『ヘタリア大帝国』
TURN72 レーティア救出
「おい、あいつも祖国さんもいねえのかよ」
「出張中だ」
秋山は海軍省に来た田中にこう話す。
「中南米に密かにな」
「隠密に潜入して情報収集に当たってるんだな」
「私は止めたのだがな」
秋山は内心冷や汗をかきながら芝居を行った。
「それでもだ」
「二人で行ったのかよ」
「そうされた。困ったことだ」
「中南米はどうなってるかわからねえんだろ?」
「秘境だ」
そう言ってもいい場所だ、まさに何がいるかわからない。
「噂では災害や宇宙怪獣も多いらしい」
「確かエアザウナの巣もあるんだな」
「噂ではそうだ」
「そんな危ない場所に二人で行ったのかよ」
「明石大佐も一緒だ」
このことは事実だ、実際に明石は中南米に潜入してそのうえでメキシコやキューバの情報収集にあたっている。
真実と設定変更を何とか織り交ぜてそのうえで田中に話すのだった。
「だから安心していい」
「それに祖国さんは忍者でもあるからだよな」
「隠密行動にかけては我々より上か」
「じゃあ大丈夫なんだな」
「そうだ、貴官の応対は私が受けるが」
「頼めるか?潜水艦隊のことだけれどな」
田中が海軍省に来たのは彼が率いるその艦隊のことだった。
「今伊号級の最新鋭の配備がはじまってるけれどな」
「四〇〇型だな」
「ああ、あれと潜水空母の話な」
「潜水空母も運用するか」
「そのことについて考えがあるんだよ」
「どういったものだ?」
「通常の潜水艦とその潜水空母を合わせて艦隊を編成するんだよ」
田中が考えているのは二種類の潜水艦の同時併用だった。
「まずは密かに艦載機を出して攻撃してな」
「再び隠密行動に入り、か」
「敵の後ろに回り魚雷攻撃を行うってのはどうかと思ってな」
「いい戦術だな」
秋山も田中のその考えに賛成の言葉を述べた。
「それは」
「ああ、参謀総長もそう思うな」
「そう思う、だが」
「だが、問題があるのかよ」
「その戦術も通常艦隊との共同作戦あってのことだな」
それではじめて成立する戦術だというのだ。
「潜水艦だけではどうにもならないな」
「見付かるからだな」
「潜水艦は発見されれば終わりだ」
姿が見えないことにこそ潜水艦の脅威があるのだ、それなくしては潜水艦はただの脆く鈍重な駆逐艦でしかない。
秋山もそのことを熟知している、だからこう言うのである。
「幾ら艦載機で先手を打ててもな」
「そこから見つけられて終わりか」
「そうなる、だからだ」
「通常艦隊との共同作戦でないと駄目か」
「このことは変わらない」
秋山は確かな声で田中に話す。
「だから潜水空母との運用がいいがな」
「突出するなってことだな」
「厳しいことを言うが貴官にはその悪癖がある」
田中の暴走癖は太平洋軍の頭痛の種にもなっている、戦果も挙げるが損害も多く出してしまうからだ。秋山もそれで言うのだ。
「そのことを注意してくれ」
「そうか。気をつけてるんだがな」
「より気をつけてくれ。貴官も連合艦隊司令長官になるのならばだ」
東郷からその座、彼に言わせればヘッドになることは今でも公言している。
「戦場、いや宇宙全体を考えて戦術戦略を考えることだ」
「戦略もなんだな」
「貴官、いや君にはその資質がある」
田中には戦略家になれる才もあるというのだ。秋山はこのことは本気で言った。
「ここで軽挙妄動を慎む様になりだ」
「戦略家になれっていうんだな」
「そうすれば司令長官にもなれる」
東郷の後継者にも、というのだ。
「頑張ってくれ」
「そういえば海軍相と連合艦隊司令長官は別々でもいいんだよな」
「それはその通りだ」
実は東郷は兼任しているのだ。
「君は海軍相には興味がないか」
「権力には興味がないんだよ」
ましてや事務仕事は尚更だ、田中は東郷以上にデスクワークが嫌いだ。
「俺がなりたいのは頭だからな」
「そういうことだな」
「あいつからは頭の座は奪うさ」
「大臣の席はいいんだな」
「そんなことはあいつに任せるさ」
田中はこうした意味で東郷を認めていた。
「そういう考えさ、俺は」
「そうか。君らしいな」
「権力に興味がないことがかよ」
「いい意味での上昇志向だ」
田中の長所はそうしたものを持っていることだというのだ。
「そのまま進んでくれるか」
「言わなくてもそうするさ。それであんたはな」
「私はどうだというのだ?」
「俺の下でも参謀総長だからな」
秋山のその顔を見てにやりとして告げた。
「宜しく頼むぜ」
「その場合厳しいことは覚悟しておくことだ」
「参謀として頼むぜ」
「日本帝国の為に」
何とか田中はやり過ごせた、他の面々にもこれで説明をつけた。エルミーについては同行ということにした。
だが勘のいい者もいる、ララーはバーで飲みながら共にいる小澤にこう言った。
「長官と日本さん中南米にいないんじゃないかな」
「そう言える根拠は」
「勘よ、勘」
それで言っているだけだった。ララーは陽気にカクテルを飲みながらカウンターの隣の席の小澤に述べる。
「それだけれどね」
「勘ですか」
「根拠はないけれどね」
「そうですね、私の勘でも」
小澤も勘がいい、だから言うのだった。
「長官と祖国さん達は中南米には行っておられませんね」
「じゃあ何処かな」
「さて、何処でしょうか」
小澤は表情のない顔で抑揚のない声で言う。
「それはわかりません」
「結構大問題だけれどね」
「この時期に海軍長官と祖国さんの不在ですから」
「実は何処にいるのかな」
「さて、何処でしょうか」
「占えるけれど」
バーにいるのは二人だけではない、クリスもだった。彼女はその占いの技術をここで二人に出したのである。
「タロットでいいからしら」
「水晶でお願いします」
小澤のリクエストはこちらだった。
「風情がありますので」
「私もそれでお願いね」
ララーが言うのもこれだった。
「何か面白そうだから」
「わかったわ。それじゃあね」
クリスは早速水晶玉を出してきた。そして実際のそれを自分の前に置いて占うと。
微妙な顔になって二人にこう述べたのだった。
「何処に行ったかはわからないわね」
「あれっ、そうなの」
「中南米ではないこともですか」
「場所はわからないわ。太平洋でもインド洋でもないことは確かだけれど」
「中南米の可能性もあるのね」
「太平洋とインド洋以外の宙域はぼけていて見えないわ」
それでわからないというのだ。、
「残念だけれどね。ただ」
「今の太平洋経済圏以外の場所に赴かれてますね」
「そのことはわかったわ」
わかったのはこのことだけだった、彼等が行った場所は。
場所はそこまでだった、しかし。
クリスは水晶玉を見続けていた、そして二人に言うことは。
「私達にとって最高の宝を幾つも持ち帰ってくるわ」
「じゃあ生きて帰って来るのね」
「長官も祖国さんも」
「エルミーちゃんもね」
同時に姿を消している彼女もだというのだ。
「あっ、大佐は普通に中南米に行っているわね」
「明石大佐は不死身ですから」
小澤も彼のことはそう見ていた。
「お一人で宇宙空間に出ても大丈夫ですから」
「超人よね、あの人」
「ソビエトのビッグ=ゾルゲにも匹敵します」
そこまで凄いとララーにも話す。
「コピペになる位です」
「あの人は間違いなく中南米にいるのね」
「水晶玉にはそう出ているわ」
クリスは実際にそうだとララーに話す。
「あの人はね」
「そういうことね」
「ええ、それにしても私達にとって最高の宝」
クリスは今も水晶玉を見ながら話す。
「それは何かしらね」
「とりあえず楽しみにさせてもらいます」
「そういうことね」
「あの方々が帰られるならそれで充分です」
小澤はその声を微かにだが笑みにさせていた。
「何か韓国さんもお姿が見えませんが」
「また起源の主張大会の準備でもしてるんじゃないの?」
ララーは韓国についてはこう考えていた。
「というかあの人の趣味って無茶苦茶よね」
「起源の主張をしないと死ぬ人なので」
小澤はこうララーに返した。
「普通に接して下さい」
「あれ気にしなくていいの」
「あの人の趣味なので」
勝手にやっているからいいというのだ。
「一種の愛情表現と思って頂ければ」
「そういうことなのね」
「そういえばこっちの祖国さんにも言うことはあるけれど」
クリスは水晶玉をしまってから二人に述べた。
「大体日本さんのことで起源を言うわね」
「あと中国さんにね」
ララーは彼の名前も出した。
「言うわよね」
「圧倒的に日本さんが多いわね」
「何分山下さんや宇垣さん。平良さんが優しいので」
日本帝国の軍部は全体的に韓国に優しいが陸軍と海軍の硬派な顔触れが特に韓国に優しいのである。
「どうも日本帝国の文化に妙な憧れを抱かれた様です」
「あれ止まるの?」
「多分止まりません」
残念ながらそうだというのだ。
「温かい目で見守りましょう」
「それしかないのね」
「そういうことでお願いします」
韓国についてはこれで済んだ、何はともあれ今太平洋には東郷も日本も不在だった。
その東郷達はエルミーが操るファルケーゼに乗ってベルリンに向かっていた。北アフリカを越えてナポリからローマに入っていた。
その中でエルミーは言うのだった。
「ここまでは順調でしたが」
「そろそろエイリス軍の艦艇が増えてきたな」
「はい、しかも」
「司令官はモンゴメリー提督だな」
「あの方ですね」
「注意しないと見付かるな」
「既にベルリンには東西から連合軍が迫っています」
このことは既に情報として入っている。
「総統官邸の場所はわかっています」
「着いたらすぐにだな」
「はい、総統を救出します」
「そうしたらベルリンを離脱する」
「一気に下がります」
スエズからインド洋に戻るというのだ、それが彼等の計画だった。
その計画通りにいって欲しい、エルミーは心から願っていた。
その為目の前にいる敵艦隊を見ても少し見落とした、索敵能力のある駆逐艦もいたのだ。
駆逐艦がいたが迂闊にもブーツで艦の床を蹴ってしまった、それで物音が立った。
「あっ・・・・・・」
「大丈夫です」
音を立ててしまったことに狼狽する彼女に日本が小声で囁く。
「これ位の音なら」
「気付かれませんか」
「私は今も隠密行動を使っていますので」
「だからですね」
「はい、ご安心下さい」
こうエルミーに言って落ち着かせる。
「このことは」
「わかりました」
エルミーは日本に頭を下げた。だが今度は。
腹が鳴った、今気付いたが彼女は朝から何も食べていなかった。もうその時間だった。
東郷はこのことを察して一同に小声で囁いた。
「じゃあ今から食べるか」
「はい、今日の料理番は韓国さんですが」
「熱くて辛いものだな」
「そうなりますね。それでは」
「今から食堂に行こう」
「わかりました」
東郷の言葉に三人で食堂に向かいその辛く熱い料理を食べて身体を温めた。ファルケーゼは日本の隠密行動と韓国の爆走の能力によりエルミーが考えていたより早くベルリンに到着した。
だがベルリンに着くとすぐにだった、エルミー達は暗澹たるものを見た。
ベルリン本星が既に敵に包囲されていた、星域どころではなかった。
エルミーはこの状況を見て傍らにいる東郷に告げた。
「最早一刻の猶予もなりませんね」
「そうだな。降下も時間の問題だ」
「では今すぐベルリンに降下しますので」
「後は任せられるな」
「お任せ下さい」
エルミーは確かな声で東郷に答えた。
「では行きましょう」
「よし、じゃあ行くのはだ」
「私も行きます」
「俺もなんだぜ」
すぐに日本と韓国が名乗りを挙げる。
「私の隠密行動は艦艇を降りてからも効果があります」
「俺の爆走もなんだぜ」
二人の能力はここでも発揮されるものだった。それで強い顔で名乗りを挙げたのだ。
「では行きましょう」
「惑星の港に降下してすぐなんだぜ?」
「はい、すぐです」
これは確かだとエルミーも答える、そしてだった。
ファルケーゼはすぐに総統官邸の傍の港に向かいそこから降下した、そしてだった。
エルミーの案内を受けて総統官邸の中に入る、周囲を見ている余裕はなかった。
「こちらです」
「わかった」
質素で機能的な官邸の長い廊下を進み奥に奥に入る、そして目の前に樫の重厚な、だが小さい扉を見た。その
扉の向こう側こそがだった。
「ここです」
「総統の部屋か」
「はい、総統閣下はこちらにおられます」
「ここまで何とか来られたがな」
エルミー達第三帝国の最高幹部達だけが知っている秘密の道の一つを通って来た、それでここまで来てだった。
「後は、だな」
「はい、中に入りましょう」
この扉も秘密の扉だ。ここを開けて中に入った。
すると目の前にレーティアが己の席jに座っていた、エルミーが一目でも会いたいと思っていた相手はそこにいた。
そしてグレシアにドイツ、プロイセンと妹達がいた。彼等が揃っていた。
レーティアはエルミーの顔を覚悟している顔で見て問うた。
「エルミー、何故ここにいる?」
「総統、お助けに参りました」
エルミーはドクツの敬礼をしてからレーティアに答えた。
「一刻の猶予もありまえせん、日本までお逃げ下さい」
「そこで生きながらえよというのか、私に」
「はい」
エルミーも決死の顔でレーティアに言う。
「お願いします」
「私はドクツの総統だ、国家元首ならば国家と共に滅ぶのが務めではないのか」
「ドクツは総統閣下がおられる限り何度でも蘇ります」
「だがそれは国民に対する裏切りだ」
彼を愛し忠誠を誓う彼等にだというのだ。
「私はここで自決する、後継者は御前に任じるつもりだったが」
「いえ、ドクツは総統あってのドクツです」
エルミーも退かない、必死の顔のままだ。
「ですから何としても」
「しかし私は」
「いえ、エルミーの言う通りよ」
拒もうとするレーティアにグレシアが言った。
「レーティア、ここはエルミーの言葉に乗りましょう」
「ドクツから逃げ去るというのか」
「そうするべきよ。貴女がいればドクツは何度でも立ち直れるわ」
「国民を見捨てるのか」
「違うわ。貴女がドクツに必要だからよ」
それ故に生きるべきだというのだ、グレシアもこう主張する。
「だからここは逃げて、いいわね」
「そう言ってくれるか。ならグレシア」
レーティアは逆にグレシアに顔を向ける形になって告げた。
「御前も来てくれ」
「私も?」
「私には御前が必要だ」
グレシアへの絶対の信頼を以ての言葉だった。
「だからだ」
「けれど私は貴女のいない間は」
代理としてまともに何も出来なかった、このことを悔やみながらの言葉だ。
「その私を」
「御前がいなくて誰が私のプロデュースをするんだ」
レーティアはアイドルとしての彼女のことからもグレシアに言う。
「それは誰だ」
「それは」
「御前しかいない、だからだ」
「そう、そう言ってくれるのね」
「頼む、共に来てくれ」
最後の気力を振り絞る様な言葉だった。
「しかも御前は艦隊指揮も出来るな」
「一応はね」
実はそちらも出来るグレシアだった。
「そろそろ貴女と一緒に最後の出撃に出るつもりだったけれど」
「より早く、共に出られればな」
「そうね。モスクワの敗北の時でも」
「大怪獣がいたそうだが既に攻略法はある」
「あるの、大怪獣にも」
「盾を備え潜水艦を使えば出来た」
それも可能だったというのだ。
「今更言っても仕方がないがな」
「けれどもう考えてあったのね」
「大怪獣といえども無敵ではない」
この世に無敵のものなぞない、レーティアはそこから考え答えを出したのだ。
「大怪獣のビーム攻撃を受けられるだけのバリアを備えそして姿が見えない潜水艦で集中攻撃を浴びせればだ」
「例え大怪獣といえどもなのね
「必ず倒せる」
レーティアは確信と共に言い切った。
「この世に沈まない船もなければだ」
「攻略出来ない要塞もなく」
「倒せない怪獣もない」
レーティアがこれまでの戦争で証明してきたことだ。
「そういうことだ」
「では総統」
エルミーは話が一段階したところであらためてレーティア達に告げた。
「今から」
「わかった、では日本に向かおう」
レーティアは苦い顔で応えた。そうした話をしていたが。
ここでドイツ妹とプロイセン妹が兄達に告げた。
「では兄さん達も日本に行って下さい」
「総統の護衛にね」
「待て、俺達が行くのか」
「御前等じゃねえのかよ」
プロイセンもこの場では深刻な顔になっている。
「御前達が行くべきだと思うが」
「何で俺達なんだよ」
「姫を守るのは騎士だからね」
プロイセン妹は笑って兄達にこう返した。
「だからだよ。この後はあたし達が何とかするからね」
「兄さん達は総統をお願いします」
「あとオーストリアさんにも行ってもらうから」
「今すぐお呼びします」
「ううむ、では後を頼む」
ドイツは考えたが妹達の心を受けることにした、そしてだった。
彼とプロイセン、それにオーストリアがレーティアとグレシアの護衛役も兼ねて脱出することになった。一行はすぐにレーティアの部屋を後にする。
その彼等にドイツ妹とプロイセン妹はドクツの敬礼で見送って言った。
「では後はお任せ下さい」
「国民は守るからね」
「頼む・・・・・・」
レーティアは二人に沈痛な声で告げた。
「それではな」
「日本までどうかご無事で」
最後にドイツ妹が切実な顔で返した。こうしてだった。
エルミーはレーティアを救出しベルリンを脱出した、連合軍は今にもベルリンから降下しようとしていたが日本の隠密行動により見付からなかった。
ファルケーゼはベルリンから離れ帰路についた、その中でだった。
グレシアがエルミーに対してこう囁いたのだった。
「ねえ、いいかしら」
「どうしたのでしょうか」
「今連合軍はドクツに戦力の殆どを向けているわね」
「はい、最後の戦いに向けて」
「ローマと北アフリカには憲兵すらまともにいないから」
それでだというのだ。
「ちょっと寄れるかしら」
「ローマと北アフリカにですか」
「危険を承知で拾っておきたい子達がいるのよ」
「拾って?」
「そうよ、拾っておきたい子達がね」
「ローマというとまさか」
エルミーはまずローマと聞いて考えて答えた。
「ムッチリーニ=ベニス統領ですか」
「ええ、そうよ」
まさにその彼女だった。
「今ローマのご自身の別荘に軟禁されているけれど」
「その様ですね」
「正直エイリスもどうでもいいという感じだからね」
イタリンには何処までも適当なエイリスだった。
「殆ど放置されてるから」
「共に日本に来て頂くのですね」
「そうしたいけれどどうかしら」
「確かに。ベルリンを出てから敵軍は来た時よりもさらに減っています」
数にして三分の一程度になっている。
「そのこともあってですか」
「ええ、いけると思うから」
「敵がいなければ本当にいいですが」
「いや、これがマジでいないんだよ」
プロイセンが出て来て左の人差し指を立ててエルミーに話す。
「イギリスもあいつの妹もイタちゃん達はどうでもいいと思ってるだろ、昔から」
「嫌ってはいませんがあからさまに警戒していませんね」
「だからあの統領さんのところにはイタちゃん達もいるけれどな」
「警戒はしていませんか」
「ああ、全くな」
何一つとしてだというのだ。
「凄い適当だぜ」
「それもある意味凄いですが」
敵国であっても警戒されないイタリンが凄いというのだ。
「しかし。ベニス統領は実は中々優れた資質の方ですし」
「あと実はイタちゃんとロマーノも普通に指揮値いいからな」
「えっ、そうなのですか!?」
このことはエルミーも知らなかった、プロイセンの言葉に目を丸くさせて応えた。
「イタリアさん達は戦えたのですが」
「確かに臆病だけれど艦隊指揮は結構出来るんだよ」
「そうだったのですか」
「そうだよ。だから日本帝国に行くのならイあの統領さんとイタちゃん達も連れて行こうな」
「わかりました。それでは」
エルミーはプロイセンにも言われてそれで頷いた、こうしてムッチリーニやイタリア達のところにも行くことになった。
その中でプロイセンは笑ってドイツにこう言った。
「相棒もそれでいいだろ」
「イタリア達もか」
「ああ、イタちゃん達もいてくれたら楽しくなるぜ」
「確実にこの艦内でパスタを欲しいとか言うが」
「そうだろうな」
プロイセンはこのことについても笑って言う。
「イタちゃん美食家だからな」
「そういう問題ではないが」
「相棒はいつもイタちゃん達に厳しいな」
「相棒が甘過ぎるのだ」
「俺は普通に接してるだけだよ」
「そうは思えないがな」
ドイツにしてみればプロイセンはイタリア達に甘過ぎる、そしてそれはグレシアも同じでこう日本達に言っていた。
「イタリア君達も来てくれたら賑やかになるわね」
「はい、確かに」
日本もグレシアのその言葉に頷いて答える。
「イタリア君達は陽気ですから」
「楽しみね。場がさらに賑やかになるから」
「私もそう思います」
「レーティアもイタリンが好きなのよね」
「そのお話は私も聞いています」
「スパゲティも好きだし」
レーティアの好物の一つだ。
「イタリア君達には色々と手助けもしてるしね」
「ドクツは昔からそうですね」
「元々神聖ローマ帝国だったから」
ドクツとイタリンの関係はそこからなのだ。
「だからね」
「それで、ですよね」
「そうなのよ。さて、イタリア君達が来たら」
グレシアは狭い潜水艦の艦内の中の相変わらず鍾乳洞の様にぶら下がっているソーセージやベーコンを見ながら言った。
「食生活もよくなるわね」
「何でドクツの料理はあんなに辛くないんだぜ」
韓国はそこが甚だ不満だった。
「唐辛子が足りないにも程があるんだぜ」
「そういう貴方は韓国さんね」
「そうなんだぜ。銀河の全ての起源なんだぜ」
「ううん、噂通りの国ね」
グレシアは韓国とはじめて会ったのだがすぐにこう思うことになった。
「起源が好きなのね」
「というかドクツはどうしてこんなにジャガイモが好きなんだぜ」
「ああ、ジャガイモのことね」
「この航宙中ずっと食ってるんだぜ」
「それでも飽きないでしょ」
グレシアは笑って韓国にジャガイモの飽きなさを話した。
「そうでしょ」
「それはその通りなんだぜ」
「ジャガイモは主食だからね、ドクツでは」
「パンじゃないんだぜ?」
「パンも主食だけれどジャガイモもなの」
これもだというのだ。
「主食だからね」
「それでエルミーさんも何かあると食ってたんだぜ?」
「そうなの。ソーセージに黒パン、ザワークラフトにアイスバイン」
そして残る二つこそはだった。
「ビールにジャガイモはドクツ人の必須よ」
「そういえば皆この艦内でもビールは絶やしていないな」
東郷もこのことについて言う。
「何があってもな」
「ドクツ人にとってはビールもだからね」
これもジャガイモと同じだけ重要なのだ。
「なかったら動かないから」
「そういうことだな。だから潜水艦の中でもビールはあるんだな」
「ええ、私もビールは好きだし」
ドクツ人だけにグレシアもそうだった。
「後で皆で飲みましょう。ジャガイモ、ソーセージと一緒にね」
「帰り道は想像以上に順調にいけそうです」
エルミーは潜望鏡を覗きながら一同に述べた、潜望鏡から見えるものは銀河の大海の他は何もなかった。
「ローマ、そして北アフリカもですね」
「そうよ、北アフリカにもよ」
グレシアはこのことをまたエルミーに話した。
「そこにも寄ってね」
「北アフリカには一体どなたが」
「若し情報が確かならね」
「確かならですか」
「ええ、ドクツの柱の一人がいるわ」
「それはまさか」
エルミーはグレシアの今の言葉から察した、北アフリカにいるのが誰か。
そのうえで目の光を鋭くさせてこう言った。
「あの方もおられればさらに心強いですね」
「そうでしょ。どうせだから連れて行けるだけ連れて行かないとね」
「太平洋に行ってからのことを考えると確かに」
オーストリアは右手を己の口に当て左手はその右手の肘に当てて思索する顔になってそれで述べた。
「より多くの人材が必要ですね」
「そうなのよ。祖国さんとプロイセンさんに貴方だけじゃなくてね」
グレシアはそのオーストリアにも話す。
「統領さんにイタリア君達も必要だし」
「あの方もまた」
「太平洋はガメリカも中帝国も加わったから最大勢力になったけれど」
経済圏としての国力、そして人材面でもそうなったのは事実だ。
「ソビエトもエイリスも底力があるからね」
「より多くの人材が必要ということですね」
「人材は多ければ多いだけいいわ」
そういうものだった、戦時においては人材は多いに越したことはない。平時でもそうであるが戦時は余計になのだ。
「だからよ」
「そういうことですね」
「ええ、じゃあまずはローマに行きましょう」
グレシアはまた行き場所を話した。
「統領さんのいる別邸の場所はわかってるわよ」
「なら話は早いな」
東郷もその話を聞いて安心する。
「統領さんやイタリアさん達とも無事に合流出来る」
「あそこにはイタリア君達と妹さん達の他にユーリ=ユリウス提督もいるわよ」
「ああ、あの眼鏡の真面目な人だな」
「そうなのよ。統領さんと一緒に軟禁されているのよ」
一まとめにされているというのだ。
「イタリンの首脳部が全員ね」
「それで警戒も緩いか」
「多分逃げられてもどうでもいいと思ってるのよ」
そこまでイタリンには適当なエイリスだった。
「実際エイリス軍はイタリン軍には何でもなく勝っていたというかイタリン軍はエイリス軍を見たら泣いて逃げ去っていたから」
「それは少し」
日本はそんなイタリン軍のことを聞いて引いていた。
「あまりにも」
「弱いっていうのね」
「戦力としてどうかと思いますが」
「そこがイタリア君達の可愛いところだけれどね」
グレシアもまたドクツ人だった、とにかくイタリンには優しい。
「私はいいと思うけれど」
「いいのですか?」
「可愛いでしょ。フォローはこっちですればいいし」
「そういうものでしょうか」
「あれで本気になってくれる時もあるから」
「それはどういう時ですか?」
「十一人以下で戦う時よ」
つまりサッカーの時である、戦争ではない。
「スポーツでは物凄く強いわよ」
「そのことは私も知ってはいますが」
「とにかく。統領さん達も入れて」
それでだった。
「日本に行きましょう」
「わかりました。それでなのですが」
「どうしたの、今度は」
「はい、総統のお姿が見えませんが」
日本は艦内を見たが確かにレーティアの姿だけはない。主だった顔触れは全員この艦橋にいるがそれでもだった。
「一体どちらに」
「総統はご自身の部屋におられます」
「そこにですか」
「脱出されてからずっとそこにおられます」
「船酔いではないですね」
「総統閣下は船に慣れておられます」
だからそれはないというのだ。
「ですがそれでも」
「お疲れなのでしょうか、また」
「ベルリンを出てからどうもお元気がありません」
ここでオーストリアもこう言う。
「塞ぎ込んでおられます」
「ドクツを見捨てて逃げたと思っているな」
東郷はその話を聞いてすぐに察した。
「ドクツを救えなかったと自分を責めそして何も出来なかったと無気力になっている」
「あの娘が、なのね」
「そうだ、だからここにも出て来ない」
東郷はグレシアにも話した。
「そういうことだろうな」
「まずいわね、折角命は助かったのに」
レーティアの虚脱状態はグレシアにとってもいいことではない、プロデースしている立場としてこう言うのだった。
「それではどうしようもないわ」
「どうするべきかな、ここは」
「とはいっても今はどうしようもないわ」
脱出している途中の艦内ではというのだ。
「時間を開けてそれでどうするかしかないわね」
「そうだろうな。だがレーティア=アドルフは人類にとって必要だ」
最早ドクツだけでなかった。
「何とかまた立ち上がってもらうか」
「ええ、日本に着いたらね」
グレシアもレーティアのことは心から心配して言った。そうした話もしながら一行はベルリンを脱出して日本に向かっていた。
レーティアがベルリンを脱出したことは連合軍の面々はまだ誰も知らない、カテーリンはモスクワにおいてモスクワに戻ってきていたロシアに対して言っていた。
「レーティア=アドルフは絶対に許さないから」
「この戦争を引き起こした張本人としてだね」
「そうよ、あの娘と宣伝相のグレシア=ゲッペルスは人民裁判にかけるから」
そしてだった。
「死刑よ、死刑」
「けれど今のソビエトには死刑はないよ」
カテーリンが帝政ロシアの悪行として廃止させたのだ。ロシアもそのことを指摘する。
「それはどうするの?」
「だったらシベリア送りよ」
それはそれで、だった。
「そこでずっと反省してもらうわ」
「そうするんだね」
「そう、とにかく絶対に許さないから」
こう生徒会室を思わせる質素な部屋の中でロシアに言う。
「何があってもね」
「そうだね。それで他のドクツ軍人はどうするのかな」
「全員再教育です」
カテーリンは彼等の処罰は既に決めていた。
「共有主義の素晴らしさを徹底的に叩き込みます」
「今あの元帥さんにしているみたいにだね」
「そうするから」
「そしてドクツの人達はどうなるのかな」
「東欧とプロイセンはソビエトの管轄になるから」
そこから言うことだった。
「東ドクツを建国させて全部共有主義国家よ」
「僕のお友達になってくれるんだね」
「祖国君は皆のリーダーよ」
カテーリン直々の任命である。
「頑張ってね」
「うん、僕頑張るからね」
「祖国君は凄い子だから」
実は祖国愛は強いカテーリンなのだ。
「世界のリーダーとして頑張ってね」
「太平洋では日本君がいてイギリス君まだいるけれどね」
「皆やっつけてあげるから」
このことはカテーリンは既に決めていた、同盟国であっても。
「そして皆共有主義を信じるの。皆平等になるの」
「カテーリンさんって平等であることに厳しいけれど」
「ロシア帝国の時は酷かったから」
カテーリンはその時のことを思い出して暗い顔になった。
「皇帝や貴族ばかりいい目を見てたじゃない」
「その時のことだね」
「農民や労働者は酷い生活をして。私だって孤児だったから」
カテーリンは自然と俯き暗い顔になった。
「その時先生やミーリャちゃん、祖国君達がいなかったら」
「ううん、カテーリンさんずっと一人だったよね」
「一人でいたら駄目なの」
カテーリンは顔を上げなおして言った。
「皆がいないと駄目なの」
「そうだね、そういうことだね」
「だから皆一緒になってお友達になるの」
「それが共有主義だよね」
「そうよ、共有主義は皆平等で財産もお金もない本当に素晴らしい社会だから」
この言葉には使命感があった。
「皆が信じるべきなのよ」
「何か皆凄く嫌がってるけれどね」
「君主や資産主義だからよ」
カテーリンは彼等が共有主義を嫌う理由をそこにあると考えていた。
「それでなのよ」
「資産主義だからなんだ」
「そう、だからよ」
あくまでこう言う。
「悪い閑雅を信じているからよ」
「その悪い考えをなくしていく為にもだね」
「まずはドクツに勝ちます」
このことは絶対の前提だった。
「そしてそれからです」
「エイリスを攻めるんじゃなくて」
「太平洋よ、あそこに一番悪い子が多いから」
資産主義者、そして君主制支持者のことだ。カテーリンにとってはそうした考えの人間こそが悪い子になるのである。
「だからあそこよ」
「日本君にアメリカ君に中国君に」
「三国の周りの国々もよ」
とにかく全ての国だった、太平洋の。
「懲らしめないと駄目だからね」
「じゃあドクツ戦の後再編成をして」
「攻め込みます」
こうした話もしていた、カテーリンはドクツ戦の後のことはもう考えていた、ロシアはその話を聞いてから前線に戻った。
ソビエトは勝利を確信していたしそれは間違いないことだった、だが思わぬ犠牲と考えてもいなかった者が出ることは想定していなかった。欧州に誰も考えていなかった事態が起きようとしていた。
TURN72 完
2012・12・7
無事にレーティアたちの元に辿り着けたな。
美姫 「脱出するまでも特に問題はなかったようね」
だな。ただ、帰りに二箇所寄るべき所ができたみたいだが。
美姫 「ローマは兎も角、北アフリカには誰かしら」
一体誰かな。
美姫 「このままドクツはソビエトに占領されるかと思うんだけれど」
最後に気になる箇所があったしな。
美姫 「一体どうなるのか、気になるわね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」