『ヘタリア大帝国』




                  TURN75 ベルリン講和会議

 セーラは己の乗艦であるエイリス軍の旗艦クイーン=エリザベスにいた。そこで己の玉座の左右に立つイギリス兄妹に対して言った。
「まだ信じられません」
「この展開が、だよな」
「とてもですね」
「はい、嘘の様です」 
 驚きを隠せない顔で二人にまた言った。
「まさかこうしてベルリンに赴こうとは」
「しかも講和でな」
「あのドクツと」
「ドクツは降伏する筈でした」
 まさに最後の五分という状況だった。
「後は欧州の分割を進めてそのうえで戦力の再編成を行うつもりでした」
「それで植民地の奪還に動くつもりだったんだがな」
「それが、ですね」
「はい、一変しましたね」
 冷静なセーラも戸惑いを隠せていない。
「こうなってしまうとは」
「それにです」
 イギリス妹がセーラに対して言う。
「ドクツには戦力があります」
「二十個艦隊にサラマンダーですね」
「敵に回せません、今の我々では」
「そうです。これではドクツの要求をかなり受け入れるしかありません」
「領土の割譲は」
「難しいでしょう」
 これがセーラの見立てだった。
「それもどうも」
「やはりそうですか」
「賠償金もあまり手に入れられないでしょう」
「まあこっちも賠償金はな」 
 イギリスは賠償金については難しい顔になって言った。
「あまり言わない方がいいな」
「はい、私もそう思います」
 セーラもこのことは同じ考えだった。
「この戦争を引き起こした一因はドクツへの過剰な賠償金でしたから」
「それでだよな」
「はい、行うべきではありません」
 これは、だった。
「ソビエトも同じ考えでしょう」
「まあドクツの力を削いでおかないとな」
 それでもこのことはだった。
「こっちの要求も飲んでもらうか」
「そうしましょう。それでなのですが」
 セーラはイギリスの話に頷きながら話題を変えてきた。今度の話題はというと。
「ソビエトもカテーリン書記長がベルリンに赴くそうですね」
「うん、そうだよ」
 クイーン=エリザベスのモニターにマリーが出て来た、見ればエルザも彼女の乗艦の艦橋から出て来ている。
「向こうは首相と秘密警察長官が来ているよ」
「ミーリャ首相にミール=ゲーペですね」
「僕達と同じく三人だよ」
「そうなのね」
 エイリスは王族の三人だ、三対三となっている。
「エイリスもソビエトも国家元首達が出て」
「ドクツは新総統よ」
 エルザも言ってきた。
「そのヒムラー総統よ」
「何度検証してもわかりません」
 セーラはまた戸惑いの顔になり今度はエルザに述べた。
「ヒムラー総統はカテーリングラードで戦死した筈です」
「しかもカテーリングラードとは全く別のデンマーク方面から出て来たわね」
「矛盾、謎に満ちた出来事ばかりです」
「諜報部も訳がわからないって言ってるわよ」
 エルザは娘にこのことも話した。
「あの大怪獣のこともドクツ軍のこともね」
「何処に二十個艦隊もあったのかな」
 マリーにしても不思議なことだった。
「サラマンダーといいね」
「噂では人間の兵士ではないとか」
 セーラが言う。
「機械、アンドロイドの兵士ですか」
「ドクツの科学力だとあっても不思議ではないかと」
 イギリス妹がセーラに言う。
「あの国では」
「その通りですが何時の間に実用化をしていたのか」
 セーラが不思議に思うのはこのことだった。
「本当に奇怪なことばかりです」
「そのドクツの首都で講和か」
 イギリスはこのことについても考えて言った。
「本当に訳がわからないな」
「だよね、何かとね」
 マリーもイギリスに対して言う。
「僕も祖国さんと同じ考えだよ」
「ソビエトにドクツか、今度の同盟相手は」
 ソビエトはそのままである。
「どうだろうな」
「イタリンもいるからね」
 マリーは笑ってこの国の名前も出した。
「あの国もいるよ」
「正直あそこはどうでもいいな」
 イギリスは今もイタリンについてはこう考えている。
「あの国はな」
「統領、総帥だったかしら」
 エリザもこの辺りの知識は曖昧になっている。
「あそこの国家元首さんだけれど」
「あっ、何か脱出したわね」 
 マリーが言う。
「あの別荘から」
「イタリアさんとロマーノさんもです」
 イギリス妹の発言にも緊迫したものがない。
「それにユーリ=ユリウス提督も」
「どうするんだよ、それで」
 イギリスはセーラに問うた。
「イタリアにあの統領達は」
「日本に亡命したと思いますが」
 セーラはスイス経由でそうしたと思っている。
「ですが特に」
「何もしないんだな」
「イタリンは別にいいです」
 セーラにしてもこの国は重要視していなかった。
「どちらにしても戦争が終わればベニス統領も解放しましたし」
「あの人はいいんだな」
「悪人でありませんし野心も希薄です」
 お気楽なだけだというのだ、そしてまさにその通りだった。
「そうした方ですので」
「どうでもいいっていうんだな」
「はい」
 まさにそうだというのだ。
「あの人は」
「イタリア達もか」
「ドクツとは違います」
 レーティア=アドルフ、そしてドクツ第三帝国とはというのだ。
「戦力としても大したことはないですから」
「そうだな。あの国は別にいいな」
「ただ。今回のベルリンでの会議にはイタリンも出席していますね」
「前の総帥、統領だったか」
 イギリスが答える。
「来てるぜ」
「ぴえとろ前統領ですね」
「ああ、あの人がな」
「連合国に入るのなら特に」
 構わないというのだ。
「いてもいいでしょう」
「何かイタリンには皆そんな感じだね」
 マリーは笑ってこう言った。
「僕もあの国についてはそう思うしね」
「害がなく好戦的でもありませんし」
 イギリス妹がマリーに答える、尚ムッチリーニが行った北アフリカ侵攻にしてもレーティアがやるならというあまり考えていないものだった。
「見ていて和みますので」
「そうなのよね、仕方ないなって思えるのよね」
「あいつ等のああいうところ嫌いじゃないからな、俺も」
 イギリス自身もそうだった。
「じゃあいいか」
「はい、イタリンはこのままです」
 セーラも言う。
「領土の割譲も賠償金も求めません」
「逆にちょっと痛めつけ過ぎたわね
 エリザは北アフリカやイタリン本土での戦いのことを言った。
「手加減してあげるべきだったかしら」
「いえ、彼等は私達の姿を見ただけで我先に泣いて逃げていましたので」
 イギリス妹はモンゴメリーと共に戦った時のことを思い浮かべながらそのエリザに答える。
「手加減も何も」
「モンゴメリーさんも苦笑いしてたな」
 イギリスは彼と会ってそのことを聞いていた。
「いじめるつもりはないのに泣いて謝ってきたから可哀想になったってな」
「捕虜の数が凄かったです」
 イギリス妹はこのことも思い出していた。
「見張りをしなくても逃げませんでしたし」
「その代わり食いものがまずいってこれまた泣いてたしな」
「困ったのはそういうことだけでした」
「本当にどうも厳しく出来ない奴等だな」
「ですから彼等には何もしませんので」
 セーラはこのことを強調した。
「問題はドクツとソビエトです」
「さて、どうなるかだよな」
 イギリスは腕を組み難しい顔を見せた。
「この会議」
「会議は踊る。されど進まず」
 イギリス妹はかつてオーストリアで行われたナポレオン後の国際会議でのこともここで思い出した。
「それは避けましょう」
「ああ、枢軸のこともあるからな」
 イギリスも妹の言葉に頷く、エイリスの代表はベルリンに向かっていた。
 ソビエトもだ。カテーリンは彼女の専用艦である試験艦プロイェークトに乗っていた。その中でロシア兄妹にミーリャ、ゲーペ達にこう言っていた。
「レーティア=アドルフにお仕置きできないのは残念よ」
「自殺しちゃったからね」
 ミーリャがぷりぷりと怒るカテーリンに応える。
「だから仕方ないよ」
「それはそうだけれど」
「やっぱり嫌?」
「悪い子はお仕置きしないと駄目なの」
 こう厳しい声で言う。
「絶対にね」
「カテーリンちゃんってそういうところ厳しいよね」
「厳しくしないと駄目なの」
 表情はむっとしたものだった。
「さもないと皆だらしくなくなるから」
「だからレーティア総統もだったのね」
「シベリアで強制労働にしないといけなかったのよ」
 ソビエトで最も厳しい刑罰である。
「寒いお空の下で木を切ってもらうつもりだったのに」
「その代わりに軽い感じの人が総統になっちゃったね」
「ノイツィヒ=ヒムラーです」
 ゲーペが機械的な声で答えてきた。
「彼がです」
「そう、そのヒムラーさんだけれど」
「不思議な点が多い人物です」
 ゲーペはこうミーリャ、そしてカテーリンに語る。
「経歴は士官学校中退まではわかっていますが」
「それからは?」
「養鶏場を経営していましたが始終何処かに出ていました」
「そこで何をしていたのかわからないんだ」
「はい」
 その通りだとミーリャにも答える。
「一切」
「それで親衛隊長として出て来たのよね」
「その親衛隊も急に結成されています」
「結構大きな組織だったのにね」
「カテーリングラードで戦死した筈が北欧方面から戻ってきてもいますし」
 ソビエトにとってもこのことは不思議なことだった。
「あの大艦隊に大怪獣といい」
「おかしなことだらけの人だね」
「怪しい人物であることは確かです」
 ゲーペはこのことは断言した。
「決して信用はできません」
「ううん、じゃあお友達にはなれないね」
 ロシアはカテーリンの右隣で首を捻ってこう言った。
「ちょっとね」
「そうですね。そうした怪しい方ですと」 
 ロシア妹も兄に続いて言う。
「そうした間柄になることはやはり」
「止めた方がいいよね」
「私もそう思います」
 ロシア妹はかなり警戒する感じだった。
「手を結ぶにしましても」
「絶対に信用しないから」
 カテーリンもこのことは最初から決めていた。
「怪しい人とは親しくしたら駄目だからね」
「怪しい人は通報だからね」
 ミーリャはソビエトの法律を出した。
「そういうことだからね」
「そう、今は同じ連合国だけれど」
 それでもだというのだ。
「太平洋諸国を懲らしめたら次はどっちかだから」
「エイリスとドイツだよね」
「そう、どちらかを懲らしめるから」
 カテーリンはこうロシアに話した。やはり怒った顔である。
「あのヒムラーって新しい総統もね」
「やっつけるんだね」
「後でね。けれど今は違うから」
 カテーリンは今は国益を優先させていた。そのうえでの言葉だった。
「同じ連合国よ」
「思えば連合国の顔触れも変わりましたね」
 ロシア妹はふとこのことを口に出した。
「私達やエイリスはそのままですが」
「フランス君は本土が回復しても向こうにいるし」
 ロシアは彼のことから話した。
「ガメリカと中帝国は枢軸にいったからね」
「その代わりにドクツとイタリンが入るのよね」
 ミーリャはそのドクツともう一国の名前を出した。
「そうなるのよね」
「その通りです。それが新たな連合国です」
 ゲーペはここでまた機械的な声で答えた。
「四国を軸として構成されます」
「他には欧州の国も全部入るって聞いたけれど」
「亡命しているアイスランドと中立国以外は」
 欧州にはスイスやリヒテンシュタイン、スペインといった中立国も存在している。
「参加することになります」
「顔触れは賑やかになったかな」
「そうかと」
「だったらいいかな」
 ミーリャはゲーペの話を聞いて少し無邪気な感じで感想を述べた。
「今度の連合国で」
「僕正直アメリカ君と中国君嫌いなんだよね」
 ロシアが言う。
「だからいいんじゃないかな」
「祖国さん前からそうだよね」
「イギリス君もだけれどね」
 ロシアは彼も嫌っている。
「だから今度の連合国の方がいいかなって思うんだ」
「祖国さんって人の好き嫌い激しいの?」
 ミーリャは顔を少し俯けさせてぽつりとした感じで言う自身の祖国に尋ねた。
「前から思ってたけれど」
「別にそんなつもりはないけれど」
「何か大きい国好きじゃないよね」
 ガメリカも中帝国もだ。
「それに怖そうな国も」
「怖いのは駄目だから」
 自分が一番怖いということは考えていない。
「だからね」
「日本帝国も嫌いなのは」
「日露戦争で負けたし怒ると怖いし」
 彼から見ると日本もそうした相手になるのだ。
「だからね」
「それでなんだね」
「そう、お友達になるのは怖いんだ」
 これがロシアの太平洋の三国への考えだった。
「ちょっとね」
「あの三国は私も嫌いだから」
 カテーリンもそうだった。
「資産主義だから」
「はい、彼等はいずれもかなり資産主義を信仰しています」
「そうだよね。日本君と中国君は皇帝までいるから」
「どの国も嫌いよ」
 心からそう思っているカテーリンだった。
「やっつけてやるんだから」
「その為にもですか」
「そう、今はドクツやエイリスと手を結ぶの」 
 カテーリンはロシア妹にもそうすると答える。
「一時的にね」
「書記長、それでなのですが」
 ゲーペが問うてきた。
「新連合国のうちのイタリンですが」
「あの国?」
「あの国につきましてはどうされますか」
「別にいいんじゃない?」
 カテーリンはこれまでの怒っている顔から急に穏やかな、そしてきょとんとした感じになってこうゲーペに返した。
「イタリンは」
「共有主義にしてもですか」
「うん、あの統領さんもね」
 ムッチリーニについても言う。
「ちょっと共有主義の講義を受けてもらって」
「それで終わりですか」
「イタリア君達も同じよ」
 彼等についてもこう言う。
「特にね」
「どうでもいいですか」
「悪い子達じゃないから」
 カテーリンから見ても彼等はそうだった。
「イタリンはそれだけでいいわ」
「そこが太平洋諸国と違いますね」
「あんな資産主義ばかりの子達とは違うわ」
「イタリンはいい国ですね」
「じゃあ長官はどう思うの?」
 ゲーペに対して質問する顔で問う。
「イタリンについては」
「それでいいかと」
 ゲーペもイタリンについてはこう言うだけだった。
「赤本を配布してです」
「そうでしょ。むしろイタリア君、フランス君もだけれど」
 この国も入るのだった。
「仲良くしたいわよね」
「そうですね。特にイタリンと関係を深めれば」
「暖かいところに旅行に行けるのよ、人民の皆が」
 カテーリンの声には切望が宿っていた。
「寒い場所からね」
「ソビエトの気候は」
 それはどうかというと。
「あまりにもですから」
「そう、ソビエトには確かに何でもあるわ」
 この辺り伊達に人類社会第一の領域の国ではない、ソビエトの地力は凄まじいものがある。
「豊かな資源に木にお水に農作物に」
「黒土地帯がありますので」
 寒冷な国だが豊かな穀倉地帯も持っているのだ。
「それに何よりも人民の皆がいるわ」
「ソビエト人民は立派です」
 ゲーペも言い切った、このことは。
「ガメリカ共和国や中帝国の資産主義者達の様に強欲でも利己的でもありません」
「そうよ、皆素朴で無欲で親切だから」
 ソビエト人民、ひいてはロシア人の長所である。ウォッカとお仕事とパンとお家があれば満足出来るのが彼等なのだ。
 そしてその彼等こそがだというのだ。
「ソビエト最大の財産よ」
「しかしソビエトにないものもあります」
「そう、バナナにパイナップルに」
 そしてだった。
「暖かい場所よ」
「イタリンと友好関係を築ければ暖かい場所にも人民が旅行に行けます」
 尚ソビエトの旅行は許可制だ。実質的にカテーリンから見ていいことをした人民へのご褒美となるものだ。
「ギリシアもそうですが」
「あっ、ギリシアはどうなるの?」
 ミーリャはこの国のことを尋ねた。
「ドクツの占領から独立するのよね」
「そうなります」
「じゃああの国にも皆が旅行出来る様になるのね」
「平和になれば」
 この戦争が終わればだというのだ。
「それも出来る様になります」
「そうなって欲しいね」
「その太平洋にも四国があります、いえ太平洋全体が」
「いい気候の場所ばかりだよね」
「アラスカや・・・・・・ええと」
 ここでゲーペは彼女にしては珍しいことに言葉を迷わせた。
 そしてこうミーリャに言うのだった。
「ガメリカの北にある」
「あの国?」
「何とかといいましたが」
「うん、何とかいったよね」
 ミーリャもこの国の名前を覚えていない。
「あの国よね」
「すいません、忘れてしまいましたが」
「あの国も寒いのよね」
「はい、アラスカとあの国は」
 寒いがだが太平洋全域がだというのだ。
「その殆どが温暖な星域です」
「あの国は私も知らないけれど」
 カテーリンですらカナダのことは忘れている、しかも完全に。
「とにかく太平洋諸国は暖かくていい場所ばかりなのよ」
「僕暖かい場所にいたいんだけれどね」
 ロシアのささやかな望みである。
「それは戦争に勝てれば」
「はい、何時でも行くことが出来ます」
 そうなるというのだ。
「祖国殿もまた」
「そうなってくれたら嬉しいね。じゃあゲーペさんもね」
「はい、共に参りましょう」
「そうしようね。その時は」
「ソビエト人民の皆には暖かい場所が必要なの」
 カテーリンはこのことに強いこだわりを見せる、彼女もまたソビエトの者だからだ。
「その為にはね」
「はい、イタリンとは友好関係を築きましょう」 
 ロシア妹も期待している顔を見せる。
「暖かい場所の為にも」
「それじゃあ行くわよ」
 カテーリンはあらためて一同に言った。
「ベルリンにね」
「うん、そこで色々と決めよう」
 ロシアがカテーリンに応える、そうしてだった。
 ソビエトの首脳部もベルリンに向かっていた、ベルリンではエイリスとソビエト、そしてイタリンの首脳達を出迎える準備が整えられていた。
 港から彼等は次々とベルリン入りする、ヒムラーはその報告を官邸の総統の部屋で聞き満足している顔でこう言った。
「よし、じゃあ今からね」
「はい、今からですね」
「そう、彼等と会談をしよう」 
 こうレーティアの頃からいる官僚に答える。
「そして我々の地位を維持しよう」
「あの、お言葉ですが」
 この官僚はここでヒムラーにこう言ってきた。
「エイリスとソビエトですが」
「うん、彼等のこの国への要求だね」
「それはかなりのものになるのでは」
「大丈夫だよ。こちらには戦力があるからね」
「艦隊と大怪獣ですか」
「いざとなれば彼等を一掃も出来るさ」
 ヒムラーは不敵な笑みを浮かべて官僚に話した。
「一気にね」
「だからですか」
「そう、彼等の要求はある程度は受け入れるにしても」
 それでもだというのだ。
「この国の領土は小石一つも渡さないさ」
「賠償金は」
「支払わないよ」
 それもないというのだ。
「むしろこれからは連合国の一員としてやっていくから」
「そう上手にいけるでしょうか」
「間違いなくね」 
 そうなるというのだ。こう言いながらだった。
 ヒムラーは白い手袋に包んでいる己の左手の甲を摩っていた、そのうえでの言葉だった。
「例え向こうが何を言ってもね」
「ではここは」
「俺に任せてくれるかい?」
 レーティアとは違い軽い笑みでの言葉だった。
「ここは」
「わかりました、それでは」
 官僚も頷いた、そしてだった。
 ヒムラーは会談の場に向かった、彼が最初に入り続いてセーラ達、そしてカテーリン達が入った。それから大柄なイタリンの軍服を着た豚頭の男も来た。
 ヒムラーはその彼を見て側近達に囁いた。
「彼がだね」
「はい、イタリンの今の総統です」
「ぴえとろ総統です」
「前総統にして今総統に返り咲かれました」
「そうだったね。まあね」 
 ヒムラーはぴえとろについはこう言う。
「彼はどうでもいいね」
「どうでも、ですか」
「構いませんか」
「うん、どうでもいいよ」
 素っ気無い口調だった。
「彼はね」
「イタリン自体がですね」
「どうでもいいですね」
「うん、イタリンは愛嬌はあるけれどね」
 ヒムラーは何と彼がはじめて他人に見せる笑みを浮かべていた、暖かい笑みをだ。
「戦力としてはねえ」
「頼りになりませんね」
「しかも全く」
「だからどうでもいいよ」
 ヒムラーもこう見ているのだった。
「あの国はね。それよりもね」
「やはりエイリスとソビエトですね」
「その両国ですね」
「わざわざ両国の国家元首をこのベルリンに呼んだんだ」
 それでだというのだ。
「この講和会議にね」
「両国共それなりのことを要求してくると思いますが」
「領土の割譲や賠償金はなしにしても」
「それでもです、やはり彼等も国益があります」
「要求は強いと思いますが」
「まあそうだろうね」
 ヒムラーは側近達、表向きのそれである彼等の話を聞きながらもやはり態度は変えずそのうえで言うのだった。
「けれどこっちも譲れないものは譲らないからね」
「果たして上手にいくでしょうか」
「今の我々で」
「確かに戦力があり大怪獣もあります」
「ですが」
 ヒムラーが連れて来た二十個艦隊とサラマンダーがエイリスとソビエトに領土の割譲や賠償金を思いとどまらせている、ドクツにとっては切り札だった。
 だがそれでも彼等がドクツを無条件降伏の一分前まで追い詰めたのは事実だ、それならばその要求もだというのだ。
「技術の引渡しや戦争での前線担当等」
「そうした要求をしてくるのでは」
「言ってくるだろうね」
 ヒムラーもこのことは読んでいた。
「やっぱりね」
「ですからそれは」
「どうすべきかですが」
「だから安心していいよ」
 ヒムラーは不安な顔の側近達に述べた。
「そのことはね」
「総統がそうされますか」
「彼等の要求を突っぱねられますか」
「うん、そうだよ」 
 あくまでこう言うヒムラーだった。
「安心していいよ。それはね」
「私達もですか」
「そうだっていうんだね」
「無論だよ」
 ヒムラーは同席しているドイツ妹とプロイセン妹に対してにこやかに笑って述べる、尚ぴえとろにはイタリア妹とロマーノ妹が同席している。
「君達についても悪い様にはならないからね」
「最前線に立つことは覚悟しています」
「あと色々な勤労奉仕もね」
「それもないね」
 そうした危険な役目も請け負わされることもないというのだ。
「俺がつっぱねるからね」
「そんなに上手にいくかね」
 プロイセン妹は怪訝な顔になりヒムラーに返した。
「エイリスもソビエトもそれなりの要求をしてくるよ」
「この国を降伏寸前に追い詰めたからね」
「この国?」
 プロイセン妹はヒムラーのこの表現に微かに違和感を感じた、だがそれは微かでありしかも一瞬のことだったのでこの時はそれで終わった。
 そしてあらためてこう言うのだった。
「とにかくそれだけ追い詰めたからね」
「要求はっていうんだね」
「してくるよ。この人達も言ってるけれどね」
 プロイセン妹はその表向き、ヒムラー以外はそのことに気付いていない総統の側近達を見てまた言った。
「領土や賠償金の話はなくてもね」
「技術だの前線勤務だのだね」
「それ位は普通に言ってくるよ」
「まあまあ。深刻に考えることはないよ」
 ヒムラーの態度は変わらない。
「何度も言うけれど俺に任せてくれよ」
「だといいけれどね」
「総統にお任せします」
 プロイセン妹もドイツ妹もとりあえずこれで納得した。そしてだった。
 二人は自分達の席に着いた、ドクツがホストの席であり彼等から見て右手がエイリス、左手がイタリンだった。向かい側はソビエトだ。
 そのドクツの中央の席にドイツ妹とプロイセン妹を左右に置いて座っているのがヒムラーだ。彼は軽い物腰でそこにいて言う。
「まあ気楽にいこうか」
「気楽に、ですか」
「これからの欧州のことを決めよう、新生連合国のことをね」
 ドイツ妹に腰を捻って上半身を向けて言う。その目はまだ誰も気付いていないがレーティアとは違い妖しい光を放っていた。ベルリンでの会議が今はじまろうとしていた。


TURN75   完


                            2012・12・14



今回はヒムラーたち新しい同盟国となる国側の話だったな。
美姫 「みたいね。互いに色々と含む所はあるみたいね」
だな。そもそも、この同盟も太平洋諸国を打倒するまでだろうしな。
美姫 「ヒムラーに至っては暗躍しまくりだしね」
だよな。一体、どんな内容の会議になるのやら。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る