『ヘタリア大帝国』




                  TURN58  USJ決戦

 キャロルはUSJにいた。アメリカ兄妹も一緒だ。
 アメリカ妹は自身の乗艦からモニターを通じてキャロルに言った。
「悪いね、ゲイツランドのことは」
「参戦できなかったこと?」
「ええ、こっちの準備に手間取ったからね」
「いいのよ、あたしが無理言って妹ちゃんにここで頑張ってもらったし」
 キャロルはこのことは笑ってよしとした。
「けれどゲイツランドがあそこまであっさりと陥落したのはね」
「予想外だったんだね」
「ソーラレイがあったから」
 キャロルもソーラレイには自信があったのだ。
「あれで負けても相当なダメージを与えられると思ってたんだけれどね」
「残念だけどそうはならなかったね」
「ええ、してやられたわ」 
 キャロルは今度はむっとした顔になる。
「今回もね」
「全く。頭が回るね」
 アメリカ妹は太平洋軍に対してある意味感心していた。
「連中も何かと」
「ええ、機転が利くのは間違いないわ」
 キャロルもそのことは認める。不承不承ではあるが。
「向こうの司令官はね」
「東郷だな」
 アメリカもモニターに出て来た。
「あの司令は確かに強いな」
「あんな厄介な敵はいないね」
 アメリカ妹はこう兄に言う。
「だからここまで来られたんでしょうけど」
「そうだな。ところでだ」
「ところで?」
「これから僕の乗艦に集まって会議だな」
 アメリカは妹とキャロルに言った。
「そのことなんだが」
「ええ、どうしたの?」
「ドワイト司令はいるかな」
「ああ祖国さん何だ?」
 スキンヘッドでやけにいかつい身体の男が出て来た、しかもその身体はただ大きいだけではない、そのうえなのだ。
 身体のあちこちが機械になっている。この男ドゥービル=ドワイトは誇らしげな顔でアメリカに対して言ってきたのだ。
「何かあるのかい?」
「また機械化が進んでないか?」
「まあな。アステカ帝国と一戦交えたからな」
「勝ってはいるんだよな」
「勝ったさ。けれど負傷してな」
 その結果だというのだ。
「また機械を付けたさ」
「そうか、それでか」
「ガメリカ軍のサイボーグ司令」
 ドワイトは自分から言う。
「中々いいものだろ」
「クローン技術で身体は幾らでも元に戻せるでしょ」
 クローンで作った身体の一部を移植させてそれで元通りにする、キャロルはこの世界では普通になっているこの技術のことを言っているのだ。
「それで何で機械にこだわるのよ」
「サイボーグが好きだからな」
 それでだというのだ。
「悪いかい?」
「悪いっていうか。まあとにかくね」
「祖国さんの船に集まるか」
「ええ、そうしましょう」
 彼等はアメリカの乗艦戦艦アメリカの会議室に集まった。ドワイトは会議室に入ると開口一番コーヒーを手にして言った。
「俺としては少し寂しいな」
「ダグラス司令のことだな」
「ああ、祖国さんとしてはどう思うんだ?」
「やっぱり僕も寂しいさ」
 アメリカもコーヒーカップを片手にドワイトに答える。
「彼もいて欲しかったな」
「この戦いはな」
「正念場だからな」
 アメリカも何時になく真剣な顔だ。
「是非共な」
「全くだ。政治的な事情かい?」
 ドワイトはキャロルを見て問うた。
「長官さんはそのことは知ってるかい?」
「言えると思う?」 
 キャロルはむっとした顔でドワイトに答える。それが何よりの答えだった。
「若しそうなら」
「まあそうだろうな」
「そういうことよ。今はシカゴ、テキサスの防衛ラインを強化してもらってるから」
「また随分と地味な仕事だな」
「そういうことになってるからね」
「長官さんとしてはそれでいいのかい?」
 ドワイトは国防長官であるキャロルに問うた。
「プレジデントか国務長官の要望だろうけれどな」
「というかあんた全部わかってるでしょ」
「さてな」
 このことはとぼけるドワイトだった。
「長官さんと同じ対応でいいか」
「ええ、それならね」
「そういうことだな。まあ政治っていうのはそういうものだな」
「色々と事情があるのよ」
「それで制約が出来る」
「わかってて全部言うのもどうかと思うけれど」
「ははは、それもそうだな」
 ドワイトは笑ってキャロルに応えた。機械の身体ではあるが笑うと妙に気さくで明るい感じになっている。
「じゃあ止めるか」
「そういうことでね」
「個人的にはドワイトとダグラスのタッグは見たかったな」
 アメリカはまだ言う。
「けれどそれも仕方ないな」
「そうね。けれど今はガメリカ軍の今の状況でね」 
 アメリカ妹は己の席から明るく言う。
「ベストの状況だよ」
「オールスターにしたわ」
 USJの戦力集結を命じたキャロルも己の席で胸を張る。
「勝つ為にね」
「そうよね。これまで結構やられたけれど」
「今度は間違いなく勝つわ」
 キャロルはアメリカ妹に顔を向けて断言した。
「数も装備もね」
「揃ってるからね」
「しかも祖国ちゃんと妹ちゃんがいて」
「俺もいるからな」 
 ドワイトも自信に満ちた笑みだ。
「太平洋軍を倒すか」
「太平洋軍jは一度負けたら終わりよ」
 キャロルも彼等のこの事情はよく理解していた。
「だからここで勝って一気にハワイも奪還して」
「それからだな」
「ええ、日本本土まで入って一気に降伏させるから」
 そして彼等をソビエトにぶつけるというのだ。
「確実にそうなるから」
「そうなるな。ただな」
「ただ?何よ」
「今のガメリカ軍は確かに戦力は凄いさ」
「絶対に勝てる位にね」
「しかしハワイでもゲイツランドでも負けている」
 勿論マニラでもミクロネシアでもだ。
「このことは何故か、だな」
「決まってるじゃない、こっちの油断よ」
 キャロルはむっとなって自省も見せた。
「正直日本を侮ってたわ」
「魚を巧みに使ってたな」
「あれは正直見事だったわ」
「しかも戦術もよかったな」
「ええ、まさかあれ程とは思わなかったわよ」
 キャロル自身ハワイでは彼等を甘く見ていた。だが、だったのだ。
「けれど。今度はね」
「油断はしないか」
「だからあんたにも祖国ちゃん達にも来てもらって」
 今ガメリカで戦える全ての人材を集めたというのだ。
「それで将兵も精鋭ばかりで艦艇も最新鋭を全部持って来たのよ」
「万全の態勢か」
「これで勝てない筈がないわよ」
 キャロルはその右手を拳にして言う。
「絶対にね」
「勝てるんだな」
「どうやって負けるっていうのよ」
 こうまで言うキャロルだった。
「何があっても勝てるわよ」
「俺も実際はそう思うさ。それじゃあな」
「ええ、太平洋軍が来たら」
 その時にだというのだ。
「一気に攻めてね」
「そして勝つんだな」
「圧倒的な戦力で正面から攻めて一気に潰すわ」
 今ガメリカ軍は守る側だがキャロルは本来の積極的、いや攻撃的と言ってもいい性格とこれまでの連敗で生じた焦り、自身の東郷への感情と己の失態への自省、そうした複数のものから積極攻勢を決めたのである。
 それでこうドワイトとアメリカ達に対して言ったのだ。
「押し潰すわよ」
「その数で」
「そうするんだね」
「ええ、そうよ」
 そのアメリカ兄妹にも答える。
「小細工なしで、正面からね」
「じゃあ艦載機に戦艦も使ってだな」
「潰してやるわ」
「数と装備を使うんだな」
「正直ね。小細工は必要ないわ」
 それは確かにその通りだった。今のガメリカ軍と太平洋軍を比較すれば。
「数と装備、それに今のガメリカ軍は」
「士気も高いね」
「だからよ。本当に攻めてやるわ」
 キャロルは積極攻勢だけを考えている、守りのことは何もだ。
「そうしてやるわよ」
「そういえば敵の謎の兵器があるが」
「あのセイレーン?」
「そいつにはどうするんだ?」
「姿を消しているだけでしょうから」
 キャロルは既にこのことを察していた。それでドワイトに言うのだ。
「そのいそうな場所にね」
「攻撃を仕掛けるんだな」
「ええ、狙うんじゃなくてその一体を絨毯攻撃よ」
 それで隠れている潜水艦を沈めるというのだ。
「そうしてやるわよ」
「また大雑把な攻撃だな」
「大雑把でもやっつけられればいいじゃない」
「その通りだがな」
「だがなって。それで倒せるならしてやるべきでしょ」
 キャロルはここでも強気だった。
「本当に叩き潰してやるわよ」
「では全軍出撃だな」
 ドワイトは落ち着き微笑みさえ見られる声で言った。
「今からな」
「ええ、やってやるわ」
 キャロルは毅然としてドワイトに言葉を返した。そうして。
 USJにいるガメリカ軍は全軍で太平洋軍の前に姿を現した。しかもそれはただ姿を現しただけではなかった。
 秋山は長門の艦橋からその銀河を埋め尽くさんばかりの大軍を見て言った。
「全軍でこちらに来ていますね」
「そうだな」
「数は我が軍の三倍近くです」
「ガメリカ軍の主力の殆どか」
「はい、それだけの数が来ています」
「それが正面から来る」
 東郷は秋山の横で冷静に述べる。
「普通に考えれば勝てない」
「しかも今回は隠し球もありません」
「あえて持って来なかった」
「またそれはどうしてですか?」
「奇策は敵が予測していない時に使うものだ」
 だからだというのだ。
「そうそういつも使うものじゃない」
「それで今回は」
「そうだ、持って来なかった」
「それ故にですか」
「そしてだ」
 東郷はさらに言う。
「絶対に勝てる策もあるからな」
「あの策ですか」
「だからこの布陣にした」
 東郷は陣を中央は厚みのある矢印形の陣にしている。そして左右の兵は薄くしてある。
 しかも中央は防御力の強い艦艇を集めている。だが。
「潜水艦はですね」
「まだ動かさない」
「打ち合わせ通りに」
「然るべき時に俺が指示を出す」
 長門のモニターにはガメリカ軍の大軍が彼等に迫って来ている状況が映されている。東郷はそれを見ても全く動じていない。
「これも打ち合わせ通りだ」
「全てはですね」
「そういうことだ。まずは干戈を交えよう」
「全てはそれからですね」
「ガメリカとの戦いはこのUSJでの戦いで決まる」
 雌雄が決するというのだ。
「ここで勝てばもうガメリカは我々に勝てない」
「そうですね。あれだけの戦力を集めてきていますし」
 確かにガメリカ軍の数は多い、だがそれでもだというのだ。
「ガメリカ軍の精鋭のほぼ全てです」
「あれが倒されればもうガメリカ軍に我々に対抗できる戦力はない」
「それ故にですね」
「しかもこのUSJからシカゴ、テキサスにも攻められる」 
 宙理の事情もあった。
「そこからニューヨークも入られる」
「そしてワシントンにも」
「確実に勝てる」
 東郷は断言した。
「それではだ」
「はい、では」
 秋山は東郷の言葉に真剣な顔で頷く。こうしてだった。
 太平洋軍はガメリカ軍を迎え撃った。ここでは攻防の立場が逆になっている。
 キャロルは自らの乗艦から高らかに言った。
「さあ、突撃よ!」
「了解!」
「そしてですね!」
「そうよ、太平洋軍をこのまま押し潰すわよ!」
 こう将兵達に告げる。
「いいわね!」
「わかってます!」
「このまま!」
「この戦力で正面からぶつかれば」
 キャロルは目からこれまでよりもさらに強い光を放っていた。
 そしてその目で目の前の太平洋軍を見据えて言うのである。
「勝てるわ」
「はい、それでは」
「今から」
「艦載機を出しなさい!」
 空母、しかも大型空母の数もかなりのものだった。
 そしてその大型空母から艦載機を次々と出す。それで太平洋軍に積極的な攻撃を浴びせてきたのだった。
 忽ち太平洋軍の艦艇が何隻かダメージを受ける。だが。
 平良は己の乗艦である戦艦が衝撃で揺れても平然としてこう指示を出したのである。
「ダメージコントロールを急げ」
「そしてですね」
「今は」
「時を待て」
 こう部下達に告げるのである。
「いいな」
「そしてその時が来れば」
「いよいよですね」
「反撃の時は来る」
 平良は艦橋に仁王立ちしている。警報が伴奏の様に始終鳴り響いていて赤い光が点滅しているがそれでもだった。
 彼は艦橋に仁王立ちして言うのだった。
「その時までは待つのだ」
「何とか沈まずに」
「その時を」
「司令が仰っている」
 今の彼は東郷に絶対の信頼を向けていた。戦いの中でそれを手に入れたのだ。
 それ故に取り乱すことなく己の部下達に言っていく。
「それならば絶対にだ」
「反撃ですね」
「それに移りますね」
「その時まで待てばいい」 
 そうだというのだ。
「わかったな」
「ですね。今は敵に攻めさせるべき」
「精々やってもらいましょう」
「弾幕を張って敵を出来るだけ退かせろ」
 ダメージは最低限で押さえることも忘れてはいない。
「そして次だが」
「来ます」 
 モニターに福原いづみが出て来た。彼女の後ろも騒がしくなっている。
「ガメリカ軍の戦艦が突撃してきます」
「そうだな」
「ではお兄様、ここは」
「司令が今仰る」 
 平良がこう言った時にその東郷が言った。
「全軍少し下がれ」
「そういうことだ」
「はい、手筈通りですね」
「このままいける」
 微笑んでの言葉だった。
「ではな」
「はい、それでは」
 福原も微笑んで平良に返す。そしてだった。
 太平洋軍の中央はガメリカ軍の猛攻に耐えられなくなったかの様に下がりだした。左右の陣はそのまま残っている。
 小澤は右にいる。そこから左の南雲の通信を受けた。
「今のあたし達はこのままでね」
「そうです。為されるがままです」
「中央は下がったね」
「しかし私達は残ります」
「突破されようとしている状況に狼狽して動けない」
「そうなっています」
 小澤はこう南雲に淡々と話す。
「そういうことで」
「そうだね。まあ敵はどんん攻めてきているね」
「本当に全軍で攻めてきていますね」
「どうしたものだろうね、ここは」
「大変です」
 こうは言っても小澤の言葉は棒読みである。
「負けますよ」
「まずいね、どうしたものかね」
 南雲も笑っている。
「流石に三倍で質も圧倒的な相手だとね」
「おいそれとは勝てません」
「そう、おいそれとはね」
「勝てないです」
 また言う小澤だった。
「これでは」
「さて、あたし達はこのままだね」
「左右に展開したままです」
「じゃあ戸惑っておこうかね」
「そういうことで」 
 お互いに話してそうしてだった。
 太平洋軍の左右は薄い層のまま退く中央を見て狼狽していた。少なくともガメリカ軍にはそう見える状況だった。
 キャロルはその彼等を見てこう言った。
「左右は後回しよ」
「まずはだな」
「そうよ、中央の敵の主力を叩き潰すわ」
 そうすると部下達に返す。
「いいわね」
「はい、それでは」
「ここで総攻撃ですね」
「ええ、一気に決めるわ」
 そのつもりだった。キャロルは勝機を見ていた。
 そのうえでドワイトとアメリカ兄妹にもこう告げた。
「いいわね、行くわよ!」
「そうだな、ここで決めるぞ!」
「一気にね!」
 アメリカ兄妹は陽気にキャロルに応える。
「今攻勢を仕掛ければ」
「それで太平洋軍は総崩れね」
「艦載機から鉄鋼弾まで一気にいくわ」
 四段攻撃、それを一気に決めるというのだ。
 そのことを話して実際にさらなる攻勢に出ようとする。だが。
 ドワイトは冷静にそのキャロルにこう言った。
「いや、今は止めた方がいいかもな」
「どうしてよ」
「確かに俺達は押している」
 ドワイトも戦局はよくわかっている。ガメリカ軍は太平洋軍を一方的に押しており太平洋軍は為す術もない様に見える。
 だがそれでもだというのだ。
「しかしだ」
「しかしって。敵の策ってこと?」
「ここは積極的に攻めるより慎重に行くべきだと思うがな」
「じゃあ総攻撃じゃなくて」
「普通の攻撃で突っ込まない様にすべきだな」
 これがドワイトの考えだった。
「俺はそう思うがね」
「ふん、若し何か仕掛けてきても押し切ってやるわよ」
 キャロルは自軍の戦力を確信してこう返した。
「それこそね」
「そうするか」
「ええ、そうしてやるからね」
「まあそれならそれでいいがな」
「じゃあいいわね。仕掛けるわよ」
「わかった。じゃあ若しもの時は任せてもらおう」
 ドワイトはここでは微笑んで言うだけだった。
「長官のやり方も間違っちゃいない」
「本当に引っ掛かる言い方ね」
「何分相手が相手だからな」
 ドワイトは今は東郷を見ていた。
「だからな」
「本当に引っ掛かる言い方するわね」
「ははは、俺の癖だからな」
 それでだと返すドワイトだった。
「それじゃあ攻めるか」
「ええ、敵の主力を一気に叩くわ」
 キャロルはドワイトの話に妙なものを感じたがそれでも今は積極的に攻めることにした、そのまま数と質で押し切ろうというのだ。
 ガメリカ軍は総攻撃に出た、東郷はその総攻撃を前にこう全軍に告げた。
「また下がるぞ」
「はい」
 秋山も東郷のその言葉に頷く。
「予定通りですね」
「そうだ、予定通りそのまま下がる」
「ではそろそろ」
「そうだ、いいか」
「ああ」
 田中がモニターに出て来た。エルミーと〆羅も一緒だ。
「何時でもいいぜ」
「では予定通りですね」
「ここは」
 エルミーと〆羅も東郷に応える。
「私達は敵の後ろに回り込む」
「そうして」
「そうだ、打ち合わせ通り頼む」
「わかったぜ」
 田中は東郷に威勢よく述べた。
「それじゃあやってやるぜ」
「そういうことでな」
「あんたに俺の潜水艦での腕前を見せてやるぜ」
「是非見せてもらおうか」
 東郷は悠然として田中に返す。そして。
 潜水艦艦隊は密かに敵の後ろに向かった、そしてだった。
 太平洋軍の中央はそのまま下がる、それはガメリカ軍の総攻撃に為す術もなくそうなっている様に見えた。
 しかしその中で。
 アメリカがふと戦局に気付いたのだった。
「!?何かおかしいな」
「おかしいって!?」
「僕達は攻めているな」
 こう妹に言う。
「確かに」
「ああ、見ての通りだよ」
「総攻撃をこれでもかとかけているんだ」
「その通りだよ」
「その割りに動きがおかしくないか?」
「敵のかい?」
「そうだ、敵のダメージは思ったより少ない」
 見れば目の前の太平洋軍は然程損害を受けていない、ダメージを受けた艦艇はそれなりだが撃沈されているものは少ない。
「かわしてないか?攻撃を」
「?そういえば」
「しかも陣も崩れていないぞ」 
 アメリカはこのことにも気付いた。
「あれだけやられているのに」
「しかも敵の攻撃をどれだけ受けても」 
 それでも全く崩れていない。アメリカ兄妹はそのことに気付いた。
 そしてキャロルも。今の状況に気付いたのだった。
「まずいわ、全軍一時下がるわ」
「!?長官一体」
「何かあったのですか!?」
「敵には潜水艦があるわ」
 このことも念頭にあった。
「若しもここで仕掛けてくるとしたら」
「ですから一体」
「何が」
「話はいいわ、すぐに下がるわ」
 キャロルはいぶかしむ部下達にとにかくといった感じで告げた。
「いいわね」
「では今は」
「そうしますか」
「急いで、一刻の猶予もないわ」 
 キャロルはすぐに全軍を返そうとする。だがここで攻勢が止まってしまった、それでだった。
 東郷もそれを見てすぐに秋山に告げた。
「よし、読み通りだ」
「ガメリカ軍が攻勢を止めることがですね」
「そうだ、相手の長官はできるからな」
 国防長官であるキャロルの思考も資質も詠み切っていた。
「積極的に攻めてきてもな」
「それでもですね」
「途中で我々の動きが妙なことに気付く」
「今の様にですね」
「それで危機を察して下がろうとする」
「並の将なら最後まで突っ込んできますね」
 秋山は今の戦局も頭に入れながら話す。
「そこで囲めばいいですが」
「そうだ、しかしキリング長官は違う」
 そのキャロルはどうかというのだ。
「彼女は鋭いからな」
「だからですね」
「気付いてそこで下がろうとする」
「そしてそこに隙ができますね」
「そこを衝く」
 まさにそうするというのだ。
「もう潜水艦艦隊は後ろに回り込んでいる」
「それでは」
「皆今だ」
 東郷は秋山だけでなく全軍に告げた。
「今から反撃に移るぞ」
「わかりました」
「待ちに待っただね」
 小澤と南雲がモニターに出て来て応える。
「我が艦隊は敵の側面に位置しています」
「こっちもだよ」
「では今から」
「攻撃だね」
「ああ、勿論我々もだ」
 正面の軍もだというのだ。
「一気に攻める」
「敵は下がりはじめたその瞬間が最も弱い」
 日本も言う。
「だからこそですね」
「ああ、今こそ仕掛ける」
 東郷はモニターに現れた日本にも述べる。
「それでいこう」
「では」
 こうしてだった。太平洋軍は一気にだった。
 下がりだしたガメリカ軍に迫り反撃に出た。今度は彼等の総攻撃だった。
 小澤は大型空母から艦載機を次々に発艦させる。そのうえでこう言うのだった。
「編隊を組むのは移動中でいいです」
「そしてですか」
「移動しながらですか」
「そうです。艦隊の上で編隊を組むと時間のロスになります」
 だからだというのだ。既に艦載機にはミサイルや鉄鋼弾が装填されtえいる。
「ですからすぐに」
「出て、ですね」
「移動中に編成を組み」
「中隊単位でお願いします」
 小澤はその編成についても言った。
「それで一隻ずつ仕留めて下さい」
「はい、それでは」
「反撃に移りましょう」
 小澤艦隊の部下達も頷く。艦載機達は自分達の艦載機を一時収容し下がろうとするガメリカ軍に襲い掛かった。そして。
 空母の甲板、戦艦のビーム砲塔に攻撃が次々と当たる、忽ちのうちに炎の柱があがり艦が炎に包まれていく。
「セントロー被弾!」
「タイコンデロガ炎上です!」
「なっ、まさか!?」
 キャロルは損害の報告を聞いて驚きの声をあげる。
「太平洋軍はまさかこの時を狙って」
「後方から魚雷です!」
「急に来ました!」
 また報告があがる。そしてだった。
 その魚雷を受けガメリカ軍の艦艇は動きを止める。見れば大型空母ばかりだ。
 田中は潜水艦に酸素魚雷を次々に放たせながらこう言うのだった。
「よし、いいか野郎共!」
「はい!」
「焦らずですね!」
「そうだ、一隻ずつ動けないようにしろ!」
 田中自身潜望鏡から獲物を見つつその取っ手にある魚雷発射のボタンを押しながらだった。
「敵に俺達の場所はすぐにはわからねえ。だからな」
「敵の大型空母をですね」
「まさに一隻ずつ」
「そしてそれから戦艦だ」 
 戦艦も攻撃するというのだ。
「いいな、そうするぞ」
「そうですね。ここで敵の主力を一気に潰しましょう」
「ここで」
「まずは前から攻めてだ」 
 そしてだった。
「反転する時に後部の発射菅からも撃つからな」
「それで今度は戦艦ですね」
「連中を潰しますね」
「酸素魚雷なら戦艦でも一撃で動けなくできるんだ」
 それだけの威力はある、しかもだ。
「俺に任せろ。奴等のエンジンの場所はわかってるんだ」
「だからですね」
「そのエンジンに的確に」
「それに甲板もな」
 空母は甲板さえ無事なら艦載機を出し入れできる、つまり戦力を維持できるがその甲板の場所も把握しているんというのだ。
「そこを狙って潰していってやる」
「ではここはお任せします」
「司令に」
「狙いを外したことはねえ」
 田中は鋭い目で言う。
 彼は駆逐艦のそれこそ水雷長だった頃から魚雷を外したことはない、まさに百発百中の腕を持っているのだ。
 それ故に今もこう言うのだ。
「絶対に当ててやる」
「ですね。一隻ずついきましょう」
「潰していきましょう」
 部下達も田中への信頼を見せる。そして田中はそれに応える男だ。
 反転しそこからも魚雷を放つ、それでだった。
 後部から放った魚雷でも敵の戦艦、空母を撃つ。それでまた敵軍にダメージを与えた。
 潜水艦はそこから姿を消して別の場所からの攻撃に移る。彼等は後方からそうして敵の戦力を減らしていた。
 太平洋軍の攻撃は続く。サフランも果敢に攻撃を放つ。
「このまま攻撃です」
「そうしてだね」
「そう、攻めるわ」
 サフランはアグニに話す。
「このままね」
「サフランは空母だから攻撃も速いね」
 確かにサフランの艦隊からも艦載機は次々に発艦している。
 サフランはその指揮を執りながらアグニに応える。
「ええ、貴方もね」
「僕は戦艦だけれど」
「照準は合わせているわね」
「うん、一隻ずつね」
「そのまま撃沈していって」
 こうアグニに言う。
「そうしていって」
「言われなくてもそうしてるよ」
 アグニはその敵艦、照準を合わせたそれに彼の艦隊の戦艦の砲撃で一隻ずつダメージを与えていっている。下がろうと攻撃と動きを止めたことがガメリカ軍の仇となっていた。
 太平洋軍の総攻撃から流れを完全に掴まれていた。彼等は今碌な反撃もできずただひたすらやられている。
 その彼等を見ながらこうサフランに述べたのである。
「こうしてね」
「それならいいわ。けれど」
「それでもなんだ」
「敵の数はまだ多いわ。だから」
「油断するなっていうんだね」
「ええ、敵の数を減らしていって」
 そしてだというのだ。
「戦闘不能に陥ってもらいましょう」
「そうだね。こうしてね」
「空母に戦艦」
 まずはこの二種類の主力艦だった。
「それから駆逐艦」
「巡洋艦はいいんだ」
「突出した攻撃がないから」
 だからいいというのだ。
「それよりも駆逐艦よ」
「駆逐艦は鉄鋼弾があるからだね」
「そう、だからね」
 それで巡洋艦よりも駆逐艦を攻撃すべきだというのだ。
「駆逐艦も重点にね」
「わかったよ、それじゃあ」
「攻撃力の強い敵から潰していけばいいわ」
「しかも撃沈するよりもだね」
「攻撃不能にしていけばいいわ」
 実際にガメリカ軍は撃沈されている艦艇よりも行動や攻撃を不能状態に陥らせられている艦艇が多かった。これもまた。
「司令の言うように」
「あの司令も考えてるよね」
 アグニは一隻の敵戦艦の砲塔を攻撃し吹き飛ばしてから言う。砲塔を吹き飛ばされた戦艦はダメージコントロールに大あらわになっている。
 その戦艦を見ながらアグニはサフランに言う。
「こうして攻めれば確かにね」
「大勢の相手も攻められるわ」
「一隻を沈めればそれで終わりだけれど」
「ダメージを与えるだけなら」
 見ればその戦艦に友軍の艦が来て助けている。 
 その他の艦艇もだ。そうして友軍の艦艇に助けてもらい余計に手をかけていた。
 そしてその中でこうサフランに言うのだった。
「余計にいいよね」
「ええ、そうよ」
「敵の戦力がどんどん減っていってるよ」
「この調子ならいけるわ」
 サフランはダメージを受けた自軍の艦を救うガメリカ軍の無傷の艦を見ながら言う。
「勝てるわ」
「うん、絶対にね」
「攻撃は撃沈を習わなくていい」
 実際に東郷も言う。
「ダメージを与えるだけでいい」
「こうしたやり方もあるのですね」
 日本がモニターから東郷に言ってきた。
「戦闘になれば撃沈することが筋ですが」
「基本はそうだ。しかしな」
「今の様に敵が圧倒的に有利な状況なら」
「こうして敵の戦力を減らすべきですね」
「そういうことだ。俺も最近気付いたことだ」
「そうでしたか」
「ああ、敵の戦力をこのまま減らしていく」
 沈めるのではなくダメージを与えてだというのだ。
「そうしていこう」
「では」
「あと一押しだ」
 戦局はそうした状況だった。
「このままいける」
「はい、このまま攻めていきましょう」
 日本は確かな顔で東郷に応えた。そうして。
 太平洋軍は攻撃を続ける、そして遂にだった。
 ドワイトがキャロルにモニターから言った。
「もう限界だな」
「撤退しろっていうの?」
「ああ、もう無理だ」
 これ以上の戦闘は悪戯にダメージを増やすだけだというのだ。
「だから撤退してな」
「負けるわよ」
 キャロルはこの戦争全体のことを言った。
「ここで退いたら」
「じゃあここで無駄に損害を増やすのか?」
 ドワイトはキャロルに究極の選択を出した。
「どうするんだ、それは」
「ガメリカの軍人をこれ以上流させる」
「長官もわかるだろ。これ以上の戦闘は何の意味もない」
「だからここは」
「ああ、撤退だ」
 つまり敗戦を認めるしかないというのだ。
「わかったな。ここはな」
「これ以上は」
 ここで戦局を見た、キャロルも認めるしかなかった。
 これ以上の戦闘は意味がなかった、それで言うのだった。
「わかったわよ」
「じゃあ撤退だな」
「あたしが後詰になるわ」 
 キャロルは己の責任を果たそうとした。そしてアメリカ兄妹にこう告げた。
「祖国ちゃん達はダメージを受けた軍を撤退させて」
「そして君は残って」
「後詰になるっていうのね」
「ええ、後は任せて」
 アメリカ兄妹に強い声で言う。
「ここはね」
「いや、ここは俺に任せてくれ」 
 だがここでドワイトが出て来た。
「長官も逃げてくれ」
「逃げろっていうの?あたしも」
「長官の船もやられてるからな」
 小破だがそれでもダメージを受けているのは確かだ、それで航行にも支障が出ているのだ。
 ドワイトはそれを見て彼女に言ったのである。
「俺のは無傷だ。それならだ」
「あんたが引き受けるっていうのね」
「早く行きな」
 ドワイトは微笑んでさえしてキャロルに告げる。
「生きていればまた反撃もできるさ」
「この戦争が終わっても」
「そうさ。祖国さん達も名誉を挽回できる」 
 そうなるというのだ。
「臥薪嘗胆ってことだ」
「臥薪嘗胆か」
「ああ、この戦争は負けるが次がある」
 ドワイトはアメリカに対しても言う。
「そうしてくれ」
「わかった。それならだ」
 アメリカはドワイトの心を汲み取り頷き妹にも言った。
「ここは下がろう」
「わかったわ」
 キャロルは苦い顔だがそれでもドワイトに対して答える。
「それじゃあ頼んだわよ」
「まあ死にはしないさ」
 ドワイトは余裕さえ見せる。
「また会おうな、祖国さん達もな」
「すぐにミスターのところに行って来る」
「それですぐに講和の話を進めるからね」
 アメリカ兄妹は必死の顔でドワイトに返した。
「今は頼んだぞ」
「あたし達は軍の主力を撤退させるわ」
「ああ、頼んだからな」
 ドワイトの余裕は彼の祖国達に対しても変わらない。
「それじゃあな」
「健闘を祈るぞ」
「それじゃあね」
 アメリカ達は軍の主力を率いて撤退にかかる、そしてキャロルもまた。
 前線から姿を消す、ダメージを受けた艦艇から戦場を離脱しそして無事な艦艇もまた戦場から姿を消していく。
 最後にドワイトの乗艦であるモンタナも戦場から離脱しようとする、だが。
 反転しようとしたその瞬間に太平洋軍のミサイルを受けた、それでだった。
 航行不能になる、ドワイトはその艦橋で苦笑いをして言った。
「おいおい、最後の最後でだな」
「どうされますか?」
「どうするもこうなったらどうしようもないだろ」
 こう問うてきた部下に返す。
「観念するしかないだろ」
「それでは」
「もう動ける奴は全員戦場から離脱したからな」
 動けない艦艇は全て太平世軍に拿捕され将兵達は捕虜になっている、だが動ける者は全て離脱できている。
 ドワイトはこの状況に満足しこう言うのだった。
「それならいいさ。やれることはやった」
「そうですね。それでは」
「降伏勧告が来たらな」
 太平洋側からのそれがだというのだ。
「受けるぞ、いいな」
「わかりました、それでは」
 部下はドワイトの言葉に頭を下げる、かくしてだった。
 彼は太平洋軍の降伏勧告を受けて降った。こうしてUSJでの戦いは終わった。
 ガメリカ軍は事実上の決戦に満を持した戦力で向かいそのうえで敗れた、彼等にとってはまさかの敗北だったが事実は変わらない。この決戦で太平洋での戦いは決した、誰もがそう思った。


TURN58   完


                          2012・10・9



遂にUSJ陥落。
美姫 「流石に今回は圧勝とまではいけないけれどね」
そりゃあ、相手側も重要拠点と理解しているからな。
美姫 「策の上でも被害が出ているしね」
にしても、平良が東郷を信頼しているのはやっぱり祖国さんの影響かな。
美姫 「かもね。そのお蔭で戦力も僅かとは言え増強されているしね」
ともあれ、大きな山場の一つはクリアできたか。
美姫 「次回がどうなるのか待っていますね」
待ってます。



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