『ヘタリア大帝国』
TURN59 大統領発狂
USJの決戦で捕虜になったガメリカ軍の将兵達はある者は太平洋軍に加わりある者は参加を拒みそのまま捕虜になっていた。その中で。
ドワイトは軟禁状態になっている彼の前に来た東郷と話をしていた。彼はまずは挨拶からはじめた。
「あんたが日本の海軍長官だな」
「ああ、そうだ」
東郷は日本、秋山と共にドワイトの前に来て彼と話している。
「俺が東郷毅だ」
「そうか、あんたがあの戦いでの司令官だな」
「如何にも」
東郷はまたドワイトに答える。
「そしてここに来た理由は」
「俺をスカウトしに来たか」
「率直に言えばそうなる」
東郷の返事は淡々とさえしている。
「貴官を太平洋軍に迎えたいが」
「一つ聞きたいことがあるんだが」
「何だ?」
「ガメリカ軍は質も量もそちらを圧倒していた」
ドワイトは東郷にこのことを言う。
「提督の質も悪くない、しかしこうして敗れた」
「その理由が知りたいっていうんだな」
「敗れる要素はなかった」
ドワイトはこのことを確信している、今もだ。
「確かにそちらには潜水艦があるがな」
「それだけでガメリカに勝てる筈もない」
このことは東郷自身が最もよくわかっていることだ。
「潜水艦だけで勝てる相手とはこちらも思っていない」
「そうだな」
「ああ、だが俺達は勝った」
「それは何故かを知りたい」
ドワイトは東郷のその目を見ながら東郷に告げた。
「そうしていいか」
「断るつもりはないさ」
「そうか、それならな」
「これから宜しく頼む」
「こちらこそな」
二人はお互いににやりと笑い合った。ドワイトも太平洋軍に加わることになった。
彼が加わってから日本と秋山はこう東郷に話した。
「USJでの戦いは終わりましたし」
「ガメリカの戦力はかなり叩きました」
「ではいよいよ」
「講和でしょうか」
「そうだろうな」
東郷もこの勝利は大きかった、そしてこう言うのだった。
「ガメリカも遂にな」
「講和を申し出てきますね」
「そうしてきますね」
「ああ、だが講和が成るまでは暫くここに留まろう」
「外交的圧力ですね」
秋山が東郷のその言葉に応えて言う。
「その為にも」
「そういうことだ。とりあえず治安はこれだけの艦隊の数だとすぐに元に戻る」
治安回復を得意とするハニートラップや古賀もいる、このことについての心配はなかった。
「それを傷付いている艦隊はアラスカやハワイに送り」
「あとゲイツランドにもですね」
「そういった場所の修理工場に入れよう」
「それがそのまま治安回復になりますね」
「だからそうする。だがダメージを受けていない艦隊はこのままだ」
USJに残し外交的圧力と治安回復に務めるというのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
「勝って兜の緒を締めろだがこの勝利は大きい」
東郷もUSJでの勝利は素直に喜んでいる。
「それではな」
「はい、では待ちましょう」
日本も微笑んで東郷に応える。
「ガメリカからの使者が来ることも」
「そうするとしよう」
彼等はガメリカからの講和の使者が来ることを確信していた、だが。
その時ワシントンでは議論が難航していた、ルースは大統領官邸の会議室で難しい顔をしてハンナとクー、そして己の祖国達に言っていた。
「講和かね?」
「ええ、まさか敗れるとは思わなかったけれど」
「予定通りそうしましょう」
ハンナとクーも暗い顔だ、だがそれでもこう言うのだった。
「日本と講和して」
「戦争は終結させるべきです」
「しかしだね。まだ戦力はあるのだよ」
ルースはその難しい顔で二人に返す。
「巻き返せる、だからこそ」
「それは止めた方がいいわ」
ハンナはルースに即座に述べた。
「確かにシカゴ、テキサス方面の防衛は固めているけれど」
「そうだよ、だからね」
「無理なのよ、もう流れは日本のものよ」
「この勢いは止められません」
クーは趨勢を見切っていた、それ故の言葉だ。
「今ならダメージを最低限にさせて講和できるわ」
「この状況ならです」
「だからもうね」
「講和するべきです」
「しかし今の状況での講和は敗北だ」
ルースはこのことに執着して二人に反論する。
「ガメリカが敗れるのは」
「ハンナ達と話したよ」
ガメリカもここでルースに苦りに苦りきった顔で話す。
「そうなっても仕方ないよ」
「待ってくれ、祖国氏までそう言うのか?」
「僕だって負けるのは嫌さ、しかしなんだ」
「今の状況は仕方ないというのか」
「そうだ、講和するべきだ」
敗北を認めるべきだというのだ。
「無念だけれどね」
「日本は占領した領土と捕虜の無条件での返還を約束してきてるよ」
アメリカ妹は日本からの講和の条件をルースに話した。
「賠償金も要求しないしね。どうやらマイクロネシアとソロモンはギガマクロ大王の元に戻るみたいだけれど」
「これ位はどうってことはないわ」
「しかも太平洋経済圏には参加できます」
ハンナとクーも言う。
「ですからここはもう」
「講和しかありません」
「・・・・・・私はガメリカの大統領だ」
ルースの何かが変わった。
「この国を何としても勝利に導かないといけない」
「それが出来なければ名誉ある敗北を認めることも必要よ」
ハンナは国務長官としてルースに言う。
「講和の使者は私と祖国さん達で務めるわ」
「大統領はここで私達の報告を待って下さい」
クーも使者に赴くというのだ。
「今回の敗北は日本を見誤った私達にあるし」
「ここはお任せ下さい」
「いや、ガメリカは勝たなければならない」
ルースはこのことへの固執を見せていた。
「何があろうとも」
「だからそれは」
「いや、絶対にだ」
ルースはさらに変わる。
「我が国は勝つ!それ以外にない!」
「!?おかしいよ」
最初に気付いたのはアメリカ妹だった。
「今のプレジデントちょっと」
「ああ、そうだな」
そしてアメリカも気付いた。
「普段と違うぞ」
「何かおかしいよ」
「これは下手をすると」
「ねえ、何かあったらね」
アメリカ妹はハンナとクーに囁く。
「今キャロルちゃん何処にいるの?」
「テキサスに撤退しているわ」
丁度そこで残った軍をまとめているのだ。彼女の話も為される。
「あの娘のところに?」
「一旦退散した方がよくない?」
「まさか。それは」
「何か今のプレジデントおかしいよ」
アメリカ妹はぶつぶつと言い出しさえしているルースをちらりと見ながらハンナ達に話す。
「だからね」
「そういえば確かに」
ハンナもここでルースの異変に気付いた。
「今は普段とは違うわ」
「君達は何だ!」
そのぶつぶつと言っていたルースが遂に叫びだした。これもこれまでの彼にはなかったことだ。
「何なのだ君達は!」
「国務長官よ」
「財務長官です」
二人は戸惑いを隠せないままルースの問いに答える。
「それが何か」
「どうかしたのですか?」
「そうだな、私の部下だな」
ルースが言うのはこのことだった。
「それなら私の言うことを聞くのだ!」
「だからもうこれ以上の戦闘は」
「無駄な損害を増やすだけです」
「将兵の命、そして国力を消耗するだけよ」
「勝利は望めなくなっていますから」
「いや、ガメリカは絶対に勝つ!」
ルースは顔さえ変わっていた、憤怒のものになり血管が浮き出ている。
「何があってもだ!」
「いや、待ってくれないか?」
流石にアメリカも困惑して二人の前に立つ様にルースに言う。
「僕はいいって言っているんだ、だからここは」
「君の為を思って言っているのだぞ!」
「もういいんだ!ここは講和だ!」
「そうよ、日本と手を結ぶべきよ」
アメリカ妹も二人の側に立つ。
「戦うことは止めないと」
「本当に落ち着いてくれ、プレジデント」
「大統領の特別権限を発動する!」
祖国達にも言われルースは完全に切れた。そして。
大統領に国家の全ての権限を一時的に委任するというこの切り札を出した。そして。
「国家総動員令だ!全ての財閥の資産も全て集中させる!」
「馬鹿な、そんなことをしても」
「もう無理です」
ハンナとクーはまだ二人に言う。
「講和しかないのよ」
「落ち着いて考えて下さい」
「既に発動した!」
だがルースは切れたままだった。
「君達も私に従ってもらおう!そうでなければ」
「駄目だ、これは」
流石にアメリカも匙を投げた、そして。
自身の妹とハンナ達に顔を向けてこう告げた。
「テキサスに逃げよう」
「そうね、今はどうしようもないわ」
「今のプレジデントではお話もできません」
「だからここは」
「一時」
「脱出ルートはあたしに任せて!」
アメリカ妹が真っ先に席を立ちハンナ、クーのそれぞれの手首を彼女の両手で掴んで立たせた。
「逃げるよ!」
「ええ、それじゃあ」
「今は」
「行くぞ!」
アメリカは席を立った二人の前に出てルースから庇った、流石に銃は携帯していないだろうが危機を察してそうしたのだ。
「キャロルのところまで逃げるぞ!」
「兄貴も急いで!」
アメリカ妹は既に二人を連れて部屋から逃げ出そうとしている。
「いいね!」
「わかった!」
「待つのだ!逃がしはしない!」
ルースも席を立ち叫ぶ。
「衛兵の諸君!祖国氏と長官達を保護するのだ!」
「甘いね!この官邸のことは誰よりも知ってるんだよ!」
アメリカ妹はルースより遥かに長く、それこそこの国ができてからずっとこの官邸に出入りしている、だからこそ全てを知っているのだ。
だからこうルースにも言えた、それでだった。
「ハンナ、クー、こっちよ!」
「この道は」
「あの」
「脱出ルートよ!ワシントンさんが密かに用意してたね!」
廊下に出て脇の壁を押してそこをこじ開け中に入ってだった。
そこから暗い道に入りそしてそこから秘密の空港に向かう。そこから宇宙まで出てアメリカの乗艦に乗りテキサスに向かうのだった。
ガメリカは一変した、ルースは全権を握り徹底抗戦を主張しだした。日米の講和はなくなってしまった。
だがこのことにシュウ皇帝も重慶において戸惑いを隠せない顔でこう中国達に対して玉座から言うのだった。
「我が国にとっていいことだが」
「それでもあるな」
「そうだ、USJで勝負はあった」
皇帝から見てもこれは確かなことだ。
「これ以上の戦闘はガメリカにとってもよくない」
「その通りある」
中国もこう皇帝に答える。
「だからこれで講和になると思ったあるが」
「そして我が国もな」
「正直ガメリカが日本に勝ってくれないと手を出せないある」
中帝国単独ではもう日本の相手はできなくなっているのだ。
「それに向こうからも講和の話がきているある」
「そうだな。講和の条件は朕も見たが」
「どうあるか?」
「日本、太平洋側が占領している全ての領土の返還」
「捕虜もある」
「賠償金はない、太平洋経済圏への加入か」
「悪い条件ではないある」
むしろ敗戦国に対するとは思えない程の寛大な条件だ、ガメリカに対するのと全く同じ条件を提示されているのだ。
「だから乗るべきあるが」
「ガメリカが敗れた場合は受けるつもりだった」
皇帝もそうなっては戦えないと思ってだ。
「そうするつもりだったが」
「それでもあるな」
「ガメリカがまだ戦うなら別だ」
皇帝はこう判断した。
「もう暫く待とう」
「講和は先送りあるな」
「うむ、そうする」
皇帝は確かな声で中国に答えた。だがそれと共に。
難しい顔でこう中国と彼の妹に述べた。
「しかしルース大統領の急変は何だ?」
「そのことあるが」
今度は中国妹が答える。
「先程アメリカ妹から連絡があったあるが」
「うむ、どうなっている」
「講和を言うと急に切れたそうある」
「急に?」
「そう、急にある」
「徹底抗戦を主張してか」
「その通りある」
中国妹は皇帝に話す。
「そうなったそうあるよ」
「大体わかったがあの大統領は大人しい人物と思っていたがな」
「大人しい人程ある」
中国妹は逆説的なものを皇帝に話す。
「切れた時は怖いあるよ」
「それか」
「多分そうある。だから今のあの人は」
「ああなったのだな」
「その様ある」
「危ういぞ、今のガメリカは」
遠い重慶にいてもわかることだった。
「あの政権は四人の長官が柱になっていたが」
「それが今は四人共ある」
「中枢にはいないあるよ」
「そして暴走する大統領だけか、何時どうなってもおかしくないないな」
皇帝はガメリカの状況に危惧を覚えながら述べた。とにかく今のガメリカはこれまでとは一変し大統領が暴走していた。
宇垣もこう帝に述べる。
「申し訳ありませんが」
「ガメリカ側はですか」
「はい、講和どころか」
徹底抗戦を通告してきたというのだ。
「これではどうしようもありませぬ」
「戦争は続きますね」
「はい」
宇垣は帝に頭を垂れ答える。
「おそらくはワシントンを陥落させるまで」
「そうですか」
「全軍既に修理を終えています」
東郷が帝に答える。
「すぐにUSJからアメリカ東部に向かいます」
「そしてですね」
「シカゴ、テキサス、そしてニューヨークを陥落させます」
まずはその三つの星系だった。
「そしてそのうえで」
「ワシントンもですね」
「その予定です」
「御安心下さい、吉報をお届けします」
山下も帝に述べる。
「この戦いは」
「そうですか。ですが」
帝は浮かない顔のまま言う。
「戦いは続くのですね」
「申し訳ありません」
「いえ、山下が謝ることではありません」
そうしたことではないというのだ。
「ですが戦いが続くことが」
「帝、それもまた致し方ないことです」
宇垣は浮かない顔の帝にあえて告げた。
「ですから」
「そうですね。私がしっかりしなくてはなりませんね」
「お言葉ですが」
その通りだと告げる宇垣だった。
「ここは戦い続けるしかありません」
「そうですね」
「ワシントン攻略を念頭に置いていきます」
東郷も言う。
「お任せ下さい」
「では頼みますよ、東郷」
帝は覚悟を決めた顔で東郷に告げた。
「ガメリカとの戦い、貴方達に任せます」
「それでは」
「では今から前線に戻ります」
東郷達を御前会議に連れてきた日本も帝に告げる。
「そのうえで再び」
「はい、それでは」
日本達はUSJに戻った、その上で今度はシカゴ、テキサスへの進撃の用意に入った。東郷はUSJに戻るとすぐにこう日本に話した。
「シカゴとテキサス、それにだ」
「ニューヨークですね」
「特にニューヨークだ」
その星系を手に入れるというのだ。
「あの星系はガメリカの経済の中心地だ」
「世界最大の工業地帯でもありますね」
「あの星系を手に入れればガメリカは完全に終わる」
「はい、ワシントンは首都でしかありません」
つまりワシントン自体の資源や工業力は大したものではないのだ。
「ニューヨークに比べれば遥かに」
「だからまずはだ」
「はい、シカゴとテキサスもかなりの星系ですし」
どちらも経済規模はかなりのものなのだ。それこそUSJに匹敵するまでに。
「だからだ」
「必ずですね」
「ニューヨークまで進めよう」
「わかりました、それでは」
太平洋軍はUSJからガメリカ中部、そして東部に向かうことにした。戦いはまだ続くことになったのだった。
その太平洋軍が攻撃目標の一つに定めたテキサスのホテルの一室にだった。
キャロルがいぶかしむ顔でこうハンナとクー、そしてアメリカ兄妹に言った。
「また何でこんなところに呼んだのよ」
「理由はわかると思うけれど」
ハンナはそのキャロルを鋭い目で見て言った。
「もうね」
「ええ、あたしもミッちゃんから執拗に呼び出しを受けてるわ」
「ワシントンに戻って全軍の指揮を執れ、ね」
「ドロシーも探し出せって言われてるわよ」
「そうね。私もよ」
ハンナもそうだった。
「携帯にひっきりなしよ」
「携帯の番号変えないの?」
「変えてもその都度よ」
「そう、あたしと同じ事情ね」
「自分が全権を握ったから従えって言ってきてるわ」
「あたしもよ。本当にこれまでと全然違うじゃない」
「財閥の産業も資産も全部ワシントンに集められてるわ」
ハンナはこのことも話す。
「国家総動員体制に基いてね」
「ええ、ミッちゃん国家の権限を己に集中させてるわ」
「まさか瞬時にそこまでするなんて」
「あの人も本気になったら凄いのね」
「予想外だったわ。確かに経済手腕はあってもね」
それでもだと言うハンナだった。
「優柔不断で頼りないと思っていたけれど」
「人は切れたら豹変するのね」
「私もそのことは考慮に入れてなかったわ」
「けれど今は大変だぞ」
アメリカが二人に言って来た。
「ミスターは国家の権限を全て握った、財閥も強権的に従えさせているし何もかもが彼の思うがままになっているぞ」
「非常大権を発動させたから」
クーも言う。
「戦争中だから議会も認めるしかないのよ」
「これが普通のあの人ならまだよかったけれどね」
アメリカ妹も難しい顔で言う。
「今のあの人は豹変してるから」
「困ったな。今のミスターだと危険過ぎるぞ」
アメリカは彼にしては珍しく真剣に悩んでいる。
「暴走している、何をしてもおかしくない」
「だからよ。私達も今の政権にはいられないわ」
ハンナは唇を噛み締める様にして呟いた。
「恐ろしいことになるから」
「そうだ、だから僕達も君達を連れて逃げたんだ」
国家だがそうしたというのだ。
「いいか、君達は僕が然るべきところに匿う」
「祖国ちゃんそうしてくれるの?」
「当たり前だ。僕は君達の祖国だぞ」
キャロルにもこう言う。
「絶対にだ、君達を守る」
「この国のことなら全部知ってるからね」
アメリカ妹も真剣な顔で四姉妹の残る三人に言う。
「隠れる場所は何処にでもあるわよ」
「すいません、本当に」
「ガメリカの敗北は決定的だからね」
アメリカ妹もこのことを確信していた。
「だからことが済むまでね」
「私達を匿ってくれるんですね」
「任せて」
アメリカ妹は微笑んでクーに答える。
「あたし達にね」
「すいません」
「お礼はいいわよ。じゃあ早速ね」
「僕達のアジトに行こう」
アメリカも三人に対して言う。
「今ならまだ間に合うよ」
「あとわっしいだけれど」
キャロルは不意に彼の名前を出した。
「太平洋艦隊司令官を解任されたのね」
「ええ、そうよ」
ハンナがキャロルのその言葉に答える。
「それで今は何処にいるかわからないわ」
「祖国ちゃんはわかる?」
「少し調べればわかるぞ」
祖国だけあって国民の誰が何処にいるかはわかるのだ。
「それはな」
「そう、じゃああの人もあたし達のアジトに呼びましょう」
「そしてだな」
「とにかく今はこの状況をやり過ごして」
不本意だがキャロルもアメリカの提案に乗るしかないことはわかっていた、それで頷いて言うのだった。
「それからよ」
「ではダグラスには僕から連絡をするぞ」
アメリカからそうすると告げる。
「それじゃあな」
「ええ、お願いね」
「見つけたよ」
不意にホテルのテレビが点いた、そこから人相が一変しているルースが出て来た。
「全く、君達は国家の柱なのだから勝手なことをしてもらっては困るよ」
「プレジデント、どうしてここが」
「何、君達の携帯の発信源から居場所を探したのだよ」
こうハンナに答えるルースだった。
「それでだよ」
「馬鹿な、発信源の電波は特別のものだったのに」
「おやおや、ロック家のかい?」
「そうよ、ロック家の要人だけが使える特別製の携帯からの電波よ」
だからだというのだ。
「ガメリカ政府でも発信源はわからない筈なのに」
「私はそのロック家の資産と産業も集中させているのだがね」
流石に資産主義なので強制徴収はできないが強権を発動させて強引に従わせ技術等を提供させているのである。
「だからだよ」
「くっ、そしてその中で」
「君達の携帯のこともわかったのだよ」
「そうね、考えてみれば当然のことね」
ハンナが自分の迂闊さに舌打ちしたのは今が人生ではじめてだ。
「そういうことね」
「そうだよ。ではあらためて言おう」
ルースはテレビからアメリカ達に告げる。
「即刻ワシントンに戻り国難にあたってもらおう」
「断るわ」
ハンナが五人を代表してはっきりと言い切る。
「もう勝敗は決しているわ、これ以上の戦闘は無意味よ」
「だからだというのだね」
「講和すべきよ、それに今の貴方は」
「私は?」
「明らかに正気じゃないわ」
このことも言うのだった。
「だからよ、絶対に従う訳にはいかないわ」
「そう言うと思ったよ」
「国務長官は辞任させてもらうわ」
「私もです」
「あたしもよ」
財務長官と国防長官もだった。
「今のプレジデントにはとても」
「あのね、本当にここで講和しないと」
「ガメリカ全体が余計に傷付くから」
「何とか考えをあらためてくれない?」
「愚問だな。ガメリカは必ず勝つのだよ」
ルースは確信していた、それ故の言葉だった。
「君達がどう思っていようとな」
「そう。私達と貴方の考えの違いはわかったわ」
憤怒のルースに対してハンナはクールなままだった。
「もう一度言うわ、私達は辞任するわ」
「三人は僕が匿うぞ」
アメリカも彼の上司に毅然として、右手を拳にして言い切る。
「ミスターが講和しないのならそうするからな」
「祖国氏もそう言うのかね」
「そうだ、今のミスターには従えない」
「本当に少し頭冷やしなさいよ」
アメリカ妹は切実な顔で彼女の上司に告げた。
「さもないとミスター自身にとってよくないわよ」
「君達にも強権を発動しているのだがね」
ルースは彼等にもそれを向けていた。
「そう、強権をね」
「!?まさか既に」
「ちょっと、大変よ!」
キャロルは危機を察し咄嗟にホテルの窓を見た。見るとホテルの下には。
軍が殺到していた。ホテルは取り囲まれようとしていた。
「このままじゃホテルが!」
「君達にはワシントンに戻ってもらおう」
ルースの言うことは変わらない。
「身柄は拘束させてもらう」
「くっ、まずは部屋を脱出するんだ!」
アメリカは咄嗟に判断を下し彼以外の四人に告げた。
「このままここにいても何もならない!」
「ええ、そうね」
ハンナがアメリカのその言葉に頷く。
「それじゃあね」
「はい、それじゃあ」
「今から」
こうしてだった。彼等はテレビにいるルースから逃げる様にしてそのうえでまずは部屋から出た、そして部屋を出るとすぐに。
ハンナが四人に言った。
「クー、祖国さんと一緒に逃げなさい」
「え!?」
「五人だと目立ち過ぎるわ」
だかあそうしろというのだ。
「祖国さんは変装も得意だから」
「伊達に推理小説も好きじゃないぞ」
アメリカは実際に眼鏡を外し瞬時にラフな服になり髪型もオールバックにして普段と全く違う姿になっていた。
「そしてクーもだな」
「祖国さんも気付いていたのね」
「当たり前さ、僕は君達の祖国だぞ」
アメリカはウィンクをしてハンナに答える。
「わかっていない筈がないぞ」
「ではクーをお願いね」
「よし、任せてくれ」
アメリカはここで携帯を入れてだった。
「今ダグラスにも連絡した、キャロルを助けてくれと頼んでおいたからな」
「そう、それじゃあね」
「ハンナ、君はどうするんだ?」
「ハンナはあたしと一緒に逃げるよ」
アメリカ妹が言う。
「とはいってもこっちは危ないかもね」
「そうか、頑張ってくれ」
「祖国さん達は。そうね」
ハンナはアメリカとクーを見ながら言う。
「隠れるよりもね」
「どうすべきなんだ?」
「誰かに助けてもらった方がいいかも知れないわね」
こう言うのだった。
「ここは」
「誰かに」
「心当たりはあるかしら」
「あるぞ」
アメリカが答えた。
「ここも僕に任せてくれ」
「この状況を何とか出来る相手よ」
「そして君達を救える相手だ」
アメリカはこうも言い加えた。
「知っている。任せてくれ」
「そう。じゃあ祖国さんに任せるわね」
ハンナも覚悟している顔でアメリカに答える。
「それじゃあね」
「よし、じゃあ二手に別れよう」
アメリカはキャロルも見ていた。
「行こうか」
「ちょっと待って」
だがここでキャロルがアメリカに言う。
「祖国ちゃんはクーだけお願いね」
「君はまさか」
「ええ、あたしはあたしだけで逃げるから」
「一人でなのかい?」
「後でわっしいが来るのよね」
キャロルが言うのはこのことだった。
「だったら安心よ」
「ダグラスとは連絡が取れるな」
「ええ、大丈夫よ」
キャロルは確かな微笑みでアメリカに言う。
「だから任せて」
「本当にいいんだな」
「あたしも頼りになる相手のところに行くから」
キャロルは内心決意しながら言う。
「それじゃあね」
「よし、じゃあ三手に別れよう」
「幸運を祈るわ」
ハンナは決意している顔でアメリカ達に告げた。
「私達も逃げるから」
言いながら携帯を捨ててそのヒールで潰す。
「それじゃあね」
「行くわよ、ハンナ」
アメリカ妹がハンナに告げる。
「今からね」
「ええ、それじゃあね」
五人はそれぞれ別れて脱出にかかった。ダグラスもアメリカからの連絡を携帯で見ながら言う。
「祖国さんの頼みなら喜んでだな」
こう言って意を決する、彼もまただった。
東郷のところに連絡が来た。紹介活動に当たっているコーギーからだった。
「司令、SOSを出しているう小型船が来ています」
「小型の?」
「民間船ですが」
「何だ、亡命者か?」
東郷は司令部を置いているUSJの基地の司令室から言った。
「はじめてだな」
「そうですね。一体誰ででしょうか」
「わからないな。だがだ」
「ではどうされますか?」
「亡命者は拒まない」
そうするというのだった。
「SOSを出しているのなら余計にな」
「わかりました、それでは」
こうしてその小型船は保護された。この時は東郷も誰も大きなことになるとは夢にも思っていなかった。だが。
小型船から出て来たのはアメリカだった。変装を解いて元の姿に戻った彼を見て日本は思わず声をあげた。
「アメリカさん!?どうして」
「日本、僕は君達と講和したい」
アメリカは眼鏡をかけてから切実な顔で日本に告げた。
「勝敗は決した、だからだ」
「ですが貴方の国の大統領は」
「わかっている。ミスターは徹底抗戦を主張している」
「ではそれは」
「しかし僕は講和だ」
そうするというのだ。アメリカ自身は。
「そして君達に頼みたいことがある」
「頼むとは」
「ガメリカを救って欲しい」
彼の国と国民達をだというのだ。
「プレジデントのことはわかっていると思う」
「明らかにおかしいな」
日本の横にいる東郷が言ってきた。
「別人にしか思えない」
「はい、そうです」
「暴走している、あのままいくと危険だ」
「そうだ、ガメリカはミスターが非常大権を集めて全てを握っている」
それからだった。
「そのうえで今動いているんだ」
「言うなら狂気の独裁者だな」
東郷は今のルースをこう評した。
「まさにな」
「そうだ。このままだとガメリカは大変なことになる」
アメリカの顔には危機がある。
「だからここは何とかして欲しいんだ」
「僕からもお願いです」
ここで中性的な、いや少女にしか思えない顔立ちの美少年も言ってきた。
「あの、ハンナを」
「?君は確か」
東郷は少年の顔を見てすぐに気付いた。
「クー=ロスチャ財務長官か」
「まさか一目で」
「実は最初テレビで観た時から気付いていたさ」
この辺りは東郷の眼力だった。
「君が本当は男だということはな」
「まさか。気付いているのは祖国さん達とハンナ達だけだと思っていたのに」
「ロスチャ家の君の兄弟は男ばかりだ」
このことは世界的に知られていることだ。
「女性は君だけだとされていた」
「はい、ですが実は」
「君も男だった」
「兄弟の中で僕が最も銀行家の資質があり女性的な顔立ちでした」
クーはやや俯きこの事実を話す。
「ですから性別を偽っていました」
「そうした事情は知らなかった」
「そうですか」
「しかし君が男性であることは気付いていた」
東郷はこのことはだと言う。
「その君まで来たか」
「僕達四姉妹の残る三人も講和派です」
消息不明のドロシー以外の三人はというのだ。
「そしてハンナを」
「ガメリカ国務長官もか」
「助けて下さい、どうやら」
「妹から連絡が来たぞ」
アメリカは自分の携帯を見て苦々しい顔でクーに話す。
「今ワシントンにいるそうだ」
「じゃあ」
「ああ、捕まった」
そうなったというのだ。
「残念だがな」
「そうですか。じゃあ」
「ハンナも助けよう」
アメリカは自分からクーに告げた。
「ガメリカ自体がこのままじゃ大変なことになる」
「いいのかい?それで」
東郷はアメリカにも問うた。
「こちらのやり方だと」
「ワシントンまで占領しないと駄目なんだな」
「あの大統領を倒すまで戦いは終わらないだろう」
こう言うのだった。
「そうなってもいいか」
「構わない、国民さえ傷付かないのならな」
アメリカもこう返す。
「それは約束してくれ」
「日本軍の相手は軍人だけだ」
これが東郷の返答だった。
「軍規軍律にも明記されている」
「それならだな」
「そうだ、約束する」
毅然としてアメリカに答える。
「何があろうとも」
「わかった、では僕は君達と講和する」
他ならぬ祖国がそうするというのだ。
「そして君達と共にガメリカの為に戦うぞ」
「僕もです」
キャロルも儚げな顔立ちだがそれでも言う。
「戦わせて下さい」
「君も艦隊の指揮ができるのか」
「実は」
それもできるというのだ。
「任せて下さい」
「わかった」
東郷はクーのその言葉に対して頷いた。
「では君も提督として迎えよう」
「有り難うございます」
「さて、思わない展開になったな」
これは東郷ですらこう言うものだった。
「ここでアメリカさん、それに四姉妹が亡命してくるとはな」
クーを見ながら言う東郷だった。
「だがこの状況を絶対にだ」
「我々の流れに持って行きますね」
「そうしないとな」
日本には微笑んで返す。ガメリカとの戦いは思わぬ展開になろうとしていた、アメリカの講和宣言とクーの参加という事態と共に。
TURN59 完
2012・10・10
大統領が暴走。
美姫 「まさかの急変ね」
そこまで講和が嫌だったとは。
美姫 「しかも、行動が早いわね」
確かにな。おまけにハンナたちの裏までかくし。
美姫 「かろうじてクーと祖国さんは東郷たちの元へと逃れれたけれどね」
ハンナは捕まってしまったか。
美姫 「これからどうなっていくのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」