『ドリトル先生の来日』
第一幕 困っている先生
少し太っていてくすんだ金髪、優しげな顔立ちの中年男性ドリトル先生は沼のほとりのパトルビーの我が家で困った顔をしてテーブルに座っています、それはどうしてかといいますと。
「今日も来ないですね」
「そうだね」
傍にいるオウムのポリネシアに応えます、先生はちゃんとオウムの言葉で応えています。
「今日もね」
「患者さんが誰も来ないですね」
「最近不況でね」
「イギリスはしょっちゅう不況になりますね」
「不況になると病気になる人が減るんですか?」
床で御飯を食べている豚のガブガブた先生に顔を向けて尋ねてきました。
「病気になることはどうしてもじゃないんですか?」
「病院に来たらお金がかかるんだよ」
先生はガブガブに苦笑いを浮かべて答えます。
「不況になったら失業したりお給料が減るからね」
「お金がなくなるからなんだ」
「そうだよ、だから皆病院に行くのを我慢する様になるんだ」
「それで患者さんが減ってるんだ最近」
「オリンピックもあったけれどね」
先生はロンドンオリンピックのこともお話します。
「あまり経済の復活には役に立ってくれなかったみたいだね」
「何かね、失敗したみたいですよ」
テーブルの席の一つに座っているアヒルのダブダブが口やかましい感じで言ってきます、そのアヒルの言葉で。
「色々と」
「そうなんだ」
「はい、開会式の誘導から」
「折角のオリンピックだったのにね」
「それに今ヨーロッパ全体が大変ですから」
不況はイギリスだけのことではないのです。
「EUもどうなるやら」
「そうだね、だからうちの病院もね」
患者さんがめっきり減ってしまったのです。
「只でさえ少ないのに」
「バンポ王子もイギリスから出られましたしね」
犬のジップが床から言ってきます。
「何処に行かれましたっけ」
「日本だよ」
先生はジップに王子が行った国についてもお話しました。
「あの国に留学先を移したよ」
「日本、東の方の島国ですね」
「そう、我が国と同じね」
島国だというのです。
「あの国も島国だよ」
「凄く古い国ですよね」
先生の手元にいる白ネズミのホワイティーが日本について尋ねてきました、先生のそのお顔を見上げて。
「そうですよね」
「何でも二千六百年以上の歴史があるらしいよ」
「それ本当ですか?」
「実際はそれより何百年かは短いらしいけれどね」
それでもかなり長い歴史を持っている国だというのです。
「イギリスよりもさらにね」
「古い国ですか」
「しかも風景が凄く綺麗で四季がある国らしいね」
「イギリスっていつも雨ですからね」
暖炉のすぐ近くの安楽椅子に座っているチンパンジーのチーチーが少し笑って言ってきます、あんr買う椅子の背には梟が止まっています。
「春夏秋冬があるんですか」
「はっきりとね」
「じゃあいい国ですか?」
その梟、トートーが大きな目を向けてやっぱり先生に尋ねてきます。
「日本は」
「僕はまだ行ったことがないけれどそう言われてるよ」
「そうですか」
「しかも経済的にはイギリスよりもずっといいらしいね」
「今この国というかヨーロッパ全体がまずいですよ」
窓辺にいる雀のチープサイドもいます、その左右にはご主人雀と子供達が一杯います。
「現に病院に誰も来ないですから」
「ううん、困ったね」
先生は苦笑いと共にまた言います。
「不況もここまで来たら本当にね」
「患者さんが来てくれないと」
ポリネシアがこのことを念押しする様に述べます。
「私達どうなるかわからないですよ」
「そうなんだよね」
「蓄えはまだありますか?」
「あまりないよ」
命綱と言っていいそれもだというのです。
「正直どうしようかって思ってるんだ」
「もうこうなったらどうしようもないですから」
ダブダブがここで提案することはといいますと。
「ここを出ますか?」
「パトルビーをかい?」
「はい、そうします?」
「そうだね、実際患者さんが来てくれないからね」
先生もこのことから言うのでした。
「このままだとね」
「はい、どうしようもないですから」
「ですから」
ダブダブは家計簿を開きます、見れば真っ赤です。
「このままじゃ私達どうなるかわかりませんよ」
「またサーカスか動物園をします?」
ガブガブは前に先生が自分達と一緒にしたことをまたしようかと提案しました。
「そうします?」
「お客さん来るかな」
チーチーはガブガブに真剣に疑問を感じながら聞きました。
「だって患者さんすら来てくれないんだよ」
「不況でだよね」
「そう、だからね」
それでだとです、チーチーは言うのです。
「動物園やサーカスをしても」
「肝心のお客さんが来てくれないんだ」
「イギリスだけでなくヨーロッパ全体が危ないんだよ」
「特にギリシアとかだよね」
「そんな状況だからね」
お客さんが来ないだろうというのです。
「かなりまずいよ、今」
「じゃあどうすればいいのかな」
「生活保護ですか?」
トートーは奥の手を提案しました。
「それを申請しますか?」
「ううん、そこまではしたくないけれど」
先生は腕を組んで困った顔になってトートーに答えます。その鳶色の目も困った感じになってしまっています。
「けれどね」
「正直今手詰まりですよ」
チープサイドもこう言うしかありません。
「どうしましょう」
「景気が急によくなるとかないかな」
「そんなことがあると思います?」
「今のイギリスの状況だとね」
先生はすぐにチープサイドに答えることが出来ました。
「ないね」
「そうですよね」
「本当にどうしたものかな」
先生はいい加減困りきっています。
「今は」
「ううん、難しいですね」
「どうしたらいいでしょうか」
「打つ手がないっていうか」
「そんな状況ですね」
動物達も困っています、そこにです。
先生の妹さんであるサラが来ました、お兄さんと同じくすんだ金髪ですが目は緑色です、顔立ちは可愛らしく小柄です。ピンクのひらひらの服を着ています。
そのサラがです、お兄さんのところに来て言うのです。
「兄さん、最近生きてるの?」
「幽霊にはなっていないよ」
お兄さんはテーブルのところに座ったまま答えます。
「この通りね」
「それならいいけれど」
「まあ生きてはいるよ」
「患者さんはいないのね」
「今日も一人も来てくれないよ」
先生は困った顔で妹さんに言うのでした。
「どうしようかな」
「どうしようって言われてもね」
サラはお兄さんの言葉に首を左に傾げさせて答えます。
「それがね」
「不況だからだね」
「私の家も困ってるのよ」
「ご主人のお仕事もかい」
「そう、主人も困ってるのよ」
「ご主人は会社を経営していたね」
「小さな会社だけれどね」
お茶を売っている会社です、イギリス人にとってお茶は欠かせないものです。
「ところが不況でね」
「皆お茶を買ってくれないんだ」
「それで困ってるのよ」
「患者さんもいないしお茶も売れないって」
「イギリスはどうなるのかしら」
「さてね、もうアメリカに抜かれて中国に抜かれて日本に抜かれてだからね」
大英帝国はもう昔のことになっています。
「オリンピックは失敗したみたいだし」
「オリンピックの話は止めましょう、腹が立つばかりだから」
サラはこの話は無理に止めました。
「サッカーといいフェシングといい柔道といいね」
「何かあったのかな」
「兄さんはスポーツに興味ないから知らないのね」
「うん、何かあったのかい?」
「知らないならそれでいいわよ、知ったら知ったで怒るから」
サラはむっとした顔でお兄さんにお話します。
「とにかく、今のイギリスはね」
「不況だね」
「不況になったら長いし深刻だから」
「イギリスの場合はそうだね」
「今はヨーロッパ全体がよ、どうしようもないわ」
「それでこっちもなんだよ」
先生はまた自分の病院の現状をお話するのでした、何しろ暇で暇で今も動物達と一緒にここでお話をしている位です。
「患者さんがいなくてね」
「往診に出たら?それか割安にするとか」
「お金は元々安いよ、うちは」
先生はお金にはあまり興味がありません、ですから治療費もかなり安いのです。ですがそれでもなのです。
「けれどそれ以上に不況だから」
「病院に行くお金もないのね」
「そうなんだよね」
「まあね、私も今は多少の風邪だと風邪薬飲んでぐっすり寝てね」
「それで治すんだね」
「それが安くつくから」
だからそうしているというのです。
「お金が勿体無いから」
「ほら、サラもそう言うじゃないか」
「不況だからね」
とにかくそれに尽きました、皆不況が悪いといった感じです。
「仕方ないわよ」
「不況不況、何処もかしこも不況だね」
「だから主人の会社も辛くて」
「僕の病院も誰も来ないよ」
「兄さん、うちの会社も心配だけれど」
「そっちもだね」
「ええ、どうするの?」
サラは真剣にお兄さんを心配して尋ねます。
「小説でも書く?」
「コナン=ドイルになるんかい?」
「ええ、そうしてみたら?」
「売れたらいいけれどね」
先生は腕を組んだまま首を右に傾げさせて妹さんに応えました。
「けれどね」
「売れそうにもないっていうのね」
「そもそも小説とか書いたことはないよ」
論文やカルテは書いたことはあってもです。
「推理小説はね」
「そうなのね」
「うん、とにかく今はどうしようかな」
「生活保護受ける?」
妹さんもこう提案するのでした。
「このままだとパンもなくなるでしょ」
「そろそろ蓄えもないしね」
「それかここを出て何処かでまた病院をやるか」
「今この子達とそのことを話していたんだよ」
先生は自分の周りにいる動物達を見回してからサラに答えます。
「それでもね」
「ヨーロッパ全体が不況だからなのね」
「それこそロシアにでも行かないと」
「ロシア?あそこは今はヨーロッパっていうよりアジア太平洋でしょ」
「そうなってきてるね」
「何ならアメリカに行く?」
サラはお兄さんにこう提案しました。
「そうしたら?」
「アメリカ?」
「そう、アメリカの何処かに」
「あそこも景気悪いっていうけれどヨーロッパよりずっとましらしいね」
「アメリカの不況はヨーロッパじゃ好景気よ」
そこまで違うというのです。
「それに食べものもあるわよ」
「あり過ぎる位だよね」
「兄さんが普通に見える位に皆太ってるじゃない」
サラはアメリカ人の太り方についても言いました。
「もう凄い位に」
「ううん、アメリカねえ」
「考えてみる?」
「いいかもね、ロシアは寒いし」
あまりにも寒いです、だからだというのです。
「アメリカの方がいいかな」
「ええ、その方がいいかも知れないわよ」
「レモンティーは嫌だけれど」
アメリカで飲まれる紅茶はレモンティーです、若しくはコーヒーです。先生はミルクティーが好きなのでそれはなのです。
「それでもね」
「このままじゃ本当にどうしようもなくなるわよ」
「患者さんが来てくれないから」
不況は本当に怖いです、患者さんまでいなくなくしてしまうのですから。
「確かにね」
「そう、どうにかしないと」
「ううん、どうしようかな」
「本当にイギリスを出ることも考えてね」
そこまで検討してはどうかというのです、サラは。
「さもないと本当に大変なことになるわよ」
「じゃあ誰かからお誘いがあればね」
その時はすぐにだと言う先生でした。
「そうしようかな」
「何処でも行くの?」
「それか本当にアメリカへの移住をね」
考えるというのです。
「言葉も通じるから」
「兄さん英語以外にも喋れるじゃない」
「一応はね」
「どの言葉を喋れたかしら」
「英語にね」
まずは自分の国の言葉です。
「フランス語にドイツ語、イタリア語とスペイン語にね」
「喋れる国なら行けるでしょ」
「ヒンズー語に中国語、日本語ね」
「あら、日本語もなの」
「最近ここに日本からの留学生が来て教えてもらったんだ」
だから日本語も喋れるというのです。
「難しい言葉だけれどね」
「喋れる様になったのね」
「書けるし読めるよ」
動物達のあらゆる言葉もわかる先生です、難しいと言われる日本語も喋れるのです。
「あとアフリカの言葉も幾つか」
「じゃあかなり行ける国多いじゃない」
「そうだね、じゃあね」
「とにかく生きないと」
「皆もいるし」
先生は周りの動物達も見つつ言います。
「何とかしないとね」
「あのお馬さんや頭が二つある山羊さんもいるでしょ」
「皆元気だよ」
勿論彼等もだというのです。
「凄くね」
「それじゃあ絶対にね」
「食べられる仕事探すよ」
「そうしてね、じゃあ私はね」
「もう帰るのかい?」
「お仕事でね」
家のお仕事でだというのです。
「お客さんを接待しないといけないから」
「逃がす訳にはいかないね」
「絶対にね」
サラも真剣です、何しろ不況で来てくれるお客さんはもう天使に見えるからです。それで逃がす訳にはいきません。
「さもないとパンを食べられなくなるわ」
「ジャガイモもかな」
「そう、それもね」
サラは厳しい顔でお兄さんに言うのでした。
「大変なんだから」
「ううん、本当に困ったな」
「何処かに大きな契約ないかしら」
サラは立ったまま腕を組んでこんなことも言いました。
「お茶をどんどん買ってくれるとか」
「そういえば日本もお茶の国だね」
先生は今ちょこちょこ名前が出ているこの国のことをここで出しました。
「そうだったね」
「あの国は紅茶だけじゃないわよ」
「色々なお茶を飲んでいるらしいね」
「そう、何種類あるかわからない位よ」
「紅茶だけじゃないんだ」
「凄いのよ、あの国は」
サラは日本のお茶についてもお兄さんにお話します。
「味にも五月蝿いらしいわ」
「じゃあ君のご主人の会社にもいいじゃないか」
「お茶の味がいいからっていうのね」
「お茶の味には自信があるんだろう?」
「うちの会社のお茶はイギリス一よ」
サラは胸を張ってこう言い切りました、それまで組んでいた手は腰の横に置かれました。
「甘く見てもらっては困るわ」
「そうだよね、それじゃあ」
「ええ、日本人にも満足してもらえるわ」
「あのグルメのだね」
「絶対にね」
「じゃあ日本の仕事が入ればいいね」
「そう思うわ、とにかく今はイギリス中どころかヨーロッパ全体が苦しいから」
サラはまた腕を組んで言いました。
「兄さんも真剣に考えてね」
「本当に移住を考えようかな」
「それだけの言葉を使えるならね」
是非にと言うサラでした。
「考えてね」
「わかったよ、じゃあ」
「それで兄さん今三時よ」
サラはここで話題を変えてきました、それまでの不況だの経営だのといった深刻なお話もこれで止めたのです。
「紅茶はまだあるわよね」
「勿論だよ」
それはあると答えることが出来た先生でした。
「ティーセットもあるよ」
「ならいいわ、じゃあ今からね」
「サラがうちで飲むなんて久し振りだね」
「そうね、それはね」
その通りだとです、サラはこのことについては微笑んで答えました。
「言われてみればね」
「そうだね、じゃあ今からね」
「ティーセットは何なの?スコーン?」
「上段はクッキーになるよ」
まずそこはそうなるというのです。
「中段はエクレア、下段はフルーツケーキだよ」
「ケーキはいいとしてスコーンとサンドイッチじゃないのね」
ティーセットの定番のその二つでないことにです、サラは微妙な顔になって言うのでした。
「そうなのね」
「駄目かな」
「いいわ、別に」
「特に文句はないんだね」
「ええ、それじゃあ一緒に頂きましょう」
「動物達も一緒でいいよね」
「もう慣れたわよ」
サラはこのことについては苦笑いになりながらもいいと答えます。
「流石に鰐は駄目だけれど」
「鰐はもう家に帰ったよ」
「それだったらいいけれど」
「サラは鰐だけは駄目なんだ」
「だって人を食べるじゃない」
鰐は人間も食べます、暑い国ではとても恐れられています。
「だからね」
「大丈夫だよ、大人しい鰐だから」
「鰐は鰐でしょ」
「いい鰐もいれば悪い鰐もいるよ」
「そうなの?」
「人間と同じだよ」
鰐もまた然りだというのです。
「人間に善人と悪人がいる様にね」
「鰐もなのね」
「そう、いい鰐と悪い鰐がいるから」
「あの鰐はいい鰐なのね」
「そうだったんだよ」
「鰐にも性格があるのね」
「どの生きものも同じだよ、いい生きものと悪い生きものがいるから」
先生はここで今自分の周りにいるダブダブやジップ達を見てこうも言いました。
「うちにいる皆はいい子ばかりだよ」
「そうみたいね、それじゃあね」
「一緒に飲もうか」
「そうしましょう」
こうお話してでした、そのうえで。
サラはお兄さんと一緒に、動物達に囲まれつつティータイムを楽しみました。そして後片付けの後でこうお兄さんに言いました。
「じゃあいいわね」
「うん、これからのことをだね」
「真面目に考えてね」
こうお兄さんに言うのでした、自分のお家に帰る時も。
「そして出来ればね」
「奥さんもだね」
「兄さんも結婚したら?」
サラはこのことも真面目に言うのでした。
「結婚したら子供も出来てね」
「幸せになれるっていうんだね」
「結婚は神が与えてくれる最高の幸せよ」
それ故にというのです。
「兄さんもね」
「結婚ねえ」
「誰か見付けた方がいいから」
「移住してそこで会えればいいね」
「イギリスにいなくてもね」
「うん、誰かいてくれるかな」
「相手は星の数程いるわよ」
サラは結婚相手にも困らないというのです。
「兄さんは私に似ないで冴えない容貌だけれど」
「お父さんに似たからね」
そしてサラはお母さんに似たのです、兄妹で全く似ていないことについてはこうした遺伝の理由があるのです。
「髪の毛があるからまだいいじゃない」
「それでも性格はいいから」
「大事なのはそれだけ」
「うちの主人も性格がいいから一緒になったのよ」
「あの人は確かにいい人だね」
「兄さんは公平だし優しいから」
人種差別はおろか動物だからといっても差別をすることはしないのが先生です、しかも。
「誰かに媚びないし温厚だし」
「だから僕の性格はいいっていうんだね」
「そう、かなり世間ずれしてて抜けてるところも多いけれど」
「それでもだね」
「兄さんならいい人と会えるから」
「じゃあ誰かに巡り会えることを期待して」
「移住も考えてね」
イギリス以外の国にというのです。
「出来ればヨーロッパ以外の場所にね」
「じゃあやっぱりアメリカかな」
「ニューヨークで暮らしてみる?」
「いや、ニューヨークは柄じゃないよ」
先生は自分でニューヨークは自分に合わないと思いました、あの街にはというのです。
「多分マイアミとかロサンゼルスにもね」
「そうね、兄さんはのんびりしているからね」
「何処かの田舎町で静かに暮らしたいね」
「そういう場所を探してみる?」
「うん、郊外の何処かをね」
少し具体的な話もしました。
「そうしようかな」
「何処に住めとまでは言わないから」
「自分で選んでだね」
「よく考えてね。じゃあまたね」
「うん、またね」
兄妹で別れの挨拶をしてでした、サラは自分のお家に帰りました、先生は人間としては一人になったところで動物達にあらためて言いました。
テーブルの席に戻ってです、こう言ったのです。
「さて、本当にどうしようかな」
「先生、アメリカに行くの?」
「あの国にするの?」
「どの国にするかはね」
移住してもだというのです。
「そこをどうするかは」
「まだ決めてないんだ」
「そこまでは」
「今日考えだしたところだからね」
そこまではとてもだというのです。
「ましてや僕はね」
「うん、騒がしい街は博士に合わないしね」
「ニューヨークとかみたいな場所はね」
「人ごみは苦手だよ」
ドリトル先生はそうした場所は苦手です、ですがそれでもです。
「人がいてくれないとね」
「そうそう、患者さんがいないから」
「結局は同じだよ」
動物達もそのことを言います。
「患者さんがいないと病院もやっていけないから」
「一緒だよ」
「困ったねえ、医者だからといって何処でも暮らせる訳じゃないんだよね」
お医者さんは患者さんがいないと生きていられません、患者さんを治療してお金を貰って御飯を買わないといけないからです。
「サーカスもキャラバンも動物園もね」
「うん、人がいないとね」
「やっていけないよ」
「アメリカは騒がしい場所が多そうだし」
これはイメージです、先生の。
「オーストラリアはどうかな」
「先生泳げるの?」
「体育は苦手だよ」
こうダブダブに答えます。
「それはね」
「そうよね」
「うん、それにオーストラリアも騒がしいかな」
「じゃあニュージーランドは?」
今度はトートーが言ってきました。
「あの国にする?」
「いいかもね、羊の治療も出来るから」
「羊が一杯いる国だからね」
「それならいけるかな」
「カナダは?」
ガブガブはこの国はどうかと尋ねました。
「あの国は」
「寒くないかな」
「ストーブをつければいいじゃない」
「それはそうだけれどね」
どうもカナダは、と言う先生でした。
「人も少なそうだし」
「広い割にだね」
「中国なら人は多いよ」
チーチーはこの国を出しました。
「あそこはどうかな」
「いや、多過ぎて人ごみが」
先生の苦手なそれがあってというのです。
「あまりね」
「中国もなんだ」
「ニュージーランドかな、やっぱり」
先生は移住するのならその国にしようかと考えだしました。
「そうしようかな」
「そうだね、それじゃあね」
「このままイギリスで仕事がないとね」
「ニュージーランドに移住しよう」
「そうしよう」
「早いうちに決めた方がいいね」
先生は今日も患者のいないことからこう考えたのでした。
「そうしようか」
「その方がいいね」
ホワイティーはこう答えました。
「今はね」
「さもないと本当に食べられなくなるから」
「生活保護は最後の最後よね」
「それ位なら移住するから」
その移住先で仕事をするというのです。
「何処かの国でね」
「ニュージーランドだね」
「そこだね」
「あの国だね」
動物達も先生の言葉に応えます、そうしたお話をしてでした。
先生はこれからのことを真剣に考えました、それでなのでいsた。
とりあえずは診察時間までは誰か来ることを待つことにしました、その中でダブダブにこう言いました。
「今日の晩御飯は何がいいかな」
「スープはどう?」
「スープだね」
「そう、人参と玉葱のコンソメね」
そのスープにしてはどうかというのです。
「それと残った人参と玉葱を茹でて」
「ボイルドベジタブルだね」
「後は鶏肉もね」
「それだね」
「コールドチキンを自分で作ってね」
ダブダブはコールドチキンについてはこう言いました。
「買ったら高くつくから」
「世知辛いね」
「お金がないから仕方ないのよ」
ダブダブは家計を預かる身として無駄使いを避けるべきだと主張します。
「今はね」
「本当にそれに尽きるね」
「節約しましょう」
また言うダブダブでした。
「どうなるか決まるまでは」
「よし、じゃあ今から買い物に行くよ」
「私達の御飯も買って来てね」
「それは忘れないよ」
皆大切な家族です、忘れる筈がありません。
「楽しみに待っていてね」
「ええ、じゃあね」
「行ってらっしゃい」
こうお話してでした、そして。
先生は診察時間が終われば買い物に行くことにしました、それで本を読みながら過ごしていますと。
病院の扉が開きました、そして入って来たのは。
「先生いますか?」
「あれっ、その声は」
「はい、僕です」
浅黒い肌に癖のある髪の少年です、アフリカのジョリギンキという国の王子様バンポです。以前イギリスの大学に留学していて先生にお世話になっていたことがあるのです。青と金色の派手な上着とズボンを着ています。
その王子がです、先生のところに来て言うのです。
「おられますね」
「うん、ここにね」
先生は本を閉じて王子に応えます。
「ちゃんといるよ」
「それは何よりです」
「それにしても王子は何時イギリスに戻って来たのかな」
「今さっきです。とはいっても大学はまだ日本です」
「オックスフォードには戻らないんだね」
「あそこでの課程は終わりましたから」
それでだというのです。
「今は日本にいます」
「そうなんだね」
「はい、それで先生今はどんな感じですか?」
「患者さんがいなくて」
一人もです、先生は王子にも苦笑いでこのことをお話します。
「困ってるよ」
「ヨーロッパは今何処も大変だからですね」
「患者さんもいない位だからね」
「大変ですね」
「オリンピックもあったのにね」
それでもイギリスの苦しい状況は変わらないというのです。
「だから移住しようかなとも考えてるんだ」
「移住ですか」
「そう、イギリス以外の国にね」
「そうですか」
「何処かいい国はあるかな」
「それでしたら」
ここで、です。王子はこう先生に言いました。
「いい国がありますよ」
「えっ、本当!?」
「いい国があるの!?」
「それ何処!?」
「僕達にとってもいい国なの!?」
王子が言ったところで動物達が診察室に入ってきました、その話を聞いて飛んで来たのです。ポリネシアやトートー、ダブダブ、チープサイド達は文字通り。
「そこ何処なの!?」
「王子聞かせてくれる?その国」
「一体」
「何か本当に困ってるみたいだね」
「実はそうなんだよ」
先生は王子に苦笑いのまま答えます。
「今も言ったけれど患者さんがいなくてね」
「患者さんがいないと病院はやっていけないからね」
「うん、サーカスや動物園をしようにもね」
「ヨーロッパ全体が不況だからね」
「どうにもならないんだよ」
「じゃあ丁度いいね」
王子は先生の言葉を受けて明るい顔で述べました。
「移住出来るね」
「それでどの国なの!?」
「王子がお勧めする国は」
「一体どんな国!?」
「アメリカ?それかオーストラリア?」
「ニュージーランド?中国?」
「それともアフリカ?」
「どの国なの?」
「どの国でもないよ」
動物達が挙げたどの国でもだというのです。
「その国はね」
「じゃあ一体」
「その国は」
「一体何処なのかな」
「何処のなんていう国かな」
「今からその国のことを話すからね」
王子はにこりとして先生と動物達に言いました。
「一緒に晩御飯を食べながらね」
「晩御飯なら今食材を買いに行くところだよ」
先生はお部屋の壁をちらりと見ました、見ればもう診察時間も終わりです。
「丁度ね」
「いや、今ここにシェフを連れて来たから。食材も持って来たよ」
「おお、そうなんだ」
「そう、じゃあそれを食べながらお話しようか」
「僕達の分もあるの?」
ガブガブはこのことを尋ねました、尚王子も先生に教えてもらって動物の言葉を喋ることが出来るのです。
「それは」
「たっぷりとあるよ」
「そう、じゃあよかったよ」
ガブガブは王子の言葉に笑顔で応えました。
「楽しみにしているね」
「シェフも最近仕事が楽しいって言ってるんだ」
王子は明るい顔でこうも言います。
「日本でね」
「日本は食べものが美味しいっていうね」
「しかも色々な国の料理があるんだ」
王子は先生にこのこともお話しました。
「もう信じられない位にね」
「イギリス料理もかな」
「イギリス以上に美味しくてね」
あるというのです。
「凄く美味しいよ」
「お茶もだね」
「お水がいいからね」
だからだというのです。
「お茶もいいよ」
「そうか、じゃあサラにも教えておくか」
「妹さんもお元気?」
「さっき一緒にお茶を飲んだよ」
「こっちに来てたんだ」
「元気にね」
そうしていたこともお話する先生でした。
「不況には困ってるけれどね」
「本当にヨーロッパの不況は深刻だね、とにかくね」
「晩御飯だね」
「今からシェフに作ってもらうから」
それが歓声してからというのです。
「食べようね」
「うん、じゃあね」
「お話はそれからで。暫くの間は」
王子はくすりと笑って博士にこう言いました。
「日本の話でいいかな」
「うん、日本はどんな国かな」
「それはね」
王子がお話しようとするとここで。
後ろからです、王子の後ろに控えていた執事さんがこう言ってきました。
「殿下、立ち話は」
「おっと、そうだね」
「はい、王族として相応しくないかと」
それでだというのです。
「ですから今は」
「そうだね、ちゃんと座ってお話をしないとね」
「それならお家の中に行こうか」
先生は王子の言葉を受けてこう提案しました。
「あとシェフの人にはうちのキッチンを使ってもらって」
「うん、それじゃあね」
「日本のことを聞かせてくれるかな」
「お家の中でゆっくりとね」
王子も応えてでした。
「お話しようよ」
「それでは」
先生も動物達も頷いてでした、そのうえで先生達は王子から日本のこと等を聞くのでした。
新作ありがとうございます。
美姫 「今回は動物とかも話しているし、ほのぼのとしたお話なのかしら」
どういった話になるんだろう。
美姫 「今回は一話目だから、特に大きな動きはないみたいね」
だな。どうなるのか、次回を待っています。
美姫 「待ってますね」