『ヘタリア大帝国』




                TURN71  ベルリンへ

 太平洋の戦いは日本帝国の予想外なまでの鮮やかな勝利jに終わった、ガメリカも中帝国も日本との講和の道を選ぶしかなく彼等はそれぞれ日本に国家が来てこう確約した。
「講和をして枢軸に入るぞ」
「太平洋経済圏に加入させてもらうある」 
 このことを約束するしかなかった。
「僕達は負けた、それなら当然だからな」
「正直信じられないあるがな、今でも」
「わかりました。それではです」
 日本は二人に穏やかな声で答えて述べた。
「これから宜しくお願いします」
「しかし賠償金もなく占領した領土も戻してくれるんだな」
「随分と寛大だと思うあるが」
「我が国は領土を求めていません」
 日本に同席している秋山が二人に答えた。四人で交渉のテーブルに着きそのうえで話しているのである。
「それに賠償金もです」
「こう言っては何ですが」
 日本も二人に言う。
「お二人と貿易をした方が一時的な賠償金よりも遥かに利益があるので」
「それに賠償金を出させるとどうしても遺恨が残ります」
 それが欧州でレーティア=アドルフが出た原因にもなった。あまりもの多額な賠償金によりドクツの経済が崩壊しドクツ国民のエイリス、オフランスへの憎悪が極限まで高まったからだ。
「ですからそれはです」
「避けました」
 秋山と日本は二人にこう話した。
「領土にしても他国の場所を占領すればそこに軍を置かねばなりません」
「その分軍事費もかかりますし市民の反感を買います」
「ですから領土も求めません」
「枢軸側、太平洋経済圏へ参加して頂くだけでいいです」
「そうか、それでだな」
「領土の割譲も賠償金もないあるか」
 アメリカと中国もここまで聞いて納得した。
「じゃあこのままだな」
「僕達は枢軸に鞍替えあるな」
「そうなります」 
 秋山はまた二人に述べた。
「ではこれから宜しくお願いします」
「うん、それじゃあな」
「あらためてお願いするある」
 二人は笑顔で秋山の言葉に応えた。太平洋経済圏は勝利を収めた日本を軸として形成された。太平洋は枢軸側の完全勝利だった。
 だがここで、だった。二人との会談を終えた秋山は日本と二人で食事を摂っている間に深刻な顔でこのことを話した。
「我々は勝利を収めましたが」
「欧州ですね」
「ドクツは敗れます」
 秋山は御飯とおかずの鶏の照り焼きを食べながら述べた。
「最早劣勢は覆すことが出来ません」
「そうですね、最早」
「レーティア=アドルフ総統が一時倒れられていたことが問題になっています」
「その様ですね」
「はい、そうです」
 まさにそうだと日本に話す。
「ファンシズムは一人の人物の権限が集中しますので」
「若しその人が倒れれば、ですね」
「あの様になります。私も見ていて気付きました」
「そうですか、そしてドクツは」
「欧州では連合軍の勝利に終わります」
 もうそれは間違いないというのだ。
「ドクツ、そしてイタリンは滅びます」
「ではムッチリーニ統領とレーティア総統は」
「ベニス統領はまだいいとしまして」
 彼女はどうなるかというと。
「別邸にでも軟禁されて終わりでしょう」
「あの方はそれで済ませてもらえますか」
「イタリンは毒にも脅威にもなりません」
 実際エイリス軍、セーラですら彼等に対しては特に厳しいものを見せてもいないし感じてもいない。それはソビエトも同じだ。
「ですから彼等はそれで許してもらえます」
「問題はドクツですね」
「はい、レーティア=アドルフ総統はこの度の戦争の一方の最高司令官です」
 それならばだというのだ、秋山の声は険しくなる。日本も飲んでいる味噌汁を卓の上に置いて彼の話を聞いた。
「その処罰は」
「かなり厳格なものとなりますか」
「あの方とグレシア=ゲッペルス宣伝相は死刑を免れません」
「そうですか、やはり」
「はい、 そうなるでしょう」
「残念なことですね」
 日本はレーティアの処刑について難しい顔で述べた。
「そうなりますと」
「私もそう思います」
「あの方は人類の歴史上最高の天才ですから」
「余計にですね」
「はい、そうです」
 日本もまた深刻な顔で秋山に述べた。
「何とかならないでしょうか」
「最早手遅れかと」
 秋山はその無念の顔で日本に答えた。
「ここからベルリンに兵を進めるにしましても」
「何ヶ月もかかりますね」
「スエズから北アフリカ、そしてイタリンと行くにしましても」
 進撃ルート、それも最短のものはわかっている。だがそれでもだった。
「エイリス軍の精鋭がいますし何ヶ月もかかっていますと」
「その間にドクツは攻め滅ぼされますね」
「東からはソビエト軍、西からはエイリス軍が「来ています」
「最早一刻を争う状況ですね」
「ですから今行くとしましても」
 ドクツは攻め滅ぼされレーティア達は処刑されてしまうというのだ、このことは最早自明の理にさえなっていた。
 秋山は全てがわかったうえで言うしかなかった。
「我々は今は中南米のアステカ帝国の相手をしてです」
「そしてですね」
「インド洋、満州方面から連合国が来ます」
「暫くすればですね」
「彼等はドクツとの戦いの後で戦力を再編成しなければなりません」
 彼等もドクツとの戦いでかなり消耗しているからそうなることだった。
「暫く時間はあります」
「そしてその間に」
「どちらを主な相手にするか決めなければなりません」
 連合国の残る二国、エイリスとソビエトのどちらを主な敵にするかというのだ。
「戦略として」
「そうですね。これまでイギリスさんは同盟国であるアメリカさんと中国さんが植民地の独立を承認しておられましたから」
「独立した国々に攻め込めませんでした」
 これがそのままエイリスの反撃を防いでいたのだ。
 だがそれがだった。
「ですがガメリカ、中帝国も枢軸側になりました」
「それ自体はいいとして、ですね」
「エイリスにとっては植民地の奪還が阻むものがなくなりました」
 それで植民地の奪還に動くというのだ。
「そうなります」
「その通りですね。あらかじめインド洋方面に艦隊を置いておいて正解でしたね」
「そう思います、私も」 
 秋山もこう言う。
「ソビエトも植民地については」
「反対ではありますね」
「しかし一時、日本とエイリスが戦う為にはです」
「一時黙認しますか」
 エイリスの殖民地奪還をだというのだ。
「そうしますね」
「間違いなく。戦略として正しいです」
「しかしそれをあのカテーリン書記長が許すでしょうか」 
 潔癖症で己を曲げないカテーリンがエイリスの植民地奪還を許すか、日本はこのことについて秋山に問うた。
「果たして」
「カテーリン書記長は個人的には反対でしょう」
「ですがそれでもですか」
「ソビエトの主な敵は今後は我々になります」
 枢軸である彼等がだというのだ。
「ですから内心はどう思っていても」
「黙認という選択肢を選ぶというのですね」
「そうしてきます。連合国は今度はソビエトとエイリスです」
 この二国になるというのだ。
「ソビエトは満州から主力を向けてくるでしょう」
「そうですね、それは間違いないですね」
「まずはアステカ帝国との戦いを終わらせます」
 こちらはというと。
「短期決戦にしましょう」
「即座に終わらせそして」
「エイリス、ソビエトに向かいます」
「そうあるべきですね」
「中南米は伊勢志摩と縁が深いのですが」 
 ここでこう言った秋山だった。
「少し外交で考えるべきでしょうか」
「スペインさんをこちらに引き込むのですか?」
「そうすべきでしょうか」
 日本に対して考える顔で言う。
「ここは」
「それからですか」
「スペインさんは中南米にも詳しいですから」
 その相手をこちらに来てもらい、というのだ。
「少し外相とお話してみましょうか」
「ですがそれですと伊勢志摩方面からもエイリスの攻撃を受けますが」
 つまりエイリスとの戦いで似正面作戦になるというのだ。
「ソビエトもありますから」
「はい、そこが問題ですね」
「どうすべきかですね」
「エイリスとの二正面作戦はあってはなりません」
 秋山もこう言い切る。
「決して」
「そのことをどうするかですが」
「一度御前会議で話してみましょう」
「今度の御前会議で、ですね」
「はい、それからです」
「アステカ帝国との戦いも外交が重要ですね」
「そうなりますね。確かに」
「では」
「はい」
 また言い合う二人だった。
「まずはアステカとの戦いを進めましょう」
「わかりました」
 秋山はドクツはもう救えないと見てこれからの戦略を考えていた。このこと自体は正しかった。だがそれに従えない者もいた。
 エルミーもまたドクツの現状を聞いていた。それでだった。
 ある日己の部下達に対してこんなことを命じた。
「ファルケーゼを出港させられますか」
「はい、何時でも出港できます」
 士官の一人がこう答える。
「ですがそれが何か」
「いえ」
 エルミーは己の言葉を引っ込めてこう士官に返した。
「何も」
「そうですか」
「気にしないで下さい」
 暗く沈んだ顔で返すだけだった。そのうえで港を去った。
 レーティアのことが気になって仕方がなかtった、彼女がこのままではどうなるかはエルミーもわかっていた。それ故にだった。
(お助けに行きたい・・・・・・)
 潜水艦でベルリンまで行きそのうえでだった。だが。 
 それはとても不可能だった、だがそれでもだった。
 エルミーはレーティアのことがどうしても気になっていた、その彼女に。
 東郷が来た、そして彼女にこう声をかけたのだった。
「行くか」
「あの、まさか長官は」
「ああ、気付いているさ」
 微笑んでエルミーに対して言うのだった。
「総統を助けに行きたいんだな」
「そうです。ですが」
 太平洋からベルリンはあまりにも遠い、しかもエイリス領を通っていかなければならない。距離もかなりのものでしかもベルリンに着くことも難しい。
 だが東郷は笑顔で言ったのである。
「何とかすることは出来る」
「いえ、それは何でも」
「潜水艦なら隠れて行ける、それにだ」
「それに?」
「俺だけじゃないからな」
 ここで東郷の後ろに日本、そして韓国が出て来た。まずは日本が穏やかな声でエルミーに述べたのである。
「スエズまでは一瞬で行けます」
「国家の自国なら何時でも瞬時に行ける能力を使えばですね」
「大使館は既に閉鎖されていますが」
 戦争に巻き込まれるのを避けて各国の外交官達は既にベルリンを去り中立国のスイスに一時退散している。
「しかしまずアラビアまで行き」
「そこからスエズにですか」
「はい、行けます」 
 まさに一瞬でだというのだ。
「このことはご安心下さい」
「そうですか。ですが」
 そこまでは何とかなった。だが、だった。 
 それでは不可能だった。エルミーは日本にこのことも話した。
「幾ら潜水艦でもエイリス領を幾つも通過しますから」
「私は忍者でもありますから」
「忍者、ですか」
「情報部の明石大佐と同じです」 
 日本は彼の名前も出した。
「私は隠密行動も出来ます。一隻位なら」
「問題なく、ですか」
「はい、潜宙に加えてそれも使えますので」
「ベルリンまで。帰りも含めて」
「いけます」
 そしてさらにだった。
 韓国が笑顔でエルミーに言ってきた。
「爆走の起源は知っているんだぜ?」
「確か遊牧民でしたね」
 エルミーは常識から話した。
「そうでしたね」
「違うんだぜ、俺なんだぜ」
「いえ、それは違うのでは」
「違うのはエルミーなんだぜ。爆走の起源もそれなんだぜ」
「あっ、そういうことですか」
 エルミーはここでやっと思い出した、韓国の趣味は起源の主張なのだ。
 それで爆走についてもそうなる、エルミーはこのことを思い出してからあらためて彼に応えた。
「起源ですね」
「そういうことなんだぜ」
「とにかく爆走を使えば」
「スエズからローマまで一気なんだぜ」
「そしてそこからベルリンまでも」
 爆走を使えばベルリンまで合わせて二月だった。普通なら三月かかるが。
 この一月の違いは大きい、エルミーは頭の中で戦局と計算してから言った。
「ぎりぎりで間に合いますね」
「はい、それではです」
「今から行くんだぜ」
「祖国さんと韓国さんがいるから大丈夫だ」
 だからこの二人を連れて来た東郷だった。彼はそこまで考えてエルミーの前にこうして出て来たのである。
「じゃあ今から行くか」
「長官もですね」
「もう帝ちゃんと柴神様には話しているからな」
 絶対の信頼が置ける二人には、だった。
「ただ宇垣さんや秋山には話してないがな」
「お二人は絶対に反対されますので」
 日本が答える。
「あと心配性の平良さんにもです」
「あの人いつも俺に凄く親身なんだぜ」
 韓国が言う。彼はそもそも海軍でもかなり有名な勤勉家である。
 だから韓国の軍事顧問として常に相談に乗っている、そして韓国のことを心から心配しているが故にだったのだ。
「だから逆に話せないんだぜ」
「それでこっそりですか」
「アドルフ総統を救出できればかなりのことです」
 日本はエルミーに真剣に述べた。
「人類史上最大の天才を失ってはいけません」
「それにあの人が太平洋に来てくれれば凄いからな」
 東郷は国益から話した。あえて自分の感情は述べなかった。
「経済政策も技術も飛躍的によくなる」
「今以上にですね」
「ようやく第六世代の艦艇を普通に配備出来る様になったがな」
「その第六世代の艦艇をですね」
「改良出来る、だから大きい」
 こうエルミーに話す。
「今から行こう」
「ベルリンに、ですね」
「道はわかるよな」
「はい」
 このことはエルミーもよく知っていた。
「日本に来るまでに通った道ですから」
「ならいいな。今から行こう」
「有り難うございます」 
 エルミーは涙を抑えて三人に礼を述べた。
「総統の為にそこまで」
「困っている女の子は見過ごせておけないからな」
 東郷はいつもの軽い調子で述べた。
「だからだ、気にするな」
「長官は男性にも優しいので」
 日本はエルミーに東郷の隠している部分も話した。
「こうしたことは絶対に見過ごされません」
「そうですね。長官はそうした方ですね」
「ははは、男はどうでもいいんだがな」
 東郷はこのことについてはこう言いつくろった。
「まあとにかく行くか」
「それでは」
 こうしてエルミーは東郷や日本達の助けを受けてレーティアの救出に向かった。秋山はそれと入れ替わりに海軍長官室に入った、だがここで。
 置手紙を見てまずは卒倒した、それから彼を必死に探したが。
 海軍省に来ていた日本妹にこう言われたのだった。
「長官なら兄さん達と一緒にエルミーさんの潜水艦に乗り込まれましたよ」
「まさか」
 秋山は即座にわかった、それだけで。
「レーティア=アドルフ総統の救出に」
「はい、行かれました」
「そんな話は初耳ですが」
「いえ、帝と柴神様は御存知ですが」
「そして妹さんもですか」
「出港間際に兄さんに言われました」
 日本は妹には話したのである。
「少し留守にすると」
「しかし何故私に仰らなかったのか」
「秋山さんはお話を聞かれたらどうされていました?」
「当然止めています」
 あまりにも無謀だからだ。常識はの秋山は即座に答えた。
「無茶です、幾ら何でも」
「兄さんの隠密行動と韓国さんの爆走があってもですね」
「韓国さんも行かれたのですか」
「はい、そうです」
「それでは」
 秋山はこのことから一つの未来が見えた、そしてその未来が今目の前に来た。
 平良は何とか普段の冷静さを保ちながら秋山達の前に着て問うてきた。
「韓国殿のお姿を見ませんでしたか」
「ベルリンに行かれました」
 日本妹は彼にも答えた。
「アドルフ総統を救出に。兄さん達と共に」
「・・・・・・・・・」
 平良はまずは沈黙した。そして何とか己を保つ努力を必死にしながらこう答えた。
「無謀に過ぎますが」
「兄さんと韓国さん、それにエルミー提督の潜水艦がありますが」
「成功するとは思えません」
 平良も秋山と同じ見立てだった。彼とは違い何とか己を保っているが。
「危険に過ぎます」
「そうです、スエズ等を通過するのです」
 秋山はエイリス領の危険性を話した。
「エイリス領を幾つも通過するなぞ」
「しかしアドルフ総統を救出して日本にご招待出来れば」
「確かに大きいです」
 そのことは秋山もわかっていた。
「かなり、ですが」
「それでもですね」
「正直ベルリンまで辿り着けるとは思えません」
「いえ、長官なら必ずやってくれます」
「総統を救出出来るのですか」
「間違いなく」  
 日本妹は確かな顔と声で秋山に告げた。
「兄さんもいますから」
「祖国殿もおられることはわかっていますが」
「長官も兄さんも信頼しておられますね」
「無論です」
 このことは確かだった。秋山にしても。
「そのことは」
「そしてお二人は確実に可能なことしかされませんから」
「大丈夫ですか」
「お待ちしましょう、今は」
 日本妹は微笑んで秋山に話した。
「そうしましょう」
「それしかありませんか」
「今は」
 秋山だけでなく平良も何とか納得した、日本妹はその二人にさらに言った。
「このことは極力秘密に、出来れば宇垣さんと山下さんと」
「私達にですね」
「後はアメリカさん、中国さん、フランスさんだけでしょうか」
 国家にしても原始の八人のうちの三人だけだった。
「この方々に兄さんがいない間色々と頑張ってもらいましょう」
「ダグラス大統領と中帝国の新帝にもですね」
「限られた方々だけに、まだアステカ帝国との戦いは先ですし」
「長官達が帰られてすぐになるでしょうね」
 平良は時間的なことをすぐに計算して述べた。
「それからですね」
「そうなりますね」
「今はまだ大丈夫ですか」
 新たな戦いの前に海軍長官の不在は避けられるというのだ。
「ならいいですが」
「しかし。長官はいつもとはいえ」
 秋山はまだ言う、胃の痛みを感じながら。
「何をされますかわかりません」
「そうですね。ですがそれが常に後になって正解だとわかります」
「あの方ならではありますが」
「ここはあの方の帰還を待ちましょう」
 これが日本妹の今の言葉だった。
「そしてレーティア=アドルフ総統をお迎えする準備を」
「そうですね。しかし」
「しかし?」
「問題はあの方のお心です」
 平良はレーティアのことを言うのだった。
「敗戦と挫折で虚脱状態に陥っていなければいいのですが」
「そのことですか」
「果たしてそのことは」
「わからないですね。ですがそれでも」
「総統が生きておられることがですね」
「まず大事ですから」
 何事も命あってのこと、日本妹はこう平良に返した。
 このことを話してそしてだった。
 彼等は今は東郷の帰還を待つだけだった、それしか出来なかった。
 エルミーが動かしているファルケーゼはエイリス領に入っていた、スエズは確かに多くの艦艇が集結している、だがだった。
 全く警戒されていない様にエルミーは意外といった顔で言うのだった。
「何か無関心な様な」
「敵の数は多いがな」
「港にいるだけです」 
 周辺の哨戒すらしていない、それでスエズは楽に通過できそうだった。
 そのことを東郷に話すと彼はこう言った。
「モントゴメリー提督がいないせいだな」
「あの人がですか」
「今ここにいるのは総督だけだな」
「エイリスから派遣された貴族のですね」
「エイリスは確かに立派な王族と騎士提督達がいる」
 そして優秀かつ忠誠心に満ちた将兵達だ。エイリス軍の強さは人材の強さでもあるのだ。
「彼等がな。しかしだ」
「貴族達はですか」
「どうしようもなく腐敗している」
 東郷はこのことを指摘した。
「そして軍事的に無能な奴ばかりだ」
「だからですか」
「哨戒も杜撰だ。これならだ」
「無事に通過出来そうですね」
「油断は出来ないがな。しかし」
 ここで東郷は自分の周りを見回した。今彼等は潜水艦の中にいる。
 潜水艦の中は狭くしかも機能的なものしかない、その中を見回して言うのだった。
「潜水艦の中はな」
「狭いですね」
「ああ、正直に言うとな」
「元々駆逐艦を改造したものですし」
 駆逐艦は軍艦の中でも比較的小型である。
「それも当然です」
「しかしその駆逐艦よりもだな」
「はい、隠密性を重視して総統が設計、開発されましたので」
「余計に小さいんだな」
「極限までそうしています」
「だからか。それこそ食料は席の中にまで詰め込んで」
 そこにはジャガイモが入っている。そして天井からは。
「ソーセージも吊るしてか」
「パンもありますが」
「乾パンが多いな」
「はい」
 保存としまいやすさを考慮してである。
「そうなっています」
「何もかもを切り詰めて設計、開発したんだな」
「それは日本軍の潜水艦も同じでは」
「その通りだ。だが日本帝国軍の艦艇はまだ大きい」
「潜水艦もですね」
「そこが違うな」
 東郷は鍾乳洞の様にぶら下がっているソーセージ達を見ながら言った。
「やっぱりな」
「そうかと」
「ですがこれでは満足に動けないではないでしょうか」
 ここで日本も言ってきた。
「艦内では」
「移動ですか」
「そうです。ここまで狭いとなると」
「多少の不便は我慢していますが」
「それでもドクツの方は我々よりも体格がいいですから」
 日本人よりドクツ人の方が大柄である。
「長官にしても」
「確かに長官は長身でもあられますね」
 小柄なエルミーから見ると余計にだった。
「確かにこの艦の中では狭いですね」
「はい、ですから」
「何度も申し上げますが我慢しています」
 エルミーが言うことはこのことに尽きた。
「多少の不便は。それにこのファルケーゼはまだ大型です」
「潜水艦の中ではですね」
「はい、まだ動きやすいですが」
 艦内で、だというのだ。
「それでもやはり」
「はい、ドクツの方ではと思うのですが」
「居住性ですか」
「このことも課題になりますね」
「確かに。言われてみますと」
 エルミーも日本に言われて考えに入った。
「あまり居住性が悪いと将兵の士気にも関わりますね」
「しかもストレスが心身に蓄積されますので」
「潜水艦の課題ですね」
「艦内での運動が出来る位でなければ」
 今は一応各自でサーキットトレーニングはしている、シャワーもある。
 しかしやはり居住性はよくない、それでだった。
「問題があるかと」
「わかりました、総統にお話してみます」
「ベルリンに向かいましょう」
「後もう時間だな」
 また東郷が言ってきた。
「食事の時間だが」
「ソーセージにシチューに」
 日本は手元にあった今度のメニューを見ながら読み上げる。
「それにジャガイモのクリーム煮にライ麦パン、そしてオレンジですか」
「オレンジは冷凍させたものを解凍させたものです」
「これだけですね」
「栄養価は充分です、ご安心下さい」
「唐辛子はないんだぜ?」
 韓国はどうしてもこのことが気になりエルミーに尋ねた。
「それはないんだぜ?」
「唐辛子、ですか」
「食う時には欠かせないものなんだぜ」
「あの、唐辛子は特に」
 エルミーは怪訝な顔になり韓国の問いに答えた。
「ありませんが」
「何っ!?それはどういうことなんだぜ」
「ドイツ料理はお塩に胡椒だけです」
 それにソース位だった。
「その他には」
「唐辛子はないんだぜ!?」
「あることにはありますが」
 だがそれでもだというのだ。
「それでもです」
「少ないんだぜ」
「我慢して頂けますか?今回の間だけは」
「俺は唐辛子がないと死んでしまうんだぜ」
 それが韓国だ、韓国は唐辛子がないとどうしようもない。
 だからここでこう言ったのだった。
「もう生きる希望を失ったんだぜ。この航宙の間は寝ているんだぜ」
「そんなこともあろうかと思いまして」
 だがここで日本が言う、そしてだった。
 その手に山程の乾燥させた唐辛子を出して韓国に告げた。
「どうぞ」
「あっ、持って来たんだぜ」
「ドクツ料理は唐辛子を使わないので」
 当然ドクツ軍人しかいないこのファルケーゼの中もだ。
「ですから」
「そうか、それじゃあ喜んで使わせてもらうんだぜ」
「すいません、そういえば韓国さんは唐辛子がお好きでしたね」
 エルミーもここでこのことを思い出して言った。
「それもかなり」
「韓国さんは辛口志向なので」
 またエルミーに話す日本だった。
「このことは覚えておいて下さい」
「そうなのですね。では」
「あと私は醤油です」
「すいません、お醤油も」
「それも持って来ています」
 見れば日本の後ろには醤油の一升瓶が幾つかある。それも用意していたのだ。
「お気遣いなく」
「すいません、そこまでは考えられませんでした」
「私達のことですから。それに」
「それに?」
「一人では気付かないことも多くの人がいれば」
「気付くんですね」
「はい、そうです」
 こうエルミーに言うのだった。
「一人より皆です」
「我がドクツでは」
 ファンシズムの国だ、それではだ。
「全ては総統が考えられ決定されてそのうえで」
「皆が動くのですね」
「ドクツの全てがです」
「まさにドクツの頭脳なのですね」
「その通りです」
「人間はそれでいいですが国家は違いますね」
 この場合は日本やドイツという実体として出ている国家ではない。日本帝国やドクツ第三帝国というシステムとして存在している国家だ。
 そのシステム、領土として存在している国家はどうかというのだ。
「頭脳は幾つもあり分担して行う方が」
「いいこともあるのですね」
「ドクツの敗因は。お言葉ですが」
 日本はこう前置きして再びエルミーに話す。
「レーティア=アドルフ総統に全ての負担がかかったせいで」
「過労で倒れられてその間に手遅れになったからですね」
「はい、そのせいです」
 こうエルミーに話すのだった。
「おそらくモスクワの敗北もあの方がご健在なら」
「すぐに修理や補給、敵兵器への対策を出されて」
「再びモスクワ攻略となり成功したでしょう」
「総統閣下は相手がわかれば必ず攻め方を見つけられる方です」
 これがレーティアだ、彼女の天才は軍事にも及んでいるのだ。
 だから相手が彼等は知らないが大怪獣ニガヨモギであっても攻め方を出す、しかしその彼女がいないならばだった。
「ですがそれも」
「あの方がおられればこそですから」
「そういうことになりますね」
「ドクツは確かにあの方がおられます」
 人類史上最高の天災であるレーティア=アドルフがいる、このことは間違いない。
「しかしあの方に全てを頼るというのも」
「今回の事態を招くことですね」
「そう思います」
 日本はこうエルミーに述べたのである。
「ドクツの弱点です」
「そうなりますか」
 エルミーも深刻な顔で頷いた。彼女も日本が言うことが理解できその通りだと思ったからだ、そしてそのうえでだった。
 ドクツの方角を見てこう日本に述べた。
「では。総統閣下をお救い出来れば」
「その時はですね」
「このことを総統閣下にお話したいと思います」
「そうして下さい」
「ドクツには人材も多いです」
 全てレーティアが見出した人材だ、彼女は人を見る目もあるのだ。
「その方々のお力を得られれば」
「総統の負担もかなり減ります」
「そうさせて頂きます」
 こうした話もしながら彼等はベルリンに向かう、彼等は密かに遠いその星域に向かっていた。殆ど誰も知らないうちに。


TURN71   完


                          2012・12・5



ドクツの敗北はもう目の前。
美姫 「ようやく東郷たちもレーティア救出に動けるようになったけれど」
果たして間に合うか。
美姫 「流石に長官と祖国さんが揃って不在となる以上は誰にも黙っては行かなかったわね」
帝と妹さんに柴神、限られた人にはやっぱり伝えてないとな。
美姫 「後は不在の間の指揮や何やらで秋山にも教えておかないといけないんだけれどね」
まあ、彼の場合は時間も限られているし、作中にあったように事後承認にせざるを得なかったと。
美姫 「相変わらず苦労を背負い込む事になる人ね」
だな。さて、無事に救出できるのかどうか。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



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