『ヘタリア大帝国』
TURN48 騎士提督参入
アラビアまで失ったと聞いたセーラは落胆の色を隠せなかった。本国に戻って来たイギリスからそのことを聞いた。
玉座にいてそこに座りながらこう言ったのだった。
「ネルソンも多くの将兵達もですね」
「済まない、本当にな」
「いえ、祖国殿が謝罪されることはありません」
それはいいというのだ。
「勝敗は戦争の常、それにです」
「それにか」
「敗戦の研究はすべきですが悔やんでそれで済むことではありません」
だからだというのだ。
「謝罪されることはありません」
「そう言ってくれるか」
「事実です。ですから」
セーラもまたイギリスと生き残った将兵達を労わって言う。
「今はです」
「これからのことか」
「我が国は今スエズにおいてドクツ軍の猛攻を受けています」
「スエズか、あそこもな」
イギリスもスエズの話になり難しい顔になる。
「ちょっとな」
「危うい状況ですね」
「ドクツ軍も強いぜ」
イギリスは神妙な顔でセーラにこのことを告げる。
「モンゴメリーさんも苦戦してるな」
「そうですね。ですから」
「今度はスエズに行って来る」
イギリスは自分から申し出た。
「モンゴメリーさんと一緒に戦って来るな」
「祖国殿、しかしそれは」
そのイギリスにロレンスが心配する顔で言ってきた。
「連戦で。お身体に無理が」
「安心しろよ。体力には自信があるんだよ」
イギリスはあえて強気の笑みを浮かべてロレンスに返した。
「だから任せてくれよ」
「そう言われますか」
「ロレンスさんはロレンスさんでな」
イギリスはその強気に見せている顔でロレンスに言葉を返す。
「この本国と女王さんを頼むな」
「お任せ下さい。このロレンス一命にかけても」
ロレンスはエイリスの敬礼をしてからイギリスに応える。
「本国と女王陛下を共に」
「頼むな」
「そのお言葉謹んでお受けします」
二人は誓い合った。そしてだった。
セーラは居並ぶ面々、自身の祖国達も見回してこう言った。
「スエズを失えばそこからアフリカでの抑えが効かなくなります」
「はい、スエズこそは我が国のアフリカの要です」
イギリス妹が言う。このことはまさにその通りだった。だから彼女も眼鏡の奥の瞳を光らせて言うのだった。
「あの地を失えば」
「我が国はアフリカの植民地も失いかねません」
そうなることは容易に想像できた。
「ですから」
「何としてもですね」
「はい、スエズは死守しなければなりません」
全てはエイリスの為だった。
「ですからここは」
「俺が行くからな」
「祖国殿とです」
彼だけではなくとだ。セーラは強い声で言った。
そのうえでイギリス妹も見た。そのうえで彼女にも告げた。
「妹殿にもお願いしたいのですが」
「兄さんと共にスエズにですね」
「はい、お願いできますか」
こうイギリス妹に頼む。
「ここは」
「わかりました。では」
イギリス妹はすぐに答える。こうしてだった。
彼女もスエズに行くことになった。セーラはこれ以上は何も失うまいと固く決意していた。
その女王に今度はマリーが言ってきた。
「まずはスエズ防衛だね」
「はい、それからです」
「戦局が好転したら北アフリカ?」
「そしてイタリンに攻め込みます」
今はエイリスにとって夢の様な話だがセーラはあえて言った。
「ドクツの中心に入りましょう」
「その時には本国からもだね」
「パリからそのままベネルクスを解放しながらです」
そのうえでだというのだ。
「ドクツ本土に入りましょう」
「そこまで何とか進めないとね」
「ガメリカも中帝国もソビエトも我々を一切助けません」
三国共最初からそんな気は毛頭なかった。同盟を結んでいるとはいえエイリスの衰退、あわよくば滅亡を望んでいる位だ。
「我々だけでやるしかありません」
「辛い状況なんだね」
「今はエイリス建国以来の国難の中にあります」
セーラ自身が最もよくわかっていた。このことは。
だからこそこう言いだ。そしてだった。
セーラは玉座に座りながら毅然として顔を上げた。そのうえでそこにいる全ての者に告げた。
「我々はスエズからドクツに対して反攻を行います」
「そしてですね」
「ドクツに勝利を収めます」
先程述べた作戦の通りに進めてだというのだ。
「万難を排して勝利を掴みましょう」
「よし、じゃあ早速な」
「私達はスエズに向かいます」
イギリス兄妹がすぐに応える。
「本国は任せたぜ」
「あちらはお任せ下さい」
こう話して二人はエイリスに残された数少ない予備戦力を率いてスエズに向かった。イギリスにとっては戻ったと言っていい。
その彼等を見送ってからだった。セーラは港において共にいる母に対してこんなことを言った。
「祖国殿も妹殿も」
「ええ。必死に頑張ってくれてるわね」
「我がエイリスの為に」
「それにね」
「それに?」
「セーラちゃんの為にもね」
エルザは娘の顔を見て微笑んで話す。
「頑張ってくれてるわね」
「私の為にも」
「そうよ。祖国さんも妹さんもセーラちゃんが大好きなのよ」
実際に二人はセーラが生まれた頃から共にいる。そして何かと世話も焼いてきてきた。イギリスも彼女には素直だったのだ。
そのことを思い出してだ。セーラは今こう言うのだった。
「私を。いつもでしたね」
「私もよ。祖国さんには物心ついた時から優しくしてもらったわ」
「お母様もだったのですね」
「代々の女王がね。祖国さんには助けてもらってるわ」
「そして私もですか」
「そうなるわ。そして祖国さんはね」
彼、イギリスはどうかともいう話になる。
「そのことを喜びに思ってもね」
「それでもなのですね」
「苦しいとか負担には思わないのよ」
イギリス妹もそれは同じだ。
「私達の為なら本当に命を賭けてくれるわ」
「そうした方々なのですね」
「持つべきものは祖国よ」
こうまで言うエルザだった。その顔を微笑まさせて。
そのうえでセーラにこんなことも話した。
「私達は確かに今とても辛いわ」
「はい」
「敵は枢軸国だけじゃないし」
言うまでもなく同盟相手である筈の他の連合国の面々だ。彼等はエイリスの衰退を心から願い植民地の独立を歓迎し続けている。
「しかも東方はもうね」
「全て失われてしまいました」
「永遠にね」
独立されてしまった。もう二度とエイリスの手には戻らない。
「総合的な国力は」
「開戦前の三割程度です」
最早世界帝国ではなくなっていた。とにかく東方を全て失ってしまったことはエイリスにとって致命傷だった。
「アフリカだけです」
「そうなってしまったわね」
「はい」
セーラは沈痛な面持ちで母に話す。
「最早」
「そうね。けれどね」
「祖国殿に妹殿がですね」
「いてくれるわ。何があってもね」
彼等は決してセーラ達の傍を離れないというのだ。
「だから絶望しないで。あの人達がいてくれるから」
「私は一人ではないのですね」
「私もいるしマリーちゃんもいるわ」
家族だ。セーラには温かい家族もいるのだ。
「ロレンス提督とモンゴメリー提督もね」
「そうですね。私には」
「セーラちゃんって放っておけないのよ」
エルザは今度はセーラ自身のことを話した。
「生真面目で努力家で裏表がなくて」
「私は女王ですから」
だからだと言うセーラだった。
「女王として相応しくあらねば」
「そう言って子供の頃から頑張ってきたわね」
「人は努力をしなくては成長できません」
とにかく生粋の努力家なのだ。それがセーラなのだ。
「ですから絶対に」
「努力は怠れない。口癖ね」
「そしてその努力もです」
「結果を出してこそっていうのね」
「はい、そうです」
やはり生真面目に言うセーラだった。
「ですから私は」
「本当に頑張り屋さんね。そのセーラちゃんだからね」
だからだと言うエルザだった。
「祖国さんも皆もね」
「助けてくれるのですか」
「セーラちゃんの人徳よ」
こうまで言うエルザだった。
「皆助けないではいられないのよ」
「有り難いことです」
セーラは母の言葉に穏やかな顔になる。港のモニターには銀河が映っている。
その銀河の下においてセーラはは微笑んで言うのだ。
「非常に」
「そうでしょ。だからね」
「だからとは?」
「少しは。肩の力を抜いてね」
ここでこうも言うエルザだった。
「頑張ってね」
「肩の力を抜いて、ですか」
「セーラちゃんは息抜きは下手だから」
つい頑張り過ぎてしまうというのだ。セーラは。
「だから。少し位はね」
「休むことも必要だと」
「そういうこと。私達もいるから」
「だからですか」
「休む時は休んで。任せられるお仕事はね」
「お母様達が」
「引き受けるから。安心してね」
娘を気遣っての言葉だった。顔は綻んでいるがそうした顔だった。
「今はね」
「有り難うございます。何から何まで」
「だから他人行儀はなしよ。親娘じゃない」
しっかり者の娘に楽天的な母である。
「背中は母さんが守ってくれるから」
「では私は」
「そう。前を向いていてね、周りは皆が守るから」
「そうしてくれるのですね」
「その通りよ。じゃあ王宮に戻ったらね」
「すぐに議会に出席して」
「五月蝿い貴族達は任せてね」
エイリスの頭痛の種になっている。貴族院の貴族達は自分達の特権を守ることだけに執着している利己的な者達となっているのだ。
その特権を守る為に女王であるセーラへの反発を隠そうともしない。そしてセーラは生真面目な性格故にその彼等に正面から話しているのだ。
しかしこうした連中は何かと難癖を言うものだ。エルザはその彼等のことは自分に任せろというのである。
「私はああいう連中は得意だから」
「そういえばお母様は昔から」
「議会対策には自信があるわ」
実際にそうだと言うエルザだった。
「だからそっちは任せてね」
「では」
「ええ、そういうことでね」
議会の話もした。そうしてだった。
セーラはエルザと共に王宮に戻った。そして彼女を愛する者達の助けを借りて未曾有の国難に向かうのだった。
太平洋軍に解放されたアラビアも独立することになった。その中で。
東郷の前に出たゴローンはこんなことを話していた。
「あんた日本人だよな」
「見ての通りだ」
東郷はゴローンにも同じ口調である。
「日本海軍の軍人だ」
「そうだな。実は俺はな」
「話は聞いている。魔術師だな」
「違う。俺の趣味だ」
「趣味?」
「俺は日本のアニメやゲームが大好きなんだよ」
東郷にもこう話す。当然ここには日本達もいる。
「それこそ大好きなんだよ」
「そうか。それはいいことだな」
「いいことだって思うんだな、あんたも」
「当然だ。アニメもゲームも素晴らしい文化だ」
東郷はこうした方面でも柔軟な考えの持ち主だった。それ故の言葉だ。
「だからな。そういうものに親しんでくれているのはな」
「いいっていうんだな」
「それであんた今の仕事は」
「先祖の遺産で好きに暮らしている」
つまり金持ちのニートだというのだ。
「日本の文化に親しんでディレッタントに過ごしている」
「つまり働きもせずに遊んでばかりです」
兄の横から妹が言ってくる。
「折角この体格に魔術を持っているのに」
「いいだろ?金はあるんだぞ」
「はい。それはそうですが」
妹は兄にも言い返す。
「どうにも。不健康な気が」
「だからそう言うな。俺は誰にも迷惑はかけていないんだ」
「暴力も振るわないのはいいことだけれど」
「俺がそんなことするか。というか興味はそっちだ」
「ヲタク文化にこそ」
「サイトも荒らさないし違法ダウンロードもしない」
そういうこともしないというのだ。
「悪いことはしていないぞ」
「しかし魔術師として収入を得ると違うわよ」
「興味がないな。そうしたことにはな」
「せめておもちゃやゲーム代は入るけれど」
「ふむ」
二人のやり取りを目の前で聞いてだ。東郷は少し考える顔になった。
そのうえでだ。こうゴローンに言った。
「あんた、よかったらな」
「よかったら。何だ?」
「趣味の金は充分足りる。食費も服代もかからない」
「どれも足りているが」
「まあ聞いてくれ。日本の秋葉原にも行き放題だ」
「!?」
秋葉原行き放題と聞いてゴローンの眉がぴくりと動いた。そして東郷もそれを見逃さずすかさず言うのだった。
「だからだ。日本軍、太平洋軍に入らないか」
「秋葉原行き放題だと?」
「ああ、そうだ」
その通りだというのだ。
「時間さえあればな」
「そうか。秋葉原か」
ヲタク文化の中心だ。彼にとってはまさにメッカだ。
そこに行き放題と聞いてだ。ゴローンはすぐにこう東郷に言った。
「わかった。それならな」
「来てくれるか」
「是非共な」
「これで私も一安心です」
パルマもほっとした顔になっていた。
「兄さんもニート卒業ですね」
「おい、そう言うのか?」
「実際にそうですよね」
「それが兄に言う言葉かよ」
「兄さんだからよ」
パルマの方が強かった。それもかなり。
「あえて言うのよ」
「兄のことを思ってっていうのかよ」
「この場合階級は何なの?」
「中将になる」
東郷がパルマに答える。
「提督だ」
「かなりの地位だしいいと思うわ」
「俺にとってはいいこと尽くめか」
「そうよ。だからいいと思うわ」
パルマは金銭的な問題ではなく兄に仕事が来たということ自体をいいことと考えていた。何はともあれゴローンは提督となった。だが、だった。
秋山はふと気付いたことがあった。そしてその気付いたことをゴローンに問うた。
「ところで君は」
「ああ、何だ?」
「魔術師なのはわかったが」
それはだというのだ。
「しかし艦隊を指揮したことは」
「ああ、ない」
ゴローンは秋山の問いにはっきりと答えた。
「そうしたことはな」
「やはりないか」
「魔術で艦隊は出せるが艦隊は指揮できない」
ゴローンはまた言った。
「そうした経験も全くないぞ」
「そうだろうな」
「俺はこれまでずっと家にいたからな」
そうして自分の趣味に専念していた。仕事自体と縁がなかったのだ。
「だからそうしたことは一切経験がないぞ」
「では艦隊の方は」
「安心しろ、俺にはロボットがある」
「ロボット!?」
「それに乗って一人で戦うからな」
それがあるから大丈夫だというのだ。
「何の心配もいらない」
「ロボットで戦えるのか」
「そうだ。俺が自分一人で作ったロボットだ」
「魔術でそうしたのか」
「勿論だ。だから大船に乗ったつもりでいろ」
「しかしロボットは一体だな」
「一体でも無敵だ」
ゴローンは彼以外の誰が聞いても根拠がないと断言できる断言をした。
「安心していてくれ」
「司令、ここは」
秋山は眉を顰めさせて東郷に言った。
「祖国殿の妹さんにハワイ侵攻に行ってもらって」
「彼はか」
「はい、マダガスカルまで攻略した後でインド洋方面の防衛にあt6あってもらいましょう」
「それがいいか」
「そう思います。流石に正規の艦隊でなければ」
侵攻作戦には使えないというのだ。戦力的に信頼できなく。
「そうしましょう」
「わかった。ではそうするか」
「エイリスは東方の植民地を失ったうえでドクツと戦わねばならないです」
しかもアラビアまで独立して同じ連合国のガメリカや中帝国がそれを承認してしまっている。もうエイリスが東方に進出することは不可能になっているのだ。
「最低限の治安維持戦力だけを置けばいいですから」
「それではインド洋に残す戦力は本当に少しでいいな」
「はい、四個艦隊程でもいいかと」
とにかく最低限の艦隊だけでいいだろうというのだ。
「柴神様に彼、そして他には」
「山本の爺さんか」
「おそらく山本提督のお身体では侵攻作戦は負担が大きいでしょう」
東郷も秋山も山本の健康については見極めていた。本来は軍務に就いていることすら困難だろうというのだ。
「ですからインド洋にいてもらいましょう」
「そうするか」
「はい、それでは」
こう話してだった。おおよそだがアラビア方面への抑えも決めた。かなりの戦力がガメリカ戦に投入されようとしていた。
この話からだ。次は彼女だった。
東郷はこの場にいるクリオネに顔を向けてこう言った。
「ところで」
「何?」
「君は東インド会社の社長だったな」
「見事に破産したわよ」
クリオネは東郷の問いに顔を顰めて返した。
「インドさんが独立してね」
「そうだな。しかし企業は必要だ」
「僕としても財閥が欲しいところたい」
そのインドも言ってくる。
「だからそちらさえよければだ」
「インドの経済復興の為に東インド会社を再建してくれるたいか?」
「必要とあらば資金も出せる」
「僕のところから出せるたいよ」
東郷とインドは二人でクリオネを誘う。
「条件としては提督にもなってもらうが」
「クリオネさんは艦隊指揮もできるたいからな」
「提督になったら資金援助してくれるのね」
クリオネは身を乗り出して二人に尋ねた。彼女にとって東インド会社の再建はかなり条件のいいことだった。それで無意識のうちに身を乗り出して尋ねたのだ。
「それ本当ね」
「ああ、ただしインドの企業になるがな」
「それでもいいたいな」
「そのことについては私に選択肢ないわよね」
クリオネはその表情をあえて無表情なものにさせて二人に問うた。
「捕虜なんだし」
「無論エイリスに帰ってもいいが」
「その場合はどうしてもたい」
「そうよね。確かに私はエイリス人だけれど」
生粋のだ。だがそれでもだというのだ。
「インドさんと一緒にいて長いしね」
「そうたいな。お互いによく知っているたい」
「嫌いじゃないし」
インドにはかなり愛着も出来ているのだ。これまでのことで。
「それならね」
「ではいいか。東インド会社を再建してくれるか」
「インド軍に所属してくれるたいな」
「いいわ。じゃあこれからは新東インド会社社長兼インド軍提督ね」
クリオネは微笑んで言った。その目に輝きが戻っている。
「張り切ってやらせてもらうわ」
「ああ、宜しく頼むな」
「期待しているたいよ」
「クリオネちゃんは期待に応える主義よ」
こう返すクリオネだった。だがすぐにだった。
サフランがそのクリオネに突っ込みを入れてきた。その突っ込みはというと。
「三十歳で自分をちゃん付けはかなり」
「痛いっていうの?」
「痛々しいです」
無表情での突っ込みであるから余計に鋭くきつかった。
「お止めになられるべきです」
「暫くぶりに会ったのに相変わらずきついわね」
「性分ですので。あと東インド会社の経営ですが」
「ええ。そっちでも何か言いたいの?」
「スタッフの方はどなたもインドさんのところにいらっしゃいますので」
それでだというのだ。
「すぐに来てもらえます」
「じゃあ再建も楽なのね」
「資金はインドさんが出してくれますし」
このこともあった。
「ご安心下さい」
「何か凄い好条件ね」
「国家に企業は必要です」
経済活動を行なう企業が不要である筈がなかった。ただソビエトは企業そのものの存在を完全に否定しているが。
「ですから」
「ううん、国益でもあるのね」
「そのインドの国益の為にも頑張って下さい」
「わかってるわ。それじゃあね」
「はい、提督のお仕事もありますし多忙でしょうが」
「クリオネちゃん頑張っちゃうからね」
「ですから三十歳でのちゃん付けは痛いです」
サフランの突っ込みは相変わらずだった。だがクリオネもまた太平洋軍に加わったのは確かだった。それに加えてだった。
インドはそのクリオネにあることも言ってきた。それは何かというと。
「それでたいが」
「どうしたの?今度は」
「アグニのことたいが」
「ああ、あの子も捕虜になってたわね」
「そうたい。けれど残念なことにたい」
「残念なことって?」
「提督へのスカウトを断り続けているたい」
インドはやや困った顔でクリオネに話す。
「貴重な戦力になるたいが」
「あの子はまだ子供だけれど優秀な人材よ」
クリオネが最も知っていることだった。彼を見出して育てた本人だからだ。
「艦隊指揮だってね」
「できるたいな、それもかなり」
「インド軍には必要な人材ね」
クリオネはもうインドの人間になっていた。気持ちは完全に切り替えていた。
「政治面でも働いてくれるし」
「僕もそう思うたいが」
「それでもだっていうのね」
「提督へのスカウトに従ってくれないたい」
インドの顔はやや困ったもののままだった。
「大変たい。けれどたい」
「言いたいことはわかるわ。私に説得して欲しいのね」
「アグニはクリオネさんに育ててもらったたい」
クリオネが言うことはこのことだった。
「だからクリオネさんの言うことは絶対に聞くたい」
「わかったわ。じゃあすぐにね」
「アグニのところに行ってくれるたいか」
「お話してみるわ。じゃあ早速ね」
「宜しく頼むたい」
こう話してだ。そのうえだった。
クリオネは東郷、そしてインド達と共にアグニのいる部屋に入った。アグニはクリオネの姿を見てすぐに顔色を変えた。
「クリオネさん、ご無事だったんですか?」
「ええ、それで今はインド軍にいるのよ」
「インド軍に参加されたんですか」
「新東インド会社社長と兼任でね」
インド軍の提督になったというのだ。
「返り咲いた形になったわ」
「そうなんですか。おめでとうございます」
「有り難う。それでね」
クリオネは微笑みと共にアグニにさらに言う。
「これからのことだけれど」
「はい。社長として経営にあたられるんですよね」
「スタッフも戻ってきてくれるわ。けれどね」
「けれど?」
「もう一人戻って来て欲しい人がいるのよ」
クリオネはアグニのその目を見ながら笑顔で話す。
「それはね」
「若しかしてその人は」
「ええ、そうしてくれるかしら」
こう言ったのである。
「新東インド会社、インド軍に参加してくれるかしら」
「はい、わかりました」
アグニはクリオネの言葉に快諾で応えた。
「喜んで」
「そういうことでね。これからも宜しくね」
クリオネは笑顔でそのアグニに応えた。クリオネは早速インドの為に仕事を果たした。
インドもこのことには満足した。しかしクリオネの経営についてはこう言った。
「クリオネさんひょっとしてたいが」
「?どうかしたの?」
「算盤とか使わないたいか?」
「算盤?日本の?」
「つまり計算して資金投資とかはしないたいか?」
「そういうのはスタッフに任せてるけれど」
実はクリオネは資金投資の際その額はかなりあやふやだったのだ。
「それが悪いの?」
「そうたいか。クリオネさんは資金投資の額は自分で決めない方がいいたいな」
早速多角化経営を復活させ順調に再スタートを切っているがそれでもだったのだ。
「財政間隔が今一たい」
「そうかしら」
「そうたい。そこは気をつけて欲しいたい」
こうした話もちらりとしたのだった。何はともあれクリオネは会社社長に返り咲きアグニも太平洋軍に加わった。太平洋軍はまた戦力を得た。
東郷はこの状況でさらに言った。その言うこととは。
「後はな」
「あの方ですか」
「ああ、ネルソン提督だ」
こう日本に対して言う。
「あの騎士提督殿にも声をかけよう」
「しかしあの方は」
「エイリス軍の騎士提督だな」
「エイリス女王、そしてイギリスさんへの忠誠は絶対のものがあります」
日本もそのことはよくわかっていた。非常に。
「まさに騎士です」
「そうだな。しかしだ」
「しかし、ですか」
「捕虜になった軍人は捕虜にした国の軍に加わる」
この世界での暗黙の了解だ。
「このことがあるからな」
「だからだというのですね」
「ああ、声をかけてみよう」
「そうされますか」
「日本軍に入らなくてもいい」
東郷もそこにはこだわらなかった。
「太平洋軍に入ればな」
「ではインド軍にでしょうか」
「それでもいい。太平洋軍に入るのならな」
東郷はかなり柔軟に考えていた。
「ではネルソン提督と話をしてみるか」
「それでは」
東郷と日本で話が決まろうとしていた。しかしだった。
その二人のところに柴神が来た。そのうえで二人にこう言ってきた。
「私に考えがある」
「といいますと」
「どういったものですか?」
「うむ。彼に帝と会ってもらおう」
そうしてみてはどうかというのだ。
「そのうえでだ」
「日本のこと、太平洋のことを知ってもらい」
「そして考えてもらうのですか」
「ただ話すだけではネルソン提督は絶対に頷かない」
柴神もそう読んでいた。ネルソンのことは聞いていたのだ。
「だからだ。そうしよう」
「そうですね。確かに」
日本が柴神の言葉に頷いて述べた。
「ネルソン提督はそう簡単には」
「太平洋軍には入らないな」
「普通にお話されてもこれまで通り捕虜になられたままっか本国への帰還を望まれるでしょう」
セーラ、そして祖国への絶対の忠誠故にだ。そうするというのだ。
「ですから」
「ここはまずはだ」
「帝にお会いしてもらうのですね」
「そうするとしよう」
「わかりました。それでは」
日本も頷く。そしてだった。
東郷も納得した顔で柴神に述べた。
「俺もそれでいいと思います」
「司令もそう思うか」
「エイリス軍人の忠誠心は我が軍に勝るとも劣りません」
まさに騎士だった。エイリス軍は騎士そのものだった。
「そう簡単に言っても」
「こちらに加わってくれることはあまり期待できない」
「だからこそですね」
「帝と会ってもらおう」
「そしてさらにですね」
「今の太平洋も見てもらう」
経済圏を築いたばかりのその世界をだというのだ。
「そうしてもらおう」
「ではその様に」
東郷も柴神の言葉に応えた。そうしてだった。
彼等は早速ネルソンがいる部屋に入った。捕虜であるが提督、かなりの地位にある者なのでそこは貴賓用の部屋だった。
そこに入ってだ。柴神がまず言った。
「いいだろうか」
「貴方は確か」
「私のことは知ってくれているか」
「日本に犬の頭を持つ神がいるとは聞いています」
「そうだ。そしてそれがだ」
「貴方なのですね」
「柴神という」
柴神はネルソンに対して名乗った。
「以後宜しくな」
「こちらこそ。それでなのですが」
ネルソンは柴神と共にいる東郷と日本も見て言った。
「こちらの方々は」
「言うこともないと思うが」
「日本海軍長官東郷毅元帥、そして」
「日本です」
日本は姿勢を正してネルソンに答えた。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ。それでは」
「はい、それでこちらに来られた理由は」
「貴方に来て頂きたいところがあります」
日本からネルソンに言った。
「宜しいでしょうか」
「私に一体何処に」
「帝の御前に」
そこに来て欲しいとだ。日本ははっきいりとネルソンに述べた。
「そうして頂けるでしょうか」
「日本の帝に」
「そして帝のお話を聞いて頂ければ」
日本は彼独自の会話の間でネルソンに話していく。
「そうして頂けますか」
「そうですね」
ネルソンは日本の言葉に考える顔になった。それからだった。
その考える顔でだ。こう答えた。
「それでは」
「来て頂けますか」
「お話は聞かせて頂きます」
ネルソンは心の盾を構えた上で日本に答えた。
「そうさせて頂きます」
「はい、それでは」
こうして話は整った。東郷達はネルソンを帝がいる日本の皇居に案内することにした。そしてその頃だった。
アイスランドが戦艦の艦橋でこうアルビルダに言った。
「今から」
「うむ、太平洋に入るぞ」
アルビルダは不敵な笑みでアイスランドに答える。
「そうするとしよう。アイスランド船長」
「僕が船長だったの」
「そうだ。今気付いたのか?」
「初耳だけれど」
アイスランドはぽつりとした口調でアルビルダに答える。
「本当に」
「そうだったのだ。ところでだ」
「ところで。何かな」
「私の祖国は正式には何処になるのだ?」
仁王立ちをしながらの言葉だった。
「北欧連合の中のどの国なのだ?」
「多分兄さん」
アイスランドはこうアルビルダに答えた。
「そうなる」
「ノルウェー氏か」
「そうなる。多分だけれど」
「デンマーク氏かと思ったが」
「多分違うから」
アイスランドはぽつぽつとした口調でアルビルダに答え続ける。
「その辺りは」
「そうだったのか」
「王女さんの服装は兄さんのところのだから」
「そういえばそうだったな」
「そう。多分王女さんの祖国は兄さん」
そうなるというのだ。
「そうなる」
「ううむ。はじめて知ったぞ」
「僕も確信はないから」
「スウェーデン氏ではないか」
「服装が少し違うから」
だからそれもないというのだ。
「とはいっても同じだけれど」
「そうだ。北欧は連合王国なのだ」
「だから祖国というと」
「北欧の五国なのだな」
「うん、そうなると思う」
アイスランドはこうアルビルダに話す。
「僕達五人。あと若しかしたら」
「若しかしたら?」
「シーランド」
この国の名前が出て来た。
「あの子も」
「シーランド?それは誰なのだ」
「エイリスから何時の間にか独立していた国」
それがシーランドだというのだ。
「僕とエイリスの間に適当にある人工惑星の国」
「そんな国があったのか」
「気付いたらあった」
本当に気付いたらだったというのだ。
「とりあえず元気がいい」
「ううむ、一度会ってみたいのだ」
「イギリスは手を焼いている」
勝手に独立されてしかも言うことを聞かないからだ。イギリスにとっては彼のことも頭の痛い問題なのだ。
「戦争中なので手を回せないけれど」
「そういう奴もいるのか」
「そう。それで」
「うむ、太平洋だな」
「何処を攻める」
「アラビアだ」
そこを攻めるというのだ。
「アラビアの財宝を狙う!いいな!」
「了解」
アイスランドはアルビルダの命令に淡々と応えた。
「じゃあ今から」
「行くのだ祖国の一人!」
アイスランドもその中に入った。
「宇宙海賊、バイキングとして活躍するのだ!」
「戦争じゃなくても戦うのがバイキング」
「その通りなのだ!」
こう言ってそのバイキング活動に入るのだった。そしてこのアラビアでのことが彼女の運命を大きく変えることになる。そのことはまだ誰も気付いてはいないが。
TURN48 完
2012・8・18
日本帝国も着実に捕虜を提督に採用していっているな。
美姫 「当初の人手不足はまだ完全とはいかないまでもかなり改善されてきているわね」
だな。まあ、肝心の艦の方がまだそこまで数が揃っているか不安な所だが。
美姫 「これによって、これからの戦略がどうなるかよね」
そんな気になる次回は。
美姫 「この後すぐ!」