『ヘタリア大帝国』




                      TURN95  マンシュタイン参戦

 ヒムラーはミーリャから通信を受けていた、二人は立体テレビ電話で話す。
 まずはミーリャがこうヒムラーに言う。
「こんにちは、ヒムラー総統」
「ああミーリャ首相お久しぶり」
 ヒムラーも挨拶を返す。
「何の御用かな」
「うん、傭兵を雇ったらしいけれど」
「レッドファランクスだね」
「その人達こっちに回してくれるかな」
 こうヒムラーに話す。
「満州の方にね」
「ああ、最初からそのつもりだったよこっちも」
 ヒムラーは気さくな笑みを作ってミーリャに応えた。
「それじゃあね」
「お願いね」
「ドクツにしてもソビエトには勝って欲しいからね」 
 善意の仮面を被って言う。
「だからね」
「同じ連合国としてね」
「その通りだよ」
 こうミーリャに話す。
「じゃあレッドファランクスはそっちに行ってもらうね」
「そういうことでね。後は」
「何かな、次は」
「助けてもらうからね」
 外交の話だった、援助を受けるからには。
「だからね」
「ははは、気遣いはいいよ」
「そういう訳にもいかないから。お礼として」
 ミーリャは己の裁量からヒムラーに言った。
「こちらのヘリ空母の技術を供与するね」
「あっ、それをなんだ」
「うん、ヘリコプターは元々ドクツのだけれどね」
「こっちは空母はね」
 ドクツの兵器の弱点だ、空母はまだ計画中でしかない。レーティアが言っていたことは嘘ではなかったのだ。
「グラーフ=ツェッペリンの建造をやっとはじめられそうだけれど」
「そうだよね、ソビエトはヘリ搭載だけれど空母はあるから」
「その技術を供与してくれるんだね」
「それでいいかな」
「願ったりだよ、それじゃあね」
「うん、レッドファランクスのことお願いね」
 こうしてそのレッドファランクスは満州方面に回されることになった、ソビエトにしてもドクツにしてもいい話になった。
 ミーリャはヒムラーとの電話での会談を終えてからカテーリンにその結果を話した。カテーリンはその話を聞いてこう言った。
「いいと思うわ」
「ヘリ空母の技術供与でよね」
「うん、どのみちドクツも空母を開発、建造するから」
 それならというのだ。
「遅かれ早かれだからね」
「だからいいと思ったの」
 ミーリャも首相としてその辺りを計算したのだ。
「それでなの」
「ミーリャちゃんの判断でいいと思うわ」
「あの総統さん信用出来ないし」
 ミーリャは直感的にヒムラーをそうした人間だと見抜いていた、それで今も言うのだ。
「あまりいいもの渡したらね」
「絶対に後でこっちに仕掛けて来るから」
 カテーリンも眉を顰めさせて言う。
「あの人信用出来ないから」
「そうよね」
「うん、あの人には渡さないの」
 絶対に、だというのだ。
「大事なものはね」
「こっちはヘリコプターに潜水艦の技術を貰ったけれどね」
「勝ったから当然よ」
 ソビエトの潜水艦はやはりドクツからの技術給与からだった。ヒムラーが講和の時に国土のかなりの部分の保全と引き換えに渡したのだ。
「それはね」
「そうよね」
 ミーリャもカテーリンのその言葉に頷く。
「じゃあヘリ空母を一隻ドクツに渡してね」
「それでいいよ」
 ソビエトはドクツからレッドファランクスを回してもらった、これが彼等の今度の手だった。そしてそのレッドファランクスについて。
 ヒムラーの裏の側近、ドーラ教団の者達がこっそりと彼に問うた、何故彼がレッドファランクスと関わりがあるのかを。
「教皇は何故彼等を知っているのですか?」
「我々も知りませんでしたが」
「それは何故ですか?」
「どうしてですか?」
「ああ、実は士官学校を中退した時にね」
 話はそこに遡った。
「俺は各地を放浪していたね」
「はい、ドーラ教団の信徒として」
「そうされていましたね」
「ロンドンにいた時に」
 話はその頃に遡ることだった。
「たまたま黒人の女と会ってね」
「ロンドンで、ですか」
「その女と会ってですか」
「そうだよ、その女がだったんだ」
 レッドファランクスの者だったというのだ。
「青い石を見せて話を聞いたら」
「彼女はレッドファランクスだった」
「そうだったのですか」
「そうなんだ、俺は黒人は好みじゃないから寝なかったけれど」
 それはなかった、どうやらヒムラーの女性の好みもそれなりの傾向がある様である。
「話を聞いてこれは使えると思ってね」
「知己になられた」
「それで、ですか」
「縁は持っておくものだよ」
 笑って真の側近達に話す。
「こうした時に使えるからね」
「そうですね、それでは」
「これでいいですね」
「さて、ヘリ空母の技術も手に入る」
 ヒムラーはこのことについても言った。
「いいことだよ」
「はい、これで我々も空母を持てます」
「それも質のいいものを」
「さて、空母にあの新兵器も出来る」
 少し見ただけでは整っている様に見える目を光らせる。
「動くべき時を待つだけだね」
「そしてドーラ教団を広めましょう」
「世界に」
 彼等は今は自分達は積極的に動かず時を待っていた、闇の中に息を潜めさせて。
 満州での最初の戦いに勝った枢軸軍はダメージを受けていない艦隊を満州の防衛に残しその殆どを一旦日本の大修理工場に入れた、そこで艦隊の修復にあたったのだ。
 平賀はかなりのダメージを受けた己の艦隊を見ながら東郷に言った。
「同志達も協力してくれていますが」
「それでもだな」
「全艦隊の修復が終わるのは一ヶ月後です」
「そうか」
「一ヶ月で全ての艦艇を修理し」
「また満州に戻る」
 東郷はこう平賀に返した。
「またな。そのうえで今度はこちらからシベリアに攻めたいが」
「それは第八世代の艦艇が配備されてからですね」
 福原がここで言って来た。
「それからですね」
「そうだ、それからだ」
 満州に戻ってもすぐには攻めないというのだ。
「まだな」
「それで満州のことですが」
 福原は満州のことも話してきた。
「今は山本提督が中心になって守ってくれていますが」
「爺さんも頑張ってくれているな」
「はい、お身体はどうも」
 福原は暗い顔になり述べた。
「相当お悪い様です」
「私も謹言させて頂いています」
 平賀は山本にもそうしていた、その謹言の内容はというと。
「どうか引退されてお身体を休めて下さいと」
「俺もそう言っているがな」
「長官もですか」
「どうも爺さんは戦場で死にたいらしい」
 だからだというのだ。
「だから聞かない」
「そうですか」
「あの爺さんらしいがな」
 東郷は複雑な顔も見せて述べた。
「じゃあ最後まで頑張ってもらうか」
「ですか」
「最後まで戦場で」
「なら爺さんの考えを受けたい、俺達は暫く修理に専念しよう」
 艦隊の修理にだというのだ。
「それで満州に戻ろう」
「わかりました、それでは」
 福原が敬礼で応える、今枢軸軍は艦隊の修理に専念するしかなかった。
 満州には防衛艦隊がいる、だが平賀はその艦隊についても言った。
「山本提督に伊藤首相、ギガマクロ酋長、宇垣外相、芝神様、夕霧提督ですが」
「あとネクソン提督もいるな」
「問題はネクソン提督です」
 平賀は彼のことについて言った。
「あの御仁は」
「ああ、時々な」
「何故か一撃で粉砕されます」
「どんな艦隊でも全滅するからな」
 それがネクソンの問題点だった。
「あれがわからない」
「生きておられるからいいものの」
「今敵が来ればまずいか」
 統合もネクソンのそのことについては危惧を感じていた。
「首相達がおられるから大丈夫だと思うが」
「それでもです」
 ネクソンについては心配していた、ソビエト軍は退けてもだった。しかしここで福原が東郷達にこう話した。
「ただ。我々は一月で戻ります」
「その一月の間はな」
「はい、ソビエト軍もかなりのダメージを受けています」
 それならだというのだ。
「彼等も満州には攻めて来ません」
「安心していいな」
「満州から来る敵はソビエト軍だけです」
 中帝国が枢軸側に加わった今ではだ。
「さしあたって心配はないと思います」
「それはそうだな」
「はい、今は修理に専念しましょう。そして」
「マンシュタイン元帥達だな」
「あの方々も枢軸軍に入られるのですね」
「いや、それがどうもおかしい」
 ここで東郷はこう言った。
「様子がな」
「様子がですか」
「ああ、シュテティン提督達はともかく」
 ここにはリディアも入る。
「マンシュタイン元帥の様子がおかしい」
「といいますと」
「洗脳されている様だ」
 こう言うのだった。
「共有主義にな」
「そういえばあの国は洗脳も使います」
 平賀もこのことについて言及する。
「そしてそのうえで」
「完全に共有主義の同志にするな」
「はい、そうしています」
「どうもそれを施されたらしい」
「それはまずいですね」
 平賀も顔を曇らせて言う。
「我々の同志となることはですか」
「むしろリディア提督の方があっさりとしていた」
 彼女の方がだというのだ。
「捕虜になったら、とな」
「ですか」
「まだ共有主義は信じている様だが」
 それでもだというのだ。
「枢軸側への参戦を承諾してくれだ」
「ですか」
「しかしマンシュタイン元帥は違う」
 彼はだというのだ。
「どうも洗脳が強いらしい」
「ではどうすれば」
「今秋山達が説得しているが」
 彼が向かっているというのだ。
「難しい様だ」
「同じドクツ人でしたら」
 ここで福原が言った。
「やはりドクツの方々の方がいいのでは」
「そうなるか」
「はい、私はそう思いますが」
「そうだな、では総統さんにお話してみるか」
「それがいいかと」
 福原は静かに進言した。
「マンシュタイン元帥は素晴らしい方と聞いています」
「是非枢軸側に参加して頂きたいです」
 平賀も言う。
「あれだけの武人は」
「俺も同感だ、あの人も参戦されると非常に大きい」
「是非共ですね」
「そう思っている、それではな」
「宜しくお願いします」
 福原は海軍の敬礼で東郷に話した、こうしてだった。
 東郷から話を聞いたレーティアがこう言ったのだった。
「実は私もだ」
「総統さんもか」
「そうだ、私が直接行き説得しようと思っていた」
 東郷に対して話す。
「この場合は洗脳を解くといった方がいいな」
「では元帥のことは」
「任せてくれ。洗脳の解き方もわかっている」
 レーティアの才の中にはこのこともあるのだ。
「ではだ」
「あの元帥の参戦は本当に大きいからな」
「ドクツ軍の両翼だったからな」
 レーティア自身が最もよくわかっていることだ。
「是非共だな」
「そういうことになる」
「生きていて嬉しかった」
 レーティアの偽らざる本音である。
「本当にな」
「そうね、あの時はどれだけ悲しかったか」
 グレシアはマンシュタインが撤退する軍の楯となった時のことを思い出していた、このことは彼女にとって忘れられるものではない。
「けれど生きていてくれて」
「再び私達の前に来てくれた」
「それならね」
「必ず戻ってもらう」
 参戦してもらうというのだ、枢軸側に。
「是非共な」
「では行こう」
 ドイツもレーティアに言う。
「俺達のもう一人の元帥を迎えに」
「私達の友をな」
 こうも言ったレーティアだった、かくして。
 レーティアとドイツ達がマンシュタインのいる部屋に入った、この時彼はトリエステの説得を聞いていた。彼女は洗脳されておらずレーティアと会い彼女の無事を知るとすぐに枢軸側に参戦したのである。
 そのトリエステがマンシュタインに言うことは。
「閣下、我々は騙されていたのです」
「ヒムラー総統にか」
「そしてカテーリン書記長に」
 二人にだというのだ。
「閣下は共有主義については」
「素晴らしい思想だ」
 真顔で言う、表情はこれまでとは変わらない。
 しかし目の色が妙だ、ガラスの様になっている。
 そのガラスの目でこうトリエステに言うのだ。
「誰もが平等とはな、そして今のドクツも」
「ですからレーティア総統は生きておられます」
「その様なことは有り得ない」
 トリエステの必死の説得も否定する。
「絶対にだ」
「ですが総統閣下は今枢軸側に」
「それは枢軸の謀略だ」
 こう看破する、と思っている。
「前総統閣下は自害された」
「あの、ですが」
「今のドクツ軍はヒムラー総統とカテーリン書記長に忠誠を誓うべきだ」
「ではドクツは」
「ヒムラー総統も共有主義には理解を示しておられる」
 少なくともヒムラーはそう見せている。
「ファンシズムと共有主義は共存出来るとな」
「確かに似ているかも知れません」
 ファンシズムと共有主義はというのだ。
「どちらも個人独裁ですから、ですが」
「シュテティン提督、何が言いたい」
「閣下は共有主義を誤解しておられます」
 こうマンシュタインに言うのである。
「共有主義は自分達以外を否定する思想です、その思想が世界を支配すれば」
「誰もが幸せになれる」
「なれません、ソビエトの様な息苦しい国になるだけです」
「そうはならない、ソビエトでは誰もが幸せに過ごしている」
 今のマンシュタインはこう思っているのだ。
「平等にな」
「カテーリン書記長の独裁です」
 こうした意味で共有主義もファンシズムなのだ、それでなのだ。
「そうでしかありません」
「シュテティン提督は共有主義をより学ぶべきだな」
 あくまでわからないマンシュタインだった。
「赤本を一日一回読んでいるか」
「閣下、ですから」
 全く取り付く島もなかった。トリエステは全く変化のないマンシュタインに絶望を感じだしていた。しかしここで。
 レーティア達が来た、そのうえでこうトリエステに言ったのだ。
「シュテティン提督、代わってくれるか」
「総統閣下・・・・・・」
「マンシュタインのことは任せてくれ」
 こう言ったのである。
「そうしてくれるか」
「お願い出来ますか」
「必ず洗脳を解く」
 マンシュタインのそれをだというのだ。
「すぐにな」
「では」
 トリエステはドクツの敬礼でレーティアに応えた、そうしてだった。
 レーティアはマンシュタインの前に来た、するとすぐにだった。
 彼の大柄な身体をいきなり蹴飛ばしてこう言ったのである。
「マンシュタイン、何をやっている!」
「!?」
「御前は何だ!」
「ドクツの軍人だ」
 マンシュタインは蹴られながらもびくともしない、だがそれは身体のことで。
 心は大きく揺らいだ、レーティアはその彼にさらに言う。
「そうだな、ドクツの軍人だな」
「如何にも」
「ならば思い出せ!私は誰だ!」
「そのお姿は」
「そうだ、レーティア=アドルフだ」
 漆黒の軍服姿で両手を腰に置きに立って言う。
「御前の総統であり友だ」
「しかし貴方は」
「この通りだ、生きている」
 トリエステの言う通りそうだというのだ。
「そして枢軸で戦っているのだ」
「偽者では・・・・・・いや」
 洗脳されていてもわかった、姿形は真似出来ても。
 その気までは真似出来ない、その気はまさに。
「貴女は紛れもなく」
「そうだ、わかったな」
「まさか、生きておられたとは」
「マンシュタイン!もう一度戦え!」
 レーティアはマンシュタインにさらに告げる。
「共有主義の為でもヒムラーの為でもない!」
「では何の為に」
「ドクツの為だ!私はドクツに戻りもう一度あの国を救う!」
 こう言い切る。
「私を支えてくれる友人達と共にな!」
「総統・・・・・・」
「友よ、御前の返事を聞こう」
 マンシュタインの顔を見上げて問う。
「ドクツ軍の敬礼は何だ」
「敬礼でありますか」
「そうだ、私にその敬礼を見せろ!」
 こうマンシュタインに言う、すると。
 マンシュタインは直立不動になり姿勢を正した、そこから右手を斜め上に挙げて高らかに叫んだのだった。
「ジークハイル!ハイルアドルフ!」
「そうだ、ではいいな!」
「はい、ドクツの為に総統の為に」
 最早目は戻っていた、かつての目に。
「及ばずながら戦わせて頂きます」
「宜しく頼むぞ」
「はい」
 こうしてマンシュタインも戻った、こうしてだった。
 ドクツ軍の主な将帥が揃った、ドイツはその軍を見てプロイセンに言った。
「まだドクツには戻っていないが」
「ああ、それでもだな」
「まるでドクツに戻った様だ」
「皆ここに揃ってくれたからな」
「やれる」
 ドイツは確信と共に言い切った。
「ドクツに戻れる」
「間違いなくな、勝てるぜ」
「そうだな、それではだ」
「まあまずはソビエトに勝ってな」
「それからだな」
「北アフリカからも攻めてな」
 プロイセンにとっては因縁の地だ、だからこそ話に出したのである。
「俺達の国に戻ろうな」
「是非共な。しかし総統は変わった」
 ドイツはレーティアのことも話した。
「これまでは一人だった」
「マンシュタイン元帥や俺達のことを友達って言ってくれたよな」
「ああ、確かにな」
「一人じゃない、あの人は」
「そのことがわかったんだな」
「成長された」
 友の存在、そして一人ではないことを知る。そのことも大きいというのだ。
「戻られた時のドイツはな」
「これまで以上に凄い国になるな」
「一人では限度がある」
 如何にレーティアといえどもだというのだ、幾ら彼女があらゆることに対しての天才でも一人でしかない。
 しかし今は違う、それならというのだ。
「共にドクツを支えていける」
「そうだな、俺達も一緒にな」
「ドクツを支えていこう」
 こう話したのだった、ドクツ軍は戻るべき者が全て揃った、国の留守を預かるドイツとプロイセンの妹達は別として。
 リディアはこの時日本にいた、その日本橋という場所で。
 メイド喫茶やゲームショップに入りこう言った。
「うわ、凄いねここって」
「お気に召されました?」
「ええ、とてもね」
 笑顔で同行する台湾に返す。
「楽しい場所ばかりじゃない」
「ですよね。食べ物のお店も一杯ありますし」
「串カツいいわね」
 リディアが話に出したのはこれだった。
「二度漬け駄目だけれどね」
「それは絶対のルールなので」
 やってはいけないというのだ。
「注意して下さいね」
「わかったわ、それにしてもこういう場所にいると」
 リディアは目を輝かせそこに懐かしむものも見せて台湾に話す。
「昔を思い出すのよね」
「ソビエトのですか」
「ロシア帝国のね。確かに身分差別とか貧富の差は酷かったけれど」
 このことは事実だ、だがそれでもだというのだ。
「自由で気楽なところはあったわね」
「そうだったんですか」
「ソビエトは。知ってるわよね」
「共有主義ですよね」
「カテーリン書記長って凄く真面目なのよ」
 このことは間違いない、カテーリンはとにかく真面目だ。
「皆のことをいつも考えていて誰もが平等で差別のない世界にしたいのよ」
「それがソビエトですね」
「喧嘩も大嫌いなの、けれど」
「理想ですね」
「理想を物凄く追い求めていてそれをソビエト全体に政策として施行するから」
「ソビエトは結果として」
「凄く窮屈な社会なのよ」
 こう言うのだった、革命以前のことを知っている人間として。
「こうした自由は全くないわ」
「そしてそれがですね」
「共有主義なのよ」
 カテーリンが信じるイデオロギーだというのだ。
「私もずっと共有主義は素晴らしいと思ってたけれど」
「今はどうですか?」
「やっぱり余裕がなくてね」
 それでだというのだ。
「窮屈なのよね。定年になったら皆無理にでも引退させられて余生を過ごすことになるしね」
「確かラーゲリで」
「言うなら星域全体が老人ホームなの」
 それがラーゲリだというのだ。
「わかるでしょ、そうした場所って」
「暗そうですね」
「何回か慰問で行ったけれどそうよ」
 暗いというのだ。
「あまりいて気分のいい場所じゃないわ」
「お年寄りしかいないというのも」
「活気がないからね。やっぱり若い人とか子供には活気があるのよ」
 日本橋を見回しながら台湾に語る。
「ここは若い子ばかりよね」
「オタクとメイドのメッカです」
「煩悩渦巻く場所にしてもね」
「その煩悩もですか」
「なければ困るのよ、寂しいのよ」
 そうなるというのだ。
「とてもね」
「そうですか」
「そう、煩悩も活気の一つだから」
 それでだというのだ。
「そういうのがないから、星域全体が老人ホームだと」
「余生を送るだけの場所は」
「何の将来もないでしょ、夢も希望も」
 残された時間を過ごすだけ、そうした場所にそうしたものがあるかというとその筈もないことであった。リディアはこう言うのだ。
「だからね、何でも平等で差別もなくて管理されていると」
「かえってですね」
「よくないのよ。そういえば中帝国のリンファ提督だけれど」
「あの人ですか」
「あの娘最近はどうなの?」
「暫くは共有主義者でした」
 日本軍の捕虜になって暫くはそうだったというのだ。
「ですが私達と一緒にいるうちに」
「変わったのね」
「今では違うと仰っています」
「そうなのよね、共有主義じゃ限界があるのよ」
 これがリディアの至った考えである。
「日本橋にいればよくわかるわ」
「そうですね」
「ここに祖国さんとも一緒に来たいかな」
 ロシアの名前も出す。
「祖国さんあれでもいい国なのよ」
「あの、ここは日本なので」
「日本さんと仲悪かったわね、祖国さんは」
「あとアメリカさんと老師とも」
 中国のことだ、台湾は彼のことをこう呼んでいるのだ。
「だからそのことは気をつけて下さい」
「そうよね、祖国さんって誤解されやすいのよね」
「それは誤解ですか?」
 台湾は少し引いた顔になってリディアに問い返した。
「日本さんロシアさんを心底警戒されてますよ」
「戦争もしたしね」
「はい、満洲を巡って」 
 他ならぬ満洲をだというのだ。日露戦争のことである。
「あの頃は私も日本さんと一緒にいました」
「それで日本さんからよく聞いたのね」
「はい、そうでした」
 実際にそうだったというのだ。
「ですから」
「ううん、確かに怖いところはあるけれど」
 リディアも何だかんだでロシアのそうした一面は否定しない。
「けれど筋はいい人だから」
「そうですか」
「安心してね、このことは」
「そうなんですか」
「素朴で親切な人だから」
 大筋においてはそうだというのだ、ロシアという国は。
「安心してね」
「だといいのですが」
 こうした話もしていた、リディアは共有主義から離れた。そのうえで枢軸軍の提督になったのである。艦種は潜水艦だ。
 枢軸軍は新たな人材も加え再び満州に戻ろうとしていた、だがその満州に対して思わぬ方向から敵が来ようとしていた。
 騎馬民族の服装と髪型の男達が茶色の髪と青い目の精悍な緑の服とそれと同じ色の毛皮のマントを羽織っている男に言っていた。
「お頭、いえハーン」
「ああ、何だ」
 男も応える、見れば歳は二十程だ、腕を組んで男達に応えていた。
「これからのことか」
「喧嘩をはじめますか?」
「ここにいても女の子の数は少ないからな」
 彼は女のことから話した。
「だからな」
「そうしやすか」
「満洲を攻める」
 こう男達に言う。
「それからだ」
「日本に入りやすか」
「あの国はメイドとかが一杯いるからな」
 彼の顔が緩んでいた、それもだらしなく。
「是非共行きたいな」
「ガメリカにも中帝国にもですね」
「当たり前だ、この世界でも可愛い娘は全部俺のものだ」
 こう言うのである。
「だからだ」
「じゃあ今から」
「満洲を攻め取るぞ」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「はい、それじゃあ」
「さて、この世界は俺の元いた世界と随分違うな」
「確か君がいた前の世界は」
 モンゴルだった、彼がその男に言って来た。
「まだ剣や魔法を使う」
「ああ、そうした世界だった」
 彼もこうモンゴルに話す。
「こんな宇宙とか艦隊とかの世界じゃなかった」
「そうだったね」
「そこでは好き勝手やってたな」
「鬼畜王って言われたって?」
「それがその頃のランス=ハーン様の仇名だよ」
 こう言うのである。
「いい名前だろ」
「確かに君に相応しい名前だね」
「それでこの世界の祖国さんよ」
 彼、ランス=ハーンはあらためてモンゴルに言う。
「満州に行くってことでいいよな」
「いいよ、僕も暫くずっと静かにしていたけれどね」
「それを変えるか」
「うん、もう一度世界帝国を築くって訳じゃないけれど」
「それでもだよな」
「満州は元々僕の領土だったから」
 それでだというのだ。
「奪還しようかなって」
「おいおい、もっと凄くなろうぜ」
「凄く?」
「そうだよ、世界の可愛い娘独占とかな」
 これがランスの言う凄いことだった。
「そんなのどうだよ」
「悪くないかな」
 モンゴルはランスのその話に乗った。
「それじゃあね」
「よし、祖国さんも中々だな」
「オルドの国だよ」
 オンゴルは笑ってランスに返した。
「僕の歴代上司なんてね」
「皆ハーレム持ってたんだな」
「ハーレムじゃないよ、オルドだよ」
 言葉は違うというのだ。
「近いかも知れないけれどね」
「よし、じゃあ俺もオルドを作るか」
「僕もね」
「ワイルドに行くか、この世界でも」
「ところでランスさんって元の世界じゃどうだったのかな」
「俺の本来の世界でか」
「うん、どうだったのかな」
 ランスにこのことを問う。
「大体予想がつくけれど」
「我が道を行く、だったんだよ」
 こう言うのだった。
「まさにな」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
「やりたいことをやってきた」
 モンゴルに胸を張って豪語する。
「可愛い娘は皆俺のものだった」
「その為に悪の限りを尽くしてきたんだね」
「如何にも」
 このことも否定しない。
「俺は目的の為には手段を選ばない」
「ある意味において潔いね」
「そうだろう、では祖国さん行くか」
「まずは満州にね。それでだけれど」
「今度は何だ?」
「この馬だけれど」
 ピンクの鬣の白馬だ、青い綺麗な目をしている。
「かなりいい馬だね」
「シィルだな」
 ランスはその馬を見ながらモンゴルに答える。
「俺と一緒にこの世界に来た俺の奴隷だ」
「奴隷?」
「奴隷であり魔法使いだ」
 そうした存在だというのだ。
「俺にとって掛け替えのない存在だ」
「奴隷としてだね」
「祖国さん、奴隷はいいぞ」
 ランスは何処かの医者の偽者の様な邪悪な笑を見せて言う。フフフ、という言葉が傍に出てきそうである。
「やりたいことをやれるからね」
「ランスさんって変態でもあるんだね」
「実は」
 馬が言って来た、そのシィルが。
「ランス様はそうなんです」
「あっ、君喋られるんだ」
「何故この世界でも馬になったかはわからないですが」
 それでもだというのだ。
「喋れます」
「そうなんだ」
「はい、それでなのですが」
 シィルは自分から話す。
「満州戦に参戦されるのが祖国さんと私とランス様と」
「他には十個艦隊位かな」
「それでは満洲を攻略出来ないと思いますが」
 数が足りないのではないかというのだ。
「そう思いますが」
「それならそれでいい」
 ランスはそれもよしとした。
「向こうへの挨拶になるからな」
「だからですか」
「考えてみれば最初でいきなり攻略するよりもだ」
 挨拶をする方がだというのだ。
「面白いだろう」
「ううん、この世界でも楽しまれるのですね」
「ただ遊んでいるだけでもな」
 面白くないというのだ。
「派手にやらないとな」
「それなら」
 シィルも納得した、そうした話をしながら。
 モンゴルは傍にいた薄い金髪に赤い瞳のアルビノと思われる少女に顔を向けた。幼さがまだ残る顔立ちに上は鹿の柄が入った白い体操服、下は緑の半ズボンだ。
 その少女にこう言ったのである。
「コアイも来るかい?」
「うん」
 その少女コアイ=マラルも応える。
「コアイも一緒に行きたい」
「よし、じゃあもう一個艦隊追加だね」
「わかりました、それでは」
「後国名だがな」
 ランスはこのことについても言った。
「今何といった?」
「元だよ」
 モンゴルはすぐに答えた。
「蒙古ともいうけれどね」
「じゃあ元でいいな」
 ランスはそれでよしとした。
「騎馬民族の国名に相応しい名前だな」
「うん、そう思うでしょ」
「本当にな、じゃあそれでいこう」
 国名のことも話された、そのうえで。
 元軍は主だった顔触れで満州に攻め入った、枢軸軍にとっては寝耳に水の事態が突如として迫ろうとしていた。


TURN95   完


                            2013・3・13



レッドファランクスじゃなく、まさかの新勢力。
美姫 「元が動き出したわね」
本当にすんなりとは進まないようだな。
美姫 「さて、東郷はどうやってこの難局を乗り越えるかしらね」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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