『ヘタリア大帝国』




                     TURN44  インド独立

 イギリスのところに二人の子供達が来た。一人は。
 まだ小学校に通っていそうな少年だった。背はまだ低い。
 インド人に相応しく褐色の肌をしているが顔立ちは白人のものだ。褐色の癖のある髪を後ろで束ねて何処か中性的な顔の瞳は薄紫だ。白いブラウスにズボン、緑の模様のあるインド調のベストにリボンという格好だ。
 少年はイギリスにエイリス風の敬礼をしてから名乗った。
「アグニ=プーシャンです」
「ああ、宜しくな」
「東インド会社で勉強させてもらってます」
「勉強?学生さんか?」
「あっ、もう大学も卒業しました」
「カレッジもって。飛び級かよ」
「二人共そうなんですよ」
 二人の後ろにいるクリオネが誇らしげな微笑みと共にイギリスに話してきた。
「この子達はインドでもとりわけ優秀な子供達で」
「そういえばあんた学校もやってたな」
「はい、幼稚園から大学院まで」 
 クリオネの東インド会社は学校も経営しているのだ。
「経営していまして」
「そこの子達か」
「二人共孤児でしたが」 
 その孤児達をだというのだ。
「保護して教育をしています」
「保護って。インドの孤児をか?」
「孤児を放っておくことはどうかと思いまして」
 クリオネはここで微妙な顔を見せた。
 そのうえでだ。イギリスに眉を曇らせてこんなことを話した。
「あの、お言葉ですが孤児というものは」
「ああ、絶対に見捨てるなっていうんだな」
「そうしたことは人道的にもよくありません」
「それにだよな」
「子供は育てれば必ず大きな力になります」
 人的資源だというのだ。孤児もまた。
「ですから」
「そのことについては何も言わないさ」
「有り難うございます」
「あんた悪い奴じゃないんだな」
 イギリスもわかることだった。クリオネのそうしたところは。
「ちゃんと子供の面倒も見るんだな」
「植民地の貴族達の様なことはしません」
 こうも言うクリオネだった。
「何があろうとも」
「そこもいいところだよ、あんたも」
「有り難うございます」
「正直こっちに来て貴族連中のやってることには頭にきたさ」
「私もです」
 イギリスの横にいるネルソンも言ってきた。
「植民地の民衆を虐げ自分達だけが私腹を肥やすことは」
「ベトナムでは目に余りました」
 ネルソンはベトナム総督に美少女達を勧められたことを不快感と共に思い出して述べた。
「斬り捨てるべきだったでしょうか」
「そうしてもよかっただろうな」
 イギリスもそうしたことを好まないが故の返答だった。
「今度見た時はな」
「成敗して宜しいのですね」
「ああ、そうしてくれ」
「ではその様に」
「それでだ」
 イギリスはネルソンと話してからまたクリオネに顔を向けて言った。
「で、この二人は両方共孤児で」
「孤児院に引き取ってから教育を施していました」
「それで東インド会社の社員なんだな」
「はい、そうです」
 まだ子供だがそうなっているというのだ。
「有望な子供達です」
「いいことだな。で、こっちの娘は」 
 イギリスはもう一人の子供を見た。こちらはアグニより何歳か年上と思われる神秘的な面持ちの少女だった。
 褐色の肌に黒のショートヘアだ。瞳は茶色である。
 顔立ちはまだ子供っぽさがあるが知的であり目は大きく口は小さい。鼻はやや低いが非常に整っているインド風の美貌をそこに見せている。よく見ればショートヘアからは髪の毛が左右からそれぞれ触覚の様に出ている。耳には大きなリングの黄色いピアスがある。
 服はインドのライトイエローを元にした上着と白く長いスカートというものだ。スタイルは全体的にすらりとしている。
 少女はイギリスにインドの胸の前で手を合わせたうえでのお辞儀をしてから名乗った。
「ナマステ。サフラン=ヴェーダです」
「あんたもだな」
「はい、東インド会社の社員です」 
 サフランはイギリスに淡々とした口調で話す。
「宜しくお願いします」
「こっちの娘は何かな」
 イギリスはサフランと少し話してからまたクリオネに言った。
「無口だな」
「実はです」
 ここでだ。クリオネは少し困った感じの顔でイギリスに答えた。
「この娘は色々とやりにくくて」
「そうみたいだな」
「何かと手を焼いています」
「胸が大きい人は好きじゃないですから」
 サフランはクリオネの豊かな、スーツの上からでもわかる胸を一瞥してから述べた。
「クリオネさんには恩義を感じていますが」
「本当に?」
「はい」 
 抑揚のない言葉での返答である。
「そのことは確かです」
「だといいけれど」
「ですが」
 ここでこうも言うクリオネだった。
「その胸は好きではありません」
「胸は関係ないでしょ」
「胸の大きな人は敵です」 
 感情が見られないだけに余計に迫力のある感じだった。
「私にとっては」
「まあ。何だな」
 イギリスはサフランとクリオネのやり取りを見てからまた述べた。少し微妙な感じの顔になり首を捻ってから。
「東インド会社も色々あるんだな」
「はい、人材的にも」
「それで頑張ってくれよ。正念場だからな」
「僕頑張りますから」
「私も」
 アグニとサフランは好対照な感じでイギリスに応える。
「クリオネさんの為にも」
「保険入ってますけれど怪我はしないようにします」
「ああ、戦死してもらったらこっちも困るからな」
 イギリスはサフランの言葉に微妙なものも感じながら応えた。
「けれどとにかくそろそろ日本軍が来るからな」
「戦力はこちらの方が上ですね」
「そうだ。五倍以上あるからな」
 イギリスはアグニの問いにこう返した。
「しかも艦隊の上下には砂嵐があってな」
「守りもありますね」
「地の利もこっちのものだからな」
「勝てますよね」
「普通にやれば絶対にな」
 勝てるとだ。イギリスも確信していた。
「だから安心してくれよ」
「わかりました。それじゃあ」
「私も仕事ですから」
 lここでもサフランは感情を見せない。
「やらせてもらいます」
「ああ、あんたにも頼むな」
「サフラン、貴女はもう少しね」
 そのサフランにクリオネが見るに見かねたという感じで後ろから言ってくる。
「やる気を見せたら」
「やる気はあります」
「本当に?」
「あるけれど表には出さないだけです」
「そうかしら」
「ではこれから乗艦に戻ります」
 クリオネにも人形の様な態度で返す。こうしたやり取りを経てだ。
 サフランは実際に自分の乗艦に戻った。そしてアグニも。
 その二人を見送ってからだった。イギリスは微妙な顔になってクリオネに対して問うたのだった。その問うことは。
「アグニって子はいいさ」
「サフランですね}
「ああ、ちょっとな」
「ああいう娘なんです。だからやりにくいんです」
 クリオネも微妙な顔で自身の祖国に話す。
「何かと」
「そうなんだな。けれど才能はか」
「かなりのものです」
 そちらは問題ないというのだ。
「特にサフランの方は」
「あの娘か」
「ご安心下さい。私が教育しただけはあります」
「スパルタでやったのか?」
「体罰なんかしませんが」
「じゃあ優しくか?」
「その子供の資質を伸ばさないと何もなりません」
 この辺りよくわかっているクリオネだった。
「ですから」
「そういうことか」
「はい、では」
「あの子達にも頼むからな」
「エイリスの栄光の為、東インド会社を破綻させない為に」
「後のそれはシビアだな」
 イギリスはそのことにはこう言うのだった。そうした話をしながらだった。
 東インド会社軍も加えたエイリス軍はインドカレー星域前でさらに布陣を整えた。そのうえで太平洋軍を待ち受けていた。
 その彼等の布陣は太平洋軍も確認していた。その布陣を見てだ。
 東郷は特に焦りを見せずこう参謀や提督達に話した。
「予想通りだがな」
「東インド会社軍の参加がですね」
「ああ。絶対に来ると思っていた」
 こう小澤にも話す。
「向こうも必死だからな」
「戦力が少しでも必要なのですね」
「そうした意味では我々と同じだ」
 太平洋軍と変わらないというのだ。
「戦力は多いに越したことはない」
「だからこそ」
「東インド会社軍の参戦は想定の範囲内だ」 
 東郷はあっさりと言ってみせる。
「驚かない。そしてだ」
「作戦はあれだね」
 今度は南雲が東郷に話す。
「手筈通りだね」
「そうする。動き回り暴れ回ることにしよう」
「何か凄い作戦ですよね」 
 参戦している四国総督から見てもだった。
「これだけ大胆な作戦は」
「ないか」
「そう思います」
「別に正面からぶつからないといけないという決まりもない」
 戦争においてそうしたルールはないことは東郷自身が最もよくわかっていることだった。
「だからな」
「こう攻めるんですね」
「そして勝つ」
 こうも言う東郷だった。
「絶対にな」
「わかりました。それじゃあ」
「全軍指揮に従ってくれ」
 東郷の言葉には絶対の自信もあった。
「必ず勝てる、これでな」
「わかったワン」
「そうさせてもらうにゃ」 
 コーギーとアストロ猫も応える。
「たとえ五倍以上の相手でも」
「勝とうにゃん」
「戦いは数が大事だ」
 それは東郷も否定しない。
「しかしだ」
「数だけじゃないよな」
「それはね」
 猿とパンダも言う。
「僕達はいつも劣勢だったけれどね」
「それでも勝ってきたから」
「いい加減優勢な状況で戦ってもみたいな」
 今言ったのは〆羅である。
「そうも思うわ」
「ははは、まだガメリカもあるからな」
 だからだとだ。東郷は〆羅にも笑って返す。
「それはまだ先だな」
「そうですか」
「ただ。このインドを解放できれば」
 それならばだというのだ。
「太平洋経済圏にとってかなり大きい」
「インドの国力が加われば」
 ベトナムが真剣な顔で呟く。
「確かにかなりのものだな」
「インド全ての星域で東南アジア、オセアニアを遥かに凌駕する人口と資源があります」
 タイはこのことを指摘する。
「それだけの国が加わってくれれば」
「そうだ。かなり大きい」
 東郷もそれを言う。
「インドだけでガメリカや中帝国に匹敵する国力がある」
「エイリスがその国を失えばでごわすな」
「イギリスさんは致命傷を負うばい」
 オーストラリアとニュージーランドも言う。
「それならでごわす」
「ここは絶対にやるばい」
「若しインドさんが私達についてくれれば」
「ええ、そうね」
 インドネシアとマレーシアはお互いに話す。
「ガメリカ、中帝国とも正面から戦える」
「そうなるわね」
「だから余計に頑張ろう」
 ララーが明るい声で一同に話す。
「ここで勝ったら私達凄いことになるからな」
「ああ、やってやるさ」
「この戦いに全てがかかっているなら」
「いつもよりも頑張るよ」
 キャシーにリンファ、ランファもいる。
「あたし前からエイリスの奴等は好きじゃなかったしな」
「貴族が専横を極める国というのか」
「どうしても好きになれないからね」
「というかエイリスの植民地統治はな」
「貴族の人達が酷いんですよ」
 ラスシャサとフェムはよく知っていた。そのことを。
「マレーは解放されたがな」
「インドはまだですからね」
 こうした話をする二人だった。そうしてだった。
 平良もだ。こう福原に話した。
「インドでのエイリス貴族の悪事を終わらせられるな」
「はい、勝てば」
「そうなれば非常に大きい」
「アジアに正義が訪れます」
「あの、お二人はですが」
 秋山は二人の言葉から危険なものを察して注意した。
「間違っても。彼等は」
「憲兵に任せろか」
「そう仰るのですね」
「くれぐれも軽挙妄動は謹んで下さい」
 実際にこう言う。
「不必要な怪我に至りますから。それに」
「それに?」
「それにとは」
「インドにはカースト制がありますが」
 秋山はこのことについても二人に注意した。
「上位のカーストの人達の行動については」
「憲兵達にか」
「任せろと仰るのですね」
「いえ、インド固有の社会制度ですから」
 だからだというのだ。
「何も仰らないで下さい」
「しかし階級制度なぞはだ」
「許されないことです」
 やはりこう言う二人だった。
「人は皆平等ではないのか」
「それでカースト制度等は」
「あれですが」 
 日本も秋山に助太刀する。
「インドさんのところでは職業分化や仕事の確保の意味もありまして」
「必要なのか」
「そうなのですね」
「はい、そうです」 
 その通りだというのだ。
「ですからくれぐれもです」
「刀を抜くなというのか」
「銃を抜いても」
「本当にお願いします」
 秋山の言葉も顔も実に切実はものだ。
「特に平良提督は」
「私が?」
「前の様なことがあっては困ります」
 韓国において両班を成敗したのはいいが背中を見せそこから刺されたことを言っているのだ。これは帝国海軍にとっては結構な痛手だったのだ。
「ですから」
「ううむ。しかし身分というものは」
「それぞれの国の文化があります」
「だからか」
「はい、くれぐれもです」 
 秋山の言葉はさらに切実なものになっている。
「お気をつけ下さい」
「わかった。それではな」
「エイリス貴族についてもです」
 彼等もいた。インドにおける問題は実に多かった。
「このことはもうお話させてもらいましたね」
「それはその通りだ」
「彼等は本当に憲兵達に引渡し」 
 そしてだというのだ。
「やがてエイリスに送りますので」
「成敗するまでもないか」
「所詮彼等は植民地に寄生しているだけです」
 秋山はぴしゃりと言った。
「その寄生先から追い出せばどうということはありません」
「大した話ではないというのか」
「所詮エイリス貴族は小者です」
 秋山は実際にそう思っている。辛辣だがその通りだ。
「どうということのない者達です」
「小者というか。しかしだ」
「民を虐げていることですね」
「それは確かに悪だが」
「悪は悪でも所詮は小悪です」
「では大悪は何だ」
「そうした存在を許している制度です」
 それが問題だというのだ。
「人ではないのです。この場合は」
「制度がか」
「はい、大きな悪なのです」
「では私達が相手にするものは」
「民を苦しめる制度です」
 ここではエイリスの貴族制度だった。そして植民地そのものだ。
「提督にはその制度の成敗をお願いします」
「わかった。ではな」
「はい、お願いします」
 平良と福原はこれで話が終わった。純粋だがやや視野の狭いところがあることは否定できない彼等を何とか昇華させようという秋山だった。
 そしてその彼に東郷と日本が言った。
「考えたものだな」
「お疲れ様です」
 二人で言うのだった。
「獅子団は確かに正義感は強いがそれが暴走するからな」
「そこが問題ですが」
「ああして正義感を向ける対象を示すか」
「そのうえで昇華も促されるのですね」
「色々考えました」
 心配性の秋山らしい考えだった。
「それでなのです」
「成程な。政治的でもあるな」
「制度への改革を考えを向けられるというのは」
「これでかなり違うと思います」
「少なくともマハラジャに刀を抜くことはないな」
「それは大変なことになりますから」
 獅子団の考えではマハラジャは多くの奴隷を圧迫し自分達だけが肥え太っている存在となるからだ。マハラジャにもそうすることが考えられたのだ。
「しかしそれは止められるな」
「政治的な考えを入れるとなると」
「戦争は政治の中にあります」
 秋山は言った。
「ならば政治として考えなければなりません」
「そういうことだな。だから戦争は帝が決断された」
 開戦を決意したのは国家元首である他ならぬ帝だった。
「そして終わらせるのもだ」
「はい、帝です」
 軍人ではない。そうだというのだ。
「ですから」
「政治だな」
「そういうことです。それでは」
「政治の一環として戦おう」
 こうした話もした。そしてだった。
 日本もだ。東郷と秋山に言った。
「ではここはですね」
「作戦計画通りだ。行こう」
「では」
 日本は東郷の言葉に頷いた。太平洋軍は東郷の指揮の下動きだした。
 対するエイリス軍は前方を見ていた。しかしだった。
 目の前太平洋軍は見えない。そのうえだった。
「レーダーにも反応はありません」
「側面にもです」
「ましてや後方にもです」
「敵の反応は一切ありません」
「?どういうことなの?」 
 その話を聞いてまずいぶかしんだのはクリオネだった。自身の乗艦である戦艦の艦橋でそうなった。
「太平洋軍が見えない?」
「はい、一切です」
「見えません」
「おかしいわね。このインドカレーには来てるのよね」
 クリオネは東インド会社軍の将校達、実質的にエイリス軍の将校達に問うた。
「そうよね」
「はい、そうです」
「そのことは既に確認しています」 
 将校達にクリオネに答える。
「太平洋軍が来ていることは間違いありません」
「そのことは」
「それでどうして姿が見えないのかしら」
「逃げた訳じゃないのは間違いないな」
 そのクリオネにイギリスがモニターから言ってきた。
「絶対にな」
「そうですね。それはないですね」
「ああ、ない」
 また言うイギリスだった。
「絶対にな」
「それでは彼等は一体何処に」
「まずは守りを固めましょう」
「そうするべきです」
 話すクリオネとイギリスにサフランとアグニが言ってきた。
「まずはです」
「何処から敵が来てもいいように」
「そうね。それじゃあね」
 クリオネが二人の話を聞いて腕を組み考える顔になっているとここで。
 ネルソンもモニターに出て来てこう一同に言った。
「ではまずは円陣を組みましょう」
「円陣か」
「正面からだけでなく横からも後ろからも来ていい様に」
 そうしてだというのだ。
「そうしましょう」
「そうだな。それがいいな」
 イギリスも話を聞いて述べた。
「太平洋軍が何処から出て来ても対応出来る様にな」
「ではその様に」
「上と下は砂嵐だ」
 イギリスはこの地の利に絶対の信頼を置いていた。
「ここから来ることは絶対にないからな」
「いえ、それはです」
「わからないですよ」
 サフランとアグニがすぐに安心、砂嵐に絶対の信頼を置いているイギリスにこう忠告した。
「例え砂嵐でもです」
「通り抜けられますよ」
「普通のならともかくこれなら無理だろ」
 イギリスはその砂嵐を見て言う。モニターでだ。
「幾ら太平洋軍でもな」
「そうですね。私は長い間ここにいますけれど」
 クリオネも言ってくる。
「これだけの砂嵐ですと通り抜けることはできません」
「エイリス軍の艦艇でもな」
「はい、無理です」
 こう言うのだった。
「ですから上下は安心していいです」
「だな。じゃあ円陣はな」
「平面的にいきます」
 またネルソンが言う。
「そうしましょう」
「よし、それじゃあな」
 こうしてエイリス軍は上下の砂嵐を頼りにした守りを固めた。そのうえで太平洋軍を待ち受けた。
 その状況は太平洋軍も確認していた。そしてだった。
 東郷は長門の艦橋からだ。こう秋山に言った。
「気付かれていないな」
「はい、まだ」
「それならだ」
「今からですね」
「攻撃にかかる。いいな」
「エイリス軍は我々に気付いていませんね」
「まさかここから来るとは思ってもいないだろうな」
 実際にエイリス軍は彼等に気付いてはいなかった。それが東郷にとっては実に有り難いことだった。
 それでだ。東郷は言うのだった。
「敵の虚を衝く。そして」
「そしてですね」
「先んずれば人を制すだ」
 この言葉も出すのだった。
「その二つが揃えばだ」
「例え五倍以上の敵でもですか」
「勝てる」 
 そうなるというのだ。
「いいな。それならな」
「はい、それでは」
「全軍降下する」
 これが東郷の命令だった。
「いいな」
「了解です」
 こうしてだった。太平洋軍は動いたのだった。
 エイリス軍はまだ気付いていない。その彼等に。
 突如として上から何かが来た。それは。
「何っ、ビーム!?」
「ビームが来た!?」
「太陽軍、まさか!」
「砂嵐の上から!」
 これは彼等が全く想定していないことだった。それで。
 エイリス軍はそのビームを避けられなかった。次々と攻撃を受けた艦艇が行動不能、若しくは撃沈される。
 太平洋軍は上の砂嵐から来た。そうしてだった。
 ビームの次はミサイルだ。それでもエイリス軍を倒していく。
 不意を衝かれたエイリス軍は攻撃を受ける一方だった。そして。
 次は鉄鋼弾だった。それも受けたのだった。
 エイリス軍のダメージはかなりのものになる。その彼等を上から下に通り抜けて下の砂嵐の中に潜り込んだ。
「消えた!?砂嵐の中に」
「砂嵐から出て来て」
 生き残ったエイリス軍の将兵達はそれを見て言う。
「どういうつもりだ、一体」
「また砂嵐の中に隠れるとは」
「おい、何処に行ったかわかるか!?」
 イギリスは将兵達に問うた。
「連中は砂嵐の何処にいるんだ!」
「わかりません、レーダーが効きません!」
「砂嵐があまりに強く!」
「目視もできません!」
「完全に隠れています!」
「ちっ、砂嵐から来るとはな!」
 苦々しい顔で言うイギリスだった。
「奴等、まさかな」
「祖国殿、ここはです」
 そのイギリスにネルソンが言ってくる。
「すぐに備えを」
「ああ、そうだな」
「彼等は砂嵐から来ます」
 ネルソンは最初の攻撃でそれを確信していた。それでだった。
 自身の祖国に防衛を促す。しかしだった。
 そのエイリス軍が備えをしようと動いたその時にだった。
「来たぞ!」
「まずい、陣を整えていない!」
「早い!今来るか!」
 彼等が陣を敷く前にだった。太平洋軍は再び来て攻撃を仕掛けて来た。
 エイリス軍も何とかビームを放とうとする。しかしそれはまだ陣形が整っておらず散発的なものだった。それに対して。
 日本軍は組織的、軍全体で攻撃を浴びせる。これでは例えどれだけ数が違っても勝負にならなかった。
 東郷は長門の艦橋からだ。こう命令していた。
「戦艦、そしてミサイル艦をだ」
「集中的にですね」
「攻撃するのですね」
「そうだ。まずはそうした艦艇からだ」
 攻撃をするというのだ。
「倒していく。ここでのエイリス軍はビームやミサイルを使う艦が多い」
「だからこそですね」
「そうした艦艇をまず潰しますか」
「そうする。まずは戦艦を倒せ」
 第一はそれだった。
「そしてだ」
「そしてですね」
「そのうえで」
「鉄鋼弾攻撃も用意する」
 それもだというのだ。
「酸素魚雷だ。いいな」
「了解です」
 今東郷に応えたのはエルミーだった。
「それでは今から」
「今回はネルソン提督のヴィクトリーよりもだ」
「他の艦をですか」
「狙ってくれ」
 そうしてくれというのだ。
「いいな。それではな」
「わかりました。それでは」
 エルミーは東インド会社軍の二隻の戦艦を見た。その戦艦に対してだ。
 照準を合わせた。潜望鏡でその戦艦達を見ながら部下達に話す。
「では今からです」
「はい、攻めますね」
「これから」
「魚雷発射用意です」
 エルミーは言う。
「いいですね」
「攻撃目標は」
「あの戦艦達です」
 丁度目の前にいる二隻の戦艦だった。既に照準は合わせている。 
 その戦艦達を見ながらだ。エルミーはまた部下達に言った。
「ボタンは私が押します」
「では司令、お願いします」
「ここは」
「はい」
 エルミーは彼等の言葉に頷きそうしてだった。
 ボタンを押した。忽ちユーボート達から魚雷が放たれた。
 魚雷は至近距離で二隻の戦艦の側面を直撃した。それによってだった。
 その戦艦達は航行不能に陥った。クリオネはその一部始終を見て瞬時に叫んだ。
「サフラン、アグニ!」
「大丈夫です」
「僕達は生きてますから」
「そう、よかったわ」
 二人がそれぞれモニターに出て来たのを見てだ。クリオネはまずはほっとした。
 それからだ。こう言ったのだった。
「二人共大丈夫なのね」
「ですが乗艦は航行不能になりました」
「僕の方もです」
「攻撃もできません」
「戦闘不能です」
「うう、辛いわね」
 主力兵器である戦艦が二隻も行動不能になってはだ。クリオネにしても困ったことだった。
 それで頭を抱えることになった。だがここで。
 クリオネの周囲の艦艇も次々と太平洋軍も攻撃を受ける。それを見て叫ぶクリオネだった。
「まずい、このままじゃ!」
「全軍の損害が三割を超えました!」
「大変です!」
「社長、ここはどうしますか!?」
「今は!」
「戦うしかないわよ!」 
 クリオネはヒステリックに言葉を返した。
「ここでインドを失えば東インド会社は破産よ!」
「そうですね。それは」
「このままでは」
「戦うのよ!」
 これがクリオネの決断だった。
「ここはね。いいわね!」
「東インド会社を守る為に」
「その為にも」
「私達が負けてインドが独立すれば」
 どうなるかは。クリオネにとって悪夢だった。それも最悪の。
「破産よ!破産してたまるものですか!」
「では我々の給与もですね」
「破産すれば」
「払うから安心しなさい!」
 それはしっかりとしているクリオネだった。社員のことは考えているのだ。
 だが、だった。破産すれば。
「ただ。解雇にはなるから」
「あの、それでは同じですけれど」
「仕事がなくなるんですから」
「失業したいかしら」 
 クリオネはこの世で最も怖い言葉を出した。
「貴方達も」
「いえ、絶対に嫌です」
「例え何があろうとも」
 これが社員達の返答だった。
「失業したら困ります」
「ですからそれだけは」
「それじゃあ戦って勝つのよ!」
 クリオネも必死である。会社がかかっているからこそ。
「わかったわね!」
「了解!」
「それでは!」
「インドがなくなったら祖国さんの料理しかないのよ!」
 クリオネはこんなことも叫んだ。
「あんなの売ってもお店が潰れるだけよ!絶対に嫌よ!」
「おい、それはどういう意味だ!」 
 イギリスもすぐにクリオネにクレームをつける。
「俺の料理はそんなに酷いのかよ!」
「お店出してもお客さんが一人も来なかったんですよ!」
 クリオネはイギリスにまたこのことを言う。
「あんなの売れません!」
「あんなのかよ俺の料理は!」
「その通りです!」
「ここまで言われてもこれといった反論ができねえって何でなんだよ!」
 イギリスは遂に自分で自分に突っ込みを入れた。
「俺の料理はそんなに駄目か!」
「あの、祖国殿」
 騒ぐイギリスにネルソンが言ってきた。
「戦闘中ですので」
「ああ、そうだったな」
「また日本軍は砂嵐の中に消えました」
 今度は上のそこにだ。
「またレーダーからも視界からもです」
「隠れたんだな」
「はい、そうです」
「参ったな。二回の攻撃でかなりのダメージを受けたしな」
「損害は二割強です」
 エイリス軍全体ではそうだった。
「これ以上総攻撃を受けますと」
「ああ、まずいな」
 このことは間違いなかった。
「これ以上はな」
「そうです。だからこそ」
「二回はやられたがな」
 イギリスはその上の砂嵐を見て言う。
「三度目はないからな」
「それでは」
「上に向けてな」
 全軍の警戒をだというのだ。
「そうしようか」
「そうしましょう。早速」 
 イギリスとネルソンの話から行動が決まった。彼等は上の砂嵐から来るであろう太平洋軍に備えた。全軍上を向いて待ち構える。
 しかしだった。その彼等の側面、丁度艦の腹になっている部分に。
 攻撃を受けた。ビームにミサイルを。それでまた多くの艦艇が炎に包まれ銀河の大海の中に姿を消していく。
 その攻撃を受けてまたクリオネが叫び声を挙げた。
「嘘っ、また日本軍!?」
「下から来ました!」
 参謀の一人が悲鳴にも似た声をあげた。
「今の我等から見て」
「そうね。艦の腹部だから」
「そこからです。攻撃を受けました!」
「だからどうしてそこに!?」
 クリオネは落ち着きを取り戻したかに思えたがそれは一瞬だけだった。
「砂嵐から来るんじゃないの!?」
「どうやらまたしてやられました」
「虚を衝かれました」
 東インド会社軍の参謀達がクリオネに話す。
「そうされた様です」
「残念ですが」
「くっ、何て姑息な」 
 クリオネは彼女から見た言葉を出した。
「上から来ると思ったらそこからなんて」
「敵が突撃してきます!」
「鉄鋼弾攻撃です!」
 しかもだった。太平洋軍の攻撃はこれで終わりではなかった。
 太平洋軍は下から、艦の弱点であるそこから攻撃を受けてさらに多くの艦を失ったエイリス軍にさらに突撃を仕掛けた。そうして。
 至近距離から得意の鉄鋼弾攻撃を浴びせた。これで三度目だった。
「一隻一隻を確実に仕留めるのだ」
 平良が己の乗艦から率いる艦隊に指示を下す。
「いいな。焦るな」
「焦らずにですね」
「そのうえで」
「照準を正確に定めて魚雷を放て」
 そうしろというのだ。
「敵は混乱している。攻撃を受けることはない」
「だからですか」
「安心してですね」
「その通りだ。一隻ずつ仕留めるのだ」
 これが平良の指示だった。
「わかったな」
「了解です。それでは」
「的確に」
「各艦隊照準を定めよ」
 平良自身も冷静に指示を出す。
「酸素魚雷発射!」
「酸素魚雷発射!」
 攻撃が復唱されそのうえでだった。魚雷が混乱を増すエイリス軍にさらに放たれる。その魚雷によってだった。  
 エイリス軍はさらにダメージを受けた。戦場に無残な姿を晒すのはエイリス軍ばかりだった。 
 その中で生き残っている者達がネルソンに次々と悲鳴に似た報告を挙げる。
「東インド会社第三艦隊全滅です!」
「正規軍の損害が五割になりました!」
「戦艦リバプール総員退艦しました!」
「第七艦隊消滅です!」
「くっ、この状況は」
「おい、太平洋軍がまた来るぞ」
 一旦突き抜けた彼等が反転してまた向かって来るのを見てだ。イギリスはモニターからネルソンに話した。
「今度攻撃を受ければ」
「最早再起不能ですね」
「インドを失うどころじゃねえ」
 話はそれに留まらないというのだ。
「アラビアだってな」
「失いますか」
「残念だがここでの戦闘はもうな」
 イギリスは苦々しい顔でロレンスに話した。
「撤退するしかないだろ」
「ではインドを」
「もう無理だ」
 勝敗は決した、だからだというのだ。
「こうなっちまったらな」
「ではここは」
「ああ、生き残ってる奴は全員アラビアまで撤退だ」
 イギリスはロレンスに苦々しい顔をしながらも述べた。
「そうするしかないと思うが」
「・・・・・・わかりました」
 ロレンスも苦渋に満ちた顔で答えた。だが俯いてはいなかった。
「ではこれより」
「後詰は今回は俺が引き受ける」
 イギリスが自ら務めるというのだ。
「だからな」
「はい、今のうちに」
 これ以上攻撃を受けないうちにだった。そう話して。
 エイリス軍は撤退に移ろうとした。しかしここでクリオネが狼狽しきった声で抗議してきた。
「ここで撤退したら東インド会社が!」
「インドを失うからな」
 イギリスがそのクリオネに答える。しかも永遠になることだった。
「だからな」
「そうなったら私はどうなるの!?会社がなくなるのに!」
「アラビアだけでやっていけるか?」
「無理です!」
 必死の顔での言葉だった。
「そんなことは絶対に!」
「やっぱりそうだよな」
「勝たないと!さもなければ!」
「けれど仕方ないだろ」
 イギリスにとってもインドを失うことは辛い。そしてクリオネの気持ちもわかる。
 だが、だったのだ。今の状況となっては。イギリスは全てを承知のうえでクリオネに対しても苦い顔で告げた。
「逃げろ、いいな」
「そんな、それじゃあ私は」
「生きていれば絶対に盛り返せる」
 イギリスはその場に崩れ落ちそうになるクリオネに言った。
「いいな、ここはアラビアまで撤退するぞ」
「あの、新しいビジネスは」
「俺も考えて協力する」
 イギリスはフォローも忘れない。
「だから。いいな」
「・・・・・・わかりました」
 クリオネは何とか我を保ちながら答えた。そうしてだった。
 生き残ったエイリス軍は何とか戦場から離脱した。インドカレーからの撤退はイギリス自身が後詰を務め何とか成功した。だが、
 インドカレーでのエイリス軍の敗北は誰が見ても明らかだった。それを受けて即座にだった。
 インドは独立を宣言し日本を筆頭とした太平洋諸国はそれを承認した。連合国である筈のガメリカと中帝国、それにソビエトも。
 こうしてエイリスはインドという最大の植民地を永遠に失うことになった。イギリス妹から報告を聞いたセーラは玉座から蒼白になった顔で言った。
「そうですか」
「はい、我が軍はアラビアまで撤退しました」
「軍の損害は」
「五十パーセント程です」
 そこまでだというのだ。
「そしてスエズでもです」
「ドクツ軍がですね」
「攻撃の手を強めてきています」
 スエズもまた危機的な状況だというのだ。
「アラビア方面への援軍は難しいかと」
「わかりました」
 セーラは何とか己を保っている声で答えた。
「ではアラビアの祖国殿、そしてネルソンにお伝え下さい」
「何とでしょうか」
「インドでの戦い、ご苦労でした」
 責めなかった。労いの言葉だった。
「そしてアラビアにおいても健闘を祈ると」
「そう伝えるのですね」
「はい。勝敗は戦争の常」
 セーラは無念に思う気持ちを必死に押し殺しながら述べた。
「それならばです」
「わかりました。それでは」
「騎士道に恥ずべきことがなければ」
 騎士を率いる女王、その立場からの言葉だった。
「責を問うことはありません」
「そう仰るのですね」
「そうします。では」
 セーラはすぐにこの命令も出した。
「スエズのモントゴメリー提督にお伝え下さい」
「何とでしょうか」
「スエズを死守して欲しいと」
 こう伝えて欲しいとだ。セーラはイギリス妹に話す。
「そうして下さい」
「わかりました」
「そしてです」
 セーラはさらに言う。
「エイリスを守って欲しいと」
「インドに続いてスエズまで失えば」
「エイリスはアフリカも守れなくなります」
 アフリカもまたエイリスにとって重要な植民地だ。そこを失えばエイリスはさらに苦境に陥ることは間違いなかった。だからこその言葉だった。
「だからこそ」
「ではモントゴメリー提督には私が」
「お願いします。そしてドクツ軍の動きですが」
「何かおかしいよ」
 せーラの玉座の左隣に立っていたマリーが言ってきた。
「またロンドンに攻撃を仕掛けてくると思ったけれど」
「ないわね」
「どうやら東に戦力を集結させているみたいだね」
「ええ。それじゃあ」
「ソビエトとの開戦かな」
「そう思うわ。レーティア=アドルフは著書の中で東方生存権について言及していたから」
 戦いはまず敵を知ってからだ。セーラはこの鉄則からレーティアの著書を読み知っていたのだ。
「いよいよね」
「ソビエトに攻め込むの」
「西には最低限の守りしか置いていないわね」
「じゃあ今から攻める?」
「いえ、それは」
 出来ない、そうした返事だった。実際に首を横に振るセーラだった。
「今の状況では」
「無理なのね」
「インドまで失いスエズも危機的な状況にある」
 それならばだった。
「しかも先のロンドン攻防で戦力をかなり消耗したままだから」
「反撃は無理なのね」
「今は戦力の回復、そして維持で精一杯よ」
 これがエイリスの現状だった。
「我慢するしかないわ」
「ううん、辛いね」
「エイリスはインドまでも失い」
 セーラは唇を噛んだ。その整った唇を内側から。
「世界帝国ではなくなろうとしている」
「まさか。インドまで失うなんて」
「これ以上失うことは許されない状況なのよ」
 このことはセーラ自身が最もよくわかっていた。他ならぬエイリス女王である彼女が。
「迂闊なこともできないわ」
「そうですね。今は」
 イギリス妹も沈痛な面持ちで述べる。
「冒険はできません」
「それ故に」
 セーラは何とか顔を上げたまま言う。
「今は守りに徹します」
「反撃の時は絶対に来るわ」
 エルザがセーラの右から言う。
「それまで待ちましょう」
「はい、今は」
「機を見るのも戦争よ」
「そのうえで、ですね」
「機を見つけたら」
 まさにその時はだというのだ。
「いいわね」
「わかりました。それでは」
 セーラ、そしてエイリスの苦境は続いていた。エイリスは世界帝国の座から遂に降りることが決まってしまった。
 だがそれに対して独立を果たしたインドはインドカレーにおいて日本を握手した。そのうえでこう言うのだった。
「これからはたい」
「アジアの一員ですね。インドさんも」
「僕も戦うたい」
 微笑んでの言葉だった。
「日本君達と一緒に」
「そうして頂けます」
「中立というのは好きじゃないたい」
 特にこの場合はだというのだ。
「一緒に戦いたいよ」
「有り難うございます。インドさんも加われば有り難いです」
「それで次はどうするたい?」
「インド洋を完全に掌握する」
 場には東郷もいた。彼がここで話す。
「アラビア、そしてセーシェルに」
「マダガスカルもたいな」
「ああ、一番の山場は越えた」
 インド掌握、それがだった。
「だが油断はしない」
「そうたいな。まずはたい」
「アラビアだ」 
 インド洋におけるエイリス最後の植民地だった。
「あそこに進出する」
「あの辺りの諸星域も掌握すれば」
「大きいからな」
「では道案内もさせてもらうたい」
「そうしてくれるか」
「同盟国なら当然のことたい」
 だからいいと言うインドだった。
「気にすることはないたいよ」
「そうか。それじゃあな」
「後は」
 ここでさらに言うインドだった。
「捕虜がいるたいが」
「はい、エイリス軍と東インド会社軍の」
 日本がすぐに答える。
「その方々のことですね」
「エイリス軍の捕虜は後で交渉で返還するたいな」
「そのつもりです」
「じゃあ東インド会社軍の捕虜はどうするたい?」
「解放するつもりですが」
 日本は東郷と話して決めた決定について述べた。
「それでは駄目でしょうか」
「そうたいな」
 インドは日本の話を聞いて少し考える顔になった。それからこう日本、そして東郷に対して述べたのだた。
「僕に任せてくれるたいか?」
「インドさんにですか」
「捕虜の中にはサフランとアグニもいるたいな」
「よく御存知ですね」
 日本はインドが二人の名前を出してきたので少し驚いた。
「はい、東インド会社で麒麟児と言われていた子供達だそうで」
「あの子達は孤児だったところをクリオネさんに拾われたたい」
「クリオネさんというと確か」
「そうたい、東インド会社の社長たい」
「辣腕家だそうですね」
「かなり抜けていておかしなところがあるにしても経営手腕はあるたい」 
 インドも随分なことを言う。
「あれで子供思いで困っている人を放っておけないたい」
「よい方なのでしょうか」
「悪人ではないたいな」
 植民地経営に携わる人間でもだ。インドはクリオネのことは嫌いではなかった。
「貴族連中よりもずっとよかったたい」
「そういう方ですか」
「インドでもそんなに嫌われていないたいよ。むしろ結構皆からからかわれていたかい」
 そうもなっていたというのだ。
「そうした人たい」
「ううむ。その人が育ててくれていた子供達ですね」
「アグニはクリオネさんを慕っているから無理かも知れないたいが」
 インドは彼に関してはいささか諦めていた。
 だがもう一人の少女サフランについてはこう言うのだった。
「サフランはいけるかも知れないたい。それでたい」
「サフランさんとお話をですか」
「していいたいか」
「はい、お願いします」
 日本はすぐにインドに答えた。
「それではサフランさんのお部屋まで」
「案内してくれるたいな」
「是非共」
 こうしてインドが直接サフランと会って話をすることになった。その二人には東郷と秋山、それに山下が同行する。インドは山下も見て言う。
「陸軍の人たいな」
「はい、そうです」
 秋山は生真面目な声でインドに答える。
「日本帝国陸軍長官山下利古里です」
「山下さんたいな」
「そうです。宜しくお願いします」
「真面目な人たいな」
 インドはすぐに山下のその性格を見抜いた。そのうえでの言葉だ。
「日本さんとそこが似てるたいな」
「祖国殿のことは尊敬しています」
 やはり生真面目な口調で答える山下だった。
「武人として。心から奉職させて頂いています」
「ううむ。日本さんはいい軍人さんが多いたいな」
「多いとは」
「山下さんだけでなく」
 次に東郷も見てだ。インドは話した。
「東郷さんだったたいな」
「宜しく頼む」
 東郷はインドに対してもいつもの飄々とした感じだった。
「先程も名乗ったが」
「東郷毅さんたいな」
「ああ、日本帝国海軍長官東郷毅だ」
 東郷は自分でも名乗った。
「これから一緒に楽しくやろう」
「日本帝国海軍参謀総長秋山真一郎です」
 秋山も名乗る。
「宜しくお願いします」
「やはりいい軍人が多いたい。日本さんの宝たいな」
「はい、私もそう思います」
 日本もまた東郷達を見ていた。そのうえでの話だった。
「今我が国が戦えているのもこの方々がいてこそです」
「人材は国の宝たいな」
「まさに」
「だから。大事にするたいよ」
「ずっと。私達が共にいる限り」
 日本も自分を支える彼を見ながら述べた。
「頼りにさせてもらいたいです」
「祖国殿、お任せ下さい」 
 山下がその日本の横で微笑んで述べる。
「必ずや祖国殿に幸福をもたらしますので」
「じゃあ俺はその幸福を守ろうか」
 東郷はそうすると言う。
「祖国さんのな」
「この人達がいれば大丈夫たいな」
 インドは暖かい目になっていた。その上での言葉だった。
「日本さんは相手が誰でも戦えるたい」
「私の最高の宝です」
 日本も言う。今彼はその絆を心から感じていた。


TURN44   完


                             2012・8・8



これでインドも独立か。
美姫 「エイリスは追い詰められていくわね」
だな。ドクツがロシアへと進軍するらしいと察しても、攻撃に転じられないぐらいだしな。
美姫 「今の所、日本は戦力が増強できているわね」
ガメリカとかは傍観している故に戦力を保持できているだろうし。
美姫 「寧ろ、補強しているかもね」
さてさて、これからどうなっていくのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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