『ヘタリア大帝国』




                      TURN45  サフラン=ヴェーダ

 インドが解放、独立したと聞いてだ。シュウ皇帝は重慶の仮宮に置かれている玉座の上からこう中国に言った。
「よい話だな」
「エイリスが衰えるという点では」
「これ以上いいことはない。太平洋は欧州の連中のものではない」
 太平洋の人間らしい言葉だった。実に。
「ああして排除されることは何よりだ」
「これでエイリスは世界帝国でいられなくなったある」
 中国は鋭い顔になり皇帝にこうも話した。
「確かにいいことあるな」
「うむ。そしてだ」
 皇帝はまた言った。
「日本はインドからどう動く」
「アラビアを攻略しそれから」
「スエズか?」
「マダガスカルに行く様ある」
 そちらだというのだ。
「インド洋の完全掌握を考えている様ある」
「インド洋をか」
「そのうえで」
「ガメリカに決戦を挑むつもりだな」
「既にガメリカは準備を整えているある」
 中国はさらに言った。
「ハワイに大艦隊が集結しているある」
「度々日本に攻勢を仕掛けている様だが」
「それなりに効果はあげているあるが」
 だがそれでもだった。ガメリカの攻勢は。
「あまり激しくはないある」
「あくまで本番はか」
「日本がハワイに攻め込んで」
 それからだというのだ。
「返り討ちにしてからある」
「それから一気に日本本土を目指すのだな」
「それがガメリカの戦略ある」
「成程な。一旦撃退してから反撃に移るか」
 皇帝は中国の話を聞いて考える顔になって述べた。
「ガメリカも考えているな」
「ガメリカも絶対に勝つつもりある」
「そうだな。それではだ」
 ガメリカの戦略を中国の口から聞いたうえでだ。皇帝は中国にあらためて言った。
「祖国子よ」
「ガメリカが日本をハワイで撃退した時にあるな」
「その時に一気にこの重慶から南京に攻め込め」
「わかっているある。それでは」
「妹子と一緒にな」
 彼女のことを言うのも忘れない。
「攻め込みそしてだ」
「勝つある」
「全土を奪還せよ。満州までもな」
 満州は皇帝家の故郷だ。皇帝にしても絶対に奪還しなければならない場所だった。
「よいな」
「ではその様に」
「さて。もう少しの辛抱だな」
 皇帝の今度の口調は待ちくたびれた感じだった。
「この重慶から北京に戻れるな」
「本当にもう少しあるよ」
「待たせてもらおう」
 こうした話をしながらだった。中帝国も反撃の機会を伺っていた。中国は皇帝の前を退出してから妹のところに行った。妹は自分の部屋でお茶を飲んでいた。
「兄さんどうしたあるか?」
「日本がインドを解放したことは聞いているあるな」
「うん、知っているある」
 中国妹は中華風の紅い椅子に座って茶を飲みながら兄の言葉に答えた。
「いいことあるよ。これでエイリスは世界帝国ではなくなるある」
「それ自体はいいことあるが」
「インドが太平洋軍に入るあるな」
 ここで中国妹の顔が曇った。
「そのことはまずいあるな」
「インドの国力はエイリスを世界帝国にしていた程ある」
 中国もよくわかっていた。インドの底力は。
「そのインドが日本についたある」
「ガメリカや我が国にも対抗できるあるか」
「そうなるあるな。インドは桁外れある」
 中国から見てもだった。それは。
「万歳爺も口には出されないあるが」
「警戒しているあるな」
「勝てはしないまでも」
 中国はその可能性はないと見ていた。しかし今語るそn表情は微妙なものだ。
「ハワイでも善戦するあるな」
「そうなるあるか」
「南京奪還作戦も数は多く装備も整ってきたあるが」
 ガメリカの兵器を買って中帝国軍もかなり整えては来ていた。だがそれでも中国は妹に対してこう言うのだった。
「それでもある」
「油断はできないあるな」
「日本はかなりの勢力になったある」
 今太平洋軍の主力である彼等はだというのだ。
「下手な戦いはできないある」
「では南京奪還は」
「本気で。油断せずにいくあるよ」
 中国は真剣そのものの顔で左手を拳にして動かしながら妹に話す。
「そうするあるからな」
「わかったある。しかし今はあるな」
 中国妹は兄に応えながら微妙な顔も見せて語った。
「優秀な提督が少ないある」
「リンファとランファが日本軍に入ってしまったあるからな」
「それが痛いあるよ」
「全くある。しかしある」
 中国は目を閉じて観念した様に述べた。
「それでもやるしかないある」
「言っても仕方ないことあるな」
「そうなるあるな」
 こうした話もしてだった。中国兄妹は作戦の準備に入っていた。彼等もまたインド解放を見ながら動いていた。 
 当然ながらガメリカもインド独立を承認していた。ルースはその話を受けて目の前にいる四姉妹と自分の祖国達にこう言った。
「朗報ではあるがね」
「よかったじゃないか。インドは独立できたぞ」
 アメリカはこのことを素直に喜んだ。
「日本についたのはまずいけれどな」
「ええ、独立自体はいいことよ」
 それはハンナも認める。ルースを議長席に置いてホワイトハウスの会議室において話をしている。
 ハンナはその中でアメリカンコーヒーを飲みつつこうアメリカに言った。
「エイリスの衰退はこれで確実になったわ」
「イギリスも災難だな」
「いいのよ。エイリスは所詮欧州の一国が相応しいのよ」
 ハンナは自分で勝手にこう決めていた。
「インドだけでなくね」
「やがてはアフリカもだな」
「そう。エイリスの植民地は全部なくなるのよ」
 ガメリカはそうなることを心から望んでいた。
「アジア方面は日本が解放してね」
「アフリカはどうなるんだ?」
「ドクツにやってもらうわ。ドクツはまずはソビエトを攻めるつもりらしいけれど」
「その情報は掴んでいるわ」
 ドロシーがここで言ってきた。
「バルバロッサ作戦ね」
「バルバロッサ?赤髭だな」
 アメリカはドロシーにバルバロッサと聞いてかつてドクツにいた君主の名前を出した。
「あの人の名前を使ったのか」
「バルバロッサはかつて東方に進出したわ」
「だからなんだな」
「そう。レーティア=アドルフもまた東に進出する」
 ドロシーはアメリカにこう語る。
「そのつもりね」
「ソビエトがそれで潰れるならそれに越したことはないね」
 アメリカ妹が右目をウィンクさせて明るく言う。
「正直あの国が一番厄介だしね」
「けれど。あれですよ」
 クーがそのアメリカ妹に話す。
「ドクツがソビエトの力を手に入れてアフリカまで併合したら」
「とんでもない勢力になるね」
「それもまた問題だけれど」
「色々と手を打っておこうかしら」
 クーの言葉を聞いてだ。ハンナは考える顔になって述べた。
「その頃には太平洋経済圏は確立されているけれどね」
「ドクツがソビエト、アフリカを併合するまでには」
「そうなったらエイリスも終焉を迎えているわね」
 ハンナはこうなることも指摘した。ドクツがソビエトを倒した場合は。
「アフリカ共々ね」
「だったら何とかしないと駄目でしょ」
 キャロルがそのハンナにすぐに言った。
「ドクツがとんでもない存在になるわよ」
「安心して。ソビエトとの戦いは例え短期で終わってもね」
 ドクツが勝った場合のことをだ。ハンナは話していく。
「ドクツはソビエトのあの広大な全領土の統治にあたらないといけないから」
「少なくともその地盤固めをしないと駄目なのね」
「そう。それに時間を割かなくてはいけないから」
「アフリカ侵攻は先なのね」
「さっきも言ったけれどその頃には太平洋経済圏が確立されているわ」
「インドも含めた?」
「ええ。私達や中帝国。東南アジアにオセアニア諸国に」
 そうした地域が次々と挙げられていく。
「降した日本もね」
「じゃあアフリカの解放できる部分は解放して?」
「独立してもらってね」
 そのうえでだというのだ。
「ドクツにアフリカは全ては手渡さないわ」
「成程。そうするのね」
「その場合も日本には働いてもらうわ」
 ソビエトが残っている場合と同じくだというのだ。
「先鋒としてね」
「何か日本って便利な存在ね」
「今は敵だけれどね」 
 将来は有り難い駒になるというのだ。ガメリカにとって。
「だからこそね」
「わかったわ。まずはね」
「ええ。日本にはインド洋全域も解放してもらって」
「ハワイに来たその時に」
「叩くわ」
 返り討ちにする、そうするというのだ。
 ハンナはそのことを言ってからあらためてアメリカを見て言った。
「祖国さん、もう少ししたらね」
「戦いだな」
「ええ。これまで我慢していた分暴れ回っていいから」
「よし、じゃあやるぞ」
「ハワイにはダグラス提督と朽木提督がいるから」
「二人と一緒に頑張るぞ」
 アメリカはここでも明るい声と顔で話す。
「そして太平洋経済圏の確立だ」
「頼むよ、祖国氏」
 ルースは議長席からアメリカに話した。
「このワシントンから応援しているよ」
「ははは、プレジデントも見ていてくれよ」   
 アメリカもルースに返す。
「僕が日本をやっつけてやるからな」
「うむ、是非共ね」
「ところで」
 ここでドロシーがあることを話した。そのこととは。
「中南米だけれど」
「?メキシコやブラジルだね」
「そう。キューバもそうだけれど」
 挙げるのはそうした国々だった。
「相変わらずみたいね」
「あれだね。埴輪が牛耳り続けてるんだね」
 アメリカ妹はやれやれといった顔でストローでコーラを飲みながら話した。
「ケツアル=ハニーとかいうのが」
「そう。訳がわからない連中が」
「あそこもどうしたものかね」
「放置しておくのはよくないわね」
 ハンナはそう見ていた。
「正直なところね」
「じゃあ軍を送るかい?」
「そうしたいけれどまだできないわね」
 ハンナは難しい顔でアメリカ妹に答えた。
「まずは日本よ」
「あそこを倒さないと話がはじまらないんだね」
「そう。それからよ」
 ガメリカにしてもまずは日本だった。この国を何とかしなければその国家戦略が動きはじめないのだった。
 それでだ。ハンナは言うのだった。
「日本を倒して返す刀でね」
「あそこを一気に何とかするんだね」
「怪しい連中で何を考えているかわからないけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「太平洋経済圏に組み入れておきたいわね」
「中南米にも豊かな資源があるわ」 
 ドロシーはこのことも既に調べていた。
「人口も多く独特の文化が発展しているわ」
「だから是非なんだね」
「そう。あの辺りも経済圏に組み入れる」
 ドロシーは淡々とアメリカ妹に述べていく。
「そうしていく」
「わかったよ。それじゃあね」
「日本を倒してから」
 何につけてもそれからだった。
「中南米も手に入れて経済圏を確立する」
「じゃあ今はハワイの軍備をもっと充実させていくわね」
 国防長官のキャロルが言う。
「絶対に勝っちゃうからね」
「ではまずはインドの独立を祝福して」
 ハンナが場をまとめて言う。
「ハワイでの勝利を祈ってね」
「今日はこれで終わりだな」
「そうさせてもらうわ」
 ハンナは最後はアメリカに応えた。こうしホワイトハウスでの会議は終わった。アメリカは話が終わるとすぐにハワイに戻った。そこイザベラやフィリピン達と会った。ハワイの素晴らしい海を見ながらそのうえで言うのだった。
「そうか。日本軍の艦隊を一個撃破したんだな」
「はい、またあの提督の艦隊をです」
「深追いしてきたところを反撃を加えてね」
 そうしてだとだ。朽木とフィリピンがアメリカに話す。イザベラは丁寧に敬礼をしてからきびきびとした口調でアメリカに話す。
「倒しました」
「前回は突出したところを倒したけれどね」
「あの田中って提督は随分短気なんだな」
 アメリカは二人の話を聞いてからこう言った。
「何かあるとすぐに前に出るな」
「そうですね。かなり無鉄砲な人物です」
 イザベラもそれを言う。
「駆逐艦を使うにしてもです」
「それでもなんだな」
「かなり無鉄砲に前に出て来ます」
「日本軍の提督は慎重派が多いんじゃなかったのか?」
「多いとはいいますが」
 それでもだとだ。ここでこう言うイザベラだった。
「あらゆることに例外がありますから」
「あの提督は例外なんだな」
「はい、そうなります」
 だからだというのだ。
「我々はいつもそこを衝いています」
「そうか。そうして敵にダメージを与えているか」
「ただ。侵攻はしていないから」
 フィリピンが話す。惑星への侵攻はしていないというのだ。
「それはまだだよね」
「ああ、向こうがここに来てからだ」
 アメリカもこのことを話す。
「反撃はな」
「うん、じゃあそれまではね」
「散発的な攻撃を続けていきます」
「そうしよう・。ところで王様は何処かな」
 ここでアメリカはこんなことも言った。
「今何処にいるんだ?」
「あの方ですか」
 イザベラがアメリカのその言葉に応える。
「そういえば最近は」
「見ないのかい?君も」
「海にはよくおられますが」
 その海を見ながらだ。イザベラはアメリカに話す。
「それ以外は」
「そうか。遊んでいるんだな」
「特にされることもないようで」
「成程。また一緒にパーティーをしたいぞ」
「パーティーですか」
「ハンバーガーにフルーツでどうだ?」
 ガメリカとハワイそれぞれの食べ物だった。
「その二つでな」
「パーティーを開いてそのうえで」
「親睦を深めたいぞ」
「では今度お話しておきます」 
 イザベラは真面目な顔でアメリカに答えた。
「大王に」
「会ったらそうしてくれ。勿論フィリピンもだ」
「パーティーにはだね」
「一緒に来てくれよ」
 アメリカは友人を誘うことも忘れてはいなかった。
「是非共な」
「じゃあ僕も僕の料理を用意してね」
「一緒に楽しもう」
「その時はね」
 こうした話をしてだった。一同は今は海を見ながら話をしていた。その海とは違う海を見ながらだ。フランスは共にいるシャルロットにこう言った。
「暑くないか?」
「このマダガスカルがですか」
「ああ。そのドレスで暑くないか?」 
 シャルロットが着ている見事なドレスを見ての言葉だ。
「そうじゃないのか?」
「白で光を反射しますので」
 だからだと答えるシャルロットだった。
「特には」
「暑くないんだな」
「はい、そうです」
「だったらいいけれどな。ところでな」
「ところで?」
「インドのことは聞いてるよな」
 フランスは海を見ながらシャルロットに政治の話をはじめた。
「あそこが遂にな」
「独立しましたね」
「そうだよ。日本はインドまで来たよ」
「若しアラビアまで併合すれば」
「ここまで来るかもな」
 フランスはその顔をやや曇らせてシャルロットに話した。
「その場合はどうする?」
「日本との戦争ですか」
「さっきもビジー司令と話してたんだよ」
「司令は何と仰っていたのでしょうか」
「勝てないだろうって言ってた」 
 フランスはビジーの言葉もシャルロットに話した。
「ここの戦力じゃな」
「インドまで占領した日本には」
「ああ、絶対に勝てない」
 これがビジー、そしてオフランス軍の見解だというのだ。
「どうあがいてもな」
「ではここに日本軍が来れば」
「姫さんはどう考えてるんだ?」
 フランスは深刻な顔になってシャルロットに尋ねた。
「その時はな」
「日本軍、つまり太平洋軍が来るとなると」
 どうなるかとだ。シャルロットも考えてから答えた。
「このマダガスカルも戦場になりますね」
「間違いなくな」
「そうなってはビルメさん達にも迷惑がかかります」
 シャルロットは暗い顔になりやや俯いて述べる。
「そうしたことは」
「よくないっていうんだな」
「この戦争は私達連合国と枢軸国の戦争ですから」
「あの人達を巻き込むことはっていうんだな」
「してはならないと思います」
「じゃあ俺達だけで宇宙で戦って負けたら」 
 フランスはどうするか話した。
「降伏するか」
「では降伏のサインは」
「悪いけれど頼むな」
 フランスは申し訳なさそうな顔でシャルロットに述べた。
「その時はな」
「わかりました。若し敗れた時は」
 シャルロットも覚悟を決めた顔でフランスに答える。
「私が摂政として」
「俺も一緒にいるからな。それじゃあな」
「その時は」
 フランスは近い先に考えられることをシャルロットに話した。それからだった。
 彼は一旦仮宮に戻った。するとだった。
 ビジーが来た。それでこうフランスに言ってきた。
「シャルロット様にはお話して頂けたでしょうか」
「ああ、降伏のことだよな」
「そのことについては」
「いいって言ってくれたよ。しかしな」
「しかしとは?」
「負けること前提の話だよな」
 フランスは暗い顔でぼやく様にしてビジーに言った。
「何なんだよ、負けること前提って」
「ですがそれでもです」
「戦力的にはどうしてもな」
「はい、我が軍ではどう考えても太平洋軍には勝てません」
 これが現実だった。ビジーは軍人であるが故に現実を見据えそのうえでこの結論を出したのである、敗れるという結論を。
「ですから」
「降伏するしかないか」
「無駄に損害を出すだけです」
「で、俺は今度こそ捕虜になるんだな」
「残念ですが」
「俺この戦争何なんだよ」
 フランスはこうもぼやいた。
「負けてばっかりだよな」
「申し訳ありません。我々が不甲斐ないばかりに」
「いや、負けてるのが俺だからな」
 だからだというのだ。
「マジノ線以降な」
「あの戦いですか」
「本当にしてやられたな」
 フランスは苦々しい顔でビジーに述べた。
「急にな。要塞が次々に爆発させられてな」
「あれは奇妙でしたね」
「本当に魔女だったのかね」
 フランスは非科学的と知りながらもあえて言った。
「あれは」
「わかりません。ドクツの新兵器だったのでしょうか」
「だとしたら何だ?しかも日本軍もな」
「ドクツからエルミー=デーニッツっていう提督が来ていたな」
「はい、技術畑出身の」
「何か俺との戦いで功績を挙げてな」
 そしてだとだ。フランスは首を捻りながら話す。
「勲章貰ったらしいがな」
「あの戦いに参戦していたのでしょうか」
「それで武勲を挙げてだよな」
「功績を認められたからこそでしょうが」
「どういう功績なんだ?」
 フランスは首を捻る。
「一体な」
「わかりませんね。そういえばエイリス軍も姿が見えない敵に攻撃を受けているらしいが」
「日本軍にも魔女がいるのかね」
「若しくはあのデーニッツという提督に何かがあるのでしょうか」
「あの娘な。写真を見たけれどな」
 エルミーも提督でありそれなりの地位だ。各国に顔を知られてはいるのだ。
「可愛いよな」
「祖国殿、またですか」
「またじゃねえよ。俺は奇麗なものは何でも認めるだろ」
「だからだというのですか」
「そうだよ。あの娘が可愛いのは事実だろ」
「確かに。写真を見る限りは」
「ドクツ人にしてはやけに小柄でな」
 それがエルミーのチャームポイントだった。
「切り揃えた髪に賢そうな目に童顔で」
「他には」
「眼鏡に。小柄な身体に相応しい幼いスタイルもいいよな」
「祖国殿はロリコンだったのですか?」
 ビジーは言いにくいことをあえて言った。
「先日摂政殿下にはスタイルがいいと仰っていましたが」
「だから俺は奇麗だったら何でもいいんだよ」
 ロリも成熟もだというのだ。
「そういう考えなんだよ」
「守備範囲は広いと」
「芸術だって料理だってそうだよ」
 そうした話にもなる。
「イタリンのそうしたところもいいと思うさ」
「イタリンもですか」
「戦争してる相手でも嫌いじゃないしな」
 イタリン、ひいてはイタリア兄妹にはかなり寛容なフランスだった。尚これはイギリスもおおむね同じである。
「あそこの芸術はいいな」
「確かに。イタリンはいい国ですね」
「また仲良くやりたい位にな」
「今現在北アフリカにいるそうですが」
「どうせ戦力にはなってないだろ」 
 このことはフランスにもすぐにわかった。
「全然な」
「どうやらその様です」
「だろうな。あいつは弱いからな」
「ドクツの足を引っ張っている様です」
「それでもドクツは何だかんだで助けてるな」
「あちらの総統もドイツ達も」
 そしてロンメルにしろだ。思うところがない訳ではないがイタリア達を助けることにはやぶさかではない。
 そのことについてだ。ビジーはこう自分の祖国に話した。
「神聖ローマ帝国からですね」
「ああ、あいつ等はイタリンに優しいな」
「国名が変わってもそれは変わりませんね」
「イタリンは気候も景色もいいし食い物も美味いしな」
 まさにいいものばかりだ。
「だからな」
「ドクツはイタリンに対してはですか」
「親しみを感じるんだろうな」
「ドクツの気候の厳しさもあり」
「気持ちはわかるさ。俺だってあいつは嫌いじゃない」
 実はフランスもイタリンを狙ってきた。それで何度もオーストリアやスペインと争ってきたのである。スペインは今は伊勢志摩にいる。
「お馬鹿だけれどな」
「しかし親しみはですか」
「感じてるさ」 
 そうだというのだ。
「また一緒に仲良く酒でも飲みたいな」
「この戦争が終われば」
「あいつは負けてもちゃっかり殆どダメージを受けないだろ」
 要領がいいとは言えないはイタリアはいつもそうなるのだ。
「だからその時はな」
「一緒にですね」
「飲みたいな」
 フランスは暖かい顔になって述べた。
「その時はな」
「では今は戦いを終わらせることを考えましょう」
「降伏するか」
 これがフランスの今の選択だった。
「一戦交えてからな」
「では妹殿、セーシェル殿とお話をしてから」
「それからな」
 こうした話をしてだった。フランスはこれからのことを考えていたのだった。その結論は彼にとってはいいものにないにしても。 
 東郷と日本はインドを介してサフランと会っていた。サフランは己の祖国の訪問を受けてまずは両手を合わせて頭を下げた。他にも共にいる者がいる。
「ナマステ」
「ナマステ」
 このやり取りからだった。インドはサフランに微笑んでそれからすぐにこう言った。
「僕はここに来た理由はわかるたいな」
「はい、太平洋軍にですね」
「サフランも参加して欲しいたい」
「祖国さんはもう」
「僕はもう参加が決定しているたい」 
 インドは微笑みのままサフランに話す。
「そうしているたい」
「既にですか」
「それでサフランも」
「わかりました」 
 サフランは快諾で応えた。
「それでは」
「参加してくれるたいな」
「そうさせてもらいます。ただ」
「ただ?何たい?」
「まずはカレーを何時でも食べたいのですが」
 実にインド人らしい要望だった。
「それはお願いできるでしょうか」
「海軍名物はカレーだ」
 東郷が答える。
「カレーなら何時でも好きなだけ食べられる」
「そうなのですか」
「ああ。だから安心してくれ」
 こう言うのだった。
「色々なカレーを食べることができる」
「牛肉のカレーは駄目ですが」
「鶏肉も豚肉もある」
 牛肉のカレーが駄目ならばだというのだ。
「それに野菜や魚介類のものもな」
「何でもあるのですね」
「カレーには苦労していない」
 それが海軍だというのだ。
「何時でも好きなだけ食べてくれ」
「わかりました。ではカレーは」
「ああ、楽しんでくれ」
 カレーの話はそれで終わった。だが。
 サフランはこんなことも言った。今度言うことは。
「太平洋軍には多くの提督の方がおられますが」
「それが何か」
 秋山もいる。彼が問うたのだった。
「はい、南雲さんや山下さん」 
「私もか」
 山下もいたが彼女も声をあげる。
「私が一体」
「いい胸をしておられますね」
 山下のその胸を見ての言葉だ。
「全体的にスタイルがいいですが」
「その様なものはどうでもいいのではないのか」
 こう返すのが山下だった。
「大事なのは心ではないのか」
「そういうことはあるからこそ言えるのです」
「あるからだと?」
「はい、胸があるからこそです」
 サフランはまだ山下の胸を見ていた。
「他にはララーさんやリンファさん、ランファさんも」
「胸がか」
「私も胸を」
 サフランの淡々とした表情に何かが宿った。そして。
 その身体全体に燃え上がるものを宿らせてこうも言ったのだった。
「何時かは見事なものにしたいので」
「ああ、それでか」
「そうした美容法なりがあれば教えて下さい」
「それも提督になる条件なんだな」
「そうです」
 まさにその通りだというのだ。
「そうしたことでお願いします」
「わかった。じゃあそれは俺も協力しよう」
 東は確かな声で約束する。
「俺は胸が小さくてもいいんだがな」
「小さな胸には何もありませんが」
「いえ、ありません」
 また言うサフランだった。否定の言葉だ。
「それは絶対に」
「まあそう思うならいいがな」
 東郷はここでは巨乳と貧乳の論争は避けた。だが何はともあれだ。
 サフランも太平洋軍の提督に加わった。インドと共に太平洋軍にはまた新たな戦力が加わったのである。
 しかしだ。もう一人はだった。
「クリオネさんはおられないんですね」
「アラビアに逃れたたい」
 インドはこうそのアグニに答える。
「だから今はたい」
「じゃあいいです」
「太平洋軍には参加しないたいか」
「クリオネさんがおられないなら」
 それならだというのだ。
「僕に戦う意味はないですから」
「ではこれからどうするたい」
「お店をしようかなって思ってます」
 こうインドに答えるアグニだった。
「宝石商でも」
「それはそれでいいたいが」
「僕は戦うつもりはないです」
 クリオネがいなくてはというのだ。
「ですから祖国さんには申し訳ないですが」
「お引き取りたいか」
「お願いは聞けないです」
 帰れとは言わないがそうだというのだ。
「そういうことで」
「わかったたい。それならたい」
「それなら?」
「そのクリオネさんを連れて来るたい」
 泣かぬなら泣かせてみせようだった。こうしたところがインドだった。
「待っているたい」
「それなら僕もいいですが」
「ならそういうことでいいたいな」
「はい、その時は」
 アグニの参加は了承を得られなかったがそれでもだ。参加の条件はわかり約束も取り付けることが成功した。それからだ。
 インドは日本と東郷にこうしたことを言った。
「アグニの場合はこれからたい」
「アラビアを解放してからですね」
「あのクリオネって人を提督にしてか」
「色々と妙なところはあるが優秀たい」
 インドもクリオネのことは知っていた。
「しかも悪人ではないたい」
「それならそのクリオネさんを加えますか」
「そうすればいいことだな」
「そうたい。それにアラビアたいが」
 インドはアラビア星域の話もした。
「あそこは砂嵐がインドカレーよりも凄いたい」
「ああ、そうらしいな」
 その話を聞いて東郷が応えた。
「あの星域やスエズ、それに北アフリカはな」
「宇宙の砂漠たい」
 まさにそう呼ぶに相応しい場所だというのだ。
「砂嵐はインドカレーの比ではないたい」
「じゃああそこの攻略も防塵艦を持って行くか」
 東郷はインドの話を聞いて艦隊編成について決定した。
「そうするか」
「それがいいたいな」
 インドも賛成する。そこにも防塵艦が必要だというのだ。
 そしてだ。インドはアラビアについてこうも言うのだった。
「アラビアも解放したならばたい」
「エイリスはインド洋の植民地を全て失いますね」
「そうたい。何もなくなるたい」 
 エイリスはアフリカ以東の植民地を全て失うことになる、このことが確定するというのだ。
「これは大きいたいよ」
「確かに。そうなりますね」
「後マダガスカルなりセーシェルなりたいが」
「侵攻予定だ」
 このことは東郷が答える。
「インド洋は完全に解放する」
「そしてたいな」
「オフランスも連合の一員だからな」
 このことも重要だった。マダガスカルを植民地にしているこの国も。
「倒しておく」
「そうするたいな」
「ああ、アラビア戦の後はな」
「さて、それでなのですが」
 ここでだ。日本が東郷とインドにこんなことを話した。その話すこととは。
「アラビアからはスエズに向かうことができますが」
「あの場所か」
「スエズはどうされますか」
 日本は東郷に対して問うた。スエズへの戦略について。
「あの星域は」
「攻めたいところだが」
「だが、ですか」
「スエズは堅固でしかも遠い」
 日本本土と比べてだというのだ。
「しかもアフリカにまで足を突っ込むことになるとだ」
「ガメリカ戦に戦力を向けられませんか」
「そろそろ。ガメリカの戦力が集まる」
 だからだというのだ。
「いい加減ガメリカと決着をつけなくてはならない」
「ではインド洋を全て解放したらすぐにですね」
「太平洋に戻って決戦だ」
 そうするというのだ。
「ハワイに攻め込む」
「いよいよですね」
「これは予定通りだ。エイリスの植民地、インド洋のそれまでを解放するという戦略目標は達成されようとしている」
 実現の可能性は極めて低かった、だがそれもだったのだ。
「それならその後でだ」
「予定通りガメリカ戦ですね」
「ようやくガメリカに対抗できるだけの力が備わった」
 やはりガメリカを見てだった。東郷の戦略は。
「本格的に戦う」
「ハワイ、そして」
「ガメリカ本土も攻めていこう」
「それもいよいよですね」
 こうした話もしてだった。アラビアに攻め込む準備にも入っていた。そのアラビアではクリオネが極限まで落ち込んでいた。 
 燃え尽きたボクサーの姿勢になって椅子に座りこんなことを言っていた。
「終わったわ。全て」
「おい、燃え尽きたのかよ」
「クリオネちゃんのこれまでの努力が全て」
「おい、自分をちゃん付けかよ」
「いいじゃない。まだ三十歳よ」
「年齢のことは言わないがな」
 だがそれでもだというのだ。イギリスも言う。
「気を取り直せよ」
「そうしたいけれど」
「やっぱりダメージが大きいか」
「立ち直れないかも」 
 姿勢は変わらない。落ち込んだままだ。
「この状況は」
「深刻だな」
「かなりね」
 クリオネは自分でも言う。
「辛いわ、どうしたものかしら」
「アフリカで頑張ってみたらどうだ?」
「あんなまだ未開の場所があってそこに何が居るかわからない場所なんて嫌」
「まあ。暗黒宙域から時々変なのが来るけれどな」
「南アフリカは貴族達が酷いし」
「あれなあ。俺もな」
 南アフリカについてはインドも難しい顔になる。
「困ってるんだよ」
「あそこはどうしようもないから」
「アンドロメダもかよ」
「興味ないですから」
 アンドロメダについてもこうだった。
「北アフリカは砂しかないから」
「インドじゃないと駄目なんだな」
「インド人じゃないけれどインドが好きだから」
 だからこそだというのだ。
「クリオネちゃんショック。東インド会社も倒産したし」
「まあなあ。けれどな」
「けれど?」
「インドは仕方ないさ」
 エイリスにとって永遠に失われた場所になった。このことはもう誰が何をしても覆るものではなくなっている。
「それでも生きてるんだな」
「ビジネスですね」
「とりあえずそうしないとな。それにな」
「それにっていいますと」
「太平洋軍はこっちにも来るぜ」
 このアラビアにもだというのだ。
「ここまで失うとな」
「アラビアにある私の権益も」
「僅かに残ったそれもなくなるぞ」
「わかりました。それじゃあ」
「頑張ってくれるか?」
「シャワー浴びてきていいですか?」
 気分転換にまずはそれからだというのだ。
「お酒も大分残ってますし」
「そういえば凄く酒臭えぞ」
 クリオネの全身からワインの匂いがぷんぷんしている。本来はかぐわしい香りだが今はやさぐれた匂いになっている。
 イギリスはその匂いに辟易しながらクリオネに言った。
「風呂に入ってそれでな」
「お酒を抜いてですね」
「身だしなみも整えてくれ」 
 ただの気分転換ではなかった。
「それからな。じっくりと話そうな」
「わかりました。それじゃあ」
「何度も言うが生きてこそなんだよ」
 イギリスの言葉は率直なものだった。
「アラビアだけは何としてもだからな」
「その為にも」
「風呂上りの紅茶も用意しておくからな」
 これはイギリスの気配りだ。
「いいな。それじゃあな」
「お風呂に行ってきます」
「ゆっくり入れよ」
 こう言ってクリオネを送り出してからだった。イギリスはお茶の準備をした。一時間程してから戻ってきた彼女に紅茶を差し出してから問うた。
「すっきりしたか?」
「はい、お酒が抜けました」
「身だしなみも整ったな」
「クリオネちゃん復活です」
 自分でこう言う。
「もう大丈夫ですから」
「そうだな。じゃあこれからのことだけれどな」
「ネルソンさんもお呼びしますか?」
「ああ、そうだったな」
 イギリスも言われて思い出した。彼のことを。
「あの人にも来てもらうか」
「何とかここはですね」
「頑張るか。だがな」
「だが、ですか」
「正直戦力を失い過ぎたな」
 クリオネがやる気を取り戻してもだった。肝心の戦力をかなり消耗してしまいそれでこうも言うのだった。言わざるを得なかった。
「助っ人が欲しいな」
「助っ人ですか」
「スエズからの援軍は期待できないしな」
 そちらはそれどころではなかった。
「だからな」
「ううん、スエズは北アフリカから来るドクツ軍がいますから」
 戦力を割けなかった。全くだ。
「だからですね」
「ああ、俺達だけでやるしかない」
 今アラビアにいる戦力だけでだというのだ。
「けれどそれでもな」
「勝利を収めるにはですか」
「心許ないな」
 これがエイリスのインド洋方面での現状だった。
「ここはな」
「では。噂で聞いたのですが」
「噂?」
「はい、あくまで噂ですが」
 一応こう前置きするがクリオネは真剣にイギリスに話す。
「このアラビアに魔術師がいるそうです」
「魔術なら俺も使えるぜ」
 そうしたことにも精通しているイギリスだった。
「何ならやってみようか?ここでな」
「いえ、祖国さんの様な術ではなく」
「また違う感じかよ」
「はい、独特の術です」 
 それがクリオネが話す魔術師の術だというのだ。
「戦力になるものです」
「俺の術は呪いとかだからな」
「完璧に黒魔術ですね」
「何かそっちの方が得意なんだよ」
「ある意味祖国さんらしいですね」
「俺らしいかよ」
「妹さんは白魔術のイメージですが」
 それでもだというのだ。イギリスはだ。
「祖国さんはやはり黒ですね」
「何か褒められてる気がしねえな」
「確かに褒めてはいませんが」 
 クリオネ自身もそのことを認める。
「しかしけなしてもいませんよ」
「ありのままを言っただけだっていうんだな」
「はい、そうです」
 まさにそうだというのだ。
「それだけです」
「まあどうでもいいけれどな」
 イギリスはぼやき気味に返した。
「とにかくな。今はな」
「今はですか」
「ああ、その魔術師に会うか」
「何とかアラビアを守る為に」
 こう話してだった。イギリスとクリオネはネルソンも呼んでその上でクリオネが知っているその魔術師のことを調べだした。そのうえで今後こそ勝利を収めようとしていた。


TURN45   完


                            2012・8・11



フランスと東郷は話が合いそうな気がするな。
美姫 「今回の話の件で言えばね」
まあ、ともあれ日本帝国は少しのんびりできたか。
美姫 「他国は眈々と攻める期を窺っているけれどね」
どちらにせよ、エイリスにはもう少し弱体してもらおうって感じかな。
美姫 「そうね。このまま日本帝国が攻め続ければ、そう遠くない内にあちこちも動き出しそうね」
だな。その時までにどれだけの戦力を底上げできるかだな。
美姫 「次回も楽しみね」
ああ。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る