『ドリトル先生と京都の狐』




             第二幕  いざ京都へ

 金曜の夕方です、先生とトミーがお家に帰りますと。
 もうお家の前に王子が立っています、執事の人もです。
 その王子がです、二人に笑顔で言ってきました。
「じゃあいいね」
「うん、今からだね」
「京都ですね」
「もう車は用意してあるから」
 移動に使うそれはというのです。
「すぐにそれに乗ってね」
「それでだね」
「京都の旅館まで行って」
「いい旅館だから」
 王子は笑顔のままその旅館のお話もします。
「そこで晩御飯を食べて」
「僕は草でいいけれど」
 先生を乗せている老馬が王子に馬の言葉で尋ねます。
「先生達は何を食べるのかな」
「懐石料理だよ、京都のね」
「懐石料理?」
「日本のご馳走を出すお料理の仕方の一つだよ」
「ふうん、そうなんだ」
「それをね。京都に着いたらね」
 その旅館でだというのです。
「先生も僕達もそれを食べるから」
「ふうん、そうなんだ」
「君にもね」 
 老馬にもだというのです。
「美味しい草を用意してもらってるから」
「有り難うね」
「当然君にもだよ」
 王子はオシツオサレツにも顔を向けて言います。
「草があるから」
「うん、僕も馬さんもね」
「草さえあればね」
 充分だというのです、オシツオサレツはその二つの頭で言います。
「何処でも大丈夫だから」
「気を使ってもらって悪いね」
「いいよ、君達も僕の友達だから」
 友達には気を使って手を尽くすのは当然だというのです、王子は優しい笑顔でお馬さんとオシツオサレツにも言うのでした。
「気にしないでいいよ」
「そうなんだね」
「僕達も」
「皆で京都を楽しもう」
 今度はこう言った王子でした。
「あの街をね」
「それで京都だけれど」
 今度はトミーが王子に尋ねました。
「僕達が今いる神戸から遠いのかな」
「いや、少し行けばね」
「少し?」
「そう、少し行けばね」
 そうすればというのです。
「着くから」
「夜のうちに着けるのかな」
「高速道路を使うから」
「それでなんだ」
「そう、今日のうちに着くよ」
 京都にだというのです。
「だから安心していいよ」
「そうなんだ、それじゃあ」
「晩御飯はキャンピングカーの中に用意してるから」
 それもだというのです。
「ドライブインで買う方法もあったけれどね」
「王子が用意してくれたんだね」
「うん、そうなんだ」
 王子は先生にも笑顔でお話します。
「だからね」
「車の中で旅を楽しみながらだね」
「行こうね」
 こうお話してでした、先生達は王子が用意をしてくれたキャンピングカーに乗り込んで京都に向かいました。車の中で食べる晩御飯はといいますと。
 お握りです、それに卵焼きやソーセージ、それと茸やお野菜がたっぷりと入ったお味噌汁です。そうしたものを食べてです。
 トミーは目を輝かせてです、こう先生に言いました。
「あの、お握りって」
「どうかな」
「はい、凄く美味しいです」
 そうだとです、トミーは先生にその海苔に包まれたお握りを食べつつ言うのでした。
「サンドイッチとは全然違いますけれど」
「日本だとこれがね」
「サンドイッチにあたるんですね」
「日本人は何かあればお握りを食べるんだ」
「日本人のソウルフードですか」
「まさしくそれなんだよ」
 勿論博士もお握りを食べています、それもとても美味しそうに。
「中にも色々なものを入れられるしね」
「あれっ、これは」
 トミーは自分が食べているお握りの中にあるものをここで味わいました。
「海草ですか」
「塩辛くてそれでいて噛みがいがあるね」
「細長く切られていてまとめられています」
「それは昆布だよ」
「昆布ですか」
「それも海草だよ」
 そうだというのです、昆布も。
「美味しいよね」
「確かお味噌汁のだしにも使う」
「それだよ、それで味は」
「御飯にとても合いますね」
 それで美味しいというのです、トミーも。
「いや、いいですね」
「そうだね、他の具もあるから」
「僕さっきはおかかを食べました」
 そしてそれも美味しかったというのです。お握りはテーブルの上に一個ずつ山盛りにされています。お馬さんとオシツオサレツも食べています。
「それも美味しかったですし」
「他の具も美味しいよ」
「そうですか、じゃあ」
「一杯あるからね」
 王子もここでトミーに言います、勿論この人もお握りを食べています。
「遠慮せずにどんどん食べてよ」
「日本って本当に美味しいものばかりだね」
「京都のお料理も美味しいよ」
「そうなんだね、じゃあね」
「楽しみにしておいてね」
 こうしたお話をしながらです、一行は京都に着きました。着いた場所は京都の嵐山というところにある旅館でした。
 お外はもうすっかり暗いです、それで外の景色はわかりませんが。王子は旅館の前で皆に明るく言いました。
「嵐山も景色は素晴らしいからね」
「そうなんだね」
「凄いよ、自然がね」
 王子は朝になるのを楽しみにしておいてとです、先生達に言うのでした。
「一度見たら忘れられない位に」
「それではだね」
「まずは旅館の中に入って」
 そしてだというのです。
「休もう」
「うん、じゃあね」
 先生が応えてです、皆で旅館に入りました。旅館のおかみさん、綺麗な和服を北人が笑顔で迎えてくれてです。まずは動物達の足にです。
 柔らかい袋を付けました、そのうえでこう言うのでした。
「これでしたら床も畳も痛みませんので」
「悪いね、我儘を言って」
「いえいえ、王子は大切なお客様ですから」
 おかみさんは王子に笑顔で応えて言います。
「それにアイディアも出してくれましたし」
「先生は動物の皆と一緒じゃないと寂しくて仕方ないからね」
「はい、それも聞いていますので」
 だからだというのです。
「こちらで用意しておきました」
「おトイレは皆人間のものを使えますので」
 そちらはお気遣いなくとです、先生がお話します。
「安心して下さい」
「はい、王子からお聞きしています」
「スリッパもありますので」
 おトイレに使うそれもだというのです。
「あと馬やオシツオサレツは」
「厩はありませんが」
 残念ながらです、だがそれでもだというのです。
「小屋がありますので」
「そこにだね」
「はい、そこで雨露を凌いでもらいます」
 そうしてもらうというのです。
「ですからそこもです」
「安心してですね」
「そうして下さい」
「わかりました」
 こうお話するのでした、そしてです。
 皆は笑顔で旅館の中に入りました。旅館は全て木造で床も襖も廊下もとても綺麗です。木の香りがしてきそうです。
 そして畳の綺麗な広いお部屋に案内されるとです、おかみさんは先生達にこう言いました。
「お食事を用意してきましたので」
「あれっ、もうそれは車の中で」
「先生、そういうのは言わない約束だよ」
 工事は先生ににこりと笑って告げます。
「だから今はね」
「旅館のお料理を」
「そう、頂こう」
 そうしようというのです、そしてです。
 皆実際に旅館の晩御飯も食べるのでした、そのお料理派といいますと。
 お野菜にです、鶏肉にお魚に。そして特にそのお魚は。
 蛋白でいてしっかりとした味です、トミーはそのお魚を食べて言うのでした。
「このお魚は」
「これが鱧なんだ」
「これがなんだ」
「うん、美味しいよね」
 王子はこうトミーに答えて言うのでした。
「このお魚も」
「確かに」
 その鱧をお箸で食べつつです、トミーは王子に答えます。
「いい味だね」
「このお吸いものもね」
 鱧はお吸いものの中にあります、それを食べながら鱧の味を楽しんでいるのです。そのおつゆにも刃物味が入っています。
 そしてです、お豆腐もでした。
 とても美味しいです、それは神戸のお豆腐とはまた違った味で今度は先生が目を丸くさせてこう言うのでした。
「こんな美味しいお豆腐はね」
「食べたことないよね、先生も」
「うん、特別なお豆腐なのかな」
「京都のお豆腐はね」
 また違う味だというのです。
「特別なんだよ」
「特別美味しいんだね」
「うん、そうなんだ」
 まさにです、そうしたものだというのです。
「だからね」
「それでなんだね」
「そう、あとはね」
 ここで王子はおちょこを出します、勿論そこにあるものは。
「お酒もね」
「お酒もなんだ」
「そう、また違うからね」
「じゃあ一杯」
 実際にです、先生は今度はお酒を飲んでみました。するとそのお酒もです。
 神戸のものとまた違います、それで先生はお酒にも目を丸くさせてそのうえでこう王子に言ったのでした。
「いや、いいね」
「これが京都のお酒なんだ」
「こんなに美味しいなんて」
「いやいや、これがね」
「これが?」
「京都は神戸と違ってね」
「京都に来る前に王子が言ったことだったね」
 先生もここで思い出しました、王子が先生にお話してくれたことを。
「京都で美味しいものを食べようと思えばね」
「そうなんだ、お金を出さないとね」
 美味しいものは食べられないというのです。
「ここはそうした街なんだ」
「お金持ちの街なのかな」
「そうした一面はあるよ」
 それは否定出来ないというのです、王子も。
「このお酒にしても高いお酒だから」
「お豆腐もかな」
「その他のものもね」
 どれもだというのです。
「京都の美味しいものは高いから」
「そういえばこのお料理の腕も」
 先生はここでお野菜を薄味で、しかも繊細に味付けたものを口にしながら言いました。口に入れただけでは味がしません、ですが。 
 その後で徐々にほのかに香りと共に風味が漂ってきます、そしてその盛り付けもとても綺麗なのです。そうしたところも手がかかっています。
 それで、です。先生はそうしたことまで見て言うのでした。
「凄いね」
「京都のお料理は職人だよ」
「料理人のだね」
「そうなんだ、京料理はそうなんだ」
「職人が作るものなんだ」
「だからこれもね」 
「職人のものだね」
「日本は職人の国でもあるからね」
 王子は皆にこのこともお話します。
「例えば食器も」
「あっ、この食器も」
 先生は今手にしている食器にも気付きました、どれも只の食器ではありません。黒塗りで赤い模様まであるそれは。
「漆だね」
「そう、漆塗りでね」
「職人が作ったものなんだ」
「漆塗り職人がね」
 その腕を存分に使って作ったものだというのです。
「そうして作ったものなんだ」
「そうなんだね、これも」
「そうだよ、お箸もね」
「これが噂の漆塗りなんだ」
「そうだよ、だから洗うのもね」
 食器を使ったら絶対に洗わなければなりません、特に日本はそうしたことにはかなり気を使う国なのです。だからこの漆塗りの食器も洗うのですが。
「大変なんだよ」
「漆が剥がれない様に」
「この食器一つでもかなりの価値があるよ」
「具体的にはどれ位かな」
「先生のお家にある食器の優に百倍以上かな」
 値段にしてそれ位だというのです。
「とにかく高いよ」
「そうなんだね」
「うん、だからね」
 それでだというのです。
「この食器はどれもね」
「高いんだね」
「そう、凄くね」
 そうだというのです。
「陶器だってね」
「それもだね」
「凄く高価なものばかりだから」
「ううん、何かこうして食べているだけで」
 トミーはそんな高価な食器を使って高価なものを食べていると聞いてです、恐縮している顔で言うのでした。
「怖くなるよ」
「いや、怖くなる必要はね」
「ないのかな」
「うん、ないよ」
 王子はトミーにも言います。
「自然でいればいいから」
「だといいけれど」
「それじゃあね」
「うん、味わってだね」
「楽しもう、このお料理も」
 こうお話してでした、まずはお料理を楽しんで、です。
 それからお風呂に入って寝ます。そうしてからです。
 朝になるとです、先生達はおかみさんにまずこう言われました。
「朝御飯の前にお風呂はどうでしょうか」
「あれっ、昨日の夜入りましたけれど」
「そうですよね」
 先生もトミーもです、おかみさんの言葉に目を丸くさせて応えます。
「それで朝もって」
「あの、それは」
「いえいえ、朝のお風呂がです」
 それがだとです、おかみさんは先生達に気品のある笑顔でお話するのでした。
「身体を目覚めさせて一日を快くはじめさせるので」
「いいんですか」
「はい、だからです」
 それでだというのです。
「まずは如何でしょうか」
「ううん、朝からお風呂って」
「何か違いますね」
 先生とトミーは顔を見合わせてお話をします、先生達は旅館の浴衣を着ています。昨日のお風呂の後で着たものです。
 その浴衣姿で、です。こうお話するのでした。
「イギリスでは朝のシャワーだとあるけれどね」
「朝からお風呂は」
「日本だからね」
 王子がここで二人に言います、勿論王子も執事さんも運転手さんも浴衣です。
「お風呂だよ。それでここはね」
「おかみさんのお言葉に甘えて」
「それで」
「そう、お風呂に入ろう」
 そうしようというのです、今朝は。
「それから一日をはじめよう」
「うん、じゃあね」
 先生は王子の言葉に頷きました、そしてです。
 皆はまずお風呂に入って身体を綺麗にするのと一緒に目を覚ましました、そして朝御飯の静かなお料理を食べてです。
 そのうえで、でした。王子は皆で旅館の外に出てからまずはこう言いました。
「これがね」
「うわ、緑だね」
「凄いね」
 先生もトミーもです、嵐山の景色を見てです。
 そしてです、こう言うのでした。
「山が緑で一杯で」
「しかもその中に建物がある感じで」
「道もお店も」
「自然と一つになっているんだ」
「これが嵐山なんだ」
 まさにです、それだというのです。
「京都の中でも特に景色が綺麗かな」
「いや、綺麗なんてものじゃないよ」
 先生は目を瞠りながら言うのでした。
「これはね」
「気に入ってもらえたみたいだね」
「凄くね」
 そうだというのです。
「いや、これはね」
「驚いたよね」
「まさかここまで綺麗だなんて」
「イギリスにもないよ」
「イギリスも綺麗な場所が多いけれど」
「これは日本だね」
「日本の景色だよね」
 その綺麗さだというのです、イギリスにはイギリスの日本には日本の景色の綺麗さがあって嵐山は日本の綺麗さだというのです。 
 それで、です。先生は川の流れやその岸辺からはじまり山も覆っている木々、青や緑も見てこうも言うのでした。
「別の季節に行っても楽しめそうだね」
「秋にもだよね」
「うん、秋の綺麗さがあるよね」
「冬もね。雪が降ったら」
 その時はです、どうなるかといいますと。
「凄く綺麗だから」
「そうだよね、白い嵐山だね」
「その時も凄いよね」
「かなり凄いよ」
 実際にそうだというのです。
「この目で見ていないけれど写真で見るとね」
「凄いんだね」
「そう、凄いから」
 だからだというのです。
「僕も今度行ってみるよ」
「その時は僕達もかな」
「冬の嵐山にも」
「一緒に来ようね」
 その季節もだとです、こうお話してでした。 
 皆はまずは嵐山を見て回りました、そしてそれからです。
 キャンピングカーを使って京都のあちこちを見て回ることにしました、まずはです。
 清水寺に行きました、先生は遠くまで見えるその舞台に来ました。けれどここでその下を見て怖そうに言うのでした。
「いや、ここも綺麗だけれど」
「怖い?」
「こうした場所に来ることは慣れてるけれど」
 それでもだというのです。
「いや、高いね」
「落ちるとね」
 どうなるかとです、王子は先生に清水寺のこともお話します。
「以前も何人か落ちた人がいるけれど」
「死んだよね、その人は」
「いや、これまで何人かいたけれど」
 それでもだというのです。
「死んだ人はいないよ」
「あっ、そうなんだ」
「そうなんだ、死んだ人はいないんだ」
 こう言うのでした。
「今のところはね」
「そういえば木も多いね」
 先生はあらためて舞台の下を見ました。すると確かに高いですが下には木が一杯あります、それを見て言うのでした。
「それに引っ掛かってだね」
「うん、それでなんだ」
「助かったんだ」
「こうした場所だから」
 それでだというのです。
「落ちた場合も安心していいよ」
「いや、落ちないからね」
 そもそもそうならないというのです。
「絶対に」
「それが無難だね」
「うん、それにしても」
 ここで、です。先生は今度は舞台を見て回りました。観光客の人達も一杯いるその舞台自体もです。先生が見まして。
「いや、かなり」
「かなり綺麗だよね」
「いい場所だね、日本にはこんな場所もあるんだ」
「そうだよ、京都にはね」
「凄過ぎるよ」
 感嘆の言葉でした。
「日本はね」
「美しいって言うべきかな」
「美しい日本の私だったかな」
 ここで、です。先生はこの言葉を出しました。
「そうだったかな」
「ええと、確かその言葉は」
「川端康成だったかな」
 この作家さんの名前を出すのでした。
「あの人だったね」
「ノーベル文学賞だったよね」
「それを受けた人だよ」
「その人の言葉だったんだね」
「本当にそうだよ」
 美しい、まさにそうだというのです。
「とてもね」
「そうですね、この場所は」
 トミーもうっとりとして周りを観ながら先生に応えます。
「幻想的ですよね」
「そうだね、これが幽幻というのかな」
「いや、幽幻はまた違うと思うよ」
 王子は先生にこのことは断りました。
「またね」
「違うんだね、また」
「うん、これはね」
 どういったものかといいますと。
「幻想的だろうね」
「そちらなんだね」
「そう思うよ、僕は」
「では幽幻は何かな」
「能かな」
 王子が幽幻とは何かをお話する時に出したのはこれでした、日本の演劇の一つでお面をつけてするものです。
「あれが幽幻かもね」
「能だね」
「能は京都が本場だけれど八条学園でも観られるよ」
「ああ、能部ってあったね」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「今度観るといいよ」
「うん、それじゃあね」
 先生は学園でその能を観ようと思うのでした、そしてです。
 先生達は清水寺の後は銀閣寺に来ました、するとジップはお水と草木の間にある銀閣寺を観てこんなことを言いました。
「あれ、銀じゃないんだ」
「銀閣寺だけれどね」
「銀はないよね」
 このことをです、ポリネシアとトートーも言いました。
「木だよね」
「普通の建物だよね」
「日本のね」
「ごく普通の」
「これの何処が銀閣寺なのかな」
 ジップは首を傾げつつ先生に尋ねました。
「先生もおかしく思わない?」
「そうだね、僕も銀閣寺については調べているけれど」
 それでもだとです。、先生もこうジップに答えます。
「最初は銀を使おうっていう意見もあったらしいよ」
「それで何で使われなかったの?」
「当時建てた幕府にお金がなかったらしいよ」
「銀を使うだけの」
「それか建てた足利義政さんがこれでいいと言ったとか」
 こうした説もあったというのです。
「その辺りは諸説あるんだ」
「そうなんだ」
「うん、まあ金閣寺は金を使ってるけれど」
「この銀閣寺はなんだね」
「そうだよ、銀閣寺だけれどね」
 銀はあってもだというのです、先生もその木造のもの静かな趣の建物を眺めながらジップ達にお話します。
「銀はないよ」
「そうした建物なんだね」
「そうだよ」
 こうお話するのでした、そしてです。
 王子がです、ここでまた言うのでした。
「じゃあ次はね」
「次は?」
「次はっていうと?」
「南禅寺に行こうね」
 次に行く場所はというのです。
「そこでお昼も食べようね」
「お昼御飯は何なの?」
 ガブガブが尋ねます、そのお昼御飯は何かと。
「京都の食べものだよね」
「そうだよ、湯豆腐だよ」
「湯豆腐なら普通にあるんじゃないの?」
 ガブガブも日本のことがわかってきました、それでこう王子に言葉を返したのです。
「あれなら」
「いや、湯豆腐は京都が本場なんだ」
「あっ、そうなんだ」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「京都の湯豆腐は名物にもなってるんだ」
「特にその南禅寺の湯豆腐がなのね」
 今度はチーチーが言ってきました。
「京都でも有名なのね」
「そうだよ、じゃあね」
「今度は南禅寺だね」
 先生も王子に応えます。
「そこに行ってだね」
「うん、ただね」
「ただ?」
「お昼までにはもう少し時間があるかな」
 王子は自分の左手首の腕時計を見て言いました、その腕時計は日本製のとても正確なものです。しかもかなり壊れにくいです。
「じゃあもう一つ行こうかな」
「何処に行くの?」
「うん、東側だしね」
 だからだというのです。
「平安神宮にしようかな」
「今度は神社だね」
 先生は平安神宮と聞いてこう言いました。
「東だからだね」
「僕達結構な速さで動いてるからね」
「京都は信号が多いけれどね」
 京都の特徴です、道が碁盤の目の様になっていてそれで十字路が多くなっていて信号もその十字路ごとにあるのです。
「スムーズにいけてるね」
「運がいいよ、休日なのにね」
 車も少なめでというのです。
「だからもう一つね」
「平安神宮にもだね」
「行こうかな。けれどあそこは周りに他にも観られる場所があるし」
「それじゃあじっくり回らない?平安神宮の方は」
 トミーは王子の言葉を聞いてこう提案しました。
「そうする?」
「そうだね、その方がいいかもね」
 王子もトミーのその提案に頷きました。
「午後は平安神宮と京都タワーかな、あと四条なんかも行って」
「四条って?」
「京都の繁華街だよ」
 そこが四条だというのです。
「土産ものとかが一杯あるんだ、あとそこにも面白いお寺があるし」
「じゃあまだ早いけれどね」
「うん、まずは南禅寺に行こうか」
 王子もトミーの言葉に頷きました。
「それでお腹一杯になったうえでね」
「それでだね」
「午後はじっくり回ろうか」
「平安神宮に京都タワーにだね」
「そして四条にね」
 それがこの日の予定だというのです。
「忙しくなるけれどいいよね」
「いいよ、王子に任せるよ」
 先生は穏やかな笑顔で王子に答えます。
「そうしていこう」
「それじゃあね、次は南禅寺に行こう」
 こうしてでした、皆は今度は南禅寺に向かいました。そして南禅寺に行くとその大きな山門においてでした。
 チーチーはすぐに山門に登って下を見ます、王子はそのチーチーを見上げながら笑ってこうしたことを言いました。
「絶景かな、絶景かなってね」
「それ何なの?」
「歌舞伎である台詞なんだよ」 
 こうチーチーに説明するのでした。
「これはね」
「へえ、歌舞伎なんだ」
「そう、石川五右衛門もね」
 王子はこの人のこともお話します。
「日本の大泥棒だよ、かつては忍者だったね」
「あっ、忍者だったんだ」
「それが大泥棒になったんだ」
「それでその五右衛門さんがなんだ」
「今のチーチーみたいにね」
「この山門に登ってなんだ」
「絶景かな、絶景かなって言うんだ」 
 歌舞伎の舞台の中でだ、そうするというのです。
「それで下にいる羽柴秀吉と向かい合うんだ」
「羽柴秀吉ってあの」
「うん、日本の英雄の一人だよ」
 まさにその人とだというのです。
「向かい合うんだ」
「ふうん、そうなんだ」
「丁度今のチーチーと僕みたいにね」
「じゃあ僕が五右衛門さんかな」
 チーチーは王子の言葉を聞いて考える顔になってこう言いました。
「それだと」
「そうだね、僕が秀吉だね」
「僕泥棒なんかしないよ」
「そんなことしたら駄目だよ。五右衛門さんは最後釜茹でにされるしね」
「煮られて殺されたんだ」
「そう、その秀吉さんの宝物を盗もうとしてね」 
 王子はチーチーを見上げつつ言います、山門は高くてそしてとても綺麗です。その風情の中にあっての言葉です。
「それで捕まってね」
「釜茹でにされたんだね」
「そうだよ、だからチーチーもね」
「盗みなんかしないで」
「これまで通り真面目にね」
「うん、先生と一緒に暮らしていくよ」
 チーチーもこのことを約束しました、そしてでした。
 一行は南禅寺の中で湯豆腐を食べました、そのお豆腐がです。
 とても美味しくてです、ホワイティも言いました。
「いや、噛めないけれど」
「それでもだね」
「ええ、美味しいわ」
 こう言うのでした。
「とてもね」
「普通のお豆腐と違うね」
「全くの別ものだよ」
 そこまで違うというのです。
「何か幾らでも食べられそうだよ」
「あれっ、お豆腐は確かに食べやすいけれど」
 ダブダブも湯豆腐を食べながら言います。
「ここまで食べやすいものかしら」
「ううん、何かこのお豆腐だとね」
 どうかとです、先生も言うのでした。あったかい湯豆腐を食べながら。
「本当に幾らでも食べられるね」
「不思議ですよね」
 ダブダブは先生にも言います。
「このお豆腐って」
「こんなお豆腐があるんだね」
「神戸のお豆腐とはまた違いますね」
「南禅寺のお豆腐は特別なんだ」
 王子もです、そのお豆腐を食べつつ皆にお話します。
「幾らでも食べられるんだ」
「そうなんだね」
「そうだよ、だからここでね」
「うん、お腹一杯だね」
「食べてね」 
 こう皆に言ってです、湯豆腐を勧めるのでした。皆で湯豆腐を食べてそうしてなのでした。南禅寺を出ますが。
 ここで、です。ジップが不意にでした。
 何か匂いを察してです、周りを見回してこんなことを言いました。
「あれっ、おかしいな」
「どうしたんだい?」
「はい、狐の匂いがしました」
 こう先生に言うのでした。
「八条動物園にいる狐君達と同じ匂いが」
「狐かい?」
「はい、それが」
 したというのです。
「今しました」
「狐もいるかもね」
 王子もジップの言葉にそれもあるだろうと言うのでした。
「そちらもね」
「いるんだ」
「だってここは木々も多いし」
 王子は南禅寺の外の道の周り、少し坂になっていてお店もあるその木々のところを見てこうジップにお話します。
「小さな動物もいるしね」
「だからだね」
「狐がいてもおかしくはないよ」
「そうなんだ」
「それに京都は昔から狐や狸のお話も多いから」
 そうしたお話もというのです。
「狐は昔から多いよ」
「ふうん、そうなんだ」
「それで人を化かしたりするんだ」
 このこともお話する王子でした。
「だから狐の匂いはね」
「特に気にしなくていいんだ」
「ジップは狐を狩ったりしないね」
「僕はそういう犬じゃないよ」
 犬は狐狩りに加わるものです、イギリスでは狐狩りはスポーツの一つでもあります。先生は狩り自体をしませんが。
「先生も狩りとか嫌いだしね」
「動物を狩って遊ぶことはね」
 どうもとです、先生も言います。
「好きじゃないからね」
「そうだよね。日本では狐狩りはしないから」
「あっ、そうなんだ」
 先生は王子から日本では狐狩りというスポーツ自体がないということを聞いて明るい笑顔になって言いました。
「狐狩りもないんだ」
「うん、そうだよ」
「それはいいことだね」
「先生もそう思うよね」
「そういえば日本の狐は」
 今まで読んだ日本の本からです、先生は気付きました。
「イギリスの狐とはまた違うね」
「そうでしょ、何か可愛いでしょ」
「調べてみたら日本の狐は小さいしね」
「鳥よりも油揚げが好きなんだ」
「そうそう、日本の狐は油揚げが大好きなんだよ」
 先生はこのことも知ったのです、日本の狐は人を化かして驚かせることと油揚げが大好きなのです。イギリスの狐とは本当に違うのです。
「悪戯をしたら絶対にばれて怒られてね」
「可愛いよね」
「中国でも狐はよく話に出るけれどね」
 その中国の狐ともまた違います、日本の狐は。
「可愛いね」
「先生も好きになってるね」
「いいと思うよ、日本の狐は」
「狐の匂いがしたのは」
 ジップがその匂いを嗅いだのはどうしてか、王子はここで南禅寺の前にうどん屋さんがあることを見て言いました。
「うどん屋さんのきつねうどんのせいかな」
「あっ、きつねうどんは揚げを乗せているからね」
 トミーがここで言いました。
「だからだね」
「そうだよ、どうしてきつねうどんと言うかっていうのもね」
「揚げを乗せているからだね」
「そうだよ、それでだよ」
 狐の大好物の揚げを乗せているからです、だからきつねうどんなのです。
「勿論狐もきつねうどんは大好物だよ」
「そこまで揚げが好きなんだね、日本の狐は」
「そうなんだ」
 まさにだというのです。
「面白いよね」
「うん、僕も狐について色々調べてみようかな」
「そうするといいよ」
 こうお話してでした。皆は今度は平安神宮n向かうのでした。けれどです。
 狐のことが気になってです、皆は平安神宮に向かう途中も日本の狐についてあれこれとお話をするのでした。
「狐って怖いけれど」
「そうそう」
 チープサイドの奥さんとホワイティがお話します。
「私達を食べるからね」
「怖いなんてものじゃないわ」
「けれど日本の狐はね」
「揚げの方がずっと好きなのね」
「そうなんだよね、確かに君達も食べてね」
 王子はチープサイド達にもお話します、その車の中で。
「鼠の天麩羅も好きだけれど」
「迷惑なことね」
 ホワイティは王子が狐は鼠の天麩羅も好きだと聞いて顔を顰めさせて言いました。
「それは」
「そうだね、けれどね」
「まずは揚げなのね」
「日本は揚げがあるともうそれで満足するんだ」
 鳥や鼠よりもずっと好きだというのです。
「狐の神様もそれが好きなんだ」
「稲荷明神だね」
 先生は狐の神様と聞いてこう言いました。
「あの神様だね」
「そうだよ、日本ではかなり有名な神様なんだよね」
「あちこちに庵があってね」
 それでだというのです。
「有名な神様だね」
「それだけ日本は狐のお話が多くて親しまれてるんだ」
「それ狸もだよね」
 こう言ってきたのはお馬さんでした。
「何か日本では狸も親しまれてるんだよね」
「うん、そうだよ」 
 このことにも答えた王子でした。
「狸の庵はないけれどね」
「それでもなんだね」
「日本人は狸も好きだよ」 
 そうだというのです。
「たぬきそばもあるんだ」
「たぬきそばはね」
 先生はたぬきそばについてもお話しました。
「関東と関西だと違うんだよね」
「あれっ、そうなんだ」
「そうだよ、実はね」
「じゃあどう違うのかな」
「関西では。八条学園のたぬきそばもそうだけれど」
 まずは関西のたぬきそばからお話する先生でした。
「油揚げが乗っているんだ」
「じゃあきつねうどんがおそばになったものだね」
「そうなんだ、関西のたぬきそばはね」
「じゃあ関東のは」
「天かすを入れているんだ」
 これが関東のたぬきそばだというのです。
「地域によって違うんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「油揚げを乗せたそばをきつねそばという地域もあるし天かすを入れたうどんをたぬきうどんという地域もあるよ」
「そういえば八条学園は幾つか食堂があって」
 トミーも言います。
「その食堂はどれも」
「関西なんだろうね」
 八条学園が関西の神戸にあるからです。
「薄味だっていうしね」
「そうだったんですね」
「お好み焼きもあるけれど」
 日本のお料理のこれはどうかといいますと。
「大阪だよね」
「そうそう、八条学園のお好み焼きは大阪風だよ」
 王子もそうだと言います。
「広島のじゃなくてね」
「本当に関西だね」
「日本も地域の色があるんだよね」
「イギリス程じゃなくても」
「イギリスはちょっと地域色が相当に強いというかね」
 王子はイギリスの地域色については考える顔で述べます。
「元々は違う国同士だったから」
「うん、それでね」
「物凄いからね、イギリスの地域色は」
「特別だね」
「日本の地域色はイギリスとはまた違うから」
 食べものの違いがあってもだというのです。
「あそこまで強くないよ」
「そうなんだね」
「そうだよ、それとね」
 王子はさらにお話します。
「狐は気にしなくていいよ」
「日本の狐は」
「大人しいから」
 だからだというのです。
「化かす狐がいてもね」
「そういえば」
 ここでまた言う先生でした。
「八条学園は怪談話もかなり多くて化け狐の話もあるんだよね」
「そうだよ、あの学園は保育園から大学院まで妖怪の話で一杯だよ」
「幽霊とね」
「とにかく多いからね」
 だからだというのです、狐のお話もだというのです。
「九尾の狐もいるそうだし」
「尻尾が九本って魔女の使い魔みたいだね」
 トミーは王子の言葉からこう連想しました。
「何かね」
「欧州の魔女は猫を使い魔にすることも多いからね」
「それで使い魔の猫が変身する度に尻尾が増えていくけれど」
 それで最高で九本になるのです、ですが日本の狐は変身する度に尻尾が増える訳ではないのです。ではどうして増えるかといいますと。
「長生きするにつれてね。妖力が備わっていって」
「じゃあ尻尾の数が多いだけ長生きしてて妖力も大きいんだ」
「日本の狐はね」
「じゃあ九尾の狐は」
「千年長生きしていて妖力も相当だよ」
 かなりのものだというのです。
「もうね」
「そうなんだね」
「まあ九尾の狐なんてね」
 それこそという口調になって言う王子でした。
「滅多にいないから」
「八条学園にはいても」
「噂だよ、いたら凄いよ」
「そんなに凄い狐なんだ」
「うん、中国とかインドじゃ大暴れしたし」
 そうした九尾の狐もいたのです。
「凄かったんだよ」
「何か凄いね」
 ガブラブはそうした狐のことを聞いて目を瞬かせて言いました。
「日本の狐って」
「凄いよ、実際にね」 
 王子もこうガブガブにお話します。
「凄い狐もいるから」
「そうなんだね」
「まあとにかく、今度はね」
「平安神宮だね」
「そこに行くからね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で平安神宮に向かいます、そしてそこで思わぬ出会いが待っているのでした。



今回は京都の観光か。
美姫 「食べ物だけじゃなく、狐なんかの話も出てきたわよね」
確かに、狐に纏わる話って結構あるよな。
美姫 「そうよね。まあ、狐の話からも食べ物関連に行ったりと食べ物が絡んできたけれどね」
何はともあれ楽しんでいるようで良かったじゃないか。
美姫 「そうね。次はどんな話をするのか楽しみね」
だな。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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