『ヘタリア大帝国』
TURN53 ハワイの戦い
ルースは官邸でハンナ、クー、ドロシー、それにアメリカ妹と共にいた。そのうえで目の前にいるそのスタッフ達にこう言うのだった。
「そろそろだね」
「ええ、ハワイで決戦よ」
「太平洋軍が来ています」
ハンナとクーがルースに答える。彼等はいつも通り官邸の円卓に座りそこでピザやコーラを楽しみながら話をしている。
ルースはアメリカ妹が出してくれたピザの一切れを礼を述べてから受け取り一口食べてからこう言うのだった。
「戦力的には問題ないが」
「間違いなく勝てるわ」
ドロシーが淡々と答える。
「ミスター、安心して」
「そうだね。私もそう思うが」
「あたしも行けば完璧だったね」
アメリカ妹は笑顔でこんなことを言った。
「そうしたら太平洋軍に絶対に勝てたわ」
「駄目よ、妹さんは次の段階でのね」
「決戦兵力っていうのね」
「そう。大西洋のドワイト提督も呼び寄せてね」
ハンナは自分の向かい側の席で威勢よく言うアメリカ妹に微笑んで言う。
「あと今はUSJにいる」
「ダグラス提督も入れて」
「一気に攻めるわ。日本本土で決戦よ」
「そこで日本を叩いて」
「降伏させる為の決戦兵力だから今はね」
このワシントンでその次の段階への準備をしていて欲しいというのだ。
「このままでいてね」
「じゃあハワイはキャロルと兄貴に任せるのね」
「イザベラ提督もいるしフィリピンさんもいるわ」
「とりあえずハワイでの決戦は兄貴達がやって」
「妹さんは祖国さんとキャロル達が勝ったらすぐに太平洋に大軍を率いて行ってもらうから」
「それと呼応してです」
四姉妹の中でルースやアメリカの副官格のハンナが話す。
「中帝国も反撃に出ますので」
「キャヌホーク提督がそこにいるから」
ドロシーも言う。
「ハワイ戦の次は東西から一気に日本を攻めて」
「日本には降伏してもらうわ」
ハンナは悠然と足を組んで腰を掛けている。そのうえでストローでコーラを飲みながらこうも言う。
「それで後は私達はその日本を助けてあげるのよ」
「ソビエト戦を行なう日本を援助する」
ルースがぽつりとした感じで言う。自分の席にうずくまる感じでそこにいる。
「予定通りだね」
「プレジデントは太平洋経済圏を確立した偉大な大統領になるわ」
「それはいいことだがね」
こうは言ってもあまり浮かない感じのルースだった。それで今自分に言ったハンナにこんなことも言ったのである。
「国務長官、一つ気になるのだが」
「何かしら」
「いや、我々の戦争は最低限のものだね」
「太平洋経済圏確立の為のね」
「戦争をするよりビジネスをした方が遥かに実入りがいい」
資産主義経済の基本だ。戦争なぞしては流通が阻害されビジネスどころではない。
「それはその通りだね」
「貴方もそれはよくわかっていると思うけれど」
「わかっているよ。ただね」
「ただ?ソビエトやドクツのことかしら」
「彼等は我々とは全く違うね」
ルースは首を傾げさせながら話す。
「共有主義、ファンシズムというものは」
「どちらも私達とは全く相容れないわね」
「彼等とは日本帝国の様にはいかないか」
「日本は叩くだけでいいわ」
ハンナも日本についてはこれでいいと考えている。そもそも太平洋経済圏の確立も日本を少し叩いてからソビエトにぶつけるのも四姉妹の実家である四大財閥の考えである。
それで四大財閥を代表するロック家の名代であるハンナもこう言うのだ。
「あの国はね」
「しかしソビエトは違う」
「あの国は危険よ。共有主義なんて冗談じゃないわ」
ハンナは嫌悪さえ見せて言う。
「それにドクツも」
「ファンシズムは民主主義ではないね」
「むしろ共有主義ね」
ハンナもまたファンシズムはそれだと認識していた。
「そちらね」
「だからこそ資産主義であり民主主義である我々とは相容れない」
「ええ、それは他の太平洋の国も同じよ」
これから彼等の祖国ガメリカが盟主となるこの経済圏も然りだった。
「どの国も資産主義だから。いえ」
「むしろ資産主義でないとだね」
「経済圏は確立できないわ」
「そうなるとやはり」
「ドクツは当然として」
倒す、それはだというのだ。
「ソビエトもね」
「同じ連合国であろうとも」
「向こうもそう思っているわ」
資産主義と共有主義、この二つのイデオロギーは相容れないというのだ。
「だから倒すわ。まずは太平洋経済圏を確立して」
「日本をソビエトに向けて」
「あと。中南米ね」
ハンナは視線を左にやってこの地域についても言及した。
「あそこもね」
「中南米。あそこは確かあれじゃない」
アメリカ妹がハンナの今の言葉に応えて話に入って来た。
「あの何とかいう埴輪の」
「ええ、ケツアル=ハニーのね」
「アステカとかいったね」
「アステカ帝国よ」
ハンナはアメリカ妹に応えてこの国の名前も出した。
「キューバ、メキシコ、ブラジルを領有するね」
「その他にも結構な数の星域持ってるね」
「アルゼンチン、ペルー、チリにね」
「結構な大帝国だよね」
「国力ではおそらくは」
ハンナにしてもアステカ帝国のことはよく知らない。実はこの国は謎に包まれた帝国なのだ。
それでクー、四姉妹きっての情報政治家である彼女もこう言うしかなかった。
「多分人口は五百億位で」
「多いね」
「ええ。国力も総合でガメリカに匹敵するわ」
「相当なものだよね」
「国民は普通の人類に」
クーは首を傾げさせながら話していく。
「あの陶器で出来た」
「埴輪だよね」
アメリカ妹も言う。
「あの連中だよね」
「そう。人類と埴輪の混合よ」
「変わった国だよね。何なのかね」
「私もそう言われると」
「クーもわからないんだね」
「あの国とは交流も一切ないから」
どの国とも交流のない、そうした面からも謎の国なのだ。
「攻めても来ないけれど」
「何をしてるのかもわからないんだね」
「怪しい祭典をしたり騒いだりしてるのはわかるわ」
「怪しいって?」
「日本帝国製のそういったゲームをして騒いだり」
あえて大事なところはぼかしての言葉である。
「後はね」
「他にもあるんだね」
「ええ。おかしなことばかりして」
「騒いでるんだね」
「それ以外のことはどうも」
「また変な国があるね」
アメリカ妹も自分と隣接している国だがアステカのことはよく知らない。とにかく謎の国であり続けているのだ。
大統領であるルースも当然この国のことは知ってはいる。だが共有主義やファンシズムに対するのとは別の表情でこう居並ぶ面々に問うた。
「アステカはどうしたものかな」
「どうしたって言われても」
「それは」
ハンナもクーも返答に戸惑う顔で返す。
「とりあえず。太平洋に面しているわね」
「だったら声をかけてみます?」
「そうしてこちらに組み入れようかしら」
「そうするべきでしょうか」
「一体どうしたものかな」
ルースも難しい顔である。
「あの国についてはよくわからないね」
「とりあえず太平洋経済圏にはあの国もね」
「組み入れるんだね」
「そうするべきだけれど」
ハンナも一応こう考えているがそこには迷いがある。
「わからない相手だから」
「一応情報収集はしているわ」
ドロシーもそれは行なっていた。だが。
「けれど。本当に謎の多い国ね」
「とりあえず太平洋経済圏はインド洋とあそこも入れるんだよね」
アメリカ妹は面々に尋ねた。コーラを飲む手は今は止まっている。
「そうするんだよね」
「一応計画ではそうよ」
ハンナもそれはだと言う。
「ついでに言えば。ええと」
「ええと?」
「ほら、何とか言ったわね」
ハンナは何かを忘れている顔でアメリカ妹に対して述べる。
「ううんと、我が国の上にいる」
「ああ、あの国ね」
「何て名前だったかしら」
「確かカナダとかいったじゃない」
アメリカ妹も完全にはっきりとは答えられない。
「その国よ」
「そうだったわね。カナダとかいったわね」
「カナダとケベックを領有しているね」
「アラスカと本土の間にある国ね。あの国もね」
「太平洋経済圏に入れるんだね」
「一応は」
ハンナですらこの国のことはどうしても忘れてしまう。
「そうしないとね」
「そうだね。それじゃあね」
一応カナダも入れることにはなっていた。だが。
今ここにいる誰も気付いていなかった。実はこの場にはカナダは自分の妹、そして相棒のクマ二郎と一緒にいた。それで期待している目で妹とクマ二郎に尋ねた。
「皆何時僕に聞いてくれるかな」
「いや、これはちょっと」
「ないぞ」
妹とクマ二郎はこうカナダに返す。
「私達忘れられてるわよ」
「絶対にな」
「えっ、そうなの?」
そう言われて急激に残念な顔になるカナダだった。
「僕忘れられてるの?」
「誰がどう見てもね」
「そうなってるぞ」
また返す彼等だった。
「私達tてやっぱり目立たないのよ」
「仕方ないから諦めるしかないと思う」
「うう、こんな大騒ぎなのに誰も振り向いてくれないなんて」
カナダにとっては悲劇だった。しかしそんな彼をよそに世界は動いていた。
ハワイ星域ではガメリカ軍太平洋艦隊の主力が布陣を整えていた。自ら指揮に当たる国防長官キャロル=キリングは己の旗艦の艦橋で自信に満ちた笑みでいた。
そのうえで自身が率いる将兵達にこう言っていた。
「じゃあいいわね」
「はい、日本軍が来ればですね」
「まずは航空戦力をぶつけますね」
「そうよ。機動部隊はもう用意しておいて」
「はい、既にです」
「全軍用意しております」
返答はキャロルにとって満足のいくものだった。だがこれで終わりではなかった。
キャロルは先陣を率いるイザベラにも通信を入れてこう言った。
「それじゃあね」
「はい、太平洋軍が来れば」
「遠慮しなくていいから」
ガメリカ軍随一の攻撃力を誇る彼女への言葉だ。
「もうね。一気にやっちゃって」
「畏まりました」
「何ならあんただけでやっつけちゃってもいいから」
発破をかけることも忘れない。
「もう一気に打ち破っちゃって」
「ではその様に」
「ハワイで勝てばわっしいに妹ちゃんがドワイト提督と一緒に来て一気に日本本土を攻めるし」
「わっしい?」
「こっちの司令官のことよ」
つまりイーグル=ダグラスのことだ。
「そういう感じだし名前も名前だからね」
「それでその仇名ですか」
「いい感じでしょ。我が国の象徴は鷲だし」
「それもあってですか」
「そういうこと。あんたはこの戦いの後で日本本土一番乗りもしてもらうから」
イザベラにかなりの期待を向けているのがわかる。
「じゃあ頑張ってね」
「はい、それでは」
イザベラは敬礼で応える。既に機動部隊とイザベラが率いる先陣は何時でも戦闘に入れらる様になっている。キャロルのそれぞれ左右に艦隊を置くアメリカとフィリピンもまたキャロルに対してそれぞれ言ってきた。
「何かここまであっという間だったな」
「マニラ2000での戦いからね」
「そうね。日本はまずはインド洋まで行ったけれど」
そうして一気に勢力圏を広げ力をつけてはいたのだ。
「そこであそこまで上手くいくのもね」
「少し考えてなかったな」
「無理だろうと思ってたけれど」
「まぐれよ、まぐれ」
キャロルは少しむっとした感じの顔になって二人に言う。
「あれはね」
「まぐれかい?けれど日本は強いぞ」
「決して侮れないよ」
アメリカとフィリピンは日本の実力は認めていた。それもかなり。
「だから僕はひょっとしたらとも思ってたけれど」
「キャロルさんは違ったんだ」
「あの国力じゃね」
キャロルは日本の国力、数字上のそれだけを見て考えている。
「無理でしょ。どう考えても」
「まあ普通はそうだったな」
数字上でのデータを根拠にして想定すれば無理ということはアメリカも言えた。
「日本じゃな」
「ええ、絶対に無理だって思ってたわよ」
「けれど。国家はね」
「時として数字を覆すっていうのね」
「ましてや今の日本にはあの長官もいるからな」
アメリカは東郷のことも見ていた。
「かなりの名将だぞ」
「何処がよ」
キャロルは東郷についてはむっとした顔になってアメリカに返した。
「あいつの何処が名将なのよ」
「キャロル、やっぱり君は」
「そういうこと言いっこなしね」
アメリカの顔が明るいものから曇ったものに一変したところで言った言葉だ。
「祖国ちゃんらしくないし」
「だからかい」
「そう。とにかくこの戦いに勝つのはあたし達よ」
キャロルは艦橋のモニターに映る己の祖国達と銀河を見ながら述べた。
「シャンパンは用意しておくから」
「シャンパンか。いいね」
フィリピンがシャンパンと聞いて笑みを浮かべてきた。
「あれを頭から浴びてね」
「そうよ。皆で溺れる位飲みましょう」
「勝利の美酒をね」
「あたし達はここで決戦兵力として待機よ」
つまり予備戦力だというのだ。
「いいわね。じゃあね」
「よし、日本軍を迎え撃つか」
「今度こそ勝とう」
アメリカとフィリピンも応える。そうしてだった。
ガメリカ軍は前から来る太平洋軍を待ち受けた。それは一気に来る筈だった。しかし戦場に最初に来たのは。
「!?あれは一体」
「あれは何だ!?」
「コロニーか?」
「何故コロニーが?」
皆そのコロニーを見て首を捻る。何と戦場に巨大なコロニーが突如として出て来たのだ。
ガメリカ軍の将兵達はそのコロニーを見てこう言うのだった。
「廃棄されたものらしいが」
「何故戦場にあんなものを持って来た?」
「意味がわからないぞ」
「日本軍は何を考えているんだ?」
誰もが首を捻る。それはキャロルも同じだった。
モニターに映るそれを見てこう言う。
「何よ、あれ」
「ううむ、何でしょうか」
「意味がわかりませんな」
「ええ、何よあれ」
こう言って首をしきりに捻る。
「あれで一体」
「わかりません。ただ」
「コロニーレーザーではないですね」
「それではない様です」
「そうね。それはないわね
キャロルもコロニーレーザーの可能性はないことはわかった。それは何故かというと。
「密閉式になってるからね」
「そうですね。それはないですね」
「では何でしょうか、あれは」
「どういったものでしょうか」
「ううん、とりあえずね」
このまま放置はできなかった。それでだった。
キャロルはそのコロニーを見ながらこう命じた。
「とりあえずはね」
「はい、あのコロニーをですね」
「まずは」
「一斉射撃、それで消し飛ばしてしまいましょう」
そうして憂いを消すというのだ。
「そうしましょう」
「それでは今から」
「そうしましょう」
将兵達もキャロルの言葉に頷く。そのうえでコロニーに照準を合わせていく。
それはイザベラが指揮を執る。コロニーにはすぐに照準を合わせていく。
しかしそこで艦首がそこに集中する。警戒もそこに向かった。
それは太平洋軍からも見られていた。密かに戦場に来ていたエルミーは無線で田中と〆羅に対して言った。
「今からです」
「ああ、敵の先陣にな」
「攻撃ですね」
「敵の目はコロニーに集中しています」
これは太平洋軍がまだ戦場に来ていないことも影響している。キャロルもそれでコロニーを今のうちに消し飛ばしてしまおうと判断したのだ。
だからガメリカ軍の先陣もコロニーを攻撃にかかる。しかしそこにだった。
エルミーは今は敵に目を向けてこう言ったのである。
「今のうちにです」
「ああ、一気に攻撃を仕掛けてだよな」
「敵の先陣を撃つのですね」
「一撃を加えてからは」
それからのことも言うエルミーだった。
「潜伏し続けてです」
「攻撃を繰り返すんだな」
「動き回ったうえで」
「暫減、そして攪乱です」
それを行なうというのだ。
「そうして敵を倒していきましょう」
「これが潜水艦の戦い方なんだな」
田中は己が乗る潜水艦、日本軍が建造しはじめたその新造艦の艦橋で潜望鏡から敵軍を見ながら言った。
「潜んで敵を、か」
「そうです。ではやりましょう」
「そのタイミングは」
〆羅もエルミーに問う。
「何時ですか?」
「敵がコロニーを攻撃しようとするその時です」
まさにその時だというのだ。
「攻撃を放つ直前に当てる様にしましょう」
「一瞬のタイミングだよな」
「はい、その時にです」
エルミーは確かな声で田中にも述べる。
「それが一番効果的です」
「一瞬でも遅れても早くても駄目なんだな」
「そうです」
まさにその一瞬のタイミングだというのだ。
「やれますか」
「やれないって言うと思うのかよ、この俺が」
「私もです」
田中だけではなかった。〆羅も言う。
「やれないで提督になれるかよ」
「その一瞬、やってみせます」
「そうでなくてはなりませんね」
エルミーも二人の言葉を受けて静かに頷く。
そのうえで敵の先陣を見据えてこう言ったのである。
「潜水艦に乗っているのなら」
「じゃあな、その瞬間にな」
「見事撃ってみせましょう」
「それではです」
エルミーは二人の言葉を受けた。そのうえで照準を合わせる。
ガメリカ軍の先陣は彼等には気付いていない、コロニーにその神経を集中させている。その隙にだった。
コロニーを撃とうとしたその瞬間が何時かを見切った、そしてだった。
「魚雷発射!」
「魚雷発射!」
攻撃が復唱され全ての潜水艦から魚雷が放たれる。エルミーは魚雷を放ったその直後に田中と〆羅に告げた。
「すぐに場所を変えましょう」
「狙撃手と同じですね」
「はい、一度狙撃したならば同じ場所に留まってはいけません」
陸上戦での鉄則である。
「だからすぐにです」
「場所を変えますか」
「そうしましょう」
「わかりました。それでは」
こう言ってそうしてだった。彼等は。
命中を確認することをせず場所を変えた。そして放たれた魚雷は。
今まさにビームを放ちコロニーを消し飛ばそうとしていたガメリカ軍の先陣を撃った。忽ち戦艦や巡洋艦のいくつかが火を噴く。
「くっ、まさか!」
「日本軍か!」
「もう戦場に来ていたのか!?」
「そうなのか!」
「あれね!」
キャロルも火を噴く自軍の艦艇を見て声をあげる。
「セイレーンね!」
「あの噂のですか!」
「インド洋でも暴れ回ったという!」
「ええ、間違いないわ!」
キャロルは瞬時にこう見抜いた。だが。
何処から攻撃が来たのかはわからない。それでこう言うも言うのだった。
「けれど。噂通りね」
「姿が見えませんね」
「それも全く」
「魚雷が来た方角を調べて」
姿が見えなくともそこにはいる、そう確信しての言葉だ。
「そこに集中攻撃を浴びせましょう」
「いや、それは待ってくれ」
キャロルの今の命令はアメリカが止めた。それでこう言うのだった。
「スナイパーは一度撃ったら場所を変えるじゃないか」
「そういえば」
「そうだな。だから今はだ」
「攻めるべきじゃないっていうのね」
「そうだ。地点攻撃を仕掛けるつもりだな」
「隠れているのならね」
それで攻める、キャロルはそう考えていたのだ。
それでそう攻めつつもりだった、アメリカはそれを止めたのだ。
「攻撃を受けたんだ、それはわかるぞ」
「けれどいない可能性が高い場所には」
「攻撃を仕掛けたら駄目だ」
「じゃあどうするべきなの?」
「全軍攻撃態勢から防御態勢に入ろう」
陣形をそれに整えるべきだというのだ。
「それで備えよう」
「じゃああのコロニーは」
「放置はできないな」
アメリカも今彼等の目の前にいるコロニーを見ている。やはり無視はできない。
それで彼もこう言うのだった。
「最低限の艦隊で攻撃しよう」
「それで消しちゃうのね」
「他の艦隊は防御だ」
「じゃあどの艦隊に攻撃をさせるの?」
「イザベラがいいんじゃないのか?」
アメリカが推したのは彼女だった。
「彼女なら一撃で消し飛ばせるぞ」
「そうね。じゃあ」
「よし、これで決まりだな」
こうしてイザベラがコロニーを攻撃しようとその艦隊を向ける。だがここで再び。
エルミー達は攻撃を放ちそれでイザベラの艦隊を撃った。特に彼女が乗るアリゾナは田中が操る艦の魚雷の直撃を受けた。
「主砲全て沈黙しました!」
「エンジンも大破です!」
非常灯で照らされる艦橋の中に悲鳴めいた報告があがる。
「ダメージコントロールが追いつきません!」
「このままでは!」
「くっ、こうなっては」
イザベラは相次ぐ報告に苦渋の決断を下した。そうするしかなかった。
「総員退艦、止むを得ない」
「わかりました。それでは」
「今は」
乗員達も頷く。イザベラは止むを得なくアリゾナを退いた。アリゾナは大破した姿を戦場に晒すことになった。
キャロルはそのイザベラ達がハワイ本星に脱出用の艇で戻るのを見ながら忌々しげに呟いた。
「何よ、あのコロニーを潰そうにも」
「そこを狙われてるよ」
フィリピンが言う。
「間違いなくね」
「かといってもコロニーを潰さない訳にはいかないし」
「ここはどうしたものかな」
「先陣の指揮系統も滅茶苦茶になりそうだし」
指揮官として頼りにしていたイザベラがいなくなった、それでだった。
「まずくなってきたわね」
「先陣は僕が行こうか?」
フィリピンがその指揮に名乗り出る。
「イザベラの穴をそれで」
「そうね。お願いできるかしら」
「うん、それじゃあね」
フィリピンが前線に出てイザベラの代わりに指揮にあたろうとする。彼は全速力で前線に向かう。しかしここで。
太平洋軍が戦場に姿を現した。彼等は既にだった。
「よし、それではだ」
「はい、今からですね」
「全艦載機を発艦させますか」
「そうする。手筈通りな」
コロニーで惑わせ潜水艦で狙撃するだけではなかった。そのうえでだ。
既に発艦用意をさせている艦載機を戦場に到着すると同時に放つ。東郷がハワイ戦で考えた作戦はこうしたものだった。
己の隣にいる秋山、そしてモニターにいる日本に対してこう言うのだった。
「攻めよう」
「まさに奇襲ですね」
秋山が強い声で言う。
「緒戦以上の」
「そうだな。しかしな」
「それでもですね」
「ガメリカ軍にはこうでもしないと勝てない」
これが現実だった。そして東郷はその現実を打破するこの作戦を採用したのだ。
「潜水艦、空母にだ」
「コロニーですね」
「あのコロニーは何かというとだ」
「トロイの木馬ですね」
秋山はまさにそれだと言う。
「それになりますね」
「そうだ。ただ中にあるのはだ」
「何もないですね」
「ただのダミーだ。しかしダミーも効果的に使えばだ」
「戦局を決定し得るものになりますね」
「兵は軌道だ」
東郷はここでも言う。
「敵の虚を衝けばだ」
「そこから攻められますね」
「既に敵の陣形は乱れ指揮系統にも混乱が生じている」
全ては先に放った潜水艦艦隊の功だ。
「そしてそこにだ」
「艦載機を放ち」
「一気にダメージを与える、いいな」
「そして先に狙うのもですね」
「敵の機動部隊だ」
先陣ではなく彼等だというのだ。
「いいな、これも予定通りだ」
「はい、わかりました」
「それでは」
秋山と日本は東郷のその言葉に応える。そうして。
空母から艦載機が次々と発艦していく。それぞれの空母の艦橋でそれを見る小澤と南雲はそれぞれこう言った。
「編隊を組むのは空母の上でなくてもいいですよ」
「敵に進みながらそうしたらいいよ」
「その方が時間を短縮できます」
「ただし、確実に組んでくれよ」
こう発艦していく艦載機のパイロット達に言う。
「そしてまずは敵の空母を叩いて下さい」
「甲板を狙うんだよ、特にエレベーターのところをね」
それで敵の艦載機を出せなくするだけではなかった。
「エレベーターの下に弾薬庫があります」
「そこを潰せば一気に撃沈できるからね」
「出来るだけ一隻でも多くの空母を沈めて下さい」
「他には目をくれなくていいよ」
戦艦や巡洋艦よりも今は空母を沈めろというのだ。そして実際に。
発艦した太平洋軍の艦載機達は敵の空母に殺到する。不意を衝かれたガメリカ軍はまだ艦載機を出せてはいなかった。
護衛のない空母はまさに銀河の的だ。無防備だけでなく的としても大きい。これだけ攻めやすい相手もなかった。
そのエレベーターを狙って魚雷を放つ。魚雷は上から空母の甲板、そのエレベーターのところを狙ってだった。
次々に命中し炎をあげる。ガメリカ軍の艦艇は頑丈でダメージコントロールがいいのでおいそれとは撃沈しない。だが。
「空母ヨークタウン発艦不能!」
「ホーネットもです!」
「レキシントン、サラトガ大破!」
「エンタープライズ航行不能になりました!」
「ま、まさか機動部隊が」
これにはキャロルも驚愕の顔になる。決戦の為に用意した大規模な機動部隊がまさに今次々にやられていく。
損害は一秒ごとに増えていく。その有様を見て言うのだった。
「そんな、これじゃあ」
「駄目です、今の攻撃で」
「機動部隊はほぼ壊滅しました」
「撃沈された空母こそないですが」
「その全てが」
戦闘不能に陥ったというのだ。
キャロルにとっては計算外のことだった。しかも。
日本軍の戦艦達が主砲を動かしてきていた。何をしようとしているのは明らかだった。
アメリカがそれを見てキャロルに強い声で告げた。
「キャロル、こっちもだ!」
「砲撃用意ね!」
「そうだ、ちゃんとしてるな!」
「ええ、してるわよ!」
自分は保っていた。キャロルとてガメリカの国防長官だ。
それに相応しい資質はある、それでこうアメリカに応えたのだ。
「確かにイザベラも機動部隊も駄目になったけれどね」
「しかしまだ戦いは続いているんだ」
「ええ、だからこそね」
「反撃だ。ビーム攻撃だ」
「戦艦の数でも負けてはいないわ」
それは確かだ。やはりガメリカ軍は数だった。
その数に持ち込んだ撃ち合いで勝負を決めようとする。両軍それぞれ間合いを計りながら照準を合わせる、そこで東郷は言う。
「こうした時に備えてな」
「少しでもダメージを軽減させる為にですね」
「ああ、来てもらった」
見れば太平洋軍の戦艦部隊の指揮はネルソンが執っている。彼の艦隊は。
「ヴィクトリーで攻撃を仕掛け」
「バリア艦で護る、ですね」
「戦隊の先頭にいる、嫌でも狙われる」
「しかしその攻撃をですね」
「防ぐ」
これがビームの応酬での東郷の策だった。
「これで敵の攻撃はある程度無効化できる」
「そしてこちらは」
「敵の戦艦達をそのビーム攻撃で徐々に潰していこう」
「一隻一隻確実に」
「そうすればいい」
戦艦部隊にはそうするというのだった。そして。
両軍は砲撃をはじめた。先陣に来ていたフィリピンが命じる。
「あの敵の先頭を狙おう!」
「ヴィクトリーですね!」
「あの艦を!」
「そう、集中攻撃だ!」
明らかにネルソンが指揮官だった。フィリピンはそれを見抜いたのだ。
そうした意味で彼の判断は妥当だった。彼はビーム攻撃はヴィクトリーを重点に行なうことにした。
「敵の頭を潰せば」
「今度は向こうがですね」
「向こうがその番ですね」
「指揮系統が乱れる」
そうなってしまった軍程脆いものはない。それで一気にだというのだ。
「一斉砲撃、それから水雷攻撃も仕掛けて」
「それでイザベラ提督と機動部隊の仇を討ちましょう」
「絶対に」
「そうしよう。何としてもね」
フィリピンは太平洋軍の先頭にいるヴィクトリーを見据えていた。そしてそのうえでだった。
その攻撃を集中させる。無数の光の矢がヴィクトリーに突き刺さる。だが。
それは全て弾かれる。弾かれあえなく消え去っていく。フィリピンもそれを見てすぐに気付いた。
「くっ、バリアか!」
「それもかなり強力です」
「我々のビーム攻撃を無効化しています」
戦艦の大出力のその砲撃すらだった。
「ただバリア艦を置いているだけではないですね」
「あれは」
「攻撃はヴィクトリーに専念させて」
そのうえでだったのだ。
「防御はバリアで完全に固める」
「そうしてきましたか」
「日本は」
「考えたものだよ」
フィリピンは思わず感嘆の言葉さえ漏らした。
「ビームでも備えてくるなんてね」
「見れば敵にはバリアを装備している戦艦もありますね」
「通常戦艦の他に」
「うん、こうしたことも読んでいたね」
ガメリカ軍のビーム攻撃の強力さも考慮してのことだった。ガメリカ軍の最初の攻撃は彼等の予想よりも遥かに低い結果に終わった。
今度は太平洋軍だった。ネルソンは部下達に対して言う。
「よし、それならだ」
「はい、反撃ですね」
「今からですね」
「そうだ。ビーム攻撃だ」
彼等のそれをするというのだ。
「既に攻撃目標は定めているな」
「既に」
「定めています」
「よし、それならだ」
それならと言ってそうしてだった。
ネルソンのヴィクトリーも他の戦艦達も主砲の照準を完全に定めて攻撃を放つ。ガメリカ軍の戦艦達は次々に光の矢を受ける。
今度は戦艦達が炎をあげる。そしてその中では。
フィリピンの乗艦も炎をあげていた。それでだった。
フィリピンは苦い顔でこう将兵達に言った。
「ううん、この状況は」
「まだ艦は動きますが」
「どうされますか?」
「やれるだけやるかな」
フィリピンにもいつもの軽さはない。警報音が鳴り響く艦橋の中で言う。
「ここはね」
「はい、それではここは」
「最後の最後まで、ですね」
「戦おう。まだ負けた訳じゃないからね」
「では陣形を再編成して」
「そのうえで」
将兵達も頷く。こうしてだった。
フィリピンは先陣を指揮し続けミサイル、そして水雷攻撃にあたる。ミサイル攻撃からはキャロルとアメリカも予備戦力を全て前線に出し全軍であたった。
「もうね、悠長なことは言っていられないわ」
「そうだな。ここはな」
アメリカも強い顔でキャロルの言葉に頷く。
「全軍であたらないと」
「勝てる状況じゃないわよ」
「勢いは向こうにあるし」
完全に掴まれた、それは。
「ここはだな」
「流儀じゃないけれどね」
キャロルも言う。
「座って戦うわ」
「護りきるか」
「機動部隊も使えなくなったし損害も馬鹿になってないから」
「ここはじっくりと防御だ」
「それで反撃の機会を待つのね」
「いや、どうかな」
反撃についてはアメリカはこうキャロルに言う。
「それは」
「?反撃できる戦力はまだあるわよ」
「違う、僕達がしているのは防衛戦だ」
太平洋が攻めガメリカが守る、今の戦いはそうしたものだ。
だからアメリカもこうキャロルに言ったのである。
「それならだ」
「戦場に立っていればいいのね、最後まで」
「そうだ。僕達は守っていればいいんだ」
積極的に反撃を加える必要はないというのだ。
「ここはな」
「そうね。それじゃあ」
「そうだ。守ろう」
こうしてガメリカ軍はアメリカの提案通り防御に専念することにした。太平洋軍はその彼等に対してそう攻撃に移る。まずは艦載機を放ちビームでの応酬に入る。今度はガメリカ軍もビームバリアには警戒を怠らない。
「よし、このままだ!」
「バリアのある艦隊は後回しにしよう!」
アメリカとフィリピンが将兵達に指示を出す。
「まずは防御の弱い艦隊から倒すんだ!」
「それも確実にね!」
「はい、わかりました!」
「それでは!」
将兵達も二人の言葉に頷き防御の弱い艦隊から潰しにかかる。これには太平洋軍もかなりのダメージを受けた。
「御免、戦争不能になったわ」
「こっちもだよ!」
ハニートラップとネクスンが長門の艦橋にいる東郷に言う。
「後方に下がらせてもらうわね」
「そうしていいかな」
「ああ、無理はしないでくれ」
東郷の方も二人に対して言う。
「まずは後方に下がってそのうえで」
「日本本土に戻ってよね」
「大修理工場で修理だな」
「あそこなら全滅状態でも一月で戦線に復帰できる」
そこまで修理ができるのが大修理工場の強みだ。田中艦隊もかなり世話になっている。
「だからな」
「ええ、それじゃあね」
「この戦闘の後で日本に戻らせてもらうよ」
二人はこう言って己の艦隊を後方に下がらせる。後方に下がる艦隊は二人のものだけでなく他の艦隊もそうなってきていた。
だがそれはガメリカ軍も同じだった。遂にフィリピンの艦隊も。
「御免、遂にね」
「戦闘不能になったんだな」
「うん、もう限界だよ」
こうモニターを通じてアメリカに話す。
「だからここはね」
「わかった、下がってくれ」
アメリカも親友に対して無理はさせなかった。撤退しろと言う。
「後は僕達に任せてくれ」
「うん、頼んだよ」
こうしてフィリピンも下がる。戦局は一進一退になり両軍は激しい殴り合いに入っていた。
だが最後は数に勝るガメリカ軍が勝ちそうだった。しかし東郷はその彼等を見てモニターに映るエルミーにこう告げた。
「それではだ」
「はい、最後の攻撃ですね」
「潜水艦艦隊は敵艦隊の後方に回ってくれ」
「そしてそのうえで」
「総攻撃にあたってくれ」
「攻撃する敵艦隊は」
「それは任せる」
エルミーがこの場合最善の判断を下すと確信しての言葉だ。
「好きな様にやってくれ」
「それでは」
こうしてエルミー達は密かにガメリカ軍の後方に回った。そのうえでだった。
何とエルミーはここで田中と〆羅にこう言ったのだった。
「一旦姿を見せましょう」
「おい、どういうことだよ」
「潜水艦が姿を現すのですか!?」
「はい、一瞬だけ」
そうするというのだ。
「そしてそのうえで」
「また隠れるのかよ」
「そうされるのですか」
「そうです。後方に敵が出るとなれば」
そしてそれがはっきりと見えればだというのだ。
「誰もが穏やかではいられませんね」
「確かにな。それはな」
「どうしてもそうなりますね」
「それが狙いです」
つまり相手の動揺を誘うというのだ。
「そして動揺したところをです」
「攻めるんだな」
「そうしますか」
「そうです。では仕掛けましょう」
エルミーは淡々とした口調で述べた。そうしてだった。
潜水艦艦隊は一瞬だが姿を見せた、それを見てガメリカ軍は予想通りの動きを見せた。
「後方に敵だと!」
「潜水艦だ!」
「まさか後ろから攻めて来るのか!?」
「我々を」
「皆落ち着くのよ!」
動揺を見せる彼等にすぐにキャロルが告げる。
「後方にも備えはしてあるわ!それぞれの持ち場で頑張って!」
「ですが長官、後方です」
「後方に潜水艦です」
「姿が見えているうちに仕留めておきましょう」
「今のうちに」
「だから大丈夫よ。落ち着きなさい!」
対潜用の作戦は実は考えていない、だがそれでもこう言うのだった。
「いいわね、今は!」
「は、はい」
「わかりました」
ガメリカ軍の将兵達は何とか落ち着きを取り戻した。動揺は一瞬だった。
しかしその一瞬がまたしても命取りになった。そこに太平洋軍は突っ込んだ。
「全軍突撃だ」
「今こそですね」
「敵が動揺している、ここで衝けばな」
「勝てますね」
「今こそ戦局を決める時だ」
秋山に対しても言う。
「それならだ。いいな」
「了解、それでは」
太平洋軍は一気に突っ込んだ。そうして。
動揺から立ち戻ろうとしていたガメリカ軍に全ての攻撃をぶつけた。この一瞬で勝負は決まってしまった。
ガメリカ軍は総崩れになり壊走寸前になる。キャロルも乗艦に直撃弾を受けた。
「第一及び第二主砲使用不能です!」
「左舷のミサイル砲座も壊滅です!」
「ダメージコントロールが限界に達しています!」
「これでは」
「まだよ!」
キャロルは報告を受けてもまだ目は死んでいなかった。それでだった。
毅然として艦橋に立ちこう言うのだった。
「まだ戦えるわ!」
「ですが司令、この艦は」
「これ以上の戦闘は」
「無理だっていうのね」
「お言葉ですが」
側近達も必死の顔でキャロルに告げる。
「ここは下がりましょう」
「仕方ありません」
「ハワイ自体もです」
見れば艦隊はその殆どが壊走していた。最早勝敗は明らかだった。
彼等もそれを見て必死の顔でキャロルに話す。
「守りきれません」
「ここは撤退しましょう」
「それがいいな」
アメリカもモニターに出て来てキャロルに言う。
「これ以上の戦闘は損害を増やすだけだ」
「祖国ちゃんもそう言うの?」
「僕も残念だが仕方がない」
見ればアメリカは苦い顔になっている。だが、なのだ。
「しかし勝敗は決まったんだ」
「だからだっていうのね」
「そうだ、ここは撤退しよう」
アメリカもこうキャロルに言う。
「わかったな。それじゃあな」
「けれどハワイが陥ちたら」
「生きていればまた戦える!」
こう言ったのはアメリカではなかった。彼だった。
ダグラスだった、彼がモニターに出て来てキャロルに対して叫んだのだ。
「お嬢ちゃんも祖国さんもここは下がれ!USJまで一気にな」
「あんた、もう来たの!?」
ダグラスのハワイ到着は決戦の後の予定だった。しかしダグラスは今来たのだ。
だからキャロルもこうダグラスに問う。その彼の返答はというと。
「直感で感じ取ったんだよ」
「直感!?」
「ああ、危ないってな」
それで来たというのだ。
「どんぴしゃだったな。妹さんからも了承は得ているからな」
「そうだよ。あたしがオッケー出したからね」
アメリカ妹もモニターに出て来た。
「とはいってもあたしはUSJに来ただけだけれどね」
「妹ちゃんまで」
「いいかい?キャロルちゃんも兄貴もさっさとUSJまで撤退するんだよ」
「今から俺の艦隊がそちらに向かう!」
ダグラスがまた言う。
「撤退の援護は任せろ!」
「わかった。それならだ!」
アメリカは祖国である自分が答えることでキャロルの決断を促しにかかった。
「僕は撤退するぞ!キャロル、君もだ!」
「ハワイの全軍が、なのね」
「そうだ、下がろう!」
「けれど」
「決断を迷っていては駄目だ!」
戦闘中、特にこうした撤退戦では躊躇は禁物だ。このことは言うまでもない。
それでアメリカも決断を促す、それでだった。
「いいな、今はだ!」
「くっ、わかったわ」
ここで遂にだった。キャロルも決断を下した。
「全軍撤退よ」
「そうだな、それじゃあな」
「惑星に入ったイザベラ達にも伝えて」
そこにはフィリピンもいる。
「下がるわ、USJまでね」
「いや、もう遅い」
ここでダグラスが言ってきた。
「ハワイはもう占領された。フィリピンさん達はもうな」
「捕虜になったのね」
「残念だがな」
「忌々しい話ね。けれど」
こうなってしまっては仕方なかった。ここに残る理由がさらになくなった。
キャロルは傷ついた己の乗艦を操りハワイから下がる。撤退する軍勢の後方にはダグラスが無傷の戦力を出して自ら盾になった。
「ここはやらせねえ!相手になってやる!」
「長官、エンタープライズです」
秋山がダグラスの乗るその戦艦を見て言う。
「しかも結構な戦力ですが」
「撤退の援護だな」
「それで出て来たみたいですね」
「あちらは無傷でこちらはかなりのダメージを受けている」
ハワイ戦は激戦だった。日本軍の損害もかなりのものだった。
「それに戦略目的は達したしな」
「では今は」
「攻めないでおこう」
ここはそうするというのだ。
「それでいこう」
「では」
太平洋軍はそのダグラスの率いる軍は攻めなかった。こうしてガメリカ軍の撤退は無事に終わった。しかしハワイは太平洋軍の手に落ちた。
ハワイでの決戦は太平洋軍の勝利に終わった。遂にはじまった日米の本格的な戦いは日本の勝利に終わった。日本は重要な戦略拠点を手に入れここから新たな戦略にかかるのだった。
TURN53 完
2012・9・14
ハワイ侵攻も無事に勝利で飾れたか。
美姫 「ダグラスたち撤退を援護しに来た艦隊には流石に追撃できなかったけれどね」
まあ、それは仕方ないだろうな。それに今回の目的はハワイの占拠だしな。
美姫 「太平洋軍としては今回の作戦は成功だしね」
ガメリカ戦に向けての重要な拠点を手に入れた所で次回か。
美姫 「次はどんなお話になるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」