『ヘタリア大帝国』




                    TURN98  サイボーグ外相

 枢軸軍主力は満州に着いた、そこからシベリアに攻め込むつもりだった。
 しかし彼等が到着したその時にだった。
 ソビエト軍の大軍が再び来ていた、その彼等を見てだった。
 プロイセンは呆れた顔になった、それでこう言った。
「おいおい、今から第八世代の船に乗り換えてって思ってたのにな」
「もう来たんだね」
 ハンガリー兄も言う。
「速いね、ソビエト軍も」
「突貫修理で気合入れて修理したなこりゃ」
 プロイセンは己の乗艦から敵軍を見ながら言った。
「向こうも働いてるな」
「別に働かなくてもいいけれどね」
 グレシアはぽつりと本音を述べた。
「ずっと休んでいてくれていいから」
「全くだね、シェスタしていてくれていいのに」
 イタリアはまた出て来たその大軍を見てここでも泣きそうな顔になっている。
「ロシアにはないのかな」
「ない」
 ドイツがそのイタリアに言う。
「あるのは南欧だけだ」
「えっ、そうだったんだ」
「御前達とスペイン位か」
「私もですよ」
 セーシェルもだった、自分から名乗り出る。
「毎日お昼寝していますよ」
「そういえばそうだったな」
「はい、お昼寝気持ちいいですよね」
「そうしてくれたら楽なのに」
 イタリアはソビエトの大艦隊を見ながら言う。
「何でそうしてくれないのかな」
「それは私も同感ですが」
 ユーリは自分の祖国の言葉に同意はした、だがそれでもだった。
「しかしそれでは負けますので」
「ソビエトが負けてくれたらいいのに」
 それが楽だからだ。
「何でそんなに働くのかなあ」
「勝つ為です」
 ユーリはイタリアに突っ込みを続ける。
「ですから我々も」
「えっ、俺いつもシェスタは忘れないよ」
「俺もだぞ」
 ロマーノもだった、兄弟揃ってである。
「そうしないと調子が出ないから」
「何でソビエトはしないんだ」
「昼寝をしないで働こうとは思わないのか?」
 ドイツは真顔でイタリア兄弟に問うた、今もモニター越しに話す。
「ソビエトは強制労働だぞ」
「シェスタしないで?」
「いざとなれば夜もだ」
 寝ないで働くというのだ。
「濃い紅茶を飲まされて強制的にだ」
「そんなことしたら疲れちゃうじゃない」
「多少疲れても働くことだ」
 それが大事だというのだ。
「普通はそうだ、日本を見ろ」
「そういえば日本いつも真面目に働いてるね」
 無論昼寝なぞせずにだ。
「というか太平洋の国も人達も皆シェスタしないで働いているけれど」
「おい、それが普通だろ」
 田中が呆れながらイタリアに突っ込みを入れた。
「イタリアさんちょっと怠け過ぎだろ」
「俺怠けてないよ」
「けれどあんた働いてるの午前中だけだろ」
 つまり午後はシェスタをしているのだ、毎日。
「もうちょっと働かないと駄目なんじゃないのか?」
「だって俺働くの嫌いだから」
 実にわかりやすい言葉である。
「だからね」
「イタリアさんらしいけれどそれってどうなんだよ」
 田中も勤勉ではある、確かに暴走族めいてはいるが。
「もっとうちの祖国さんやドイツさんみたいにちゃんとしてな」
「しないと駄目かな」
「それをやったらイタリアさんじゃないけれどな」
「あれっ、じゃあそれでいいのかな」
「何かイタリアさんってそうだからいいんだよ」
 そのシェスタを忘れず能天気なイタリアだからだというのだ。
「どうかって思うけれどそのスタンス変えないでくれよ」
「何かわからないけれどわかったよ」
 イタリアは田中に応える。
「シェスタ忘れないよ」
「ああ、そうしてくれよ」
 何だかんだでイタリアを好きな田中だった、そうした話もしながら。
 枢軸軍は侵攻を一時中断してそのうえでソビエト軍と対峙した、ソビエト軍を率いるのは今回もジューコフだった。
 そのジューコフにロシア兄妹が声をかけてきた。
「今度は負けたくないね」
「満洲を攻め取りましょう」
「はい、必ず」
 ジューコフも二人に応える。
「さもなければ再び書記長に怒られます」
「カテーリンさん厳しいからね」
 ロシアから見てもである。
「失敗したらお仕置きを言って来るから」
「ではまた立たされるのですか?」
「そいうなりますか?」
 ソビエト軍の将兵達はロシアの今の言葉に泣きそうな顔になる。
「それとも腕立て伏せ百回とか」
「そういうのですか?」
「ううん、それか晩御飯抜きかね」
 カテーリンはいつもそういう罰を人民に課す。
「まあそういうのかな」
「うわ、晩御飯抜きですか」
「それは嫌ですね」
「だから書記長を怒らせたくなかったらね」
「はい、勝ちましょう」
「絶対に」
 彼等も必死だった、カテーリンは厳しいのだ。
 見れば後方には今回はゲーペと彼女が率いる秘密警察の艦隊があった、彼等の存在が尚更彼等を恐れさせていた。
「あの長官お手柔らかに」
「後ろから精神注入棒とかないですよね」
「それ昔の日本軍ですから」
「我が軍ではないですよね」
「安心してくれ、ただの援軍だ」
 ゲーペもこのことは保障する。
「同志諸君が命令なしに後退なぞする筈がないからな」
「はい、こっちもお仕置きが怖いですから」
「そこの同志、本音を言うな」
 ゲーペはぴしゃりと告げる。
「さもなければ外で一時間立ってもらう」
「申し訳ありません」
「今回の作戦の指揮官は同志ジューコフ元帥だ」
 このことは変わらないというのだ。
「ジューコフ元帥の命令には従うのだ」
「わかっています、そのことは」
「我等も共有主義者です」
 カテーリンと同じくだというのだ。
「同志達と共に戦います」
「憎むべき資産主義者、君主主義者達と」
「そうだ、この満洲を何としても奪還する」
 ゲーペは言う。
「新兵器も来たしな」
「それでだが」
 ジューコフがそのゲーペに問う。
「同志ゲーペ、貴官が今乗艦している艦艇だが」
「この船ですか」
「あれだな」
「はい、ヘリ空母です」
 その兵器だというのだ。
「遂に完成しました」
「では搭載しているのは」
「ヘリです」
 これまた新兵器だった、二つの新兵器で来たのである。
「このヘリと潜水艦も使いましょう」
「では頼む」
「はい、我々も」
 こう話してそのうえでだった。
 ソビエト軍は前進をはじめた、それと共にヘリを発艦させようとする。しかし枢軸軍はそれを見てだった。
 オーストリアが警戒する顔で東郷に言って来た、その言葉はというと。
「ヘリが来ます」
「噂のあれか」
「はい、ドクツで開発されていたものですが」
「私が開発した」
 ここでレーティアが出て来る、東郷にモニターから話す。
「ジェット機と並行して開発していたのだがな」
「その技術がソビエトに渡ったか」
「ヒムラーが技術を渡した様だ」
 現ドクツ総統の彼がだというのだ。
「ドクツ領とその地位の保全と引き換えにな」
「外交交渉の結果か」
「潜水艦と同じだ」
 ソビエト軍が実用に移しているそれとだというのだ。
「そういうことだ」
「そうか、それならだ」
 東郷はそのことを聞いてからレーティアに問返した。
「ヘリへの対策はあるか」
「ある、ヘリはホバリングや前後左右、垂直に動けるがだ」
 この辺りが普通の艦載機と違う、ヘリはそうした動きも可能なのだ。
 だがそれでもだと、レーティアは語る。
「しかしその操縦は癖があり普通の艦載機よりも難しい」
「熟練が必要か」
「そしてスピードも遅い」
 このこともあった。
「少なくともいきなり戦場に出して即座に運用しきれるものではない」
「成程な、それならな」
「この戦いでは普通にスピードを使った攻撃で倒せる」
 艦載機のスピードでだというのだ。
「撹乱させつつな」
「では全機出撃です」
 小澤はレーティアの言葉を受けてからこう命じた、すぐに艦載機達が発艦していく。
 前に飛びながら向かう艦載機のパイロット達に、小澤はこうも命じた。
「小隊単位で敵ヘリ部隊に一撃離脱攻撃を仕掛けて下さい」
「ミサイルを使ってですね」
「そのうえで」
「はい、敵のミサイルの射程に気をつけて」
 そうしてだというのだ。
「照準を合わせさせない様にして下さい」
「了解です」
「では」
 パイロット達も応える、そのうえで。
 枢軸軍の艦載機達はまずはヘリ達に向かった、そのうえで。
 小澤の命令通り一撃離脱攻撃を浴びせる、照準を合わせてミサイルを放ち。
 すぐに宙返りの要領で上に飛び反転する、そうした攻撃を繰り返して。
 ソビエト軍のヘリ達を撃墜していく、ヘリの動きは枢軸軍の予想通り鈍かった。
 逆に言えばソビエト軍にとっては予想外だった、ゲーペは眉を顰めさせて言うのだった。
「訓練不足か」
「その様だな」
 ジューコフがそのゲーペに応える。
「どうやら使いこなすには相当な熟練が必要な兵器だな」
「それがヘリですか」
「投入が速かったか、だが」
「諦めてはいません」
 ゲーペの目は死んでいない、そのうえでの言葉だった。
「決して」
「それならだ」
「ヘリでの攻撃は諦めますか」
「これ以上この場でのヘリの運用は止めよう」
 無駄に損害を出すだけだからだ。
「ここはな」
「ではどうするべきでしょうか」
「オーソドックスだ」
 ロシアのそれだというのだ。
「秘密警察軍も協同してくれるか」
「無論」
 ゲーペにも異存はなかった、すぐに答える。
「それではですね」
「そうだ、パイプオルガンだ」
 あの攻撃を仕掛けるというのだ。
「そうしよう」
「わかりました、それでは」
 ゲーペも応える、そのうえで。
 ソビエト軍はヘリでの攻撃を止め砲撃戦に入ろうとする。ソビエト軍伝統のその攻撃にだ。
 横隊を何列も組む、そうして。
 一斉に射撃を浴びせようとする、しかし東郷にもそう来ることはわかっていた。
 彼は全軍にすぐにこう告げた。
「全軍散開だ」
「一旦ですね」
「ここは」
「これだけの砲撃に密集していては損害を増やす元だ」
 だからだというのだ。
「ここは散陣だ」
「了解です」
 こうして全艦隊の全艦艇が上下左右に散開した、そのうえで敵の攻撃を各個にかわす。これで敵から受ける損害は激減した。
 その枢軸軍の散陣を見てロシア妹が言った。
「考えましたね」
「うん、広範囲の一斉射撃にはね」
「こうしたやり方がありますか」
「そう来るとは思わなかったね」
「全くです」
 こう己の兄に語る。
「敵も愚かではありませんね」
「そういうことだね。与える損害は予想の半分以下かな」
 皆無ではないがかなり減っている。
「参ったね」
「はい、しかもです」
 ジューコフも二人に言う。
「敵は散開しながらもこちらに攻撃を合わせてきています」
「そうだね」
 ロシアも見た、枢軸軍はただ攻撃をかわしているだけではなかった、各個にその攻撃も仕掛けてきているのだ。
 まるでスナイパーの様に攻撃をしてくる、それによってだった。
「こちらは一隻、また一隻と」
「倒されていっているね」
「散陣ですか」
 ジューコフは呻く様に言った。
「敵ながら見事です」
「パイプオルガンにはこうするやり方があるんだ」
「こちらは散陣を組めません」
 訓練の違いだ、ソビエト軍にこの陣形はないのだ。
「このまま攻撃をするしかありません」
「それしかないね」
「はい、このままです」
 ソビエト軍は攻撃を続ける、こうしてだった。
 集中攻撃を続ける、だがやはり損害を期待以上に挙げられず。
 それが終わった時だった、東郷は再び全軍に命じた。
「水雷攻撃だ」
「ではここで陣をですね」
「各艦隊でな」
 組みなおすと秋山に言う。
「敵に向かいながら組みなおす」
「わかりました」
「そのうえで敵に接近したところで攻撃を仕掛ける」
「はい」
 秋山も応える、そうしてだった。
 全艦ソビエト軍に向かいながら艦隊に戻る、そのうえで鉄鋼弾攻撃を仕掛けた。枢軸軍の鉄鋼弾の威力は相変わらずだった。
 ソビエト軍の艦艇を次々に撃破する、これで勝敗は半ば決した。
 枢軸軍の損害はソビエト軍の予想の半分以下、ソビエト軍の損害はソビエト軍の予想通りだった。これではだった。
「同志ジューコフ元帥、これでは」
「うむ」
 ジューコフはゲーペの言葉に応える。
「今回もな」
「撤退するしかありませんが」
「戦術で敗れた」
 枢軸軍の散陣戦術にだというのだ。
「これではどうにもならない。だが」
「だが?」
「ただ破れるわけにはいかない」
 その隻眼に意地を見せて言う。
「ここはな」
「といいますと」
「同志ゲーペ、潜水艦艦隊を使おう」
「潜水艦をですか」
「敵の港を攻撃する」
 惑星の衛星軌道上にあるその港をだというのだ。
「我々の主力から彼等を離してだ」
「そのうえで、ですね」
「港に向かわせ攻撃させる」
 そうするというのだ。
「港を破壊すればこの満州の修理や停泊に大きな影響が出る」
「一旦日本に戻っていますが」
 確かにその通りだ、だがこれがだった。
「ロスになっていますね」
「敵にロスをさせる」 
 あえてだというのだ。
「その間に我々は同志カテーリンにさらなる援軍の要請をし」
「それは私からもさせてもらいます」
 カテーリンの懐刀でもあるゲーペからもというのだ。
「それでは」
「頼む、同志ゲーペ」
「はい、それでは」
「今回は敗れてもだ」
 それでもだと、ジューコフは諦めていない目で語る。
「次につなげる」
「問題は日本本土ですね」
「大修理工場があるな」
「満州の港を破壊してもまだあの星域があります」
 それが問題だというのだ。
「しかし往復で二月かかりますね」
「そうだ、二月だ」
 この時間のロス、これもまた大きいというのだ。
「満州の施設で出来ることが日本まで行くことになるからだ」
「確かに、そうなりますね」
「では港を破壊しよう」
 ジューコフはその決断を話した、そしてだった。
 ジューコフは敗れながらもソビエト軍の潜水艦艦隊を向かわせた、その彼等に港を破壊させる為にだ。
 潜水艦達は隠密に、しかも高速で満州の港に進む、だがそれは。
 エルミーはファルケーゼのソナーを見た、そこにはっきりと映っていた。
「港に敵の潜水艦艦隊が近付いています」
「何っ、それは本当か!?」
「はい、間違いありません」
 こうドイツにも報告する。
「このままでは港が」
「わしが行く」
 宇垣が名乗り出て来た。
「わしの艦隊が一番港に近いからな」
「そうしてくれますか」
「うむ、任せてくれ」
 エルミーに強い顔で告げる、そしてだった。
 宇垣の艦隊が港に向かう、その途中にこう言うのだ。
「あの港には民間人もいるのだ」
「はい、パルプナ嬢ですね」
「その他にも」
「軍人は死ぬのはいい」
 それは構わないというのだ。
「しかし民間人は巻き込むな」
「軍人は民間人を守る為のもの」
「その為に存在しているからですね」
「そうだ、ここは楯になろうともだ」
 その覚悟と共に向かう。
「戦うぞ」
「はい、わかりました」
「それでは」
 部下達もそれを承知の顔で応える、そうしてだった。
 港の前に急行する、無論そこで臣民達を守る前に。
 港にはパルプナがいた、パルプナもまた敵を察していた。
「来る、敵が」
「!?そういえば宇垣外相の艦隊がこちらに急行しています」
「それでは」
「敵を察して」
 港にいるから全てはわからない、だがパプルナはある程度直感で察していたのだ。宇垣の意図も。
「宇垣さん、まさか」
「外相の艦隊が港の前に向かっているぞ!」
「まさか!」 
 それを見て言うのだ。
「御自身の艦隊を楯に!?」
「そうして港を」
「そんな、まさか」
 パルプナはその話を聞いて驚きの顔を見せた。
「自分が楯になって皆を」
「外相はそうした方だ」
「だからこそ」
「そんな人がいるの」
 パルプナにとっては衝撃的だった、これまで酷い目に遭ってきた彼女にとっては。
 それで困惑した顔になっていた、だが宇垣は。
 己の艦隊を率いてそのうえで港の前に来た、そうして。
 潜水艦艦隊に次々に攻撃を浴びせる、そのうえで倒していく。
 だが数が多い、それでだった。
 ソビエト軍の攻撃も受けた、鉄鋼弾の一撃が。
 宇垣の乗艦である戦艦金剛を直撃した、金剛は大きく揺れた。
「金剛被弾!」
「航行を停止しました!」
「火災が次々と起こっています!」
「このままでは!」
「外相、ご無事ですか!」
 だが返答はない、艦橋は殆どの者が無事だった。
 しかし宇垣はたまたま飛んで来た破片の直撃を受けて吹き飛ばされていた、壁にその背中をしたたかに打って意識を失っていた。
 全身から血を流している、その彼を見て誰もが言った。
「駄目だ、手遅れだ」
「外相、そんな・・・・・・」
「えっ、宇垣さんが」
 彼等の言葉は不覚だったが港にも届いていた、それでだった。
 パルプナは顔を曇らせて叫んだ。
「宇垣さん!」
「!?パルプナ嬢一体」
「どうしたんだい!?」
「宇垣さんは私達を守ってくれた!」
 そのことが今伝わったのだ。
「それで死んだのなら、私が!」
「!?パルプナ嬢!」
「まさか!」
「皆来て!」
 港の波止場に向かって駆けながら叫ぶ。
「宇垣さんに代わって!」
 こう叫んでだった、宇宙怪獣達を呼び集め出撃した。
 そのうえで残っていた潜水艦艦隊に向かう、そのうえで。
 潜水艦艦隊に攻撃を浴びせた。既に宇垣の艦隊に足を止められ数を減らされていた彼等に為す術もなかった。
 宇宙怪獣達の一斉攻撃で致命的なダメージを受けた、それを見て。
 ジューコフは沈着だがその隻眼に無念の目を見せて語った。
「作戦は全て失敗した」
「ではここは」
「撤退しかない」
 こうゲーペに語る。
「シベリアまで下がろう」
「それしかありませんか」
「懲罰は受ける」
 カテーリンからのそれをだというのだ。
「そのことを覚悟してだ」
「再び戦力を整えてですね」
「敵の艦隊を一つ全滅させただけでよしとしよう」
 宇垣の艦隊をである。
「例えシベリアに敵が攻めて来てもだ」
「では」
「最後に勝つのは我々だ」
ジューコフは己が後詰になり撤退した、第二次満州攻防戦は再び枢軸軍の勝利に終わった、だがその中で。
 宇垣のことがあった、東郷は港に戻ってから驚くべき報告を聞いた。
「外相が瀕死の重傷を負われたが」
「はい、生きておられます」
「一応は」
 海軍の者達が話す。
「ですがそのお姿が」
「平賀長官が即座に治療されましたが」
「あの、肉体はかなりの損傷があったとのことで」
「それで」
「クローン技術を使ったのか?」
 東郷は最初こう考えた。
「国際条約的に規制がかなり厳しい筈だが」
「いや、クローン技術は使っていない」
 その平賀が出て来て話す、久重の口から。
「それはだ」
「ああ、そうなのか」
「別の技術を使った」
「といいますと」
 東郷の横にいる日本が問い返す。
「何を使われたですか?」
「サイボーグだ」
 それだというのだ。
「サイボーグ技術を使った、クローンはとかく規制が厳しいからな」
「サイボーグだったのですか」
「肉体の復元は可能だが時間がかかる」
 その損傷があまりに激しい為にだ。
「その間の応急処置だ」
「それでどんな感じだ?」
「脳以外は全て機械だ」
 こう東郷達に話す。
「そうなっている」
「今外相にお会い出来ますか?」
 日本は平賀に尋ねた。
「サイボーグ手術のすぐ後ですが」
「こっちに来てもらっている」
 既にだというのだ。
「では呼ぼう」
「お願いします」
 その宇垣が来た、見れば。
 外見は宇垣のままだがそれでもだった。
 右手は大きく左手はドリルだ、しかもメタリックな感じが全体にある。
 その機械の身体で出て来てこう言うのだ。
「暫くはこのままだ」
「外相、ご無事で何よりですが」
「おお祖国殿、この様にわしは大丈夫です」
 宇垣は日本に笑顔で話した。
「すぐに戦線復帰しますので」
「そのことはいいのですが」
「ああ、この身体ですな」
「確かにご無事で何よりですし回復するとのことですが」
「何、何でもありません」
 宇垣は実際に何でもないといった顔で返す。
「わしはわしです」
「外相は、ですか」
「はい、ですからこのまま戦い」
 そしてだというのだ。
「外相としても祖国殿に尽くします」
「いや、何といいますか」
 東郷も流石に今は言葉がない、慎重に言っていく。
「外相、貴方は」
「東郷、何をそんなに驚いている」
「いえ、サイボーグになられてもですから」
「だからわしはわしだ」
 このことに変わりがないからというのだ。
「それ以外の何だ」
「だからですか」
「そうだ、むしろこの身体に感謝している」
 機械の身体にだというのだ。
「平賀長官はわしに引き続き奉職の機械をくれたのだからな」
「そう言ってもらえて私も嬉しい」
 平賀は今は特別だった、己の口で語る。
「サイボーグにすることを悩んだからな」
「それは何故ですかな」
「生身の身体ではない」
 やはりこのことが大きかった。
「回復までには時間がかかるからな」
「その間外相としては休職して」
「そうなっていた、しかし外相の気持ちはわかっていた」
「うむ、わしは常に国家の為に働きたい」
 勤勉な宇垣らしい言葉であり考えだ。
「そのことがわかっているからか」
「私は決断した、外相にサイボーグになってもらった」
「この宇垣、このご恩は一生忘れません」
 こうまで言う宇垣だった、敬礼もする。
「必ず祖国殿の為にこれまで以上に働きましょう」
「それでは私も尽くさせてもらう」
 平賀も宇垣を見上げて応える。
「何があっても外相を助けよう」
「お願いする、わしとしてもな」
「俺は外相をまだ見誤っていたな」
 東郷は今の宇垣を見てこのことを悟った。
「俺が思っていた以上に心の素晴らしい方だ」
「そうですね、この方が外相でいてくれてよかったです」
 日本も東郷にこう言う。
「この方ならばやってくれます」
「そうだな、俺はいなくてもいいが外相は日本帝国に必要だ」
 そうだというのだ。
「今回のことで確信した」
「いえ、長官も必要な方ですから」
 日本は東郷にも言った。
「宜しくお願いします、これからも」
「そう言ってくれるんだな」
「勿論です、しかし本当に外相には頭が下がりました」
 あらためてこう言ったのだった。
「素晴らしいです」
「本当にな」
「では東郷、これからのことだが」
 宇垣は機械の身体で東郷に語る。
「シベリアに行くな」
「はい、艦隊のダメージもそれ程ではないので」
「では今から第八世代の艦艇に乗り換えてだな」
「はい少し手間がかかりますが」
 それでもだというのだ。
「シベリアに攻め込めます」
「ではわしも行かせてもらう」
 宇垣はサイボーグの身体で微笑んで言った。
「シベリアにな」
「宜しくお願いします、すぐに第八世代の艦艇に乗り換えます」
 こうして枢軸軍は満州での戦いの後ですぐに第八世代の艦艇、待ちに待ったその艦艇達に乗り換えた、そのうえでだった。
 満州からシベリアに攻め込みに入る、その中で。
 パルプナが東郷にこう申し出た。
「私も」
「そういえば君はさっきの戦いで」
「ええ」
 東郷の言葉にこくりと頷く。
「宇垣さんを見て」
「有り難う、お陰で港とそこにいる多くの人達が守られた」
「宇垣さんみたいな人がいるのなら」
 ぽつぽつとした調子で話してくる。
「私も戦いたい」
「枢軸に参加してくれるのか」
「そうさせて」
「わかった、それではだ」
 こうしてだった、パルプナもまた枢軸軍に加わった、立場は日本軍の提督としてだ。枢軸軍にまた一人新たな人材が加わった。
 枢軸軍はあらためてシベリアに向かおうとする、ランスはその中でシィルにこんなことを言った。
「なあ、いいか?」
「どうしたんですか?」
「いや、この世界もな」
 今船に乗り込もうとする中で言う。
「色々な奴がいるな」
「はい、そうですね」
「犬の頭の神様とかな」
 柴神のことも話す。
「いるな」
「そうですね、ただ」
「ただ?」
「私達はこれからソビエトに攻め込みますけれど」
「あの国がどうかしたのか?」
「ソビエトの国家元首であるカテーリン書記長です」
 シィルが話すのは彼女についてだった。
「まだ幼い、小学生位の年齢で国家元首ですか」
「しかも独裁的な、だな」
「そんなことは私達の世界でもないですし」
「こっちの世界でもないよ」
 モンゴルもこう言う。
「あの娘がはじめてだよ」
「そうですよね、幾ら何でも幼な過ぎますね」
「よく言われてるよ。二年前に急に演説をはじめて」
 それがはじまりだった、カテーリンの。
「そこからあっという間にだからね」
「それだけ心を打つ演説で政策なのですか」
「どうだろうね、子供だから」
 その演説にも限界があるというのだ、それにだった。
「しかも共有主義ってね」
「あんなの何処がいいんだ?」
 ランスは真剣にいぶかしんで返す。
「窮屈なことこの上ない宗教だよな」
「宗教じゃないよ、というかカテーリン書記長は宗教も否定しているから」
 このこともまたカテーリンの思想の特徴である。
「お坊さんとかは働かなくて自分達だけ楽をしてるって言ってね」
「いや、それでもな」
 ランスはモンゴルに反論する。
「あれは宗教だろう」
「そうなるのかな」
「はい、私もランス様と同じ考えです」
 シィルもこう話す。
「共有主義は宗教です」
「シィルさんもそう言うの」
「擬似宗教と言うべきものです」
 そうした意味で共有主義は宗教だというのだ。
「自分達だけが絶対と思っていますから」
「ううん、イデオロギーもそうなんだ」
「そうだよ、とにかく俺はあんな堅苦しい宗教は御免だからな」
 実にランスらしい言葉だった、忌々しげに話すところに彼の考えが出ている。
「というか何処がいいんだ」
「何でもソビエトはロシア帝国の頃は貧富の差がかなり酷かったそうです」
「その反動か?」
「そうみたいですね、どうやら」
「まあよくある話だな」
 このことはランスもわかる、だがだった。
 それと共にだった、ランスはこうも言った。
「しかし所詮はあれだろ、子供の言うことだろ」
「紛れもなくそうですね」
「それであんなに皆熱狂的に支持するか?」
 それがどうしてもわからないというのだ。
「おかしなことばかりだな」
「私もそう思います、共有主義は理想です」
 シィルはこう言い切った。
「理想に過ぎないです」
「現実には無理だろ」
「実際にソビエトにはかなり無理が生じていると思いますが」
「だろうな、それで何でソビエトの連中はあんなに支持するんだろうな」
「考えれば考える程不思議ですね」
「変な宗教は多いけれどな」
 ランス達の元の世界でもだ。
「こっちの世界でもあるのはわかるけれどな」
「そういえばドーラ教ってのもあるよ」
 コアイがこの宗教を出して来た。
「ドクツにあるんだって」
「それはどんな宗教ですか?」
「ドーラっていう神様を崇拝しているらしいよ」
 コアイはこうシィルに話す。
「けれどコアイそれ以上は知らないから」
「そうですか」
「うん、あまり言えなくて御免ね」
「いえ、お気になさらずに」
 この宗教の話も出たが今はこれだけだった、ランスは引き続きカテーリンと共有主義について話をした。
「とにかくあんな宗教が百億以上の人間に支持されないだろう」
「一億でもあまり、ですね」
「おかしな学者が信じる位だろ」
 ランスはこう考えていた。
「本当にわからないな」
「全くですね」
「マンシュタイン元帥にしてもな」
「何でもカテーリン書記長と直接会ったそうです」
 その結果あれだけ共有主義を盲信したというのだ。
「そうされたそうなので」
「それでか」
「はい、そうらしいです」
「マンシュタイン元帥は総統さんに忠誠を誓ってたよな」
「絶対のものを」
「何でそれで共有主義者になったんだ?」
 このことも謎だった。
「わからないことばかりだよ」
「考えれば考える程ですね」
「本当にな。どうなってるんだ」
「あの書記長には謎が多いですね」
「謎しかないか?そもそも貧しい農民の出だよな」
「家は」
 その生まれだということはわかっていた。
「グルジアの方の」
「ソビエトの辺境の星域だよ」
 モンゴルはこのことを言い加えた。
「カフカスっていう宙域のね」
「辺境ですか」
「本当にソビエトの辺境でね」
 モンゴルはそのカフカスのことも話す。
「ミーリャ首相やゲーペ長官もそこの生まれだよ」
「辺境からモスクワに攻め上がったんだな」
「まずグルジア軍を全て共有主義者にしてね」
 それからだというのだ。
「そこから討伐軍を全て組み入れていって」
「順調にいったんだな」
「有り得ないまでにね」
 モンゴルもこうまで評する。
「いったんだよ」
「やっぱり何かおかしいですね」
 シィルは首を捻って言う、その馬の首を。
「カリスマ性があるにしましても」
「ああ、魔術でも使っているのか?この世界でもあるからな」
 ゴローンが使っているそれだ。
「それか?」
「いえ、魔術にしてもです」
「強過ぎるな」
「カテーリン書記長はまさに女王です」
 それがどういった女王かというと。
「蟻達の」
「シロアリとかか」
「そういうものに近いのでは」
「言われてみればそうか、本当に絶対者だからな」
「幼女といってもいい娘が女王になるのは」
「妙なものがあると考えるのが普通だよな」
 ランスは腕を組み真剣に考えて述べた。
「百億の人間の頂点にあっという間に立ったことといいな」
「尚且つあれだけ完璧な統制ですから」
「カテーリン書記長は普通の人じゃないの?」
 ここでまたコアイが言う。
「そうなの?」
「そうとしか思えないな」
 これがランスの考えだった、彼もまたカテーリンについて妙なものを感じていた。
 その中でシベリアへ向かって出撃する、ソビエト戦はようやく枢軸軍の攻勢に入ろうとしていた。


TURN98   完


                          2013・3・19



宇垣がサイボーグ化。
美姫 「命は取り留めたし、本人も納得しているのならまあ」
怪我の功名と言うべきか、宇垣の行動がパルプナの参加にも繋がったしな。
美姫 「いよいよ、これからソビエトへと向けてね」
だな。果たして、どんな戦いが繰り広げられる事になるのか。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!



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