『ヘタリア大帝国』
TURN73 思わぬ復活
レーティア達がベルリンを脱出してすぐにソビエト軍はドクツの首都ベルリンに降下をはじめた。指揮を執るのはジューコフだった。
彼はソビエツスキーの艦橋において共にいるロシアにこう語っていた。
「これでドクツも終わりです」
「そうだね、危うい戦いだったけれどね」
「港は全て押さえました、軍事施設も全て破壊しました」
「そして総統官邸の周りも押さえたし」
「後は総統官邸の占領だけです」
「民間施設は攻撃しないんだね」
「レーティア=アドルフは攻撃しませんでした」
レーティアは民間施設は後の統治で使う為に攻撃しなかったのだ。当然そこにいる民間人にもである。
「ですかわ我々も」
「そういうことだね」
「はい、それではです」
「うん、総統官邸を占領して」
「レーティア=アドルフを捕虜とします」
「後はあの娘と宣伝相を裁判にかけるだけだね」
「それで終わりです。抵抗する者には容赦はしませんが」
戦争だ、それならば情けは不要だった。
「降伏する者はそのまま捕虜にします」
「そうだね。ベルリンも産業が発達してるし」
「このまま手に入れると後に大きいですから」
こうした先見もありジューコフはベルリンの民間施設には攻撃命令を出さなかったのだ、そこまで考えてのことだったのだ。
「ですからこのままとします」
「ただ。気になることは」
兄と共にいるロシア妹がジューコフに言ってきた。
「民間人がアドルフ総統を匿うのではないでしょうか」
「そのことは充分に考えられます、ですが」
「それでもですね」
「そうなればアドルフ総統の方から投降してくるでしょう」
「あの方からですか」
「誇り高い方です、ならば自身の愛する民に迷惑をかけるよりは」
「自ら投降して、ですか」
そうしてことを収めるというのだ。ジューコフはその隻眼にレーティアがどういった人物かを見ていたのである。
「そうします、ですから」
「そうなってもですね」
「構いません、総統官邸を逃げても」
「私がいます」
後ろからゾルゲが出て来た。まるで影の様にここに姿を現してきた。
「追跡はお任せ下さい」
「そうだね、ゾルゲさんもいるね」
「私に追跡出来ない者はいませんし」
それにだった。
「秘密警察もベルリンに入ります、逃げられるものではありません」
「じゃああの人も逃げられないね」
「お任せ下さい」
ゾルゲは微笑を浮かべてロシアに応えた。彼等はレーティアを確実に捕虜に出来ると確信さえしていた。
そのソビエト軍の包囲を離れた場所から見ているのがエイリス軍だ。モンゴメリーはオークからモニターでトラファルガーにいるロレンスに言った。
「我等はここに止まり、だな」
「はい、ベルリンはソビエトの管轄に入ります」
「そういうことだな。ではこの戦いの後は」
「インド洋に向かうことになります」
「私が行くことになるな」
モンゴメリーはそれは自分だと言った。
「南アフリカ方面にはマリー様が行かれる」
「そうして二正面から太平洋軍を攻めますか」
「シベリアからはソビエトが攻める」
この話もついているのだ。
「枢軸側との新たな局面だな」
「はい。しかし連合国の顔触れがまた」
「変わるな」
「エイリスとソビエトだけですね」
五国のうち残っているのは二国だけだった。
「それに対してあちらは」
「ガメリカ、中帝国、それにオフランスが枢軸になった」
「顔触れが本当に変わりました」
「もっともガメリカと中帝国は同じ連合国でも関係は悪かったからな」
「植民地の独立を即座に承認していましたから」
同じ連合国に承認されてはどうにも出来なかったのだ。両国は太平洋経済圏設立の為にそうしていたのだ。
「我々を確信犯で追い詰めていました」
「同盟を結んではいたがな」
「はい、実質的には敵でした」
まさにそうした関係だった、エイリスと彼等は。
「エイリスの世界の盟主としての地位を奪おうとしていましたから」
「少なくとも太平洋からは追い出してな」
「同盟を結んでいても敵同士とは」
「それが政治だな。だがその心配はもうない」
その彼等が完全に敵になったからである。
「心置きなく植民地の奪還に動ける」
「ではそちらはお願いします」
欧州方面軍を預かるロレンスはスエズにいるモンゴメリーに切実に願いの言葉を述べた。
「エイリスの栄光を必ずや」
「そうしよう。もっともインドはおろかアラビアの奪回もな」
「実際にはですね」
「もう儚い夢だろうがな」
モンゴメリーは既にそう見ていた。
「祖国殿には申し訳ありませんが」
「ああ、俺ももうわかってるからいいさ」
イギリスは己の乗艦のモニターからモンゴメリーに答えた。
「正直アジア方面はもう無理だよ」
「ましてやオセアニアも」
「日本にはしてやられたさ、もう手出しは無理だよ」
「太平洋経済圏はもう固まっていますので」
「残念だけれど植民地の奪還は無理だな」
イギリスも言う。
「女王さんもわかってるぜ」
「はい、女王陛下もご承知です」
二人は確信していた、聡明なセーラは既にわかっているのだ。
「我々が出来ることはアフリカを守ることだけですが」
「議会が煩いからな、何もわかってない奴等が」
「しかもソビエトとの約束もあります」
共に太平洋、即ち枢軸を攻めようという約束をしているのだ。相変わらず同床異夢だがそうした話になっているのだ。
「ですからどうしても」
「攻めないといけないからな」
「そうです。しかしソビエトが太平洋に勝つと」
「あの辺りが全部共有主義になるからな」
「そしてその後はこちらに来ます」
モンゴメリーはソビエトの意図も既に読んでいた。
「そうなりますので」
「出来ればソビエトには負けて欲しいな」
「ソビエトが敗れると枢軸の相手は我々だけになりますので」
「きりのいいところで講和すべきだろ」
イギリスは時流が自分達に向いていないことを読みきっていた、そのうえでの言葉だった。
「やっぱりな」
「そうですね、それがよいかと」
「ソビエトが負けたらな」
「講和せねばアフリカの植民地を攻められ」
そしてだった。
「全ての植民地を失うことになります」
「全ての植民地を失えば」
どうなるか、イギリス妹も出て来た。
「我々は欧州の一国に過ぎなくなります」
「だからアフリカは失いたくねえな」
イギリスの言葉は切実なものだった。
「そこんところ議会はわかってないからな」
「説得が必要ですが」
モンゴメリーの言葉はここでは暗い。
「正直なところ」
「難しいな」
「貴族、戦わない彼等の腐敗は極めて深刻です」
エイリスの癌になっていた、まさに彼等が。
「自分達の利権しか考えていませんし」
「そもそもな、植民地で搾取してたからな奴等は」
イギリスにしてもそれは頭痛の種だった、彼にしてもそうしたことは好ましいことでは決してなかったからだ。
「何度も止めたんだがな」
「聞きませんでしたね」
「だったからな」
こう妹にも漏らす。
「本当にな」
「彼等は自業自得ですが」
「エイリス自体にとって問題だからな」
「はい、彼等を押さなければなりません」
イギリス妹もこう兄に話す。
「どうにかして」
「難しいな、本当に」
「そうですね」
「何はともあれです」
ロレンスが頭を抱えんばかりの彼等にこう言ってきた。
「我々は今はこうして様子を見るだけです」
「ああ、それだけだな」
「今は」
イギリス兄妹も彼の言葉に応える、そうしてだった。
彼等は今はソビエト軍のベルリン占領、彼等が言う解放を見ていた。その占領は順調に進んでいた。
「抵抗するならば撃つ!」
「武器を捨てろ!」
降下したソビエト軍の将兵達は周囲に叫ぶ。
「民間人は去れ!」
「去らなければ敵対行動とみなす!」
こう叫びベルリンの民間人を追い返す。彼等はジューコフの命令通りに彼等には基本的には手を出さなかった。
そのうえで総統官邸に入る、そしてだった。
彼等は総統官邸にいる衛兵達を倒すか投降させて先に進む、探す相手は二人だった。
「レーティア=アドルフはいるか」
「グレシア=ゲッペルスは何処だ」
この二人を探していた。
「見たところいないが」
「逃げたか?」
「抜け道を使ったか?」
いぶかしみながら探す、だがだった。
総統官邸には誰もいなかった、しかもだった。
「宣伝省にもいないぞ」
「あの二人は何処にもいない」
いるのは投降したか倒れている黒い軍服の者達と赤い軍服の者達だけだった。
彼等は探しながら言うのだった。
「ここはゾルゲ大佐にお願いするか」
「秘密警察の担当になるか」
「ならもう俺達は手を出すべきじゃないな」
「ああ、そうだな」
「絶対にな」
彼等は普通軍である、秘密警察とは違いしかも秘密警察に監視される立場だった、だから彼等に対してはなのだ。
避けてそしてだったのだ。
「連中に任せるか」
「それがいいな」
「ああ、そうだな」
「俺達のやることじゃないな」
彼等はこう言って二人のことをゾルゲ達に任せようとした。だが。
ソビエト軍が占領した軍事基地の一つからこうした報告があがった。
「爆弾?」
「爆弾が見付かった?」
この報告を聞いてだった、そして。
ベルリンを占領にかかっているソビエト軍の主力がその基地に向かった、基地はドクツの近代的で機能的なものだった。
そこに入ってそしてだった。
その中で黒く巨大で丸い爆弾を見つけた、彼等はそれを見て首を捻った。
「何だこれは」
「この爆弾は何だ?」
「ドクツの新兵器か?」
「それか」
「皆少し待て」
ここで将校の一人がいぶかしむ兵士達に言った。
「元帥に確認を取ろう」
「ジューコフ元帥にですか」
「そうされますか」
「そうだ、そうしよう」
こう言ったのである。
「おそらくドクツ軍の新兵器だが」
「ベルリンは我々の管轄になるのでこの兵器も我々のものになりますが」
「これをですね」
「そうだ、念の為ここは元帥の指示を仰ごう」
そうしてどうするか決めようというのだ。
「そうしよう」
「わかりました、それでは」
「元帥に」
こうしてだった。彼等はまずはジューコフに指示を仰いだ、ジューコフはこの時も総司令部となっているソビエツスキーの艦橋にいた。
そこにいてその話を聞いてまずはロシア兄妹に問うた。
「どう思われますか」
「ううん、ドクツの新兵器だと思うけれど」
「具体的にはどういったものかわかりませんね」
二人も首をまずは首を捻る。
「けれどベルリンのドクツ軍の兵器は僕達のものになるから」
「接収しましょう」
これが二人の考えだった。
「じゃあその爆弾はね」
「本土に持って帰りましょう」
こうジューコフに話す、そしてだった。
ジューコフも二人の話を聞いたうえでこう言った。
「では接収し本土に持ち帰りましょう」
「そしてロリコフ先生に調べてもらおう」
「そういうことで」
こうして爆弾の接収と本土へ持ち帰ることが決まった、爆弾はすぐにソビエト艦隊の中の一隻に入れられた。他の兵器の接収も進む。
ゾルゲはベルリンに入りレーティア達の捜索をはじめた、自ら陣頭に立ちそれを進める。
「ベルリンの地図はわかった」
「では今すぐにですね」
「秘密警察の同志達を手配しますか」
「こうしてくれ」
手配の計画も即座に出した。
「この様にな」
「もう計画を立てられたのですが」
「速いですね」
「物事は迅速にかつ的確にだ」
ゾルゲは淡々と述べる。
「だからこそだ」
「もう計画を立てられていましたか」
「レーティア=アドルフ捕獲の為の」
「脱出は想定していた」
そのうえでのことだった。
「ベルリンに来るまでにな」
「では今からですね」
「我々はレーティア=アドルフの捜索にあたりますか」
「ここは」
「そうする。後で同志ゲーペ長官もベルリンに入られる」
カテーリンの懐刀でありソビエトの恐怖の象徴である彼女もだというのだ。
「そうしてそのうえでだ」
「はい、それではですね」
「総統逮捕の後のドクツの統治も進めますね」
「そのうえで」
ゾルゲもまだレーティアがベルリンにいると思っていた、そのうえでそれからのことを考えていたのである。
爆弾を接収したソビエト軍はベルリン星域から離れた場所に移っていた、それはソビエト軍全軍の主力だった。
ジューコフはその彼等に命じようとしていた。
「ベルリンは秘密警察に任せる」
「では我々は、ですね」
「これからは」
「一旦東欧の占領地全てに展開し治安維持にあたる」
占領した全ての星域のだというjのだ。
「そしてだ」
「それからですね」
「これからは」
「そうだ、モスクワに集結し再編成を行い」
そのうえで、だった。
「太平洋に向かう、いいな」
「わかりました、それでは」
「今より」
ソビエト軍はジューコフの命じるまま動こうとしていた。だがその時にだった。
突如として爆発が起こった、それは星域規模の大きさだった。
その派手な衝撃と爆炎、そしてその荒れ狂う磁気によってソビエト軍j全体が包まれ艦艇が瞬く間に消え去っていった。
「な、何だ!?」
「何が起こった!?」
周りのソビエト軍はその爆発を観て叫んだ。
「あの爆弾の爆発か!」
「暴発したか!」
「艦隊が次々と燃えていっているぞ!」
「中央の艦隊は全滅している!」
「ジューコフ元帥はご無事か!」
「祖国殿は!」
「安心しろ、私は大丈夫だ」
「僕もね」
生き残っている全艦艇のモニターにジューコフとロシア兄妹が出た。続いてコンドラチェンコにリディア、ウクライナ達もいる。主だった提督と国家達はいた。
だがそれでもだ、ジューコフは流石に冷静であるが深刻な言葉を出した。
「だがソビエト軍の主力は壊滅した」
「何割ですか!?」
「何割が失われたのですか!?」
「八割だ」
まさにその殆どだった。
「君達を入れてな」
「何と、ソビエト軍の八割が失われたのですか」
「一瞬にして」
「消滅した艦隊はそのうちの四割だ」
八割のうちの四割だというのだ。
「後は大破から小破だが」
「しかし、何という損害か」
「恐ろしいまでですね」
「少し作戦を考える必要があるか」
それだけの損害では治安維持も検討する程だった。
「ここは」
「そうですね、ここはですね」
「一時」
「まずは軍の再集結だ」
消滅に近い損害を受けたがそれでもだというのだ。
「そうして戦略を考える」
「はい、それでは」
「今より」
「幸い星域や宙路へのダメージはないが」
ダメージを受けたのはソビエト軍だけだった。
「これではな」
「はい、どうしようもないですね」
「作戦行動も」
ソビエト軍は致命的なダメージを一瞬にして受けたが目の前に敵がいないことが幸いだった。それでそのことには安堵していた。
だがその安堵はすぐに消え去った、何とだ。
「北欧、デンマーク方面より謎の艦隊です!」
「艦隊が来ました!」
「何っ!?」
コンドラチェンコがその報告に目を鋭くさせる。
「何処の軍だ!?エイリスの援軍か?」
「いえ、あれはドクツ軍です!」
「ドクツ軍の艦隊です!」
「艦隊数二十!」
「かなりの多さです!」
「馬鹿な、ドクツ軍にまだそんな艦隊がいるか!」
コンドラチェンコはその報告を即座に否定した。
「ベルリン駐留艦隊も崩壊したんだぞ!それでどうして二十もいる!」
「しかしです!」
「実際にモニターに出ています!」
「見せろ!」
コンドラチェンコも思わず叫んだ。そしてモニターを点けさせると。
そこに確かにいた、ドクツ軍の大艦隊が瀕死の重傷の彼等の前にいたのである。これにはさしものコンドラチェンコも酔いを醒まして言った。
「どうなってるんだ、これは」
「あの、コンドラチェンコ提督」
リディアがモニターに出て来て普段の彼女とは違う青くなっている顔でコンドラチェンコに対してこう言ってきた。
「あれは間違いなくドクツ軍です」
「ああ、そうだな」
「しかも二十個艦隊もいますから」
「この状況でそれだけのドクツ軍の相手か」
コンドラチェンコの顔が険しくなる。
「まずいな」
「勝てません、とても」
「壊滅するな、どうすればいいんだ」
「全軍一時撤退だ」
ジューコフがここで決断を下した。
「この状況では勝てない」
「あの、それにです」
リディアはドクツ軍の広報を見た、そこにはだった。
「楔形の巨大な、あれは」
「えっ、あれはまさか」
リトアニアがリディアが見ているとそれを確認して声をあげた。
「サラマンダー!?まだ生きていたの!?」
「えっ、サラマンダーって」
「あの伝説の大怪獣の!?」
ラトビアとエストニアがその名前を聞いて青い顔になった。
「死んだ筈だけれど」
「伝説の勇者ベイオウルフに倒された筈じゃないの!?」
「その筈だけれど」
だがそれでもいる、それでリトアニアは言うのだ。
「まさか、まだ生きていて」
「ドクツ軍が持って来ているのかな」
「操っていて」
「エイリス軍がいても勝てないですよ」
ウクライナも蒼白になっている。だが胸は今も揺れている。
「ドクツ軍に加えてサラマンダーもとなると」
「ここはどうしますか」
ベラルーシも何とか己を保っている顔だった、その顔でジューコフに対して問うた。
「元帥は撤退と仰いましたが」
「はい、その通りです」
「一刻も早く決断しなければ敵の攻撃を受けますが」
「全軍即座にシャイアンまで撤退です」
ドクツ本土から去るというのだ。
「そうしましょう」
「そうですか。それでは」
「この状況でドクツ軍だけでなく大怪獣の相手なぞできません」
それは最早論外だった。
「ですからここはです」
「わかりました。それでは」
ベラルーシは小さく頷いて答えた。そしてだった。
ソビエト軍は撤退しようとする、だがここで。
そのドクツ軍の方から彼等、それにエイリス軍に対してこう言ってきたのだった。
「連合軍の諸君に告ぐ」
「!?降伏勧告か?」
「まさか」
「私はドクツ第三帝国新鋭隊長ノイツィヒ=ヒムラーである」
両軍の艦艇のモニターにその彼が現れた。
「そして今ドクツ第三帝国の総統に就任した」
「おい、どういうことだよ」
イギリスはヒムラーの今の言葉に眉を顰めさせて言った。
「レーティア=アドルフじゃねえのかよ」
「レーティア=アドルフ総統はこの事態の責任を取られ自害された」
ヒムラーは今先程レーティアがベルリンにはいないことを彼の情報網から知ったのだ、実はここで颯爽とレーティア、そしてドクツの救世主として現れマンシュタインもロンメルもいなくなったドクツにおいて掛け替えのない存在となりレーティアを後ろから操ろうと考えていたのだ。
だがレーティアはベルリンにはいない、それならば自害したと彼女の性格から考えこう言ったのだ、確かにレーティアはベルリンにいないがエルミーに救出されたことは知らなかった、そこまでは彼の情報でも確認できなかったのだ。
だからここでこう言ったのである。
「その時に私をドクツの総統に任命されたのだ」
「話が急過ぎて」
「そうですね」
ネルソンも呆然とした感じでイギリス妹に応える。
「話が掴めません」
「どうにも」
「しかしレーティア=アドルフはもういないのですか」
「嘘でああしたことを言うとは思えませんし」
実はヒムラーにしても思わぬ展開だったがそれに乗ったのである。
「しかも今彼等と戦おうとも勝てません」
「ここは一時撤退すべきですね」
「よし、では全軍一時ベルリンから撤退する」
モンゴメリーもジューコフと同じ決断を下した。
「ドクツ本土から離れよう」
「ああ、それがいいな」
イギリスはドクツ軍とサラマンダーを見ながらモンゴメリーに応えて言った。
「あの大怪獣は洒落にならないからな」
「伝説によると恐ろしい力がありますね」
「北欧の星を幾つも滅ぼしてきたんだよ」
モンゴメリーにそうした存在だったとだ、眉を曇らせて話す。
「下手に相手はできないからな」
「はい、ですから」
「一時撤退だな」
「そうしましょう」
こうして連合軍はベルリンを陥落させるところで撤退することになった、ゾルゲ達も折角ベルリン入りしたが撤収することになった。
ゾルゲは港に来たところで部下達に言った。
「同志諸君、何故ドクツにまだあれだけの戦力があるかはわからないが」
「それでもですね」
「今の我々は」
「そうだ、撤退するしかない」
ドクツ軍が戻っては、というのだ。
「そもそもヒムラー隊長が生きていることもわからないことだがな」
「彼はカテーリングラードで戦死した筈ですが」
「部下の親衛隊と共に」
「何故生きている」
ゾルゲにはこのこともわからなかった。
「謎が多いな、しかしだ」
「しかし?」
「しかしとは」
「戦局は大きく変わる」
ゾルゲは鋭い、剣の様な光をその目に宿しながら言った。
「ドクツは蘇る、ドクツの動きがまた欧州の台風の目になる」
「ではこのままですか」
「また欧州での死闘がはじまりますか」
「そうなる可能性が高い」
ゾルゲはこう読んでいた。
「太平洋に兵を進めることは不可能になるか」
「ロリコフ博士が妙に張り切っておられましたが」
「それはなくなりましたか」
「そうなるだろう。では我々も去ろう」
「はい、それでは」
「今より」
秘密警察の者達もベルリンを後にするしかなかった、ゾルゲはレーティアが密かに脱出に使った港からベルリンを発った、その彼と入れ替わりにヒムラーはベルリンに入った。
彼はすぐjに総統官邸に入り先日までレーティアが座っていた総統の椅子に座った、そして彼の真の側近達にこう言った。
「小さいな」
「前総統の椅子はですか」
「小さいですか」
「ああ、何しろ小柄な女の子だったからね」
総統の机に左肘をつき右手を軽く動かしての言葉だった。
「俺には小さいね」
「ではすぐに椅子を替えますか」
「そうされますか」
「まずはそれからだね。さて、連合軍はドクツ本土からは去ったけれど」
「ソビエト軍は壊滅しています」
今の時点で連合軍の主力の一方の彼等がそうなっていることも話された。
「見事なタイミングでしたね」
「新型爆弾を作動させられましたね」
「狙ってたよ」
ヒムラーは側近達に軽く述べた。
「あのタイミングをね」
「そして爆発のボタンを押された」
「そうされましたね」
「ソビエト軍を壊滅させてそして」
さらにだったのだ。
「俺が機械の艦隊とサラマンダーを引き連れて出て来た」
「誰もが動きを止める」
「まさにそうですね」
「正直ね、あの娘が自害したのは意外だったよ」
ヒムラーもこのことは想定していなかった。
「ベルリンの何処かに国民の誰かが匿ってると思ってたけれどね」
「しかし誰もそれはしていません」
「ですが総統官邸にはいませんので」
「このことはソビエトに潜入させている者も報告しています」
「それも秘密警察にいる者からです」
「そうだね、ベルリンにもう完全にいないとなると」
やはりレーティアの性格から言うヒムラーだった。
「自害したね」
「死体は見えませんがこのことは」
「誰かが焼いたね、骨までね」
それでもうないというのだ。
「そしてあの胸のでかい女もね」
「前総統と共に自害して、ですね」
「死体を焼かれましたか」
「火葬ねえ。仏教徒みたいだね」
ヒムラーは少しシニカルな、侮蔑も含んだ笑みで述べた。
「ファンシズムの美学とやらには殉じてはいるけれどね」
「はい、去る時は潔く」
「それにですね」
「まあ取り入って操るつもりだったけれどね」
これはヒムラーが最初から考えていることだ。
「いないならいいさ」
「ではこれからは教皇が総統ですね」
「この国の」
「そうさ、俺がドイツ第三帝国の第二代総統だよ」
それになるというのだ。
「あの娘から後事を託されてドクツを救う男ってことだ」
「では総統、これからどうされますか」
「まずは」
「ドクツもダメージが大きいからね」
すんでのところでベルリンも陥落、実際にそうなっていたところだ。それでダメージが大きくない筈がなかった。
「連合軍との戦いは出来ないね」
「それでは講和ですか」
「その選択ですね」
「そのつもりだよ。俺は枢軸とかには興味がないんだ」
このことはあっさりと捨てていた。
「むしろここはソビエトやエイリスを利用するべきだな」
「では講和ですね」
「そうされるのですね」
「その間に機械の連中、ああ、名前は」
「コアです」
「データではその呼称です」
「コアを増やそう、犯罪者なんて幾らでもいるからな」
こう側近達に述べる。
「彼等を戦力にしていってそして」
「我が教団の勢力を伸張させる」
「そうされますね」
「ドクツの国教にしよう」
宗教の話もここで出た。
「講和して暫くしてからね」
「わかりました。ではまずはソビエト、エイリスと講和ですが」
「そのことだな。ここは大胆に行こうか」
「大胆!?」
「大胆にといいますと」
「カテーリン書記長とセーラ=ブリテン女王を呼ぼう」
楽しげな、かつ不敵な笑みでの言葉だった。
「そうしよう」
「カテーリン書記長にですか」
「セーラ女王を」
「そのつもりだよ。こちらの出す条件は全部飲んでもらってね」
そのうえで講和をするというのだ。
「講和だよ。さて、次は」
「祖国殿達を、ですね」
「ここに呼びますか」
「まあ俺はもうドクツの人間でもないけれどね」
既にその意識もなくなっていた、彼の帰属意識は国家ではなく他の場所に移っていたのだ。それでこんなことを言えたのである。
「仮にも総統になったし」
「では呼びますか、祖国殿達を」
「今ここに」
「ああ、そうしよう」
こうしてヒムラーはドイツ達を呼んだ、しかしだった。
来たのはドイツ妹とプロイセン妹だけだった。ヒムラーは自分の目の前に立つ二人に怪訝な顔で問うた。
「ドイツ君達はどうしたのかな」
「はい、実はソビエト秘密警察の面々と戦闘に入りまして」
「そこで重傷を負ったんだよ」
二人はこういう設定を付けてヒムラーに事実を隠した。
「瀕死の重傷でとてもここまで来られないので」
「あたし達が来てるんだよ」
「オーストリア君もだね」
彼もいない、彼もドクツの構成国家になっているがだ。、
「君達二人だけか」
「はい、残念ですが」
「今はあたし達だけだよ」
「三人の入院先は何処かな」
ヒムラーはドクツを愛する総統を演じる為にこう尋ねた。
「見舞いに行くけれど」
「私達の家にいますが」
「もうね、何かあると危ないからね」
「見舞いも迎えられない状況なので」
「待ってくれるかな」
「そうか、わかったよ」
実際は愛国心のないヒムラーは二人の言葉にあっさりと答えた。そして二人に対して軽い口調で述べた。
「じゃあ今は君達が国家として動いてくれるか」
「はい、お任せ下さい」
「兄貴達の分まで頑張るよ」
「今ドクツは大変な状況だけれどね」
滅亡は免れたがこの状況は変わらない。
「俺が何とかするよ」
「はい、それではお願いします」
「ドクツの為にね」
二人もヒムラーに敬礼で応えた、互いに化かし合っていることには気付かない。
二人はヒムラーの前を後にして自室に戻ってそれで話した。当然そこにはドイツ達は一人としていない。
その家の中で話したのである。
「まさかこうなるなんて」
「ヒムラー隊長が生きてるなんてね」
プロイセン妹は苦い顔で困惑している顔のドイツ妹に返した。
「ちょっとね」
「想像もしていなかったから」
「あたしもだよ。まあ総統がいなくなったことはね」
「自害されたと思っていることはいいことね」
「ああ、普通はそう考えるからね」
レーティアの性格を考えれば、である。
「普通はね」
「まさかと思うから。まずはいいわね」
「そうだね。しかしヒムラー総統ねえ」
「それはかなり」
「何だろうね、あたし前から思ってたんだけれどさ」
プロイセン妹は難しい顔でドイツ妹に話した。
「あの人怪しくないかい?」
「妙なところが多いわね」
「一見さ、愛国者で総統への忠誠心も高かったけれど」
「物腰も悪くなくて」
「それでもね。妙なね」
「影があるというか」
「怪しいんだよ」
そうだというのだ、二人は何処となく察していたのだ。
それでプロイセン妹はこうドイツ妹に話した。
「あのさ、あいつが何考えてるかわからないけれど」
「何かあった時は」
「あたし達も動くことを考えておこうね」
「そうね。信用できjないから」
「絶対に信用できないね」
二人の間ではもうそうなっていた。
「あいつはね」
「ええ、それじゃあ」
「後急に二十個艦隊出て来たけれど」
「大怪獣まで」
そのサラマンダーである。
「あれは一体どうして動かしているのかしら」
「死んだ筈だったけれどね、サラマンダーって」
二人もこう思っていた、サラマンダーについては。
「封印されてたのかね」
「眠っていたか、北欧の奥底に」
「その辺りも気になるわね」
「あとあの戦力も」
「バルバロッサ作戦とアフリカに戦力の殆どを注ぎ込んでたんだよ、あたし等」
そのうえで戦っていたのだ。
「で、何で北欧から二十個も出て来るのよ」
「そこまでの戦力があれば東部戦線に投入していたわ」
ドイツ妹も言う。
「総統閣下なら」
「乗っているの人間じゃないみたいだよ」
プロイセン妹はドイツ妹にこのことも話した。
「どうやらね」
「機械とか?」
「みたいだね。アンドロイドを使ってるね」
「その機械が動かしているのね」
「みたいだね。怪しい話ばかりだね」
「ええ。ドクツが助かったのはいいけれど」
二人も滅亡は覚悟していたのだ、それからどうしようかと考えていたのだ。
だがそれは一変した、それはいいことにしてもだったのだ。
「ここはね」
「そうだね、これはこれでかなりまずいね」
「ドクツはこれからどうなると思っているの?」
ドイツ妹はプロイセン妹にこのことを問うた。
「貴女は」
「連合国に入るわね」
枢軸の軸だったがそれが、というのだ。
「欧州の四国でね」
「イタリンも入れてよね」
「ああ、その四国だよ」
これが新しい連合の顔触れだというのだ。
「あたし達にソビエト、そしてエイリスとイタリンでね」
「欧州と太平洋に分かれるのね」
「あの総統その辺りは甘くっていうかどうでもいいみたいだし」
プロイセン妹はこのことを見抜いていた、既にだ。
「どうやらね」
「そうね。じゃあソビエト軍と共闘して」
「昨日の敵はっていうけれど」
まさに今のドクツがそうだった。
「変わるものだよ」
「日本さんとはあまり戦いたくないわね」
ドイツ妹は個人的な感情をここで口にした。
「これまでは国は離れていても仲良くやってきたから」
「あたしもだよ。しかも手を結ぶ相手がね」
「ソビエトとエイリス」
「あまりいい相手じゃないからね」
「それでもなのね」
「あの総統はそのつもりだよ。ただ手を結んでから戦力の再編成があるから」
それでだと。プロイセン妹が言う。
「日本さん達と戦うのは当分先だよ」
「そうね。ソビエト軍のダメージも大きいから」
「エイリスもだしね」
彼等がこれまでの戦争で受けたダメージもかなりのものなのだ。
「それに外交交渉もあるしね」
「話が動くのは先ね」
「そうなるね。色々話が変わってきてるけれど」
「総統は無事に辿り着けるかしら」
「兄貴達がいるから大丈夫だろ」
プロイセン妹はこのことについては心配していなかった。
「日本さんもいるしね」
「そうね。それじゃあ」
「総統は大丈夫だよ、生きて太平洋に行けるよ」
「だといいけれど」
「ただ」
「ただ?」
ドイツ妹はプロイセン妹に問う。
「何かあるの?」
「あの総統も人間だからね」
だからだというのだ。
「過労もあったけれど」
「あのことに加えてなの」
「気力がね、普通に保ててるかね」
「ドクツを世界の盟主にする筈が敗戦に導いたことに」
「それ堪えるよね、普通に」
「ええ、確かに」
例えそれがレーティア=アドルフでもだというのだ。
「それは」
「だろ?日本に行かれても大丈夫かどうか」
プロイセン妹が心配するのはこのことだった。
「それが不安なんだよ、あたしは」
「生きていてもそれでは」
「駄目なんだよ、あの人には立ってもらわないと」
プロイセン妹もレーティアを愛していた、第一次宇宙大戦に敗れ絶望の中にあったドクツを救い出してくれた人だからだ。
「そうでないとね」
「あの方ではないわね」
「あたし達の目的はわかってるね」
「あの方が戻られるまでドクツを支える」
「そう、その為にいるんだよ」
それが彼女達がドクツに残った理由だ、国家のことを思えばレーティアについていく者も必要であり残る者も必要なのだ。
だから二人は残りドクツを守っているのだ、だが。
「あの人が立ってもらわないとね」
「それも意味がないわね」
「ああ、本当にあの人が心配なんだよ」
プロイセン妹は深刻な顔でドイツ妹に述べた。
「虚脱してないといいね」
「そうね、本当に」
ドイツ妹もそこが気になった、レーティアは日本に生きて辿り着ける、しかし彼女が彼女のままでいられるとは限らないのだから。
プロイセン妹はレーティアの話から今度はまたヒムラーの話をした。
「で、今度の総統だけれどね」
「ヒムラーさんね」
「普通ここで兄貴達の見舞いにどうしても来るわよね」
「少なくともレーティアさんなら絶対に」
「だよな。けれど来ないのは」
「私達のことはどうでもいいのかしら」
「そうじゃないかね」
プロイセン妹は相棒にコーヒーを淹れながら言う。
「口では違うことを言うだろうけれどね」
「あの人は最初から妙に」
「怪しいね。何を考えてるんだろうね」
「そこも気になるわね」
「相当ね、ロンメル元帥の同期にしても」
「怪しい人は怪しいから」
「警戒はしておこうね」
自分のコーヒーも淹れながら言う。
「あの総統はね」
「何時何をしてきても対応出来る様に」
「そういうことだね。まあドクツは何とか助かったし」
このことは事実だ、ヒムラーがそうしたことは間違いないことだ。
「これからの展開だね」
「それで次第で私達も私達で動く必要があるわね」
「ドクツの為にな」
「ええ、あの人の為に」
二人の上司は今もレーティア=アドルフだった。ドクツ、そして彼女の為に動くことを既に決めていた、救われたドクツには二人がいた。
ドイツ妹はコーヒーを飲みながら今度は彼女から相方に言った。
「さて、ハンガリーさんも入れて」
「ベルギーちゃんもね」
「ビールを飲もうかしら、今夜は」
「いいね、じゃあ黒を出すか」
「ええ、女の子だけで今夜は飲みましょう」
ドイツ妹もまたビール好きだ、それでこうプロイセン妹に提案してそのうえで酒も楽しんだのだった。戦いの合間に。
TURN73 完
2012・12・10
ドクツ敗北は決定していたけれど。
美姫 「まさかの展開ね」
ここに来てヒムラーが遂に動いたな。
美姫 「ベルリンはどうにか占拠されずに済んだしね」
とは言え、やっぱり祖国さんの妹たちには怪しまれているがな。
美姫 「それすら、どうでも良いのかもしれないわね」
当分は時間が欲しいといった所か。
美姫 「で、エイリスとソビエトと手を組むような事を言ってたけれど」
それすら、だろうな。さてさて、これからどうなっていくのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。