『ヘタリア大帝国』
TURN87 再編成の合間
枢軸軍の今の動きは連合側にも伝わっていた、ヒムラーはベルリンにおいて現在の彼等のことを聞きまずはこう言った。
「彼等が戸惑っているのは好都合だよ」
「はい、実にですね」
「今は」
「連合側は戦力の再編成が遅れているからね」
各国の受けたダメージの大きさ故にだ。
「ソビエトもエイリスもやっと艦艇が揃ってきたところで我が国も」
「やっとです」
「艦艇が揃ってきました」
「捕虜も返してもらったし人は何とか揃って」
「それにあれですね」
「あれの建造もようやくです」
表向き、彼等は自覚しないがそうである側近達がヒムラーに述べた。
「軌道に乗ってきました」
「貴重な時間ができていますね」
「全くだよ、アステカ様様だよ」
連合から見ればまさにそうだった、ヒムラーにしてみても同じである。
「出来ればもう一年程度足止めしてもらいたいけれどね」
「流石にそれは無理かと」
「もって数ヶ月です」
一年は流石にだというのだ。
「我々が再編成を終えるぎりぎりまでです」
「それ位持ち堪えられるかと」
「そんなところか。まあそれで充分か」
ヒムラーは己の中で妥協した。
「そういうことだね」
「はい、そうですね」
「アステカとの戦いは」
「枢軸の足止めは何か手があれば打つとして」
そしてだった。
「あれの建造は進めていこう」
「我が国の主力として」
「艦隊に配備させていきますか」
「前総統閣下の置き土産だ」
表向きの側近に対してなのでこの場ではレーティアへの敬意を見せた、彼は表向きはあくまでレーティアのかつての忠臣でありその志を受け継ぐ者だから。
その後継者の仮面を被りこう言ったのである。
「是非共ね」
「使わせて頂きましょう」
「前総統の為にも」
レーティアを忘れられない表の側近達も応じる。
「そして連合の勝利の暁には」
「再びですね」
「ドクツはあまり戦わない」
そうするというのだ。
「それはわかってるね」
「エイリス、ソビエトに戦わせてですね」
「彼等を消耗させますか」
「今は確かに同盟国さ」
このことは紛れもない事実だ、だがだというのだ。
「敵であることには変わりがないからね」
「ではこの戦いが終われば」
「再びですか」
「そうはしなくても欧州での主導権は貰うさ」
これがヒムラーの望みだった。
「両国に枢軸を倒してもらってぼろぼろになってもらってね」
「そうしてですね」
「その後で我々が」
「戦うもよし、経済的主導権を握るもよし」
どちらにしてもだというのだ。
「これからはドクツの時代になるんだ」
「はい、ではその様に」
「戦いを進めていきましょう」
「我が軍は戦うけれどサポートだよ」
わざとそれに徹するというのだ。
「そういうことでね」
「わかりました、それでは」
「戦力、国力を温存していきましょう」
「そういうことでね」
ヒムラーは軽い笑みで表の側近達に返した、そしてだった。
ドクツは戦力を増強させていっていたが表には出ようとしないでいた、無論このことは他の連合国も察している。
ゾルゲは欧州における諜報活動から戻ってからカテーリン達にドクツのことを報告した、それを聞いてだった。
カテーリンは怒った顔でこう言った。
「何、それ」
「はい、ドクツは戦力を温存するつもりです」
「私達に戦わせて漁夫の利を得ようっていうのね」
「そう考えています」
ゾルゲはカテーリンの前で直立不動の姿勢で報告する。
「そして戦後に」
「私達にまた攻め込んでくるか」
「若しくは経済的主導権を握るつもりです」
「随分とずるいこと考えてるのね」
カテーリンはむっとした顔になって言う。
「そんなの許せないけれど」
「ではどうされますか」
「決まってるわ、ドクツ軍にもどんどん前線に出てもらうから」
生真面目なカテーリンらしい決定だった。
「皆が大変なのに一人だけ楽するとか許さないから」
「じゃあドクツに要請しよう」
ミーリャがここでカテーリンに言う。
「前線に出てもらおうって」
「うん、強く言うから」
「今の総統さんにもね」
「ただあの総統さんに直接合わない方がいいから」
カテーリンはヒムラーに対してもその曇った顔を向ける。
「お話していたら向こうの思う通りになるから」
「それが不思議ですね」
ロシア妹も言う。
「書記長と同じで」
「何か私と似たものがあるの」
カテーリンはヒムラーの手を無意識に思い出しつつ話した。
「あの青い石もまさか」
「そうだね、けれどあの人カテーリンちゃんとは違うよ」
ミーリャはそのカテーリンにまた話した。
「多分だけれどね」
「どう違うの?」
「カテーリンちゃんはいつも皆のことを考えてるじゃない」
確かに子供故の行き過ぎや考え違いが多くともだ、少なくともカテーリンはそうした娘であることは間違いない。
だがヒムラーはどうなのか、ミーリャが今言うのはこのことだった。
「あの人は自分のことしか考えてないよ」
「言われてみたら」
「そんな感じするよね、私はあの人とは会ってないけれど」
「うん、ちょっと見たら顔はいいけれどね」
それでもだとだ、カテーリンも言った。
「よく見たら」
「でしょ?あの人自分のことだけだよ」
「国家や人民の皆のことは」
「そう、全然考えてないよ」
「そう見えて自分だけだよね」
「そういう人よね」
二人は勘で、カテーリンは一度本人を見てこう察したのである。
「だから同じ力があるかも知れないけれどん」
「私とは全然違うのね」
「じゃあカテーリンちゃんあの人とレーティア=アドルフのどっちが嫌いなの?」
「あいつよ」
返答は眉を顰めさせたうえでだった。
「軽薄そうだし何か嫌なものを感じるから」
「だよね、まだレーティア=アドルフの方がよかったわよね」
「悪い娘だったけれど皆のことを考えてたから」
だからだったのだ。
「あいつよりはずっとましだから」
「そうよね」
「そう、あんな奴大嫌いよ」
カテーリンは感情を見せて怒る。
「どうにかならないの?」
「そのレーティア=アドルフですが」
またゾルゲが報告する。
「死亡が確認できないままです」
「死体は焼かれたか爆破されたんだよね」
ロシアがそのゾルゲに問うた。
「そうだよね」
「はい、何度も調べましたが」
それでもだというのだ。
「死体は欠片も見付かりません」
「あの宣伝相さんも」
「グレシア=ゲッペルスもです」
レーティアの第一の側近だった彼女もだというのだ。
「やはり死亡は確認できませんが」
「それじゃあ枢軸に今いる人達は誰かな」
ロシアは彼等のことを考えて言った。
「レーティア=アドルフがいるけれど」
「それに謎の国家ですね」
ドイツとプロイセン、オーストリア、それにハンガリー兄のことだが彼等のことは枢軸側も今は公にどの国だとは発表していない。
「ドクツの亡命艦隊を指揮する」
「あの人達は誰なのかな」
「わかりません、ドクツの主要国家は全てその所在を確認しています」
ゾルゲはロシアに答える。
「ドイツ、プロイセン、オーストリアはダメージが大きいらしく暫くは面会謝絶です」
「自分達のお家から一歩も出られないんだよね」
「そうです」
「それでハンガリーさんのお兄さんは」
「枢軸に亡命しています」
この辺りはそうなっている。
「イタリア兄弟と共に」
「あそこの統領さん、ユリウス提督も」
「そうです」
「イタリンはどうでもいいから」
話を聞いていたカテーリンはイタリン組については素っ気無い顔で述べた。
「悪いこともしてないしいてもいなくてもね」
「どうでもいいのですね」
「うん、戻って来ても何も言わないから」
ムッチリーニ達がそうなってもというのだ。
「軟禁されても出たのならね」
「そうですか」
「うん、本当にイタリンはね」
カテーリンもこう言うのだった。
「普通に優しくしよう。仲良くね」
「僕もイタリア君達好きだしね」
ロシアは彼等は好きだった。
「戻って来たら仲良くしたいな」
「うん、祖国君もイタリア君達と仲良くしてあげてね」
カテーリン直々のお墨付きだった。
「イタリンは暖かいみたいだし」
「お友達になりたいんだ」
「頑張ってね」
イタリンの話はこれで終わった、だがドクツについては。
ゾルゲはカテーリン達に引き続きこう報告したのだった。
「謎の国家はおそらくは」
「誰かな」
「新国家かと思われます」
「ドクツ系の?」
ロシアは彼等がドクツの艦艇に乗り将兵を指揮しているところからこう考えてゾルゲに問うた。
「その国?」
「太平洋にはドクツの植民地だった星もあります」
「ミクロネシアにあったね」
「そして中南米にもドクツからの移民がいましたし」
移民の国であるガメリカには特にだ。
「彼等が国家になったのではないでしょうか」
「そういえばシーランド君っていたね」
ロシアはふとこの国のことを思い出した。
「セボルガ君とかワイさんとか」
「そうした国家、ミクロネーションの類にしても」
「枢軸に参加してなんだ」
「そうではないでしょうか」
こう言ったのである。
「彼等は」
「そうなんだね。ミクロネーションも出て来てるからね」
「そう考えられます、そしてレーティア=アドルフですが」
「偽者だね」
ロシアはすぐにこう述べた。
「死んだからね」
「はい、間違いなく」
「偽者を出してドクツを揺さぶろうとしているんだね」
「それは失敗しています」
ゾルゲもそこまでは調べられずこう言うのだった。
「無残に」
「そうだよね」
「枢軸も姑息なことをするものです」
「そんなことは失敗するに決まってるわよ」
カテーリンもこう言う。
「というかそんなことしても無駄よ」
「実際に失敗していますし。ただ」
「ただ?」
「枢軸側が急激な発展を遂げているのは間違いないです」
ゾルゲはこのことも確かめていた。
「技術的にも国力的にも」
「私もそのことは聞いてるけれど」
「書記長はどう思われますか」
国家主席であり党、共有党の書記長でもある、カテーリンはそうした存在なのだ。
「このことについては」
「あれだけ色々いて大きかったらそれ位なるわ」
太平洋がその総合力を発揮したに過ぎない、それが連合の発展に対するカテーリンの分析だった。
「あそこは違うから」
「私もそう思います」
ゾルゲも己の考えを率直に述べる。
「第六世代の艦艇が普及し第八世代も開発、建造されようとしていますが」
「日本、ガメリカ、 中帝国にインドとかね」
「大国が多いです、元々」
「しかも 日本帝国において資源がよね」
「かなり大規模な埋蔵してあったものが発見されました」
「運がいいわね」
事情を知らないとこう考えられることだった。
「本当に」
「全くです。枢軸の国力は三倍は上がろうとしています」
「まるでレーティア=アドルフが出て来たドクツみたいに」
「そうなっています」
「ならこっちもよ」
カテーリンも負けていない、それならだった。
「エイリスと一緒にね」
「そしてドクツも戦わせて」
「やってやるから、負けないんだから」
「ではこのまま戦力を充実させていきますね」
「そうするから。そして同志ゾルゲ大佐」
カテーリンはゾルゲに直々に命じた。
「場合によっては枢軸に潜入して下さい」
「そのうえで」
「はい、秘密工作を頼みます」
実質的な命令だった。
「そのことをお願いします」
「わかりました、同志カテーリン」
ゾルゲもカテーリンを同志と呼んで返す。
「それでは」
「全てはソビエトの為に」
カテーリンは強い声で言った。ソビエトも手を打っていた。
それはエイリスも同じだった、エイリスは残されたアフリカの植民地を中心にして力を取り戻さんとしていた。
セーラはロンドンの王宮においてロレンスからの報告を聞いていた。
「ではアフリカからですね」
「戦力は出せています」
「そして正規艦隊も」
「再編成は進んでいます。ですが」
ロレンスはセーラの前で畏まりながら報告していく。
「それでもです」
「アジア、オセアニアの植民地を失ったことは」
「相当な痛手です」
このことは否定出来なかった。
「特にインドは」
「インド諸星域ですね」
「その損失が最も大きいです」
「軍事的にも経済的にもですね」
「国力が開戦前の四分の一になっています」
そこまで衰微しているというのだ。
「インド、東南アジア、オセアニアに」
「それにアラビアもだからな」
「極めて深刻です」
「わかってたけれどな」
話を聞くとだとだ、イギリスは苦りきった顔になった。
「これはもうな」
「はい、その為戦力の再編成も」
「本国とアフリカだけだからな」
「戦力も四分の一になっています」
国力の衰退がそのまま戦力の衰退にも直結していた。
「積極的な攻勢も難しいです」
「まずいなんてものじゃねえな」
「女王陛下、モンゴメリー閣下ともお話しますか」
「ああ、そうだな」
今度の戦略も練り直そうというのだ、イギリスもロレンスのその提案に頷く。
「元々そのつもりだったけれどな」
「はい、では女王陛下の下へ」
ロレンスはイギリスに言った、そのうえでだった。
主な王族と提督、国家達がセーラの前に集った、セーラは長方形のテーブルの主の座に座りそのうえで一同に言った。
「祖国さんからの報告ですが」
「ああ、読んでくれたか」
「はい、四分の一ですか」
こう言って溜息をつくのだった。
「予想していましたが」
「深刻ね」
エルザもここで言う。エルザはセーラの右手の席、エイリスで先代女王が座る席にいてそのうえで言ったのだ。
「これは」
「はい、ですが」
「攻勢には出るのね」
「そうします」
その通りだというのだ。
「そうしなければ」
「ソビエトやドクツとのこともあるから」
外交としての問題もあった。
「攻勢に出ることjは約束したから」
「どちらも全く信用できませんが」
イギリス妹がそのソビエトとドクツのことを話す。
「特にドクツは」
「ソビエトは自分達を絶対の正義だと考えています」
ここでモンゴメリーも言う。
「そうした考えの持ち主は相手を裏切ることに躊躇しません」
「相手を悪と断じたらですね」
「そうです」
モンゴメリーはカメルーンにもその通りだと答える。
「絶対の正義は独善です」
「そして独善の持ち主はですね」
「相手を裏切ることをその相手が悪とみなせば」
「躊躇しませんね」
「だから危険です」
ソビエトはそうだった、そして。
今のドクツについてはセーラが言った。
「私はヒムラー総統に会いましたが」
「あの人やばいぜ」
イギリスも見抜いていた、ヒムラーのその本質を。
「一見するといつも笑ってるがな」
「はい、腹に一物あります」
そうした人物だというのだ。
「非常に腹黒く今回も間違いなく」
「漁夫の利狙ってるわね」
エルザが指摘した。
「私達やソビエトを前面に立たせてね」
「自分達は楽してよね」
マリーもドクツの真意は察した、彼女もそれだけの政治センスを持っているのだ。
それでこう言ったのである。
「戦後の欧州の中心になろうって考えてるわね」
「そういう奴だな、あの兄さんは」
イギリスも同じ見方であるから言う。
「全然信用できねえな」
「ソビエト以上に」
「それでもなんだな」
「はい、エイリスは約束は絶対に守ります」
セーラの返答は毅然としていた。
「何があろうとも」
「だよな、それでか」
「攻勢に出ます」
セーラの決定は変わらない。
「アフリカ方面からアラビア、マダガスカルに」
「しかし既に枢軸側は迎撃態勢を整えています」
イギリス妹が指摘する。
「数も艦艇の質もかなりのものになっています」
「それにだよな」
イギリスも妹に応える。今エイリスにいる国家も少なくなっている。
「提督もな」
「インド洋方面の敵の司令官は柴神様です」
「あの神様なあ、いい神様だけれどな」
日本帝国にいる、彼等にとってはそれが問題だった。
「敵だからな」
「そうです、軍を指揮しても優秀な方です」
「手強いな、正直」
「今の我々の戦力で攻勢に出ても」
それでもだった。
「植民地の解放は」
「絶望的か」
「残念ですが」
「何か戦力ねえのか?」
イギリスは心の底からこのことを探した。
「本当にな」
「通常艦艇では」
「ないよな、やっぱり」
「今の状況で通常艦艇による戦力は極限にまで達しています」
「これ以上は無理だな」
「はい」
「手はないか?戦力の充実は」
後は人材に頼るしかないのではないかとだ、イギリスは考えだした。
だがここでだ、マリーが言って来た。
「あの、南アフリカにね」
「あそこにか?」
「面白い娘がいるからスカウトしてみる?」
「?そういえばあそこの総督の秘書の娘がだったな」
「祖国さんも見てたよね」
「ああ、現地の娘だったよな」
「あそこの総督さんも大概だけれどね」
マリーは彼については顔を顰めさせて述べる。
「けれどあの娘はいい娘だし」
「何か怪獣使えたよな」
「そう、それ」
マリーがここで言うのはこのことだった。
「通常艦艇での戦力が限界ならね」
「怪獣使うのも手か」
「ソビエトもドクツもそうしてるじゃない」
大怪獣達のことだ、これが彼等の切り札にもなっている。
「だからね」
「じゃあ声かけてみるか、あの娘に」
「うん、姉様はどう思うかな」
「そうですね」
セーラは妹の問いにまずは一呼吸置いた、そのうえでこう答えた。
「今は少しでも戦力が必要です」
「それならだね」
「その娘にお話して頂けるでしょうか」
セーラはイギリスを見て彼に声をかける。
「そのうえで」
「わかったぜ、提督に任命だな」
「そうして下さい」
「わかったぜ、じゃあな」
イギリスはマリーとモンゴメリーに顔を向けて二人に言った。
「南アフリカにな」
「うん、行こうね」
二人もイギリスの言葉に頷く、この話はこれで決まった。
セーラは攻勢の話を決めてからだった、そのうえで。
深刻な顔をそのままに会議にいる一同にこう言った。
「この戦いには絶対に勝ちます」
「それからよね」
「ソビエト、そしてドクツですが」
「あの二国は放ってはおけないわよ」
エルザがそのセーラに言う。
「とてもね」
「はい、放置するにはあまりにも危険です」
「ソビエトもファンシズムよ」
エルザはソビエトの本質を看破していた、共有主義と言ってもその本質はそれに他ならないというのである。
「今のドクツは先代のレーティア=アドルフを神格化したね」
「やはりファンシズムですね」
「ええ、どっちも君主制を否定してるし」
それにだった。
「経済システムは共有主義よ」
「はい、ドクツの経済システムは共有主義です」
イギリス妹も言う。
「その実態は」
「だからどちらも本質的にはエイリスの敵よ」
エルザはこのことを指摘する。
「むしろまだ日本帝国の方が私達に近いわね」
「王室、資産主義だからですね」
ロレンスが応える。
「日本帝国は」
「そうなのよ。敵だけれどね」
「敵であろうとも近い国はありますね」
カメルーンが静かに述べた。
「今の日本の様に」
「そうよ、敵同士だけれどね」
「日本が連合だったらな」
イギリスは首を捻ってぼやく感じで述べた。
「違ったんだがな」
「今更言ってもはじまらないわね、けれどね」
エルザはそのイギリスのぼやきを打ち消しにかかった、そうした言葉だった。
「敵ならね」
「倒すしかないよな」
「ええ、そうよ」
「枢軸に勝ってそうしてか」
「その次はソビエトとドクツね」
エイリスの戦いはまだ続くというのだ、彼等にとっていい話ではなかった。しかもそれに加えてだったのだ。
「議会も厄介ですね」
「腐敗が酷くなってきてるな、尚更」
イギリスは妹の今の言葉にも顔を曇らせる。
「戦争になってからな」
「しかもその主張が」
「植民地の即座の奪還な、目指してるんだよこっちも」
イギリスは軍の立場から言った。
「けれどそれが簡単に出来る状況じゃないから困ってるんだよ」
「議会の貴族の方々はご自身のことしか考えていません」
イギリス妹もあえて厳しく事実を指摘する。
「ですから」
「あそこまで酷いな」
「植民地での既得権益の確保のみです」
貴族達が考えているのはこのことだけだった。
「独立した植民地についても」
「けれどあれよね、インドカレーとかの権益ってもう全部現地の人達のものになったわよね」
マリーがこのことを言う。
「そうよね」
「はい、全て奪われました」
イギリス妹はエイリスの立場からマリーにこのことを話した。
「インド洋以東の植民地の権益は全て」
「それでもなのね」
「そうです、権益の奪還を主張されています」
「そもそもあの人達植民地で滅茶苦茶やってるじゃない」
まだアフリカの植民地があるので言葉は現在形だった。
「あれじゃあ叛乱も起きるし」
「独立もですね」
「そういう話にもなるから」
「植民地統治の改革もしようと思っていました」
セーラが再び言う。
「本国並とはいかなくとも」
「うん、権利の保障とかだよね」
「議会改革と共に行うつもりでしたが」
「戦争になったからね」
そちらに専念せざるを得なくなったのだ。
「今はね」
「そしてこの戦争の後も間違いなく」
「ドクツ、ソビエトがいるから」
「改革を行わなければエイリス自体が崩壊します」
セーラはこのことを憂慮していた、戦争以外にもだ。
だが手は打てない状況だった、それで今言うのだった。
「どうしたものでしょうか」
「ひょっとしたらね」
エルザはここまで話を聞いてそのうえでこう言おうとした。
エイリスの衰退、そして役割の終了を。だがそれはだった。
「いえ、私が言ったら駄目ね。先代の女王が」
「?お母様何が」
「いえ、何もないわ」
娘にもそのことは言わなかった。
「だからね」
「そうですか」
「ええ、気にしないで」
「わかりました」
セーラも妙に思うが頷いた、そうした話をしてだった。
この場は終わった、だがセーラはこの会議の後でだった。
イギリス兄妹と共に紅茶を飲みながらこう言ったのである。
「この紅茶も」
「紅茶も?」
「といいますと」
「誰もが飲めることが理想ですね」
「植民地でもか」
「そこでも誰でもですね」
「紅茶だけではありません」
エイリスでは紅茶とくればだった。
見れば三人の座るテーブルの中央に三段のティーセットがある、セーラはその豪華なセットを見てそのうえで言うのだ。
「このティーセットも」
「クッキーにエクレア、ケーキにか」
イギリスも言う。今回のティーセットはこれだった。
「それにフルーツも」
「はい、この苺も」
「今は餓えはないけれどな」
搾取の激しい植民地でもだ、銀河の時代ではそこまではない。
だがそれでもだ、ここまでのティーセットになると。
「ないからな」
「エイリス本国ならともかく」
「ベトナムとかじゃなかったな」
これが現実だった。
「適当なもの食ってたな、フェムとかは」
「そうですね」
「ここまで贅沢になるとな」
イギリスは最高級の蜂蜜をたっぷりとかけたこのうえなく甘いクッキーを食べて言う、そのクッキーの小麦粉と砂糖も最上級のものだ。
「流石にな」
「ないですね」
「それが現実なんだよな」
イギリスは難しい顔で言う。
「同じメニューのティーセットでもな」
「素材が違いますね」
「全然な」
「植民地だとまずうちの貴族が全部いいもの獲るんだよ」
まさに獲る、なのだ。
「それで残りの雑多な素材が現地民のものになるんだよ」
「そうなのですね」
「だからソビエトに叩かれてな」
ソビエトだけではなかった、このことを批判しているのは。
「ガメリカに中帝国もな」
「あの両国は同盟国でしたが」
ここでイギリス妹が言う。
「植民地政策は反対していましたので」
「連中の考える経済圏の為にな」
イギリスはティーカップを手に忌々しげに述べた。
「日本が植民地を手に入れて独立させると即座に認めてたからな」
「あれでは敵も同然でした」
イギリス妹もそうみなしていた。
「まさに」
「実際に今敵同士になったな」
「我が国の植民地政策は他国から批判されやすいものでした」
「それでだったな」
「早期の改革をしなければなりませんでしたが」
ここで戦争になった、その戦争がなのだ。
「今の戦争は我が国にとって災厄以外の何者でもありません」
「若しもです」
セーラは辛い顔で述べた。
「アフリカの植民地を失うと」
「本国だけになったらか」
「その場合はどうすればいいのでしょうか」
「それでやっていくしかないんじゃないか?」
イギリスもこう返すしかなかった。
「その場合は」
「そうですか」
「ああ、失いたくないけれどな」
それでもだというのだ。
「植民地がないならないでな」
「ですがそれですとエイリスは」
世界の盟主でなくなる、その秩序を維持出来なくなるというのだ。
セーラはエイリスの女王としてこのことは絶対に認められなかった、それで辛い顔でこうイギリス兄妹に言うのだ。
「それは」
「最初は俺達だけだったさ」
「ワープ航路が発見されるまでは」
兄妹でセーラに微笑みを向けての言葉だ。
「その頃に戻るだけって思ったらな」
「何でもないです」
「そうですか」
「ああ、女王さんは生真面目過ぎるからな」
「少しだけでも楽に考えられて下さい」
二人は微笑みでセーラに話していく。
「それに何でも一人で背負い込まないな」
「私達もいますし」
「エルザさんにマリーさんもいるぜ」
「ロレンス提督、モンゴメリー提督も」
彼等もいる、だからセーラは一人でないというのだ。
「俺達全員でやっていこうな」
「何かあればすぐにお話して下さい」
「はい」
セーラは二人の言葉に涙を堪えながら応えた。
「そうですね、いつも仰って頂いてますが」
「真面目なところはいいけれどな」
「本当に一人ではないですから」
こうセーラに言う二人だった、少なくともセーラには多くの者が周りにいた。
連合の三国はそれぞれの考えで動いていた、それはイタリンも同じだ。
だが彼等についてはというとだった。
相変わらず気楽だった、ポルコ族の面々は今日も楽しく過ごしていた。
「パスタ作るんだぶーーーー」
「僕はピザだぶーーー」
「ワイン美味しいんだぶーーーー」
「歌もいいんだぶーーー」
「楽しく過ごそうね、皆でさ」
イタリア妹も彼等と共に飲みながら楽しくやっている。
その彼女のところにロマーノ妹が来てこう言ってきた。
「ねえ、兄ちゃん達のことだけれどさ」
「連合から言ってきた?」
「適当にやっといてくれってっさ」
これが連合の三国の返答だった。
「兄妹の関係はさ」
「亡命したってことになっててもだよね」
「不問っていうかね」
それどころではなかった。
「どうでもいいって考えてるね」
「イタリンはだね」
「何かね、あたし達は何処も気にしてないね」
「いいんじゃない?それで」
イタリア妹はワインを飲みつつロマーノ妹に返す。
「それならそれで」
「国は守れるからね」
「うん、それでいいじゃない」
こう返すイタリア妹だった。
「どっちにしてもあたし達は兄貴達が戻るまでの留守番でね」
「国を守ることが仕事だからね」
「戦いにも参加しないでいいっていうし」
その理由は簡単だ、弱いからだ。
「だったらね」
「このままいていいね」
「そうそう、それでいいよ」
こう言ってワインを飲むイタリア妹だった、その彼女に。
ポルコ族の面々が生ハムを出してきて言う。
「さあ、どんどん食べるぶーーーー」
「お気楽にいくぶーーーー」
「兄貴達も元気にやってるし」
「あたし達もね」
イタリンは平和だった、連合の誰もこの国を意識してはいないがかえってそれが彼らを助けているのだった。
だが、だ。イタリア妹は生ハムを楽しみながらこうも言った。
「兄貴達がいない間はね」
「ちゃんと国を守らないとな」
ロマーノ妹も応える。
「今のドクツの総統さんは信用出来ないよ」
「ああ、間違いないね」
二人共このことを肌で感じ取っていた、信用出来ない人間だと。
それでだった、二人で密かに話す。
「じゃあ時が来ればね」
「ああ、動かないとね」
こう二人で話すのだった、二人はただ楽しんでいるだけはなく見て時も待っていた。そしてその時がやがて来ることも確信していた。
TURN87 完
2013・2・8
枢軸軍がアステカに進軍している間に、連合軍は急ぎ戦力の立て直しか。
美姫 「まあ、当然でしょうけれどね」
だよな。しかし、当初から分かっていたが、連合軍は一枚岩じゃない所か。
美姫 「完全に三国が三国独自の思惑ありきよね」
上手く纏まるのだろうか。
美姫 「思惑が絡む以上、一致団結はないでしょうね」
そこの所だが、ヒムラーには幾つか隠し手があるし、カテーリンには石があるからな。
美姫 「いざとなれば、って事もあり得るかしらね」
さてさて、どうなるやら。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。