『ヘタリア大帝国』
TURN63 ドロシーの帰還
東郷は長門の艦橋にいた。共にいるのは。
「ではアメリカさん、行きましょう」
「済まないな、船を出してもらって」
「いえ、いいです」
日本がアメリカに対して応えていた。
「同盟国ですから」
「そう言ってくれるんだな」
「はい。それで中国さんもですね」
「カナダにも別荘があるある」
中国はあらゆる場所に別荘を持っておりそのコネクションがある為東郷が声をかけたのだ。
「そこから情報が入るあるからな」
「それで何かわかったでしょうか」
「スペースコロニーあるな」
中国はすぐに日本に答えた。
「ネイティブの住んでいるそこに白人の娘がいるという情報が入っているある」
「そうですか」
「華僑はあらゆる場所で仕事をしているある」
商業の民である彼等はそれこそ僻地にまで入っている、ただしその彼等も秘境であるアステカには入ってはいない。
「太平洋では韓国以外の全部の星系に別荘があるからいざとなった時は言うよろし」
「韓国以外はか」
東郷は中国の言葉のそこに突っ込みを入れた。
「あそこだけは無理だったんだな」
「あいつだけは無理ある」
中国は別荘のことを話して誇らしげだったがその顔を一変させてこう東郷に返した。
「凄まじいある」
「はい、韓国さんはそうした方です」
日本も伊達に同居していた訳ではなく知っていた。
「中々」
「だからあそこ以外は任せるよろし」
「とにかくカナダに行こう」
アメリカは東郷達に言った。
「コロニーがわかっているのならな」
「そうですね。どなたか忘れてる気もしますが」
そうは言ってもあまり困っていない感じの日本だった。
「赴きましょう」
「では行くとしよう」
東郷も三国に声をかける。そのうえで隣にいる秋山にも顔を向けた。
「ただ。お姑さんがいるがな」
「誰がお姑さんですか」
秋山はむっとした顔になってすぐに東郷に言い返した。
「司令は何かあるとすぐに突拍子もない行動に出られますから」
「目付けという訳だな」
「祖国殿がお優しいからといって危険な行動はされないで下さい」
「いや、俺は確実にクリアーできることだけをしている」
「あくまで司令の基準ですね」
「それはその通りだが」
「だからこそです」
秋山のむっとした顔は変わらない。
「全く。いつもいつも」
「やれやれ、そう怒ってばかりだと髪の毛がさらに減るぞ」
「減っていません」
しかし何故か普段以上に必死に言う秋山だった。
「私の髪の毛の量は変わっていません」
「植毛か?育毛か?」
「どちらもしていません」
「その額でか」
見れば秋山の額はかなり広くしかも光っている。長髪でわかりにくいが実は額はそんな感じになってしまっている。
「危ないな」
「ですから私の額のことはいいのです」
「わかった。じゃあ五人で行くか」
「はい、それでは」
こうして五人でコロニーに向かう。中国が案内をする。
それで来たコロニーは随分と僻地にあった。かなり古いタイプでアメリカは長門の艦橋からそのコロニーを見て言った。
「数百年前のものじゃないのか?」
「北米に植民が為されだしていた頃ですか」
「そうだな。その初期の頃のだな」
その頃のコロニーだというのだ。
「まだこんなコロニーがあったんだな」
「そうですね。では今から」
「あのコロニーに入るある」
中国も言ってそうしてだった。長門はまずはコロニーに入った。
コロニーの港もかなり寂れている、入港しているのは長門だけだった。
東郷は港に降り立ってから中国に尋ねた。港のあらゆる場所が錆びている。
「ここに華僑の人達が来ているんだな」
「大体年に一回あるな」
「それで商売をしているんだな」
「いるのはネイティブの人達ばかりある」
だから白人の女はかなり目立つというのだ。
「いる集落の場所も教えてもらったあるよ」
「その商人の方は今何処におられますか?」
「カナダの僕の別荘に帰ったある」
つまり中華街にだというのだ。こう秋山に答える。
「そこで普通の商売をしているある」
「そうですか」
「その集落の場所も聞いているある」
コロニーの中のそこもだというのだ。
「では向かうあるよ」
「いや、中国がいてくれて何よりだ」
アメリカは彼がいてくれていることにかなり感謝していた。
「お陰ですぐに行けるぞ」
「そうですね。流石は中国さんです」
日本も素直に中国に感謝の言葉を述べる。
「思ったより遥かに楽に来られています」
「何、大したことではないあるよ」
そうは良いながらも誇らしげな中国だった。
「では行くある」
「よし、それじゃあな」
こうした話をして東郷達はその集落まで来た。五人が来るとまずは大柄でダークブラウンの肌に黒い髪と目の精悍な顔立ちの男が出て来た。
身体つきもたくましい。彼は東郷達の顔を見るとすぐにこう言ってきた。
「誰だ、アメリカさんの他は知らない」
「はい、日本といいます」
「中国あるよ」
まずは二人が名乗る。
「宜しくお願いします」
「そういうことある」
「日本に中国」
男は二人の名乗りを受けてこうも言った。
「確かアジアの方の国」
「そうです」
日本は男にその通りだと答える。
「そこから来ました」
「遠いところから来たな。それに」
男は東郷と秋山も見て言った。
「日本とやらと同じ軍服。あんた達は」
「ああ、日本海軍の者だ」
「同じくです」
「日本さんのか」
「そうだ。それでだが」
「俺はブラックホーク」
彼は自ら名乗った。
「宜しくな」
「そうか。ブラックホークか」
「そうだ。それで何の用だ」
「ここに一人白人の女の子が来ているな」
「ドロシーのことか」
そのものずばりだった。
「ドロシーがどうした」
「僕の国の人間なんだ」
アメリカはすぐにブラックホークに答える。
「実は探してるんだ」
「そうか」
「それでここにいるんだな」
「その通りだ。会いたいか」
「頼む、すぐに案内してくれ」
アメリカは切実な顔になってブラックホークの前に来て言った。
「用があるんだ」
「わかった。こっちだ」
ブラックホークはアメリカ達を集落の中に案内した。そこは円錐形の薄い黄色地に赤と青、白の模様の帯が入ったテントが幾つもあった。ブラックホークはそのテントを指差して東郷達に対してこう言ったのだった。
「俺達の家だ」
「ネイティブガメリカンの家だな」
「俺達はカナディアンだが同じだ」
人種的、文明的にはだというのだ。
「俺達はそうだ」
「そうだな。それでドロシーは何処だ?」
アメリカはとにかくドロシーに会いたく彼女に尋ねる。
「あの娘は何処にいるんだい?」
「このテントの中だ」
ブラックホークはテントのうちの一つを指し示した。
「ここに姉さんと一緒にいる」
「姉さんがいるあるか」
「そうだ。俺達は二人姉弟だ」
ブラックホークは中国にも話す。
「ただ。姉さんは一度結婚して子供がいるが」
「君はなんだな」
「そうしたことはない」
結婚の経験はないというのだ。
「少し寂しい」
「ああ、なら今度いい娘を紹介しよう」
東郷はブラックホークの話を聞いて陽気に述べた。
「そうしていいか」
「頼む」
「じゃあな。ところであんたの姉さんは」
「ドロシーと一緒にいる」
都合のいいことにだった。東郷にとって。
「紹介しようか」
「是非そうしてくれ」
「司令、宜しいでしょうか」
だがここで秋山が厳しい顔で東郷に顔を近付けて囁く。
「くれぐれもです」
「ははは、やっぱり出て来たな」
「やっぱりとは何ですか、やっぱりとは」
「いや、予想通りだったからな」
東郷が女好きの面を見せるとすぐに出て来るからだ。
「だからな」
「ならくれぐれもご自重下さい」
「流石に今はしないさ。とにかくだ」
「はい、ノイマン長官です」
「あの娘に会うとしよう」
こうした話をしてだった。一行はそのテントに入った。そこにはドロシーと共にやはり大柄でダークブラウンの肌と黒い髪に瞳の女がいた。
目は切れ長の感じで整い睫は長い。その彼女が東郷達を見てこう言った。
「ドロシーに会いに来た」
「そうだ」
ブラックホークが彼女に話す。
「それでここに来たらしい」
「日本さんにアメリカさんに中国さん」
女は三人も見て言った。
「ドロシーに会ってそうして」
「そうだ、戻って来て欲しいんだ」
アメリカは女ではなくドロシーに顔を向けて言う。
「ドロシー、ここはどうか」
「祖国さんは私の為に」
「そうだ、来たぞ」
アメリカは確かな声でドロシーにも言う。
「ガメリカの為だ、是非来てくれ」
「けれど私は」
「どうしたんだ?」
「敗れて。計画も」
COREの計画のことを自分から話す。
「何もかもなくなって」
「それでだっていうんだな」
「もう今の私は祖国さんの役に立てないから」
「今のドロシーはなんだな」
「ええ」
ドロシーは小さな声でアメリカに答える。
「とても」
「じゃあこれからの君はどうだ」
アメリカはそのドロシーに強い声で問うた。
「今の君がそうであっても」
「これからの私は」
「そうだ。どうなんだ?」
「祖国さんはこれからの私が必要」
「そうだ、ガメリカには今の君が必要なんだ」
アメリカは右手を拳にさせてドロシーに言う。
「だから来て欲しいんだ」
「それで」
「じゃあいいか?」
「今の私はここの生活にも慣れてきているわ」
ドロシーはアメリカの誘いにすぐに答えずにこの集落のことを話した。
「ガメリカとは違って最新の設備は何処にもない場所」
「君のこれまでの生活とは全く違うな」
「何もかもが」
まさにその通りだった。
「違っているわ」
「そうだな。しかしだ」
「ええ、わかっているわ」
ドロシーはアメリカのその問いに答える。
「私はガメリカの市民」
「だからこそだ」
「そして私は祖国さんが好き」
愛国心もある、そのことも間違いなかった。
「祖国さんの為なら」
「来てくれるんだな」
「ええ、ただ」
それでもだというのだ。
「お願いがあるわ」
「お願い?何だい?」
「出来ればここでの生活をこのまま過ごしたいけれど」
「うん、いいぞ」
アメリカは笑顔でドロシーの今の願いを聞き入れた。
「君がそうしたいのならな」
「そう。それじゃあ」
「ドロシー、私も行くわ」
女も言ってきた。
「ドロシーが行くのなら」
「デカナヴィダも」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「そうしてくれるの」
「ドロシーは私の友達だから」
彼女が行くのならばというのだ。
「行くわ」
「そうしてくれるの」
「俺もだ」
ブラックホークもだった。
「ドロシーと一緒だ」
「二人共」
「そうよ。一緒に戦う」
「そうさせてくれ」
「有り難う」
ドロシーは二人に感謝の言葉も述べた。これはこれまでの無機質な感じの彼女からは考えられない反応だった。
「それじゃあ」
「まさかブラックホークさん達まで来て頂けるとは」
「思わなかったあるよ」
「面白い成り行きだな。だが」
ここで東郷は言う。
「君達は艦隊を動かすことは出来るのか」
「多分」
ブラックホークはこう東郷に答える。
「できる」
「そうか、できるか」
「あの、司令」
秋山が顔を曇らせて東郷に囁く。
「それでは」
「いい加減か?」
「そうです。幾ら何でもそうしたお言葉は」
「何、ちゃんと後で提督の適正もチェックする」
東郷にしてもこのことは忘れていない。
「それから決める」
「ならいいのですが」
「二人共体格がいい。提督になれなくてもな」
「陸戦部隊としてですね」
「役に立ってくれるだろう」
「確かに。それでは」
デカナヴィダとブラックホークも太平洋軍に加わった。長門は新たな仲間達も乗せて意気揚々とコロニーを出た。だが。
その目の前に宇宙怪獣が出て来た。それもかなり大型のものがだ。
秋山はモニターに映るその宇宙怪獣を見て繭を曇らせて東郷達に言った。
「これは少し」
「長門一隻で相手にすることはですね」
「厳しいですね」
こう日本にも言う。
「勝てないこともないですが」
「損傷は受けますか」
「中破位は覚悟しなければ」
結構な損害をだというのだ。
「危ういですね」
「そうですか」
「しかし逃げる訳にもいきません」
もうそれが可能な距離ではなくなっていた。
「進みましょう」
「よし、じゃあ配置につくぞ」
「僕もある」
アメリカと中国は早速戦闘配置についた。
「司令、何でも言ってくれ」
「命令に従うあるよ」
二人は東郷に対して微笑んで言う。
「司令が太平洋軍連合艦隊司令長官だからな」
「そうさせてもらうある」
「わかった。それでは二人共頼む」
東郷も応えて二人をそれぞれ配置につけた。アメリカはビーム、中国はレーダーだ。
日本は航海だ。自らは艦長の配置についている。
「艦長の配置も暫くぶりだな」
「第四艦隊の司令となられてからはずっとでしたね」
「ああ、司令だったからな」
司令官と艦長は違う。このことはどの軍でも厳密に区分されている。
「だから艦長の仕事をするのは暫くなかったからな」
「将兵をあまり多く連れて来なかったのは失敗だったでしょうか」
「いや、大丈夫だ」
東郷はこの状況でも悠然としている。
「勝てる」
「いけますか」
「ああ、いける」
こう言って艦長の席に座る。そしてだった。
早速長門を動かしにかかる。だがここでドロシー、艦橋に来ている彼女が言った。
「長門のコンピューターを見せてくれるかしら」
「何かできるか」
「ええ、多分」
己に顔を向ける東郷に淡々と返す。
「だから見せて」
「そこだ」
東郷はドロシーの丁度その目の前を指し示した。その席をだ。
「そこが長門のメインコンピューターだ」
「これね」
「そうだ。それで何が出来るんだ?」
「バージョンアップを」
ドロシーはその席に座りながら東郷に答える。
早速電源を入れる。そのうえでキーボードを叩きながら言った。
「これなら」
「アップできるか」
「ええ、それもかなり」
実際にデータを次々に更新させている。
「むしろ長門のコンピューターは」
「旧式か」
「精々第四世代のものね」
「長門も古くなったか」
「第六世代の性能にアップできるわ」
つまり二世代分アップするというのだ。
「今そうしているわ。これで艦艇自体の性能も」
「第六世代並になるか」
「メインコンピューターの性能は艦艇の性能を決めるわ」
頭脳、艦艇のそれに他ならないからだ。
それの性能さえあがればどうなるか、ドロシーはよくわかっていた。
それで長門のメインコンピューターの性能をアップさせていく。それはすぐに終わった。
「完了したわ」
「えっ、もうですか」
秋山はドロシーの今の言葉に思わず声をあげた。
「先程席に座られたばかりですが」
「私の専門だから」
コンピューターもだというのだ。
「できるわ」
「そうですか」
「じゃあこれで」
ドロシーは東郷達に淡々と、今もその口調で述べる。
「あの宇宙怪獣も倒せるわ」
「これはかなり凄いな」
艦長席に座る東郷も長門の今のデータを見て言う。
「これまでとは全く違う」
「はい、確かに」
秋山も長門の今の能力をチェックして東郷の言葉に頷く。
「索敵能力、速度にビームの威力も」
「艦艇の耐久力もな」
「一気に二段階はアップしました」
「本当に第六世代並になった」
「これならいけます」
秋山は確かな声で東郷に述べる。
「あの宇宙怪獣を倒せます」
「それも楽にな」
「接近してきているあるよ」
レーダーの席に座る中国が報告する。
「このままでは危険ある」
「よし、照準を合わせる」
東郷は中国の報告に応えて指示を出す。
「アメリカさんいいな」
「わかったぞ」
アメリカは東郷の言葉に応えて実際に照準を合わせそれから報告する。
「ロックオンしたぞ」
「速いな、やはり性能が違う」
東郷は本当に長門の性能が二世代分はアップしていることを感じていた。そして。
迫る宇宙怪獣を見ながら艦艇を動かしている日本にも言った。
「面舵だ」
「わかりました」
「右に動きながら一斉射撃だ」
ロックオンしている、その状態で動いてだというのだ。
「いいな、そうしてくれ」
「では」
日本は東郷の言葉に頷き艦を右に動かした。宇宙怪獣もそれにつられて動くがここでだった。
東郷は確かな声でこう命令を出した。
「撃て」
一言だった。これで全てが決まった。
宇宙怪獣はバージョンアップされた長門のビーム攻撃を受け一撃で吹き飛ばされた。かくして長門は難を逃れ無事に帰還した。
ドロシー達は適性検査と試験を受けた後で正式に提督に任じられた。ドロシーはガメリカ共和国科学技術長官にも復職した。
だがカナダは全てが終わった跡で溜息をつきながら妹に漏らした。
「またなんだ」
「ええと。最初はお話に出てたけれど」
「皆僕のことを忘れてだったんだね」
「ええ、コロニーに行ってね」
「それでだよね」
「ドロシーさんに戻ってもらってね」
「デカナヴィダさん達も」
この二人もだった。
「提督になったんだね」
「二人共カナダ軍の提督よ」
「それはいいよ。けれどね」
「忘れられたことがよね」
「そうだよ。本当にいつもだから」
カナダの溜息は止まらない。
「本当にどうしたものかな」
「落ち込んでも仕方ないけれど」
カナダ妹は何とか兄を慰めようとする。
「だからね」
「気を取りなおしてっていうんだね」
「そう。楽しくやろう」
「何時かな、皆が僕に気付いてくれるのは」
カナダでのことだったのに何時しか存在を忘れらていた、カナダにとっては今回も実に辛いことだった。目立てないことはどうしようもない。
だがドロシーの参加は大きかった。平賀は久重の口から東郷と日本に対して述べた。
「完成間近の連合艦隊の新旗艦だが」
「大和ですね」
日本はその名前を言った。
「それがですか」
「私の製造開発よりさらにだ」
「性能があがったのですか」
「コンピューターが格段にバージョンアップされた」
それによってだというのだ。
「今ではだ」
「全く違うのですね」
「そうだ。第六世代を超えた」
平賀は言った。
「それだけの戦艦になる」
「実際にどれだけなんだ?」
「ビームは要塞の主砲並だ」
そこまでの威力だというのだ。
「一撃でどの様な、ソビエトの巨大戦艦すら沈められる」
「それは有り難いな。速度や索敵能力もだな」
「比較にならない」
平賀が開発していた段階と比べてもだというのだ。
「それに他の艦艇もだ」
「メインコンピューターの性能があがったからですか」
「性能が格段にあがった」
全ての艦艇がそうなったというのだ。
「第六世代の艦艇がさらにだ」
「第六世代の艦艇もようやく軍の主流となりつつある」
東郷はこのことには素直に喜んでいる。
「エイリス、ソビエトとも互角に渡り合える様になった」
「そうですね。ガメリカと中帝国が加わり太平洋経済圏も本格的にはじまりました」
日本も言う。
「そのお陰で」
「大体今は七十個艦隊だったな」
平賀は久重の口からこのことも問うた。
「そうだな」
「そうだ、そしてその全ての艦隊にだ」
「第六世代の艦艇が普及出来る」
「本当に大きいな」
「特に戦艦と大型空母に」
「駆逐艦は水雷戦用に統一している」
東郷も平賀に答える。
「コストはかかるがな」
「ですがそのコストの面もかなり軽減されていっています」
日本は平賀を見ながら述べる。
「長官の尽力のお陰で」
「どうもこれまでの製造、開発は無駄なコストがかかり過ぎていた」
平賀自身も言う。
「しかしそれをだ」
「検証していきそのうえで」
「これまでの半分位に抑えられた」
「このことも大きいですね」
「兵器体系だが」
平賀はこのことについても話した。
「それもだ」
「はい、今の太平洋経済圏の兵器体系ですが」
「我が日本帝国とガメリカ共和国にだ」
「まだエイリスのものが残っていますね」
エイリスの植民地だった国々にその艦艇が残っているのだ。
「おおむね三つです」
「中帝国は基本的にガメリカのそれだ」
軍事協力の結果そうなったのである。
「エイリスはなくなってきているからな」
「実質的には二つですね」
日本とガメリカの、である。
「そこが違いますね」
「だが互換は出来る」
幸いにそれが可能だというのだ。
「ガメリカ政府と今後このことも摺り合わせていくべきか」
「そうするべきだな」
東郷もここで言う。
「今はな」
「そうだな。ノイマン長官とは話していく」
平賀も言う。
「ここはな」
「そうしてくれ。太平洋安全保障条約もできたからな」
太平洋各国が参加する太平洋経済圏防衛の為の安全保障条約である。
「今度は軍事的、技術的にもだ」
「協力を進めていくべきだからな」
「ここはそうしていこう。大和にしてもな」
「もう少し待っていてくれ。そちらに引き渡せる」
「楽しみにさせてもらう。今は中休みになっているが」
「すぐに戦闘が起こるな」
「アステカか」
「ああ、あの国だ」
まさにそこだというのだ。
「あの国についての情報も今集め出しているが」
「謎に包まれた国です」
日本も平賀に言う。
「その全てが」
「技術的にはどうか」
「埴輪艦でしょうか」
「埴輪か」
「はい、それにかなり旧式の艦艇もあります」
「それは普通の人間が使っているものだな」
「埴輪艦は埴輪族が基本的に使っています」
日本は今わかっていることを述べていく。
「そうか」
「後は宇宙怪獣も多いです」
「宇宙怪獣は軍には入っていないな」
「いえ、どうも組み入れているみたいですが」
「怪獣姫がいるのか?」
「わかりません、それも」
「わからないことが多いな」
平賀も首を捻る。
「あの国についてはまだ」
「そうです。本当に謎に包まれた国です」
「埴輪艦は相当強力なバリアを装備しているな」
「はい」
このことはわかっていた、
「ビームは通じないです」
「では艦載機か水雷攻撃になるか」
「そう考えています」
「では酸素魚雷も強化しておこう」
平賀は日本の話も聞いて述べた。
「そうしていく」
「そのこともお願いします」
「あとガメリカ軍の魚雷は性能が悪い」
ガメリカとの戦争中にはこのことにも助けられてきた。だがそれが今はだというのだ。
「しかし味方になるとだ」
「それは困ったことですね」
「だから酸素魚雷の技術を提供しようと思うが」
「そうするべきですね」
「ではその話も進めていこう。それにだ」
「それに?」
「今面白い艦艇も開発している」
平賀は話題を変えてきた。
「人が乗る必要のない戦艦だが」
「人工知能の戦艦だな」
東郷がここで言ってきた。
「それだな」
「そうだ。名前は夕霧という」
平賀はその名前も言う。
「四番艦まで考えているが一番艦が間も無く完成する」
「完成したら見せてくれるか」
「無論だ。軍艦ならな」
海軍に引き渡すのは当然だというのだ。
「そうさせてもらう」
「ではそのことも頼む」
「うむ。しかし戦局だが」
「太平洋は今落ち着いているがな」
「ドクツはどうだ」
「敗北は時間の問題だ」
そこまで追い詰められているというのだ。
「何時降伏するか。いや」
「あの国は降伏しないだろう」
「しそうにないな。完全に負けるまでな」
「戦うか」
「正直どうにかしたいがな」
「スエズに兵を進めるか」
「それでも間に合わない」
既に選挙区はドクツにとってそこまで悪化しているというのだ。
「もうな」
「ではレーティア=アドルフ総統は」
「戦犯として裁判にかけられるだろう」
捕まりそしてだというのだ。
「そして処刑だ」
「そうか。残念だな」
平賀はぽつりと漏らした。久重の口を通じてではあるが。
「それはな」
「俺もそう思う。あの総統さんは天才だからな」
「人類史上最高の天才だ」
平賀はレーティアをこうまで絶賛する。
「その人が処刑されるとはな」
「何とかしたいがな」
「できるか」
「きっかけがあればな」
東郷もレーティアを助けたいというのだ。
「そうしたい」
「では何か手段を考えてくれ」
平賀は東郷を見て告げた。
「是非共な」
「何かあれば早速な」
東郷も言うが今はどうしようもなかった。ドクツはあまりにも遠かった。
日本帝国は太平洋経済圏を確立しその中でリーダーとして大きく動いていた。彼等は明らかに戦争前とは全く違っていた。
その日本についてカテーリンは忌々しげにミーシャとロシアについて話していた。
「絶対に許さないんだから」
「気付いたら太平洋もインド洋も征服しちゃったね」
ミーシャが頬を膨らませているカテーリンに答える。
「ガメリカも中帝国もやっつけちゃったよ」
「それで資産主義にしちゃうなんて」
「絶対に駄目だよね」
「あそこには世界人口の半分がいるのよ」
インドまで入れれば優にそれだけはいる。
「そこで好き放題搾取してるのよ」
「資産主義だからね」
カテーリンは資産主義を不平等で一部の金持ちだけがいい思いをしているシステムだと考えている。だから今もこう言うのだ。
「帝なんて君主もいるし」
「階級だよね」
「お仕置きよ、ドイツの後で懲らしめてやるわよ」
「うん、ドクツはもうすぐ倒せるよ」
ここでロシアがカテーリンに言う。
「その後だね」
「そうよ。ただ戦力は再編成するから」
このことは忘れてはならなかった。
「ドクツとの戦いで随分やられたから」
「やっぱり強かったね」
「それからだから」
カテーリンは時間のロスについては唇を噛み締めていた。
「日本との戦争は」
「じゃあ急いで再編成を進めないとね」
ミーシャはまたカテーリンに応えた。
「ドクツとの戦争が終わったら」
「レーティア=アドルフはね」
カテーリンの表情が少し変わった。
「妙に私に似てる気がするけれど」
「というかファンシズムと共有主義がよね」
ミーシャはこうカテーリンに話す。
「似てるとか?」
「そうかも。ドクツって資産主義じゃないし」
「そうそう、企業とかの活動って全部総統に動かされてるのよ」
「全部総統が動かしてるから」
ソビエトにしても全てはカテーリンが動かしている。そうした意味で両者は全く同じ国家システムなのである。
「似てるっていうのね」
「そうじゃないかな」
「そうかも。けれどレーティア=アドルフも悪い子だから」
カテーリンは子供っぽい感じで言った。
「お仕置きしないといけないから」
「じゃあドクツはどうするの?」
「ドクツ自体もお仕置きよ」
カテーリンはロシアの問いに答えた。
「許さないから」
「そうだね。じゃあドクツもやっつけて」
「エイリスも気になるけれど太平洋の方が先よ」
特に日本をだというのだ。
「資産主義しかないあそこは絶対に駄目だから」
「じゃあドクツの後は太平洋でね」
ミーシャがまた言う。
「そうしていこう」
「うん、これで決まりね」
カテーリンはミーシャとロシアに話した。そして壁にある質素な時計の時間を見てこう二人に対して言った。
「お茶の時間よ」
「うん、紅茶を淹れるよ」
ロシアはすぐにカテーリンに答えた。
「ケーキもあるからね」
「カーキは一人一切れよ」
カテーリンはおやつのケーキにも規則を入れていた。
「食べ過ぎたら太るし虫歯になるし」
「それに皆が少しずつ食べたら公平に食べられるからね」
「そうよ。だから一切れよ」
おやつのケーキ、ロシア風のクッキーの様のそれはだというのだ。
「それだけだから」
「わかったよ。それじゃあね」
「三人で食べようね」
ロシアに続いてミーシャも言う。ソビエトは全てがカテーリンの決めた厳格なルールに基いて動いておりカテーリンはそのことに絶対の正義を確信していた。ソビエトはその絶対の正義によりこれからのことを見ていた。
TURN63 完
2012・10・18
ドロシーの発見と復帰だな。
美姫 「ブラックホークたちも加わったしね」
更に平賀によって戦艦夕霧も。
美姫 「これで戦力は着実に増えたわね」
だが、ドクツは最早、猶予もなくなってきているな。
美姫 「せめてレーティアたち首脳陣の救出が出来るかどうかね」
さてさて、どうなるか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。