『ヘタリア大帝国』
TURN74 合流する者達
ベルリンを脱出した東郷達はローマに来た、ローマに入るとすぐにプロイセンは潜望鏡から周囲を見回してこう言った。
「何か妙だぜ」
「どうしたんだ、一体」
「エイリス軍がドクツ本土から撤退してきてるんだよ」
潜望鏡で見えるものを見続けながらドイツに怪訝な顔で答える。
「それで国境に集まってるな」
「?ドクツ本土を占領しないのか」
「みたいだな。何があったんだろうな」
「おかしい、ドクツを倒せば後は占領に入る筈だ」
ドイツもこの話には怪訝な顔になって言う。
「どういうことだ」
「何だろうな、それでそのエイリス軍だけれどな」
「こちらに来ているか?」
「いや、一隻も来ねえ」
このことは安心していいというのだ。
「全艦ドクツの方を見てるぜ」
「余計にわからないな」
「まあとにかくこっちには気付いてないからな」
プロイセンはこのことは大丈夫だと言う。
「今のうちに行くか?」
「そうだな、それがいいな」
ドイツもプロイセンに対して言う。
「今のうちにローマに密かに入る」
「統領さんの場所はわかるよな」
「ええ、任せて」
グレシアが出て来て二人に答える。
「統領さんの別邸の場所はルートまで頭の中に入れてるわ」
「じゃあ後はローマからこっそり行けばいいな」
「そういうことよ。じゃあ行くか」
「ええ、それじゃあね」
グレシアはプロイセンに微笑んで応えた、そのグレシアに韓国が尋ねる。
「それで総統さんはどうなんだぜ?」
「レーテイアね」
「ああ、今はどうしてるんだぜ」
「相変わらずよ」
グレシアはこの話には表情を曇らせて言う。
「俯いて猫背でね」
「喋らないんだぜ?」
「寝起きみたいな顔と目でベッドに座ってるだけよ」
「そうなんだぜ・・・・・・」
「服もジャージのままで」
レーティアの普段着と寝起きはこれである、
「眼鏡に三つ編みでね」
「地味なんだぜ」
「私が会った時のレーティアよ」
あの冴えない風貌の彼女になっているというのだ。
「レーティアはレーティアだけれどね」
「虚脱状態になっておられるのですね」
「ええ、そうよ」
グレシアもその通りだと今度は日本に話す。
「そうなってるわ」
「左様ですか」
「まずいわね、これは」
グレシアにしても困ったことだった、このことは。
「レーティアが立ち上がってくれないとね」
「脱出した意味がねえからな」
プロイセンも言う。
「エルミーさん達が折角そうしてくれたのにな
「やっぱり負けたからね」
敗北、その衝撃により虚脱状態になっていることはグレシアにしてもすぐに察したことである。彼女もそれを見たからだ。
「このことはね」
「何とかしたいが」
ドイツも心配している顔である。
「今は難しいか」
「時間かきっかけね」
「そのどちらかがあの人を復活させてくれるか」
「そうだと思うけれど」
グレシアは解決案が浮かばないという顔だった。
「どうかしらね」
「そうなのか」
「まあとにかく今は統領さんにイタちゃんを救い出しましょう」
グレシアはこちらに話を移した、今はレーティアのことを話してもどうにもならないと考えてそうしたのである。
「そのことはあれよね」
「司令とエルミーさんが作戦を練られています」
日本がグレシアに答える。
「そしてその計画に拠ってムッチリーニ統領とイタリア君達を救出しましょう」
「そういうことだね。それじゃあね」
「はい、それでは」
日本もその手に刀を出す、突入準備も出来ていた。
一行はローマに密かに降り立つまで敵に全く見付からなかった、そしてそれはムッチリーニの別邸に入るまでもだった。
のどかでさえある草の緑と岩の白、それに青い空が上にある別邸まで一行は誰に見つかることなく辿り着けた、質素だが見事な外観の別邸を前にしてドイツが呆れながら言う。
「ここまで一瞬だったな」
「また簡単に辿り着けましたね」
エルミーも驚きを隠せない顔だった。
「エイリス軍の将兵が一人もいませんが」
「つまりあれね」
グレシアもいる、留守番はレーティアの世話役も兼ねてファルケーゼの副長が務めている。
「エイリス軍はイタリンはどうでもいいって考えてるのよ」
「幾ら何でも油断し過ぎでは?」
日本も驚きを隠せない顔になっている、ここまで簡単に来られたことに。
「仮にも戦っていた相手だというのに」
「見張りが寝る国だからね」
グレシアは笑ってこう日本に返した。
「これもね」
「充分あることですか」
「ポルコ族は平和な種族だしね」
そもそも戦いに向いていない。
「ちょっと怒ったら泣いて謝る人達だから」
「エイリス軍も警戒はせずにですか」
「統領さんもなのよ。統領でなければ影響を及ぼさないから」
ムッチリーニ自身無邪気で害の人物である。善人と言っていい。
「ここに軟禁するかいなくなればね」
「それでいいのですか」
「エイリスはそう考えてるわね」
「いなくなればというのは」
「つまりイタリンから何処かに亡命してくれてもいいのよ」
エイリスはイタリン、そしてムッチリーニについてここまで軽く考えているのだ。
「戦ってもちょっと攻撃すれば逃げる相手だしね」
「やれやれだな」
ドイツはグレシアの今の話に目を閉じて深厚な顔を見せる。
「全く、どういう国だ」
「それがいいんじゃねえか。イタちゃん達のいいところだよ」
相棒とは正反対にプロイセンは笑っている、やはりプロイセンはイタリンが好きだ。
「御前はどうしてそうあの子達のよさを素直に認めないんだよ」
「確かに嫌いではないが」
ドイツにとってイタリアは実際に掛け替えのない親友でもある。
「だがそれでもだ」
「そのよさがっていうんだな」
「そうだ、困った奴等だ」
「とにかくだ、中に入ろう」
東郷は一応正門の前から周囲と別邸の中を見回しながら一行に言った。
「長居すると流石にまずいからな」
「じゃあ入るんだぜ」
韓国も言う。彼は前に出て。
そして正門のところのチャイムを押した、すると欧州の娘の服を着たムッチリーニが出て来て挨拶をしてきた。
「はい、どなたですか」
「・・・・・・あの」
エルミーはあっさりと出て来た彼女を見て目を点にさせて言った。
「貴女は確か軟禁されているのですよね」
「ええ、そうだけれど貴女は?」
「ドクツ第三帝国中将エルミー=デーニッツです」
ドクツの敬礼でムッチリーニに答える。ここでは軍人らしく真面目な顔になる。
「ムッチリーニ=ベニス統領、お救いに参りました」
「お救いって。私を?」
「はい、そうです」
おっとりとした感じのムッチリーニにきびきびと返す。
「来て頂けますか」
「ちょっと待ってね、ユーリちゃんと祖国ちゃん達も呼ぶから」
「いえ、ここでのお話はエイリス軍に見られる恐れがありますので」
そもそも正門のところで立ち話を、軟禁されている相手と話すこと自体が有り得ない、だからこう言うエルミーだった。
「別邸の中に入りましょう」
「そうなの。それじゃあね」
「はい、それでは」
こうして一行は一旦別邸の中に入り軍服ではなく私服のユーリやイタリア達とテーブルに座って話をはじめた。その席でエルミーはまた言った。
「しかし。ここまで誰にも見付からず来られるとは」
「ああ、そのことだね」
イタリアが明るく唖然としているエルミーに話す。
「だってこの星に今はエイリス軍がいないからね」
「いないのですか」
「うん、一人もいないよ」
左手の人差し指を顔の横に立たせてエルミーに笑顔で話す。
「ドクツの方に行ったからね」
「占領した国の首都に兵を一人も置かないのは」
「我々が反乱なぞ起こさないことを確信しているのだ」
ユーリがこう話す。
「それでだ」
「そうだったのですか」
「確かにそうだ、実際に私達もここに軟禁されているだけだ」
「皆幸せに過ごしてるよ」
イタリアがまた言う、能天気な顔で。
「いや、ここはいいところだよね」
「我々は敗れた、もう国民が立つことはない」
ユリウスは諦めた感じで一行に言った。
「抗戦を主張する者はスイスに入りそこから君達日本帝国に亡命している様だがな」
「それでもですか」
「イタリンという国自体はもう何もしない」
そうだというのだ。
「全くな」
「そうですか、では実はですが」
「ムッチリーニ統領達に我が国への亡命を勧めたい」
東郷が話を切り出した。
「そうしたいのだがどうだろうか」
「日本に、ですか」
「ムッチリーニ統領さえよければ」
こう前置きしての言葉だ。
「如何でしょうか」
「けれど私はもう統領じゃないから」
辞任しそして今ここで軟禁されている立場だ。
「それでもいいのかしら」
「貴女さえよければ」
東郷は言う。
「日本帝国は喜んでお迎えします」
「イタリンにいれば」
「ここでずっと軟禁だよ」
「死ぬまでね」
イタリア妹とロマーノ妹がムッチリーニに言う。
「それでいいっていうんなら別だけれど」
「どうするんだい、そこは」
「ううん、何処かに旅行も行きたいし」
ムッチリーニは右手の人差し指を己の唇に当てて言う。
「それだとね」
「じゃあ亡命するかい?日本さんのところに」
「そうするんだね」
「うん、それならね」
ムッチリーニはわりかし軽く述べた。
「そうさせてもらおうかしら」
「私は戦います」
ユリウスは強い声で東郷に対して言った。
「イタリン軍として最後まで」
「君はそうするんだな」
「はい、そうします」
こう言うのだった。
「そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「ああ、喜んで」
東郷も笑顔で応える。
「では君も亡命するんだな」
「そうさせて頂きます」
「よし、じゃあこっちは兄貴達出すか」
「そうしようね」
妹達が笑顔で話して決めた。
「イタリア兄貴とロマーノ兄貴な」
「じゃあ行って来てね」
「ああ、俺達なんだ」
「何で勝手に決めたんだよ」
兄達もあまり緊張のない感じで妹達に返す。
「ムッチリーニさんのお供ってことだよね」
「それでユリウスさんの」
「あたし達の軟禁はこの戦争が終わるまでだけれどね」
ここがムッチリーニ達と違う、イタリア達はドクツ、そして日本を倒せば解放されることが決まっているのだ。
だがそれでもだと妹達は言うのだ。
「統領さん達だけ日本に行かせるのもあれだからね」
「兄貴達が行きなよ」
「ドイツ達もいるしそうしようかな」
「ったく、ムキムキで暑苦しいぜ」
「よし、じゃあ決まりだな」
プロイセンはイタリア達も合流することが決まり上機嫌で言った。
「イタちゃん、一緒に日本に行こうな」
「宜しくね、プロイセン」
「じゃあ今から旅行の支度するから待っててね」
ムッチリーニは気楽に東郷達に言う。
「服にパスタにワインに」
「あの、潜水艦で移動しますので」
エルミーは色々持ち込もうとするムッチリーニに引きながら言う。
「そこまでは」
「えっ、持って行けないの?」
「そういうものは出来れば中立国スイスの日本大使館に届けて下さい」
「そこから日本に行くのね」
「はい、そうなりますので」
「わかったわ。じゃあ荷物は日本に送って」
「統領は潜水艦で移動して下さい」
「うん、そうするね」
ムッチリーニもあっさりとして頷く。こうしてだった。
ムッチリーニ達も潜水艦に乗り込み合流した、潜水艦の中はさらに賑やかになった。
やはりエイリス軍はいない、それでエルミーも拍子抜けした感じで言う。
「敵がいないことはいいことですね」
「そうだな、後は災害だな」
「間も無く北アフリカに入ります」
エルミーは東郷に話す。
「砂嵐ですね、問題は」
「あれだな」
「エンジンに入る恐れもありますし」
それでだというのだ。
「何かと厄介です」
「エンジンはもちそうな」
「ファルケーゼには防塵、防寒設備もあります」
この二つも備わっているのだ。
「ですから」
「安心していいか」
「少なくとも北アフリカを脱出するまでは大丈夫です」
こう答えるエルミーだった。
「ご安心下さい」
「では北アフリカに入れば」
「はい、ロンメル元帥の救出ですね」
「その場所は確か」
「私が知ってるわ」
エルミーが言おうとしたところでグレシアが言ってきた。
「第三帝国の情報部が居場所を掴んでくれてたのよ」
「では北アフリカに着けば」
「今度はロンメル元帥と合流しましょう」
「はい」
エルミーはグレシアの言葉に微笑んで答えた。
「そうしましょう」
「さて、ロンメル元帥が加わると大きいわね」
「はい、非常に」
日本がグレシアの今の言葉に応えて言う。
「あの方の加入は大きいです」
「そうでしょ、だからね」
それでだと言うグレシアだった。
「ロンメル元帥も加えましょう」
「それでは」
「ロンメル元帥は機動戦の天才だから」
「我々もその機動戦を学べます」
「そうなるとさらに強いわね」
「ですから是非共です」
日本はその声をうわずらせてグレシアに話す。
「あの方も救出しましょう」
「ただ、問題はね」
「北アフリカですか」
「流石に今回はイタリンの時みたいにいかないわよ」
このことは断るグレシアだった。
「あそこはね」
「そうなのですか」
「ロンメル元帥は捕虜収容所にいるのよ」
「エイリス軍の管轄する、ですね」
「そう。流石に捕虜収容所には将兵がいるから」
イタリンの様にはいかない、むしろイタリンの方がおかしいのだ。
だからここで言うのだ。
「気をつけてね」
「わかりました、では」
日本もグレシアの言葉に頷く。そのうえで東郷、そしてドイツと共に潜入する、だがここでイタリアがこう言った。
「俺も行きたいけれど」
「止めておけ」
すぐにドイツが言う。
「御前はここにいろ」
「何で?俺ロンメルさんにはお世話になってるから」
「御前は目立つ」
止める理由はこれだった。
「常に動いて歌っていないと駄目だからな」
「潜入するなっていうんだね」
「そうだ、御前は大人しくしてくれ」
「何か残念だけれど」
「こうしたことは少数の方がいい」
こう判断してのことだった。
「相棒も残るからな」
「俺は相棒とくじ引きをして負けたんだよ」
どっちかにすることでだというのだ。
「それで残るんだよ」
「そういうことだ。三人で行って来る」
「じゃあ帰った時のお祝いの用意だね」
連れて行ってもらえないならそれはそれですることがある。
「パスタ用意しておくね」
「そうしておいてくれ。後はだ」
「後は?」
「ロンメル元帥の好きなワインを用意しておいてくれ」
イタリアにこうも言うのだった。
「それをだ」
「ワインだね」
「艦内に一本あったと思うが」
「ああ、モーゼルな」
プロイセンもドイツに笑顔で言う。
「あれだよな」
「それを用意しておいてくれ」
「わかった、じゃあな」
「ロンメル元帥がいてくれると本当に大きい」
ドイツもこのことを言うのだった。
「あの人がいてくれればバルバロッサも成功していたかもな」
「どっちみち失敗してたよ」
こう言ったのはロマーノである。
「というかロンメル元帥は優し過ぎるからな、俺達にも」
「いい人だったよね、本当に」
「頼りになる人なのは確かだな」
ロマーノはイタリアに応えて言う。
「あの人もな」
「あの人いてくれたら本当に嬉しいよ」
「そうそう、ロンメルさんって格好いいし」
ムッチリーニは彼の顔のことを言う。
「飄々としている感じがね」
「あの統領、それは違うのでは」
ユーリはムッチリーニのその気楽なところを注意する、軟禁されていても変わらなかったし今もそうであった。
「確かにお顔立ちはいいですが」
「ユーリちゃんもわかってるじゃない」
「ですが統領は少し」
「駄目?何かが」
「何かがではなくもう少し統領としての自覚を」
「自覚しているつもりだけれど」
「少し緊張感を持たれて」
ムッチリーニになくユーリにあるものだ、それで言うのだった。
「さもなければ日本にいても同じですよ」
「同じって?」
「負け続けます」
そうなるというのだ。
「それで笑いものになりますので」
「私笑われてたの?」
「イタリンも祖国殿もです」
イタリアもだった。
「有り得ないまでの弱さだと」
「皆頑張ってるのに酷いわ、そんなこと言うなんて」
「勝てば言われないです」
「勝つってエイリスとかソビエトによね」
「その通りです」
「そんなの絶対負けるわよ」
戦う前からこう言う始末だった。
「エイリス軍強過ぎるから」
「確かにモンゴメリー提督は名将でありエイリス軍は精鋭ですが」
「だから勝てないわよ」
「ドクツも日本も互角以上に戦ってきています」
「どうしてそんなことできるのよ」
「勝てるだけのものが備わっているからです」
日本は太平洋、インド洋からエイリス軍を追い出してさえいる、それがそのままエイリスにかなりのダメージを与えている。
「だからです」
「ううん、皆凄いのね」
「彼等が凄いのではなく我々が弱過ぎるのです」
これが現実だった。
「太平洋に行っても笑いものにならないようにしましょう」
「ううん、わかったわ」
「では留守番の間軍事の本を読んで下さい」
「祖国ちゃん達と一緒にお料理したら駄目?」
暢気な顔で暢気な声での問いだった。
「そうしたら」
「そして歌ってですね」
「そうしたら駄目なの?」
「ではお料理の後で、ですよ」
ユーリは呆れながらもムッチリーニに譲歩した。
「宜しいですね」
「わかったわ、それじゃあね」
「とにかくロンメル元帥に来て頂くと」
ユーリもこのことには期待していた。
「太平洋はさらに強大になりますね」
「今でどれ位なの?」
「エイリスを軽く凌駕しています」
イタリンを散々に破ったそのエイリスをだというのだ。
「まさに日の出の勢いです」
「そんなに凄いのね」
「日本、ガメリカ、中帝国に加えて」
それにだった。
「インドや東南アジア、オセアニアも加わりましたので」
「星域でいうと四十位?」
「達していますね、ですから」
「ううん、欧州全部を合わせたより強いかな」
「おそらくは」
「そうよね、強いよね」
「人材も揃っています、かなりの勢力です」
ユーリは冷静に分析していた、それが今の太平洋であり新生枢軸なのだ。
「そこに私達も入るのです」
「邪魔にならない様にしないとね」
「その通りです。では宜しいですね」
「うん、私も頑張るから」
両手を拳にするがそれでも表情はおっとりとしている。
「ちゃんとね」
「統領は努力はしておられます」
このこともわかっているユーリだった。
「それに資質もおありです」
「やれば出来る娘なのね、私って」
「ですが少しご気質が」
その暢気で楽天的な性格が強くそれが国家元首として問題なのだ、ムッチリーニには緊張感がないのだ。
「そこはまあ」
「なおさないといけないの?」
「そう言われますと」
ユーリもそこまでは言わない、むしろ言えなかった。
それでここでこの話を止めてこう言った。
「及ばないところはお任せ下さい」
「ユーリちゃんイタリンの首相兼軍務相だからね」
「統領をお助けしますので」
「そうしてね、頼りにしてるわよ」
「それはいいのですが」
ユーリは困った顔になった。何故なら。
ムッチリーニに抱き締められたからだ、その豊満な胸の圧迫を受けてまた言うのだった。
「あの、あまりくっつかないで頂けたら」
「嫌なの?スキンシップ」
「嫌ではないですがその」
その困った顔での言葉だ。
「統領はもう少し大人らしく振舞って頂ければ」
「あらあら、これがムッチリーニさんのいいところじゃない」
ドクツ所属らしくイタリンにはすこぶる甘いグレシアは当然のこととしてムッチリーニの側に立って笑顔で言う。
「癒しも大事よ」
「癒しですか」
「そうじゃない。だからいいと思うけれど」
「ううむ、しかし」
「しかし?」
「太平洋に行かれてもこれでは」
どうかというのだ。
「心配です」
「まあまあ。そういうことは気にしないでいいわよ」
「統領は統領らしくですか」
「レーティアはレーティアでね。それでいいのよ」
グレシアはムッチリーニのよさもわかっていた、そのうえで東郷達を送り出した。捕虜収容所は流石に警備がかなり厳重だった。
そこに潜入してから言う日本だった。
「これはかなりですね」
「警護が厳重だな」
「はい、ですが」
共に闇に潜みながら進む東郷に言う。
「これだけエイリス兵がいるとなると」
「ロンメル元帥は間違いなくここにいるな」
「はい」
こう東郷に答える。
「それは間違いありません」
「さて、元帥のところにどう行くか」
東郷はその頭脳を動かしだした。
「それが問題だな」
「そうですね。では」
それではというのだ。
「どうして敵に見付からず元帥のところに行くかですね」
「それならだ」
ドイツが二人に言う。
「爆発を起こさせるか」
「陽動だな」
「そこにエイリス兵が気を取られている隙に中に入る」
捕虜収容所の建物の中にだ。今彼等はようやく収容所の中に入ったところである。
「そうすればどうか」
「そうだな、それがいいな」
東郷もドイツのその提案に頷く。
「殺傷力はどうでもいいな」
「爆発の煙と光、音か」
「それが大きいものであればいいが」
「これがある」
ドイツは早速懐からあるものを出して来た、中型の手榴弾だ。
「これを爆発させていこう」
「所々投げて敵の目を引きつけて」
「後は日本の隠密能力を使って収容所の中に入る」
そしてロンメルを救出する、これがドイツの作戦だった。
「これでどうだろうか」
「私もそれでいいと思います」
日本もそれでいいとドイツに答える。
「では行きましょう」
「よし、早速だ」
ドイツは手榴弾をあちこちに投げだした、手榴弾達は地面や壁に当たると派手な爆発を起こした、それを見てだった。
エイリス軍の将兵達は驚きこう口々に言った。
「て、敵か!?」
「敵の攻撃か!」
「捕虜の暴動、いや違う!」
「ドクツ軍の残党の攻撃だ!」
「現地のゲリラの襲撃かも知れないぞ!」
衝撃が狼狽を生み混乱に至っていた、そしてだった。
彼等は慌て爆発が起こった方に殺到し外に警戒の念を向けた。東郷はその彼等を見て日本とドイツに言った。
「マップはもうある、そして元帥の場所もだ」
「察しをつけておられますね」
「そうなんだな」
「ああ、収容所の地下の一番奥だ」
そこにロンメルがいるというのだ。
「そこにいる」
「ではそこに行きましょう」
「すぐにな」
「エイリス軍が慌て狼狽している今のうちにだ」
まさにこの時にだというのだ。
「潜入して救出しよう」
「では」
こうして三人はすぐに収容所の中に入った、マップはもう東郷達の頭の中にあった。
それで地下五階の一番奥の部屋まで来た、だがここでだった。
東郷の後ろに銃が突きつけられた、銃を突きつけた誰かが言ってきた。
「外の気配が違うな。これだけ地下にいると音も聞こえないがな」
「出ていたのか」
「常に気配は探っていたよ」
声は余裕を感じさせる調子で東郷に答える。
「何時でも脱走出来る様にね」
「成程、そうなんだな」
「さて、祖国さんもいる」
声はドイツが一行の中にいるのを確認した。
「ここに来た理由はわかるがな」
「そうか。ではロンメル元帥」
東郷は背中に銃を突きつけられながらも余裕を見せている。
「貴官にお願いしたいことがあるのだが」
「それは何かな」
「まずは背中の銃を収めてくれ」
「わかった」
声の主ロンメルはすぐに応えた、そしてだった。
銃は収められた、彼は自分に向かい合ってきた東郷に笑顔で言った。
「貴官は日本海軍の東郷毅元帥だな」
「その通りだ」
「ここに来た理由はわかるが」
「どうしてここに来られたかだな」
「それがわからない。俺を助けに来てくれたにしても」
ドイツも見て言う。
「祖国さんがいるのも不思議だが」
「詳しい話は後にしたい」
そのドイツがロンメルに告げた。
「元帥、今はだ」
「脱出ですか」
「エイリス軍は爆発を起こさせ引きつけた、今のうちに収容所を出よう」
「わかりました、それでは」
「ここにいるドクツ軍人は貴官だけか」
「実はそうなのです」
ロンメルは軽く笑って自身の祖国に述べた。
「私はどうも彼等に警戒されていましてね」
「道理で人の気配がない筈だ」
「他の将兵は別の収容所にいますよ」
「そこまで行きたいが」
「無理ですね」
「ここには長くいられないし収容出来る人間も限られている」
既にレーティア達にムッチリーニ達を収容している、それではだった。
「貴官一人ならまだどうにかなる」
「では残念ですが」
「すぐにここから脱出しよう」
「詳しいお話はそれからですね」
「そういうことだ。それではな」
こうしてロンメルも救出された、一行はすぐに収容所の建物を出た。
そしてすぐに収容所の高い壁を越えて収容所を後にした、収容所のエイリス軍はまだ敵が来たと思い騒いでいた。
ロンメルがファルケーゼに入るとすぐに脱出した、そしてだった。
北アフリカも後にした、残るはスエズを越えるだけだった。
救出されたロンメルは艦内で話を聞いてこう言った。
「わかった。とりあえずあの娘が救出されたのはいいことだ」
「元帥もそう思うのね」
「その通りですい、祖国さんや統領さん達もいるなら」
「鬼に金棒っていうのね」
「ええ、そう思いますよ」
こうグレシアに気さくな笑みで言う。
「ただ。虚脱状態ですか」
「やっぱり敗北がショックらしくてね」
「挫折ですね。ですが」
「その挫折を、っていうのね」
「乗り越えないと駄目ですね」
そうしなければというのだ。
「人間は生きていれば挫折がありますから」
「レーティアでもね」
「超人でも人間ですからね」
レーティア程の天才でもだというのだ。
「ですからここは」
「立ち直ることね」
「きっかけがあればあの娘も立ち上がってくれますよ」
「そのきっかけが欲しいけれど」
「今は、ですね」
「ええ、ちょっとね」
グレシアは難しい顔でロンメルに述べる。
「あの娘は何も出来ないわ」
「少なくとも艦内ではそっとしておきましょう」
ロンメルはレーティアを気遣って述べた。
「そうしてです」
「スエズを越えてね」
「それで新たな場所に着きますか」
「何時かドクツに戻りましょう」
グレシアからこの考えは消えていなかった。
「国民の皆がまたレーティアを受け入れてくれるかわからないけれど」
「いえ、あの娘は受け入れてもらえますよ」
ロンメルはこのことは大丈夫と言うのだった。
「絶対に」
「レーティアだからなのね」
「あの娘程ドクツを愛している方はおられませんから」
だからだというのだ。
「愛されている相手は愛してくれている相手を受け入れます」
「だからなのね」
「何よりもあの娘はドクツにとって必要な方です」
今こうして亡命しているがそれでもだというのだ。
「受け入れられない筈がありませんよ」
「そういうことですね。それじゃあ」
「今は太平洋に行きましょう」
亡命先にだというのだ。
「そこでまた働きましょう」
「太平洋では私も艦隊の指揮を執るわ」
「宣伝相もですか」
「ええ、提督にもなるからね」
そうなるというのだ。
「任せてね」
「そちらも期待していますよ」
「そういうことでね」
ロンメルも枢軸に戻った、レーティア救出作戦は枢軸にとって計り知れない利益をもたらしたもになった。だが東郷はスエズを越えインド洋に入りそこから日本の能力で瞬く間に日本本土に戻るとそこで、であった。
怒りのオーラを全身に纏わせた秋山の出迎えを受けた、秋山は表情こそ変えていないがその怒りで以て彼に言うのだった。
「宜しいでしょうか」
「ああ、元気そうだな」
「元気そうではありません!」
秋山は声を荒くさせて東郷に返した。
「一体何を考えておられるのですか!」
「同盟国の国家元首の救出だが」
「あまりにも無謀過ぎます、成功したからいいものの」
「ムッチリーニ統領にロンメル元帥も救出できた」
「想像を遥かに上回ることですがそれでもです」
「危険だったんだな」
「その通りです、貴方という人は本当に」
秋山が本格的に小言に入る時にだった。
日本が間に入ってこう秋山に言った。
「まあそれ位にして下さい」
「祖国殿、しかしですね」
「今回は私も一緒でしたし」
祖国である彼がだというのだ。
「私も同じです」
「だからですか」
「怒られるのは私も同じです」
「ではいいです」
日本が無謀なことをしたのは事実だが秋山は彼を怒れなかった、何故かというと日本の慎重な性格を知っているからだ。この辺り秋山はどうにも微妙なところがあった。
それで渋い顔になり言った。
「今度はこんなことをされないで下さい」
「あれは一回だけの博打だ」
東郷自身もそれはわかっていた。
「もうしないさ」
「本当にお願いしますよ」
秋山は結果として東郷を怒らなかった、だがここで日本に対してこう尋ねた。
「それで長官に同行された理由は」
「はい、私は隠密行動が使えますね」
「それにですね」
秋山は今度は韓国を見て言う。
「韓国さんの爆走を使えば」
「しかも姿を見せない潜水艦に乗って、ですから」
「レーティア=アドルフ総統を確実に救出出来る様にですか」
「確かにデーニッツ提督と長官だけでも成功率は高かったです」
エルミーに加えて東郷も加われば例え成功の可能性がなくともそれがかなり変わるというのだ。
「ですがそれに加えて」
「そういうことですね」
「はい、私と韓国さんが同行しました」
「それで成功したんだぜ」
韓国もこう秋山に言う。
「やっぱりやるからには絶対に成功しないと駄目なんだぜ」
「そういうことでしたか」
「そうなんだぜ」
「確かに今回のことは枢軸陣営にとってかなりの利があります」
秋山は真剣な面持ちでこのことは正しく評価した。
「人類史上最高の天才レーティア=アドルフ総統に宣伝のプロフェッショナルグレシア=ゲッペルス女史」
「それに機動戦の達人エル=ロンメル元帥もだな」
「ドイツさんにプロイセンさんも加わりましたし」
秋山はここでこの国のことも言った。
「ムッチリーニ=ベニス統領にユーリ=ユリウス提督もですから」
「イタリアさんにロマーノさんも加わったからな」
「有り難いことです、非常に」
「戦力はかなりあがったな」
「はい、さらに」
秋山はこのことはいいとした。だが。
今度は深刻な顔になりこう東郷に話した。
「しかし連合でも大変なことが起こっていました」
「エイリスとソビエトか」
「そうです、そこにドクツも加わりました」
「降伏させたあの国をか」
「いえ、それが降伏していないのです」
「?どういうことだ?」
このことには東郷も少しだが怪訝な顔になり問い返した。
「あの状況で降伏しない筈がないが」
「ソビエト軍はドクツ軍の新型爆弾の不意の爆発により壊滅状態に陥りまして」
「新型爆弾か」
「百個艦隊のかなりの割合を破滅させたもので」
「それはまた凄いな」
「その爆発でベルリンを占領しようとしていたソビエト軍が壊滅した時に」
その時にだというのだ。
「ノイツィヒ=ヒムラー親衛隊長が二十個艦隊を率いて現れました」
「おかしな話が続くな」
東郷ですら想像もしていない話だった、それでさらに怪訝な顔になり言った。
「あの隊長にしても戦死したな」
「カテーリングラード攻防戦においてですね」
「親衛隊は全滅しあの御仁も死んだ筈だが」
「死体は見付かっていません」
宇宙の戦いでは常だ、乗艦が爆発四散しその中で消え去ってしまうのだ。
「それでなのです」
「生きていたんだな」
「脱出出来た様です」
「そうか」
「はい、そうです」
それでだと言う秋山だった。
「そして二十個艦隊、それに大怪獣サラマンダーを率いてベルリンに現れました」
「おかしな話が続くな」
「私も最初聞いて我が耳を疑いました」
「御前ですらか」
「まず今のドクツに二十個艦隊も戦力があるとは」
「それもないな」
「有り得ません、しかもです」
「大怪獣サラマンダーか」
東郷もこの大怪獣のことは知っていた、だがだった。
彼の知っているサラマンダーはこうなっていたのだ。
「北欧の伝説の英雄ベオウルフに倒された筈だ」
「それが生きていた様で」
「ドクツが操ることに成功したのか」
「その様です」
「大怪獣を操ることができるのか」
ここで東郷は神権に考えたがたまたま通りがかった四国総督がこう彼に話した。
「出来るよ。だから四国のガワタスカル=ビゥにね」
「怪獣姫だな」
「うん、トルカね」
「そういえば東部戦線でも噂になっているな」
東郷はこの話も出した。
「ソビエトも大怪獣を操っているとな」
「ニガヨモギだね。とにかく大怪獣もね」
「操ろうと思えば操れるか」
「特別な力が必要だけれどね」
「ではドクツ、いやヒムラー隊長もか」
「何か怪獣を操れる娘を使っているね」
「それでか」
東郷も事情を察した、それなら納得がいった。
「大怪獣はそれで操っているな」
「それはね」
「しかし。二十個艦隊も何処にあった」
「それが謎です」
秋山もこう言うばかりだった、このことは。
「ドクツにそれだけの戦力はない筈ですから」
「そうだな。しかしドクツは降伏を免れたか」
「それどころか本土を一切割譲していません」
敗れた立場だがそれでもだというのだ。
「占領地は独立しましたがベルリン、プロイセン、ドイツ、そしてオーストリアの星域は一切割譲されていません」
「あれだけ負けたのに随分いい条件で講和出来たな」
「賠償金も支払わずに」
そしてだった。
「エイリス、ソビエト、そしてイタリンと四国で新たな連合国を形成しました」
「ドクツにはタレーランとフーシェがいたのかな」
総督もこのことには驚きを隠せない。
「ナポレオンに責任の全てを押しつけてオフランスを救ったあの二人みたいなのが」
「それがヒムラー新総統となりますが」
秋山はまた彼の名前を出した。
「ですがそれでも」
「あの、ヒムラー総統ですか」
日本はこのことに驚きを見せる。
「それもまた」
「信じられませんね」
「確かにレーティア=アドルフ総統はもうドクツにはおられません」
他ならぬ日本に来た、それではとてもだった。
「しかしそれでもですか」
「はい、後継者に任じられていたとのことで」
「そうなのですか」
「とにかく状況が一変しました」
秋山はこう東郷達に言った。
「欧州の四国で新連合陣営が結成され我々太平洋が枢軸になり」
「顔触れが本当に一変したんだぜ」
韓国も唖然となっている。
「もう訳がわからないんだぜ」
「しかもエイリスは植民地であった各国の独立を否定しました」
これまでとは違いだというのだ。
「同じ連合国だったガメリカ共和国と中帝国が殖民地の独立を承認していましたが」
「両国が枢軸になったからな」
「はい、それでは彼等に追従することもないということで」
「沈黙から発言に変わったな」
東郷はエイリスの方針転換をこう表現した。
「そういうことだな」
「そうです。ソビエトはこのことについて一切発言をしていません」
これまで殖民地に反対していたこの国もだというのだ。
「黙認の様です」
「政治的取引だな」
「そう思って間違いないかと」
「カテーリン書記長はかなり教条的だと思っていたがな」
「政治的な状況を考慮してのことかと」
「そもそも枢軸である我が国とも中立条約を結んでいるしな」
「どうやらこの中立条約も破棄される模様です」
秋山は東郷にこのことも話した。
「ソビエトは太平洋諸国の資産主義、君主制に反対する声明を出しました」
「宣戦布告だな」
「事実上の」
それだというのだ。
「中立条約の破棄はあの国の戦力が再編成されてからかと」
「暫く先になるが、だな」
「日本帝国にも攻め込んできます」
つまり枢軸との戦争になるというのだ。
「そうなります」
「そうだな」
「エイリスも戦力をかなり消耗しており再編成の時期が必要ですが」
「やがてはだな」
「連合国は太平洋、インド洋に攻めてきます」
このことは確実だった。
「ドクツ軍も加えて」
「少し聞いただけではわかりませんね」
日本もこう言う程だった。
「とにかくドクツは降伏せずにですね」
「そうです、連合に入り」
「エイリスとソビエトは暫くしたら枢軸に攻め込んできますか」
「しかもアステカ帝国との戦いが間近です」
中南米のこの謎の国ともだというのだ。
「今は彼等が宣戦布告した時に備えています」
「わかった、ではガメリカに向かう」
東郷は戦略のことはすぐに決断を下した。
「ソビエト、エイリスとの開戦は先だ、だがインド洋には防衛の為の戦力を置き」
「そしてですね」
「中帝国方面に置いていた艦隊をソビエトとの国境に配置する」
そうして備えにするというのだ。
「念の為にそうしておこう」
「そのうえで主力をですね」
「アステカに向ける、明石大佐からの報告は届いているな」
「三日前日本に戻って来られています」
アステカ帝国に潜入していたが戻って来たというのだ。
「大佐の報告も読まれてですね」
「戦略を練ろう、すぐにな」
「わかりました、では」
秋山はこのことはすぐに敬礼で返した、そしてだった。
ここでドイツが暗い顔で一同にこう言ったのだった。
「俺達も中南米に行くことになるな」
「ああ、そうだ」
東郷がそのドイツに答える。
「インド洋の艦隊は柴神様に伊藤首相、ギガマクロ酋長にハルマのお兄さん達を配置する」
「そして満州には中帝国方面の軍を回してか」
「残りの艦隊は全て中南米に向ける」
まさに主力をだというのだ。
「だからドイツさん達にも来てもらいたい」
「それはわかったが」
ドイツは自分のことはいいとした。だが、だった。
「総統もだな」
「そのつもりだが、無理か」
「まだ虚脱状態だ」
レーティアはそのままだというのだ。
「視線も虚ろなままだ」
「そうか、まだか」
「艦隊を指揮出来る状態ではない」
ドイツは苦い顔で述べた。
「残念だが」
「日本に着いた、後は立ち上がってもらいたいがな」
「難しい、今はな」
「そうか、どうするべきか」
東郷も難しい顔になる。
「真剣に考えるべき時が来たな」
「付き合う相手がいたらいいんだけれどね」
イタリアは思いついてこう言った。
「誰かね」
「馬鹿を言え、総統にそうしたお相手がいるか」
ドイツはイタリアの今の言葉にむっとした顔で返した。
「それは考えればわかるだろう」
「そうかな。総統だって女の子だし」
「総統はドクツの国家元首だ」
だからだと言うドイツだった。
「父なる国家を夫とする方だ」
「じゃあドイツが総統の旦那さんになるのかな」
「それも違う」
尚ドイツは独身である。
「とにかく総統に交際なぞするお考えはない」
「そうなんだ」
「そうしたことを言う不届き者もいなかった」
レーティアはアイドルであるがそれと共にドクツを立ち直らせた英雄だ、神格化されている彼女にそうしたことを言う者もいなかったのだ。
「一人としてな」
「統領にはいつもいるのに」
ムッチリーニはそうしたポルコ族の青年達をいつも笑ってあしらってもいる。
「ドクツは違うんだぜ」
「あの人はあの人だ」
実はドイツはムッチリーニも嫌いではない。
「だからだ」
「ううん、そうなんだ」
「そうだ、だからだ」
それでだと言うドイツだった。
「あの方にそれはない」
「じゃあどうすればいいかな」
「何かきっかけがあれば違うが」
ドイツは腕を組み真剣に考えている顔で述べた。
「そのきっかけが何かはわからない」
「気分転換で何処かに行ってもらう?」
総督はこうした提案を出した。
「そうする?」
「気分転換か」
「うん、旅行でも行ってもらってね」
「それもいいか」
「太平洋、インド洋には観光名所lも多いしね」
「美味しいものを食べて頂くとか」
日本の提案はこれだった。
「あの方は菜食主義者とのことですが」
「それもしてみるか」
「艦内の閉鎖的な中での限られたお食事よりはずっといいかと」
「ああ、色々してみるか」
「最悪あの人抜きでアステカと戦うことになる」
東郷は現実を言った。
「そうなることもだ」
「考えないといけませんね」
「それでも戦うことは出来る」
実際戦力的にも充分である。
「アステカ帝国の戦力次第だがな」
「それでもですね」
「ああ、それは出来るが」
「ですがあの方がおられれば」
「大きい」
戦力的にだというのだ。
「戦術面でも天才だからな」
「そうです、ですから是非にといきたいのですが」
「だがそうした状況ならだ」
「あの方がおられない場合も考えますか」
「そうしていくか。何はともあれ一旦戦力をテキサスに集結させる」
中南米への入り口であるそこにだというのだ。
「大和の用意は出来ているな」
「試験運用も終わっています」
「では行こうか」
「それでは」
このこと自体はスムーズに進んだ、レーティア=アドルフ達は無事に日本に着いた、しかしそれでハッピーエンドとはならなかった。
TURN74 完
2012・12・12
レーティアに続き、ムッチリーニとロンメルの救出も成功したな。
美姫 「戦力的には特にロンメルは大きいわね」
だな。どうにか日本にも着いたけれど。
美姫 「レーティアの復活は流石にまだ先みたいね」
無事に立ち直ってくれるだろうか。
美姫 「どうなるかしらね。次回も待っていますね」
ではでは。