『ヘタリア大帝国』




                   TURN51  降伏

 太平洋軍はマダガスカルに入った。しかしそれは戦闘の為ではなかった。
 彼等は太平洋軍の旗艦長門にシャルロット達の来訪を受けていた。すぐにその大会議室において双方が向かい合うことになった。
 太平洋側からは東郷と日本兄妹、それに山下とインドが出席している。オフランス側からはシャルロットにビジー、そしてフランス兄妹にセーシェルだった。五人と五人、十人用の席に着いてすぐにフランスが日本に言った。
「じゃあ早速はじめるか」
「降伏のことですが」
 山下が真面目な顔で切り出した。
「その文書はこちらに」
「ああ、じゃあ早速な」
「前以て申し上げさせてもらいますが」
 山下は言いたいことを抑えて礼儀正しく話していく。
「貴国の将兵の待遇は保障させてもらいます」
「捕虜ってことだな」
「一時捕虜にさせて頂き」
 そしてだというのだ。
「希望者は太平洋軍に編入となります」
「それで希望者以外はか」
「祖国、とはいってもドクツに占領されていますが」
「それでもだよな」
「はい、祖国へ戻ってもらいます」
「オフランス軍は解散か」
「そうなります」
「まあそうしたことになるよな」
 フランスも納得する。降伏の際軍と軍人がどういったことになるのかは彼がよく知っていることだった。何度も敗戦しているだけはある。
「じゃあそういうことでな」
「はい、それでは」
「後俺達だけれどな」
「枢軸軍に入ることになりますが」
 領土は完全に占領された。この世界でのルールの一つだ。
「それで宜しいでしょうか」
「ああ、俺達に」
「私もですね」
 セーシェルもだった。
「枢軸軍に加わることになりますね」
「軍服や階級はそのままですが」
「だよな。まあそれもわかってるからな」
 フランスは仕方ないというよりはもうわかっているという物腰で山下と話していく。身振りもそんな感じで然程落ち込んではいない。
「もうな」
「では」
「ただな。イタリア兄妹はともかくな」
 フランスはここでは少し苦笑いになって山下に述べた。
「ドイツと一緒に戦うのはな」
「お嫌ですか」
「感情的に無理だな」
 ドクツと戦って敗れている、それならだった。
「だからそれはな」
「そういうことですね」
「枢軸で戦うなら日本と一緒がいいな」
 フランスはこの希望を話した。
「そうさせてもらえるか?」
「わかりました、それでは」
 そして山下もこのことを快諾した。降伏の際のやり取りは完全にこの二人が中心になって行なわれていた。
「これから宜しくお願いします」
「ああ、しかしこっちの将兵の待遇は同じか」
「枢軸軍のオフランス軍の軍人となってもらいます」
「だよな。それじゃあな」
「はい、これから宜しくお願いします」
 山下の真面目な応対は変わらない。
「それでオフランス王国の国家元首は」
「私です」
 シャルロットが名乗り出る。
「シャルロット=バルトネーといいます」
「摂政殿下でしたね」
「他の王族、叔父様達は」
「ご安心下さい、どなたもドクツ第三帝国が保護しています」
「そうですか」
 シャルロットはこの場ではこれまで深刻な顔だったがそれが少しだけ変わった。身内の身の安全を聞けてほっとした顔になった。
 その顔でさらにこう言うのだった。
「ではお姉様達も」
「はい、軟禁状態にはなっていますが」
「それでもですね」
「オフランスの別邸の一つで過ごされています」
「そうですか」
「ただ。マダガスカルがこうして解放されオフランスは完全に枢軸側になりましたので」
「それで、ですね」
 どうなるか。シャルロットは山下に応えていく。
「私は国家元首ではなくなりますね」
「おそらくルイ七十九世陛下が王に戻られます」
「私は摂政から降りそのうえで」
「王女に戻られるかと」
「そうなりますね」
「全ては降伏文書にサインされてからですが」
「それでは」
 シャルロットもそのことを聞いて納得した。しかしそれで終わらず。
 声だけを踏み出してそのうえでこう言うのだった。
「私もこれからは」
「これからは?」
「枢軸側の人間として共に戦うことになりますね」
「それは殿下のお考え次第になります」 
 山下は止めなかった。決断を彼女自身に委ねた。
「どうされるかはです」
「そうですね。それでは」
「はい、祖国に戻られるのも戦われるのもご自身でお決め下さい」
「そうさせてもらいます」
 穏やかな容姿に強いものを宿らせての言葉だった。しかしとりあえずはだった。
 降伏文書へのサインが先だった。それはあっさりと行なわれオフランス王国は完全に枢軸側になった。そうしてだった。
 そのサインが行なわれた後でフランスはやれやれといった顔で日本に対してこう言うのだった。場所はマダガスカルの仮王宮の一室だ。窓からは奇麗な青い海が見える。
 その海を見ながらこう日本に言う。
「まあなあ。今回はな」
「今回はといいますと」
「俺ずっとやられっぱなしだからな」
 このことをそのやれやれといった顔で言うのである。
「何ていうかな」
「だからですか」
「いいところないな。けれどな」
「けれど?」
「これからはちょっとはましに戦うか」
 こう言うのだった。
「少しはな」
「期待しています。何しろ次はです」
「これからすぐにハワイに向かってだよな」
「ガメリカとの全面戦争です」
「俺に妹にセーシェルに」
「シャルロットさんもですね」
「普通に戦艦二個部隊に駆逐艦部隊二個運営できるまでに教えておいたからな」
 軍人としての指揮をだというのだ。
「あと補佐もつくから安心してくれ」
「補佐?」
「ビルメっていうマダガスカルの現地民の指導者だよ」
 その彼女が加わるというのだ。
「何でも姫さんだけじゃ頼りないって言ってな」
「それで、ですか」
「オフランス人と現地民って元々仲が悪いんだよ」
「支配する側とされる側として」
「植民地だったのは事実だからな」
 これはセーシェルも同じだ。しかし太平洋軍の勝利によりマダガスカルもセーシェルも独立を果たしたのである。 
「これまでは結構な」
「対立がありましたか」
「姫さんは別だったんだよ」
 そのシャルロットの話になる。
「元々のんびりしてて偏見のない性格でな」
「よい方なのですね」
「いい娘だよ、それもかなりな」
 フランスはシャルロットのことをについては微笑んでこう述べた。話をしながらテーブルの上に置いているコーヒーを手に取って飲む。
 それが終わってまた言うのだった。
「現地民にも普通に接していてな」
「それでそのビルメさんもですか」
「嫌いじゃないし憎めないって言ってな」
「それで、ですね」
「手伝ってくれるってな。俺としても有り難いよ」
「それではシャルロットさんも」
「ああ、宜しく頼むな」
 フランスは彼からもシャルロットのことを頼んだ。
「力になってくれるからな」
「我が軍は少しでも人材が必要です」
 インド洋まで完全掌握しかなりの国力と人材を手に入れているがそれでもなのだ。
「ですから」
「俺達も必要なんだな」
「宜しくお願いします」
「こっちこそな。しかし俺が枢軸に入るとな」
 どうなるかと。フランスは今度はこんなことを言った。
「イギリスの奴がまた怒るな」
「イギリスさんですか」
「あいつそっちに負けまくってもう無茶苦茶だからな」
 それだけ危機に陥っているというのだ。
「もう殖民地はアフリカのところしかないからな」
「インドも独立しましたし」
「まして独立は連合のメンバーも承認したからな」
 こうした意味でイギリスは身内にも裏切られている。まさに四面楚歌だ。
「こっちに攻め入ることもできない」
「こうした意味でも独立してもらったことはいいことですね」
「国防の意味でも最高の手だな」
「はい、そうですね」
「あの長官のアイディアらしいが頭がいいな」
 そうした意味でも最高の一手だった。政治である。
「お陰でイギリスは領土を取られたら取られっぱなしだよ」
「そうなっていますね」
「まあガメリカや中帝国は違うがな」
 彼等は彼等の考えがあり事情があるからだ。
「わかるよな。ハワイでの決戦に若し敗れたら」
「はい、一斉に反撃に来ますね」
「中国は重慶から大軍で領土を奪還しに来るぜ」
「北京、いえ満州までですね」
「そう来るしアメリカもミクロネシアからそっちの本土を攻めてくるからな」
「ハワイで敗れると一気にですね」
 そうなることは火を見るより明らかだった。
「日本帝国は降伏に追いやられます」
「確実に来るからな」
「そして我が国は」
「滅ぼされはしないさ。国力もそんなに削がれはしないだろうな」
 ガメリカと中帝国の領土を返還させられて終わりだというのだ。もっとも日本も両国と講和すればそうするつもりだからこのことは特に痛くはなかった。
 だが、なのだ。日本とフランスはそれからのことを危惧しているのだ。若し日本が敗れた場合はどうなるかということを。
「その残った国力でな」
「ソビエトとの戦いですね」
「殆ど一国でソビエトとの全面戦争だよ」
 つまり日本は敗北したならばガメリカと中帝国にソビエトへの鉄砲玉にされるというのである。
「そうなるからな」
「そうですね。間違いなく」
「そうなったら洒落にならないからな」
 ソビエトもかなり強い、その国との日本のみでの全面戦争なぞ今の戦争以上に危険で途方もないことだからだ。
「だからな」
「はい、何としても」
「これまでは俺も連合だったからな」
 だからだと言うフランスだった。今度は。
「こうした助言もできなかったけれどな」
「しかしですか」
「今は違うからな」
 枢軸になった今ではだというのだ。
「一緒に戦えるさ」
「では宜しくお願いします」
「こっちこそな。それでは」
 フランスはさらに言う。
「一緒に戦えるからな」
「戦力としてもですね」
「降伏の時も言ったけれど俺はドイツとは戦えないさ」
 これは感情的な問題だった。やはり自分を破った相手とは素直に共に戦うことはできないというのである。
「けれど御前やイタリア君は別だよ」
「イタリア君もですか」
「直接戦ってないからな。いや、イタリアはな」
 彼はどうかとフランスは微笑んで言った。
「あいつとはちょっとやったな」
「あの敗戦の時ですね」
「攻めて来たけれど弱かったな」
 イタリアの弱さは最早圧倒的だった。
「俺あの時ぼろぼろだったんだけれどな」
「それでもですね」
「やり返せて逆にイタリン領に攻め込めたんだよ」
 その敗戦でぼろぼろになっているオフランス軍にすら勝てなかったのだ。それがイタリンの強さの証明である。
「けれどその直前で降伏したからな」
「上司の方がですね」
「だから攻め込むことは出来なかったけれどな」
「それでもですね」
「イタリアは弱かったな」
 フランスはまたこのことを言う。
「とにかく滅茶苦茶弱い」
「そういえば北アフリカ戦線でも」
「イギリスに蛸殴りにされてたからな」
「全く相手にならなかったそうですね」
「戦うよりも飲んで食ってな」
 そしてだった。
「寝る、女の子と遊ぶからだからな」
「イタリア君とロマーノ君らしいですね」
「妹さん達は違うけれどな」
 兄達とは正反対に妹達は強い。イタリン軍は彼女達が頑張って何とか力になっているのだ。
「まああの二人とポルコ族はな」
「あまり戦力としては」
「全然ならないからな」
 フランスの方が辛辣だった。やはりイタリアを知っているだけはある。
「けれどそれがな」
「イタリンのそうしたところがですね」
「嫌いじゃないんだよな」
 フランスは今度は仕方ないな、という顔で話す。
「むしろ憎めなくてな」
「ついついですね」
「許せるんだよ、あいつは」
 これがフランスのイタリアへの本音だった。もっともその本音を最初から隠してはいないが。
「攻められはしたけれどな」
「だからですか」
「あいつとも戦えるんだよ」
 そうだというのだ。
「で、御前ともな」
「私ともですか」
「最初から特に利害関係もないからな」 
 それでだというのだ。
「だからな」
「それで、ですか」
「ああ、楽しくって言う訳にはいかないけれどな」
 戦争をしているからには流石にそれは無理だった。
「一緒にな」
「戦いますか」
「頑張って太平洋を手に入れてな」
「太平洋経済圏ですね」
「築くか。俺は欧州だけれどな」
 しかしそれでもだというのだ。
「協力させてもらうぜ」
「共に」
「よし、じゃあな」
「それでは」
 こうして彼等は共に手を結んだ。フランス達を加えた太平洋軍はマダガスカルからハワイに向かう。一連のことはすぐに連合側にも伝わった。
 アメリカはハワイにいた。そこで意を決した顔で自国の省兵達に告げた。
「よし、いよいよだ!」
「そうね。決戦ね」
 キャロルが自分の祖国の言葉に明るく応える。二人は今ハワイのビーチにそれぞれ軍服姿でいて
明るく話している。
「お握り野郎共ぶっ潰すわよ!」
「そうだな。それでキャロル」
「何、祖国ちゃん」
「ギガマクロさんはどうしているんだ?」
 アメリカは不意にこの名前を出した。
「今日はここで待ち合わせして一緒にステーキを食べる約束なんだが」
「そうよね。けれど」
「遅れてるのか?何かあったのか?」
「どうなのかしら」
「イザベラ、知ってるか?」
 アメリカは二人と共にいる彼女に問うた。見れば二人よりもガメリカ軍の青い軍服を生真面目に着こなしている。
 その彼女がアメリカの問いにこう答えた。
「海にいるのではないかと」
「僕達の目の前にあるかい?」
「はい、この海に」
「怪獣と闘っているのか」
「おそらくは」
 こうアメリカに答える。
「だからまだ来られていないかと」
「そうか。なら仕方ないな」
 アメリカもイザベラから聞いてこう言う。
「少し待とう」
「はい、それでは」
「すぐ来るだろうしな、それだと」
 アメリカはこう言ってその彼を待つことにした。するとすぐに海から日に焼けた黒い肌に白い顔の下半分を覆う豪快な髭を生やした黄金の兜の男が来た。腰蓑を着けており異様なまでに大柄で逞しい身体wしている。
 その彼がこう言うのだった。
「おお、祖国さんか」
「やあ酋長、元気そうだな」
「ああ、海で鮫と闘っていた」
「それでどうだったんだい?」
「十二メートルはあったがな」
 鮫としてはかなりの大きさである。
「勝ったからな。見事撃退したぞ」
「それは何よりだな。ところで娘さんは何処なんだい?」
 アメリカはその酋長ギガマクロに問うた。
「いつも一緒じゃないのかい?」
「どうも外出していてな」
 ギガマクロは少し微妙な顔で述べた。
「いない」
「そうなのか」
「まあ少ししたら戻って来るだろう」
 ギガマクロは腕を組み豪語する顔で言った。
「それを待つか」
「そうするんだな」
「うむ、あれもわしの娘だ」
 だから だと言うギガマクロだった。
「そう簡単に死ぬタマではないわ」
「それはその通りね」 
 キャロルがそのギガマクロに明るく応える。
「酋長の娘さんなら大丈夫よ」
「そうだ。大丈夫だ」
 ギ0ガマクロはキャロルにも豪快に返す。
「それで今はどうする」
「昼食を食べよう」
 アメリカは笑顔でギガマクロに提案した。
「ステーキでもな」
「おお、それはいいな」
「そうだろ?皆で食べよう」
「うむ、それではな」
 こうした話から四人でアメリカの行き着けの店に入る。そうしてステーキを食べその中でだった。
 ギガマクロは一キロはあるステーキをむしゃむしゃと食べながらアメリカに問うた。
「そろそろそっちもだな」
「ああ、決戦だ」
「そうか。頑張れよ」
「酋長は見ていてくれ」
 参戦は要請しなかった。その考えは最初からなかった。
「僕達の勝利をな」
「自信はあるんだな」
「なくて言わないぞ」
 アメリカもまた大きなステーキを食べている。その中での言葉だった。
「こんなことはな」
「そうだな。しかしな」
「わかっているさ。ハワイの皆には迷惑はかけない」
 アメリカはギガマクロにこのことを約束する。
「彼等も僕の大切な国民だからな」
「そうして貰えると有り難いな」
 ギガマクロもこう言う。
「わしにしても戦争で国民が傷付くのはな」
「嫌だな」
「国民が傷付くことを喜ぶ王はいない」
 これは彼も同じだ。そうそうおかしな者でもない限りそうだ。
「そういうことだ」
「そうだな。絶対にな」
「わしは南洋の酋長だった」
 それはもう過去だったというのだ。
「しかしアメリカさんに国を譲ったのはだ」
「それどうしてなの?」
 二人と共にイザベラを交えてステーキを切って口の中に入れているキャロルもこう言うのだった。
「ギガマクロさんって南洋の殆どを領有してたわよね」
「ミクロネシアにラバウルもな」
「そうよね。このハワイだけじゃなく」
 全てガメリカ領になった。全てギガマクロが譲った結果である。
「どうして祖国ちゃんに譲ってくれたの?イギリスとかじゃなくて」
「イギリスなら植民地になるな」
「それがエイリスのやり方だからね」
 キャロルもこのことはよく知っていて嫌っている。彼女もガメリカ人であり植民地は忌み嫌っているのだ。
 それでこう言うのだった。
「で、あんなところに入るよりは?」
「そうした考えもあったがな」
 ベターを選んだのも事実だった。しかしそれだけではなかった。
「だがそれ以上にだ」
「それ以上にっていうと?」
「アメリカさんと会ってこれならと思ったからだ」
「南洋の人達をちゃんとしてくれるって思ったのね」
「そうだ。実際にアメリカさんは皆を大事にしてくれるな」
「ガメリカには階級なんてないぞ」
 このことはアメリカ自身も保障する。
「皆平等だ。チャンスと運さえあればな」
「誰でも成功できるな」
「考えてみてくれ。イザベラもだ」
 アメリカはここでそのイザベラを見て言う。
「ルーツは日本だぞ」
「日系ガメリカンです」
 イザベラ自身もこうギガマクロに話す。
「このことは酋長も御存知ですね」
「ははは、もう酋長じゃないがな」
「敵国にルーツがあります。ですが」
「日系人は危うく収容所送りになるところだったけれどね」
 キャロルはこのことを言うのを忘れなかった。
「祖国ちゃんのファインプレーでことなきを得たけれどね」
「本当に感謝しています」 
 イザベラはキャロルの言葉を受けてそのアメリカに頭を下げる。
「祖国さんのお陰で家族も皆も」
「そういうことはよくないからな」
 だからそうしたと言うアメリカだった。
「止めたんだ」
「そうですか」
「ガメリカはそのルーツにこだわらず皆平等だな」
「はい」
「それで敵国にルーツがあるからと言って差別したら駄目じゃないか」
 アメリカはこのことについては厳しい顔で断言する。
「だから止めたんだ」
「それでなのですね」
「そうだ。ガメリカには君の様にアジア系もいればアフリカ系もいるな」
「はい」
「皆どうしてる?平等だろ?」
「アフリカ系の提督も多いしね」
 国防長官でもあるキャロルが最もよく知っていることだった。
「軍でも優秀なら誰でも偉くなれるわよ」
「その点イザベラは凄いじゃないか」 
 アメリカはステーキのおかわりを受けながら述べる。見れば四人共ステーキを次から次に焼いてもらって食べている。まるでわんこステーキだ。
 その焼きたての分厚いステーキをフォークとナイフで食べながらそのうえでこうキャロルに対して言うのである。
「士官学校首席でな」
「しかも実際の指揮でも凄いしね」
 キャロルも笑顔で言う。
「いつも陣頭指揮で勇敢に戦ってるじゃない」
「今ハワイで一番頼りになる提督だぞ」
「そうそう。今回も期待してるわよ」
「有り難うございます」
 イザベラはキャロルと己の祖国に礼を述べた。
「ガメリカはそういう国なのですね」
「それは僕が保障するからな」
「アメリカさんは器が大きい」
 ギガマクロがここでまた言う。
「その器を見たからな」
「僕に南洋を譲ってくれたんだな」
「そうだ。この戦いに勝ってな」
「それでだな」
「太平洋の盟主になるか?」
「リーダーになって皆を幸せにするぞ」
 この考えは変わらなかった。今ここでも。
「酋長も期待していてくれ」
「そうさせてもらうか。ではな」
「そうだな。それじゃあ僕達の勝利を待っていてくれ」
「うむ、わしはアメリカさんに任せる」 
 目の前にいる今の彼の祖国にだというのだ。
「では武運長久を祈る」
「日本をやっつけたら即座に降伏させるぞ」
「そうそう。まあ一撃で許してあげてね」
 キャロルはそれからのことを笑顔で話す。
「ソビエトと戦ってもらうからね」
「やはりあの国が問題ですね」
「共有主義なんて入れたら大変なことになるからね」
 イザベラにそれでだと話す。
「だからやっぱりね」
「そうですね。あの思想だけは」
「正直日本は太平洋経済圏に必要なのよ」 
 このことはキャロルだけでなくガメリカ全体で理解していた。
「一回やっつけてそれで終わらせる位でね」
「それからですね」
「地位はナンバースリーね」
 太平洋経済圏のだというのだ。
「経済力もそれなりだし。どうしても必要な国の一つよ」
「我が国、中帝国と共にですね」
「太平洋には欠かせない国よ。けれど」
 ここでキャロルはその顔を顰めさせてこの国のことについて言及した。
「ソビエトは違うから」
「共有主義故にですね」
「そう。ただでさえロシアは厄介なのに」 
 そもそもこの国自体が嫌いなキャロルだった。これもガメリカの中では共通していることだ。
「あんなとんでもない思想入れたらね」
「個人資産を否定していますね」
「そう。皆平等だっていうけれど」
「規律も異様に多く」
「ちょっとミスしたら廊下に立たされるのよ」 
 カテーリンは厳しい。些細なことでもそうした罰を課す主義なのだ。
「貨幣もないし」
「少しでも反論すれば」
「そう、言論の自由もないのよ」
 これもソビエトにはなかった。完璧なまでに。
「jカテーリンにちょっとでも言ったらね」
「お仕置きですね」
「そう。やっぱり廊下に立たされたりね」
 とにかくそうしたことが好きなカテーリンだ。死刑にはしないがとにかく立たせたり食事抜きにしたりするのである。
「食べるものだってね」
「三食決まっているそうですね」
「給食でね。国民皆同じものを食べるでしょ」
「ピロシキやボルシチを」
「ロシア料理自体はいいにしても」
 それとは別の問題だった。この場合は。
「三食好きなものを食べられないのよ」
「非常に窮屈な社会であることは間違いないですね」
「そんな国にいたくないでしょ」
「はい」
 これはその通りだった。イザベラにしても。
「当然和食のレストランにも」
「それ全部潰されるから」
「このお店にしてもですね」
「全部給食だからね」
 それでレストランなぞある筈がなかった。到底。
「とにかくそんな国だからね」
「間違ってもですね」
「そう。野放しにはできないから」
「それで日本をぶつけるのですね」
「ソビエトは君主制も否定してるしね」
 つまりそれはというと。
「向こうにとってもあの国はね」
「危険ですね」
「脅威以外の何でもないから」
 それでだというのだ。
「悪い話じゃない筈よ」
「その際ですが」
 イザベラはキャロルにこうも言った。
「一つ宜しいでしょうか」
「何?」
「日本の国力では一国ではソビエトと戦うことは」
「無理だっていうのね」
「ソビエトはロシア帝国よりさらに強大です」
「日本も強くなったけれどね」
「あの日露戦争でも限定勝利でした」
 勝つには勝ったが何とか、という感じだったのだ。日本にとっては辛勝だったtことは紛れもない事実である。
「ですから一国だけでは」
「あっ、援助はするから」
「そうしてですか」
「戦ってもらうわ。そうするから」
「そうですか。それでは」
「ええ。ガメリカも含めて他の国は直接兵は出さないけれどね」
 それでもだというのだ。
「援助はするから 」
「そうしてですか」
「戦ってもらうわ。これがガメリカの方針よ」
「わかりました。それでは」
 イザベラもキャロルの言葉に頷く。そうした話をしてだった。
 彼女もまたステーキをおかわりする。そしてこんなことを言った。
「ステーキはやはり」
「何だっていうんだい?」
「レアがいいですね」
 アメリカに焼き加減の話をしたのである。
「この焼き加減が」
「そうか。イザベラはレア派なんだな」
「そうです。ミディアムよりも」
「確かにレアはいいな」
 見ればアメリカもその焼き方だ。そのステーキを美味そうに頬張っている。
「それにソースは」
「あっさりと」
「ソイソースはかけないのかい?」
 醤油のことである。彼女が日系人だから言ったのではない。
「あれも美味しいからな」
「ソイソースですか」
「そうだ。中国に勧められたんだ」
 醤油は中国も使う。アメリカが言ったのはそこからだった。
「美味しいからどうかってな」
「それでどうだったでしょうか」
「うん、美味いぞ」
 実際にアメリカは今ステーキに醤油をかけて食べている。とはいっても和風ではなく中華風の味付けになっている。
「あっさりしていてな」
「ですね。私も好きですが」
「今は食べないのか?」
「少し。遠慮します」
 こう言うのだった。
「今は」
「そうするのか」
「チーズの上にこのソースで」
 ウスターソースだった。それとチーズの組み合わせである。
「食べさせてもらいます」
「そうか。そうするんだな」
「はい、では」
「食べて栄養をつけてだな」
「勝ちましょう」
 イザベラは確かな顔でアメリカ達に言い切った。
「絶対に」
「そうだな。何があってもな」
「はい、ガメリカの為に」 
 確かな笑みでアメリカに応える。彼女は紛れもなくガメリカ人だった。
 その同胞の彼女にキャロルが言う。
「今回もね」
「第一陣ですね」
「その指揮頼むわね」
 イザベラはその戦い方から先陣を任されることが常だ。それは今回もだった。
「派手にやっつけてやってね」
「お任せ下さい、それでは」
「当たって砕けろよね」
「はい」 
 まさにそれだった。
「そうさせてもらいます」
「是非ね。頼んだわよ」
 キャロルはそのイザベラに笑顔で告げる。
「この決戦もね」
「それでは」
 イザベラは心で敬礼をして応えた。そうした話をしてだった。
 ガメリカ軍は決戦に備えていた。今そのハワイに太平洋軍の主力が向かっていた。
 その中で秋山が東郷にこんなことを話していた。
「中帝国戦線はそのままですが」
「艦隊は動かしていないか」
「そのまま備えにしています」
「じゃあアラビアだな」
「念の為にです」
 インド洋の国々も全て独立しエイリスの同盟国であるガメリカ、中帝国、ソビエトが承認してはエイリスも奪還に動けない。それでもだったのだ。
「備えとしてです」
「何個艦隊か置いてだな」
「柴神様と首相、それにです」
「山本の爺さんだな」
「その方々にお任せしましょう」
「三個艦隊か」
「少ないでしょうか」
「いや、そんなものだな」
 それでいいと答える東郷だった。
「数としてはな」
「それでいいですか」
「ああ、いいだろう」
 実際にそうだと述べる。
「エイリスもまず攻め込んで来ないだろうしな」
「念の為にもう一個艦隊でしょうか」
「あの魔法使いにも言ってもらうか」
 東郷はあの風変わりな異才のことも話に出した。
「そうしてもらうか?」
「そうですね。彼にも言ってもらいますか」
「これで四個艦隊だな」
「はい、一応は」
「これで充分か」
 東郷は少し考える顔になって秋山に言った。
「そうするか」
「はい、それでは」
「後の全ての艦隊でだ」 
 実際に太平洋軍の主力は全てがハワイに向かっている。東郷もマダガスカルから大艦隊を率いている。しかしその艦隊でもだった。
「何しろその主力全部でもな」
「ハワイに展開しているガメリカ軍と比べますと」
「数は半分だな」
「その程度です」
 数の差は歴然としていた。
「そして艦艇の質もです」
「勝つことは難しいな」
「残念ですが」
 こう答える秋山だった。
「しかし既に作戦は立てていますので」
「あれを実行に移すか」
「はい、そうしましょう」
「では勝つとしよう」
 確かに決戦の時は迫ろうとしている。しかしそれでも東郷はいつもの調子で飄々としている。
 そしてその飄々とした物腰で全軍に告げた。
「皇国の興廃この一戦にあり、勝とう」
「全軍進撃!」
「ハワイに行くぞ!」
 全軍東郷のその言葉に応えてハワイに向かう。ハワイでの決戦が今始まろうとしていた。


TURN51   完


                           2012・9・10



これでオフランスも降伏か。
美姫 「ここまでは順調ね」
だな。そして、ここからがいよいよ正念場だな。
美姫 「まずはハワイね」
ここを落とし、次に繋げないとな。
美姫 「さて、どうなるかしらね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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