『ヘタリア大帝国』




                   TURN99  シベリア侵攻

 枢軸軍は遂にソビエト領に侵攻することになった、このことを受けて田中は威勢良く部下達にこう言った。
「いよいよだな」
「ええ、そうですね」
「本当にいよいよですね」
「これまでやられっばなしだったからな」
 侵攻されていたことを言った言葉だ、田中にとっては癪に触ることだ。
「やっとやりかえせるぜ」
「じゃあ司令、今からですね」
「仕返しにいきますね」
「俺の仕返しは倍返しだからな」
 まるで暴走族のリーダーの様に言う。
「手前等もわかってるな」
「はい、勿論ですよ」
「俺達も頭にきてましたから」
「日本海軍はやられる前にやるんだよ」
 先手必勝の考えが強い軍であることは確かだ、東郷はそれにこだわらないが。
「いいな、それじゃあな」
「はい、それじゃあ」
「今から」
「ソビエト領内に入りますね」
「俺達が先陣だ」
「違います」
 田中が今言ったところでエルミーがモニターに出て来て言って来た。
「私達は先陣ではないですから」
「おい、そこでこう言うのかよ」
「私達は潜水艦艦隊です」
 隠密行動の艦隊だ、それで先陣である筈がなかった。
「間違ってもそれはないですから」
「まあそうだけれどな」
「先陣はロンメル元帥です」
 機動力を活かした攻撃を得意とする彼に決まったのである。
「あの方が務められますので」
「仕方ねえな、じゃあ俺はいつも通りか」
「はい、隠密行動となります」
 そうなるというのだ。
「共に行きましょう」
「じゃあ今回もやってやるか」
 田中も納得した、それだけの分別はあるのだ。
「潜水艦の恐ろしさ見せてやるぜ」
「そういうことで」
「ただな、向こうも潜水艦持ってるからな」
「ソナーを装備していることも考えられます」
「注意してかからねえと沈められるな」
 そうなるというのだ。
「これまで以上に注意していかねえとな」
「その通りです、それでは」
「〆羅もそれでいいな」
「はい」 
 その〆羅も応えてくる、そしてベートーベンもだった。
「参るとするか」
「そういうことで行きましょう」
 リディアもいる、これが今の枢軸軍の潜水艦艦隊である。
 そのリディアは田中にこうも言った。
「それで司令」
「おう、何だ?」
「朝はしっかりと食べていますか?」
「おう、朝は納豆に味噌汁にメザシに海苔だぜ」
 それが定番だというのだ。
「白い御飯に漬けものもな」
「朝はしっかり食べないとはじまらないですからね」
「それはしっかり食ってるぜ」
「三食しっかり食べて下さいね」
「だよな、それは部下にも言ってるからな」
「エルミー提督もですよ」
 リディアは田中だけでなくエルミーにも話した。
「朝昼晩としっかりと」
「今朝はちょっと」
 だがここでバツの悪い顔になりこう言うエルミーだった。
「ビールの中に生卵をいれてでした」
「それが朝御飯かよ」
「食欲がなかったので」
 こう田中に答える。
「それで」
「朝からビールって大丈夫かよ」
「ドクツでは食欲がないとそうですが」
「生卵を入れてか」
「はい」
 まさにそうだというのだ。
「そうして朝食にしています」
「それまずいだろ」 
 田中は眉を顰めさせてエルミーに返した。
「幾ら何でもな」
「まずい?そうですか」
「朝からビールでしかも生卵ってな」
「通報になるよ」
「それもかなりの確率で」
 アストロ犬コーギーとアストロ猫が話に入って来た。
「ビールに生卵入れてって」
「無茶苦茶危ないよ」
「ううん、ドクツの食事自体が痛風の危険高いけれど」
「ソーセージとかベーコンとかハム多いしね」
 手長猿とパンダも言う。
「朝からそれだとね」
「しかもよく見たらビール無茶苦茶飲むじゃない」
「ビールはお水ですが」
 エルミーのコメントだ。
「何か問題でも」
「俺は栄養学には詳しくないけれどな」
 田中はこう断りながらもエルミーに真剣な顔で言う。
「ビールはプリン体が多くて痛風になりやすいんだよ」
「それは知っていますが、私も」
「それを一日何リットルも飲むよな、ドクツ人は」
「大丈夫です、痛風は治る病気です」
「だからいいのかよ」
「ドクツ人はビールを飲まないと死んでしまいます」
 エルミーは真顔で言い切る。
「それにビールは飲むパンと言われていてエネルギー補給にもいいので」
「そうですよ、ビール位何でもないですよ」
 リディアもエルミx−の側に立って話す。
「ソビエトではウォッカですから」
「おい、朝からかよ」
「カテーリン書記長はお水とウォッカだけは制限しませんから」
 つまりソビエトではウォッカは水と同じ様なものだというのだ。
「生きる為に必要だからと」
「ソビエト人はウォッカかよ」
「寒いので」
 それで飲まないと、だというのだ。
「ソビエトでは何時でも何処でも好きなだけ飲めるんですよ」
「それはもっとまずいだろ」
「そうですか?」
「つまりソビエトじゃどいつもこいつもいつもウォッカ飲んでるんだな」
「はい、そうです」
 その通りだというのだ。
「おつまみもちゃんと出ますよ」
「ウォッカばかり飲んでれば動くのかよ」
「ソビエト人は平気ですよ」
「寒いからなんだな」
「今から行くシベリアも寒いですよ」
 そこもだというのだ。
「有名だと思いますけれど」
「まあそれはな」
 田中も知っていることだ、シベリアのあまりもの寒さは。
「だから防寒対策もしてるからな」
「潜水艦もまた」
「というかあそこそこまで寒いんだな」
「だからこそ私もバルバロッサ作戦では考えた」
 レーティアもモニターに出て来て話す。
「ソビエトの寒さのことを念頭に置いて兵器の開発をしていた」
「ドクツの艦艇は全部防寒設備を置いていたんだったな」
「そうだ」
 田中にその通りだと答える。
「そうしていた」
「それがソビエトの寒さなんだな」
「船が動かなくなるまでだ」
 そこまで寒いというのだ。
「だからこそ厄介だ」
「バルバロッサ作戦、東方生存権の確立は総統閣下が常に言っておられたことでした」
 エルミーは田中にこのことを話した。
「ですから事前に考えておられました」
「今はもうその考えは捨てているがな」
 レーティアも考えを変えた、そういうことだ。
「ドクツには別の生きる道がある」
「それはドクツに戻られてから見せて頂くことですね」
「エルミー、御前も楽しみにしていろ」
 レーティアが見せるそのドクツの新しい道をだというのだ。
「必ず見せるからな」
「はい、それでは」
 エルミーはレーティアに微笑み敬礼をして応えた、そうしたやり取りを経つつ。
 枢軸軍はシベリアに入った、そこにはジューコフとロシア兄妹が率いるソビエトの大艦隊が待ち構えていた。
 その大艦隊を見て先陣を率いるロンメルが言う。
「数にして二百でしょうか」
「相変わらず多いな、おい」
 ロンメルと同じく高速駆逐艦帯を率いるプロイセンが応える。
「数は向こうの方が上だな」
「これをどうするかですね」
「もう元帥には考えがあるよな」
「無論です、ただ相手はジューコフ元帥です」
 ソビエトの宿将でもある名将だ。
「そうおいそれと攻めても無駄です」
「そうだろうな、あのおっさん強いからな」
「普通ならここで機動力を活して敵の側面や後方に回りますが」
「それは出来ないな」
「ここはやり方を変えましょう」
 こうプロイセンに語る。
「そうしましょう」
「というとどの様にして攻められるのでしょうか」
 二人と同じく先陣を務めるイザベラが問う、他には宇垣にモンゴルやランス、シィルといった面々が加わっている。
「ここは」
「一撃離脱です」
 この戦術だというのだ。
「それでいきましょう」
「一撃離脱ですか」
「一旦攻撃を仕掛けすぐに下がる」
「それを繰り返すのですね」
「ジューコフ元帥やロシアさんはともかく他の将兵はこれに苛立ちます」
「そうして敵の平常心も奪い」
 敵の心理も攻める、ロンメルらしいやり方だった。イザベラもその話を聞いて納得した顔になり頷いたのだった。
「そうするのですね」
「以後の戦いにつなげましょう」
「わかりました、そうするのですね」
「そうします、では」
「はい、今から」
 こうしてロンメルは自らが先頭になりソビエト軍の前面に出た、そのうえで実際にびーぬ攻撃の後で一旦離脱した。
 だがジューコフはその攻撃を見てもこう言うだけだった。
「ここは動いてはならない」
「では今は」
「はい、陣を崩さずにです」
 そのうえでだとだ、ロシア妹に答える。
「敵の本格的な攻撃に備えましょう」
「あれは挑発ですね」
「間違いなく、敵の挑発に乗り陣を崩してはなりません」
 絶対にだというのだ。
「ですから」
「そうだね、じゃあ今はね」
 ロシアも二人の話に頷く、そしてだった。
 今は待つのだった、反撃を加えるにも枢軸軍の先陣はその反撃の前に攻撃射程から離脱してしまう、それを三回程繰り返す。
 ソビエト軍の損害は出るがそれでも動かないジューコフだった。ソビエト軍の将兵達はその彼に焦る声で問うた。
「あの司令、ここは」
「もう攻撃しなくては」
「損害ばかり増えますが」
「いいのですか?」
「損害は微々たるものだ」
 こう言ってやはり軍を動かさないジューコフだった。
「気にするものではない」
「しかしもう三度も攻撃を受けています」
「しかも正面からです」
「このまま攻撃を受けていますと」
「軍の士気にも関わりますが」
「構うことはない」
 ジューコフは腕を組んだまま冷静に述べる。
「まだな」
「まだ、ですか」
「まだなのですか」
「そうだ、まだだ」
 こう言うのだった。
「敵は彼等だけではない」
「敵の本軍ですか」
「彼等が来た時にですか」
「その時に動けばいいそれにだ」
「それに?」
「それにといいますと」
「今下手に動くと危険だ」
 ジューコフはこのことも危惧していたのだ、その危惧の根拠とは。
「潜水艦だ」
「まだソナーには反応がありません」
「今のところは」
「だが油断してはならない」
 潜水艦、彼等にはというのだ。
「潜水艦の運用は彼等に長があるのだからな」
「そうですね、ソロコフスキー司令もおられませんし」
「そのこともありますから」
「それに我々は攻める必要がない」
 それもないというのだ。
「今はな」
「ありませんか、今は」
「ではこのまま」
「我々は守っていればいいのだ」
 このシベリアをだというのだ。
「このままな」
「それでいいのですね」
「守ったままで」
「そうだ、敵にシベリアを奪われなければいいのだ」
 あくまでそれだけでいいというのだ、ソビエトにとっては。
「わかったな」
「はい、わかりました」
「では今は」
 彼等はこれで納得するしかなかった、司令官であるジューコフの決定だからだ。
 それでロンメルがどれだけ攻めても動かなかった、そして第二陣として。
 潜水艦艦隊が来た、田中は側面から回ろうとするがロンメルがそれを止めた。
「副司令、それよりもです」
「正面からかよ」
「そこから攻めて下さい」
 そうしてくれというのだ。
「ここは」
「そっちの方がいいんだな」
「はい、今は」
 こう告げたのである。
「そうして下さい」
「わかったぜ、じゃあな」
「そういうことで」
「それはわかったけれどな」
 ここで田中はロンメルに問うた、その問うこととは。
「あんた俺に敬語使うよな」
「それが何か」
「俺は大将であんた元帥だろ」
 問うのは階級のことだった。
「それでも敬語かよ」
「田中副司令は潜水艦艦隊の司令長官ですね」
「ああ、そうだぜ」
 枢軸軍全体のそれである。
「それはな」
「ひいては枢軸軍の副司令です」
「だからかよ」
「はい、しかも元帥待遇ですから」
 実はそうなのだ、ただ日本軍は伝統的に陸海軍で元帥はそれこそ長官クラスでないと任じないので田中はまだ階級では大将なのだ。
「だからです」
「それでかよ」
「そうです、階級的には実質私と同じで」
 そしてだというのだ。
「役職は私より上なので」
「わかったぜ、だからか」
「そうなのです」
「何かそう言われると俺も偉くなったな」
 とはいっても態度は変えない、それが田中だ。
「また随分とな」
「かといっても田中さんは偉そうにはされませんね」
 日本妹がその田中に問うてきた、無論モニターからだ。
「そうですね」
「俺は俺だからな」
「だからですね」
「俺はヘッドを目指してるさ」
 具体的には連合艦隊司令長官だ、東郷に対して常にその座を奪ってやると豪語してい通りであるのだ。
「けれどそれでもな」
「傲慢にはならないんですね」
「傲慢な奴はそこまでなんだよ」
 こう言うのだった。
「偉そうにするのは器の小さな奴なんだよ」
「そういうことですね」
「そうだよ、俺は飾ったことも苦手だけれどな」
 それと共に、というのだ。
「威張ることも嫌いなんだよ、じゃあな」
「はい、それではですね」
「やるぜ、今もこれからもな」
 いつもの威勢で前を見て言い切る。
「ソビエトの奴等ぶっ潰すぜ」
「それではお願いします」
 ロンメルは再び田中に要請した。
「正面から」
「ああ、わかったぜ」
「下手に側面や後方に回っても意味がありません」
「逆に兵を割かれて対応されるよな」
「既に機雷を撒布していることも考えられます」
 ここは敵地だ、地の利があるからそうした対応をしていることも考えられるからだ。
 今は下手に迂回なぞせずに、というのだ。
「敵陣を陽動で崩そうにも乗る相手ではないですから」
「ジューコフのおっさんは確かだからな」
「今はこうして攻めて」
「あのおっさんが率いる主力が来てからか」
「総攻撃に加わりましょう」
「ああ、わかったぜ」
 こう話してそうしてだった。
 田中と彼が率いる潜水艦艦隊もまた今は正面から一撃離脱で攻めた、それを繰り返してだった。
 彼等はソビエト軍にダメージを与えていく、損害はソビエト軍から見れば軽いものだがそれが続くとだった。
 将兵達も苛立って来た、特に戦闘を監督するゲーペの系列の政治将校達がだ。
 不安を堪えきれなくなった、それでジューコフに言うのだった。
「あの、もうそろそろです」
「攻撃に移られませんか?」
「数はこちらが圧倒的に優勢ですし」
「その数を使い」
「パイプオルガンを仕掛けましょう」
 ソビエト軍得意の重砲やミサイルの一斉射撃をしようというのだ。
「あれで資産主義者達に制裁を加えましょう」
「是非共」
「いや、ここはだ」
 ジューコフは彼等にもこう言うだけだった。
「待つ」
「どうしてもですか」
「ここは動かれませんか」
「我々はシベリアを奪われなければいいのだ」
 だからだというのだ。
「今は守っていればいい」
「そうなのですか」
「今は」
「このままな。同志諸君も今は我慢してくれ」
「僕からもお願いするよ」
 ロシアも出て来た、彼は政治将校達に言うのだ。ゲーペは彼女が直率する艦隊がダメージを受けているのでチェルノブの修理工場にいる。
 それで政治将校達も今は今一つ統制がなくジューコフに言ったがロシアがこう彼等に対して言ったのである。
「ここは我慢してね」
「そうですか、祖国殿が仰るのなら」
「我々も」
「うん、頼むよ」
 政治将校達に温厚な笑みで言う。
「シベリアを取られないならいいから」
「では反撃はそれからですね」
「この戦いを凌いでからですね」
「また満州攻めよう」
 その時にというのだ。
「ゲーペ長官も戻られてからね」
「はい、それでは」
「今は」
 政治将校達も自分達の祖国に言われては納得するしかなかった、それにやはりジューコフへの全幅の信頼があった。
 彼等も黙った、ソビエト軍はこのまま座ったままかと思われた。
 だがここで思わぬ異変が起こった、何とだ。
 カテーリンが全軍に言って来た、彼女は戦局を常に各艦にあるモニターからチェックしているのだ、しかもリアルタイムで。
 その彼女が怒って言って来たのだ。
「すぐに反撃をするのです!」
「すぐにですか」
「今よりですか」
「資産主義者は敵です!ファンシズム以上の敵です!」
 カテーリンにとっての最大の敵、そうだというのだ。
「しかも君主主義者もいます、彼等にやられっぱなしは許さないのです」
「では同志カテーリン、ここは」
「今からですか」
「攻撃をしないのなら三日間給食抜きにします!」 
 カテーリンの絶対の指令か来た。
「わかったら早く攻めるのです!」
「では同志カテーリン書記長、今からですね」
「そうです、侵攻して来た敵を還付なきまで粉砕するのです」
 カテーリンはジューコフにも告げた。
「数は勝っています、反撃に出て下さい」
「では今より」
「同志ジューコフ、戦場の指揮は任せます」
 流石にカテーリンといえど現場にいなくてはどうしようもない、だから指揮自体は彼に任せるしかないのである。
「お願いします」
「わかりましたs、それでは」
「共有主義の為お願いするのです」
 カテーリンは最後にこう言ってだった、そのうえで。
 ソビエト軍は彼女の言葉も受けて総攻撃に移った、その二百個艦隊の大軍が一気に動いた。 
 プロイセンはその動きを見てこうロンメルに言った。
「敵が急に動いて来たぜ」
「どうやら方針が変わった様ですね」
「上の方で何かあったのかね」
「おそらくカテーリン書記長が怒ったのでしょう」
 まさにその通りである。
「あの娘は待つタイプではないですから」
「それでか」
「バルバロッサの頃は奇跡でした」
 モスクワまで何だかんだで撤退を許したことは、というのだ。
「おそらくゲーペ長官が傍にいて抑えていたかと」
「そういえばあの娘まだ子供だよな」
「はい、確かに有能ではあるでしょうが」
 しかしまだ子供だ、だからだというのだ。
「堪えきれないところもあるでしょう」
「だからだよな」
「攻めてきました、ですから」
 それでだというのだ。
「ここは我々の攻撃を中断しましょう」
「一旦下がるか」
「そうしましょう、我々は本軍が来るまで敵の戦力を多少でも減らしそして敵軍の将兵の心理を焦らし決戦の時に周りを見せなくすることを考えていましたが」
 だから一撃離脱を繰り返していたのだ、だが。
「思わぬ展開になってきましたね」
「全くだな」
「ソビエトの弱点ですね」
 ふとこう言ったロンメルだった。
「これは」
「あの書記長さんがかよ」
「絶対の指導者は時としてこれ以上はない厄介な存在になります」
 そうだというのだ。
「そこが問題なのです」
「それってドクツもだよな」
「はい、そうです」
「ファンシズムの危険性か」
「総統閣下にはそれはないですが」
 こうしたことも踏まえているのがレーティアなのだ。しかしカテーリンはなのだ。
「ですがあの娘は違います」
「まだ子供なんだな」
「そうです」
「よくわかったぜ、それじゃあな」
「はい、一旦下がりましょう」
 こうしてロンメルが率いる先陣と田中が率いる潜水艦艦隊は一旦下がった、そのうえで東郷が率いる主力艦隊と合流した。
 東郷は前から来るソビエト軍の大艦隊を見て言った。
「実は今回は敵の守りを強引にこじ開けるつもりだった」
「そうだったのですか」
「多少以上の損害は覚悟していた」
 そうだったとだ、秋山に話す。
「実はな、しかしだ」
「まさか自分達から来るとはな」
 東郷にしても予想外のことだった。
「ここは作戦を変えよう」
「どうされますか?」
「今はそのまま下がる」
 こう言ってそうしてだった、そのうえで。
 東郷はソビエト軍の動きを見た、見ると。
「見事に全軍で来るな」
「攻撃射程に入れば総攻撃ですね」
 秋山もこう見ている。
「それですね」
「パイプオルガンだな」
「それが来る、ではだ」
「散陣ですね」
「正面の軍はそれで凌ぐ」
 ソビエト軍のパイプオルガンをだというのだ。。
「しかしだ」
「それだけではありませんね」
「ジューコフ元帥達はともかく敵の殆どは正面しか見ていない」 
 カテーリンから総攻撃を厳命されている、だからなのだ。
「これなら仕掛けられる」
「では」
「ロンメル元帥は右だ」
 枢軸軍から見て右だ。
「そして田中大将は左だ」
「わかりました、それでは」
「そっちに行くな」
「頃合を見て攻撃を仕掛けてくれ」
 この辺りは二人に任せるというのだ。
「頼むな」
「じゃあ俺達のタイミングでやるぜ」
 田中が東郷に応える。
「それでいいんだな」
「全て任せる、じゃあな」
「はい」
 こう話してそうしてだった。
 実際にロンメルが率いる高速艦隊と田中が率いる潜水艦艦隊を動かした、そのうえで敵軍を待ち受ける。
 ジューコフは枢軸軍の動きを冷静に見ていた、それでだった。
「左右にも艦隊を向けるか」
「ではそれぞれ艦隊を振り分けますか」
「今から」
「そうするとしよう」
 こう冷静に指揮を出す、そうして。
 彼等は扇形に陣形を組みそのうえで枢軸軍に攻撃を浴びせようとした、そのうえで。
 パイプオルガンを仕掛けようとした、だが。
 枢軸軍は即座に散陣になった、それでだった。
 そのパイプオルガンをかわす、その損害を最低限にしたのだ。
「敵もさるものですね」
「うん、やっぱり考えてるね」
 ロシアは妹に対して述べた。
「散開すればダメージはかなり軽減出来るよ」
「パイプオルガンへの対応としては有効ですね」
「参ったね、これは」
 ロシアは難しい顔で呟いた。
「ヘリ空母もまだないしね」
「やはり数で押し潰すべきでしょうか」
 ロシア妹は敵軍を見ながらこう言った。
「突撃を仕掛け」
「そうするんだね」
「はい、これでどうでしょうか」
 こう兄に提案する、パイプオルガンと並ぶソビエト軍の得意戦術だ。
「これから」
「そうだね、じゃあね」
「私もそれでいくべきだと考えます」
 ジューコフもロシア妹の言葉に賛成する。
「パイプオルガンも思ったより効果が望めなくなりました」
「それにです」
「カテーリン書記長がご立腹です」
 ソビエトの絶対者の彼女がというのだ。
「同志書記長は消極的な行動を好まれません」
「その通りですね」
「ですからここはです」
「数で押し潰すのですね」
「総員総攻撃です」
 具体的にはそうするというのだ。
「ですから」
「積極的にですか」
「防衛戦であろうともです」
 ジューコフは彼の本来の戦術構想から考えていた、だがそれでもカテーリンが言うにはどうしてもだったのだ。
「攻めていきましょう」
「わかりました」
 ソビエト軍は総攻撃に移った、正面から全軍で突撃する。
 東郷はそれを見てこう言った。
「最初は随分慎重だと思ったんだがな」
「戦術が一変しましたね」
「そうだな、完全にな」
 こう日本にも返す。
「ここまで変わるとは思わなかった」
「どうされますか、ここは」
 日本はモニターから真剣な顔で東郷に問うた。
「敵は数と力で来ますが」
「如何にもソビエトらしいやり方だな」
「どう対されますか」
「一旦退こう」
 東郷はすぐに日本にこう告げた。
「ここはな」
「撤退ではないですね」
「数歩退くだけだ」 
 それに過ぎないというのだ。
「数歩な、中央がな」
「そういうことですか」
「数で勝る相手に向かうこともない」
 どうしてもという場合以外はというのだ。先程までは強攻策も止むを得ないと考えていたがそれも時と場合による、今はというと。
「退きだ」
「そのうえで、ですね」
「仕掛けよう」
 こう話してそうしてだった。
 枢軸軍の中央はソビエト軍から逃れる形で退いた、それを見て。
 ロンメルの挑発的な攻撃とパイプオルガンが思ったより効果がなく苛立っていたソビエト軍の将兵達は前に出ようとした、だが。
 ここでだ、ジューコフが彼等に言った。
「待て」
「ですが司令」
「それは」
「駄目だ、待て」
 軽挙妄動は慎めというのだ。
「迂闊に出てば敵の策に嵌る」
「そ、そうでした」
「そうなるところでした」
 将兵達も言われて気付いた。
「ではここはですか」
「迂闊に攻めずに」
「そうだ、確かに突撃を仕掛けるがだ」
 それでもだというのだ。
「迂闊には出ないことだ」
「わかりました、それでは」
「今は」
「はい、では」
 こう言ってそしてだった。
 彼等は自分達の感情に任せて前に出ることは止めた、これは一瞬のやり取りだった。
 しかしその一瞬のうちにだった、枢軸軍は東郷の言葉通り数歩退き。
 布陣を整えていた、ソビエト軍の魚鱗型に対して鶴翼だ。
 東郷が率いる艦隊と大和はその鶴翼の中央、頭にある。そこからソビエト軍を見て秋山に対して言ったのである。
「これでよし」
「後は敵が来るのを待ち受けるのですね」
「そうだ」
「敵に対するに相応しい布陣ですか」
「数は劣ってもな」
 それでもだというのだ。
「やり方はある」
「では」
「敵は絶対に来る」
 カテーリンの厳命だ、それではどうしてもだった。
「そこで攻撃を浴びせる」
「そうしますか」
「まずは艦載機だ」
 最初はそれだった。
「それにだ」
「次はですね」
「ビームだ、ミサイルもある」
 とはいっても枢軸軍はミサイルは少ない、しかしまだあった。
「最後は鉄鋼弾だ」
「三段でいきますか」
「今回もな、ではいいな」
「わかりました」
「総員攻撃用意だ」
 東郷はあらためて全軍に指示を出す。
「もう艦載機は発艦させておけ」
「そしてですか」
「攻撃範囲に入ったと同時に仕掛ける」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「わかったわ」
 ハンナが応える、ハンナも機動部隊を率いているのだ。
「それじゃあね」
「ビームも何時でも攻撃を仕掛けられる様にしておく」
 即座に一斉射撃を浴びせようというのだ。
「そして鉄鋼弾もだ」
「今回は一斉射撃ですね」
「そうだ」
 その通りだとだ、モニターに出た福原に答える。
「そうする」
「普段とは違いますね」
「鉄鋼弾での攻撃の仕方も色々だ」
「機動力を活かしたものもあれば」
「一斉射撃で弾幕を張るやり方もある」
 それが今だというのだ。
「ではいいな」
「わかりました」
 福原もその言葉に頷く、そしてだった。
 枢軸軍は即座に艦載機達を出した、そして攻撃範囲に入った瞬間に。
 ソビエト軍の艦艇に襲い掛かった、艦載機の数では圧倒的だった。
 上から、横からソビエト軍の艦艇に迫りビームやミサイルを次々と浴びせる。それを受けて艦艇が次々に炎に包まれる。
 中にはエンジンをやられ動きを止める艦もある、攻撃はかなり激しかった。
「戦艦オルロフ撃沈!」
「ユスポフ大破!」
「第二十艦隊が壊滅しました!」
「第百一艦隊戦線から外れます!」
「そうか」
 ジューコフはそれを受けてただこう言うだけだった、確かに損害は増えている。
 しかしカテーリンの命令は絶対だった、それで。
「このまま前進を続ける」
「そうですか」
「さらにですね」
「どうも艦載機の数が増えて質がよくなっているな」
 第八世代の大型空母は艦載機の数がさらに増えている、そして艦載機にしても第八世代のものになっているのだ。
 それでだ、その攻撃力もだというのだ。
「満州戦よりもダメージが多い」
「損害が一割を超えています」
「今の攻撃だけで」
「状況はわかった、このまま進む」
 このことは変えない、そしてその言葉通りに。
 ソビエト軍は進む、そのうえで移動しながらビーム攻撃を出そうとした。
 しかしそれよりも前にだった。
 枢軸軍のビームが放たれた、新造の戦艦達がその大口径を放つ。
 無数の光の矢が一直線にソビエト軍に流星群の様に進む、そして。
 その光の矢もまた彼等を貫く、そして再び爆発が巻き起こる。
「第百五十三艦隊の損害が七割を超えました!」
「第七艦隊の通信途絶!」
「第九十二艦隊戦線離脱を要請しています!」
「全軍の損害が三割に達しました!」
 艦載機の攻撃以上だった、ソビエト軍の損害はさらに大きくなった。とりわけ。
「戦艦が集中的にやられています」
「もうビーム攻撃は出来ません」
「パイプオルガンもミサイルだけです」
「しかしそのミサイル戦艦の損害も」
「辛いね」
 ロシアは相次ぐ暗い報告に難しい顔になる。
「これはね」
「はい、ここは」
「かなり深刻です」
「どうしたものかな」
 こう難しい顔で言うのだった、今は。
「攻撃も満足に出来なくなって来たね」
「潜水艦がまだありますが」
 ロシア妹も増える一方の損害にまだ返す。
「しかしです」
「その潜水艦もね」
「既にその動きを気付かれています」
 そうなっているというのだ。
「どうも敵の左翼が空いていますが」
「あそこに潜水艦がいるね」
 ロシアもその空間を見て述べる。
「そしてそこからね」
「我々の潜水艦を狙っています」
 そうしてきているというのだ。
「敵右翼の高速部隊の攻撃も気になりますが」
「それと共にね」
「敵の左翼には彼等がいます」
 間違いなく、というのだ。
「おそらく次の攻撃で」
「潜水艦がやられるね」
「敵の動きはこれまでより速いです」
「しかも耐久力も機動力もあがってるね」
「全ての能力が」 
 まさにその全てがだというのだ。
「そうなっています」
「艦艇が変わってるし。つまりは」
「心臓感に全て変えた結果です」
 その第八世代艦にだというのだ。
「これはかなり手強いです」
「前の艦も強かったけれどね」
「それ以上です、おそらく以前は第六世代だったのでしょう」
 ロシア妹の読み通りだ、かつてはそうだった。
 しかし今はどうかというと。
「今の枢軸軍はそれより二世代は上です」
「第八世代だね」
「まさに。我々はようやく第六世代を開発出来たところです」
「二世代も上なんてね」
「急によくなっています、ドクツ軍の様に」
「あの総統さんが加わったみたいに?」
「その筈がないにしても。おそらくガメリカの科学でしょう」
 ロシア妹もそう見ていた、まさかレーティアが生きていて枢軸軍に加わっているとは夢にも思っていない。
「それでも驚くべきことですが」
「数では圧倒的だったんだけれどね」
「次は鉄鋼弾が来ます」
 また言うロシア妹だった。
「覚悟しておきましょう」
「思ったよりも厳しい戦いになりそうだね」
 ソビエト軍はようやく反撃を加えたがそれはもう微々たるものになっていた。
 そのうえで枢軸軍のさながら群狼の如き鉄鋼弾の一斉攻撃を受けた、それから何とか枢軸軍に突撃したが再び艦載機から鉄鋼弾まで受けて。
 ジューコフはこう言った。
「全軍撤退だ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 将兵達も難しい顔で応えるしかなかった。
 ソビエト軍はシベリアからの撤退に入った、ランスはそのソビエト軍を見てすぐに言った。
「よし、追撃だ」
「そうだね、ここで徹底的に叩こう」
 コアイがランスの言葉に賛成した。
「それでこれからの戦いを楽にしよう」
「東郷さん、すぐに追撃に移ろうぜ」
「今がチャンスだよ」
「そうしたいのは山々だがな」
 だがだと、ここで東郷は言った。
「それは少し無理だ」
「こっちの損害がでかいかい?」
「それでなの」
「損害は思ったより少ない」
 ややといったところだがそうだというのだ。
「そちらは大丈夫だ」
「じゃあいいじゃねえか」
「追撃しよう」
「いや、機雷がある」 
 問題はそれだというのだ。
「敵は機雷を撒いて逃げている、しかもシベリアのあちこちに機雷原を置いた」
「それの処理かよ」
「追撃よりもそっち優先なのね」
「機雷があっては軍事行動どころか民間の活動も出来ない」
 船が機雷に触れて爆発してはそれどころではない。
「だからここはだ」
「わかったぜ、じゃあな」
「追撃よりも機雷だね」
「ダメージを受けた艦隊は満州の修理工場に入れ」
 東郷はすぐにこう指示を出した。
「無事な艦隊は機雷処理だ」
「了解です」
「それでは」
「そしてだ」
 さらにだというのだ。
「陸軍さんは」
「わかっている、シベリア占領だな」
 山下が東郷の後ろから言って来た、彼女は陸戦部隊指揮官として大和に乗り込んでいるのだ。無論陸軍の軍服を着ている。
「今からな」
「そうしれくれるか」
「わかった、ではだ」
 山下は東郷に陸軍の敬礼で応えた、そのうえで。
 シベリア星域も占領されこの星域での戦いは完全に終わった、枢軸軍はソビエト領への最初の侵攻を無事成功させた。


TURN99   完


                           2013・4・5



初戦とも言うべきシベリア星域での対決は枢軸軍の勝ちか。
美姫 「とは言え、相手も追撃させない為に機雷をばら撒いて撤退したわね」
その辺りは見事な撤退だったな。
美姫 「ともあれ、ソビエト戦の最初の足掛かりであるシベリアは占領できたわね」
とは言え、まだ安心できないがな。ここからどう進めていくか、だな。
美姫 「さてどうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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