『ヘタリア大帝国』




                    王女アルビルダ

 インドカレー、そしてインド全域を解放した太平洋軍はアラビアにも攻め込む用意を進めていた。だがその時にだ。
 各国で噂になっていることがあった。それは。
 レーティアはグレシアからその報告を聞いていた。そのうえで難しい顔になってこうグレシアに対して言葉を返した。
「こうした時に出て来るとはな」
「厄介だっていうのね」
「バルバロッサ作戦の準備は順調だがな」
「けれどよね」
「そうだ。煩わしいことは今は特にな」
「来て欲しくないわね」
「宇宙災害もそうだがな」
 つまりそれは宇宙怪獣と同じ様なものだというのだ。
「出来ればな」
「起こって欲しくないのね」
「心からそう思う」
 こうも言うレーティアだった。
「実にな」
「そうね。どうやらエイリスでは問題になっている様だけれど」
「エイリスではか」
「そうよ。今はね」
「エイリスが困るのはいいことだがな」
 それはいいというのだ。エイリスがそうなることはだ。 
 だがそれでもだとだ。レーティアはこうも言った。
「我が国に来るとなると」
「作戦準備に支障が出るから」
「心から来て欲しくない」
 そう思うというのだ。
「本当にな」
「ええ。それでその宇宙海賊だけれど」
「身元はわかるか」
「いいえ。ただね」
「ただ?」
「どうも北欧連合王国の残党みたいね」
 グレシアはこの国家の名前をここで出した。
「私達が併合した、ね」
「あの国の残党か?」
「残党は残党でもね」
 どうかというのだ。
「海賊よ」
「それであることは間違いないか」
「多分私達が出兵した時に逃れた」
「アルビルダ王女か」
「あの娘が暴れているみたいね」
「いい加減落ち着いてはどうか思うが」
 占領した国の王女だがこうも言うレーティアだった。
「それでもな。そうしてくるのならな」
「若しドクツに出て来たならばね」
「征伐する」
 海賊としてだというのだ。
「そうする。容赦なくな」
「宇宙海賊を許していては大変だからよね」
「その通りだ。国家の治安は守らなければならない」
 これは絶対だというのだ。
「それを乱す海賊達には容赦しない」
「そういうことね。それじゃあね」
「今はだ」
 どうするかというのだった。
「一応宇宙海賊が何時何処に出てもいいようにしよう」
「その際には、ね」
「首都ベルリンに予備兵力を置く」
「そしてその指揮官は誰かしら」
「私だ」
 彼女自身だというのだ。
「私自身が行こう」
「また凄いことを言うわね」
「いや、今殆どの戦力をソビエトとの国境に集結させている」
 これは本当のことだった。
「そしてだ」
「さらにだというのね」
「そうだ。今ベルリンにいる艦隊を率いることができる者はだ」
「貴女しかいない」
「親衛隊もソビエトとの国境に送った」
 彼等も既にそうしていた。
「それならばだ」
「私が行ってもいいけれど」 
 グレシアはレーティアも想像していなかったことを言ってきた。
「そうしてもいいけれど」
「グレシアは艦隊指揮をできたのか」
「一応はね」
「初耳だが」
 レーティアは目を丸くさせてグレシアに返した。
「そうしたことは」
「そうでしょうね。私も最近身に着けたから」
「教わったのか」
「勉強したのよ。これでも軍服を着てるから」
 制服だがそう言っていいものだった。
「だからね」
「しかしそれではだ」
「指揮が限られているというのね」
「そうではないのか」
「大丈夫よ。ちゃんとね」
 どうかというのだ。
「一隻は指揮できるから」
「後はそこに祖国君の愛を注げば」
「ええ。全然違う筈よ」
「そうなるのか。グレシアも戦えるか」
「その時は任せてくれるかしら」
「いや、正直その状況は有り難いが」
 貴重な戦力であることは確かだ。ドクツにとって。
 だがそれでもだとだ。レーティアはグレシアに対して言う。
「グレシアは初陣になる。初陣が一番危ない」
「じゃあやっぱり」
「私も出る」
 海賊が出て来たその時はだというのだ。
「共に戦おう」
「私と貴女で」
「その時はな。それでだが」
 海賊の話からだ。レーティアは今後の戦略の話もした。
「この戦いの後だが」
「バルバロッサ作戦の後ね」
「それが終わればだが」
「アシカ作戦をもう一度するのね」
「ロンドンさえ陥落させればエイリスの残っている植民地も手に入る」
「それは大きいわね」
「どうもだ。日本が予想以上だ」 
 レーティアはここで自分の口元に手を当てて述べた。
「予想以上に強い」
「まさかインドまで独立させるとはね」
「おそらくアラビアもマダガスカルも占領するだろう」
 つまりインド洋全般を解放するだろうというのだ。
「そうなればだ」
「ガメリカにも勝利を収めるわね」
「ガメリカ、それに中帝国を屈服させればだ」
 その可能性は高いだろうとだ。レーティアは内心思いだしていた。
「太平洋経済圏が完成する」
「人類の半分以上がいる巨大な経済圏ね」
「おそらく中南米も併合していくだろう」
 そこもだというのだ。
「その国とだ」
「ソビエト、エイリスを倒したならばね」
「戦うことになるかも知れない」
「一応私達は欧州の覇権を考えているけれど」
「目指すは世界の統一だ」
 ドクツの主導によるだ。それだというのだ。
「その為にはだ」
「太平洋経済圏と戦うことも」
「その中心にいる日本ともだ」 
 レーティアは先の先も見ていた。そのうえでの言葉だった。
「戦うことになるだろうな」
「極東の龍から太平洋の覇者になろうとしているわね」
「既にインド洋は手中に収めた」
 それはだというのだ。
「それならばだ」
「将来の我が国にとっての大きな脅威になるわね」
「我々はドクツにソビエト、エイリス、それにイタリンがある」
 この四国とその旧領土が軸になるというのだ。
「そして太平洋はだ」
「日米中ね」
「インドに。マダガスカルに逃れたオフランスだな」
 この五国だというのだ。太平洋側にいると予想されるのは。
「しかしそれでもだ」
「勝てるわね」
「自信はある。必ずドクツが世界を統一する」
 レーティアは確信と共に言い切る。
「私が祖国君と国民達を導く」
「その栄光の場所にね」
「それが私の義務なのだから」
 こう話してだった。レーティアはこれからのことも見ていた。
 ドクツも戦いの準備に再び入っていた。その中でだ。
 ヒムラーjは暗室の中にいた。その部屋の中はまるで闇しかない様だった。そこには闇以外には何も見えない。
 ヒムラーはその闇の中に浮かんでいる様に見える。その彼にだ。
 怪しい暗黒の色のフードを被った者達が前に来てそのうえで言ってきた。
「見つけました」
「やはりありました」
「この北欧にです」
「眠っていました」
「そうか。予想通りだな」
 そう聞いてこう彼等に返したヒムラーだった。
「それは」
「はい、そうですね」
「古代の文献にあった通りです」
「この北欧にあれが眠っていました」
「あの大怪獣が」
 フードの者達も言う。
「それならばですね」
「すぐにあの大怪獣を掘り起こし」
「東部戦線に持って行きますか」
「そうしますか?」
「ははは、馬鹿を言ったらいけないよ」
 ヒムラーは軽く笑ってフードの者達に答えた、
「何でそんなことをするんだい?」
「ソビエトとの戦いに使うのではないのですか?」
「その為に掘り起こしたのでは」
「違うのですか」
「俺はドクツの人間じゃないさ」
 既にそうなっているというのだ。
「わかるよな。それは」
「はい、今や我等の法皇です」
「そうなられています」
「そう。俺はこの教団の主なんだ」
 それが今の彼だというのだ。ノイツィヒ=ヒムラーだと。
「ドクツの人間じゃないさ」
「だからこそですか」
「あれはドクツの為には使わない」
「そう仰るのですか」
「如何にも」
 ヒムラーは得意げに返す。
「その通りさ」
「ではあの大怪獣は、ですか」
「今はそのままですか」
「使わずに置いておく」
「眠らせておきますか」
「ドクツが勝てばそれでよし」
 ヒムラーは第三者の目で語る。
「そしてソビエトが勝ったとしても」
「それはそれで、ですか」
「いいのですね」
「その通り。俺はドクツの人間でもソビエトの人間でもないからね」
 それ故にだというのだ。
「何が起こっても平気さ」
「我等の教団が健在ならばですね」
「それで」
「まあ。あの娘がいてもいなくてもドクツを乗っ取るつもりだし」
 暗室の中だからこそ本音を言うヒムラーだった。それはかつての親友のロンメルすら見たことのない顔だった。
「カテーリンというお嬢ちゃんにしてもね」
「相当な娘だと聞いていますが」
「極めて厳格かつ苛烈な」
「何、俺にはこれがあるさ」
 ヒムラーはここでは己の両手をそれぞれの手でさすった。手袋で包まれているその手を。
「だから大丈夫さ」
「その中にあるもので」
「全てを動かされますか」
「そうさ。俺をどうか出来る奴はいないさ」
 表情は軽薄な感じだが声には得体の知れない不気味さがあった。
「じゃあ。とりあえずあれは」
「はい、今派ですか」
「そのままにしておく」
「しかし何時でも出せるようにはしておこう」
 この処置はしておくというのだ。
「いざという時にね」
「ではその様に」
「備えておきましょう」
「さて。親衛隊の皆には」
 表向きの彼の部下達だ。レーティアに絶対の忠誠を誓っている。
「表の俺と共に働いてもらおうか」
「誰一人法皇のことには気付いていませんね」
「親衛隊の誰もが」
「ははは、ロンメルや宣伝相はおろかあの娘も気付かないんだ」
 レーティア、直感も恐ろしいまでに鋭い彼女すらもだというのだ。
「それならばね」
「親衛隊には気付かれない」
「誰一人として」
 フードの者達も言っていく。
「所詮は只のアイドルファンですか」
「それに過ぎませんか」
「その通り。彼等は純粋で無邪気なだけだよ」 
 それが親衛隊だというのだ。
「その彼等に軍事訓練を施しはしたがね」
「しかし本来は只のファンに過ぎない」
「表の存在でしかありませんか」
「そもそも彼等は俺にではなくあの娘に忠誠を誓っているしね」
 彼等にとってヒムラーはあくまで自分達のリーダーでしかない。その忠誠の対象はレーティアなのだ。
「あの背も胸も小さいお嬢ちゃんにね」
「総統は閣下のお好みではないですか」
「他のタイプがお好きなのですね」
「ああ、もっと大人で胸があって」
 ヒムラーは軽く自分の好みもこの暗室の中で話す。
「背が高い娘が好きなんだよ」
「総統とは正反対のですね」
「そうした女性がですか」
「何処がいいのかさえわからないね」 
 レーティアに対してこうも言う。
「あんな貧弱な身体には何の魅力も感じない」
「ではやがては」
「そうした女性を見つけられますか」
「手頃な愛人も手に入れるとしようかな」 
 ここでも軽薄だが妙に邪なものを漂わせて言うヒムラーだった。
「そうしようか」
「ですか」
「うん。まあ今は俺はこの着任先でいるさ」
「やがて東部戦線へ向かうことになるかと」
「その時は精々頑張らさせてもらうか」
 ドクツの命運を賭けた戦いもヒムラーにとってはどうでもいいことだった。だからこそこう言えたのである。
「俺の表の姿を見せ付ける為にね」
「では我等は闇の中に」
「潜んでいます」
 フードの者達はこう言って闇の中に消えた。一人残った若き闇の法皇は楽しげに不気味な笑みを浮かべていた。
 クリオネはイギリス、そしてネルソンをある場所に連れて来ていた。そこはアラビアの奥地だった。
 そこに来てからイギリスは周りを見回してクリオネに言った。
「なあ、ここはな」
「何処かというんですね」
「岩山しかねえじゃねえか」
 草木は一本もない、そして生き物の影もなかった。
「こんな場所に誰がいるんだよ」
「それがネットで検索してみると」
「いるってか」
「その魔術師がです」
 彼がいるというのだ。
「いるとか」
「ネットでの噂だよな」
 イギリスは不安に満ちた顔になってクリオネに問うた。
「だよな」
「はい、そうです」
「大丈夫なのかよ」
 イギリスは今心の奥底から不安を感じていた。それが言葉になってそのままクリオネに対して述べていた。
「ガセとかじゃないのか?」
「多分大丈夫です」
「多分かよ」
 見ればクリオネもあまり自信がありそうではない。
「本当に誰かいるんだろうな」
「ネットでの情報によれば」
「凄く不安だな」
「けれどほら」
「ほら?」
「あそこに宮殿があります」
 アラビア風の丸いアーチのある宮殿がそこにあった。
「おそらくあの宮殿にです」
「その魔術師がいるんだな」
「はい、ネットの情報は正しかったんですよ」
「ガセの可能性も高かったがな」
「実際に存在していて何よりです」
 ネルソンもほっとしていた。魔術師が本当にあるとわかって。そのうえで二人に対してこう言ったのだった。
「ではあの宮殿にです」
「ああ、今からな」
「入りましょう」
 イギリスとクリオネもネルソンの言葉に応える。そうしてだった。
 宮殿に入るとそこはやはりアラビアの文化があった。複雑なアラベスク模様の絨毯に白い壁がある。模様があちこちに飾られている。
 その宮殿の中に入るとすぐに一人の少女が三人の前に現れた。
 黒い波うつ髪にオパールの輝きの目を持つ小柄な少女だ。表情は利発そうでしっかりとしたものを感じる。
 服は紫のヴェールを帽子の様にかけたアラビア風のものでありやや褐色の腹が見える。スカートはその紫に赤、白、黒という配色で金色の鎖の装飾がある。ヴェールの中の髪は肩の長さで切り揃えられている。
 その彼女が来てこうイギリス達に尋ねてきたのだ。
「どなたでしょうか」
「ああ、俺はイギリスだよ」
 まずはイギリスが名乗った。
「エイリスの中の一国だよ」
「ああ、貴方がイギリスさんですか」
 少女はイギリスの名乗りを受けて納得した様に応えた。
「お話は常々伺っています」
「いい意味でか?悪い意味でか?」
「お料理の方は悪い意味で」
「ここでも俺の料理は評判悪いのかよ」
「最悪と聞いていますが」
「ったくよ。何でそんなに有名なんだよ」
 イギリスはうんざりとした顔で述べる。
「ったくよ」
「それでそちらの方々は」
「ヴィクトリー=ネルソンです」
「クリオネ=アルメインよ」
 二人はそれぞれ少女に答える。
「どうぞお見知り置きを」
「宜しくね」
「エイリスの中でも名士の方々ですね」
 少女は二人の名乗りを受けて述べた。
「その方々が来られた理由は」
「ここに魔法使いがいるって聞いたんだけれどな」
 イギリスが言う。
「あんたかい?その魔法使いっていうのは」
「いえ、私は魔法は使えません」 
 それはできないとだ。少女はすぐにイギリスに答えた。
「そうしたことは」
「あれっ、あんたじゃねえのかよ」
「それは兄ですね」
 少女はイギリスにこう答えた。
「兄のゴローン=エウンドラです」
「ゴローン?」
「そうです。兄は無職ですが魔術師なのです」
「無職かよ」
「日本のヲタク文化が大好きで常に自分の部屋の中で萌えとか騒いでいます」
「引きこもりなんだな」
「はい、そうです」
 それが少女の兄だというのだ。魔術師でもある。
「我が家は代々魔術師として様々なことをしてきて財産はあるので生活には困ってはいませんが」
「兄貴がニートか」
「その通りです」
「で、その兄貴何処だよ」
「お会いになられますか?」
「その為に来たからな」
 イギリスは少女にこう答えた。
「そのゴローンさんとかいう人にな」
「わかりました。では案内しますね」
「頼むな。ところであんたの名前だけれどな」
「私の名前はハルマといいます」
 少女はここで名乗った。
「ハルマ=エウンドラです」
「ハルマさんっていうんだな」
「はい、ハルマとお呼び下さい」 
 その少女ハルマはイギリスに礼儀正しく述べる。
「以後お見知りおきを」
「こちらこそな。それじゃあな」
「jはい。案内致します」
 こうしてイギリス達はハルマに案内されて宮殿の中に入った。そしてある部屋の扉の前に来るとその扉の向こうから野太い声が聞こえてきた。
「うおおおおおおおお!萌えだああああああーーーーーーーーーっ!」
「今の声の主がだよな」
「はい、兄です」
 ハルマはイギリスの問いに淡々と答える。
「兄の声です」
「何か自分の世界に浸ってるみたいだな」
「パソコンでゲームをしているかアニメを観ているか」
「どっちにしてもヲタクなんだな」
「同人誌等も好きです」
 誰がどう見てもそうだった。
「そうしたものに日々囲まれています」
「生活には困ってないからか」
「兄の趣味には口出ししないことにしています」
 こうも言うハルマだった。
「別に誰かに迷惑をかけている訳でもないですから」
「ただ騒ぐだけか」
「それだけです」
 そうだというのだ。
「特に害はないので」
「そうか。じゃあまずはな」
「兄にですね」
「部屋に入ってもいいよな」
「兄はそうしたことで怒ったりはしません」
 そうした意味では寛容だというのだ。
「では今から」
「ああ、部屋を開けてくれるか」
「では」
 ハルマが部屋の扉を開け三人はその中に入る。するとそこには天幕のベッドの上に胡坐をかいて座っている男がいた。
 アラビア風の黒い軍服を思わせる端正な服に白い布を被っている。見れば筋肉質で大柄な身体をしている。腰にはバナナがある。
 顔はいかつく目は細い。白い部分がやけに多いが中央だけが黒い長方形の目である。全体的骨ばった顔の輪郭だ。
 その彼が何か雑誌を読んでいた。彼はイギリス達に気付いてハルマに問うた。
「何だ?お客さんか?」
「はい」
 ハルマはその通りだと答える。
「お兄様にお会いしたいとか」
「俺に?それはまた珍しいな」
「お兄様が魔術師とお聞きして」
 それで会いに来たというのだ。
「来られたのです」
「そうか。イギリスさんもいるな」
 彼、ゴローン=アウンドラはまずは彼に気付いた。
「それにネルソンさんとクリオネさんか」
「俺達のことは知ってるんだな」
「有名人だからな」
 それで知っているとだ。ゴローンはエイリスに答える。
「ネットでも色々話題になってるぜ」
「そうか。じゃあ話は早いな」
「戦局まずいんだろ」
「だからあんたに力を借りたいんだよ」
 イギリスはゴローンに率直に述べた。
「あんたの魔術をな」
「また単刀直入だな」
「それだけ色々あるんだよ」
 イギリスはその色々とは何かは言わなかった。
「で、とにかくな」
「俺に力を貸して欲しい、か」
「報酬は好きなものを言ってくれ」
 イギリスは大盤振る舞いに出た。それだけ切羽詰っているからこそ。
「女王さん関連以外でな」
「ああ、あの人達以外だな」
「金でも宝物でもな」
 何でもいいと言うイギリスだった。
「好きなの言ってくれ」
「どっちもあるからな」
 ゴローンは金持ちらしい返事で返した。
「そういうのはいらないんだよ」
「あっ、そうなのか」
「好きなのはその金で買えるからな」
 これまで通り自分の趣味を満喫できるというのだ。
「そういうのはいらないな」
「じゃあ何が欲しいんだ?」
「ああ、そっちのクリオネさんな」
 ゴローンはクリオネを見て言った。
「あんたスタイルいいよな」
「これでも美容には気を使ってるのよ」
 クリオネは少しきっとなってゴローンに返した。
「運動も欠かさないしエステにサウナもね」
「努力してるんだな」
「女は三十からよ」 
 自分から年齢も言う。
「まだまだこれからなんだから」
「結構苦労してるんだな」
「悪い?会社は潰れたし散々よ」
 自分からこのことも言う。
「落ち込みまくってるわよ」
「大変だな。それであんたにな」
「私に?」
「コスプレしてもらったらいいな」
 ゴローンはそのクリオネをじっと見ながら話す。
「丁度色々服も集めてたんだよ」
「コスプレ!?」
「色々持ってるんだよ。それを着てな」
「まさか、それで」
 クリオネは雷に打たれた様な驚愕の顔になってゴローンに言い返した。その仕草もかなり引いたものになっている。
「私に着せてそれから」
「着せてみせてくれるか?」
 クリオネの危惧は彼女にとって幸いなことに外れた。ゴローンが彼女に求めたのはここまでだったのである。
「そうしてくれるか?」
「着るだけでいいの?」
「服は何の為にあるんだよ」
 これがゴローンの返事だった。
「他にないだろ」
「それはそうだけれど」
「じゃあ着てくれるか」
「それで私達に協力してくれるのね」
「魔術師は嘘吐かないんだよ」
 ゴローンは強い声で答えた。
「だから安心しろ」
「そう。それでその服は」
「これだよ」
 ゴローンは早速その服を出してきた。それはオレンジでやけに生地の面積が少ない服だった。腕は肩までしかなくスカートもかなり短かい。
 ゴローンはその服をクリオネに見せて熱く語る。
「いいだろ、日本のアニメの服だよ」
「貴方日本のヲタク文化にはまってるそうだけれど」
「日本は最高だぜ」
 一応エイリスの植民地にいるがゴローンは日本への想いを隠さない。
「こんな素晴らしいものが売ってるんだからな」
「私その日本に財産の殆どを獲られたんだけれど」
 クリオネは憮然とした顔でゴローンにこのことを話した。
「東インド会社破産したのよ」
「潰れてもまた再建すればいいだろ」
「簡単に言ってくれるわね」
「けれどその通りだよ」
「ええ。それは考えているけれどね」
 だがそれでも落ち込んでいないと言えば嘘になるのだ。今のクリオネにとっては。
「それでも落ち込んでるから」
「日本のことは言うなっていうんだな」
「そういうこと。いいわね」
「わかったさ。まあとにかくな」
 話が一段落ついてからまた言うゴローンだった。
「この服を着てくれたらな」
「その服凄い露出だけれど」
 クリオネも生地の面積の少なさを指摘する。
「大丈夫じゃないわよね」
「下着は見えるかもな」
「・・・・・・何よそれ」
 クリオネはそこまでの露出だと聞いてその憮然となった顔をさらにそうさせる。
「私の下着まで見たいっていうの!?」
「アンスコもあるぞ」
「それも貸してくれるならいいわ」
 クリオネはようやく妥協点を見出すことができた。
「穿くから」
「白だけれどいいよな」
「今日下着白だからいいわ」
 クリオネはさりげなく墓穴を掘る。自分でも気付かないうちに。
「それじゃあね」
「ああ、部屋はあるからな」
「全く。何だっていうのよ」
 クリオネの憮然とした言葉は続く。
「三十になってこんな恥ずかしい格好しないといけないなんて」
「悪いがここは我慢してくれ」
 そのクリオネにイギリスがそっと言う。
「着るだけでいいっていうからな」
「わかってます。そのことは」
「じゃあ頼むな」
「はい、それでは」
 こう話してだった。クリオネはゴローンが出してきたその服とアンダースコートを貰って別室に入った。そうしてすぐにそのオレンジの服とブーツで部屋に戻って来た。その彼女を見てだった。
 ゴローンはベッドから飛び出していきり立つ。全身を思いきり上に伸ばしてそのうえで絶叫したのである。
「うおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!萌えだあああああーーーーーーーーっ!!」
「そこで騒ぐのね」
「萌え!萌えは正義だ!」
 ゴローンは魔人の様に叫び続ける。
「よし!力が出て来たぞ!」
「じゃあ一緒に戦ってくれるのね」
「そうする!俺は約束は守る!」
 確かに変態的だがそれでもゴローンは律儀だった。だからこそ。
 彼は約束を守った。すぐにエイリス軍に加わった。
 そして銀河に出たところでだ。彼はイギリス達に宇宙港でこう言った。
「今から俺の魔術を見せる」
「ええ、見せてもらうわ」
 すぐに元の服に着替えたクリオネが応える。
「あんな恥ずかしい格好した分はね」
「任せろ。俺の魔術は凄いぞ」
 ゴローンは自身も見せる。
「そう簡単に見られない位だからな」
「そう。そこまで凄いのね」
「じゃあ早速出すな」
 こう言ってだ。ゴローンが何か念じ呪文を唱えると銀河に艦艇が出て来た。エイリスの艦艇が四個艦隊程出て来たのだ。
 それを見てだ。イギリスは唸る様にして言った。
「これがあんたの術なんだな」
「そうだ。幻の艦隊だ」
 ゴローンはそのイギリスにどうだという顔で答える。
「俺の術の一つだ」
「目くらましに使えるな」
 イギリスは幻の艦隊と聞いて最初はこう思った。
「見せ掛けの艦隊として置くか」
「この連中ちゃんと攻撃もできるからな」
 ゴローンはイギリスにこう言い加えた。
「だから安心してくれ」
「攻撃できるのかよ」
「ビームな。それでこっちはビームが効かない」
「随分都合がいい話だな」
「ある程度のビームだけれどな」
 しかし効かないのは確かだというのだ。
「好きな様に使ってくれ。それに俺もな」
「あんたも戦うんだな」
「凄いロボットがあるんだよ」
 ゴローンはにやりと笑って言う。
「あんた達が度肝を抜く位な」
「凄いのがあるんだな」
「楽しみにしておいてくれよ、そっちも」
「そうさせてもらうな。とにかくな」
 イギリスはゴローンの話を聞いてから述べた。
「有り難い戦力が加わったな」
「はい、確かに」
 そのイギリスにネルソンが答える。
「ではあらためて艦隊を出して太平洋軍を迎え撃ちましょう」
「アラビア位は守らないとな」
 イギリスも意地があった。その意地をここで見せようとしていた。アラビアでの彼は魔術師の助けも借りていた。
 そのアラビアに太平洋軍が向かう。その途中でだ。
 統合は長門の艦橋で秋山にこんなことを言っていた。
「アラビアを手に入れればな」
「やはり大きいですね」
「ああ、インドには負けるがアラビアも資源は豊富だ」
「技術投資も進めています」
「今は何世代位のものが作られる」
「第四世代のものが」
 建造可能になっているというのだ。
「そして間も無くです」
「第五世代もか」
「できます」
「ついこの前まで兵器の技術投資どころじゃなかったがな」
 だからこそ魚に頼っていたのだ。
「しかしな」
「変わりましたね、我が国も」
「そうだな。本当に変わった」
「経済圏を築けたのは大きいです」
 日本からインドまでのだというのだ。
「それを可能にする経済規模があります」
「第五世代ならガメリカの兵器にも対抗できるな」
「そうかと」
「出来れば第六世代で統一したいがな」
「ではそれを目指されますか」
「もう少し努力してな」
「では技術投資も急ぎましょう」
 実際にこう言う秋山だった。
「そしてその上で」
「第六世代の艦艇でな」
「ガメリカ艦隊に向かいましょう」
「ただしな」
 ここでこうも言う東郷だった。
「ガメリカは強いからな」
「第六世代の艦艇であっても」
「油断はできない」
 こう言うのだった。
「決してな」
「例えどれだけ優秀な兵器であっても」
「数も違うからな」
 これの問題もあった。
「注意してな」
「戦いには勝てませんか」
「とてもな。だからだ」
「油断せずそして戦力を整える」
「もう魚では限界がある」
 長い間使ってきたがそろそろだというのだ。
「交換していこう、これからはな」
「では」
「戦争は精神力だけではどうしようもない」 
 これもまた現実だった。
「兵器の質もだ」
「そして正しい運用もまた」
「何もかもが必要だ」
 これが東郷の考えだった。
「おそらくガメリカと中帝国を降せばかなり楽になるがな」
「しかしその二国をどうにかすること以外には」
「中々手はない」
 東郷は言っていく。
「ソビエトとの戦いのことも考えるとな」
「ソビエトは今は中立ですが」
「その中立を何時まで守ると思う?」
「ソビエトが落ち着くまでは」
 秋山も読んでいた。ソビエトが中立条約を守る気なぞ一切ないとだ。そのことは確信さえしている程である。
「それまででしょう」
「そうだろうな。あの国はな」
「ガメリカや中帝国以上に危険です」
 秋山はさらに言う。
「何時後ろから来るかわかりません」
「だから来る前にな」
「太平洋のことはですね」
「終わらせておきたい」
 タイムリミットもあった。ソビエト参戦までだ。
「出来るだけ早くな」
「焦らないまでもですね」
「そういうことだ。そしてだ」
「インド洋の戦いもこれで」
「あらかた終わる」
 アラビア解放でおおよそだというのだ。
「後はセーシェルとマダガスカルだが」
「オフランスとも一度干戈を交えるか」
「そうすることになりますね」
「ああ、だが後はだ」
 アラビア解放の後はどうかというのだ。
 そうした話をしてそれからこうも言う東郷だった。
「主力を太平洋に移動させよう」
「その際の防衛拠点は何処にされますか」
「インドカレーでいいだろう」
 そこだというのだ。
「あそこには修理工場もあるからな。その都度アラビアやマダガスカルに進出すればいい」
「おうして迎撃すればですね」
「それでいい。もっともエイリスは暫くは派手には動けない」
 ドクツとの戦いに主力の殆どを向けている。太平洋に対しては積極的な攻勢を仕掛ける余裕がないのだ。
「だからこそだ」
「インド洋方面にはそれ程戦力は置かないですか」
「そうだな。元老に」
 伊藤である。まず名前が出たのは。
「柴神様に山本の爺さんに」
「三人の方ですか」
「それと韓国さんに祖国さんの妹さんだな」
「最後は宇垣閣下ですか」
「そういうところだろうな」
 今ハワイ方面に備えている六人だった。
「それでいいだろう。どうも爺さんの身体はあちこちがたがきている」
 東郷はそのことを直感的に察していた。
「攻めるのに参加してもらうとな」
「本当に危ういですか」
「あの爺さんはどう思ってるか知らないが」
 統合はこう前置きしてから話す。
「天寿を全うしてもらいたい」
「出来ればですか」
「そうじゃないなら最高の死に舞台を用意したい」
「しかしそれは今ではない」
「そう思うからな。今はな」
 山本には守りに徹してもらうというのだ。
「ただ。どうもな」
「どうもとは」
「あの娘がいるな。爺さんの看護婦さんの」
「古賀ひとみさんですか」
「どうもあの娘は提督の資質がある」
 東郷の目は確かだ。人の資質はすぐに見抜くのだ。
 その彼がだ。ひとみのことをこう評したのである。
「スカウトしてみるか」
「しかしそうなりますと」
「爺さんの目付け役がいなくなるか」
「はい、その危険がありますが」
「その為の妹さんでもある」
 日本妹のことだ。
「あの人ならひとみさん位に注意してくれるからな」
「あの方はしっかりしていますね」
 日本以上にだ。妹は兄よりずっとしっかりしているのが国家の特色の一つになっている。そうなっているのだ。
「だからですか」
「そう考えているがどうだ」
「そうですね。妹さんが一緒ですと」
 秋山も日本妹のことを考えて述べる。
「いいですね」
「参謀総長もそう思うな。それではだ」
「古賀さんも提督に」
「誘ってみよう、ハワイ攻略に取り掛かる前にな」
「それでは」
 そうした話もしてだった。東郷達はエイリスが東方に持っている最後の植民地アラビアに入った。そこで遂にエイリス東洋艦隊の最後の戦いがはじまろうとしていた。


TURN46   完


                              2012・8・14



あちらこちらで色々な動きが。
美姫 「アルビルダが海賊として出没したり」
ゴローンがエイリスにスカウトされたり。
美姫 「何よりヒムラーが文献にあったものを手に入れたみたいね」
これがどのタイミングで動き出すかだな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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