『ヘタリア大帝国』




                    TURN85  日本の奮起

 山下を主催とする茶会はつつがなく行われていた、その中において。
 フランスは白と桃の絹の振袖を着ている山下を見てこう言った。
「いや、普段の軍服姿もいいけれどな」
「今もですね」
「着物似合う人だよな」
 こう隣に座っているシャルロットに話すのである。
「本当にな」
「そうですね、凛とした美貌ですね」
「それだよ、まさに」
「強さの、芯のある」
 シャルロットは山下の美貌について的確に話していく。
「そうしたものですね」
「それがいいんだよ、それでな」
「それでとは」
「いや、あの人な」
 フランスは言うことを少し変えてきた。
「剣道と居合の達人だよな」
「柔術と合気道もです」
「それも免許皆伝だよな」
「それに今されているお茶も」
 茶道である。見れば茶を淹れるその手の動きは実に理に適い無駄がない。 
 それと共に整っている、その手の動きも見て言うシャルロットだった。
「免許皆伝です」
「華道に舞に書道もらしいな」
「日本絵もです」
「芸術家でもあるんだな」
「日本帝国ではそちらでも有名とか」
「ううん、凄い人だな」
「そちらでも一流だとか」
 それも上に超という言葉がつきかねない、だ。
「そうした方です」
「そうした人になったのはどうしてなんだ?」
 フランスは山下の文武二道、あらゆるもので免許皆伝という凄まじさについてシャルロットに対して尋ねた。
「確か家は代々軍人だったよな」
「はい、陸軍のです」
 今度はフランス妹が答える。
「祖父の方も陸軍長官で元帥だったとのことです」
「お孫さんとでまたか」
「お父上も元帥ではなかったですが」
 それでもだというのだ。
「やはり陸軍の将官として名を馳せた方だったとのことです」
「本当に代々軍人なんだな」
「歴代に渡って」
 そうだというのだ。
「長官も他にも多く出されています」
「冗談抜きに名門だな」
「日本帝国全体でも屈指の」
 そこまでの名門だというのだ。
「その跡取り娘とのことです」
「凄いな、じゃあその躾もか」
「相当厳しいらしく」
「で、文武の習いごとも受けてなんだな」
「全て免許皆伝とのことです」
「成程な、凄い人なんだな」
 少なくとも文武両道においてはだった。
 そしてそのうえでこう言ったのである。
「陸軍長官は伊達じゃないか」
「軍人としてもですね」
「申し分ないだろ」
 第三者的立場であるフランスから見てもだった。
「正直なところ」
「生真面目で律儀で、ですね」
「質実剛健で勇敢でな」
 しかも指揮も的確だ、軍人としてこれ以上はないまでの人物であることは確かだ、だがそれでもなのだ。
「しかし陸戦部隊、陸軍はな」
「はい、どうしてもですね」
「艦隊。海軍主体だからな」
 銀河の時代だ、それではどうしてもそうなることだった。
 それで日本軍においてもなのだ。
「山下さんも立場弱いよな」
「それが焦りにもなったのですね」
「それしかないな、やっぱり」
「日本軍では陸軍不要論も出ているとか」
 シャルロットが話してきた。
「特に今は海軍が活躍していますので」
「まさに縦横無尽だからな」
 フランスは場にいる東郷を見た、見れば今も飄々としている。
 その東郷を見てそして言うのだ。
「そうもなるよな」
「はい、陸軍を海軍に組み込み」
 そのうえでだというのだ。
「軍を統一して陸軍は陸戦隊にするべきと」
「他の国みたいにか」
「そうした意見も出ているそうです」
「じゃああれだな。吸収合併だな」
 この場合はそうなることだった。
「つまりは」
「はい、そうですね」
「他の国は何処もそうしてるけれどな」
 そうした意味では日本はかなり特殊だ、海軍と陸軍に分かれている国なぞ今では日本しかないのだ。
 だからそうした意見が日本帝国の中で出るのも当然だった、だがだった。
 ここでフランスは難しい顔で妹とシャルロットに話した。
「陸軍にとっちゃ面白くない話だよな」
「山下長官のお耳にも入ってますね」
「間違いなく」
 二人もフランスに応じて述べる。
「それが焦りになっています」
「今もまた」
「他所の国の話だしあれこれ言えないがな」
 それをすれば内政干渉になる、だからフランスも直接は言えない。
 しかしそれでもだった、彼は座ったまま腕を組み二人に話した。
「この問題はすっきりさせておかないとな」
「日本にとって憂いとなりかねませんね」
「一歩間違えますと」
「早いうちに何とかするべきだな、日本帝国は」
 フランスは第三者の立場から述べていた、そうした話をしながらだった。
 茶を飲む、その茶の味はというと。
 今度は日本妹が微笑んで山下に言った。
「結構なお手前です」
「どうも」
 山下も応じる、その言葉を受けてだった。
 ここで日本妹は山下にこうも言ったのである。
「お茶には心が出ますね」
「その通りですね」
「今の長官のお心もまた」
 この言葉に場が緊張した、彼女もわかっている。
 その彼女がさらに話す。
「とても澄んでいます、ですが」
「しかしですか」
「もう少しゆとりが欲しいかと」
「あの、それ以上は」
「仰らない方が宜しいかと」
 平良と福原が妹に囁いて止めようとする。
「今は少し」
「お言葉は」
「いえ、言わせて頂きます」
 日本妹は言葉を止めない、そして。
 日本も彼女を黙って見ているだけだ。平良と福原はその彼を見てだった。
 沈黙を選んだ、日本妹はその周りを見ずに認識しながらさらに言う。
「もう少し落ち着かれ」
「そうしてですか」
「そうです、周りを御覧になられれば」
 こう山下に言うのである。
「さらによくなるかと」
「左様ですか」
「お茶を頂きそう感じました」 
 日本妹は微笑んで山下に述べていく。
「そのことを述べさせて頂きます」
「それではです」
 日本妹の話が一段落したところでここでだった。
 上座にいた帝が微笑み緊張したままの一同に話した。
「それでは次はです」
「まだあるんだな」 
 ドワイトが彼の場を見て言った。
「中々深いパーティーみたいだな」
「そうみたいだね。流石は歴史ある国だな」
 キャヌホークもドワイトに応えて述べる。
「じゃあ次は何か」
「それも見せてもらうか」
「能を行います」
 今度はこれだった。
「暫く場を換えますのでお待ち下さい」
「場が動いた?」
 イザベラは間の中央の部分の畳が下がりそこから舞台が出るのを見た、そしてその場においてであった。
 今度は能役者達が演じる、その間に主催である山下はというと。
「あれ、長官さん何処行ったの?」
「今度は日舞あるからな」
 中国妹がハニートラップに話す。
「その用意に着替えに行ったあるよ」
「そうなのね。けれどね」 
 ここでまた言うハニートラップだった。
「さっきの日本妹さんの言葉はね」
「あれあるな」
「きついわね、核心衝いてたわね」
「まさにそれだったあるな」
「山下長官って真面目で立派だけれどね」
「余裕がないある」
 人間としてのそれがない、山下の問題点はそれだった。
「アステカとの戦いではそれが出ているあるよ」
「そうなのよね。イタちゃん達みたいな余裕もあったら」
「あれは余裕じゃなくて適当あるよ」
 それになるというのだ。
「まああれだけリラックス出来ているならいいあるが」
「その半分でもね」
「全くある」
 こうした話もしたのだった、そして。
 能の後でまた山下が華やかな着物姿で出て来て今度は舞う、その舞も見事だったがそれでも余裕は感じられなかった。
 山下のあらゆることが見えた宴になった、その後で。
 陸軍の者達は難しい顔で話をしていた。
「このままでは吸収か?」
「陸軍は海軍に吸収されるか」
「そのうえで軍の統一か」
「そうなるのだろうか」
「妹殿まで長官を注意されたぞ」
 宴のことは彼等の耳にも入っている、それで話すのだった。
「決定的ではないのか」
「我々は海軍に入れられるのか」
「この戦いでは海軍の活躍が特に目立つ」
「それでそうなるのか」
「まずいぞ、これは」
「どうすればいいのだ」
 彼等は陸軍の行く末に深い憂いを感じていた、そして。
 その話を聞いた秋山が東郷と日本に話すのだった。
「あの宴の後ですが」
「陸軍さんの間で不安が渦巻いているな」
「そうなっていますね」
「はい、軍が統一されるのではと」
「それだな」
 東郷も言う。
「海軍が陸軍を吸収してな」
「そうなるのではないかと言われていいます」
「このことについては俺は何も言えない」
 東郷は自分の立場からまずはこう言った。
「海軍からはな」
「そうなりますね」
「伊東首相か五藤内相かだがな」
「そして帝か」
「私ですね」
 ここで日本が言って来た。
「そうなりますね」
「陸軍さんは今どうなっているんだ?」
 東郷は日本にこのことを尋ねた。
「祖国さんなら細かいところまでわかると思うが」
「はい、不安が日に日に高まっています」
 日本も東郷にこう答える。
「秋山さんの仰る通り」
「やはりそうですか」
「はい、海軍が陸軍を吸収合併するのかと」
「そうなっていますか」
「ただ、山下長官については」
 彼女の件はどうかというと。
「不満は少ないです」
「完全でなくともか」
「はい、それは少ないです」 
 そうだというのだ。
「他に適任者もなくまた長官も指導力は確かですので」
「それならいいがな」
 東郷はこのことはまずは安心した。
「利古里ちゃんの下でまとまっているのならな」
「しかし問題はです」
 日本はさらに話す。
「その不安がまことしやかに囁かれていまして」
「それだな」
「このことをどうするかですが」
「それなら少し考えがある」
 ここで言う東郷だった。
「とはいっても俺は海軍だ」
「だからですか」
「俺は直接言うことも出来ない」
 所属する組織が違えばだ、それはとてもなのだ。
「だからここで呟くが」
「はい」
「祖国さんだな」
 日本に直接言わず呟いているだけだ。
「祖国さんがどうするかだ」
「私がですね」
「そういうことだ、祖国さんが陸軍さんにどうするかだ」
「私が判断しそしてですか」
「帝ちゃんと話をしてもいい」
 国家元首である彼女と、そしてだった。
「伊藤首相ともな」
「御二人と」
「これでいいだろうな」
 やはり呟くだけだ、よく見れば日本の方も見てはいない。
「俺は呟いただけだ」
「有り難うございます」
「いや、そこで礼を言ったら駄目だろう」
 東郷はこの場でも律儀な日本に苦笑いを浮かべた。
「呟いているだけだからな」
「だからですか」
「ああ、俺は呟いただけでだ」
 そしてだった。
「祖国さんはたまたま聞いた」
「だからですね」
「礼を言う状況じゃない」
「わかりました、それでは」
「さて、それではだ」  
 東郷は話題を変えた、そのうえで秋山に問うた。
「さて、チリへの侵攻だが」
「そのことですね」
「補給は大丈夫か」
「はい、テキサスを拠点にしてメキシコからのルートは固めています」
「ならそちらは大丈夫か」
「ただチリまではいいのですが」
 それまでjはというのだ。
「今度は補給ラインが伸びます」
「それが問題だな」
「はい、チリ以降アルゼンチン、ブラジルと攻め込んでいきますが」
 補給線が伸びることが問題だというのだ。
「それをどうするかです」
「拠点を築くことだな」
 ここで東郷は一つの解決案を出した。
「問題はそこだが」
「チリがいいかと」
 これから攻め込むその星域、秋山が出したその候補地はそこだった。
「あの場所ならと思いますが」
「チリか」
「どうやら航路がある様です」
「航路?まさか」
「はい、ニュージーランドからチリへの航路がある様です」
 これまたこれまで発見されていなかった航路である。
「チリ星域のイースター星からニュージーランド星域にです」
「航路があるか」
「それを使えば」
 太平洋から補給物資を届けられるというのだ。
「チリはかなりいい補給拠点になるかと」
「なら修理工場も設けるか」
「それが宜しいかと」
「よし、ではチリを攻略しそこをアステカ深部侵攻への拠点とする」
 東郷はこのことを決めた。
「そしてアステカとの外交だが」
「講和しようとはしません」
 秋山はこのことは難しい顔で述べた。
「徹底抗戦の構えです」
「向こうの皇帝さんはか」
「皇帝と呼ぶべきでしょうか」
 秋山はあの白いハニワを脳裏に思い浮かべて東郷に返した。
「あれは」
「ケツアル=ハニーか」
「はい、どういった種族かもよくわかっていませんし」
「栄養の摂取の方法や寿命もだな」
「そうしたことは全くわかりません」
「考えてみれば不思議な種族だな」
 東郷も腕を組んで考える顔になった。
「一切が謎だ」
「割れる、これは他の種族では死ですが」
「そうなってもすぐに元に戻るからな」
「それもまた不思議です」
 奇妙だというのだ。
「非常に」
「そしてそのハニワ族の皇帝さんはか」
「徹底抗戦です、そしてです」 
 秋山はここで東郷にこのことも話した。
「アルゼンチンにエアザウナの巣があるとのことです」
「あそこにあったのか」
「そうでした」
「ではアルゼンチンではエアザウナとも戦うな」
「そうなります」
「大怪獣との戦いか」
 東郷は難しい顔になっていた。
「厄介だろうな」
「そしてチリには台風も来ています」
 宇宙台風である。
「やはり中南米は災厄の宝庫ですね」
「そうだな、厄介なことは予想していたがな」
 それでもだというのだ、そしてこうした話をした次の日にだった。
 彼等が今いるペルーに宇宙イナゴの大群が来た、枢軸軍は彼等を退治する為に出撃することになった。
 銀河に展開するイナゴの大軍団を見てキャロルが言った。
「噂以上ね、中南米は」
「あんま災害と怪獣が多くてしかもや」
 それに加えてだと、スペインがそのキャロルに話す。
「ハニワやからな」
「だからスペインさんも進出しなかったのね」
「その頃もうアステカあったしな」
 そして確かな勢力だったというのだ。
「そやからな」
「中南米とは貿易だけだったのね」
「こっちからはそうしたゲームや本輸出してな」
 スペインはその貿易の話もする。
「向こうは色々輸出してくれたわ」
「資源とかよね」
「そや、中南米の豊富な資源をな」
「そうしたゲームとかだけで資源が手に入るって割のいい貿易ね」
 キャロルはスペインの話を聞いて素直な感想を出した。
「それって」
「俺もそう思うわ」
「そうよね、まあそうしたゲームとか本を好きっていうのは」
 このことには眉を顰めさせるキャロルだった、その言葉も。
「あたし的にはどうもだけれど」
「キャロルは潔癖症っていうかおぼこいからね」
「おぼこいんじゃないの、嫌いなの」
 アメリカ妹にむっとした顔で返す。
「いやらしいじゃない」
「そいうところ真面目なのよね、あんたは」
「そうかしら」
「そうだよ。とにかくね」
 ここでアメリカ妹は話題を変えてきた、その話題はというと。
「イナゴ倒そう、早いところね」
「そうだな、放っておいていいことはない」
 ラスシャサも言ってきた。
「それならすぐに攻撃を仕掛けよう」
「イナゴには何だ?」
 ロンメルがその有効な攻撃方法を問う。
「欧州にはイナゴが出ないのでよくわからないが」
「まずイナゴには艦載機は効果がない」
 柴神が出て来て話す。
「そして鉄鋼弾の様に突撃してくる」
「ではビームだな」
 ロンメルは柴神の話を聞いてすぐに攻撃方法を見出した。
「それならだ」
「それがいい、ただし数が多い為索敵能力は高い」
 芝神はイナゴ達のこのことも話した。
「駆逐艦を有効に使って先に見つけることだ」
「それならだ」
 ここで東郷も言う。
「今は全艦隊に水雷型駆逐艦があるからな」
「索敵は大丈夫か」
「はい、問題ありません」
 東郷は柴神にもこのことを話す。
「それでいきます」
「よし、それではな」
 柴神はこのことを告げて彼等の戦いを見ることにしたのだった。
 その彼等の戦いはどうかというと。
 東郷は大型空母の艦隊には今はこう言うだけだった。
「攻撃してもあまり効果はないがな」
「それでもですね」
「ダメージは少しでも与えておくに限る」
 こう小澤に話す。
「だからだ」
「わかりました、それでは」
「艦載機も出す」
 効果は大したことがなくともだ。
「そして重要なのは戦艦だ」
「それだね」
 コーギーが大和のモニターに出て来た。
「僕達みたいに」
「ああ、宜しく頼むな」
「ビームの一斉射撃だね」
「それで焼き払う」
 そうするというのだ。
「残ったイナゴにはミサイルだ」
「それで倒すんだね」
「そうだ、では今から攻撃に入る」
「敵もビームを使うね」
 アストロ猿はこのことを指摘した。
「けれどそれは」
「突撃に比べて大したことはない」
 東郷もこう返す。
「だからだ」
「このまま攻めていいんだね」
「それに敵からのダメージを恐れていては何も出来ない」
 これは戦争だからである。
「チリ侵攻は送れるかも知れないがな」
「それでもここでイナゴを退治出来れば大きいよ」
 アストロ猫がこのことを指摘する。
「何しろ急に出て来て荒らし回ってくれるからね」
「そうだ、だからここで何としても退治しておく」
 東郷は猫にも答えた。
「後のことも考えてな」
「じゃあ全軍攻撃だね」
 南雲もイナゴ達を見ている。
「まあカチコチにならずに行こうね」
「了解」
 パンダが南雲の言葉に応える。
「それじゃあね」
「攻撃開始だ」
 東郷は今攻撃命令を出した、そうして。
 まずは艦載機が出されるがそれはだった。
 大したダメージを与えられない、しかしこれは想定済みだ。
 東郷は戦艦達を前に出させ全軍に告げた。
「狙いは特に定める必要はない」
「それよりもですね」
「そうだ、焼く様に撃つ」
 タイにもこう告げる。
「敵陣をな」
「艦隊戦の様にポイントを集中的に貫くのではなく」
「周辺に波状攻撃を仕掛ける」
 それが今の攻撃の仕方だというのだ。
「とにかくイナゴを焼き払ってくれ」
「わかりました」
「はい、それでは」
 タイは早速自身の艦隊の戦艦達、一隻は彼が乗るそれも前に出してそしてだった。
 東郷の言う通り広範囲へのビーム砲撃を行った、それによってだった。
 イナゴ達はその数を大きく減らす、だがそれは完全ではない。
 残ったイナゴ達は攻撃を浴びせる、そうしてダメージは与えた。
 だがそのダメージは完全ではない、だが。
 ダメージを受けた艦隊の中に古賀の艦隊もあった、艦隊の将兵達がダメージコントロールに奔走する事態となった。
「ダメージは軽微だ!落ち着け!」
「応急班は現場に向かえ!」
「エンジン異常なし!」
「指揮にも問題なし!」
 報告が確認される、そして。 
 士官達は提督である古賀にもこう報告したのだった。
「司令、艦隊の損害は軽微です!」
「運用にも攻撃にも問題はありません!」
「このまま攻撃を続行可能です!」
「如何されますか!」
「如何も何もないわね」
 違った、決定的に。
 古賀の口調は普段の優しいものではなかった、鋭くそれでいて楽しむ、まさに賭場の女の声になっていた。
 軍服も肩にかけている感じになっている、表情も不敵な笑みになっている。その彼女が士官達に告げたのである。
「やられたらやり返すよ」
「?司令一体」
「どうされたのですか・」
「言ったわね、やられたらやり返すよ」
 古賀はその不敵な笑みでまた返した。
「倍返しにね」
「いや、提督どうされたんですか?」
「何か違いますが」
「違うも何もないわよ」
 戸惑う彼等にもこう言うだけだった。
「いいわね、全軍反撃よ」
「鉄鋼弾ですか」
「それで」
「やられる前にやれよ」
 古賀は自分達に攻撃を浴びせたイナゴ達、モニターに映る不気味な雲達を見据えている。
「いいわね」
「そうですか、では」
「今より」
「攻めるわよ」
 古賀は自ら乗り出さんばかりだった、明らかに普段の彼女ではなかった。
 攻撃も果敢だった、イナゴ達にこれ以上はないまでに接近し。
 鉄鋼弾を叩き込む、その爆発によって残されたイナゴ達は消え去ってしまった。
 古賀だけでなく他の艦隊も攻撃を浴びせる、イナゴ達は一回の総攻撃で全滅した。
 軍全体の損害は軽微だった、だがだった。
 東郷も古賀の急変を見ていた、そのうえで傍らにいる秋山に問うた。
「ひとみちゃんだがな」
「古賀中将ですね」
 生真面目な秋山は訂正を忘れない。
「見ました、私も」
「二重人格だな」
 東郷はすぐにこのことを見抜いた。
「それだな」
「そうですね、間違いなく」
「少し気になるな、戦いは勝ち戦果はあったが」
 それでもだというのだ。
「後で少し調べよう」
「わかりました、それで損害ですが」
「大したことはないな」
「応急修理で済む」 
 それでだというのだ。
「ダメージを受けた艦隊をテキサスに戻すこともない」
「ではこのままですね」
「チリに向かう」
 予定通りそうするというのだ。
「そうするぞ」
「はい、わかりました」
 こうした話をしてだった、そのうえで。
 イナゴ達を退治した彼等は一旦港に戻った、そこで応急修理も受けた。 
 日本は修理の間に本国に戻った、そしてだった。
 帝と伊藤との三者会談に入った、まずは伊藤が日本の話を聞いてこう言った。
「わかりました、祖国殿がそう仰るのなら」
「それでいいですね」
「はい」
 頷いての返答だった。
「私からは異論はありません」
「では帝は」
「私もです」
 帝も微笑んで答える。
「祖国さんの思う通りにして下さい」
「日本帝国軍は海軍だけではありません」
 伊藤はこうも言った。
「陸軍、この二つが両輪です」
「このことは我が国の伝統なので」
 それでだと、帝も話す。
「私は陸軍を海軍に編入することはしません」
「それでは」
 こう話してそうしてだった。日本はすぐにペルーに戻りすぐにだった。 
 日本は山下達陸軍首脳部のところに来た、妹も一緒だ。
 その二人の軍服を見て山下はこう問うた。
「あのその軍服は」
「陸軍の軍服ですが」
 それだった、二人は今それを着ているのだ。
 そしてその軍服姿で山下に言ったのである。
「次の戦いでは共に陸戦に参加させて頂きます」
「それで宜しいのですか」
「何か不都合が」
 日本は確かな顔で山下に返す。
「国家が陸戦隊に参加してはならないという決まりはないですね」
「それはそうですが」
「ではこれからはです」
 今回だけではないというのだ。
「私と妹は陸戦にも参加します」
「その場合陸軍の軍服を着ますので」
 妹も山下達に話す。
「それで宜しくお願いします」
「指揮を頼みます」
「畏まりました」
 山下も他の陸軍の首脳達もだった。
 自身の祖国達の心遣い、そして彼等の行動の意味を理解し陸軍の敬礼で応じた、日本達も陸軍の敬礼で返す。
 こうして陸軍の存続は決まった、その地位もだ。
 東郷はそのことを見てからそのうえで秋山に話した。
「いいか悪いかは別にしてだ」
「海軍と陸軍ですね」
「日本帝国軍の両輪だ」
 東郷もこう認識していることだった。
「どちらが上だのということはない」
「そしてどちらが欠けてもですね」
「日本帝国軍は成り立たない」
 そうだというのだ。
「このことをわからないと駄目だ」
「長官は既に」
「わかっているつもりだった、だが」
「中々そうはいきませんね」
 秋山は今の現実を話した。
「そうですね」
「そうだ、しかし今回は本当によかった」
「祖国殿のご判断で」
「あの祖国さんでよかった」
 東郷は微笑んでさえいる。
「正直海軍では陸戦は出来ないからな」
「我々の専門外なので」
「俺は武芸では利古里ちゃんの足元にも及ばない」
 軍人なので武芸の心得はあるがそれでもだ。
「あれだけの武道全てに免許皆伝とはな」
「しかも文もまた、ですから」
「そして陸戦の指揮は全く出来ない」
 東郷はあくまで海軍の人間だ、陸軍のことも陸戦のことも全くの専門外なのだ。
 それでこう話したのである。
「利古里ちゃん、そして陸軍でないとな」
「とてもですね」
「ああ、何も出来ない」
「海軍としては」
「海軍も海軍でしかない」
 東郷はこうも言った。
「陸軍は陸軍だ」
「その二つがなければ成り立ちませんね」
「どちらが上ということもないからな」
「祖国殿は他にも考えておられる様ですが」
「ここは祖国さんに任せよう」
 これが東郷の判断だった。
「陸軍さんのことはな」
「はい、帝も首相も決断されましたし」
 そして日本もである。
「それならば」
「俺達が言うことじゃない」
「我々は我々の務めを果たすべきですね」
「今度はチリだ」
 その攻撃目標だ、次の。
「チリ攻略にかかろう」
「ダメージを受けた艦隊の応急修理が終わり次第出撃ですね」
「そうだ、そのうえで行こう」
「わかりました」
 秋山は東郷の言葉に頷いた、そうしてだった。
 枢軸軍はイナゴ達を退治し日本帝国軍における亀裂の問題に解決の道をつけたうえで今度はチリに向かう、アステカ帝国との戦いは正念場に入ろうとしていた。


TURN85   完


                          2013・2・5



完全な解決とまではいっていないかもしれないけれど。
美姫 「陸軍の不安は取り除けたと思うわね」
だよな。とは言え、これですんなりと両軍が仲良くなれるかは分からないが。
美姫 「ともあれ、今は目の前のチリへの侵攻ね」
さて、どうなっていくのだろうか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る