『ヘタリア大帝国』




                  TURN42  雨蛙

 日本が用意した茶室にだ。山下は招かれた。
 そこには日本と東郷、それにベトナムがいた。山下は今は桃色と赤の艶やかな着物姿だった。その着物姿で茶室に入って言うのだった。
「では。僭越ながら私が」
「お茶を淹れて下さいますか」
「そうさせて頂く」
 既に部屋の中にいて正座している日本に言うのだった。
「是非共な。しかし久し振りだからな」
「お手並みはですか」
「不安がある。それでもいいだろうか」
「茶道は楽しみものですし。それに」
「それにとは?」
「山下さんは茶道の免許皆伝でしたね」
 日本はこのことを知っていた。実は山下は茶道の奥義を伝授されているのだ。その他には剣術に柔術、居合に華道や和歌においても免許皆伝を受けている、武人としてだけでなく教養人としても一流なのだ。
 そのことを知っているからだ。日本も言うのだった。
「そのお手並みを見たいと思います」
「そう言ってくれるか」
「ではお願いできるでしょうか」
「わかった。それではだ」
「お茶も美人さんに淹れてもらうのが一番だ」
 東郷は座布団の上に正座した状態だった。
「楽しみだな、これは」
「貴様はここでも女か」
 山下は茶室でも軽い感じの東郷をきっと見据えて言い返した。
「茶道を何と心得ている」
「俺も茶道には心得があるんだが」
「その言葉偽りだな」
 山下は東郷の今の言葉は頭から否定した。
「不埒者が。それでいいのか」
「茶道も楽しむものだからいいと思うが」
「茶道は道だ。祖国殿のお言葉は私を気遣ってのことだ」
「だからなのか」
「そうだ。東郷、貴様はその心を慎め」
 山下の言葉は厳しい」
「全く。何につけてもいい加減な者だ」
「いい加減かはともかくだ」
 ここでベトナムが言う。アオザイ姿はいつも通りだ。
 しかし苦しそうな顔でだ。こんなことを言うのだった。
「この茶道は辛いな」
「ああ、正座か」
「そうだ。正座は辛いな」
 こう東郷に述べるのだった。
「戦争よりも遥かに辛い」
「では足を崩されて下さい」
 すぐにだ。日本はベトナムにこう告げた。
「お辛いのでしたら」
「作法ではないのか?」
「作法は楽しむものですので」
 それでだというのだ。
「苦しんではいけません」
「だからか」
「はい、足を崩されて下さい」
 日本は再びベトナムに話す。
「くつろいで下さい」
「悪いがそうさせてもらう」
 ベトナムは日本の好意を受けることにした。それでだった。
 足を崩した。そのうえでだ。
 山下が淹れる茶を日本や見せる作法を真似て飲んでからだ。こう言った。
「変わった茶だな。かなり苦い」
「ですがそれでもですね」
「ああ。飲んだ後が心地よい」
 そうだというのだ。
「しかも心もすっきりする。目も覚める感じだ」
「身体にもいいです」
 このこともだ。日本はベトナムに話した。
「ですから我が国ではよく飲まれます」
「茶道の場以外にもか」
「茶屋でもです」
「そうなのか。よく飲まれるのか」
「そうです。それでなのですが」
 ここで日本は話題を変えてきた。その話題は。
「フェム=ペコさんですが」
「あの娘か」
「お呼びされたそうですね。ここに」
「そうさせてもらった」
 まさにそうだと答えるベトナムだった。
「もうすぐしたら来る」
「そしてですね」
「あの娘も提督に加わる。しかしだ」
「そのペコさんがですか」
「あの娘のことはもう知っているな」
「はい、雨ですね」
 ベトナムでの戦いで見たそれをだ。日本も言った。
「あの雨ですね」
「あの娘は極端な雨女だ」
 宇宙でも家の中でも艦内でも降らせる程だ。これは最早超常現象の域に達していると言ってよかった。少なくとも尋常なものではない。
「それでだ」
「ここに来られることもですね」
「私の言うことなら何でも聞いてくれるが」
 祖国の言葉ならだというのだ。
「それでもだ。雨が降ってもだ」
「ああ、それは気にしないでくれ」
 東郷が笑ってベトナムに言葉を返した。
「どうということはないさ」
「雨に濡れてもか」
「ああ、構わない」
 こう返す東郷だった。
「別にな」
「わかった。それではな」
「陰陽道の術を使っています」
 日本が言う。彼の持っている術の一つだ。
「ですから」
「そうか。それではか」
「はい、皆さんに結界を張っていますので」
「雨を弾くか」
「濡れることはありません」
「日本は色々な術を使えるな。相変わらず」
「何と申し上げますか。これでも高齢なので」
 原始の八国のうちの一国だけはあった。
「そうなっただけです」
「しかし備えはしたか」
「既に」
 だから大丈夫だというのだ。そうした話をしてだった。
 一行は茶を飲みながらその純和風の茶室の中で最後の客人を待った。やがて外から人の気配がした。
 ベトナムはその気配を察してだ。茶室の狭い出入り口に顔を向けて言った。
「来たな」
「ふえっ!?」
 そこから驚いた声があがった。
「祖国さんですか!?」
「そうだ、私だ」
 ベトナムはその声の主にまた言った。
「入れ」
「あの、本当にいいんですか?」
「私がいいと言っている」
 国家である自分がだというのだ。最初は。
「それにだ。日本達もいいと言っている」
「だからですか」
「中に入れ」
 茶室の中、ベトナムが今いるそこにだというのだ。
「いいな。それで」
「わかりました。それじゃあ」
 ベトナムの言葉を受けてそうしてだった。フェムは狭い出入り口を潜って茶室の中に入った。そのうえで用意されていた座布団の上に座った。彼女も正座ではない。
 フェムにも山下が淹れた茶が出される。それを日本が教える茶道の要領でおどおどとした感じで飲む。それからだった。
 東郷がだ。フェムに言うのだった。
「今日君に来てもらった理由は他でもない」
「提督ですか?」
「そうだ。提督として我々に協力してくれるか」
「ベトナムも独立した」
 今度はベトナムがフェムに言ってきた。
「そして軍を持つことにした」
「それでなんですか」
「ベトナム軍の提督になってくれるか」
 また言うベトナムだった。
「そうしてくれるか」
「ですが私はその」
「雨か」
「皆さんに迷惑をかけますけれどいいですか?」
 フェムはおどおどした感じでベトナムに問い返す。
「それでも」
「私はそれでいい」
「むしろ大歓迎だ」
 東郷も言ってきた。それも機嫌よく。
「君のその能力に期待したい」
「雨を降らす能力にですか」
「その通りだ。敵も味方も攻撃力を半減させられる」
 東郷はあらためてこの能力について話した。
「是非だ。太平洋軍の為に役立ててくれるか」
「私のこれが力ですか」
「素晴らしいな。いいだろうか」
「私からも頼む」
 ベトナムはここでまたフェムに言った。
「その雨を皆の為にだ」
「皆さんの為に」
「使って欲しい。いいだろうか」
「祖国さんに言われますと」
 やはりだった。フェムは自分の祖国の言葉には従うのだった。
「それなら」
「よし、これで話は決まりだな」
 東郷はフェムの言葉に微笑みで返した。しかしだった。
 ここでその雨が降った。茶室の中は忽ち水浸しになる。その水浸しになった部屋の中でだ。日本はフェムを見て言うのだった。
「何となくですが」
「どうかしたんですか?」
「はい、フェムさんから感じるものがあります」
「若しかしてそれって」
「柴神様ともお話しましょう」 
 日本は柴神の話もした。
「そのうえで確かめたいことがあります」
「ひょっとして私の雨の原因が」
「わかるかも知れません」
「何とか。これがわかれば」
 フェムは日本の言葉を聞いて切実な顔になった。そのうえで言うのだった。
「私もう皆さんに迷惑をかけることはありませんね」
「ないです。ただ」
「ただ?」
「イギリスさんはお気付きになられなかったのでしょうか」
 日本はイギリスが妖精やそういったものを見ることができるのを知っている。しかしそのイギリスがフェムのことを気付かないことについてだ。
 首を捻ってだ。こう言うのだった。
「だとしたらこれは一体」
「若しかすると特別な存在ではないでしょうか」
 山下は日本には、彼女の祖国には礼を尽くした話でこう言った。
「イギリスですら見えないまでの」
「特別ですか」
「そうした存在ではないでしょうか」
「しかしイギリスさんが見えないとなると」
「ですが祖国殿は感じられましたね」
「ふとですが」
 僅かだがだ。感じたのは確かだというのだ。
「確かに」
「祖国殿は今陰陽道を使っておられますので」
「そうした感覚が普段より遥かに研ぎ澄まされてですか」
「そうではないかと」
「ではここは」
「はい、柴神様にも来て頂きましょう」
 山下は真面目な口調で東郷に話す。雨は結界により彼女を弾き濡らすことはない。しかし水が周りにあるその姿には艶があった。
「それがいいかと」
「わかった。それではな」
「はい、その様に」
 こう話を整えてだ。それからだった。
 ハワイ戦線から柴神が来た。神なので行き来は一瞬で済むことが今回は有り難かった。秋山はその彼にまずはこのことを尋ねた。
「そちらの戦線はどうなっているでしょうか」
「今のところは問題ない」
 そうだとだ。柴神は秋山の問いに答える。
「マイクロネシアもラバウルも大丈夫だ」
「そうですか。それは何よりです」
「敵の侵攻は首相と外相の前線外交で遅らせてもいる」
 この二人の特技だ。交渉や工作で攻めさせないのだ。少なくともその侵攻を遅らせることはできるのである。
「それに敵が来る数も少ない」
「そうなのですか。それは何よりです」
「ただ来る敵の提督は手強い」 
 柴神はこのことも話した。
「朽木_=イザベラ提督だがな」
「ああ、あいつだね」 
 話を聞いていたキャシーがすぐに言ってきた。
「あいつはやるよ。強いよ」
「戦艦や駆逐艦で我々の様な突撃で来る」
 日本軍の攻撃に似ているというのだ。イザベラの攻撃は。
「当たって砕けろと言わんばかりにな」
「あいつはそうだよ。士官学校の時から攻撃的な戦いをしてたよ」
「貴殿よりもか」
「あたしも攻めるのは好きだけれどね」
 だがそれでもだとだ。キャシーは右手を首の高さで動かしながら話す。
「あいつは特別だよ。しかも勉強もちゃんとしてるしね」
「士官学校で主席だったんだよね」
 ネクソンが相変わらずの案山子を思わせる顔で話してきた。
「几帳面な性格だしね。真面目で」
「あれだけだと面白みがないんだよ」
 キャシーはイザベラについてこうも話した。
「けれど何をやるにも必死で一直線でね」
「そこがいいんだよね」
「その彼女の攻撃には悩まさせられている」
 柴神はイザベラのことを話していく。
「田中提督はその都度激しい攻防を繰り広げている」
「いえ、彼は攻めるだけでは?」
 秋山も田中の性分は知っている。彼は日本軍、ひいては太平洋軍でも随一の攻撃型指揮官なのだ、それは今も変わらない。
「守ることを知らないので」
「そうなのだ。それで戦いの都度派手に損害を出している」
「やはりそうですか」
「マイクロネシアもラバウルも日本にはすぐに戻れる。大規模な修理工場があるから復帰はスムーズに済んでいるが」
「あまり損害が多いと」
「気になっている。どうしたものか」
「艦艇の編成を考えるべきでしょうか」
 秋山は考える顔で述べていく。
「田中提督のあの無鉄砲な性格に相応しい艦種の編成を」
「その方がいいだろうな」
 柴神も秋山の言葉に頷く。そうした話をしながらだった。 
 柴神はあらためてだ。秋山に問うた。
「それで私を呼んだ理由だが」
「はい、見て頂きたい娘がいまして」
「ベトナムの娘だな」
「そうです。宜しいでしょうか」
「無論だ。ではだ」
「こちらです」
 秋山は早速柴神をフェムがいる彼女の邸宅に案内した。そこには東郷と日本、それにベトナムと他ならぬ彼女がいた。そのフェムを見てすぐにだった。 
 柴神は納得した顔でだ。こう一同に答えた。
「蛙だ」
「蛙といいますと」
「この娘の背には蛙がいる。普段は気配を全く隠している」
 こう日本達に話すのだった。
「しかし術を使い蛙が雨を降らしているならばだ」
「感じることができるのですね」
「人間や国家ならばそれでようやくだ。だが」
「柴神様ならばですか」
「見ることができる」
 神の力を持っているからだ。それが可能だというのだ。
「雨蛙だ。蛙の神がこの娘の背中にいる」
「あの、どうしてそんな神様が私の背中にいるんですか?」
「君を守っているな」
 柴神は言葉ではなくテレパシーでその蛙神と話していた。そのうえでの言葉だった。
「そう話している」
「私を」
「この神はベトナム土着の動物神だ。雨を司る神の一柱だ」
 柴神がこう話すとだ。ここでだった。
 ベトナムがだ。こう柴神に話した。
「私の国には祠が多くありそれぞれの神々が祀られているが」
「それだ。その神のうちの一柱だ」
「そうだったのか」
 ベトナムもわかった。ここで。
 そして柴神は今度はフェムに尋ねた。その尋ねることはというと。
「君は幼い頃何かあったか」
「事故で。少し」
「怪我を負ったのか」
「死にそうになりました」
 そうしたことがあったというのだ。
「あと一歩というところで」
「そうだな。だが君は一命を取り留めたな」
「何とか」
「君がその事故を受けた場所は水の傍だったか」
「渡っていた橋が急に崩れて川に落ちました」
「それで死にそうになったか」
「溺れて。危ういところでした」
「その時だ」
 まさにだ。そこでだというのだ。
「君はその神に助けられたのだ」
「蛙神様にですか」
「蛙神は君のことをいつも見守っていたのだ。国民である君をだ」
 この辺りはベトナムと同じだった。国家である彼女と。
「そして君を助ける為に憑いたのだ」
「じゃあ蛙神様は私の」
「そうだ。守護神だ」
 それになるというのだ。
「それで君に何かあるとだ」
「雨が降る様になったんですか」
「蛙神に悪気はない。何しろ雨を司る神だからだ」
 それ故にだというのだ。雨を司る神だからこそ。
「雨を降らせてしまうのだ。しかしだ」
「悪気はないんですね」
「そのことは間違いない。しかし私は今蛙神と話している」
 心と心でだ。そうしてだった。
 そのうえでだ。フェムにこう話したのである。
「これからは君が望む時に雨が降る様にしたいと言っている」
「そうなんですか」
「これまでは君の気持ちを誤解していたらしい」
「誤解?」
「今までは君が感情が昂ぶった時に雨が降っていたな」
「それで困っていました」
「それは君が雨が欲しい時だと思っていたそうだ」
 神も誤解をする。それは蛙神も同じだというのだ。
「だがこれからはだ。君が確かに雨が欲しいと思った時にな」
「その時だけなんですね」
「降る様にするそうだ」
「私、護ってもらってたんですね」
 フェムが今言うのはこのことだった。
「祖国さんだけじゃなくて神様にも」
「そういうことになるな」
「そうなんですか」
 感概を込めた口調でだ。フェムは言う。
「私、雨のことがずっと嫌でした」
「だが今はどうだ」
「有り難いと思いだしています」
 今はそうだというのだ。
「護ってくれてますから」
「そうか。そう思うか」
「私、不幸じゃなかったんですね」 
 次第にだ。フェムの顔が泣きそうなものになってきていた。
「皆さんに護ってもらっている。幸せな娘だったんだね」
「そうなるな。それではな」
「私、もう悲しんだりしません」
 フェムは涙を堪えて柴神に言った。
「これからは楽しく生きていきます」
「私もいる、共に行こう」
 ベトナムもフェムに言う。そうした話をしてだった。
 彼女は自分のことを知ったのだった。そのうえで前を見られるようになった。
 ベトナムもフェムも完全に太平洋軍の一員となった。そのうえでだった。
 太平洋軍は次の戦略目標にかかっていた。その対象はインドだった。
 マレーに戻していた艦隊も修理工場と獅子団の面々の頑張りで早期に修理されてそのうえでだった。
 次々とインドの諸星域に向かう。その中でだ。
 東郷もインドに向かう。彼はセイロンに向かっていた。その中で秋山に言うのだった。
「セイロンはそれ程敵は多くなかったな」
「はい、現地の艦隊が少しいる程です」
「そうだったな。エイリス軍はいないか」
「前まではいましたが」
「今は撤収しているか」
「ベトナムの敗戦を受けて戦力を集結させている模様です」
 そうだというのだ。
「インドカレー星域に」
「そうか。デリーの前のか」
「あの星域はインドの中でも最重要星域です」
「人口は多く産業も発展している」
「しかもインドのあらゆる星域に行けます」
 交通の要所でもあるのだ。
「そこにおいてです」
「我々と決戦を挑むか」
「そのつもりの様です」
「成程な。だからセイロンもか」
「ベンガル等もです」
「一旦捨てるか」
「そしてそのうえで」
 インドカレーで太平洋軍に勝ちそのうえで取り戻すというのだ。これがエイリス軍の考えだというのである。
「エイリス軍の戦略はそうかと」
「今回も決戦思想か」
「その様ですね」
「エイリス軍の考えはわかった。インドはデリーを手に入れないとな」
「インドを解放したことにはなりません」
「では攻めるか」
「まずはセイロン等を」
 何につけてもそれからだった。そして。
 その現地の艦隊はだ。東郷達が来るとだ。
 自分達から降伏してきた。そのうえでこう東郷達に言うのだった。
「我々も独立したいですから」
「宜しくお願いしますね」
「協力させてもらいますよ」
「むしろ参加させてもらいます」
 こうまで言う彼等だった。
「太平洋じゃないですけれど太平洋軍に」
「そうさせてもらいますね」
「ああ、頼むな」
 東郷もだ。彼等と握手をしながら応える。
「我々にしてもインドには独立してもらいたい」
「もう植民地なんて嫌ですから」
「すぐに独立したいんですよ、こっちは」
「だから頑張って下さいね」
「俺達も一緒に戦いますから」
 即ちだ。彼等もインドカレーに攻め込むというのだ。
 だが、だった。ここで彼等はこうも話すのだった。
「ただ。俺達みたいに独立派ばかりじゃないですから」
「東インド会社に縁あってつかざるを得ない面々もいますから」
「孤児で育てられて」
「そうした子達もいます」
 このこともだ。彼等は東郷達に話すのだった。
「ですから。協力者ばかりじゃないってことは」
「覚えておいて下さい」
「そうなのか。しかし今報告はどんどん届いているが」
 それはどういったものかもだ。東郷は話した。
「インド人達は諸手を挙げて参加してきているな」
「それだけ独立したいのです」
「そうした人間も多いのです」
「東インド会社の面々はインドカレーに集まってますから」
「残っているのは独立派だけです」
「そうなっています」
「そうか。状況は複雑だな」
 東郷から見てもだった。それは。
 だが、だった。彼等を迎えてくれる独立派の数はかなりのものでだ。秋山は東郷と日本にこう言うのだった。
「これだけの数ならです」
「そうだな。インドカレーのエイリス軍にも対抗できるな」
「ベトナムの様にはいきませんね」
「彼等の数のうえでは主力の植民地駐留艦隊と東インド会社艦隊の殆どに対抗できます」
 それが可能だというのだ。
「我々はエイリス正規軍と心配なく戦えます」
「それは有り難いな。それではな」
「はい、それではですね」
「幸いインド東方の諸星域は全て無傷で解放できた」
「後はですね」
「インドカレーだ。あそこでの戦いに勝てばだ」
 東郷はここで言う。
「デリーに入ることができる」
「デリーも解放してですね」
「インド解放と独立だ」
「エイリスは最大の経済基盤を永遠に失いますね」
「それを目指そう」
 等烏合はこう秋山と話した。そしてだった。
 日本はその二人にだ。ここでこう話した。
「インド、そしてアラビアを占領した後はどうされますか」
「それからか」
【はい。それからhどうされますか」
「セーシェルとマダガスカルも解放しよう」
「オフランスを攻めますか」
「それでインド洋は全て解放する」
 こう言うのだった。
「ただ。アフリカまで攻め込むとなると」
「それは今は止めておきましょう」
 ここで秋山が言ってきた。日本に対して。
「戦線が拡大しガメリカに対応できなくなります」
「今はインド洋までが限界ですね」
「そうです。我々の敵は連合国全てです」
 今戦っているエイリス軍だけではない。このことが重要だった。
「そして特にガメリカですから」
「では当初の予定通りですね」
「インド洋を全て解放したならばハワイ侵攻です」
 秋山は強い目で日本に話す。
「そうしましょう」
「これまでの戦力を全てハワイに向けて」
「勿論インド洋には防衛艦隊は置いておく」
 東郷も日本に話す。
「しかしそれでもだ」
「主力はハワイ方面に移動ですか」
「そうだ。マダガスカルを占領すればすぐにだ」
 まさにだ。即座にだというのだ。
「主力はハワイに向ける。インド洋は六個艦隊程度を置いてアフリカ方面のエイリス軍に備える」
「わかりました。ではその時は」
「祖国さん達に一旦いてもらって俺達はハワイ方面に移る」
「そして宇垣さん達がですか」
「アラビアに入る。それからだ」
「私達もハワイ方面にですね」
「瞬間移動で来てくれ」
 国家の特殊能力、それでだというのだ。
「それで行こう」
「ではその様に」
「ハワイを攻略してからだな」
 それからのこともだ。東郷は話す。
「ハワイを拠点にしてガメリカ攻略だ」
「新航路が発見されたそうですね」
「ハワイからカナダ方面のだな」
「そう聞いていますが」
「今は極秘だ。向こうもそうしている」
 ガメリカ側もだというのだ。それは。
「安心してくれ。それならな」
「それならですね」
「今は極秘だ。ハワイを占領してからだ」 
 それからだというのだ。
「カナダやアラスカを攻めてからだ」
「ガメリカ本土も攻略ですか」
「本当にいよいよだな」 
 東郷も今は寛恕を昂ぶらせているのが感じられた。
「ガメリカも倒せば我々はかなり楽になる」
「ガメリカが降伏すれば」
「その援助を受けている中帝国も降伏する」
 自然にだ。彼等もそうなるというのだ。
「太平洋経済圏が完成するな」
「そうですね。いよいよ」
 二人でこうした話をしていると。不意に秋山がこう言ってきた。
「ただ。問題は」
「問題はといいますと」
「中南米ですが」
 この地域のことをだ。秋山はここで話すのだった。
「妙な国が栄えていますね」
「ああ、あの国だな」
「あの国ですね」 
 東郷と日本は同時に秋山の言葉に応えた。
「埴輪の国だな」
「かなり変わった国ですね」
「その勢力圏はかなりのものです」
 秋山はこのことも話す。その国の勢力圏についても。
「キューバ、メキシコ、ブラジルにアルゼンチン、チリと」
「多くの国家がその中にいますね」
「あの国の動きが気になりますが」
「俺も実はあの国のことはよく知らない」
 東郷も今は微妙な顔だった。
「どの国とも国交がないしな」
「かなり以前からある国ですが」
「兵器等はどうなっている」
「今ようやく調査をはじめたところです」
「そうか。これからか」
「敵なのか味方なのか」
 この問題もあった。
「一切不明ですから」
「私もあの国については」
 日本も首を捻っている。
「わかりません」
「祖国さんも知らないのか」
「埴輪族についてもです」
 その国の支配民族である彼等についてもだ。日本は難しい顔になってそのうえでこんなことを言うのだった。
「何者なのか」
「そうだな。何もかもが謎だな」
「謎が多過ぎて対応がわかりません」
「明石大佐に話して調べてもらうか」
「そうしてもらいますか」
「少なくとも敵か味方なのかわからないことは問題だ」
 東郷は戦略上の観点から述べた。
「ましてやアマゾンだ。あそこのことは聞いている」
「秘境です」
 秋山もアマゾンについてはこう言う。
「熱帯の密林と大河に覆われた星です」
「様々な独特の生物がいるらしいな」
「その様ですね。魔境だとか」
「巨大な魚に宝石の様な毒蛇か」
「とてつもなく巨大な蛇もいるそうです」
「小型だが群がって襲い掛かり牛を五分で骨だけにしてしまう肉食魚もいるらしいな」
「まさに魔境です」
 それがアマゾンだというのだ。
「他の星も変わった星が多いようなので」
「調べておいた方がいいな」
「では大佐にお願いしますか」
「そうするとしよう。大佐も多忙になるがな」
 しかし今はそうも言ってはいられなかった。何しろ戦争中だからだ。
 それで日本帝国は南米についての情報収集も開始した。交戦国だけがその調査対象でなくなってきていた。
 日本が独自に動いている頃ドクツにおいては。
 レーティアが外務省からの報告を聞いてだ。己の執務用机でこう言うのだった。
「予想以上だな」
「日本の動きがですか」
「そうだ。予想以上にいい」 
 これがレーティアの言葉だった。
「マレー辺りで破れると思っていたがな」
「ベトナムも解放しいよいよです」
「インドに入っているか」
「インドカレーで決戦になりそうです」
 外務省の官僚は話す。
「そこでどうなるかですが」
「期待してみるか。インドがエイリスから独立すればだ」
「大きいですね」
「エイリスが世界帝国でいられることはなくなる」 
 エイリス最大の植民地にして経済的にも最重要拠点だからだ。そのインドが全てなくなればだというのだ。
「大きい。期待するか」
「日本は勝つでしょうか」
「私の分析ではその可能性は極めて低い」
 ここでもこう言うレーティアだった。
「実際のところはな」
「やはりそうですか」
「よく魚であそこまでいけたものだ」
 これがレーティアの感想だった。日本軍に対する。
「一体何時まであれで戦うのか」
「そろそろ限界ですね」
「そう思う。インドはエイリスにとってまさに宝石箱だ」
 その宝石箱を失おうとする筈がない。それならばだった。
「インドカレーでは集められるだけの戦力を集めて決戦を挑む」
「既にそうしている様ですね」
「信頼出来る艦隊は全て集めている」
 ならばだった。
「戦力では太平洋軍を圧倒している」
「日本が勝てる要素は少ないですか」
「かなりな。装備も違うからな」
 しかもエイリスの誇る騎士提督の一人が指揮官だ。それならばだった。
「可能性で言えば敗れる」
「そうなりますか」
「しかし。日本はこれまで勝ってきた」
 ここでこう言うレーティアだった。
「期待はするか」
「はい、それでは」
 外務省の官僚とはこうした話をした。そしてだった。
 ドイツの兄妹をすぐに呼びだ。今度はこうした話をした。
「君達はそろそろシャイアンやブルガリアに入ってくれ」
「そして遂に」
「あの作戦を発動するのですね」
「そうだ。バルバロッサ作戦を発動する」
 いよいよだ。その段階に来たというのだ。
「だからだ。いいな」
「了解。それではです」
「すぐにソビエトとの国境に向かいます」
「ロシア平原やウクライナを攻略してだ」
 どうするかとだ。レーティアは話していく。
「モスクワを狙う。あの星域を陥落させれば我々の勝利だ」
「では攻撃目標あくまで」
「モスクワだ」 
 レーティアはドイツ妹の問いに断言で返した。
「いいな。他の星域はあくまでその戦略目標の前に攻め落としていくだけだ」
「あくまでモスクワを狙えと」
「ウクライナもリトアニアも攻めるがだ」
 だがそれでもだというのだ。
「あくまで狙うのはモスクワだ。いいな」
「了解しました。それでは」
「モスクワを攻め落としソビエト全土を手中に収める」  
 人類の国家でも最も広大で資源を多く持つこの国をそうしてだというのだ。
「その力を以てすればだ」
「ドクツを抑えられる国はなくなりますね」
「返す刀で再びエイリスに決戦を挑む」
 先には敗れたが今度こそはだというのだ。
「そして勝つ。いいな」
「大きいですね。バルバロッサ作戦の意義は」
「この作戦の是非でドクツの運命が決まる」
 まさにだ。そこまでの作戦だというのだ。
「だからだ。君達にも健闘を期待する」
「了解した」 
 ドイツはドクツ軍の敬礼で返答した。
「ではだ。ドクツの為に」
「祖国君達も頼む」
 レーティアはいよいよドクツの運命を決定付ける作戦を発動させようとしていた。欧州もまた再び風雲急を告げようとしていた。マルスはその戦火の拡大を心から喜んでいた。


TURN42   完


                             2012・7・20



フェムの体質が早々に解決したな。
美姫 「やっぱり祖国さんたちが居るから勘付くのが早かったわね」
おまけに柴神からも逃げなかったし、すんなりと。
美姫 「これで意のままに雨を降らせれるなんてね」
フェムも体質で悩む事もなくなったみたいだし、良い事だよ。
で、レーティア率いるドクツ軍の方も動き出し始めたな。
美姫 「こっちはモスクワを目指すみたいね」
さてさて、どうなっていくのか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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