『ヘタリア大帝国』




                TURN79  天才の復活

 スペインのところにイタリアとフランスが来た、二人に同行しているのはユーリとシャルロットだった。
 シャルロットはスペインがいる彼の家の客室で共にいるフランスにこう言った。
「あの、スペインさんですが」
「あいつだよな」
「はい、ここ暫くお会いしていませんでしたが」
 それでだというのだ。
「お元気でしょうか」
「まあ元気だと思うぜ」
 フランスはこうシャルロットに返した。
「伊勢志摩は内戦ばかりしてても国は普通にやっていけてるからな」
「だからですね」
「ああ、あいつ自体は元気だろ」 
 こう言うのだった。
「だからそのことは安心していいな」
「そうですか」
「だといいね」
 イタリアも笑顔で言ってきた。
「スペイン兄ちゃんが元気ならね」
「そうだな。そういえば俺も暫くあいつに会ってなかったな」
 フランスもこのことに気付いた。
「戦争なり何なりで忙しかったからな」
「そうだよね。俺達も太平洋にいるし」
 本当に何かと事情が変わっていた。
「俺達もね」
「ああ、忙しかったからな」
「スペイン兄ちゃんもどうなったかな」
「何気にこっちにハンガリーの兄貴来たな」
「あの人ずっとデスクワークばかりでね」
 それでだというのだ。
「軍事には参加してなかったんだよね」
「予備戦力でこっちにいたよな」
「うん、オフランスにいたんだ」
「それでバルバロッサにも参加していなかったんだな」
「そうだったんだ、というか北欧も全部ハンガリー兄ちゃん一個艦隊で守ってたから」
「大変だったんだな」
「枢軸って人手不足だったからね」
 長い間そうだったのだ。
「それでね」
「今と全然違うな」
「うん、今枢軸は大所帯だけれど」
「そこでハンガリーの兄貴も来たか」
「妹さんはあっちに残ってるけれどね」
「そうなったんだな」
「そうだよ」
 こうした話もスペインの客室でしていた、その中で今度はユーリが言う。
「さて、伊勢志摩との同盟ですが」
「ああ、枢軸に引き込む話な」
「それがどうなるかですね」
「来てくれるなら来てもらいたいな」
 これがフランスの本音だった。
「仲間は多い方がいいからな」
「そうですね。ただ」
「ああ、戦線だよな」
「下手したら伊勢志摩方面にもう一つ戦線が出来るからな」
「伊勢志摩が完全に枢軸に入るとですね」
「ああ、その場合はエイリス軍が来るな」
 そしてインド洋、シベリアと並んで伊勢志摩にも戦線が出来るというのだ。
「それは勘弁して欲しいからな」
「戦線は少ないに限ります」
 ユーリは戦略の常識から述べた。
「確かに戦力は我々の方がかなり上になっていますが」
「それでもな。戦線は少ない方が考えやすいからな」
「はい、妙な戦線拡大は敗北の引き金になります」
 ユーリはここで難しい顔になってイタリアを見て言った。
「祖国殿もそのことは」
「うん、北アフリカで失敗したからね」
 イタリアにとっても苦い思い出だった、それで困った顔で言うのだった。
「ドイツ達の足を引っ張ったよ」
「というか御前等が弱過ぎたんだろ」
 フランスが呆れて言うことだった。
「ったくよ、この戦争でもまともに勝ったのかよ」
「あれっ、そういえば」
「今度は大丈夫なんだろうな」
「ドイツだけじゃなくて皆もいるからね」
「おい、皆もかよ」
「助けてもらえるから」
「全く、相変わらずだな御前は」
 フランスはイタリアの横でやれやれといった顔になっていた。
「仕方ない奴だな」
「しかしイタリアさんは」
 シャルロットも言う。
「嫌いな人はいませんね」
「ああ、王女さんもこいつ好きだろ」
「はい、実は」
 微笑んで自分の祖国に答える。
「こうした性格が」
「そうなんだよな。確かに弱くていい加減だけれどな」
「憎めないですね」
「悪い奴じゃないんだよ」
 フランスも何だかんだで親身である。
「一緒にいて嫌な気持ちにはならないんだよ」
「そうした方ですね」
「だからドイツも何かと世話を焼くんだよ」
「ドイツさんは元から世話焼きですが」
「余計にそうなるんだよ」
 そうだというのだ。
「こいつが放っておけないからな」
「それ故にですね」
「そうなんだよ。まあこいつはいてくれたらな」
 フランスはイタリアに何だかんだで温かい目を向けながら話す。
「和むしいいんだよ」
「そうですね。ですから皆さんイタリアさんがお好きですね」
「指揮とかは高いしな」
 実はそれはいいイタリアだ。
「大型空母二隻に駆逐艦二個部隊いけるからな」
「後は戦闘力が上がるだけですね」
「そこは何とかしていくしかないか」
「そういうことですね」
 そうした話をしてだった、ユーリは今度はこれから会うスペイン、他ならぬ彼のことをここでまた話すのだった。
「それでスペインさんの戦闘力は」
「そこそこだな」
 フランスは腕を組んでユーリに答える。
「それ位だな」
「普通ですか」
「ああ、それ位だな」
 そうだというのだ。
「昔からトルコとかとやり合ってきたしな」
「ソープ帝国ですね」
「あそことも何とかしたいけれどな」
 フランスはその国も見ている、そのうえで考えてもいる。
「航路はスエズ経由だからな」
「まずはスエズを陥落させてからですね」
「それからになるな」
「とにかくスペインさんもですね」
「結構侮れないからな」
 戦力として頼りになるというのだ。
「そうした意味でも来て欲しいんだよ」
「そういうことですね」
「後な」
 さらに言うフランスだった。
「フェリペさんとローザさんも結構やり手だからな」
「お二人もですね」
「こっちに来て欲しいな。そのうえで戦線を新たに置かない」
 このことも課題であることは事実だった。
「外交でやっていくか」
「そういうことですね」
「ああ、まずはスペインと話してな」
「決めますか」
「それはそうとしまして」
 シャルロットが壁の時計、見事な木製の洋風のそれの時間を見て言った。
「もう時間ですが」
「五分超えたな」
「遅いですね、スペインさんは」
「いや、こんなもんだろ」
 フランスはその時間についてもあっさりと言った。
「あいつだったらな」
「スペインさんといいますと」
「シェスタがあるだろ」
「そういえばそうした時間ですね」
 見れば今は二時だ、昼真っ盛りだ。
 その時間を見てシャルロットも納得して祖国に返す。
「では今は私達も」
「ゆっくりすればいいさ、コーヒー飲むか?」
「はい」
「後お菓子もあるからな」 
 フランスはコーヒーだけでなくクレープやケーキを出してシャルロットに勧める。
「どんどん食って時間潰してくれよ」
「有り難うございます」
「本もあるからな」
 今度はそれも出してきた。
「それにゲームもな」
「携帯のゲームですね」
「まあこうしたのをやるかな」
「私達もですね」
「ああ、寝ればいいさ」
 シェスタをすればいいというのだ。
「俺は食ってるけれどな」
「ううん、俺眠くなってきたよ」
 イタリアは早速欠伸をしだした。見るからに寒そうである。
「それじゃあね」
「祖国殿、ここは待つべきかと思いますが」 
 生真面目なユーリはこうイタリアに言う。
「シェスタよりも」
「けれどスペイン兄ちゃんもシェスタしてるからさ」
「祖国殿よりもですか」
「うん、してもいいと思うけれどどうかな」
「仕方ありませんね」 
 ユーリは眼鏡の奥に困った様な笑みを浮かべて自身の祖国に応えた。
「では私は起きていますので」
「ユーリはシェスタしないの?」
「はい、しません」
 それは決してだというのだ。
「ここで起きていますので」
「ううん、じゃあ俺だけなんだ寝るの」
「俺も起きるからな」
 フランスは寂しそうな顔になったイタリアに優しい笑顔で告げた。
「スペインが来たら起こしてやるからな」
「何か悪いね」
「いいさ。俺だってその間楽しむからな」
 フランスの前にはコーヒーと彼の自慢の菓子達がある、それを前にしてそのうえでこうイタリアに答えたのだ。
「御前は御前でシェスタを楽しめばいいさ」
「祖国さん本当にイタリアさんに優しいですね」
「これでも兄ちゃんだからな」
 だから余計にだというのだ。
「弟の面倒は見ないとな」
「これがイギリスさんだと」
「絶対に起こさねえ」
 フランスはイギリスについては憮然とした顔で答えた。
「何があってもな」
「やっぱりそうですか」
「というか寝てる間に顔に落書きしてやるよ」
「イギリスさんにはそうなんですね」
「太平洋にはあいつでもどうにもなりそうにない奴もいるがな」
「誰ですか、それは」
「韓国だよ」
 まさにその彼だというのだ。
「あいつはな」
「祖国さんでもイギリスさんでもですか」
「手に負えねえ。世界は広いな」
 フランスは韓国については遠い目も見せて語った。
「日本はよくあんなのと一緒にいられたな」
「日本さんだからでしょうか」
「あいつもあいつで特別だからな。とにかくな」
「はい、何はともあれ今はですね」
「待てばいいさ」
 シェスタなりお茶なりしてだというのだ。
「ゆっくりとな」
「わかりました、それでは」
「全く。スペインの奴もな」
 フランスはスペインについても笑顔で語る。
「面白い奴なんだよ」
「面白いですか」
「ああ、面白いよ」
 フランスから見ればそうなることだった。
「一緒にいたいな、この戦争でも」
「そうあればいいですね」
「本当にな」
 こんな話をしてスペインを待つ彼等だった、交渉は今はじまろうとしていた。
 ロンメルはグレシア、エルミーと共に喫茶店にいた、そのうえで彼だけは楽観している顔でコーヒーを飲みながら言うのだった。
「安心していいですよ、彼は」
「田中大将は?」
「安全ですか」
「あれだけ何度もデートして指一本も触れていないのです」
 ロンメルが言うのはここからだった。
「しかも案内する場所もロマンスのない場所ばかりです」
「確かに相変わらずのセンスね」
「そうですね。ですから」
「放っておいていいのね」
「彼はそうした人間ではありません」
 ロンメルはある意味田中を信頼している、それが出ている言葉だった。
「我々はこの件は見ているだけで十分です」
「そうならいいのですが」 
 こうしたことには知識が乏しいエルミーは不安な顔を見せる。
「本当に」
「まあここは俺を信じてくれ」
「元帥をですね」
「そうしてくれると嬉しい」
「わかりました、では」
「私もね。元帥がそこまで言うのなら」
 グレシアも盟友の言葉に頷いて言う。
「信じさせてもらうわ」
「ではそういうことで」
「とりあえず指一本でも触れたら」
 また言うグレシアだった。
「容赦しないけれどね」
「それは俺も同じです」
 ロンメルの言葉から余裕が一瞬で消えた。
「あの娘に指一本でも触れた輩は」
「粛清ね」
「懐にはいつも拳銃があります」 
 何に使う為のものかは言うまでもない。
「容赦しませんので」
「そういうことね。けれど元帥は最初は彼は」
「警戒はしていました」
 それは事実だというのだ。
「ですが見ていてわかりました」
「彼は安全牌ね」
「純情ですね、しかも奥手です」
「言われてみればかなりそうね」 
 恋愛経験を経てきたグレシアならわかることだ、この辺り田中や秋山とは全く違う。
「視線も微妙に逸らして顔は少し赤らんでて」
「彼もまた疎いのです」
「レーティアも疎いけれど」
「同じです。では安心して見ていましょう」
「そういうことね。じゃあ祖国さん達にはお話しておくわね」
 グレシアがそうするというのだ。
「そのうえでやっていきましょう」
「はい、それでは」
「あとどうやらです」
 エルミーがここで言う。
「ドクル本土ですが」
「ええ、ヒムラーが総統になったわね」
「まさかと思いましたが」
「死んだと思っていたわ」
 グレシアはこのことは微妙な顔で話した。
「あの状況ではね」
「カテーリングラードで玉砕した筈ですが」
「どうして生きているのかしら」
 こうまで言うグレシアだった。
「その辺りも調べたいけれど」
「今は我々は太平洋にいますので」
「ドクツ本土までは人をやれないわね」
「残念ですが」 
 エルミーはこうグレシアに話した。
「それは」
「妹さん達から聞いてみたいけれど」
「あの方々とはドクツとは国交断絶になりましたので」
「会えないからね」
「そうなっています」
「諦めるしかないわね。元帥には悪いけれど」 
 グレシアはこう前置きしてから二人に話した。
「私はどうも彼を怪しいと思っていたのよ」
「何を考えているかわからないというのですね」
「不気味な男ね」 
 これがグレシアのヒムラーへの評価だった。
「有能には違いないけれど」
「彼は変わりました」
 ロンメル自身も言う。
「以前は明朗闊達な男でした」
「ああした感じじゃなかったのね」
「はい」
 その通りだというのだ。
「今の彼は裏に何かありますね」
「そうね、だから油断出来なかったけれど」
「ドクツの総統になりましたね」
「しかも敗戦国であそこまで一方的な条件を相手に飲ませたわね」
「はい」
 エイリス、そしてソビエトにだというのだ。
「突如として親衛隊の大軍を用意してね」
「今の彼は謎に満ちています」
 ロンメルはその隻眼に怪しむものを見せて言った。
「士官学校で俺の同期だった頃とは別人です」
「そこまで違っているのね」
「そもそも彼は普段手袋をしていませんでした」 
 今は必ずしている、そこからして違っていた。
「裏表のない明朗闊達な人物でした」
「あのヒムラーが!?」
 ロンメルのこの言葉にはグレシアも驚きを隠せない。
「そうだったの」
「そうだったのです。ですから内心驚いていました」
 ロンメルはこのことも話した。
「外見や声は同じですが別人かと思いました」
「そこまでなのね」
「何かあることは間違いないです」
「問題はその何かね」
「そうです、信じたいですが」
 まだこの感情はあった。ロンメルにとってヒムラーは士官学校の同期であり友人であった、このことは変わらないことだからだ。
 だからこう言う、しかしそれでもだった。
「疑わざるを得ません」
「そういうことね。何故生きていたかも不思議だし」
「それに大怪獣です」
 サラマンダーの話も出る。
「既に英雄ベオウルフに倒された筈ですが」
「あれもまだ生きていたことが不思議だけれどね」
「しかもその大怪獣をコントロールしていますが」
「大怪獣をコントロール出来るのは怪獣姫けよ」
 四国のあの怪獣姫だけだった。
「ドクツにそうした娘がいたかしら」
「心当たりがありません」
「私もよ。祖国さん達に聞いても同じでしょうね」
 グレシアは難しい顔で語る。
「何か。ドクツは私達の知っているドクツとは全く別の国になってきたわね」
「第三帝国ではあっても」
「ええ、怪しい国になったわ」
「全くです」
 彼等は彼等の祖国のことに暗いものを察し不安を感じていた、そしてそれ以上にレーティアのことにも不安を感じていた。 
 レーティアは田中とデートを重ねているが相変わらずだった、焦点の定まらない目でぼやけた表情のままいるだけだった。
 服もジャージのままだ、しかし田中はそうしたことに気付くことはない、それでだった。
 夜に共に飲む小澤に笑顔でこんなことを言うのだった。
「もうあの娘と俺はな」
「恋人同士というんですね」
「ああ、そうだよ」
 まさにそうだというのだ。
「俺にもやっと彼女が出来たな」
「どうかね、それは」
 二人と共に飲む南雲がここで首を捻ってみせた。
「あたしの見たところ全然進展はないよ」
「この特攻野郎が思い込んでるだけかと」
 小澤は相変わらずぽつりと毒を吐く。
「こんなのだから今まで彼女いないんですよ」
「そうだろうね。悪い奴じゃないんだけれどね」
「はっきり言って馬鹿です」
 実に容赦がない。
「正直総統さんは田中さんを見ていません」
「それが違うからな」
 田中は自分でカップに日本酒を注ぎ込みながら言う。一升瓶はかなり減っている。
「あの娘はもう俺にぞっこんだよ」
「手を触れたことはありますか?」
 小澤は無表情で尋ねる。
「それは」
「手って何だよ」
「身体に触ったことは」
「馬鹿言え、そんなこと出来るかよ」
 田中はムキになって小澤に反論する。
「そういうのは結婚してからだよ」
「今時珍しい純情だね」
 南雲は田中の今の言葉にある意味感心した。
「こんな奴もいるんだね」
「はい、そうしたことは尊敬できますが」 
 何だかんだで小澤も田中は嫌いではないし敬意も払っている、だがだからこそあえてこうも言うのだった。
「正直恋愛のことがわかってないですl」
「そうだね。どう見てもね」
「手前本当に何時の時代の人間だ」
 また毒を吐く小澤だった、しかも無表情で。
「江戸時代かよ」
「随分言ってくれるな」
「戦友だからです」 
 ここでは率直に言う。
「とにかく私の見たところあの人は心ここにあらずです」
「じゃあ何処にあるんだよ」
「失われたものに」 
 それにだというのだ。
「そこにあります」
「そうだね。ドクツを負けさせたことでね」
 南雲も難しい顔で言う。三人でテーブルを囲んでソファーの上に置かれた酒につまみのスルメや漬物を
口にしながら話している。
「あの娘自信喪失してね」
「敗北に責任も感じています」
「何だかんだでまだ女の子なんだよ」 
 二十歳にもなっていない。
「それで栄光から敗北っていうのはね」
「衝撃であることは間違いありません」
「それでだよ、中々立ち直れていないんだよ」
「だから俺がよ」
 田中はまだ言う。
「デートに連れてってんだよ」
「ぼろくそ言ってますがそれは確かにいいです」
「ほら見ろ、やっぱりいいだろ」
「引き篭りになるより外を歩いた方がいいですから」 
 外の風景を見て空気を吸い歩いて身体を動かす、それが精神衛生的にかなりいいというのである。
「それはいいです」
「じゃあデートはこのまましていいんだな」
「田中さんの主観はともかく」
 何はともあれだというのだ。
「外に出ることはいいことです」
「わかった、じゃあこのままデートに行くな」
「ただ。決め手にはならないですね」
「そうだろうね」
 女二人はこう言う。
「そのことはご了承下さい」
「決め手ねえ、やっぱりドクツだろうね」
 南雲は腕を組みながら考える顔で述べた。
「あの国の人達次第だよ」
「そうです、あの人を立ち直らせられるのはあの人達です」
「それしかないね。ドクツの総統を立ち直らせるのはドクツの人達だよ」
「どうなるかです」
「じゃあ俺はただのサポートかよ」
 田中はスルメをかみながら難しい顔になっていた、
「何か気に入らねえな」
「田中さんは田中さんでやられるべきことをやっています」
「だから気にしなくていいよ」
 二人はその田中を言葉でフォローした、だがフォローだけ言うのではなかった。
「ただ。恋愛はもっと勉強した方がいいです」
「幾ら何でもわかっていなさ過ぎよ」
 二人はこう言うのだった、そのレーティアがだった。
 田中とのデートを終えて焦点の定まらない目で自分の部屋に戻ろうとした時にだった。
 その前にドイツが来た、そして彼と共に。
 ベートーベンもいた、二人はまずはドクツの敬礼をした。
「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
「君達か」
 レーティアは空虚な顔で彼等に応えた。
「何の用だ」
「少し来て欲しい場所があるが」
「宜しいでしょうか」
「先生も無事日本に亡命出来た」 
 レーティアは自身のかつての師であるベートーベンを見ながら話した。
「その祝いか」
「それは来られればわかります」
 ベートーベンはあえて多くを語らずにこう返した。
「宴の場に」
「それは一体何処だ?」
「こちらだ」
 ドイツは自分達が今いる場所の左手を指し示した。
「こちらのパーティー会場に来て欲しい」
「いや、私は」 
 虚ろな心のまま断ろうとした、だがだった。
 ドイツも引かないい、レーティアにあくまで言う。
「是非来てくれ、ここは」
「お願いします」
 ベートーベンも言う、二人共どうしてもという感じだった。
「俺達と一緒に」
「そうして下さい」
「何があるかわからないが」
 だがそれでもだった、レーティアは彼等に懸命なものを見た。 
 懸命な相手には応えるのがレーティア=アドルフだ、それでだった。
 二人に対してまだ虚ろな顔だがこう答えたのだった。
「では行こう」
「よし、それではだ」
「共に参りましょう」
 二人はレーティアの返事を聞き安堵した顔になった、そのうえでだった。
 三人でパーティー会場に入った、レーティアが部屋に入るとその瞬間にだった。 
 万雷の声が彼女を包んだ、その声はというと。
「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
 太平洋に亡命してきているドクツの将兵達が一斉に敬礼する、そのうえでレーティアに対して言うのだった。
「総統、お待ちしていました!」
「では今より宴をはじめましょう」
「総統・・・・・・しかし私は」
「バルバロッサの失敗は俺達のせいだったんだよ」
 プロイセンが前に出て来て言ってきた。
「総統さんが倒れている時に何も出来なかったんだからな」
「若し我々が総統を支えていれば」
 オーストリアも言う。
「そして総統に護られるばかりでしたから」
「俺達は負けたんだよ」
「総統が倒れられた時にこそ我々は動くべきでした」
「だからな、今度はな」
「我々は総統に護られるだけではありません」
 普段は仲の悪いプロイセンとオーストリアも今は肩を並べて話をする。
「だからな、ここはな」
「もう一度共に戦いましょう」
「だが私は」
 レーティアは俯いた、そして猫背で言うのだった。
「最早」
「いえ、我々の総統は一人だけです」
「レーティア=アドルフだけです」
 将兵達も引かない、そしてだった。
 彼等は遂にレーティアにこう言った。
「共に祖国に戻りましょう!」
「そして再びドクツを雄飛させましょう!」
「共に!」
「ドクツへ!」
「皆貴女と共にいたいのです」
 ベートーベンが後ろから言う。
「総統、ここは彼等の心を汲んで下さい」
「そしてか」
「はい、そうです」
「私を再びドクツの総統に選んでくれるか」
「ドクツの総統は一人だけです!」
 ベートーベンの声が強いものになった。
「貴女しかいません!」
「ではいいだろうか」
 ドイツも言ってきた。
「今から皆で乾杯をしたいが」
「少し待ってくれ」
 レーティアは即答しなかった、その代わりにだった。
 彼等にこう言いそのうえで一旦その場から去った、そして。
 すぐにシャワーを浴びて身体を整える、グレシアのコーディネイトは受けていないが覚えている中でしてだった。
 メイクもしてあの黒い軍服を着て戻って来た、そして高らかに言った。
「諸君、では今からはじめよう!」
「はい、ドクツに戻りましょう!」
「そのはじまりとして!」
「士気を上げる必要がある!」
 こうドクツの将兵達に言っていく。
「その為にもだ、まずは乾杯だ!」
「ビールでしょうかワインでしょうか」
「ワインもいい。だが我々ドクツ人の心に第一にあるものは何か」
 ベートーベンにも応える、
「それは何だ」
「はい、ビールです」
「そうだ、我々がこうした時に飲むのはビールしかない」
 まさにそれだった。
「では諸君、それぞれのジョッキにビールを注ぎ込むのだ」
「はい、それでは!」
「今から!」
「他の者達も呼ぶのだ!ソーセージにジャガイモはあるか!」
「無論です!」
「ザワークラフト、アイスバインもあります!」
「では皆が揃ったところでドクツの宴をはじめる!」
 レーティアは場を仕切っていた、それはまさに総統のものだった。
「デザートにはケーキも用意するのだ!」
「総統はパスタですね」
「それですね」
「久し振りに口にするとしよう」
 レーティアは今も菜食主義者だ、そのうえでの言葉だった。
「ではいいな」
「では宣伝相もお呼びします」
「ロンメル元帥にデーニッツ提督も」
「皆呼べ、いいな」
 こうしてドクツの者達が集められ派手な乾杯となった、ビールが美味そうに飲まれソーセージやアイスバインも食べられていく。
 グレシアはその中で自身もビールを飲みながらエルミーに囁いた。
「やっぱりレーティアはドクツの総統ね」
「はい、そうですね」
 エルミーは場の中心でパスタを食べて苺ジュースを飲むレーティアを見ながらグレシアに対して応える。
「そしてその総統を支えるのは」
「私達ね、そうなのよね」
「これまで我々は総統を頼りにしているだけで」
「私達があの娘に何かすることはなかったわね」
「はい」
 エルミーも過去を思い出しながら頷いた。
「私もこれまでは」
「私もよ。あの娘は確かにドクツを救って雄飛させてくれたわ」
「しかし私達はその総統を頼るだけで」
「支えることを忘れていたわ」 
 これまではそうだった、今気付いたことだった。
「だからドクツも敗れたのよ」
「そういうことですね」
「けれどこれからは違うわ」
 グレシアはレーティアを見ながら話していく。
「あの娘がドクツを護るだけでなく」
「私達もその総統をお護りする」
「それがこれからの私達よ」
「そうなりますね」
「では今はね」
 グレシアはソーセージをフォークで突き刺した、そして茹でられたそれを勢いよく食い千切ると小気味のいい音と肉汁が飛び散った。
 その二つを出して今度言うことは。
「美味しいソーセージを食べましょう」
「そうですね。けれどこんな美味しいソーセージは久し振りです」 
 グレシアもそのソーセージを食べて言う。
「長い間何か」
「食べていなかったわね」
「そうでした」
 笑顔でグレシアに返す。
「ですがこれからは違いますね」
「そうね。あの娘と共にね」
「それはそうと総統ですが」
 エルミーはレーティア、今もパスタを食べている彼女を見てふと言った。
「あの方は元々菜食主義だったのでしょうか」
「最初は違ったのよ。レバーとかソーセージを食べていたわ」
「そうだったのですか」
「ハムが好きだったわ」
「それが何故菜食主義に」
「元々食べない駄目って好きじゃなかったし」 
 それにだった。
「肉食はどうしても太るからね」
「アイドルとしてのスタイルの維持ですか」
「それを考えて私が勧めたのよ」
 菜食主義をだというのだ。
「そうしたのよ」
「そうだったのですか」
「成功かしら」
「そう思います」
 エルミーは微笑んでレーティアに答えた。
「総統のスタイルを維持するには」
「そうね、やっぱりスタイルや健康の為には菜食ね」
「はい」
「ただね。あの娘はね」
 レーティアが苺ジュースを美味そうに飲むのも見て言う。
「わかるでしょ。実はね」
「甘いものもお好きですね」
「チョコレートが特にね」
 大好きだというのだ。
「ないともう駄目っていう位ね」
「ケーキもお好きですよね」
「甘いものはお肉と同じだけ厄介なのよ」
「太りますね」
「虫歯もあるし」
 それにだった。
「糖尿病もね」
「そうした病気は避けねばならないですが」
「けれどあの娘はね」
 どうかというのだ。
「甘いものが大好きで」
「今宵のデザートのケーキも」
「しかも今夜はバイキング形式だから」
「かなり召し上がられますね」
「困るのよ、正直」
 マネージャーとしての言葉だった。
「甘いものばかり食べるのは」
「糖質を考慮すべきですね」
「これからは使う糖分を考えた甘いものを出すわ」
「それで肥満と糖尿病を防ぐのですね」
「虫歯もね」
 この三つをだというのだ。
「あの娘のことは私がするから」
「ではお願いします」
「ダンスの列すもしっかりとやって」
 ダイエットとしてだ。
「後はランニングとかもね」
「さながらスポーツ選手ですね」
「アイドルはそうよ」
 スポーツ選手の様に身体を動かすこともあるというのだ。
「身体を動かすものでもあるのよ」
「アイドルも大変ですね」
「イタリンの統領さんは違うみたいだけれどね」
 こちらはかなりお気楽である。
「好きなものを食べて好きな様にしてるけれど」
「よくあれで太りませんね」
「そうした体質みたいなのよ」
「虫歯や糖尿病には」
「ならないみたいね」
 これも体質の問題だった。
「凄く羨ましいことに」
「しかもあの胸でルックスで」
「恵まれているわよね、統領さんは」
「そう思います、本当に」
 エルミーは実際に羨ましいといった顔になっている。
「背も高いですし」
「提督は小柄でいいのよ」
「潜水艦乗りだからでしょうか」
「小柄だから萌えるのよ」
 それだというのだ。
「レーティアもそうだけれどね」
「背が高く胸が大きくなければ駄目なのでは」
「そこが違うのよ」
「小柄で胸が小さくてもいいのですか」
「そうしたのがいい人もいるのよ」
「人それぞれなのですね」
「そうなのよ」
 グレシアはにこにことしてエルミーに話す。
「だから提督もそのままのスタイルでいてね」
「宣伝相がそう仰るのなら」
 エルミーも頷く、そうした話をしてだった。
「私はこのまま」
「そう、そのままいくといいわ」
「わかりました」
 エルミーはグレシアの言葉に微笑んで答えた。
「それでは私はこのスタイルで」
「眼鏡にそのボブもね」
「それもですか」
「そう、貴女のチャームポイントだから」
 忘れるなというのだ。
「絶対にそのままいってね」
「わかりました」
「提督も得点高いからね」
 グレシアから見てもそうだというのだ。
「そのことは忘れないの」
「わかりました」
「さて、それではね」
 また言うグレシアだった。その顔はレーティアの方に戻っている。
「これからまた忙しくなるわね」
「ドクツと総統の為に働かれるからですね」
「それに艦隊も一つ任されたし」
 今では宣伝相兼ドクツ第二艦隊司令官なのだ。第一艦隊の司令官は当然レーティアが務めている。
「ドクツにいた頃より忙しいかもね」
「ですが今は」
「ええ、皆がいるから」 
 レーティアだけではないことに気付いたからこその言葉だ。
「やっていけるわ」
「そうですね。では私も」
「一緒に行きましょう、そして」
「ドクツに戻りましょう」
「あの娘と一緒にね」
 レーティア=アドルフの周りに再びドクツの者達が戻っていた、只の恒星ではなく周りの多くの星達に気付いた彼女はドクツにいた時以上の輝きを放っていた。


TURN79   完


                            2012・1・8



遂にレーティア復活か。
美姫 「やっぱり田中には無理だったわね」
まあな。民や国の為に立ち上がったからこそ、復活もやっぱり彼、彼女たちによってだな。
美姫 「レーティアの復活はドクツ民だけじゃなく、今では連合にとっても大きな意味を持つわよね」
だよな。ここに来て一気に戦力がアップする可能性もあるからな。
美姫 「対するヒムラーたちにとっては厄介でしょうけれど」
さてさて、どうなっていくのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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