、それじゃあ今から」
 それならとです、カワウソさん達も応えます。
「パーティーだね」
「何が出るのか」
「昨日から楽しみにしてたよ」
「どんなのかね」
「さて、ではな」
 それではとです、長老さんがその砂浜いに目をやりました。するとそこには沢山の鉄板が置いてありました。
 その鉄板を見ながらです、長老さんは言いました。
「焼こうか」
「はい、わかりました」
「じゃあ今から」
「どんどん焼きましょう」
「もう食材の用意はしておる」
 既にというのです。
「でははじめようぞ」
「それじゃあ」
 皆応えてです、そうしてでした。
 狸さん達はそれぞれ鉄板の横に移ってです、次々にあるものを焼きはじめました。それは何かといいますと。
「あれっ、あれは」
「はい、あれがです」
 加藤さんが先生に答えました。
「お好み焼きです」
「広島の、ですね」
「そうです」
 まさにそれだというのです。
「あれこそがですね」
「そうですね、神戸でも少し見ましたが」
「大阪焼きとはまた違いますね」
「どうにも。といいますか」
「そちらのお好み焼きはこちらではです」
「大阪焼きと呼ぶのですね」
「広島を中心としまして」
 やはりその中心は広島でした、狸さん達が今焼いている広島風のお好み焼きのそれは。
「そう読んでいますので」
「こちらではあのお好み焼きを広島焼きと呼ぶのと一緒ですね」
「そうですね、しかしです」
「味は、ですか」
「負けていませんので」
 急にです、加藤さんのお顔がです。
 普段の優しいものからにやりとしたものになりました、そのうえで先生に対してお話を続けていくのでした。
「お楽しみに」
「僕も広島焼きは食べたことがありますが」
「美味しいですね」
「そうでしたか」
「そうでしょうね、しかしです」
「それでもですか」
「松山の見事な食材を使っていますので」
 だからだというのです。
「期待してもらって結構です」
「おお、凄い自信ですね」
「すいません、カワウソさん達のお好み焼きは広島のものになります」
「そう仰いますか」
「はい、先生は大阪派ですね」
「やはり神戸にいますので」
 この辺りは大阪に近いので当然と言えば当然です。
「そちらになります」
「しかしカワウソさん達はですか」
「そうです、広島のお好み焼きの洗礼を受けますので」
 それ故に、というのです。
「そうなります」
「加藤さんまさかお好み焼きは」
「大好物でして」
 その広島のものがというのです。
「ですから」
「そこまでの自信がおありですね」
「そうです、では」
「それではですね」
「狸さん達のお好み焼きを食べましょう」
「わかりました」
 こうしたお話をしているうちにお好み焼きはどんどん焼けてきました。他には焼きそばも焼かれています。鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てておソースの香りも出しながら。
 そうして焼けたお好み焼きをです、狸さんは皆に出して言いました。
「さあ、食べてね」
「遠慮はいらないからね」
「僕達も焼けた傍からどんどん食べるから」
「皆で楽しもう」
「お好み焼きに焼きそばをね」
「酒もあるぞ」
 長老さんも焼いています、その頭にねじり鉢巻きをして。
「飲みながらな」
「楽しむんだね」
「このパーティーを」
「ほっほっほ、何を出そうと思ったがのう」
 長老さんはお飲み焼きを慣れた動きで焼きながら言いました。
「懐石料理も考えたが」
「何かね、あれだとね」
「宴じゃありきたりだしね」
「それに温泉もってなると陳腐だから」
「こうしたんだよね」
「そうそう」
 狸さん達も言うのでした。
「だからこうしたけれど」
「成功だね」
「そうみたいだね」
「よかったよ」
 こう言うのでした。
「気に入ってもらえたみたいでね」
「お好み焼きも焼きそばもね」
「これは」
 老紳士もです、鉄板で焼かれてからお皿の上に置かれた焼きそばをお箸で食べながら唸る様に言いました。
「イギリスにはとてもない味ですな」
「そうですよね、こんな味は」
「考えもつかないです」
「おソースをここまで上手に使って」
「ヌードルと絡めるなんて」
「珍味、いや美味」
 こう言ってもいいものだというのです。
「これまた最高の味」
「お好み焼きも凄いですよ」
「こんなの何処にもないですよ」
「クレープみたいで全く違う」
「絶品です」
「素晴らしい食べものですよ」
「全くだ、しかしこのお好み焼きは」
 ここで、です。老紳士はふとこんなことも言いました。焼きそばを食べ終えてお好み焼きを食べながらの言葉です。
「ここに来るまでに二種類見た様な」
「このお好み焼きとですね」
 先生が老紳士に応えてきました、勿論先生もお好み焼きを食べています。
「もう一つ、完全に全部混ぜてから焼く」
「そういうものも見ましたが」
「そちらは大阪のお好み焼きです」
「大阪、西日本最大の都市ですね」
「そうです、その街のお好み焼きでして」
 こう老紳士に説明するのでした。
「これは広島のお好み焼きです」
「大阪と広島ですか」
「お好み焼きは二種類あるのです」
「何と、そうだったのですか」
「このことは意外でしたか」
「意外も意外」
 老紳士は驚きを隠せないまま先生に答えます。
「想像も出来ませんでした」
「そうでしたか」
「お好み焼きは一種類だと思っていました」
「しかし実は違うのです」
「日本文化はわかりませんね」
 首を傾げさせながら言う老紳士でした。
「その食文化は多彩でかつ複雑です」
「僕もそう思います、しかし」
「しかしですね」
「その多彩で複雑なことがです」
 それが、というのです。
「またいいのです」
「魅力があるのですね」
「その魅力はもう感じておられると思いますが」
「そうですね、このお好み焼きにしても」
 もっと言うと焼きそばもです。
「素晴らしいものがあります」
「これもまた日本の味です」
「この濃い味もですね」
「そうです、ソースを強く効かせた」
 その味もまたとです、先生はお箸を上手に使いながらお好み焼きを食べつつ老紳士にお話を続けます。
「この味もです」
「繊細な味ばかりではなく」
「こうした濃い味もまた日本です」
「成程、そうですか」
「そうです、そして」
「そして、とは」
「このお好み焼きと焼きそばにはです」
 この二つのお料理にはとです、先生はここであるものを出してきました。それは一体何かといいますと。
 ビールでした、大ジョッキに並々と入っている。その黄金のお酒を老紳士に見せながらこう言うのでした。
「これです」
「エール、違いますね」
「ビールです」
 この二つのお酒は少し違うのです。
「ビールが合うのです」
「あっ、確かに」
「これにはビールみたいですね」
「ビールが合いそうですね」
「この濃い味には」
「最高です」
 こうまで言う先生でした、そして。
 実際に飲んでからです、こう言いました。
「病み付きになりますよ」
「うわ、美味しそうですね」
「涎が出そうです」
「お好み焼き、焼きそばとビールの組み合わせは」
「最高みたいですね」
「どうぞ、お楽しみ下さい」
 先生もビールを飲むことをお勧めします。
「そうすれば最高の気持ちになります」
「それではですね」
「今から僕達も」
「ビールも飲みます」
「喜んで」
 こう答えてでした、実際に。
 カワウソさん達はビールも口にしました、すると。 
 どのカワウソさん達もです、お顔をさらに明るくさせて言いました。
「こんな美味しいビールはじめてだよ」
「イギリスで飲む時よりずっと美味しいよ」
「そうだよね、イギリスはビールの本場だけれど」
「それでもね」
「ここまで美味しいビールはね」
「なかったよ」
 カワウソさん達が以前いた北アイルランドでもビールを相当飲みます、それは日本よりも遥かに多い位です。
 ですがお好み焼きとビールの組み合わせはです、そのカワウソさん達にとっても。
「幾らでも飲めるよ」
「最高だよね」
「日本にはこんな飲み食いの楽しみ方もあるんだね」
「繊細なだけじゃなくて」
「こうしたのもあるんだ」
「そういえば日本は」
 ここで老紳士はあることに気付きました、その気付いたことはといいますと。
「誰もが色々なお店に入られて色々なものを口に出来ますね」
「はい、そうです」
 今度は加藤さんが先生に答えました。
「日本ではそうです」
「そうですな、それはイギリスでは」
「ないですね」
「例えばバーとパブです」
 老紳士は日本では誰もが行けるどちらのお店のこともお話しました。
「バーは上流階級が通う店で」
「パブは大衆ですね」
「そこが今も分かれています」
「それが、ですね」
「そうです、日本では誰もがバーに入ることが出来ますね」
「パブでも」
 そのどちらもだとです、加藤さんも答えます。
「そうなのです」
「そうですね、そして食べるものや飲むものも」
「階級にこだわりなく」
「そこが全く違いますね」
「そのことは先生や他のイギリスの方にも言われていましたが」
「イギリスの様なことはないですね」
「まあ庶民派とか言われますが」
 このどうにも胡散臭い言葉も出した加藤さんでした。
「皆そこで飲み食い出来たり買えるだけのお金があれば」
「どのお店にも入られますね」
「そうです」
 その通りだというのです。
「貧富の差はどうしてもありますが階級はないですね」
「そこがイギリスとは違いますね」
「それが口にするものにも出ていますね」
「そうですね、確かに」
「はい、本当に」
「品性は欠かしてはいけません」
 人間でも動物でもです、このことは絶対だと言うのでした。老紳士は今も気品を以てそのうえで加藤さんにお話しました。
「しかし変に気取っても何にもなりませんので」
「お好み焼きや焼きそばもですね」
「これからも楽しませてもらいたいです」
 是非にというのです。
「そしてビールも」
「そのお酒もですね」
「ワインだけでなく」
「飲みたいですね」
 これからはとです、老紳士はそのビールも楽しんでいます。
「是非共」
「ワインはイギリスでは上流階級が飲むものですね」
「お酒もそうして分けられていますので」
「日本人が考えるよりそこは明確に分けられていあmすね」
「そうですね、まことに」
「しかし日本にいますから」
 それならとです、長老さんはビールを飲み続けながら加藤さんにお話します。
「これからは階級なぞ気にせず」
「色々なものを口にされて」
「色々なお店に入ります」
「是非そうされて下さい、それでは」
「それではですね」
「そうされます」 
 是非にというのでした。
「私もまた」
「では旦那様」
 執事の服を着たカワウソさんが答えちぇきました。
「これからは」
「何でも。美味しいものならね」
「お出しして宜しいですね」
「ここは日本だからね」
 それならというのです。
「是非そうしないと」
「それでは」
「うん、そういうことでね」
 こうお話してでした、そしてです。
 老紳士はお好み焼きに焼きそば、それとビールを楽しみ続けるのでした。そうして海を見ながら長老さんにも言いました。
「これからどんどん日本を巡って」
「日本を御覧になられますか」
「味も楽しみながら」
 そうして、というのです。
「そうしたいと考えています」
「では我等共」
「是非共です」
「おお、こちらもです」
 お互いにというのです。
「楽しく過ごしましょう」
「共に仲良くして」
「そうしましょう」
「どうも我々は最初はお互いに」
「恐れていてそれで」
「距離を置いてしまっていましたが」
「意味のないことでしたな」
 こう二人でお話するのでした。
「先生とお話をして仲良くなれば」
「何もかも悪くはなかったですね」
「まことに」
 こうお話するのでした、そして。
 二人でなのでした、共に。
 海も見ました、長老さんはそのマリンブルーの綺麗な海を見つつ老紳士にこうしたことも言ったのでした。
「夏になればこの海で海水浴が行われてですじゃ」
「狸さん達もですね」
「うむ、泳ぎまする」
 そうしているというのです。
「これがまたよくて」
「では」
「はい、カワウソさん達は水泳が得意ですな」
「生まれた頃から水辺にいますので」
 だからだとです、老紳士も答えます。
「そちらはです」
「問題ありませんな」
「自信があります」
 老紳士は確かな笑顔で長老さんにまた答えました。
「まことに」
「では泳げない者にも教えて下さいますか」
「水泳をですね」
「そうして頂きますか」
「わかりました、ではこちらもです」
「我々もですか」
「そうです、実は狸さん達にもです」
 こう長老さんにお話していきます。
「日本のことを教えて頂きたいので。あと腹鼓というものも」
「おお、あれも」
「はい、面白そうなので」
「わかりました、それでは」
 長老さんも快諾しました、そしてなのでした。
 カワウソさんと狸さんは親睦を深めていくのでした、このパーティーでも。それは今こうしている中でも進んでいました。
 そしてなのでした、皆で。
 次第に踊りもはじめました、日本とイギリスのそれぞれの踊りを。先生はそうしたものも見ながら笑顔になっています。
 しかし先生は踊りには加わりません、その先生にオシツオサレツが尋ねます。
「今もだね」
「踊らないんだね」
「うん、どうしてもね」
 そうだというのです、困った感じの笑顔になって。
「ダンスはね」
「先生本当に身体を動かすことは苦手だね」
「昔から」
「うん、だからね」
 今もだというのです。
「見させてもらうだけだよ」
「今みたいに」
「そうしてだよね」
「お好み焼きと焼きそばを食べて」
 そして、というのです。
「ビールを飲んで楽しむよ」
「だよね、じゃあね」
「今はね」
「見させてもらうよ、それとね」
 こうも言う先生でした。
「若し夏になっても」
「海水浴もだね」
「楽しむことはないんだね」
「泳げることは泳げるよ」
 それはというのです、生成もそれは出来ます。しかし。
 どうにもというお顔になってです、先生は言いました。
「けれど泳ぐことも好きじゃないからね」
「本当にスポーツ嫌なんだね」
「全般的に」
「観ることは好きだしスポーツマンシップは大切だよ」
 それでもと、いつもの様に言う先生でした。
「けれどなんだ」
「そのことだけも変わらないね、先生って」
「スポーツが苦手なことも」
「うん、だからね」
 それでというのでした。
「こうして飲んで食べるだけだよ」
「運動は健康にいいのに」
「先生ただでさえ太っているのに」
「健康には気をつけてね」
「成人病にもね」
「そうしたことにも気を付けてるよ」
 この辺りもというのです。
「さもないと後が大変だからね」
「うん、気を付けてね」
「糖尿病にも痛風にもね」
「日本人も気を付けてるんだから」
「先生もだよ」
「痛風は怖いよ」
 チーチーも生成に言ってきました。
「物凄く痛いらしいじゃない」
「うん、僕もそれは知ってるよ」
「そうだよね、だったらね」
「ビールもいいけれど」
 それでもです、まさに。
「控えていかないとね」
「痛風にはビールが一番怖いからね」
「そうなんだよね、けれど日本はね」
 どうかとです、ここでの日本のことをお話する先生でした。
「痛風というかコレステロールを減らす食べものも多いから」
「大豆とかね」
 今度はホワイティでした。
「そういうのだよね」
「そう、大豆を使ったお料理も一杯あるし」
「そういうものを食べるといいんだね」
「お魚もね」
 それもというのです。
「だからね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「そうしたものも沢山食べて」
「健康を管理しているんだ」
 先生にしてもそうしているというのです。
「美味しく食べてね」
「そういうこともしてるんだね」
「そうだよ、僕もね」
「そこはお願いするよ本当に」
「わかってるから大丈夫だよ」
「どうかしらね」
 ガブガブは先生の今の言葉をあまり信じていない感じです、それで実際に本当かしらといったお顔で言うのでした。
「先生って日常生活については不安が残るのよね」
「本当にね」
 ダブダブもガブガブに応えて言います。
「子供みたいなところが多くて」
「抜けてるところもね」
「僕達も不安で仕方がないよ」
「全くよ」
「世の中のところに疎いのよね」
 トートーも言ってきました。
「何かと」
「先生、生活の知恵も大事よ」
 ポリネシアの今の口調はぴしゃりとしたものでした。
「だからそうしたこともね」
「身に着けないといけないんだね」
「先生は確かにいい人でね」
 だからこそ皆もいつも一緒にいます、先生の友達として家族として。先生はお友達としても家族としても素晴らしい人であることは事実です。
 ですがいい人でも欠点はあります、それでポリネシアも言うのです。
「尊敬出来るけれど」
「いや、尊敬はしなくてもいいよ」
「まあ聞いて。私達がいてもね」
 それでもだというのです。
「世の中のことは知っておくに越したことはないわ」
「日常生活のこともだね」
「まるで子供だから。そこがまたいいにしても」
 人間として親しみが持てることは事実だというのです。
「世の中のことはもっとね」
「勉強してなんだ」
「苦手にしてもね」
 それでもというのです。
「気を付けてね」
「ううん、そうしてるつもりだけれどね」
「そこで努力しないとどうしようもないよ」 
 ジップの今の言葉は少し厳しいです。
「先生は努力してるから先生だよ」
「僕なんだね」
「そうだよ、とにかくね」
「日常生活のことも」
「やっと紅茶を自分で淹れられる様になったから」 
 実はこのことも中々出来なかったのです。いつも動物の皆がお茶を淹れてあげて一緒に飲んでいたのです。
「だからね」
「その他のこともだね」
「勉強してね」
「わかってるよ、もっとね」
「そういうことでね」
「ただ先生はね」
 老馬も先生に言います、けれど老馬の言う口調は穏やかです。
「乗馬は出来るから」
「馬に乗れないと辛いからね」
「自転車は」
「そっちも何とかね」  
 出来てきているというのです。
「乗られる様になったよ」
「そうだよね」
「つまり努力だね、まあ僕はね」
 先生はここで自分のことも言いました。
「天才じゃないからね」
「先生は努力家だよね」
「そうだよね」
 チープサイドの家族もこのことを彼等同士でお話しました。
「いつも勉強してて」
「悪いところは気付いたらなおそうとしてね」
「努力家だよね」
「おっとりしていても」
「鋭敏とかね」
 そうしたものはとです、先生はご自身で述べました。
「僕はそうじゃないよ」
「だよね、じゃあ」
「先生は努力家になるのかな」
「努力はしていきたいね」
 ここでも自分をそうだと言わない先生でした。
「ずっとね」
「これからもだね」
「そうしていきたいんだね」
「うん、これからもね」
「そして少しずつでも」
「よくなっていくんだね」
「人間最初から何でこ出来る人は滅多にいないよ」
 それこそ天才でもなければというのです。
「それは君達もだね」
「うん、確かに」
「そのことはね」
 動物の皆も先生に応えます、特にジップが言いました。
「僕達だって何も出来なかったよ」
「そうだよね、誰だってね」
「天才じゃないからね」
「そう、天才じゃないから」
 それでだというのです。
「努力してこそだね」
「駄目な奴は何をやっても駄目とか」
 先生はジップにこの言葉も出しました。
「それは違うんだ」
「最初は駄目でもだね」
「努力すればね」
 そうすれば、というのです。
「出来る様になるから」
「誰でも何でも」
「そうだよね」
「そう、僕なんかね」
 先生はまたご自身のことからお話しました。
「この通り鈍いからね」
「まあ先生は確かに天才じゃないかな」
「そうしたタイプじゃないことは確かだね」
 動物達もこう言います、彼等も先生をずっと見ているので先生が天才かというとそうした人ではないとわかっています。
「その代わりいつも努力して」
「ゆっくりでも確かに進んでいく人だね」
「そうありたいと思っているしね」
 先生にしても、というのです。
「一足跳び、、急がなくてもいいんだ」
「確実にだね」
「本当に一歩ずつ」
「僕はそれがいいから、今回もね」
 カワウソさんと狸さん達のこともというのです。
「一歩ずつやっていったけれど」
「それが成功したかな」
「いい感じでね」
「カワウソさん達も狸さん達もお互い仲良くなれて」
「よかったね」
「うん、本当によかったよ」
 見ればカワウソさんと狸さん達はお互いに仲良くやっています、そうしてでした。
 親睦を深め合っています、先生のお仕事はまずは成功しました、ですがこのことが思わぬことに至るのでした。



確かに海にはまだ行ってなかったな。
美姫 「今回、遂に海へと」
とは言え、先生はどうやら泳げないみたいだが。
美姫 「それでも楽しめたようだしね」
だな。で、午後からは遂に狸たちの宴会へと。
美姫 「お好み焼きに焼きそばね」
懐石料理も良いけれど、これも良いよな。
美姫 「カワウソたちにも好評みたいだしね」
どうやら、双方共に親睦を深めるという事はできたみたいだな。
美姫 「共存できそうかしらね」
どんな結論が出るのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る