『ヘタリア大帝国』
TURN55 ドロシー失踪
太平洋軍はカナダに入った。そこには既にガメリカ軍とカナダ軍が展開している。
クリスは空母エセックスの艦橋にいる。その艦橋からカナダ達に対して通信を入れた。
「そろそろね」
「うん、日本軍が前に展開しているね」
「戦闘開始ね」
「さて。数では互角だけれど」
カナダでの両軍の戦力比は変わらない。ガメリカ軍にしては珍しいことにだ。
「艦載機の数はね」
「折角機動部隊を持ってきてくれたけれどね」
「カナダ軍に機動部隊はないのね」
「何とか間に合わせようとしたけれど」
開戦までにカナダも何とかしようとした。だが、だというのだ。
「それがね」
「間に合わなかったのね」
「うん、残念なことに」
そうだというのだ。
「だからね」
「戦艦が多いのね」
「それと巡洋艦もね。しかもね」
その戦艦や巡洋艦もだというのだ。
「ガメリカ軍や日本軍と比べると」
「旧式なものばかりね」
「勝てるかな」
「正直言って辛いわね」
クリスはその戦力を見て言う。
「正面からぶつかったら負けるわ」
「それでここで負ければ」
「ケベックに戦力はあるかしら」
「殆どこっちに持って来たよ」
カナダにそうしたというのだ。
「だからここで若し負けたら」
「ケベックまで一気に、よね」
「それでアラスカもだよね」
「アラスカはこの戦いでは安全地帯と思っていたから」
ソビエトとの最前線でもだ。
「戦力はあらかた引き抜いているのよ」
「つまりカナダで負けたら」
「ガメリカはアラスカを失うわ」
必然的にそうなる、クリスは断言した。
「それで何とかこっちにも戦力を回したかったけれど」
「これだけだったんだ」
見ればカナダ軍の倍はいる。だが、だというのだ。
「ここに来た太平洋軍と比べて」
「少ないわ。ゲイツランドにも戦力を回さないといけないし」
「それにUSJだね」
「USJで負けたらどうしようもないのよ」
そこからガメリカ本土を突き進める、そこでの勝敗がそのままガメリカの命運を定めてしまうのだ。
だからハワイを失った今USJがガメリカの最重要拠点となる、それでこのカナダに回せる戦力もだというのだ。
「それに太平洋軍の戦力拡大が想像以上ということもあって」
「戦力が追いつかないんだ」
「徴兵してそれで将兵が集まる訳じゃないからね」
銀河の時代だ。軍艦を操れる将兵は軍人であると共にかなりの高度な専門職だ。そうした者を手に入れるにはというのだ。
「志願者を育てないとね」
「それもじっくりとだよね」
「それで手に入れるものだから」
このことはどの国も同じだ。
「将兵の数もね」
「ガメリカでもなんだ」
「そうよ。中々調わないのよ」
「兵器は何とかなってもなんだ」
「兵器は正直ガメリカの国力では幾らでも建造できるわ」
クリスはこのことは胸を張って言えた。
「けれど。人員はね」
「そうはいかないんだね」
「ハードウェアの問題はクリアー出来てもソフトウェアはどうにもならないのよ」
「揃えにくいんだね」
「兵器があっても動かせる人間は少ないわ」
この時代で各国に共通している問題だ。
「だからここに回せた戦力もね」
「これ位なのね」
カナダ妹もそのガメリカ軍を見て言う。
「そうなのね」
「そういうことよ。まあある戦力で戦いましょう」
「そうするしかないわね」
こうしてガメリカ、カナダ連合軍は太平洋軍との対峙に入る。東郷が率いる太平洋軍はその連合軍を見て秋山に言う。
「普通に攻めるのならカナダ軍からだな」
「数も装備も劣っているからですね」
「ああ、そこから攻めるべきだが」
「そうはされないというのですか」
「ガメリカ軍の機動部隊を先に叩こう」
これがここでの東郷の作戦だった。
「ここではな」
「ガメリカ軍の主力をですね」
「幸い向こうの機動部隊の速度も索敵能力も我が軍に劣る」
そうだというのだ。
「駆逐艦、水雷用だがな」
「その速度と索敵能力が違いますから」
「駆逐艦は水雷用に限るな」
東郷はこうも言う。
「コストは高いがな」
「ですが水雷用の駆逐艦と大型空母を優先的に開発、製造しているので」
戦艦よりも先にしている。それでなのだ。
「機動部隊の質はかなりのものになっています」
「機動部隊の質ではガメリカ軍を上回っている」
「それではですね」
「よし、まずは機動部隊だ」
まずはガメリカ軍の機動部隊を叩くことになった。太平洋軍はここでもまずは機動部隊を攻撃することにした。
大型空母と水雷用駆逐艦で構成される機動部隊がガメリカ軍の機動部隊に向かう。クリスはそれを見て言う。
「こちらも駆逐艦を置いているけれど」
「それでもですか」
「この状況は」
「厄介ね」
こう参謀達にも言う。
「艦隊速度は向こうの方が速いわ」
「数は少ないですが」
「それでもですね」
「ええ、駆逐艦の質が違うわね」
平賀がその才を結集させて建造した水雷駆逐艦の質はこれまでの各国の駆逐艦のそれとは全く違っていた。それでだった。
「速いしそれに」
「索敵もですね」
「ドクツ軍の様ね」
こうも漏らすクリスだった。
「これはね」
「その速度がですか」
「あの狐と言われたロンメル元帥の戦術だけれど」
この名はガメリカにも知れ渡っている。ドクツはガメリカにとって日本を叩き太平洋経済圏を築いてからの脅威の一つとみなされているのだ。
「それみたいね」
「似ているというのですか」
「ええ。参考にしたのかしら」
「それはわからないですが」
参謀の一人がその機動部隊の動きを見ながらクリスに話す。
「あの速さは確かに」
「かなりのものね」
「はい、では我々も」
「艦載機の一斉発進よ」
「はい」
両軍共に艦載機を出そうとする。まずは艦載機同士の戦いからだった。だがこの時クリスは苦戦はしても負けないと考えていた。
だが彼女は一つ見落としていることがあった。それは。
機動部隊にはクリオネもいる。彼女は次々に着艦していく日本製の艦載機を見ながらこう言うのだった。
「零戦は零戦だけれど」
「はい、改良を進めまして」
古賀がモニターに出て来てそのクリオネに答える。
「初期のものよりも遥かに高性能になっています」
「そうね。ガメリカ軍はグラマンだけれど」
「タイプ4ですね」
「まだ6にはなっていないわね」
「4どころか6にもです」
「勝てる位の性能なのね」
「それを持って来ています」
日本は艦載機も優先的に開発を進めていたのだ。東郷は戦艦や巡洋艦より機動部隊を優先させたのだ。
そしてその結果だというのだ。
「ですから艦載機同士の戦いでも」
「勝てるのね」
「勝てる様にします」
古賀は穏やかだが確かな声で言った。
「では今から」
「ここでの戦いは艦載機同士での戦いの結果次第よ」
「間違いなくそうなりますね」
「じゃあここはね」
「はい。総攻撃です」
両軍の艦載機が互いに正面から激突する。艦載機の数も互角だった。
しかし性能が違っていた。太平洋軍の艦載機は見事な運動性でガメリカ軍の艦載機を翻弄しだしたのだ。
「何っ、この小回りは」
「何だ、これは!」
ひらひらと舞い横や後ろに来る。それを観てガメリカ軍のパイロット達は何とか対応しようとする。だがそれより先に。
太平洋軍の艦載機は横や後ろ、そして上下からガメリカ軍の艦載機に攻撃を仕掛ける。一瞬の隙が両軍の明暗を分けた。
忽ちガメリカ軍艦載機、グラマンの幾分かが撃墜される。クリスはそれを見てすぐにドッグファイトを止めさせた。
「陣を整えなさい」
「グラマンの陣をですか」
「それをですか」
「タイプ4ではあの零戦には勝てないわ」
即座にこう判断してのことだった。
「いいわね。それじゃあね」
「陣を組みですか」
「そのうえで」
「ええ、個々で相手にあたらない」
ドッグファイトよりもだというのだ。
「集団であたりなさい」
「わかりました。それでは」
「今は」
こうしてグラマンはクリスの指示の下確かな陣を組む。そのうえで機動力を活用して個々のドッグファイトで有利に立とうとする零戦に対抗しようとする。だが。
それを観た小澤が淡々として言った。太平洋軍機動部隊を指揮するのはやはり彼女だ。
「個々でも編隊でも同じです」
「やっぱり運動性能を活かすんだね」
「はい、防御力は向こうの方が上ですが」
「運動性能じゃこっちが上だからね」
南雲がモニターで小澤に言う。
「だからだね」
「速度と火力は同じ位です」
実際タイプ4でもグラマンはかなりのものだった。
「それならです」
「運動性能を活かして攻めればいいね」
「全軍二手に分かれます」
ただ運動性能を活かすだけではなかった。
「そしてそのうえで」
「敵を翻弄してだね」
「攻めましょう、ここは」
「わかったよ。それじゃあね」
南雲は明るい顔で小澤の作戦に頷く。そうして。
実際に太平洋軍は二手に分かれ編隊を組むガメリカ軍に向かう。一方が上に、そしてもう一方が下に。
ガメリカ軍はそれを観てどうすべきか逡巡した。これに対して。
クリスは即座に判断を下した、その作戦はというと。
「各個撃破よ」
「二手に分かれた敵をですか」
「それぞれですね」
「下手に兵を分けては敵の思うツボよ」
そうなれば運動性能に勝る零戦のものだ。そう判断してのことだ。
「だからここはね」
「二手に分かれた敵をですね」
「それぞれ各個に」
「ええ、叩くわ」
こう話してだった。
ガメリカ軍は下から来る太平洋軍に全軍で向かった。だが。
その下から来る太平洋軍は部隊こと翻りその突進を避けた。
「何っ、来ない!?」
「まさか」
まるで闘牛士が牛の突進をかわす様だった。彼等はガメリカ軍の突進を鮮やかにかわしてみせたのである。
そのうえでまさに闘牛士の如くひらりとまた身を翻しガメリカ軍に横から一撃を浴びせる。しかも。
急降下したガメリカ軍の上からだった。二手に分かれていてその上にいた零戦の別働隊がこれまた急降下で襲い掛かる。
それでその後方を撃つ。ガメリカ軍は横と後ろから攻撃を受けた形になった。
「くっ、やられたわ」
これにはクリスも歯噛みした。
「まさかそう来るとはね
「ここでも機動力を活用してきましたね」
「そのうえで来ましたか」
「自分達の持ち味をフルに活用する」
クリスはまた言う。
「それは戦術の基本にしても」
「しても?」
「してもとは」
「それは出来るのは相手の実力もわかってのことよ」
「つまり我々の力もですか」
「わかっているというのですか」
「だからこそよ」
今こうしてグラマンを倒しているというのだ。損害は無視できないまでになっている。
そしてそれを見てまた言うクリスだった。もう艦載機の数はかなり減ってしまっている。
「これ以上の戦闘は無意味よ」
「では、ですか」
「ここで」
「ええ、艦載機を下がらせるわ」
そうしてだというのだ。
「後は艦隊の護衛に回しましょう」
「防空の援護を受けさせつつ」
「そのうえで、ですね」
「そうするわ。いいわね」
「わかりました」
「それでは」
こうしてグラマン達は一旦下がらせられて後は艦隊との共同作戦に入ろうとする。しかしそれは東郷も読んでいた。
ガメリカ軍機動部隊のその動きを見て今度はこう命じた。
「今だ」
「水雷攻撃ですね」
「艦載機だけの攻撃で勝てるものじゃない」
戦闘は一種類の兵器が突出しているだけでは勝てないというのだ。
「だから今度はだ」
「水雷攻撃ですね」
「それで敵の機動部隊を仕留める」
「艦載機はこの場合見せる戦力ですね」
秋山は東郷の横で言う。
「艦隊に留めを刺すという意味では」
「そうだ。ここはだ」
「水雷攻撃ですね」
「敵機動部隊に接近する。残っている艦載機はだ」
それもどうするかと言う。
「こちらの艦載機で引き付ける」
「そうして艦隊への攻撃を防ぎ」
「一気に倒す」
こう秋山に話す。
「それでいいな」
「わかりました。それでは」
「機動部隊を倒せば後は楽になるからな」
「はい、それもかなり」
「艦載機だけで戦いには勝てない」
またこう言う東郷だった。
「だからこそだ」
「ましてガメリカ軍の魚雷は」
「威力はそこそこだがな」
当たれば痛い。だがだった。
「命中率が悪い」
「しかも信管の性能が悪く爆発しにくいです」
「そこを衝く」
こう話してそうしてだった。
今度は駆逐艦がガメリカ軍の機動部隊に向かう。グラマンは零戦に引き付けられ駆逐艦にまで手が回らない。
その隙を衝いて一瞬にだった。太平洋軍の駆逐艦隊はガメリカ軍に接近したうえで一気に酸素魚雷を放った。
「撃て!」
「撃て!」
攻撃が復唱され最初の魚雷が放たれる、
無数の魚雷が蛇の群れの様に敵に向かい命中していく。攻撃を受けた空母に駆逐艦が次々に動きを止める。
クリスの乗るエセックスも攻撃を受けた。激しい衝撃で艦が大きく揺れ悲鳴そのものの報告があがった。
「エンジン中破!」
「左舷に穴が開きました!」
「まだ動けるかしら」
クリスは警報音の中で部下達に問う。
「結構なダメージだけれど」
「はい、何とか」
「ですが速度は」
落ちるというのだ。
「ここでさらに攻撃を受ければ」
「撃沈も有り得ます」
「駆逐艦では撃沈されているものも出ているわね」
クリスは戦局を見る。見ればだった。
「空母も行動不能に陥っているのがあるわね」
「はい、しかもまた魚雷が来ました」
太平洋軍の攻撃は一度ではなかった。
もう一度来た。日本の駆逐艦は酸素魚雷を二度放てるのだ。
それでまた来た。それでだった。
ガメリカ軍機動部隊はその動きを完全に止めた。壊滅状態に陥ってしまった。クリスは動けなくなった己の艦隊を見て言う。
「もうこれはね」
「戦闘不能ですね」
「我が軍は」
「ええ、機動部隊はね」
それはだというのだ。
「やられたわ。艦載機で攻めるのではなく」
「魚雷でしたね」
「それで来るとは」
「予想もしていなかったわ」
そうした意味でクリスの敗北だった。クリスは動けなくなったその機動部隊を見てそれで部下達に告げた。
「こうなってはね」
「総員退艦ですね」
「全艦隊で」
「はい、そうしましょう」
こう話してそしてだった。
機動部隊の人員はカナダに下がる。カナダがそのクリスに言う。
「ゆっくり休んでね」
「御免なさい、してやられたわ」
「いいよ。勝敗は戦争の常だよ」
こう言ってクリスを労いもする。
「だからね」
「そう言ってくれるのね」
「うん、じゃあね」
「後はお願いね」
「ちょっと辛い状況だけれどね」
カナダ軍とガメリカ軍の戦艦艦隊は太平洋軍とビームでの砲撃戦に入っている。だがガメリカ軍はともかく旧式のカナダ軍では太平洋軍に勝てなかった。
一方的にやられている。カナダはその中でクリスに言うのだ。
「何とかやるよ」
「カナダさんも無理はしなくていいから」
「けれどここで負けたら」
「勝敗は戦争の常でしょ」
微笑んでカナダが言った言葉をそのまま返す。
「だからね」
「負けてもいいっていうんだね」
「負けてもまだカナダさんは生き残るから」
だからだというのだ。
「無理はしないで」
「ここで負けたら」
後はケベックしかないがそこにはもう戦力がない。つまりここで敗れればカナダは降伏するしかないのだ。
だからカナダも言うのだ。
「僕は連合国から離脱するけれど」
「それも仕方ないわ」
「勝敗は戦争の常だからだね」
「ええ、無理して傷を深くしないで」
「クリスさんがそう言うんなら」
カナダもクリスの言葉に頷き決断を下した。
カナダ軍は結局壊滅しケベックまで撤退した。そして。
ガメリカ軍の戦艦艦隊も機動部隊だけでなくカナダ軍も下がったのを見てそのうえで行動を決めた。その行動は一つしかなかった。
彼等もゲイツランドまで撤退しカナダでの戦闘は終わった。太平洋軍はすぐにケベック、アラスカに軍を送ることを決定した。
損害を受けた艦隊はハワイの修理工場に送る中で東郷はカナダ星域に降り立った。そこですぐにクリスに会った。
「君はガメリカ軍の提督だったな」
「ええ、そうよ」
クリスはその通りだと微笑んで答える。
「この軍服を見てわかるわね」
「君はこれから捕虜になる訳だが」
「捕虜にならなければ、ね」
「そういうことになるが」
「正直してやられたわ」
クリスは先程の戦闘のことを東郷に言う。
「正直なところね」
「あの魚雷を使った攻撃か」
「まさか艦載機は見せるものとはね」
「やり方がある。艦載機で攻めるだけじゃない」
「引き付けて、ということね」
「そこで他の攻撃で倒すやり方もある」
これは魚雷だけに限らなかった。
「ビームもミサイルもだ」
「そういうのもあるのね」
「一つの攻撃に頼るつもりはない」
東郷はまた言った。
「こうしたやり方がある」
「わかったわ。それじゃあね」
クリスは微笑んだまま東郷に話す。
「その戦いの仕方見せてもらうわ」
「これからか」
「ええ、よくね」
こうしてクリスは太平洋軍に加わることになった。そして太平洋軍はガメリカ軍機動部隊の艦艇の多くを手に入れ修理に回し再び使うことにもなった。彼等にとってはいい報告が続いた。
だがいい報告だけではない。山下が東郷と日本にこんなことを言ってきた。
「実はカナダの森の奥に研究所を見つけたのだが」
「研究所?」
「カナダさんのですか?」
「そこまではまだわからないが」
だがそれでもだと言う山下だった。
「奇妙な研究所だ」
「奇妙といいますと」
日本は山下のその言葉に顔を向けた。
「一体」
「来てくれるか」
山下はその日本と東郷に問う。
「そうしてくれるとわかるが」
「そうだな。それではな」
「お願いします」
東郷と日本は山下の提案に頷く。そのうえで三人でその研究所に向かうとそこはというと。
「・・・・・・これはまさか」
「アンドロイドの研究施設か」
「その様だがな」
山下は首を捻りながら二人に話す。三人の左右には機械の人間達がそれぞれ立たせたうえで置かれている。
その機械達を見ながらこう二人に言うのだ。
「だが何か違う様だ」
「違うというと」
「頭脳に当たるコンピューターが内臓されていないのだ」
「これからつけるところじゃなかったのか?」
「どうだろうな。それはわからないがだ」
「引っ掛かるものがあるか」
「少しな。データも調べているが」
この研究所に残っていると思われたデータ、それはというと。
「全て消去されている」
「というと研究自体が破棄されたか」
「その様だ。とにかく訳のわからない施設だ」
「ケベックが陥落すればカナダさんから聞けるでしょうか」
日本はこう山下に尋ねた。
「既にケベックにはまともな戦力はありませんし」
「そうだな。それからだな」
東郷も日本の言葉に頷く。
「カナダさんが来てからだな」
「ではその様に」
山下は冷静な声で日本に答えた。
「この研究所の件は」
「後はこの施設は」
「何か再利用できるかも知れませんね」
日本は施設の中を見回しながら述べた。
「林業なり何なりに」
「ではその様に」
「はい、それでは」
研究所は何らかの形で再利用されることが決まった。そして。
研究所を破棄したドロシーはガメリカに帰ってはいなかった。彼女は暫く身を隠すことにしてカナダ原住民の居留地に入っていた。
コロニーの一つであるそこに入ってまずはこう呟いた。
「何もない」
荒野だった。空気も乾いており風には砂が混ざっている。
空も青いが薄い感じだ、その空も見て言うのだった。
「こうした場所でも今は」
「御前誰だ」
そのドロシーに声をかける者がいた。それは、
暗褐色の肌の大柄な男だった。髪は長く黒い。目は髪と同じ色でしっかりとしたものに見える。
身体つきはしっかりとした筋肉質で上半身は裸だ。下はズボンであちこちにアクセサリーを付けている、その外見は。
「ネイティブね」
「インディアンとか言われていた」
「そうね。けれど今は」
「ナイティブと呼ぶか」
「我が国とカナダの原住民」
ドロシーは彼等をこう認識していた。
「会うとは思っていたけれど」
「今はここが俺達の場所」
男は短い口調でドロシーに言う。
「星にはいない」
「そうなっているわね」
「それでどうしてここに来た」
「身を隠したくて」
だからだというのだ。
「テントは持って来たわ。他の簡単な設備も」
「御前困っているか」
男はドロシーにその短い口調で問うた。
「どうだ」
「別に」
「インディアン来た者を拒まない」
「気遣いは無用よ」
「気遣いじゃない。これインディアンの慣わし」
だからだというのだ。
「遠慮することはない。来ればいい」
「貴方の家に」
「そう、来る」
そうすればいいというのだ。
「簡単な食事がある」
「私はここでの生活を何も知らないけれど」
「これから」知ればいい」
男はまたドロシーに答えた。
「全てはな」
「そう言ってくれるの」
「来い」
男はドロシーを自分の家に誘った。
「姉さんがいるが静かだ」
「二人暮らしだったの」
「一人増えてもどうということはない」
「それがネイティブの考え」
「慣わし。じゃあ来い」
「ええ。それじゃあ」
ドロシーは男の言葉に頷いた。そのうえで彼に問うた。
「貴方名前は」
「ブラックホース」
男は自分の名をドロシーに告げる。
「ここで猟師をしている」
「そうなのね」
「食うことには困っていない。だから安心しろ」
「何もない。多分パソコンもつながりにくいしテレビも古い」
「?何を言っている」
「ちょっと。暫くはここに身を隠して」
ドロシーは今は自分の言葉を淡々と言っていく。
「これからのことを考えよう。もうコアは破棄したし」
彼女はそのつもりだった。研究所のことを知る僅かな者達もデータは全て消去、破棄して再開発は出来なくしたうえでガメリカに帰った。筈だった。
後は精々些細な応用を行なったものしか開発できないと思っていた。だからやがて起こる惨劇については知る由もなかった、ガメリカ以外の国で起こるそれについては。
TURN55 完
2012・9・17
ドロシーはインディアンの元に。
美姫 「ガメリカには帰らなかったみたいね」
みたいだな。これからどうするのだろうか。
美姫 「そして、東郷たちは次の準備ね」
ケベックかな。こっちは殆ど戦力もないみたいだし、大丈夫かな。
美姫 「そうね。まあ、実際は蓋を開けてみないとね」
次回はどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。