『ヘタリア大帝国』




               TURN70  ドクツ軍の崩壊

 太平洋軍の快進撃は続き遂にはワシントンに迫ろうとしていた。だがその快進撃の中でエルミーは暗い顔だった。
 その彼女に秋山が声をかけた。
「お気を確かに」
「すいません」
「総統が表に出られました」
 今丁度艦内テレビで演説をするレーティアが出ている。秋山はそのレーティアを見ながらエルミーに話すのだ。
「ですから」
「安心していいですね」
「ドクツは挽回できます」
 エルミーを気遣っての言葉だ。
「ですから今は」
「もうすぐワシントンに進軍ですね」
「ガメリカとの戦いはこれで終わりです」
「そしてですね」
「はい、太平洋の戦いはこれで終わりです」
「ガメリカを倒したなら中帝国も講和の席に就きますね」
「水面下ではもう交渉しています」
 ガメリカはもうアメリカがこちら側にいる、ワシントンを陥落させれば戦争が終わることはもう明らかであるのだ。
 そしてそれに加えてなのだ。
「中帝国もガメリカが降伏したならば」
「その時に即座にですね」
「講和となります」
「太平洋での戦いは間も無く終わりますね」
「そうなっています」
「秋山さんはこの戦い勝てると思っていましたか?」
「正直望み薄だと思っていました」
 これは東郷もだ。日本帝国が太平洋で勝ち残ることはまず無理だと思っていたのだ。 
 だが彼等は生き残った、そして今なのだ。
「奇跡に等しいです」
「実は私も」
「デーニッツ中将もですね」
 これが今のエルミーの階級だ。
「我々の戦いについては」
「まさか。ここまで至るとは」 
 やはり思っていなかった。
「まさに奇跡ですね」
「やはりそうですね」
「インド洋、そしてガメリカでも勝ち残りましたから」
「答案アジア、オセアニアだけでも大変でしたが」
「しかし全ての戦いに勝ち残りました」
「やはりそれは奇跡ですね」
「奇跡を起こせるだけの力があったのです」
 日本帝国にそれがあった。エルミーは今そのことをはっきりと感じ取っていた。
 そのうえで考えを切り替えてこう秋山に答えた。
「だからこそ今に至れたのです」
「奇跡を起こせる力ですか」
「まず魚を使いましたね」
「はい」 
 魚達を艦隊に組み入れる、これは確かに画期的だった。
「そしてコーギーさんやアストロパンダさんも提督にされましたし」
「どちらも苦肉の策でしたが」
「しかしそれが序盤の快進撃の要因となりました」
 戦える戦力となったからだ。
「それから次々に国家と提督を加えられ」
「戦力を増強させていけました」
「それが続いて中帝国に勝利した後で東南アジア、オセアニアを独立させ」
「インド洋もまた、ですね」
「そうです。ガメリカもハワイにおいてその戦力で破り」
 この辺りから技術的、国力的に余裕が出来てきた。
「カナダ、アラスカも手に入れられました」
「敵戦力の主力を撃破した後で手薄で豊かな星域を攻める」
 日本帝国、太平洋軍の基本戦略だ。
「そうしてきた結果ですね」
「日本帝国は今に至れました」
「我々の戦略は正しかったですね」
「東郷長官の戦略はお見事です」
 全ては彼の戦略だ。その結果今に至るのだ。
「その戦術もまた」
「見事ですか」
「はい、お見事です」
 エルミーはまた秋山にこの言葉を出した。
「よくぞここまで果たされました」
「私も長官の戦略や戦術には驚いています」
「奇抜ですね。そしてそれでいて」
「理に適っています」
「確かに魚やパンダさん達を使われることは奇抜です」
「しかしそれは日本帝国軍を支えました」
 パンダ達は今も現役で働いているが流石に魚達は現役を退き水族館に戻っている、そして今は第六世代の艦艇が量産され配備されていっている。
「大きな力でした」
「その戦力が序盤の快進撃に至りました」
「魚は癖が強いですが確かに戦力として大きいです」
「その通りですね」
「それを使われた長官の慧眼です」
 秋山は何だかんだで東郷を敬愛している。実は人間的にもそうなのだ。
「ここまで至れたのも全てあの方のお陰です」
「日本は素晴らしい名将を擁していますね」
「そう思います。それでなのですが」
「これからですね」
「そうです。まだ戦いは続きます」
 今度はアステカだった。この国の動きが今太平洋軍では注視されている。
「提督にはこれからもお願いします」
「わかっています」
 今はレーティア、そしてドクツのことは忘れて頷く。暗澹たるものを感じずにはいられなかったがそれでも今は忘れるしかなかった。
 北アフリカにエイリスの大軍が来た、ロンメルはまずその数を聞いた。
「二十個艦隊ですか」
「はい、それだけです」
「多いという規模じゃないな」
 ロンメルは部下から聞いたエイリス軍の規模を聞いて述べた。
「イタリン軍は十個艦隊いるが」
「ですが」
「わかっている。今からイタリア君達に話そう」
 ロンメルは早速旗艦のモニターを開いてイタリアとロマーノに対して言った。
「君達はすぐにナポリまで撤退してくれ」
「うん、そうするよ」
 元々そのつもりだったイタリアは明るい笑顔でロンメルに応えた。
「エイリス軍強過ぎるよ。何であんなに怖いんだよ」
「後詰はこちらで受け持たせてもらう」
 ロンメルはそのイタリアを安心させる為に微笑んでこうも告げた。
「君達は即座に撤退してくれ」
「じゃあロンメルさん達は」
「ナポリでパスタの用意をしてくれるかい?」
 ここでも微笑んで言うロンメルだった。
「ワインとね」
「うん、じゃあ待ってるよ」 
 イタリアもロンメルの心に気付いて答えた。
「プロイセン達の分もだね」
「おうよ、ナポリで無事を祝って乾杯だぜ」
「イタちゃん達の手料理楽しみにしてるよ」
 ここでプロイセン兄妹が笑顔でモニターに出て来てイタリアに告げた。
「じゃあイタちゃん達はな」
「ナポリでパスタとワインの用意だよ」
「ピザも作るからね」
 イタリアはパスタだけではなかった。これもあった。
「パスタだって色々あるからね」
「生きて帰って来いよ」
 ロマーノも今はこう言う。
「来ないと許さないからなこの野郎」
「安心してくれ。俺達は死なない」
 ロンメルはロマーノにも笑顔で応える。
「ワインを楽しみにしている」
「じゃあロンメルさん後お願いするよ」
「待ってるからな、ナポリで」
 二人はこうロンメル達に告げて即座に撤退に入った。イタリン軍十個艦隊は脱兎の如くナポリまで逃げ出した。
 その撤退の姿を見てプロイセン妹は笑顔で言った。
「イタちゃん達らしいね」
「ああ、あれがいいんだよ」
 プロイセンも暖かい笑顔である。
「イタちゃん達のよさだよな」
「そうだね。ああじゃないとね」
「不思議とな。嫌味がない」
 ロンメルも彼等を見送りながら笑顔になっている。
「イタリア君達は嫌いになれないな」
「どうもドイツの兄貴はイタちゃん達に厳しいけれどね」
「けれど相棒も決して嫌いじゃないからな」
 友達と思っているからこそ厳しくしているのだ。
「まあ。イタちゃん達はこれで行ってくれたし」
「俺達もかかるか」
「そうだ。撤退する」
 ロンメルはあらためて二人に告げた。
「とはいってもこのまま逃げてもだ」
「それでもだね」
「今はちょっとだな」
「足止めをしないとエイリス軍は即座にナポリに来る」
 そうなっては撤退しても意味がないというのだ。
「だからだ」
「足止めするんだな」
「そうしなければならない」 
 ロンメルは確かな声でプロイセンに告げる。
「今は。ただ戦うとなると」
「こっちは三個艦隊でな」
 ロンメルとプロイセン兄妹がそれぞれ率いている三個艦隊、それが北アフリカのドクツ軍の戦力である。
 そしてそれに対してエイリス軍はだった。
「二十個艦隊だからな、向こうは」
「まともに戦える相手じゃない」
 数が違い過ぎた。
「足止めすらだ」
「出来ないよな」
「戦っての足止めは無理だ」
 ロンメルはまた言う。
「とてもだ」
「ならどうするんだ?」
「既に策は仕掛けてある」
 ロンメルは微笑んでプロイセン達に答えた。
「俺達も無事にナポリに撤退する」
「じゃあここはか」
「ロンメルさんに期待していいんだね」
「そうさせてもらえると有り難い」
「じゃあ今からな」
「撤退しようね」
「芝居を打ったうえでな」
 ロンメルは芝居の話もした。そしてだった。
 彼等はまずはエイリス軍を迎え撃った。モンゴメリーはそのエイリス軍を率いて今ドクツ軍を見ていた。
 そして彼はあることに気付いた。
「おかしいな」
「はい、そうですね」
 モニターからイギリス妹が応える。
「三個艦隊と聞いていましたが」
「前方には三個艦隊、いや」
 ロンメル達の他にまだいた。
「五個艦隊ですね」
「ドクツ軍の援軍、いや」
 モンゴメリーは真剣な顔で述べた。
「今のドクツにそうした余裕はない筈ですが」
「そうですね。それは」
「妙です。しかし援軍ならば」
 慎重さ故にだった。モンゴメリーは援軍の可能性を否定出来なかった。
 その為イギリス妹にまずはこう言った。
「迂闊に進んでは危険です」
「そうですね、ここは」
 イギリス妹もモンゴメリーと同じく慎重派である、それが為だった。
 彼等は今は慎重に進むことにした。しかも。
 彼等のレーダーには五個艦隊だけではなかった。さらにだった。
「右に伏兵です」
「はい、確認しました」
 モンゴメリーはまたイギリス妹に答えた。
「十個艦隊ですね」
「これはイタリン軍ですね」
 伏兵にしては多いが彼等はこう考えた。それはイタリン軍の弱さ故にだ。
「十五個艦隊もいるとなると」
「結構な戦力です。ですから」
「ここは一旦様子見ですね」
「はい、そうしましょう」
 モンゴメリーはイギリス妹に話した。
「迂闊に攻めては危険です」
「まさかイタリン軍まで攻撃に出るとは思いませんでした」
「その通りですね。それでは」
 こうして慎重策に出ることにした、そしてだった。
 彼等は暫く様子見で動きを止めた。その間に。
 ロンメルは密かに三個艦隊をまた持って来た。それはというと。
「ああ、これもか」
「ダミーなんだで」
「ただのハリボテだ」
 ロンメルは今種明かしをした。
「戦力としては何でもない」
「本当にただあるだけの」
「張子の虎だね」
「しかし軍艦には見える」
 このことが重要だった。
「そしてこのハリボテを見せて戦力を思わせているうちに」
「俺達はこの北アフリカから撤退する」
「そういうことだね」
「それでいいな」
「よし、じゃあ今のうちに」
「撤退だね」
 プロイセン兄妹も応えてだった。
 ドクツ軍は密かに撤退した。モンゴメリー達が気付いた時には彼等はもう無事ナポリまで撤退してイタリア達とパスタやピザ、ワインを楽しんでいた。
 東部戦線に展開していたドクツ軍は今はシャイアンに集結していた。そこでようやく満足のいく修理や補給を受けられた。
 マンシュタインは戦える状況に戻ったドクツ郡を見回して言った。
「総統閣下のお陰ですな」
「そうだな。しかしだ」
「過労だったとは」
 ドイツに応える。このことは密かに上層部に伝えられていた。
「それで修理や補給が滞っていたとは」
「大事な時にな」
「全くです。しかし言っても仕方のないことです」
 マンシュタインはドイツに謹厳な声で述べた。
「大事なのは今どうするかです」
「その通りだ。だが」
「はい、我が軍は今十六個艦隊です」
「親衛隊が全滅したからか」
「それに対してソビエト軍は百個艦隊以上」
 彼等の数はさらに増えていた。
「これまでは電撃戦により相手の数が多くとも勝利を収めてきましたが」
「今は電撃戦は使えない」
「しかも敵の数が違いすぎます」 
 六倍近い、それではだった。
「勝てるものではありません」
「ではどうする」
「しかし退く訳にはいきません」
 シャイアンを奪われるとドクツ本土だ、それならばだった。
「ここで戦うしかありません」
「そうだな。では戦うか」
「行きます」
 マンシュタインは言った。こうしてだった。
 ドクツ軍十六個艦隊はシャイアンに展開した。それに対して。
 ジューコフ率いるソビエト軍は圧倒的な数で迫っていた。その彼等を率いるジューコフは重厚な声でロシアに述べた。
「数はこちらが圧倒しています」
「それでもだよね」
「はい、ドクツ軍は強力です」
 その装備も将兵の質もだというのだ。
「油断はできません」
「じゃあこの戦力で一気に攻めて」
「数で押し切ります」
 単純だがそれだけに効果的な作戦だった。
「ビームの一斉射撃を続けて」
「そして突撃だね」
「退く艦艇は後方から撃ってでもです」
 非常手段だがそれを使ってもだというのだ。
「攻めます」
「そうだね。とにかくこの戦いで勝って」
「次はドクツ本土です」
「まずはプロイセンからで」
「そしてベルリンです」 
 次はそこだった。
「一気に攻めますので」
「そうしようね」
「では」
 こう話してソビエト軍も動いた。彼等はその数を頼りにドクツ軍に迫る。
 ジューコフはコンドラチェンコに言った。
「同志コンドラチェンコ、パイプオルガンだ」
「あれですか」
「まずは私がビームの一斉射撃を浴びせる」
 その圧倒的な数のビーム砲によってだというのだ。
「それからだ」
「俺がパイプオルガンを使って」
「一回の攻撃で決める」
 まさに一撃でだというのだ。
「そうしよう」
「それでは」 
 ドクツ軍から最初に攻撃が来た、マンシュタインは果敢にビームを放たたせる、射程も個々の威力もソビエト軍より上だ。
 だがそれでも数が少ない。それで今のソビエト軍はどうにもできなかった。
「流石に数が違いますね」
「数は力です」 
 ジューコフはリトアニアにも答える。旗艦ソビエツスキーの艦橋でしかと戦局を見ている。
「幾ら敵の装備がよくとも」
「数が圧倒していればですね」
「勝てます。では」
「はい、ビームの一斉攻撃ですね」
「リトアニア殿にはご親友への再会を」
 それをプレゼントするというのだ。
「楽しみにして下さい」
「別にそれは」
「宜しいですか」
「そこまではいいですから」
 リトアニアは謙遜してジューコフに返す。
「とにかく勝つことです」
「わかりました。それでは」
「はい、勝ちましょう」
 リトアニアはジューコフに返しそしてだった。
 彼等は照準を定めなかった。その数を頼みにビームの一斉射撃を放った。
 百個艦隊の攻撃は地点攻撃だった。だがそれは今の数で劣るドクツ軍をまともに撃った。
 光は壁となってドクツ軍の艦艇を撃つ。銀河に現れた破壊の光の壁は彼等を容赦なく撃ちのめし破壊していった。
 それは最早戦闘ではなく一方的な攻撃だった。しかも。
 今度はコンドラチェンコがドクツ軍を見据えて命令を出した。
「ミサイル発射用意」
「一斉射撃ですね」
「ああ、カチューシャだ」
 それだとベラルーシに述べる。
「それでいこうな」
「わかりました。それでは」
「ベラルーシさん達jの方も準備はいいな」
「はい」
 ベラルーシは静かな態度で答える。だが威圧感は健在だ。
「何時でもいけます」
「じゃあ今からだな」
「はい、ミサイルの一斉射撃ですね」
「それをはじめるからな」
 ミサイルも照準を合わせない。そのまま一斉射撃だった。 
 だが圧倒的な数の、雲霞の如きミサイルがビームで傷付いたドクツ軍を撃った、それはまさにパイプオルガンの地獄の旋律だった。
 その攻撃も受けドクツ軍はさらに数を減らした、残っている艦艇も殆どが深刻なダメージを受けてしまっている。
 その状況を見てマンシュタインは言った。
「全軍撤退」
「しかし閣下、ここで退けば」
「敵がドクツ本土に」
「しかしこれ以上の戦闘は無理だ」
 マンシュタインもそれはわかっていた、だが。
 この状況で戦うことは不可能だ、それで決断を下したのだ。
「撤退するしかない」
「そしてドクツ本土で、ですか」
「戦うしかありませんか」
「その通りだ。では後詰だが」
 マンシュタインはその重厚な口をまた開いた。
「私が務める」
「あんた死ぬ気やろ」
 その彼にベルギーがすぐにこう言った。
「それって」
「それは」
「声に出てるぜ」
 重厚なバスの中に確かにそれは微かに出ていた。
「あんたは生粋の軍人や。嘘は吐けん」
「お気付きですか」
「わかるで。うちかて伊達に商売で生きてきた訳やないからな」
 オランダと共にそれで生きてきたのが彼女だ。
「そやからな。あんたのこともわかるで」
「このまま誰かが後詰を務めなければ」
「全軍ここで終わりやな」
「ドクツ本土でも戦えます」
 そして戦える限りはだというのだ。
「ですから宜しいでしょうか」
「あんたが後詰になって連中の足止めして」
「その間にプロイセンまでお逃げ下さい」
「待ってるさかいな」
 これがベルギーのマンシュタインの決意への言葉だった。
「プロイセンにおるで」
「はい、それでは」
「健闘を祈る」
 ドイツも今のマンシュタインにはこう言うしかなかった。
「それではだ」
「またお会いしましょう」
 こう話してだった。ドクツ軍jの主力はプロイセンまで撤退した。
 そしてマンシュタインは彼等の最後尾でソビエト軍を待ち受ける。その旗艦アドルフのモニターに彼が出て来た。
 ジューコフだ。彼はソビエトの敬礼をしてからマンシュタインに述べる、マンシュタインもドクツの敬礼で返す。
「マンシュタイン元帥、久しいな」
「うむ、元気そうで何よりだ」
 まずは再会をお互いに祝う言葉からだった。
「軍事交遊の時は世話になったな」
「こちらこそな」
「あの時のアイスバインは美味だった」
 ジューコフはこのドクツ料理の名前を出した。
「それにビールも」
「ソビエトでもビールを飲むことは知らなかった」
「我が国の者は酒派何でもいける」
 無論ウォッカが第一だ。
「その中にはビールもある」
「それでだな」
「そうだ、それでだが」
 ジューコフは本題に話を進めた。
「私は貴官とまたアイスバインを食べたい」
「そしてビームを酌み交わしたいか」
「これ以上の戦闘は無意味だ」
 ジューコフはマンシュタインにさらに言う。
「これだけ言えばわかるな」
「わかる。ではだ」
「返答を聞きたい。どうか」
「私はドクツの軍人だ」
 これがマンシュタインの返答だった。
「そういうことだ」
「そうか、わかった」
「でははじめるとしよう」
「残念だが止むを得ない」
 ジューコフもこれ以上は言わなかった。そして。
 マンシュタインはドクツ軍の主力はプロイセンまで逃がすことは出来た、だが彼がプロイセンに戻ることはなかった。
 エイリス軍主力も遂に動いた、ロレンスはロンドンからパリに攻め込んだ。
 パリを守るドクツ軍は僅かだ、彼は将兵達にこう命じていた。
「一般市民は攻撃しない、降伏は即座に受け入れる」
「無駄な血は流さない」
「そして速やかにですね」
「パリに入城する。ルイ陛下はパリに戻られる」
 同盟国であり亡命してきた彼のことも忘れていない。
「そしてパリに入城しても」
「はい、わかっています」
「略奪暴行の類は厳禁ですね」
「それは決して」
「我々は騎士であることを忘れないで欲しい」
 ロレンスならではの言葉だった。
「それはドクツ本土でも同じだ」
「ドイツ星域に入っても」
「それでも」
「一マルクでも奪った場合は銃殺にする」
 何としても許さないというのだ。
「このことは一兵卒に至るまで徹底していく」
「そして女王陛下に勝利を」
「それを捧げましょう」
「無論だ。では祖国殿」
 ロレンスは今度はモニターに出て来たイギリスに応えた。
「共にドクツ本土に向かいましょう」
「そうしような、しかし夢みたいだな」
「ドクツ本土に攻め入ることがですね」
「ほんの数ヶ月前まで向こうが来た時のことを考えてたからな」 
 バルバロッサ作戦の後の第二次アシカ作戦のことだ。
「だから今はな」
「まさに急転ですな」
「全然変わったな」
「全くですね。では」
「ああ、目指すはドクツ本土だ」
 そこへの侵攻だった。
「一気に行くか」
「パリを占領し一部をプロヴァンスに向けます」
 オフランス南部の星域だ。
「そして主力はドイツ星域です」
「本当にいよいよだな」
「ソビエト軍はシャイアンから一気に攻めます」
 まだ彼等はその星域でのソビエト軍の勝利を知らないので予定の話になっている。
「ハンガリー、オーストリア、ブルガリア、ルーマニアに兵を進め」
「それで向こうの主力はプロイセンか」
「東部戦線もそうなっています」
「そしてイタリンもだよな」
「既に北アフリカは奪還しました」
 彼等にとって悲願の一つは既に達成されていた。
「そして今ナポリに侵攻中です」
「勝てるな」
「イタリン軍は数に入りませんし」
 ロレンスも彼等のことはそう見ていた。
「ですから特に」
「問題はないよな」
「ローマに何なく進めます」
「あっちも大丈夫か」
「やはり戦いは数です」
 これは西部戦線でも同じだった。そしてドクツ軍にはその数がないのだ。
 その為に今彼等は順調に進めている、ロレンスはイギリスにさらに言う。
「ドクツ軍は確かに強いです」
「速さも攻撃力も桁違いだからな」
「しかしそれでも圧倒的な数があれば」
「押し切れるんだな」
「その通りです。兵器の質で多少劣っていても」
「そういうことだな。それじゃあな」
「はい、我々も数で攻めます」
 パリを守るドクツ軍は二個艦隊だ。それに対してエイリス軍は三十個艦隊、最早数は話にならない。
 圧倒的な数で押し彼等を倒していっていく。ドクツ軍はそのまま壊走していく。 
 パリは何なく解放されエイリス軍は入城を達成した。
 だがここで彼等は奇妙なものを目にした、その奇妙なものはというと。
「おお、パリに戻って来たな」
「はい、遂にですね」
「我等は帰ってきました」
 ルイ八十一世と貴族達がパリで満面の笑みを浮かべていた。そして。
 ルイ八十一世は即座に即位してオフランス王となった。そのうえで勝利宣言をして再び平和路線を提唱しだしたのだ。
 その彼を見てイギリスは微妙な顔で述べた。
「フランスは今枢軸国にいてな」
「シャルロット殿下もですね」
「ああ、しかもフランスの妹さんもな」
 彼女もだった。つまり今のオフランスは国家不在なのだ。
 だが彼等は有頂天で祖国に戻れたことを喜んでいた、しかも。
 まだ戦争は続いているというのにこの平和宣言だ、イギリスは難しい顔でロレンスに言うのだった。
「何考えてるんだろうな」
「実は伊勢志摩が枢軸につくという話もあります」
「だったら伊勢志摩も引き込むなりしないといけないんだがな」
「ですがオフランスが平和宣言をしたとなると」
「伊勢志摩にも行けないな」
「はい、防衛ならともかく侵攻の為の軍の領内の通過は許してくれませんから」
「伊勢志摩はこっちからの侵攻を気にすることなく枢軸に入られるな」
 イギリスはこのことを懸念していた。
「そしてその間にな」
「伊勢志摩はオフランスとの国境に防衛ラインを施設します」
「それで護りにしてくるな」
「オフランスにはせめて共に戦って欲しいですが」
「ったく、ここでああ言うなんてな」
「困ったことです」
 オフランスの絶対的な平和主義はエイリスにとては難しいことだった。だが今はそれに構っている暇はなかった。彼等はドクツへの本格的な攻勢をはじめていた。
 ナポリも陥落しモンゴメリーとイギリス妹は遂にローマに迫っていた。その彼等を見て。
 ムッチリーニはその決断を己の官邸において今ユーリに告げた。
「もう皆に迷惑かけたくないから」
「降伏ですか」
「うん、そうしよう」
 悲しいが決意した顔で己の前に立つユーリに告げたのだ。
「もうね」
「ですがそれですと」
「私が?」
「はい、エイリス軍の捕虜になり」
 そしてだというのだ。
「最悪処刑されますが」
「それでもいいの」
 俯いた顔でユーリに述べる。
「だって。これ以上戦っても皆が苦しむだけだから」
「降伏してですか」
「皆の安全を約束してもらおう」
「確かにエイリスはそうしたことは律儀に守ってくれますが」
「だから私のことはいいから」
 ムッチリーニは己のことはいいとした。そして。
 ユーリにもこう告げた。
「ユーリちゃんのこともお願いするから」
「いえ、私のことは」
「悪いのは全部私ってことにすればいいから」
 それで他の皆が助かるからいいというのだ。
 ユーリはムッチリーニのその顔を見た。そこには揺るがない決意があった。
 それで彼女もこう言った。
「では」
「うん、エイリスに降伏ね」
「ですが統領」
 ユーリはここでムッチリーニに、彼女も確かな顔になって告げた。
「統領には指一本触れさせませんので」
「えっ、どういうことなの?」
「常にお傍にいます」
 そしてムッチリーニを護るというのだ。
「ですからご安心下さい」
「えっ、いいよそんなの」
「私だけではありませんので」
 ユーリは微笑んで自分の申し出を拒もうとするムッチリーニにさらに告げた。
「祖国殿もおられますし」
「ちょっと、今聞いたけれど!」
「そんなの駄目だからなこの野郎!」 
 部屋にいきなりイタリア兄弟が入って来た。丁度ムッチリーニの部屋に入ろうとしたところで二人のやり取りを聞いたのだ。
 二人は狼狽しきった声でムッチリーニの前で身振り手振りを交えて話しだした。
「駄目だよ、命を粗末にしたら!」
「エイリスに処刑されたらどうするんだよ!」
「俺達もイギリスに頼み込むから!」
「傍にいるから変なことはさせねえからな!」
「だから安心してよ!」
「最悪でも軟禁位にしてやるよ!」
「祖国ちゃん達も・・・・・・」
 ムッチリーニは必死に訴えるイタリア達を前にして目を丸くさせた。
「そう言ってくれるの」
「だから死なないでよ!」
「命粗末にするなよ!」
「そうだよ、統領」
「あたし達もいるからね」
 イタリア兄弟が開けたままにしていた扉のところに今度はイタリア妹とロマーノ妹がいた。これでイタリン組が揃った。
「まあ兄貴達が傍にいてさ」
「あたし達もいるから」
「統領の身の安全は絶対に守るよ」
「だから安心してね」
「皆、有り難うね」
 ムッチリーニは何とか泣かなかった。微笑んで彼等に応えた。
「じゃあ今から皆で降伏しに行こう」
「丁度エイリス軍も来てるからね」
「それじゃあね」
 イタリア妹とロマーノ妹が案内し一行はエイリス軍に向かった。そして降伏の交渉を行いイタリンはここで白旗を挙げた。
 それを軍港で聞いたロンメルはまずは微笑んでこう言った。
「そうか、ベニス統領は命は保障されたか」
「ああ、エイリスの方でも最初から処刑は考えてなくてな」
「そこはあっさりと決まったよ」
 プロイセン兄妹がそのロンメルに話す。
「あの統領さんは別荘に軟禁、イタリン全土は一時エイリスが軍事統治」
「どっちも終戦の時点で終わる予定だってね」
「随分と寛大で何よりだ」
「結局エイリスもイタリンは敵に思ってないからな」
「だから寛大なんだよ」
 彼等の寛大の理由はそこにあった。
「で、統領さんはユーリさんとイタちゃん、ロマーノと一緒にいるよ」
「姉妹が一応国に残ってるよ」
「わかった。そして我々にだな」
 ロンメルはムッチリーニ達への極めて寛大な処置に安堵しながら本題に入った。
「降伏勧告が来ているか」
「ああ、武装解除してな」
「そう言ってきてるよ」
「そうか。ではだ」
 ロンメルは彼等の話を聞いてまずは席を立った、そしてだった。
 プロイセン兄妹、居並ぶ将兵達にこう告げた。
「最後の最後まで戦いたい者以外は撤退、プロイセン君達はベルリン防衛に向かってくれ」
「おい、俺達はベルリンかよ」
「ここで戦わせてくれないんだね」
「総統をお願いしたい」 
 ここではあの娘ではなかった。総統だった。
「俺は最後の最後まで傍にいられない、だから君達には」
「わかった、それじゃあな」
「健闘を祈るよ」
「縁があったらまた会おう」
 ロンメルは微笑んでプロイセン兄妹に告げた。
「そしてまた共にイタリア君達のパスタとワインを楽しもう」
「ああ、イタちゃん達も呼んでな」
「楽しくやろうね」
「それではまた」
 彼等はお互いに握手も出来た。そのうえで別れて。
 プロイセン兄妹は最後の戦場に向かった、ロンメルは残った将兵達と共に彼等の最後の戦いに向かおうとした、だが。
 残っている将兵達の数だった。それはというと。
「何だ、皆残ったのか」
「意地を見せたいと思いまして」
「それで、です」
「我々も残り」
「戦わせて欲しいのですが」
「そうか、わかった」
 ロンメルも止めなかった。そのうえで。
 その残った彼等にこう告げた。
「では今から総員出撃だ」
「攻撃目標はエイリス軍ですね」
「彼等に向かう」
「最後の最後まで戦おう」
 撤退はなかった、そして勝利も。
 それを見据えたうえで戦場に出た、モンゴメリーはその彼等を見てイギリス妹に対してこう述べたのだった。
「流石ですね」
「そうですね。ドクツ軍人の意地ここにありです」
「彼等もまた騎士道精神の持ち主です」
 騎士道といえばエイリスだが彼等もまた然りなのだ。
「意地と誇りを持っています」
「それではですね」
「こちらも正面から挑みましょう」
 騎士らしく受けて立つというのだ。
「そして彼等に名誉を」
「騎士としての誇りをですね」
「それを与えましょう」
 モンゴメリーは腰の剣を抜き前にかざした。そのうえで今全軍に命じた。
「全軍突撃」
「了解」
「わかりました」 
 エイリス軍の将兵達も応える。そしてだった。
 エイリス軍はドクツ軍の果敢な戦いを受け彼等に名誉を与えた、ロンメル率いる彼等は銀河の戦場に無数の花を咲かせた。
 危機的な状況はレーティアも聞いていた。それでこう言うのだった。
「終わったか」
「あの、レーティアまだ」
「いや、もうこの状況は詰んでいる」
 グレシアに返す。レーティアの明晰な頭脳と冷静さはこの状況でも彼女に明確な答えを出させたのである。
「最早な」
「それじゃあもう」
「エイリス軍はドイツ星域を攻め取る」
 まずはエイリス軍について述べた。
「そしてソビエト軍はだ」
「シャイアンからね」
「あの星域からまずは主力はプロイセン星域を奪う」
「そして他の艦隊で」
「最早がら空きのオーストリアやハンガリーを攻める」
 そうするというのだ。
「そして遂にだ」
「このベルリンに」
「西からはエイリス軍、東からソビエト軍」
「完全に詰むというので」
「今のドクツ軍の戦力では絶対に勝てない」
 レーテxィアは少数精鋭主義で軍を機能的に動かしてきた、だがそれは今は、であった。
「より数を多くしておくべきだったか」
「けれどドクツの国力では」
「済まない、倒れていた数ヶ月が仇になった」
 まさにその数ヶ月が今の致命的な事態を招いてしまった、レーティアにとってもドクツにとっても悔やんでも悔やみきれないことだった。
「全ては私の責任だ」
「違うわ、全て貴女に頼り切っていたからよ」
 グレシアも今ようやくわかった、ドクツ第三帝国がどういった国か。
「それで貴女に負担を強いて」
「だがそれは」
「ファンシズムの限界ね」
 グレシアも痛感した、独裁体制の限界を。
「国は一人で動かすものじゃないのよ」
「その一人に多大な負担を強いるからか」
「ええ、それでね」
「私は自信があった、だからやってきたが」
「人には限界があるわ」
 体力的にだ、如何に人類史上最大の天才でもだ。
「私もそのことに気付かなかった。迂闊にもね」
「私達は重大なことを見過ごしていたのだな」
「ええ、それでだけれど」
「ドクツのことか」
「もう終わりなのね」
「エイリスもソビエトも私達の降伏は許さない」
 ここがイタリンと違う、戦争の主敵であり散々苦しめた相手だからだ。
「だからだ」
「私達は裁判にかけられて処刑でしょうね」
「絶対にそうなる」
「どうするの?私達が両軍に出れば皆は助かるわ」
 自分達の命を出してだと、グレシアはレーティアに言った。
「そうする?」
「そうしたい。それが今のドクツにとって最良の選択だ」
「ええ、私達が犠牲になればね」
「だがそれは出来ない」
 レーティアは今自分がいる窓の外を見た。その窓の向こうには。
 ドクツの民衆達がいた、彼等は熱狂的に叫んでいた。
「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
 レーティアを讃える言葉が木霊していた、その数は何百万いるかわからない。
「総統、最後まで戦います!」
「俺達は総統とずっと一緒です!」
「だから戦いましょう!」
「総統には指一本触れさせません!」
「私は愛されている」
 レーティアは彼等の熱狂的な声を聞きながらグレシアに述べた。
「彼等は戦いを選んでいる、誰一人として私を差し出そうとはしない」
「そして貴女が行くことも拒むわね」
「そうする、絶対にな」
「いい国民ね、皆」
「グレシア、御前は行方を眩ますことが出来るが」
「何言ってるの、貴女を見出したのは私よ」
 グレシアはレーティアの言葉に微笑んで返した。
「それはね」
「ではか」
「ずっと一緒にいさせて、私も」
「そうしていいのか」
「ええ、私も最後まで一緒よ」
「私は幸せだ」
 レーティアは泣きそうになるのを必死に堪えながら述べた。
「多くの者が私を心から愛してくれているのだからな」
「貴女だからよ」
 グレシアはそのレーティアに微笑んでこう告げた。
「貴女だからなのよ」
「私だからか」
「そう。貴女だから皆愛するのよ」
 レーティア=アドルフ、彼女だからだというのだ。
「そうなのよ」
「だとすれば余計に幸せだ。ではだ」
「最後の作戦ね」
「何とかドクツ国民を生き残らせる」
 レーティアは既にこのことを考えていた。
「絶対にな」
「その為の最後の戦いになるけれど」
「提督達と国家の諸君を集めてくれ、作戦会議だ」
 レーティアは告げた。ドクツに最後の刻が迫っていた。


TURN70   完


                             2012・11・20



最早、ドクツの敗北は避けられないか。
美姫 「流石に状況的にも無理っぽいわよね」
それでも、最後の戦いを決意したみたいだな。
美姫 「一体、何をするつもりなのかしらね」
かなり気になる所ではあるな。
美姫 「果たして、どんな結末になるのかしら」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」
ではでは。



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