『ヘタリア大帝国』




               TURN57  頭を撃つ

 太平洋軍はゲイツランドに向かう。その時に。
 クリスが東郷と日本にモニターからこう話したのである。
「ゲイツランドに駐留する艦隊は大した規模でも質でもないわ」
「ああ、そうらしいな」
「主力はUSJに展開していますね」
「ええ。ただ司令官のキャヌホークは結構やり手なのよ」
 彼は優秀な指揮官だというのだ。
「元々諜報部にいて中帝国の軍事顧問もしていたしね」
「それだけの人材か」
「それだけにですか」
「ええ、結構頭が回るのよ」
 こう東郷と日本に話す。
「だから今回はね」
「どういったやり方で俺達に仕掛けてくるんだ」
「防衛ラインを敷いてくるわね」
 それでしてくるというのだ。
「それもコントロールできる」
「マジノ線か」
「あれよりずっと強力よ」
「あのマジノ線よりもか」
「ガメリカの国力と技術力はオフランスを遥かに凌駕しているからね」
 だからだというのだ。
「あんなものじゃないわ」
「マジノ線は難攻不落と言われていました」
 それを言うのはエルミーだった。
「だからこそ総統閣下は潜水艦を開発されました」
「貴女の使うそれね」
「はい、今では日本軍でも使われていますが」
 平賀がエルミーが持って来たユービートを調べて開発したのだ。日本軍ではそれを量産化して使っているのだ。
「その潜水艦を投入して」
「攻略できた代物ね」
「潜水艦だからこそ攻略できました」
 エルミーはこのことを強く言う。
「通常艦隊ではとても」
「あのドクツの艦艇でも」
「はい、無理でした」
 まさにレーティアの天才と言うべき開発があってこそだったというのだ。
「とても。ですから」
「ゲイツランドの防衛ラインもというのね」
「私に行かせて下さい」 
 慎ましやかな態度だったが確かに前に出ていた。
「司令、日本さん、ここは私が」
「いや、待ってくれ」
 東郷は前に出たエルミーを止めた。
「焦っても仕方がない」
「といいますと」
「クリス、その防衛ラインの指揮系統はどうなっている」
「それね」
「そうだ。それはどうなっているんだ?」
「防衛要塞にソーラレイよ」
「ソーラレイ、あれか」
「そう、防衛要塞と一緒に組み立てているのよ」
 防衛ラインをだというのだ。
「防衛要塞の攻撃力はそれ程でもないけれど」
「問題はソーラレイか」
「それが幾つもあってね」
 数も多いと東郷に話していく。
「尋常な攻撃力ではないわよ」
「元々は要塞攻略用の兵器だからな」
 東郷もソーラレイのことはよく知っている。それこそ艦隊の一つや二つはその攻撃で奇麗に吹き飛ぶ程である。
「バリア戦艦でもな」
「意味がないわよ」
「わかっている。それならだ」
「どうして攻略するのかしら」
 クリスはここで太平洋軍にとって一つ悪い条件を出した。それはというと。
「航空機は使えないわよ、今は」
「暗黒というか視界が最悪です」
 航空戦のエキスパート小澤も出て来た。
「これではとても無理です」
「そう、航空機で先に叩く戦術は今回は無理よ」
「ビームで攻撃をするしかないです」
 小澤も言う。
「それしかありません」
「わかっている。しかしだ」
 東郷は太平洋軍のお家芸になりつつある艦載機を使っての先制攻撃が使えない状況と言っても平然としている。
「それでもやり方はある」
「どんなやり方かしら」
「ソーラレイだな」
 このことをクリスに確認する。まるでそこに何かがある様に。
「そうだな」
「さっきも言った通りよ」
「そして防衛要塞はどうだ」
「索敵能力は高いけれど攻撃力は大したことはないわ」
 クリスは防衛要塞のことも話した。
「索敵用の要塞か」
「攻撃は複数のソーラレイが受け持っているわ」
「その要塞は有人か無人か」
「無人よ」
 人はいないというのだ。
「コントロールは指揮艦が行っているわ」
「指揮艦か」
「そうよ。ソーラレイといえばね」
「指揮艦がコントロールするものだ」
 そうした兵器なのだ。要塞攻略の際に持ってきて組み立てる、それがソーラレイだからなのだ。
「それならだ」
「答えが出たみたいね」
「この戦いも勝たせてもらう」
 東郷は落ち着いた声で述べた。
「では全軍ゲイツランドに入る」
「それでは」
 日本が東郷のその言葉に応える。そうしてだった。
 太平洋軍とガメリカ軍はゲイツランドでも対峙する、指揮艦において全体の指揮を執るキャヌホークはその太平洋軍を見ながらこう部下達に言った。
「ソーラレイと防衛要塞がないとな」
「とてもですね」
「今の太平洋軍には勝てないですね」
「USJの戦力ならともかくな」
 キャヌホークはその太平洋軍の大軍を見ながら言っていく。
「ここの戦力じゃな」
「だからこそですね」
「これだけの防衛ラインを用意したのですね」
「それ故に」
「ああ、そうだよ」 
 キャヌホークはまた言った。
「ソーラレイっていうのは本来は要塞攻略用だけれどな」
「それをあえてですね」
「こうして持って来てですね」
「撃退してやるか」
 その太平洋軍をだというのだ。
「そしてそれからだ」
「アラスカまで奪還してですね」
「ハワイも」
「一回勝てばそこから一気にいける」
 このことはキャヌホークの言う通りだ。太平洋軍は確かにかなりの戦力になってきているが一度敗れるとそこで戦力がなくなってしまうのだ。
 後は日本が降伏に追い込まれるだけだ。彼等には後がないのだ。
 だからキャヌホークもこう言うのである。
「ソーラレイはその為の切り札なんだよ」
「ではそれを使って」
「そのうえで」
「ああ、勝つか」
 こう言ってそのうえでだった。
 ガメリカ軍は太平洋軍をそのソーラレイで焼き払おうと待ち構えていた。キャヌホークは防衛ラインを見ながら勝利を確信していた。だが。
 太平洋軍はガメリカ軍と混戦に入った、いきなりそうなり入り乱れての戦いを挑んできたのである。
 キャヌホークは後方、防衛ラインのすぐ傍に置いた指揮艦の中からそれを見てすぐに苦い顔になってこう言った。
「今の状況じゃな」
「はい、防衛ラインもソーラレイもですね」
「使えませんね」
「撃てません」
「味方を撃つ訳にはいかないからな」
 キャヌホークは女癖は悪いが非情ではない、そうした采配は執れなかった。
「これはな」
「どうされますか、それでは」
「ここは」
「とりあえず全軍一気に下がらせるか」
 そうして混戦を抜け出してだというのだ。
「敵だけになったところで」
「一気にですね」
「そのうえで」
「ああ、防衛要塞とソーラレイ達で一気に攻めよう」
 それで戦いを決めるというのだ。
「何時でも撃てる状況にはしているからな」
「はい、それではですね」
「すぐに艦隊に指示を出しましょう」
「本当は俺が後方で指揮を執るよりも前線にいた方がいいんだけれどな」
 艦隊指揮という面ではその通りだった。
「けれどな」
「はい、防衛ラインのコントロールがありますから」
「それは無理ですね」
「この戦いはこの連中があってこそなんだよ」
 キャヌホークはその防衛要塞とソーラレイ達を見て言った。
「このソーラレイ達がな」
「はい、だからこそですね」
「ここは」
「ああ、何とかうちの艦隊をあちらの艦隊と離して」
 全てはそれからだった。
「一気に焼き払うか」
「ではすぐに艦隊に指示を出しましょう」
「その為にも」
「全軍敵から離れるんだ」 
 キャヌホークも実際に指示を出した。
「上か下に一気に動け」
「そしてですね」
「奴等から離れて」
「いいか、巻き込まれるなよ」
 艦隊を率いている部下達にこのことを釘を刺す。
「さもないと本当に死ぬからな」
「はい、わかっています」
「それだけは」
「出来るだけ巻き込まない様にするからな」
 キャヌホークに部下を撃つ趣味はない、だから言うのだった。
「下がってくれ、いいな」
「はい、わかりました」
「ここは」
 部下である艦長達も頷く、そしてだった。
 ガメリカ軍はすぐに上下に別れ太平洋軍と分かれた。それは異様なまでに実にスムーズに進んだことだった。
 キャヌホークはそれを見て一瞬いぶかしんだ。
「あっさりと逃げられたな」
「ガメリカ軍の速度のせいでは?」
「アフターバーナーも動かしましたし」
 部下達がこう彼に述べる。
「だからでは」
「そうではないでしょうか」
「そうか?しかしこれで攻撃が出来る」
 キャヌホークはそれをよしとした。
「すぐにソーラレイで焼き払うか」
「では今から」
「ソーラレイの総攻撃に移ります」
「急ぐんだ」 
 その攻撃をだというのだ。
「太平洋軍を焼き払う」
「では」
 ソーラレイから太陽の光を反射したかなり強烈な光が放たれようとしている、だがその時にだった。
 東郷は指示を出した。ガメリカ軍の艦隊との混戦が終わったその時に。
「よし、今だ」
「今こそですね」
「全軍全速前進、そしてだ」
「敵の指揮艦を攻撃するのですね」
「他の艦艇はいい」
 今はだというのだ。
「そしてだ」
「それからですね」
「指揮艦がなくなったソーラレイは動かない」
 そして防衛要塞もだ。
「張子の虎でしかないからな」
「ではですね」
「そうだ、それから敵の艦隊に向かう」
 今は別れた彼等にだというのだ。
「いいな、そうするぞ」
「わかりました」
 秋山も東郷の言葉に頷く。そうしてだった。
 彼等はすぐにキャヌホークの乗る指揮艦に殺到する。それを見てガメリカ軍の将兵達は驚きの声をあげた。
「!?速い!」
「何だあの速さは!」 
「太平洋軍はあそこまで速かったのか」
「あの速さでは」
 彼等が想像だにしない速さだった。これは太平洋軍の水雷駆逐艦の尋常ではない索敵能力も影響していた。
 彼等はソーラレイが動くよりも一足速く指揮艦の前に来た。そして。
 一気に攻撃を加え行動不能にした。キャヌホークは完全に動けなくなったその指揮艦の中で呆然として呟いた。
「まさかこの時を狙って」
「太平洋軍はまさか」
「それを狙っていたのでしょうか」
「混戦しすぐにはソーラレイを撃てない様にして」
「我々がその混戦を嫌って分かれる」
 キャヌホークがその指示、この場合は常道を取ることを見切ってだというのだ。
「そしてそのうえで」
「我々がソーラレイを放つ一瞬の隙を衝いて」
「一気に突進してですか」
「この指揮艦を攻撃したのですか」
「だとしたら恐ろしい奴だ」
 キャヌホークも今は歯噛みするしかなかった。
「俺の指揮をそこまで読んでいるならな」
「これでソーラレイは使えなくなりました」
 指揮艦が行動不能になった、それではだった。
「防衛要塞もです」
「守りがなくなりました」
「これではとても」
「艦隊だけでは」 
 実際に指揮艦を潰した太平洋軍すぐに反転してガメリカ艦隊に向かっていた、最早その動きは止められなかった。
 キャヌホークはそれを見て苦々しい顔で呟いた。
「一瞬だったな」
「はい、勝敗は決しました」
「ゲイツランドの艦隊では太平洋軍を防げません」
「それではです」
「とても」
 部下達も無念の顔で呻くしかなかった。
「敗北です」
「この戦いは」
 まさに勝敗は一瞬だった、艦隊も防衛ラインが瞬時にして使えなくなりしかも指揮艦が動けなくなり彼等への指揮も混乱したところで呆然となったところを攻められてそしてだった。
「いくわよ!」
 先陣のランファが戦艦からビームの三連射を放つ。その攻撃でガメリカ軍を切り裂いていた。
 キャヌホークの言葉通り勝敗は一瞬だった。太平洋軍はゲイツランドでも勝利を収めこの星域を手に入れたのだった。
 キャヌホーク達ガメリカ軍の殆どの将兵、僅かにUSJに脱出出来た者達以外は捕虜になった。ランファがその懐かしい顔を見て彼に言った。
「思わぬ再会よね」
「日本に降ったとは聞いていたんだけれどな」
 二人共微妙な顔で話す。用意されたキャヌホークの部屋の中で。
 キャヌホークはその顔でこうランファに言った。
「とりあえず俺と君はあれで自然消滅か」
「そうなったわね」
「俺が中帝国にいた理由は」
「わかってるわよ、軍事顧問よね」
「好意だけじゃないんだよな」
「そうね。政治的な理由が大きいわよね」
 お互いにわかっているやり取りだった。
「やっぱり」
「そうさ。だから君と接近したのも」
「わかってるわよ。多分に政治的思惑もあったわよね」
「こっちとしては親米派を多く作っておきたかった」
 キャヌホークはその政治的思惑を話した。
「それで君とも仲良くしたさ」
「こっちもよ」
 ランファもランファで言う。
「打算もあったわよ」
「だよな。けれど君もだったんだな」
「まさかと思うけれど気付いてなかったの??」
「まさか」
 キャヌホークは両肩をすくめて軽い感じで言ってみせた。
「俺も伊達に提督じゃないさ」
「そういうことはわかってるわよね」
「ああ。充分にな」 
 男女の交際は恋愛感情だけでは成り立たない、そのことがだというのだ。
「提督ということ以前にこれまでの恋愛経験でな」
「そうよね、私も実際のところね」
「俺以前にもそういう相手がいたんだな」
「ええ、いたわ」
 ランファはあっさりと答えた。
「何人もね」
「本当にお互いにな」
「ええ。けれど本当に君が日本軍の捕虜になって関係が終わってたな」
「もう会わないかもって思ってたわ」
 ランファハキャヌホークの顔を見て言う。確かに整ってはいるが何処か軽薄な感じがするのも否めない顔だ。
「けれど本当にね」
「思わぬ再会だったな」
「そうよね。ただ」
「こうして再会したからにはか」
「これもお互いのことだけれど」
 今度は淡々と言うランファだった。
「まあよりを戻すとかはね」
「ははは、それは本当にお互いにだよな」
 キャヌホークも自分の向かい側に座るランファに言う。二人で共に部屋のソファーに座ってそうして話しているのだ。
「もう今更だよな」
「本当にね。だから私も言わないわ」
「自然消滅なら一番いい終わり方だしな」
「ええ。私も好きな人はもういるし」
「俺もさ」
 つまりお互いにもう相手ができたというのだ。
「だからそういう話じゃなくてね」
「スカウトなんだな」
「そうよ。太平洋軍に入らない?」
 ランファはここで本題に入った。
「あんたもね」
「そうだな。そっちにはキャシーやクリスもいるな」
「ネクスンもね」
「あいつまだ生きてたんだな」
 キャヌホークはネクスンについてはこんなことを言った。
「本当に死なないな」
「何度も撃沈されてるけれどね」
「その度に靴紐が切れるだろ」
「ええ、よく切れるわ」
「それでまだ生きてるのも凄い話だな」
「悪運が強いのよ」
 ランファも実によく知っていることだった。知ったのである。
「とにかくね」
「そうだな。そうした意味では不死身だな」
「艦隊の人達も生き残るからね」
「生き残る悪運は確かに凄いさ、けれどな」
「それでもよね」
「あいつの艦隊には入りたくないな」 
 キャヌホークは切実な声でこう言った。
「生き残っても撃沈されるのは嫌だからな」
「その気持ちよくわかるわ。あたしもだから」
「そうだよな。で、本題だけれどな」
「ええ、それでどうするの?」
「俺もスカウトされて悪い気はしないしな」
 それでだと言うキャヌホークだった。
「それじゃあな」
「そう。こっちに入ってくれるのね」
「そうするさ。それじゃあこれからは戦友として」
「宜しくね」
 二人はお互いに微笑んだ。こうしたキャヌホークもまた太平洋軍の提督となった、彼はすぐに東郷、日本とも会い話をした。
 彼は東郷と会ってすぐにこう言った。
「あんたが日本きっての女たらしの東郷司令だな」
「少なくとも嫌いじゃないな」
 東郷も東郷でこう返す。
「むしろかなり好きだ」
「そうらしいね。けれど俺もな」
「キャヌホーク中将といえばガメリカ軍きってのだったな」
「そうさ。女の子からのプレゼントだけで食っていけるさ」
 そこまでもてているというのだ。
「提督としての収入以上に凄いんだよ」
「それで俺にか」
「ああ、そっちじゃ負けないからな」
「ははは、ならこれから息の長い戦いになるな」
「俺はこれ以上の地位には興味はないけれどそれでもな」 
 ガメリカ軍でも彼は提督以上の地位には興味がなかった。自分でそこまでの器だと考えているからである。
「女の子のことについては別だからな」
「俺にも勝つか」
「ああ、そうさせてもらうさ」
「では今は宣戦布告だな」
「イエス」
 キャヌホークは不敵な笑みで東郷に告げた。
「俺のそっちの腕も存分に見せてやるさ」
「楽しみにさせてもらうか。それでだが」
「ああ、提督の方の仕事だな」
「次はUSJだが」
「あそこはそう簡単には陥ちないだろうな」
 キャヌホークはあっさりと現実を述べた。
「艦隊の数が半端じゃない。それに」
「司令官もか」
「ドゥービル=ドワイト、ガメリカ軍の二枚看板の一人だ」
 ダグラスと並んでという意味である。
「あの旦那が来てるからな」
「そのことですが」
 今度は日本がキャヌホークに言った。
「イーグル=ダグラス司令はUSJには来られていないのですか」
「今はテキサス、シカゴの防衛強化の指揮を執ってるんだよ」
「だからですか」
「ああ、若しもに備えてな」
 ダグラスはそうしているというのだ。
「ただ。USJには今のガメリカ軍の主力を殆ど全部集めているからな」
「若しそこで敗れれば」
「講和しかないだろうな」
 キャヌホークは少し遠い目になって日本に話した。
「だからUSJの戦いで決まると思ってくれていいな」
「そうですか」
「こっちもドワイト司令に国防長官、祖国さんと妹さんが来てる」
 ダグラス以外の全ての司令がだというのだ。
「来てないのは我等が太平洋司令だけだな」
「選挙のことを考えてだな」
 ここで東郷が己が見ているものを話した。
「ダグラスさんは今度の大統領選挙に出るな」
「ああ、そうらしいな」
「ここで手柄を立ててもらうと大統領としてはまずいか」
「あの大統領よりもむしろ四長官だろうな」
 それぞれの財閥を代表している彼女達だというのだ。
「あの人達の方が困るだろうな」
「ダグラス司令は財閥とは関係ないからだな」
「そういうことさ。財閥も財閥で色々と思うところがあるからな」
 ルースを支えているのは彼が太平洋経済圏の確立と自国の権益、即ち財閥の権益の保護に熱心だからだ。彼は労働者や農民、人種的マイノリティーの保護で有名だが実はこれも財閥の従業員の保護になっているのだ。
「今の大統領であって欲しいんだよ」
「持ちつ持たれつだな」
「正直あの大統領の政策はそこそこいいんだよな」
 キャヌホークもそれなりにルースを評価はしている。
「だから財閥も支援しているんだけれどな」
「それでもか」
「あの大統領は演説が不得手であの容姿だからな」
 それでだというのだ。
「カリスマ性ってのはないんだよ」
「ここであのダグラス司令が出るとか」
「まあサシでやったら負けるな」
 キャヌホークはそう見ていた。
「財閥とは縁のない大統領なら」
「財閥の権益を保護しない可能性もあるか」
「財閥の言うことには耳を傾けてもな」
 こうしない訳にはいかない。財閥がガメリカ経済を支えまた産業を担っているからだ。彼等の話を聞かなくては話にならない。
 だがそれでもだというのだ。
「今の大統領みたいに財閥の代表を閣僚にするまでっていうのは」
「なくなるか」
「あの司令の政策をそのまま実行していくさ」
「そういえばダグラス司令の掲げておられる政策は」
 日本も言う。
「ルース大統領のそれよりもさらに」
「ああ、急進的だろ」
「はい、個々の権利の確保を掲げておられます」
「それに太平洋経済圏の構築にしてもな」
「日本に特にしわ寄せがないですね」
「今の大統領と財閥はあんた達をソビエトにぶつけるつもりだからな」 
 それで抑止力にしようと考えているのだ。
「自分達はそこから漁夫の利を得るつもりなんだよ」
「自分達では戦わずに」
「そうさ。太平洋経済圏は言うまでもなく資産主義で君主制の国家も多い」
 他ならぬ日本はこの二つに完全に当てはまっている。
「ソビエトとは絶対に対立するんだよ」
「はい、私もそう見ています」
 日本にしても太平洋経済圏の構築を目指している。それ自体はガメリカ、そしてガメリカと手を組む中帝国と同じなのだ。
「あくまで皆さんが平等の」
「こっちはガメリカが盟主のそれだからな」
「だからこそですね」
「ああ、あんた達を叩いてガメリカがナンバーワン、中帝国をナンバーツーにしてな」
 そのうえでだというのだ。
「嫌なことは全部あんた達に押し付けて自分達が楽できる状況にしたいのが今の大統領と財閥の考えなんだよ」
「財閥にしても戦争は災厄だからな」
 東郷はこうした経済のことも把握していた、そのうえでの言葉だ。
「戦争が起こればビジネスなんてできないからな」
「そういうことさ。軍需産業も大して実入りがないからな」
「だからこそですね」
「普通にビジネスをして儲けたいんだよ」
 それもまたガメリカの四大財閥の考えだというのだ。
「だから太平洋経済圏を築きたい」
「そして厄介なソビエトは私達に相手をしてもらう」
「援助はするだろうがまああんた達はソビエトとの戦いで消耗するな」
「二虎競食の計ですね」
 日本はは中帝国の伝統の政策を口にした。
「毒を以て毒をですか」
「それが今の大統領達の考えでな」
「ダグラス司令は違うのですね」
「あの人は日本帝国に頼らず、まああんた達を頼りにしてないしな」 
 そもそもそうだというのだ。
「自分達が先頭に立ってソビエトを一気に潰したいんだよ」
「そして労働者、農民の保護も」
「財閥の影響を受けずに積極的にやりたいんだよ」
 財閥の影響下にない労働者や農民も多いが今は彼等の権益の保護は積極的には行われていない、それを受けたければ財閥の傘下に降れという暗黙の意思表示でもある。
「ガメリカ全体を考えているんだよ」
「それ故に」
「ああ、大統領も財閥も司令の当選を望んでいないんだよ」
「だからこそですね」
「司令はUSJでの戦いには参加していないさ」
「わかりました。そういう事情なんですね」
「カードは一枚あえて外してるんだよ」
 キャヌホークは具体的な話をした。
「ただそれでもな」
「戦力はですか」
「太平洋軍を圧倒してるからな」
 例えダグラスがいなくともだというのだ。
「正直勝ち目はないぜ」
「そうだな。普通にやればな」
 今度は東郷がキャヌホークに応える。
「こっちも相当な戦力を集めたつもりだがな」
「まだ第六世代の艦艇は充分に行き届いてないよな」
「まだ第三世代の艦艇も前線に出ている」
 これが太平洋軍の実情だ。艦艇の配備は進めているがそれは中々進んでいないのだ。
「USJでの戦いでもな」
「そうだな。まあ勝ち目はないさ」
「しかし勝ってみせる」
 東郷は飄々とした感じでキャヌホークに述べる。
「ソビエトと長い消耗戦に入ることは勘弁してもらう」
「そうか。じゃあ俺もな」
 キャヌホークは軽いが確かなものを含めてまた言った。
「USJでの戦いに参戦させてもらうな」
「勝ち目はないのにか?」
「面白そうだからな」
 伊達、それに酔狂というやつだった。キャヌホークはそれを見せてそのうえで東郷に対して言ってみせたのだ。
「それなら一緒にな」
「有り難いな。一個艦隊余計に増えたか」
「それで今すぐにか」
「太平洋方面に展開している全軍で攻め込む」
 そのUSJにというのだ。
「必ず勝つからな」
「じゃあその勝利を見せてもらうか」
「艦隊の整備が整い次第このゲイツランド、ハワイの二方向から攻め込む」
「二方向から攻め込んでも大して違わないけれどな」
「そうだな。普通にやればな」
「普通には、か」
「そこはもう考えてある。ではだ」
 東郷はあらためてキャヌホーク、そして日本に対して告げた。
「今度はUSJだ」
「はい、それでは」
 日本がキャヌホークに応える。
「整備が整い次第攻め込みましょう」
「正念場なら勝ってそれを迎えてやるさ」
 東郷の余裕はこの状況でも変わらない。そのうえでだった。
 太平洋軍は今度はUSJに入る。そこでガメリカ軍との第二の決戦に入るのだった。
 ワシントンではルースが難しい顔で今自分のところにいるハンナとクーにこんなことを言っていた。
「勝利は確実にしても」
「若しも敗れれば」
「その時はですね」
「折角シカゴとテキサスの守りも固めているからね」
「いえ、けれどそれでもね」
「若しもUSJで敗れれば」
 ハンナとクーも敗れた状況のことは考えている、そのうえでの言葉だった。
「もう終わりよ」
「講和するしかありません」
「講和、即ち敗戦だね」
 ルースは暗い顔で述べる。
「それだけは」
「気持ちはわかるわ、ミスターにしてもね」
「そう、私は共和国ではじめて戦いに敗れた大統領になる」
 この不名誉のことだった。ルースが危惧していることは。
「共和国にも不名誉な恥辱がついてしまう」
「その通りよ。けれどね」
「これ以上の戦争はというんだね」
「状況が状況よ。ソビエトも何時太平洋に来るかわからないわ」
「ドクツが劣勢になっています」
 ハンナとクーは東部戦線の状況も話す。
「ソビエトが介入してくれば」
「事態はより厄介なことになります」
「USJで勝てばもう日本には寛大な講和条件を出すわ」
 当初の予定よりも遥かなものをだというのだ。
「そしてすぐに講和をして」
「ソビエトに備えるというんだね」
「日本に頭を下げさせれば太平洋経済圏は転がり込むわ」
「勝った場合はそうなります」
 クーはルースを気遣う態度で彼に話す。
「そして敗れれば」
「その時は残念だけれど」
「敗者としての講和に席に就きます」
「そうなってしまうわ」
「何としても勝って欲しい」
 ルースの言葉は切実なものだった。
「何としても」
「それは私達も同じよ」
 ハンナも切実な顔だった。
「だから打てる手は打ったのよ」
「ダグラス司令は外さざるを得ませんでしたが」
 彼女達の権益の為だ、キャヌホークの言う通りだった。
「いいわね、敗れた場合は」
「その場合もすぐに講和しましょう」
「しかしテキサスもシカゴも守りを固めているんだ」
 ルースはこのことを盾にした。
「それなら何としても勝つまでは」
「だからそれが出来ないのよ」
 ハンナはまたルースに言った。
「あれは国民、そして日本へのデモンストレーションよ」
「まだ戦えるという」
「それ故にそうしているのよ」
「それはわかっているがね」
「とにかく打てる手は打っているわ」
 また言うハンナだった。
「ガメリカの為にね」
「では講和も」
「そういうことよ。敗れたくはないけれど」 
 それでもだった。現実は。
「いざそうなれば」
「USJの後でも手を打ちたいのだがね」
 ルースはあくまでそう考えていた。その彼にだった。
 二人との話の後でカナダから来たという男が前に現れた。彼はというと。
「マンハッタン君かね」
「はい、カナダのノイマン研究所にいました」
 見れば赤茶色の短い髪に眼鏡に白衣の青年だ。如何にも科学者といった外見がかえって印象的である。
 その彼がこうルースに名乗ってきたのだ。
「ですがそこが閉鎖されまして」
「話は聞いているよ。表向きは農業関係だったそうだが」
「はい、実はです」
「そうだね。人造人間を開発していたね」
「軍事用に」
「ドロシー長官も思い切ったものを考えるものだ」 
 今は行方不明の彼女についても話される。
「早く戻って来て欲しいが」
「残念ですが今は」
「席は空けている。待っている」
 ルースにとっては頼りになる閣僚の一人だ、だからこう言うのだ。
「だが君がここに来たのは」
「人造人間のデータは全て破棄されました」
「ではもう開発することはできないな」
「はい、しかし」
「しかし?」
「私の頭にある微かな記憶を使って」
 そうしてだと。マンハッタンはルースに話す。
「面白いものを開発できますが」
「どんなものだね?」
「一人が幾つもの艦隊を自由自在に操れるシステムです」
「ほう、一人の人間が」
「どうでしょうか。これはかなりの兵器になると思いますが」
「面白い話だね」
 ルースは真剣な面持ちになっていた。
 そのうえでこうマンハッタンに対して言った。
「それではね」
「詳しくお話して頂けますか?」
「幸い兵器、艦艇は多くある」 
 ガメリカ軍はそれには困っていない。ルースにしても都合のいいことにだ。
「旧式も入れればそれこそかなりの数だ」
「その通りですね」
「戦える」
 ルースは真剣な面持ちでマンハッタンに話す。
「充分にだ」
「そうですね。それでは」
「早速その計画を進めよう」
 ルースにしてみれば渡りに舟だった。それ故に。
 マンハッタンにその兵器を開発する計画を行わせた、彼は何としても敗戦したくはなかったのだ。己の為、そして自国の為にもだ。
 彼はあらゆる手を考えていた、そうしていたのだ。
 だがマンハッタンはその彼にこう言ったのである。
「ですが」
「ですが?何だね」
「はい、この兵器はすぐにもで開発できますが」
「なら問題はないね」
「かなり荒い兵器になると思うがいいでしょうか」
「ああ、構わないよ」
 こう言うのだった。
「特にね」
「そうですか」
「開発を頼むよ」
 ルースは特に考えることなく告げた。
「正直USJで負けても最後には勝ちたいんだよ」
「何としてもですね」
「そう、その為の切り札になるのなら是非開発してくれ」
 ルースはこうマンハッタンに話す。そしてマンハッタンも科学者として己の開発が進められ実用化されるのなら願ったり適ったりだった。
 それでこうルースに答えたのである。
「お任せ下さい」
「勝利の為には何でもしないとならない時もあるのだよ」
 ルースにも意地があった。そしてその意地に基き彼とマンハッタンだけでその計画を密かに決定したのだった。


TURN57   完


                            2012・10・6



ゲイツランドも見事な作戦で占拠に成功したな。
美姫 「次はいよいよUSJね」
ああ、正念場だな。ここを取れれば。
美姫 「一方でルースの方は少しハンナたちの意見に不満な部分もありそうね」
意地みたいな事を言っているが、これが後々に厄介な事にならなければ良いがな。
美姫 「ここからどうなっていくのか楽しみね」
だな。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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